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戦う意味

「どうやら倒したようだな」」



 上半身と下半身が分かれたウォールベアーの亡骸を見ながら一息つく。

 氷の魔法に苦戦したが、何とか倒すことが出来た。



「やりましたね」


「無事に倒せてよかった」



 隣にいる由姫や桜も安堵の表情を浮かべていた。



「そうだよな。俺達は4体のウォールベアーを相手に戦っていたんだよな」



 1体でも苦戦する敵なのに4体も相手にしていたんだ。2人がほっとする気持ちもわかる。



「とりあえず、倒せてよかった」



 正直桜と由姫に大きな怪我もなくてよかった。



「それにしても先輩と由姫ちゃんはよく私達のいる場所がわかりましたね」


「全部由姫のおかげだ」



 由姫のスキルがなければ、桜達を発見することが出来なかった。

 これも由姫の地形把握スキルのおかげだ。



「私は何もしていない。声がする方に行っただけだ」


「そうなんですね。でも、ありがとうございます。あたしのことを見つけてくれて」



 何も言わないが由姫は照れているように見える。桜からそむけた顔が、少しだけ朱に染まっていた。



「とにかく全員が無事でよかった」


「はい、空先輩もありがとうございます」



 戦闘できる奴が3人。その内俺と桜はパーティーを組んでいた。

 だからだろうか、予想以上に連携が上手くいった。

 連携というよりは、桜と由姫の火力でなんとかなった感じだけどな。



「それにしても、何で桜はそんなに強くなったんだ?」



 ゴブリンキングと戦った時と比べて、急激に能力が上がってる。

 昔の桜はウォールベアー1体を相手にするだけで精一杯だったはずだが、今回は2体を相手に平気な顔をして戦っていた。

 桜が何故急に強くなったのか、その理由がわからない。



「それはあたしもわからないです」


「わからないのか?」


「はい。さっきも言いましたけど、空先輩が近くにいると力が湧いてくるんです」


「力か」


「はい。先輩が近くにいるのといないのとで、力の出力具合が違います」



 俺がいるといないとで力の出力具合が変わるのか。

 嘘だと思いたいが、桜を見ている限り全く嘘のようには見えない。



「俺がいる時といない時で、力の出力が違うのか」


「もしかして、パーティー機能が関係しているんですか?」



 パーティー機能。昨日俺と桜の間で交わした契約。

 桜の話では俺のパーティー機能だけ他のものと違うらしい。



「俺のパーティー機能には誰の名前も載ってなかったのも、もしかしたらそれが関係している可能性もあるのか?」



 あの申請欄には当初は何も表示されていなかった。

 もしかすると俺のパーティー機能が特別だから、申請できる人も限られている可能性がある。



「まぁ、そういう詮索をするのはやめておこう。せっかくウォールベアーを倒したんだから、早くここを離脱しよう」


「そうだな」


「それに杉田君達の怪我の具合も心配です」


「確かにな」



 手当てをしたので、大丈夫だと思うけどここに残り続ける意味はない。



「よし、まずは怪我人を連れて下に降りよう」


「はい」


「待て先輩、何か声が聞こえないか?」


「声?」



 声というよりは鳴き声? 確かにウォールベアーの亡骸の後ろから唸るよう鳴き声が聞こえてきた。



「ここに来てまたモンスターか」


「由姫、ちょっと待て」


「先輩!? 何故止める!?」


「襲い掛かってこないんだ。少し様子をみよう」


「わかった」



 由姫は引き下がってくれたが、正直俺も気になる。



「もしかして、別のウォールベアーがいるんじゃないですか?」


「それなら私が見てこよう」


「待て、由姫。俺が見てくる」


「先輩!?」


「大丈夫だ。桜と由姫はそこにいてくれ」



 もしウォールベアーの残党だったら、様子だけを見てくればいい。

 気配遮断のスキルもあるので、2人より危険は少ない。



「気をつけてくださいね」


「任せとけ」



 心配する桜の声援を受けて、恐る恐る茂みの中に入っていく。

 茂みの中を覗くと、そこにはウォールベアーがいた。



「確かにこれはウォールベアーだけど、これは‥‥‥」



 確かにウォールベアーがいるんだ。だけど先程のウォールベアーとサイズが違う。

 体長30cmぐらいの子供のウォールベアーが2匹。じゃれて遊んでいるのだった。



「もしかしてあのウォールベアーは、この子熊達を守っていたのか」



 だからあんなに必死に戦っていたのか。集団で戦っていたのは、この子熊達を守っていたからなんだな。



「俺達がしたことは間違っていたのか?」



 最後に戦ったあのウォールベアーはもしかするとこの子熊の母親だったのだろう。

 あのウォールベアー達も、俺達に襲われていると思って必死に戦っていたのかもしれない。



「つまり、俺達が戦っていた理由は同じだったってことか」



 自ら降りかかる火の粉を払う為に戦う。俺達とウォールベアーの目的は同じだったってことだ。



「先輩!? どうしたんですか?」


「ウォールベアーの残党がまだいたのか?」


「いや、違う」


「それじゃあ一体どうして‥‥‥あっ!? クマちゃんです」


「本当だ。可愛いな」



 俺のことそっちのけで、桜と由姫も茂みの中でじゃれあっている子熊達のことを見ていた。



「可愛いですね」


「子熊達のこういうところを見ていると、なんか和んでしまうな」


「確かにそうだな」



 無邪気に遊ぶ子熊を見るだけで癒される。

 今までの戦いが嘘のようだ。



「先輩、浮かない顔をしていますがどうしたんですか?」


「別に、なんでもない」


「いいたいことがあるなら言った方がいい」


「由姫」


「そうですよ。由姫ちゃんの言うとおりです」


「桜まで!?」


「さぁ、言うのだ。先輩」


「白状してください」



 ここまで迫られたら言うしかないのか。この2人なら、少しぐらい愚痴っても大丈夫か。



「たいしたことじゃないけど‥‥‥」


「はい」


「この子熊達を見ていると、俺達がモンスターと戦うことが本当に正しいのかわからなくなるな」



 ゴブリンの兄妹にしろ、この子熊にしろ、それを守るために仲間達は皆必死に戦ってきたんだ。

 俺達は自分達の身を守る為に戦ってきたが、それはモンスター達も一緒なんじゃないか? そう思ってしまう。



「何を言っている? 先輩は何も悪いことはしていない」


「そうですよ。あたし達は自分達に降りかかる火の粉を振り払っただけです」


「桜の言う通りだ、戦う意思のない相手と戦うことは私も反対だが、そうでない相手に対しては容赦する必要ない」


「確かにそうだな。由姫達のいう通りだ」



 モンスター達だって自分の為にと戦ってるんだ。俺達も自分にかかる火の粉だけを払っていけばいい。

 戦う意思のない相手とは別に戦う必要はないだろう。



「んっ? 桜は何で笑ってるんだよ」


「いえ、ちょっとうれしいことがありまして」


「うれしいこと?」


「そうです。空先輩も変わってくれたんだなって思うとうれしくて」


「なんだそりゃ?」



 桜が言いたいことがよくわからない。笑顔を絶やさない桜は子熊達がじゃれあっている姿をじーっと見ていた。



「先輩!」


「何だよ?」


「この子熊達、可愛いですね」


「だな」


「なんとかペットに出来ないものかな」



 3人で子熊を眺め続ける。じゃれあいから、2人でくるくると回り追いかけっこをしている子熊に癒されていた。



「この子熊達、どうしようか?」


「私達で保護をするのはどうだ?」


「賛成です」



 俺達の間で和やかな雰囲気が流れていた。

 だから気づかなかった。後ろから襲ってくる脅威に。



「はっ!?」



 上半身と下半身を一刀両断されたウォールベアーがまだ動いていた。

 しかもすぐ後ろまで迫っている。



「何で気づかなかったんだ」



 通常モンスターは倒されると消滅してしまう。

 それが消滅しないということは、まだ息があるということだ。



「先輩、どうしたんですか?」


「桜!! 危ない!!」


「えっ!?」



 ウォールベアーが右手を振るう。その長い爪で、桜を切り裂こうとしていた。



「桜」



 くそ!! 避けられない。それなら俺が盾になるしかない



「先輩!?」


「くっ!!」



 桜を突き飛ばし、ウォールベアーの爪の前に立つ。

 ウォールベアーの爪が、もう少しで俺の近くまで届く。



「グォォォォォ!?」


「何だ!?」



 爪が届く直前、その腕があさっての方向に飛んでいく。

 ウォールベアーも自分の腕が切り落とされると思っていなかったのか、驚いているように見えた。



「今、何が起こった?」


「お前達は甘いんだよ」



 黒い学ランを来た髪の長い少年がウォールベアーの前に剣を持って立っていた。

 その剣をウォールベアーの頭に刺し、ウォールベアーは光の粒子となり消滅していく。



「お前は‥‥‥」


「八橋君!?」


「声がすると思って来てみれば、先輩達だったのか」



 八橋が俺達の前に立っていた。持っていた長剣を地面から抜き、鞘へとしまう。



「悪い助かった」


「困ってる人を助けるのは当たり前だ。だって俺は‥‥‥‥」



 一瞬間をおいた後、はっきりと大きな声で俺達に告げる。



「勇者だから」



 衝撃的なそのセリフ。そのセリフは俺の幼馴染が言ったセリフだ。

 日向以外に勇者がいる。その事実が信じられなかった。

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