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大人達の決意

「っつ!?」


「先輩!!」


「大丈夫だ」



 幸いにも勢いよく吹き飛ばされたおかげか、あまりダメージを追わなかった。



「体は‥‥‥大丈夫そうだな」



 至る所から激痛が来ているが、我慢すればまだ立ち上がれる。

 これなら甲冑騎士と戦うことができる。



「がはっ!?」



 なんだ、なんで俺は咳込んでいるんだ?

 口に手を当てた後、その手を見ると俺の手が血にまみれていた。



「血!?」


「先輩、何をしているのだ!?」


「何をしているって、これから甲冑騎士と戦うに決まってるだろ?」


「無茶だ!! そのお腹の傷で戦えるはずがないだろう」


「お腹の傷?」



 下を向くとお腹のあたりが血でにじんでいる。

 その血は俺の服を真っ赤に染めていった。



「そうか。俺は刺されていたのか」



 吐血したのもそれが理由だったのか。

 意識したとたん、腹部から強烈な痛みが襲ってくる。



「ぐっ!!」


「先輩!!」


「これぐらいの怪我、たいしたことない」


「大したことないわけがない!! 腹に穴が開いているんだぞ!! すぐ止血するから、そこを動かないでくれ」



 そのまま由姫が俺に応急処置をしてくれる。

 タオルがないので、自分の布制服の布を切って止血の処置を施してくれていた。



「絶対に死なせないからな!! まだ先輩には言いたいことがたくさんあるのだ!!」



 必死に由姫は俺に手当をしてくれている。

 だが、この怪我では俺も長くは続かないだろう。傷があまりにも深すぎだ。



「もういい、大丈夫だ」


「しかし‥‥‥」


「おっと‥‥」



 立ち上がろうとしたが、その場でよろけて倒れてしまう。

 必死に腕を腕で体を支えるが上手くいかない。



「無茶だ。その傷で動くなんて」


「大丈夫だ。気にしないでくれ」



 気丈に振舞ってはみたが、正直かなり痛い。

 劈くような痛みが絶え間なく襲い、痛みのせいで意識が途切れそうになる。



「無理だ。立ち上がらないほうがいい」


「そんな事言ったって甲冑騎士の相手をしないといけないだろ」



 こうしている間にも、甲冑騎士は俺達に近づいてくる。

 誰かが戦わないと、この学校の人達全員があいつに殺されてしまう。



「それに、今は日向が治療してる」


「先輩?」



 きっと今頃、悠里が必死に治療をしているはずだ。



「あいつの為にも、少しでも時間を稼がないとな」



 それが俺に与えられた使命。日向が戻ってくるまで、ここで時間を稼ぐこと。

 時間さえ稼げればきっとあいつは戻ってくる。そうすればあんな奴簡単に倒してくれるだろう。



「だからそこをどいてくれ。いい所なんだから邪魔をするな!!」


「先輩」



 お腹の痛みを我慢して無理やり立ち上がる。そして銃を構えた。



「ほぅ、その傷で立ち上がるか」


「悪いがこんな攻撃大したことはない」



 精一杯の虚勢を張る。絶対に他の人達に注意を向けさせない

 ハンドガンの銃口は甲冑騎士の方を向いている。



「そんなに死にたいなら一思いに殺してやろう」


「待て、お前の相手は私だ!!」


「由姫!?」


「先輩、あいつの相手は私がするから先輩は休んでいてくれ」


「無理だ!! 由姫だけじゃ荷が重すぎる。いいからここから逃げろ!!」



 俺でさえこんな手傷を負わされているんだ。

 日向だってやられているのに、由姫が戦っても勝てるわけがない。



「何を言っている? 私は先輩の剣なんだ。先輩を置いて逃げられるわけがないだろう!!」



 剣を構え由姫が甲冑騎士に向き合う。

 甲冑騎士は俺には目を向けずに、由姫の方へと歩いていく。



「少女よ、いい眼をしているな」


「そうだろう」



 由姫と甲冑騎士が睨みあう。そしてそのままお互い剣を構えた。



「お前1人で私に勝てるのか?」


「馬鹿にするな。お前など私1人で充分だ」


「その勇気に免じて、まずは貴様と戦ってやろう。こい!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 瞬間、由姫と甲冑騎士の打ち合いが始まる。

 だが、圧倒的に由姫の方が押されている。



「まずい、今のままじゃ由姫はあいつに勝てない」



 何か手を打たないと、あいつに殺されてしまう。



「何か手はないのか?」



 考えれば考えるほどいい案が浮かんでこない。

 こうしている間にも、由姫が甲冑騎士に追い込まれていく。



「くそ!!」



 何か、何かないのか。意識が朦朧とする中、俺は必死に考えた。

 考えれば考えるほど何も浮かばない。どうやったって由姫は甲冑騎士に勝てない、



「このまま由姫を見殺しにしていいのか?」



 そんなのいいはずがない。

 花壇に寄り掛かる俺に対して、甲冑騎士と戦う由姫。

 自分の無力感に思わず下唇を噛んでしまう。



「由姫ちゃん!! そこから離れろ!!」



 甲冑騎士と由姫の間に飛び込んで来た1人の男。その男性は俺が話したことがない男だった。



「誰だ、あいつは?」



 話したことはないが見たことはある。あれは確か日向のグループリーダーだ。



「田宮さん!!」


「由姫ちゃん、いったん退こう」



 田宮さん、その名前は確か日向から聞いた気がする。

 Aチームの頼れるリーダー。その人の名前だ。



「君、大丈夫か!?」


「よくここまで頑張った!!」



 田宮さんを筆頭に多くの大人達が昇降口から飛び出して来た。

 その後、何人かの大人達が俺のまわりに集まってきた。



「君は大丈夫か?」


「俺は大丈夫だ」


「血が出てるじゃないか!! 早く怪我の部位を見せて!!」


「別に大した怪我じゃない」


「大した怪我じゃないだろう!!」


「いいから見せてみろ!!」



 俺の前に来た大人の男に無理やり、腹部の怪我を見せると驚いた表情を見せた。



「酷いじゃないか!!」


「中にまだ人がいるから、急いで手当てしてもらった方がいい!!」


「そんなこと言ってられるかよ!! 由姫が1人で戦ってるんだぞ!!」



 俺のことを守るって言ってくれた由姫が戦ってくれているのに、俺だけ逃げてどうするんだ。



「仲間を見捨てて逃げるなんて、俺は絶対にしない」



 そんなことをするぐらいなら、ここで死んだ方がましだ。



「君の言っていることはわかった」


「わかったなら、そこをどいてくれ」


「実は君宛に三葉校長から伝言があるんだ」


「伝言?」


「この場所は放棄するから、全員でここから逃げろって連絡がきた」


「つまり三葉校長はあの甲冑騎士と戦うなって判断したってことですか?」


「そうだ」


「三葉校長らしい考えですね」



 勝てない相手とは無理には戦わない。考え方あの人らしいな。



「あぁそうだ。君も戦ってわかっただろう? あいつの底が見えないことを」



 確かにそうだ。あの甲冑騎士はまだ何か奥の手を隠しているように見える。

 今は対等に戦っているが、まだ何か仕掛けようとしているように見えた



「だから生き残るために、ここから逃げようということになったんだ」


「だったら誰があいつの注意を引くんだ?」



 全員が全員逃げたところであの甲冑騎士に捕まるのが関の山だ



「誰かがしんがりにならないとこの作戦はなりたたないぞ」



 それは自分が死ぬと言っているいるようなものだ。

 そんな役割をやりたい奴なんているはずがない。



「その役目は俺達がやる」


「貴方達が?」


「こういう役回りは大人がするものだ」


「だから任せてくれ」


「無茶だ!! 貴方達があいつを抑えられるわけがない!!」



 俺はこの人達がどんな人達かわからない。

 だけど日向ですら抑えられなかった甲冑騎士を抑えられるわけがない。



「ここは俺が抑えるから、みんなで逃げてくれ」


「その怪我でどう抑えるんだよ!!」


「大丈夫だ。何とかする」


「なんとかできるわけないだろう」


「少なくても、貴方達よりも俺の方が抑えられる可能性はある」



 あの甲冑騎士の攻撃パターンは大体わかっている。

 時間稼ぎをするだけということなら、俺にだってできる。



「だから俺が抑える」


「駄目だ」


「何度言ったらわかる!! 貴方達が戦ったって、むざむざ殺されに行くようなものだぞ!!」


「そんなの‥‥‥そんなの俺達だってわかってる!!」



 今なんて言った? 自分達が死ぬのに戦いに行くって。



「死ぬのが怖くないのか?」


「怖いさ、すごく怖い」



 男はそう話す。その目は自愛に満ちていた。

 たぶんここにいる人達はわかってるんだ。自分達がここで死んでしまうことを。



「だけど俺達の役目はここで長く時間を稼ぐことだ」


「貴方達は‥‥‥」


「心配するな。俺達は日向君に助けられたんだ」


「日向に?」


「俺達はAグループ、日向君と一緒に行動したんだ」



 なるほど、この人達は日向達と一緒に行動していた人か。

 日向の言っていた頼りになる精鋭グループって、この人達のことを言っていたのか。



「あの子に俺達は助けられた」


「あの子がいなければ俺達はここのはみ出し物だったんだ」


「そんな俺達のことをあの子は励ましてくれた。『絶対大丈夫だから、みんなで頑張ろう』って」


「だから俺達は生きてこれた。こんな絶望的な世界に変わっても戦ってこれた」



 Aチームにとって、日向はなくてはならない存在だったのだろう。

 話を聞くとその思いがひしひしと伝わってくれる。



「それに君の話は日向君から聞いている」


「日向から?」


「そうだ。君が日向君達の参謀役だってことも聞いた」


「参謀役じゃない。俺は日向に対して、たいしたことはしていない」



 俺の方が日向には助けられていた。ゴブリンキングとの闘いだって日向がいたからこそ勝つことができたんだ。



「今まで俺が生きてこられたのは全て日向のおかげだ。俺は何もしていない」


「そんなことはない。食料調達の時、日向君は君のことをいつも話していた」


「日向が?」


「『空は僕がこの世界でもっとも信頼している人だ』って、口癖のようにいつも君のことを言っていた」



 あいつそんなことを言っていたのかよ。

 俺のことなんて放っておけばいいのに。俺よりももっと悠里のことを気にかけてやれよ。



「だからここは俺達に任せて君達は逃げてくれ」


「日向君のことをよろしく頼む」



 日向のことを頼むと言われたら断ることはできない。

 あいつはこのコミュニティーの中でも重要戦力だ。

 絶対何としても日向だけは守らないといけない。



「わかった。その頼み、引き受ける」


「ありがとう」


「でも逃げてくれって言われても、どこに逃げるんだよ?」



 満足い程動かない体じゃ、逃げるにしても逃げられない。

 それにどこに向かえばいいかわからない。中途半端に逃げても甲冑騎士に捕まるのがおちだ。



「先輩!!」


「由姫!? 甲冑騎士はどうした?」


「あいつは田宮さん達が対応してくれている。それより田宮さんから伝言だ」


「なんて言われたんだ?」


「『先輩を連れて逃げてくれ』って。校舎内でまだ柴山先輩が怪我の処置をしているから、そこに向かってほしいと言われた」


「わかった」



 この人達が俺達を逃がすために、命を懸けて戦ってくれている。

 それを無下にすることはできない。



「由姫ちゃん、頼んだぞ」


「僕たちの希望を死なせないでくれ」



 希望か。俺なんて人の希望になったことがないのに、皮肉なものだな。



「俺みたいな人間が他人の希望になるわけがないよ」


「そんなことはない。俺達みたいな大人より、君達みたいな未来ある若者に生きて欲しい」



 生きて欲しいか。俺に生きる価値なんてあるのか?

 両親も死んでしまい、天涯孤独の俺が必要になることなんて本当にあるんだろうか。



「由姫ちゃん、山村君を頼む」


「君達が合流することは木内君達には既に伝えてある」


「どこに行けばいい?」


「3階の空き部屋だ。そこに木内君達がいる」



 良子さん達がいるってことは、桜達もいるのだろう。たぶんそこで日向の治療が行われているはずだ。



「私が先輩をそこまで連れて行けばいいのだな?」


「そうだ。頼んだぞ」



 由姫が俺に肩を貸す。由姫のつらそうな表情が印象的だった。



「由姫、もし心配ならやっぱり俺はのこ‥‥」


「今はみんなの行為に甘えよう。先輩」



 由姫に背負われ、俺は校舎へと行く。



「悪いが、そこの少年達は逃がさないぞ」


「おっと、お前達の相手は俺達だぜ」


「ここは何があっても絶対に通さない」



 田宮さん達のほかにも人が集まってくる。

 たぶん殆どの戦える大人を集めているのだろう。



「ちっ、雑魚共が。おとなしく逃げていればいいものを」


「悪いが、ここは通さないぞ!!」


「覚悟しろ!! 今度こそ倒してやるからな」


「仲間の仇!!」


「そんなに我と戦いたいのか。それなら相手をしてやろう。来い!! 雑魚共!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 後ろから大きな叫び声と剣と剣がぶつかる音が聞こえてくる。

 きっと甲冑騎士と大人達の戦闘が始まったのだろう。



「くそ‥‥‥」


「先輩、今は自分の心配だけをしていてくれ」


「わかった」



 由姫に背負われながら校舎内へと向かう。

 目指すは3階。悠里や桜達が待つ場所へと歩いていくのだった。

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