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空の覚悟

「甲冑騎士‥‥‥」



 まるで旧友と出会ったかのような気さくな返事だ。

 甲冑騎士は自慢の剣を手に持ち、再び俺達の前に立つ。



「まさかお前達とこんな所で会うとはな。我らは奇妙な縁で結ばれているようだ」



 俺達を睨む甲冑騎士。その姿は歴戦の猛者に見えた。



「嘘!? だって校庭にはたくさんの大人達がいたはずだ」


「あの雑魚共のことか? そこの少年達とは違って、全く手ごたえが無かった」



 それが意味すること。つまり、全員があいつの手によって殺されたということだろう。



「嘘!? あの人数を」


「田宮さん」



 俺達を逃がすために戦っていたのに。全員やられてしまうなんて。

 だがここで俺達が倒されてしまっては元の木阿弥だ。絶対にここから脱出しないと行けない。



「何とかしないと」



 倒せなくてもいい。少しでもあの甲冑騎士の足止めさえできる方法を考えないと。

 だが、その方法が浮かばない。どう考えてもこの状況で犠牲者を出さないで逃げるのは不可能だ。



「覚悟しろ、悪の守護者達。今度こそ容赦はしない!!」



 剣を構える甲冑騎士。その剣は多くの人を殺したからか血に濡れている。



「厄介なことになったな」



 瀕死の日向だけならまだしも、俺も満足に体が動かない。

 桜や由姫は動けるが、甲冑騎士を相手にさせるには荷が重すぎる。



「よくも‥‥‥五月ちゃんを‥‥‥」


「桜、動くなよ」


「空さん!!」


「友達を目の前で殺されて怒る気持ちはわかるが、少しは冷静になれ」


「わかりました」



 聞き分けがよくて助かった。このまま作戦もなしに突撃した所で返り討ちにあうからな。

 この状況を切り抜ける最善の方法。その答えはもう出ている。



「後は俺の覚悟だけだな」



 覚悟なら当にできている。ここまで来るのにたくさんの人に助けられた。

 デパートでは須田のおっさんや悠里の母親である祥子さん。学校では春斗さんや良子さんに助けられた。


 それだけじゃない。由姫や梓に日向や悠里というかけがえのない仲間までできた。

 そして最愛の人である桜。

 この学校にいる間、とてもいい思いをさせてもらえた。



「俺にとってのここ数日は、最高の贅沢だな」



 今までの人生の中で味わったことのない程の幸福を俺は皆に分け与えてもらえた。



「もういいだろう」



 終わりにしよう。ここで全てを。甲冑騎士に引導を渡そう。



「絶対絶命か。それならここは僕が‥‥‥」


「春斗さんは下がってください」


「空君?」


「ここは俺がなんとかします。皆さんは先に逃げてください」



 覚悟は決まった。後はあいつと戦うだけだ。



「先輩!?」


「無茶よ。その怪我でまともに戦えるはずが無いわ」


「そんなことはわかってる。だけど、ここにいる全員の生存率を上げるにはこれしか方法がない」



 俺達が相手にするのは今まで戦っていたゴブリンやウォールベアーとは別格の相手だ。

 日向が瀕死で動けない以上、互角に戦えるのは俺しかいない。



「それにあの甲冑騎士のことだ。きっとまだ奥の手を持っているに違いない」



 確信は持てないがそうに違いない。あの余裕のたたずまいは、まだ俺達には見せていない何かを隠し持っている。



「駄目だ。空君は怪我をしているんだ。ここは僕が引き受けるよ」


「いや、春斗さんは皆を連れて逃げてください」


「どうして君は自分を犠牲にしようとするんだ?」


「自分を犠牲にしてませんよ。これが1番全員の生存率が高いから選んだに過ぎません」



 あくまで客観的に見た末の結論だ。私情は一切入れていない。



「それに春斗さんには重要な役目がありますよね?」


「重要な役目?」


「三葉校長の護衛ですよ。春斗さんが命を懸けて三葉校長を守るように話がついているんじゃないですか?」



 春斗さんが驚いた顔をするということは、正解だってことだな。

 相変わらず春斗さんは嘘をつくのが下手だな。すぐ表情に出る。



「どうして君がそれを知っているんだ?」


「見ればわかりますよ。この学校の守りの要になる人を1人にするわけがない」



 この学校の守りの要に護衛を付けないわけがない。

 学校が破壊されたとしても、この人さえ生きていれば何度だってやり直せる。だからこの人だけは絶対に生かさないといけない。



「現状戦えるメンバーは春斗さん、桜、由姫、俺の4人。この中であいつを止められるのは俺しかいない」


「ほぅ、少年はずいぶん我のことを過小評価しているようだな」


「過小評価していない。俺が直々に相手にしてやるんだ。光栄に思え」



 そうだ。できるだけ自信満々に振る舞え。絶対に怖がっている所等こいつには見せるな。

 少しでもそういう所を見せたら、皆が不安がる。絶対にそんな顔をするなよ。



「あたしも残ります。空さんだけじゃやっぱり不安なので‥‥‥」


「私も残るぞ」


「駄目だ」


「何でですか!?」


「こいつの咄嗟の攻撃に対応できるのは、俺しかできないからだ」



 もしくは日向だけど、日向は今動ける状態じゃない。

 俺だって満身創痍の状態だが、時間稼ぎぐらいならできる。



「そんな心配そうな顔で俺のことを見るなよ」


「でも‥‥‥」


「大丈夫だ。ちょっとこいつを足止めするだけだから」



 そうちょっとした足止めだ。日向達が逃げる時間だけ稼げればそれでいい。



「‥‥‥空」


「なんだよ、日向」


「‥‥‥ダメだよ‥‥‥そいつと‥‥‥まともに戦っちゃダメ」


「この状況でよく減らず口が叩けるな」



 まともに戦わないから、俺が戦うんだろう。

 日向は色々と前提条件が間違っているんだよ。



「いいか、俺は時間稼ぎをするだけだ。お前は色々と勘違いしてるんだよ」


「勘違い‥‥‥してないよ」


「いいや、勘違いしてる。よく考えてみろ。俺程臆病者の人間なんて他にはいないぞ」



 後ろを振り向き、飛び切りの笑顔で答えてやる。

 相変わらず日向はこわばった顔で、俺のことを見ている。



「そうだね。昔から空って、先生から怒られる時1人だけ逃げてたよね」


「お前達の巻き添えなんてごめんだからな」



 続いて桜を見る。桜は今にも目から涙が溢れそうだ。



「だめです。空さん‥‥‥あいつと戦っちゃだめです」


「大丈夫だ。ちゃんと時間稼ぎをした後、そっちと合流するから。桜、俺が今まで1度でも嘘をついたことはあるか?」


「‥‥‥‥ないです」


「じゃあ俺を信じろ。日向と悠里を頼むぞ」



 良子さんが桜の腕を掴んでる。これなら大丈夫だろう。桜もちゃんと日向達と共に逃げてくれる。



「別れの言葉は言わないぞ。俺は生きて、まだやりたいことがあるんだからな」



 精一杯の虚勢を張る。もしかしたらこれが最後の別れになるかもしれない。

 あいつの強さは俺が1番知っている。今にも体中が震えて動けなくなりそうだ。

 だがそれを億尾にも出してはいけない。だって全員を不安にさせてしまうから。



「だから日向も、そんな不安そうな顔をするなって」


「‥‥‥‥‥空」


「そうだ、日向。1つ確認してもいいか?」


「何?」


「さっきは時間を稼ぐだけって言ったけど‥‥‥」


「けど?」


「あいつを‥‥‥倒してしまっても構わないんだろ?」


「‥‥‥うん。今回は空に手柄を譲るよ」


「ありがとよ」



 ようやく日向は安堵の表情を浮かべる。

 よかった。最後に日向のその顔が見れて。



「わかったならさっさと行け。俺の手柄の邪魔をするな」



 それだけ言った後、甲冑騎士に向かってハンドガンを構えた。

 その銃口は甲冑騎士の胸に狙いを定めている。



「その飛び道具だけで我と戦おうとしているのか」


「この武器はただの飛び道具じゃない。近接戦闘でも使えるんだぜ」



 できるだけ甲冑騎士に時間を使わせる。皆の逃げる時間を稼ぐため。

 後ろから足音が遠ざかる音が聞こえる。だけどある足音だけが、どんどん大きくなり近づいてくる。



「桜!! 何してるの!? 逃げるんだよ!!」


「駄目‥‥‥絶対駄目です」


「桜!!」


「止めないと。だってあの人‥‥‥これから死ぬつもりなんですから」


「桜!! 言うことを聞きなさい!!」



 良子さんだけじゃなくて、春斗さんの声まで聞こえてきた。



「嫌です!! これから自殺しようとしている人を止めて、何が悪いんですか!!」


「桜!!」


「やめて、掴まないで!! いや‥‥‥やだよ、死んじゃやだよ。空さん!! 空先輩!! 先輩!!」


 しばらくすると桜の声が遠くなっていく。どうやら春斗さんに抱えられて、下に降りていったらしい。



「これでお互い、戦いに集中できるな」


「長い時間待たせて悪かったな」


「これぐらいの待ち時間ぐらい許容範囲だ」


「でもいいのか? 俺以外を見逃して? 今のやり取りの最中、俺達を皆殺しにすることも出来ただろう」


「ふん。勇敢な(おのこ)が仲間の為に犠牲になろうとしているのだ。そこを攻撃しては無粋というものだろう」


「なるほどな」



 意外と紳士的な所もあるんだな。俺とは大違いだ。



「それに何より私の騎士道精神に反する」


「騎士道精神ね」



 校庭の連中を1人残らず皆殺しにしたと思ったら、今度は関係のない俺達の仲間を見逃すか。

 全くこの甲冑騎士がどういう性格をしているのかわからなくなるな。



「それで貴様が我の相手をするのはいいが、そちらのお嬢さんは残っていてもいいのか?」


「お嬢さん? ‥‥‥‥‥って由姫!? 何で逃げないんだよ!?」



 今まで息を殺して潜んでいたのだろう。だからさっきまで殆どしゃべってなかったのか。



「こんな死ぬ可能性が高い戦いに参加してどうするんだよ?」


「私は死なないぞ」


「何?」


「生きて先輩と一緒に桜達と合流するからな」



 由姫の決意を秘めた瞳。それはここで甲冑騎士を倒してやるという意気込みが垣間見えた。



「ほぅ。そこの少年意外にもいい顔をするものがいたようだな」


「その減らず口を聞けないようにしてやろう」



 由姫も刀を構えた。どうやらいつでも戦闘できるような態勢を取ったみたいだ。



「何で逃げなかった?」


「私は先輩の剣だ。先輩が戦うために残ると言っているのに、剣がここで逃げてどうする?」



 もっともらしい理由だ。だが、ここでそんな無茶をしなくてもいいだろう。



「今からでも遅くない。早く逃げてくれ」


「断る」


「何故だ?」


「先輩の剣だから戦うというのも理由の1つだが、他にも理由がある」



 それだけ言うと、由姫は床に倒れている少女に視線を移した。



「そこで倒れている少女、五月とは古くから付き合いのある友人でな。その敵討ちをしないといけない」



 そういえばそんなことを桜も言っていた気がする。

 桜、由姫、五月の3人をよく自宅に招いて遊んでいたと話していた。



「それに先輩はお前に殺されかけた」


「なるほどな。それが我と戦う理由か」


「今度こそ、今度こそお前を殺してやる」


「お手並み拝見と行こうじゃないか」



 再び剣を構える甲冑騎士。あいつがいつ俺達に襲い掛かってきてもおかしくはない。



「全く先程抱えられた少女といいさっき戦った剣を持つ少年といい、貴様等は実におしいな」


「おしい?」


「あぁ。だって武の道を究める前に、私に倒されるのだからな」



 自信満々な様子の甲冑騎士。それだけ俺達に負ける要素が無いと言うことだろう。



「先輩」


「なんだ?」


「私の命を先輩に全て預ける。好きに使ってくれ」


「いいのかよ?」


「もとより私の命はウォールベアーと戦った時になくなっている。今更死ぬこと等怖くない」


「わかった。お前の命は俺が預かる」



 由姫の決意を聞いた瞬間、俺の頭の中で何かがはじけた音がする。

 機械音のような、それでいて何かがひらめく音。そんな音が聞こえた気がした。



「何だ?」



 突然強制的に頭の中にステータス画面が浮かんできて、そこにはパーティーの申請画面が開かれていた。



「何故!?」



 パーティー申請欄を見て驚愕した。だってそこには桜以外の人の名前なんてなかったはずなのに、別の人の名前が載っているのだから。



「何で由姫の名前が申請画面に載ってるんだ?」



 パーティー申請欄に載った、前野由姫の名前。

 日向や悠里の名前はないのに、なんで由姫の名前だけはあるんだ?



「(色々考えている暇は無い)」



 少しでも生存率を上げるなら、由姫を自分のパーティーに入れた方がいい。

 由姫も自分自身も絶対に無事に戻ってやる。そう決意を新たにして、由姫にパーティー申請をした。



「先輩!?」


「どうせ命を預けるなら、俺のパーティーに入れ」



 由姫からの返事はない。変わりに頭の中に機械音が鳴り響いた。



『前野由姫さんに承認されました』


「よし! 行くぞ、由姫!!」


「あぁ、絶対あの甲冑騎士を倒そう」



 2人で示し合わせたかのように、俺達は甲冑騎士に襲いかかるのだった。

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