悠里の意志
「先輩!! もう少しでつくから、気をしっかり持っていてくれ」
校舎内に入った俺達は日向達がいる3階へと向かう。
途中何度も膝をつきそうになるが、由姫が肩を貸してくれているおかげで何とか歩くことができた。
「それにしても中は騒がしいな」
「みんな混乱しているのだろう」
校舎内は阿鼻叫喚、様々な所で鳴き声や叫び声が聞こえる。
その中には住民を逃がすために指示するものや、必要なものだけ持ち廊下を走り回るもの。
挙句はしゃがんだまま泣き叫ぶものその様子は多種多様。
「それでもこの程度で済んでいるのは、三葉校長のおかげだろうな」
あの人的確に指示しているおかげで、この程度の混乱で済んでいるのだろう。
そうでなければ、この場所はもっと混乱していたはずだ。
「急げ!! 裏から敵が来るぞ」
「正面玄関には絶対に行くな!! 裏口から逃げるんだ!!」
「まずは怪我人を優先しろ。次に女子供を逃がせ」
「先輩!!」
「気にするな。俺達は3階へ急ごう」
必死になって誘導している大人達を手伝いたいのは山々だが、今は自分達のことが先決だ。
今は日向達と合流することだけを考えよう。
「先輩、もうすぐつくから頑張ってくれ!!」
「なぁ、由姫」
「どうしたんだ、先輩? 悪いが遺言なら聞かないぞ」
「遺言じゃない」
縁起でもない事をいうな。まだ俺はこんな所で死ぬ気はないぞ。
「遺言ではないとなると、一体何のようなんだ?」
「ここからさきもしかしたら、良子さん達がもう逃げている可能性がある」
「あの人達はそんなことは絶対にしない」
「もしもの話だ。もし3階の空き教室についた時誰もいなかったら、俺を置いて逃げろ」
「はぁ!? 何を馬鹿なことを言っているのだ? 私が先輩を置いて逃げるわけないだろ!!」
「俺は至って真面目に言ってるんだ」
今の俺と一緒だと足手まといになる。足手まといになるぐらいなら、俺はここで甲冑騎士を迎え撃ちあいつを倒す。
たとえ刺し違えることに構わない。それで他の犠牲者が出ないなら安いものだ。
「悪いがその提案は却下だ」
「なぜだ?」
「先輩に生きていてほしいという人達が大勢いるのだ。だから絶対に先輩を見捨てたりはしないぞ」
「俺に生きていてほしいやつ? そんな奴いるわけないだろ?」
実の両親が死んで、親戚連中からも疎まれて育ったんだ。
今更俺がいなくなったとして悲しむ奴なんているわけがない。
「桜はどうなるのだ?」
「桜?」
「先輩が死ぬと、少なくとも桜は悲しむと思うぞ」
「確かに桜も悲しむとは思う」
「そうだろう」
「だが、それは一過性のものだ。心が強い桜のことだ。すぐに立ち上がるさ」
桜がそんな精神的に弱いはずがない。きっと俺がいなくなっても、上手くやっていくだろう。
「先輩は桜のことを知らないのだな?」
「知らない? 何がだ?」
「別にいい。ちなみにだが、私も先輩には死んでほしくないと思ってる」
「まさか由姫からそんな言葉が出るようになるとは夢にも思わなかった」
最初はあんなに嫌われていたのに、人は変わるものだな。
「茶化さないでほしい」
「俺は事実をありのままにいっているだけだ」
「あの時は先輩が私に迫って来たから、ナンパ目的だと思っただけだ」
「そんなことを思ってたのかよ」
確かにあの時は自分目的って言ってたけど、まさかそんな風に思われていたとはな。
「そもそも先輩が誤解させることを言うのが悪いのではないか」
「俺のせいなのか」
「そうだ。全部先輩のせいだ」
濡れ衣を着させられたような気もしないが、これ以上いうのはやめておこう。
それに目的地はもうすぐだ。
「先輩、もうすぐ着くぞ。あそこだ」
由姫が指さした場所。あそこが日向達がいる空き教室か。
「静かだな」
「ほとんどの人は避難したのだろう」
由姫がドアに手をかけて教室へと入る。
中には殆ど人がいない状況だった。
「人が全然いないな」
「怪我人から優先的に逃がしてるのだから当然だろう。それよりも良子先生はどこにいるのだ?」
教室の中を見回すが悠里達の姿が見当たらない。まるでどこかに隠れているみたいだ。
「良子先生はどこにいる?」
「たぶんあっちだろう」
俺が指を指す先、そこは別の部屋につながっている準備室だ。
「この部屋にいないってことは、あそこにいるんじゃないか?」
「見てみよう」
準備室のドアから声が聞こえてきた。
その声は俺もよく知る人達の声である。
「ここをこうしてこうすれば‥‥‥よし! これで大丈夫なはず」
「悠里ちゃん。日向君が薬を全て飲み終えたよ」
「ありがとうございます。後はここから脱出しましょう」
その瞬間、ドアが開く。そこから出て来たのは桜だった。
「そしたらあたしは空さん達の援護に‥‥‥って、空さん!? それに由姫ちゃんも!?」
「よう」
「どうしたんですか!? その傷!? お腹の!?」
「ちょっとどじってな」
「すぐ悠里先輩を呼びますから!! 悠里先輩急いで来てください!! 空さんが大変です!!」
さくらはすぐに準備室の中へ入ってしまう。
そこからしきりに悠里を呼ぶ声が聞こえた。
「桜ちゃんそんなに慌てなくても‥‥‥って、空!?」
「よう、悠里」
「『よう、悠里』じゃないわよ。どうしたのよ、そのお腹の傷!?」
「ちょっとどじってな」
「いいから黙って。とりあえずそこに横になって。傷を見るから」
悠里が俺を仰向けにすると、そのまま俺のシャツをめくった。
一瞬ズキッとする鈍い痛みが襲うが、それ以上の痛みはない。
「酷いわ。何でこんなになるまで放って置いたのよ!!」
「こんなのかすり傷だ。それより今は早くここから脱出を‥‥‥」
「馬鹿言わないで!! こんな重い怪我をしていて。すぐ治療するから、そのままでいて」
悠里が治療用の道具を出す。見た来ない道具だけど、あれも悠里のスキルだから出せるものなのかな?
「駄目‥‥‥この怪我は日向君のより酷い」
「悠里ちゃん、私にできることはないかい?」
「良子さんはこの回復薬を空に飲ませてください。私は傷口の処置をします」
「わかった」
良子さんは、悠里から青い液体が入った液体を受け取る。
そしてその小瓶が俺の口に無理やり押し込まれた。
「むぐぐぐぐぐぐぐ」
「少し味がまずいが我慢していてくれ」
まずいなんてものじゃない。以前飲んだものより格段にまずい。
前の緑の液体は苦甘いだったが、今回はそれに辛いが足されているようだ
「ひったいほれはなんれすか?」
「悠里ちゃん、空君が苦しんでいるんだけどどうすればいい?」
苦しんでいるのはその小瓶の液体を飲んだからだ。
全て飲み終えると、口から小瓶が離された。
これでようやくしゃべることができる。
「一体この飲み物は何ですか?」
「これは悠里ちゃんが作ったお手製の回復薬だよ」
「緑の液体よりも強力なものだから、効き目はばっちりなはずよ」
確かに効き目はばっちりだ。さっきまで意識が朦朧としていたが、おかげで目が覚めた。
「悠里は何をしているんだ?」
「今貴方の怪我の縫合をするの」
「そんなことできるの?」
「馬鹿にしないで。ここでどれだけ多くの怪我人を見てきたと思ってるの」
そのように話す悠里には自信があるように思えた。何か別の液体を何かを傷口にかけると、手当てを始める。
「その薬は?」
「麻酔薬よ。これで縫合していても痛みはないはずよ」
確かに痛みは全くない。悠里はそのまま黙って手当を進めてくれた。
「由姫ちゃん‥‥‥何で先輩はこんなことになってるんですか?」
「すまぬ。私が不覚を取ったばかりに‥‥‥」
「由姫ちゃんは先輩の剣なんですよね!! なんで先輩がこんなことになってるんですか!!」
「桜、少しおちついて」
春斗さんが桜をなだめている様子が見えた。
それだけじゃない。一緒にいた三葉校長も桜のことをなだめている。
「桜さん、落ち着いてください。今は山村君のことを案ずるのが先ではないですか?」
「そうだ。空さんは!? 大丈夫ですか!?」
「あぁ。なんとかな」
麻酔をされているからか、怪我の部分は全く痛くない。
今なら甲冑騎士と戦っても問題ない気がする。
「空、あまり調子に乗らないで。今は麻酔が効いているだけなんだから」
「わかってるよ」
今はおとなしくしているしかないな。
桜も俺が元気そうだからか、安心した表情を浮かべていた。
「くそ!! なんなんだ、あいつは!?」
「あいつを校舎内に絶対に入れるな!! 死ぬ気で戦え!!」
校舎の外から叫び声が聞こえる。どうやら、校庭では甲冑騎士と大人達が死闘を繰り広げているみたいだ。
「どうやらあいつが校舎内に入ろうとしているみたいだな」
「早く逃げないといけませんね」
「もう少し待ってちょうだい。今空の処置を終わらせるから」
「悠里、俺を置いて先に逃げろ」
「嫌よ。貴方を置いて逃げるなんてことをしたら、私は一生後悔するわ」
悠里は必死に怪我の手当てをしていく。額から汗を流し、その目は真剣そのもの。
俺を生かすために、必死に手当てをしてくれている。
「空さん、絶対死んだらダメですからね」
「俺は大丈夫だ」
「先輩、すまない。私が不覚をとったばかりに」
「馬鹿いえ。あれはお前のせいじゃない。甲冑騎士が構えないと乱れ突きが出来ないと思っていた俺のミスだ」
あの状態でそんなことがわかる人なんていないだろう。
奥の手を隠し持っていることを読み切れなかった俺のミスだ。
「あの甲冑騎士、構えなしで乱れ突きが出来るんですか?」
「そうだ。あいつと鉢合わせたら気をつけろ」
「ここを縫合して、これでよしっと。もう大丈夫よ。さぁ、ここから逃げましょう」
どうやら治療は完了したらしい。
体を起こすとさっきよりも軽い。どうやら自力で動くことは出来そうだ。
「空さん、肩をかしましょうか?」
「大丈夫だ。それよりも日向の方を頼む」
日向の方が明らかに重症だ。見るからに苦しそうで、今も春斗さんと三葉校長が肩を貸している。
「それより早く行きましょう。あの甲冑騎士が来る前に」
それもそうだ。急いで逃げなければ、あの甲冑騎士がやってくる。
俺達は教室を出て廊下に出た。
「あ‥‥‥あっ‥‥」
「誰ですか? そこにいるのは?」
廊下の階段側の通路。そこに顔を出す1人の少女。
見たことがある少女は俺達を見つけると、目を見開いた。
「五月ちゃん!!」
「五月!!」
「2人共‥‥‥ 無事だったんだね‥‥」
あの顔は桜と一緒の班にいた五月と言う少女だ。
その少女が泣きながら、安心した表情で俺達のことを見ていた。
「桜ちゃん、由姫ちゃん」
「五月?」
「どうしたんですか? 五月ちゃん」
「待て、様子がおかしい」
踊り場から姿を現した五月。その姿は俺達の予想をはるかに上回っていた。
「五月ちゃん!! その傷はどうしたんですか!?」
五月という少女の体は全身血まみれで、体のあらゆる所から出血している。
お腹だけでなく、右の胸からも血が流れており呼吸をするのも苦しそうに見えた。
「五月ちゃん!!」
「逃げて‥‥‥」
「逃げてってどういうこと?」
「そこにいたか」
次の瞬間、レイピアが彼女の左胸を貫く。
口から少量の血を吐いた少女は剣を抜かれると乱雑に廊下にほうりだされ、力なく倒れた。
「お前は‥‥‥」
「また会ったな、少年達」
俺達の目の前に立っていたのは、返り血で真っ赤に染まった甲冑騎士の姿だった。
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