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その名前は

「ぐはっ!!」



 胸からみぞおち付近まで切られ、大量の血を流す甲冑騎士。

 そのまま膝から地面に崩れ落ち、血の海に体を沈めるのだった。



「倒したのか?」


「あぁ」



 由姫の全身全霊を込めた攻撃が当たったんだ。あの傷の深さから見て、立ち上がれるはずがない。



「それにあの出血量だ助かるわけがない」



 甲冑騎士が徐々に赤い血だまりに沈んでいく。。

 あの怪我はどう見ても重傷だ。生きていたとしても、長くはないだろう。



「やっぱり先輩を信頼していてよかった」


「それはどうも」



 今の由姫の姿を昔の由姫に見せたらなんていうだろう。

 あんな嬉しそうな表情、昔の由姫なら考えられない。



「先輩!! 何がおかしいのだ?」


「悪いな。昔の由姫と今の由姫のギャップがの差が大きくてな。つい笑ってしまった」


「まだそのことを根に持っているのか!! 過去のことを引きずりすぎだ!!」



 甲冑騎士との死闘が終わったからか、俺達は完全に気が抜けていた。

 だから気づかなかった。俺達のすぐ側で起きていた異変に。



「クックックッ」


「先輩、急に高笑いをしないでくれ」


「俺じゃない!!」


「じゃあ誰がこんなことを‥‥‥」



 俺達ははっとして後ろを向く。

 そこには先程まで血だまりに沈む甲冑騎士が立ち上がろうとしていた。



「我に一太刀いれるとはな。面白い!! 貴様等は本当に面白いぞ!!」



 立ち膝状態の甲冑騎士は、剣を使ってその場に立ち上がろうとしていた。

 


「無茶だ!! その怪我でまだ立ち上がれるはずがない」



 由姫の全身全霊を込めた一撃だったんだ。あの攻撃を受けて立ち上がることなんてできるはずがない。

 現に上手く立ち上がれないのか手も足も生まれたての小鹿のように震えている。



「先輩!! 気をつけろ!! あいつの目はまだ死んでいない!!」


「わかってる!!」



 ボロボロになりながらも由悦に満ちたあの表情。純粋に俺達と戦うことを楽しんでいるように見えた。



「甲冑騎士の奴、この状況になってまだ何かを隠し持っているのか?」



 あの漆黒の剣が出てきた時点で、もう甲冑騎士の奥の手はないと思っていたのに。

 これ以上何かをされても、俺達には手の打ちようがないぞ。



「ここまで追い込まれたのは久方ぶりだ」


「先輩!!」


「気をつけろ!! 何か来るぞ!!」



 高笑いを浮かべる甲冑騎士。どんなに体がボロボロでもその視線だけは俺達から外さない。

 正直何をしてくるのかわからないので不気味だ。



「できれば‥‥‥この技だけは使いたくなかったのだがな‥‥‥」


「一体何を?」


「由姫!! 離れろ!!」



 由姫を後ろに下がらせた瞬間、甲冑騎士の体からおぞましいほどの黒い霧が立ち込める。

 やがて黒い霧を身に纏った甲冑騎士がその場に立ち上がった。



「何なのだ!? これは!?」


「甲冑騎士の目が赤くなっている」


 兜の奥から除く目が赤く光り輝いている。その目は暗闇から獲物を狩る野生動物の目のように見えた。



「ふむ、やはりこの状態は長く持たないな」



 体の感触を確かめるように、手を握ったり離したりしている。

 自分の体の状態を把握しているように見えた



「先輩、恐れることはないぞ。いくら黒い霧を身に纏おうと、あいつ自身に変化はない」



 本当にそうなのか? 確かに由姫の言う通り、甲冑騎士の見た目は特に変わっていない。

 だが、俺の頭が本能で告げている。。あいつと戦ってはいけない。今すぐ逃げるべきだって。



「先程は遅れをとったが今度こそ容赦しない。行くぞ!!」


「何!?」



 気合の掛け声を言ったかと思うと、甲冑騎士がその場からいなくなってしまう。

 先程まで立っていた場所には誰もいない。この場所から消えてしまったかのようにいなくなった。



「何処へ行った!?」


「先輩!!」


「えっ!?」



 消えたと思っていた甲冑騎士が突如俺の目の前に現れた。

 その動きはまるで俺の前に瞬間移動してきたみたいだ。



「一体いつの間に!?」


「遅い!!」



 左の脇腹に強い衝撃が襲う。

 何の攻撃をされたかは攻撃のスピードが速くてわからない。

 ただ硬くて重いものが俺の左のわき腹に命中した。



「ごぶっ!?」


「先輩!!」



 今の一撃で体中の中にあった全ての酸素を全て吐き出してしまう。



「息が‥‥‥できない‥‥‥」


「これでおしまいだ!!」



 胸付近を蹴られ、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 そのまま校舎の方へ飛んでいき壁に衝突した。



「がはっ!!」



 衝突した衝撃で口から吐血した。

 この状態さっきやられた時と似ている。



「まずいな」



 どうやらさっき悠里が処置してくれた傷が完全に開いてしまったらしい。

 先程よりも鋭くて鈍い痛みが体を襲う。



「由姫は‥‥‥」



 どうやら由姫は無事みたいだ。

 呆然とした姿で俺と甲冑騎士のことを見ている。



「ふふっ、他愛もない。やはり貴様等の実力はこの程度だったのだな」



 明らかにあの甲冑騎士は先程とは様子が違う。

 目にも止まらぬスピードと規格外のパワー。それを可能にしているのは‥‥‥



「あの背中から立ち込める漆黒の霧だな」



 妖気といってもいいだろう。とにかく甲冑騎士の全身を包む漆黒の霧が関係しているに違いない。



「今までとは比べ物にならないほど強くなってやがる」



 先程までもけた違いの強さだったが、それの比にならない。

 ここに来た当初、あんなに余裕な態度で俺達と戦っていた理由もわかる。



「よくも‥‥‥よくも、先輩を!!」


「よせ!! 由姫!!」



 由姫が甲冑騎士の方へ襲い掛かるが、甲冑騎士の方が圧倒的に速い。

 いつの間にか由姫の懐へと飛び込んでいた。



「いつの間に!?」


「遅い!!」



 由姫の懐に飛び込んだ甲冑騎士は、そのまま由姫のお腹を乱暴に殴りつけ校舎に吹き飛ばしてしまう。



「がはっ!?」


「由姫!!」



 校舎内にぶつかった衝撃で、由姫はピクリとも動かない。

 どうやら今の攻撃のせいで、気絶してしまったみたいだ。



「由姫!!」



 気力を振り絞って由姫の方へと歩こうとするが、痛みのせいでまともに立ち上がることさえできない。



「くそ!!」



 こんなところで由姫を見殺しになんてできない。

 例え俺が死んでも由姫だけはここから逃がす。



「なんだ、お前達の実力はこんなものなのだな」


「甲冑騎士」



 いつの間にか俺の目の前に、甲冑騎士が立っていた。

 奴の右手には先程迄持っていた漆黒の剣がある。



「お前達との戦い、楽しませてもらった」


「そうかよ」


「褒めているのだぞ。ここまで心が躍る戦いをしたのは、実に数百年ぶりだ」



 数百年。それだけの時間この甲冑騎士は生きてきた。

 それが意味することは甲冑騎士も見た目は人間のように見えるが、別の世界から来たモンスターだ。



「お前は一体何なんだ?」


「さぁ、なんなのだろうな」



 何でもないようにいう甲冑騎士。その様子は自分の出生のこと等本当にどうでもいいように見えた。



「お前‥‥‥何で‥‥‥」


 しかし今は甲冑騎士の素性のこと等どうでもいい。

 それよりも驚くべきことが甲冑騎士の体に起きていた。



「胸の傷が‥‥‥治ってる!?」



 先程由姫が死に物狂いでつけた胸の傷が治っていた。



「何故だ!? だって、さっきあんなに血を流していたのに」


「あの怪我か。確かにあの攻撃は見事だった。正直さすがの我も死ぬかと思ったぞ」



 治った? あんなに深い傷が、そんな一瞬で治るはずがないだろ?

 でも確かに胸に傷跡がある。だけど、そこからは1滴の血も流れていない。



「この能力は私の特別スキルだ」


「特別スキル?」



 瀕死の怪我を一瞬で治す特別スキルなんて聞いたことないぞ。

 そんなスキルなんてあれば、無敵のようなものではないか。



「誇るがいい。私にこのスキルを使わせたパーティーは3組目だ」


「待て、3組ってなんだ? お前達は一体どこから‥‥‥」


「悪いが、それに答える義務は無い」



 漆黒の剣を頭上へと掲げる。その剣は俺の真上に位置している。



「最後だ。何か願いがあれば聞いてやるが何かあるか?」


「ここで俺達を見逃してくれって言っても、見逃してはくれないだろう?」


「当たり前だ。悪いが貴様等の人生はここで終わりにさせてもらう」



 だろうな。さすがに俺もこれ以上抵抗できない。

 お腹の傷が開いた以上、はっきり言って俺ももう長くはない。

 このまま放置されても、そのうち死ぬだろう。



「なら、由姫だけでも逃がしてくれないか?」


「何?」


「俺はここでおとなしく死ぬ。だから由姫のことだけは逃がしてくれ」


「ほぅ、命乞いをすると思っていたがまさか仲間の命を助けてくれと懇願するとはな」



 甲冑騎士は何か考えるそぶりを見せる。しばらくその場で考え込み静かな時間が流れた。



「わかった。勇敢に戦った貴様の戦いぶりに免じて、あの少女だけは逃がしてやろう」


「ありがとよ」



 これで由姫だけは助かる。

 彼女は俺と甲冑騎士の戦いに巻き込まれただけだ。これでいい。



「ここまでの骨のある奴は初めてだ。せめて死ぬ前に名前だけでも聞いてやろう」


「‥‥‥山村空だ」


「山村空か。その名前、私の胸に刻もう」


「お前の名前も聞かせてくれ」


「我の名前だと?」


「あぁ、俺はお前の名前を知らないんだ。それぐらいはいいだろう?」


「本気で言っているのか? 我の名前を知らないと?」


「だからさっきからそう言っているだろ?」



 よっぽど俺はおかしな質問をしていたのか? 甲冑騎士が回答を困る程に?



「あぁ、なるほど。そういうことか。少年よ、貴様はこっちの世界の人間だったか」


「こっちの世界?」


「それなら我の名前を知らないのも納得だ」



 俺がよっぽどおかしいことを言っているたのか、笑い続けている。



「何がおかしい?」


「いや、失礼。こちらの世界の人間でこれだけ戦えるものと出会うとはな。お前は本当に末恐ろしいやつだ」



 ひとしきり笑った後の一瞬の間。その時甲冑騎士は自分の名を告げる。



「我は()魔王軍四天王が1人、閃光のフランシスだ」


「閃光のフランシス?」


「そうだ。喜べ、お前は()魔王軍の幹部を追い込んだんだ。これほど栄誉なことはない」



 魔王軍の幹部? そんな奴と俺達は戦っていたのかよ。

 だから俺達のことをあんなに下に見ていたのか。これだけの肩書を持つ奴と戦っていたのなら、それも納得だ。



「さて、おしゃべりはおしまいだ」


「一思いにやってくれ」



 あぁ、ついに俺は死ぬんだな。死ぬ瞬間は走馬灯が見えるって聞くけど、実際その時になると何も見えないんだな。



「桜」



 悪かったな。お前に何一つ残してやれなくて。いつも幸せばかりもらって。



「お前とずっと一緒に入れて楽しかった」



 だからありがとう、桜。日向達と一緒に元気に生きてくれ。



「終わりだ!!」



 覚悟を決めて目とつむりその時を待つが、いつまでたってもその瞬間は訪れない。



「何だ?」



 無限とも思えるその時間。

 うっすらと目を開けると甲冑騎士が高々と上げた剣をゆっくりと降ろしていた。



「どうやら、まだ我と戦いたい者がいるらしいな」


「戦いたい者?」



 甲冑騎士が見つめる先、その先にいる人物を見て驚いてしまう。

 その人物はここにいるはずのない人物。その人物が呆然した表情で、俺と甲冑騎士を見つめていた。



「桜!!」



 俺達の見つめる先。そこには紫の槍を持ち呆然とする少女。木内桜がそこに立っていたのだった。

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