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複雑な気持ち

 あれから俺達は駐車場に戻り、春斗さんと合流した。

 その後、学校に戻り夕食の時間まで各自で行動している。



「まずい、どうしよう」



 ここまで帰ってくる途中、桜は俺と一切口を聞いてくれない。

 何か言おうとすると別の人に話題を振り、話をそらされてしまう。



「あれは絶対に怒っているよな」



 怒っているなんてものじゃない。あの状態の桜を俺は中々見たことがない。



「由姫は何とかするって言ってたけど心配だな」



 とはいいつつもこんな所でぼーっとしていてもしょうがない。

 既に夕食の時間なので、いつもの待ち合わせ場所に行かなくてはいけない。



「いた」



 あまりの怒りで約束を反故されているかと思っていたがそうではなかったらしい。

 いつも通りの様子で立っているので少しほっとした。



「悪い、遅れた」


「大丈夫ですよ。あたしも今来た所なので」



 よかった、桜はそんなに怒っていないみたいだ。

 きっと由姫がちゃんと桜を説得してくれたみたいだな。



「てっきり先輩が遅くなったのは由姫ちゃんと逢瀬でもしているからだと思いました」


「桜!?



 前言撤回、桜はものすごく怒っているらしい。

 俺には見向きもしないで、一人で先に歩いていく。



「待ってくれ。山での一件は仕方がなかったんだって」


「あんな嬉しそうに腕なんて組んでいて、いったい何が仕方がなかったんですかね」


「それは誤解だ!!」



 確かに緊張はしていたが、あれは偶然そうなってしまっただけだ。



「う~~ん、先輩も反省していることですし、今回は許してあげましょう」


「本当か?」


「まぁ、由姫ちゃんの説明を聞いていたらその説本当な気がしたので」


「それは霧に引っ張られたって話だろ?」


「そうです」



 そうか。たぶん由姫は桜にさっきの話をしたのだろう。

 霧の中で自分だけ別の場所に引っ張られた話を。



「由姫ちゃん、ああ見えて嘘だけは言わない子なので。信じました」


「そうか。ありがとう」


「でも、由姫ちゃんの体の感触を楽しんでいたことは許していませんよ」


「別に楽しんでいたわけではないからな」



 むしろ俺だってびっくりしたんだぞ。急に由姫があんなことをしてくるなんて。



「むしろ由姫があんな大胆な行動をするとは思わなかった」


「それだけ引っ張る力が強かったみたいですね」


「かもな」



 あの霧はスキルによってできたものに間違いない。

 やはり俺の思った通り、霧の主は俺達3人を分断させようとしたのだろう。



「今は考えていても仕方がありません。早くご飯を食べましょう」


「そうだな」



 ダイアテントで夕食をもらい、いつものテーブルに着く。

 テーブルには誰もいない。どうやら俺達が1番早いみたいだ。



「お疲れ様、空」


「ここ座っても大丈夫?」


「大丈夫だ」



 俺達の前に座るのは悠里と日向のいつものコンビ。

 食器に今日の夕食をのせ、俺達の前の席へと座る。



「それにしても、付き合って2日目で空が浮気するなんてね」


「ブフッ!?」


「しかも相手は桜ちゃんの親友の由姫ちゃんとするなんて、男の風上にもおけないわね」



 いきなり表れて何を言ってるんだ、悠里は。

 というか、悠里はその話を知っているのか?



「悠里は今日の話を知っているのか?」


「いや、なんのことかはわからないわ」


「そうか」


「ただちょっと空と由姫ちゃんが、まるでカップルかのように腕に体を絡み付けるようにしていたってことぐらいしか知らないわ」


「それは全部知ってるってことだろ!!」



 やっと桜の機嫌が良くなったと思った所なのに。悠里は話を蒸し返さないでほしい。



「一体その話は誰に聞いたんだ?」


「誰でもいいじゃない。女子の情報網は早くて広いのよ」



 それは今痛感している。まさか悠里にまでこの話が伝わっているとは思わなかった。



「それよりも桜ちゃん、今からでもいいからこのハーレム野郎との交際を考え直さない?」


「なんで? だってあれは事故だろ?」


「わかってないね、空は」


「日向?」


「全く日向君の言う通りよ」


「悠里まで日向に同意するのかよ!?」



 この中に俺の味方は誰もいないの!? 日向にまでため息をつかれた。



「よく考えてみてよ、空」


「何がだ?」


「空の言う通り前野さんとのことが事故だったとしても、桜ちゃんだってそう簡単に割り切れないよ」


「そうなのか?」


「全くあきれたわ。これだけ日向君に説明されても、貴方はまだわからないようね」


「大体言っていることはわかるよ。要は桜が俺達の行動に気を悪くしたってことだろ?」


「確かに結果的にはそうだけど、違うのよ」


「何が?」



 気を悪くしたってことでいいだろ? 現にさっき桜だって同じようなことを言っていた。



「全く話がわかっていない頭でっかちの空にもわかりやすく話すとね」


「頭でっかちで悪かったな」


「話の腰を折らないで。例えばだけど、貴方桜ちゃんが他の人と腕を組んで歩いていたらどう思う?」


「それはもやもやするよな?」



 桜がイケメンと楽しく話していただけでももやもやしたんだ。

 そんな現場を見た日には、もやもやどころでは収まらない。どうしてそうしていたのか、眠れなくなるだろう。



「そんな感情を今桜ちゃんは味わってるのよ」


「それは確かに嫌だな」


「もちろん事故だってことは理解してるわよ。だけど、結果だけを見れば空が自分と仲のいい親友と手をつないで歩いていたってことになるの。普通そんな状況を見てしまったら、もやもや所じゃすまないでしょ」



 確かにこれはまずいな。俺が桜が杉田と楽しそうに話していただけで嫉妬してしまったんだ。

 その感情を桜が味わっているとすれば申し訳ない。



「私から忠告だけど、女の子はいつも自分が特別な存在がいいって思うの。特に好きな女の子からからね」


「わかった」


「今の言葉、よく覚えておいたほうがいいわよ」


「心に刻んでおく」



 悠里は桜と目配せをする。

 あぁ、そうか。もしかすると桜は悠里に相談していたのかもしれない。

 だからさっきはあんなに簡単に俺のことを許したのか。



「桜、色々と気苦労をかけさせてすまない」


「別にあたしは寛大な心を持っているので、全然気にしてないです」



 気にしていないといいつつ、すっきりした顔をしていた。

 まるで自分が言いたかったことを、全部悠里に言ってもらったみたいだ。



「すまないが、ここは空いていないか?」


「別にいいですよ、由姫ちゃん」


「そしたらお邪魔する」



 俺の隣の席に座る由姫その顔は少し元気のないように見えた。



「話していたら張本人の登場ね」


「おい、悠里」


「別にいい。確かに私が先輩の腕を掴んでいたことは事実だからな」


「由姫ちゃん、あたしは別に気にしていないので元気出してください」


「いいのか?」


「あたしは由姫ちゃんのことを信じていますから」



 やけにあっさり仲直りする桜と由姫。俺の時とは大違いだ。



「そうよ。全てはそこにいる空が悪いんだから、由姫ちゃんが気にすることはないわ」


「おい!!」



 さすがにそれは言い過ぎじゃないか。確かに俺も反省しているけど、そんなに責めなくてもいいだろ。



「そういえば、由姫ちゃんはどうして空の腕を掴んだの?」


「うむ、それは霧に入ってからしばらくして、何かに引っ張られている感じがしたからだ」


「引っ張られる?」


「そうだ。最初は弱弱しかったのだが、気づくと強い力で引っ張られていた」


「それで先輩の腕にしがみついていたんですか?」


「そうだ」


「強い力で引っ張られる感覚か」



 俺達は感じなかったのに、由姫だけ感じた感覚。本当にそんなことあるのだろうか。



「桜はどうだった? そんな感覚を感じたか?」


「あたしは何も感じなかったです」


「やっぱりあの感覚は私だけだったのか」



 どうやら由姫はだけが変な感覚に襲われたらしい。

 何故由姫だけが霧の主に呼ばれたのか、それが気になった。



「もしかすると、前野さんだけがその霧の主に呼ばれたのかもね」


「そんなことはないと思うが‥‥‥」


「きっと霧の主は由姫ちゃんが好みだったんですかね」


「気味の悪いことを言わないでくれ、桜!?」



 俺達の間で笑いが漏れる。さっきまで殺伐としていたが、今は朗らかな空気で食事ができていた。



「結局結論は出ずか」



 誰かがスキルで作った霧の結界。結局あれの正体がなんなのかわからないままだ。



「空先輩、どうしたんですか?」


「何でもない。早く食べよう」


「変な空先輩ですね」



 結局謎が解けないまま俺達は食事を終えた。

 食事を終えた俺達はそれぞれバラバラに行動するのだった。


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