それぞれの思い
車から降りて校舎の方に向かう途中、いつもより校舎内外に行きかう人が多い気がした。
「なんかバタバタしてるようだな」
校舎からに出入りする人全てが皆慌てているように見えた。
「なんでこんなにバタバタしてるんだろう」
「たぶん杉田達の治療をしているからじゃないか?」
「そうか」
そういえば春斗さん達の方が先に学校についてるはずだ。
今頃保健室では悠里と良子さんが怪我人を治療している所か。
「全員無事だといいんですが?」
「大丈夫だろう。応急処置もしたんだからな」
簡単な手当てもしたし、全員命に別状はないだろう。
それに悠里が治療しているんだ。問題なんて起こるわけがない。
「私、保健室で様子を見てきます」
「わかった」
それだけ言い残すと五月と言われていた少女は保健室へと行ってしまう。
表情は曇っていたので、本気で杉田達のことが心配だったのだろう。
「俺達はどうしよか?」
「せっかくですから、どこかで休憩するのはどうでしょう」
「いいな」
2日連続でウォールベアーなんてモンスターと戦ったんだ。休めるのならどこかでゆっくり休みたい。
「じゃあ行きましょう。あたし、ゆっくり休める場所を知ってるので」
「それは助かるな」
「私も行くぞ」
「そうですね。由姫ちゃんも一緒に行きましょう」
「あっ!? 桜ちゃん」
「悠里先輩」
校舎前で救急箱を持っていた悠里がこちらへ近づいてきた。
その目は少し興っているようにも見えた。
「ちょっと貴方達、戻ってきてたの?」
「悠里」
「一体何があったの? 桜ちゃんのお父さんが帰ってきたと思ったら、別のグループの人達が怪我をして帰ってきて、何も事情が聞けてないのよ」
「春斗さんは何も言ってなかったの?」
「怪我人を運んだ後、そのまま会議に行ったわ。学ランの男の子を連れて」
「なるほどな」
こんなことがあったからリーダー同士で話し合いがもたれているのだろう。
八橋は状況を説明する為に呼ばれたみたいだ。
「八橋には悪いことしたな」
正直今回の件に殆ど関わっていないのに、状況説明までさせられている。
結果的に俺達よりも自由時間が少なくなってしまって申し訳ないな。
「別に大丈夫ですよ。リーダー会議に梓ちゃんもいると思いますから」
「それならいいんだけど」
梓と会いたがっていたし、ある意味これでよかったのか。
人が大勢いる中だけど梓と話すこともできるし、一石二鳥だろう。
「よくないわよ。状況を説明して」
「それはあたしから説明します」
「桜、いいの?」
「はい。元々あたし達のグループが起こした問題なので、説明させてください」
桜の口から事の状況の説明が始まった。ウォールベアーに襲われた経緯から俺達が助けに来るまで話を。
もちろん、八橋と戦った話とか小熊の話はぼかしてある。あくまで杉田達がなんで怪我をしたのかという話をした。
「そうだったの。大変だったわね」
「はい。でも空先輩と由姫ちゃんが助けてくれたのでなんとかなりました」
「本当に空って厄介事しか持ち込まないのね」
「俺のせいなの!?」
今回は俺全く関係ないだろ? むしろよく桜達を助けたって褒めてほしいけど。
「でも、よかった。桜ちゃん達が無事で。怪我は無い?」
「はい、あたしは大丈夫ですよ」
桜には怪我一つ無い。ここに到着するまでもずっと話していて、1番元気だった。
「前野さんは大丈夫?」
「私は多少切り傷があるが、命に別状は無い」
「傷?」
確かに由姫の体には至る所に傷がある。
昨日もそうだけど、ウォールベアー戦で由姫も何度か攻撃を受けた気がするからその傷だろう。
「ちょっと傷を見せてくれない? 傷に効く塗り薬があるから、それを塗ってあげる」
「別に、これぐらいの傷は平気なのだが」
「何を言ってるの? 女の子なんだから、傷なんて作っちゃダメでしょ!!」
珍しく悠里がヒートアップしている。
由姫の発言が火に油を注いだのだろう。由姫も驚いているように見えた。
「桜ちゃんは?」
「あたしも殆ど傷はありません」
「殆どじゃだめよ。少しでも傷が残ってるのは問題よ」
こういう所は悠里は神経質だ。肌とか美容とかそういうことに関しては人一倍口うるさいタイプだったか。
「保健室で見てあげるから行きましょう」
そう言ってと2人を連れて行こうとする悠里。
2人の腕を引っ張って保健室へと連れて行こうとする。
「あの悠里、俺は‥‥‥」
「空は大丈夫よ。傷は男の勲章だっていうし、気にしないでしょ?」
別に気にはしないけど、悠里は本当に薄情だな。特に俺に対して
「だって貴方がこうして立っていることは無事ってことでしょ?」
「でも、昨日と今日の戦いで俺も結構ボロボロになって‥‥‥」
「それは私がこの前渡した薬を塗れば大丈夫よ。追加でこれもあげるわ」
悠里から丸いプラスティック製の箱に入った塗り薬をもらった。
ストックも少なかったし、ありがたくもらっておこう。
「相変わらず悠里は俺にだけ適当だな」
「適当じゃないわよ。それなりの怪我をしたらちゃんと見てあげるわ」
「約束だぞ」
「えぇ、女に二言はないわ」
女に二言はないって、それは男がいうセリフだろ。
「空先輩、私達は悠里先輩と行ってきますね」
「また後で会おう」
「おう。気をつけてな」
3人が保健室の方に向かうのを俺は手を振り見送った。
「さて、これからどうしよう」
完全に俺1人になったな。行くあてもないし、これからどうしようか。
「あら!? 先輩、1人ボッチですか?」
「梓か」
校舎の外を歩いていた梓に今度は捕まってしまう。
「どうしたんだよ? 会議に出てたんじゃないのか?」
「それは丁度今終わりました」
「八橋は?」
「俊之は疲れたから休むって言って屋上に戻りましたけど」
やっぱりそうだよな。怪我人を運んだ後にリーダー会議にまで出席させられたんだ。
ウォールベアー戦の疲労もあるので、ゆっくり休みたいのだろう。
「やっぱりそうか。八橋も今日はかなり頑張ってたからな」
「別にこれぐらいどうってことないですよ。むしろ普段から人と話していないので、いいトレーニングになったと思います」
ものは言いようってことか。確かに普段殆ど話す事のない八橋にはいい経験になったかもな。
「そうだ。ちょうどよかった。八橋のことで梓に聞きたいことがある」
「俊之のことって、何ですか?」
「あいつが持ってるスキルの中に勇者ってスキルがあるらしいんだけど、何か聞いてないか?」
「それって、俊之が言っていたんですか?」
「そうだけど‥‥‥」
「もう俊之って肝心なことは話さないのに、余計なことは話すんだから」
「ということはそのスキルは本当に持ってるんだな?」
ぶつぶつと文句を言う梓。
嘆息する梓の様子からして、確実に八橋は勇者スキルを持っている。
「そうです。俊之は勇者スキルを保持しています」
「やっぱりそうか」
特別スキルは複数の人が所持できるスキルなのだろう。
もしかすると日向や八橋の他にも勇者候補になりそうな人が出てくる可能性もある。
「先輩がそんなことを聞くってことは、他にも勇者スキルを所持している人がいるってことですよね」
「まぁな」
梓相手にはぐらかしてもしょうがない。日向の名前を出さなければ別にいいだろう。
「びっくり。先輩は絶対にはぐらかすと思ったのに」
「はぐらかしてもしょうがないだろ?」
「それもそうですね。先輩はわかりやすいですから」
俺ってそんなにわかりやすいか。桜も同じ事を言っていた気がする。
「梓こそ、俺に何か話があるんじゃないか?」
「私じゃありませんが、先輩と話したい人がいます」
「話したい人?」
「俺だ」
校舎から出てきたのは杉田だった。怪我をした手の方には包帯が巻かれていて、首から包帯で手が吊るされている。
「怪我は大丈夫なのか?」
「この手以外は大丈夫です」
確かに杉田はあの中では1番怪我が軽かった。だからこうして動けるのだろう。
「で、何が聞きたいんだ?」
「木内のことで話があります」
「桜のこと?」
なんでここで桜の話が出てくるんだ?
「桜がどうしたんだ?」
「先輩は木内のことをどう思ってるんですか?」
「何でそんなことを聞くんだ?」
「それはもちろん、木内の為です」
「桜の?」
何でこの話が桜の為になるんだよ。意味がわからない。
「木内が学校でも人気があるのは、先輩も知ってますよね?」
「そうだな。確かに桜は人気者だ」
この学校に来た時も桜を見つけた瞬間、周りのクラスの人達に囲まれていた。
どれだけ学校で桜の存在が大きいか改めて認識した。
「だからこそ、木内がいつまでも気のない人と一緒にいてもいいのかなって思って」
「気がない? 俺が?」
「そうです。貴方は優柔不断で、ただ木内のことをもてあそんでるだけだ。それならもっと相応しい人が桜ちゃんと一緒になるべきだと思います」
なるほどな。杉田が言いたいことはわかった。
こいつは暗に桜に近づくなって言ってることか。
「悪いが、その願いは聞けないな」
「貴方のせいで木内が不幸になったとしてもいいんですか?」
「あいつは不幸にならないよ」
だって、俺が桜の側にいるんだから。
「先輩はずいぶん自信があるみたいですね」
「自信なんてない。むしろ俺が桜に幸せにしてもらってるからな」
いつも俺にくっつくようにして一緒にいた桜。その時間はなんだかんだいって、凄く楽しかった。
「いいますね。木内がどう思ってるかわからないのに」
「そりゃ人の気持ちなんてわかるわけないだろ?」
それはここにいても同じだ。なんだかんだいって、俺は桜と一緒にいる時が1番楽しかったんだ。
「空先輩、変わりましたね」
「変わった? 俺が?」
「はい」
八橋にも同じ事を言われたが、俺は全く変わっていないぞ。
「それは気のせいじゃないか?」
「黒川の言うとおりだと思います。昔の先輩はもっと冷酷でしたから」
「冷酷ね」
そうだったんだろうな。昔は1人で何でもやっていたし、そう思われても仕方がない。
「ただその分甘くなりましたね。それで本当に大切なものを守れると思いますか?」
「自分が守りたいものぐらいちゃんと守るよ」
桜のことは俺が守る。昔そう誓ったからな。
「杉田は自分が桜に相応しいと思ってるんだな」
「はい。少なくとも山村先輩よりは相応しいと思います」
杉田は自信家だな。でも、杉田もクラスの人気者で周りからの信頼も厚い。
きっとそれが杉田の自信を支えているんだろう。
「杉田は桜のことが好きなのか?」
「はい。ふらふらしている山村先輩とは違います」
ふらふらしているか。確かにそう言われてもしょうがないな。
「山村先輩は木内のことをどう思ってますか?」
「俺も桜の事が好きだよ」
その気持ちは今でも変わらない。それだけははっきり言える。
「山村先輩のことはわかりました」
「戻るのか?」
「はい。その話が聞けただけで満足です」
それっきり興味がなくなったのか、杉田がどこかへ行ってしまう。
それを俺も追わない。そのまま見届けた。
「空先輩は凄いですね」
「何が凄いんだ?」
「だってあんなにはっきりと桜ちゃんのことを好きって言うんですから」
うれしそうに笑う梓。俺がはっきりと桜の話をしたせいかうれしそうだ。
「まぁ、桜のことだからな」
「さっきのセリフ、直接桜ちゃんに言ってくださいね」
「わかってる。だけど今のセリフは桜には言うなよ」
「わかってます。でも、その代わり早めに桜ちゃんに言ってあげてくださいね」
梓が何故杉田をここに連れてきたのか、その理由がここに集約されている気がする。
杉田に先を越される前に早く桜に告白しろっていう、梓なりのエールなのだろう。
「梓の気持ちはよくわかった」
「う~~ん、何の話ですか?」
「惚けなくてもいい」
「そういえば、そろそろご飯の時間ですね」
梓に話をはぐらかされた。
気づけばダイアテントの前に人が並んでいる。確かにそろそろ夕食の時間か。
「俺は桜と一緒に行くから、先に並んでいてくれ」
「わかりました」
楽しそうに笑う梓と別れ、俺は保健室へと向かう。
この時俺はある決意秘め、桜を迎えに行くのだった。
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