気持ちを伝えて
夕食を食べ終え、屋上に行くといつもの様に桜が待ち構えていた。
地面に座り、屋上から町の景色を眺めている。
「悪い、遅くなった」
「お疲れ様です、先輩」
地面を叩き、俺のことを呼ぶ桜。どうやら隣に座れということらしい
「早くこっちに来てください」
「わかった。今行く」
俺も桜の隣へと座る。桜の隣は町の景色を一望できた。
「いい景色だな」
「そうですね」
景色を見ながら、桜に聞きたい事を頭にまとめた。
由姫の事や杉田の事等桜には色々と聞きたいことがあったので、こうして2人でいれる時間は丁度いい。
「傷は大丈夫?」
「はい。悠里先輩が色々と特製のお薬を塗ってくれたので、大丈夫です」
「それならいい」
悠里特製の薬なら大丈夫だろう。むしろ色々ってことは、ここに来てから他の薬を作ったのか。
「そういえば、昨日桜が言っていたことがわかったよ」
「何がですか?」
「桜が由姫の話を聞けって言っていた理由だよ」
昨日の夜にされた由姫の話を聞けという忠告。由姫と話してみて、その意味がよくわかった。
「それはよかったです。どうでしたか? 由姫ちゃんとのお話は?」
「色々と衝撃的過ぎて、どうすればいいか考えている」
俺の騎士になりたいとか、2番目でいいとか由姫の言うことに色々とびっくりした。
その内容を全部桜が了承しているといっていたからなおの事驚いた。
「由姫の言っていた俺達の旅の仲間になるとか騎士になるって言う話を桜は了承したのか?」
「はい。別に断る意味もありませんでしたから」
なんでもないように桜はいっているが、それはそれで問題あるような気がしないでもないが。
「それに由姫ちゃんが旅の仲間になってくれるなら心づよいです」
「確かに心強いけど」
由姫の口ぶりからして、何かあれば桜に告げ口するつもりだろう。
監視の目が増えるのは歓迎されるものではない。
「俺としては複雑だな」
「えぇ~~、いいじゃないですか。由姫ちゃん、強いし可愛いですよ」
「強くて可愛いって事は俺も同意だ」
桜の言う通り、由姫は強いし容姿も完璧だ。
いささかつっけんどんな所もあるが、それも由姫の魅力と言ってもいいだろう。
「2番目でもいいって言ってくれたしな」
「何ですか? それ?」
桜の目が細くなり、冷たい目をしていた。
「(まずい、地雷を踏んだみたいだ)」
どうやら2番目の話を由姫はしていなかったらしい。
さて、困った。桜に対してどう言い訳しよう。
「由姫ちゃん、そんなこと言ってたんですか?」
「まぁ、話の最後にな。桜の次でいいからって」
その意味を最後まで話さなかったが、言わんとしていることはわかった。
最初は冷たい目をしていたが、やがて桜はため息をつく。
「空先輩は由姫ちゃんと付き合うんですか?」
「何でそうなるんだよ?」
由姫と付き合うなんて話は一切していない。
あくまで俺と一緒に行動したいって話しか俺は聞いていない。
「だって由姫ちゃん、恋する乙女のような目で先輩のこと話してましたから。告白していてもおかしくありません」
「なんだそりゃ!?」
「付き合ってないんですか?」
「当たり前だ」
いつ俺が付き合うって言った? むしろ一緒に行動する話だって俺は保留しているんだぞ。
由姫にそんなこと言われても正直困る。
「由姫には仲間になりたいって話も保留しているんだ。付き合うなんて話するわけないだろ?」
「仲間の話も保留なら、付き合うって話も保留してるんじゃないですか?」
「そんなわけないだろ」
たとえそんな話をされても、俺は間違いなく断る。由姫には悪いと思うが、間違いなく俺はそうしていただろう。
「でも、先輩いつの間にか由姫ちゃんのこと下の名前で呼んでいました」
「それは本人がそう呼べって言ったから呼んでいるだけだ。別に他意はない」
じゃなかったら俺は前野さん呼びのままだ。
むしろ下の名前を呼ばなかったら返事すらしてもらえなかったのでそうしているだけだ。
「本当にそうなんですか?」
「そうだ」
「本当の本当の本当ですよね?」
「当たり前だ」
一体どれだけ俺のことを疑ってるんだよ。
「それならいいですけど」
「そもそもの話、俺に彼女が出来るわけないだろ?」
「むぅ~~、先輩は知らないんですね?」
「何がだよ?」
「先輩って後輩の間では人気が高いんですよ」
「嘘!?」
「嘘です」
「何だよ」
ぬか喜びさせるな。俺にもモテ期が来たんじゃないかって、一瞬喜んでしまったじゃないか。
「でも、由姫ちゃんがあんなに先輩に懐くとは思いませんでした」
「あれが懐いてるっていうのかよ?」
「失礼ですね。由姫ちゃん、この学校の中で先輩だけは信頼できるって言ってましたよ」
「そんなこと言ってたのかよ?」
確かに由姫の今までの話を聞いた身としては、誰のことも信じられないっていう理由もわかる。
「俺は由姫に対して何もしていないぞ」
「そう思ってるのは先輩だけです」
「意味がわからない」
ともかく、由姫が俺のことを信頼しているってことはわかった。
なんで俺のことを心配しているのかはさっぱりわからないがな。
「そのせいで、あたしはとっても複雑です」
「複雑?」
「先輩の魅力に気づいてくれる人がいるのはすっごくうれしいです」
「それならうれしいってことでよくない?」
「だけど、先輩の魅力についてはあたしが知っていればよかったことなのですごく複雑です」
そう言う桜の声が小さくなる。機から見ると落ち込んでいるようにも見えた。
「桜」
「あたしは先輩が誰かに取られそうで凄く不安なんです」
「俺は誰にも取られないよ」
「でも、梓ちゃんも由姫ちゃんもみんな先輩の魅力に気づいています。2人に勝てるものなんてないあたしが、先輩と一緒にいてもいいか、凄く悩んでいます」
正直驚いた。桜でもそんな風に思うことがあるんだな。
そういった感情は俺みたいな本当に何もない奴が持つものだと思っていた。
「それは俺だって同じだよ」
「えっ?」
「桜が他の人と行動してるとき、誰かに取られるってずっと思ってた」
杉田や宮園達と楽しそうに話していた時、俺だって不安に狩られていた。
桜が他の人に取られるんじゃないかって不安は、いつでも俺に付きまとっている。
「何でですか!?」
「だって機から見ても俺と桜ってつりあわないじゃん」
「そんなことないですよ」
「あるよ。正直杉田達みたいなと格好よくて面白い人達と、桜は付き合った方がいいんじゃないかってずっと思ってた」
これはここに来た時からずっと思っていた。
正直俺は桜に対して嫉妬していた。
「空先輩」
「でも、こんな俺でも桜の側にいたいんだ」
桜と別グループなり別々に行動してわかった。桜にはずっと俺の側にいてほしいって強く思った。
「卒業式の日のこと、覚えてるか?」
「はい」
「もし、あの時から気持ちが変わってなければ、俺と付き合ってもらえないか?」
言った。ついに言ってしまった。緊張しすぎて、桜がどんな顔をしているか見ることができない。
「えっ?」
驚いた声が聞こえる。まだ桜の顔を見ることはできない。
「よかったらだから。別に断ってもらってもかまわない」
その瞬間、桜の顔を見た。隣にいた桜はいつの間にか目に大粒の涙が浮かべて俺のことを見ていた
「(あぁ、これは失敗したな)」
泣かせるつもりはなかったのに。大粒の涙を手の甲で拭っている。
「悪い、俺は別に泣かせるつもりはなかったんだ」
「ずるいですよ。空先輩は」
「ずるいって」
「あたしのセリフを先取りするんですから?」
「先取り?」
何を先取りしたって?
「あたしは空先輩のことがずっと好きなんです。こっちこそ、宜しくお願いします」
「本当に俺でいいの?」
「はい。先輩こそあたしで本当にいいんですか?」
「もちろん。俺の方こそ、宜しくお願いします」
その言葉を言った瞬間、体の力が抜けた。
緊張していて力が入っていた分、余計に力が抜けてしまう。
「何でそんなにほうけた顔をしてるんですか?」
「だって振られると思ってたから」
「あたしが先輩を振るわけないじゃないですか」
そういって俺の腕に桜が抱きついてくる。まるで俺に甘えるように。
「桜!?」
「もうあたし達は付き合ってるんですから、これぐらいは許してくれますよね?」
確かに付き合ってるのだから、こういうことをされても問題はない。
だが、単純に恥ずかしい。この姿を誰かに見られていたらどうするんだ?
「ちゃんと皆に言わないとダメですよね? まずはお母さんとお父さんに報告です」
「そんなに急がなくてもいいんじゃないか?」
「ダメですよ。お父さんとお母さんもあたしと先輩のことをずっと気にしてましたから」
春斗さんも良子さんも気にしていたって、まわりからはそんな目で見られていたのか。
確かに桜の家には行ったことあるが、あの2人までそんな風に思っていたらしい。
「まぁ、その辺はおいおい考えていこう」
「そうですね。今はゆっくりしましょう」
それから俺と桜はしばらく町並みを眺めていた。
その間、桜はずっと俺の腕にしがみつき中々離してくれなかった。
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