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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第八章 ムルタブス事変編

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第九十八話 土下座

 ――ムルタブス神皇国皇都セスオワから少し北西の町キンブイ。


 湾を擁しているこの港町は先日のタンガラ沖の一件で潰滅してしまったムルタブス海軍の根拠地である。


 ここの外れに巨大な倉庫然とした建物が並んでいた。

 そこに近くの山から切り出された硬質岩が四六時中大型の荷馬車で運び込まれている。


 建物の中では聖魔兵が生産されていた。

 その作業に当たっている粗末な身なりの者たちは皆ガラフデから連れてこられた奴隷たちだ。

 本来奴隷の使用は禁止されているムルタブスだが、裏では平然と奴隷が輸入され、主に隷属の首輪の作成に従事させられていた。

 改革派によって隷属の首輪の生産が止められた今、その施設を拡充して聖魔兵の生産に使われている。

 彼ら奴隷の首にはかつて自分達が作っていた隷属の首輪が嵌められていた。


「いやいや、聖魔兵の量産は順調のようですなぁ」


 仰々しい身振りでドンギヴがペルドに言った。


「いや、これもドンギヴ殿の魔水薬のお陰だ。あれが無ければ聖魔兵はこうも量産できなかった」


 初期の聖魔兵はガラフデから極秘に連れて来た一般奴隷に魔紋を彫らせていたのだが、失敗も多く、余りにも手間が掛かっていた。


 そこに現れたのがドンギヴだった。

 彼の提案した隷属の首輪の量産計画をそのまま聖魔兵に使う魔導核に流用したのだ。


 円盤状に切磨した魔石に魔紋を掘り抜いた銅板を当て、魔水薬に漬けると魔紋が魔石に彫り込まれる。

 電子基板の作製に使われるいわゆるエッチングという技術だ。

 彫り込まれた魔石を重ね合わせて更には別種の魔水薬に漬け込み溶融させることで魔導核が出来上がる。


 これを胴体と頭部に仕込むことにより聖魔兵は完成する。


「いや、素晴らしいのはペルド様のお知恵で御座います。これ程の発想の持ち主は我が故国にもおりませぬ」


「うん、この聖魔兵があれば帝国はおろか世界すら恐れることは無いだろうな」


「左様でございまするな」


「それで例の物の手配はどうなっている?」


「勿論、届いておりますですよ。お父上の頼まれ物と一緒に昨日の船で」


 ガランとした湾内に五隻の大型船が停泊し、小舟が行き交っている。

 乗っているのは襤褸布を被った者達と大型の木箱が多数。

 ドンギヴが呼び寄せた傭兵団と兵器群だ。



「そうか。あれがあればこいつらも完成だ」


 そう言ってペルドが見上げたのは二体の聖魔兵。

 だが他の物とは一回り大きく、体つきも細い。

 大きさを除けばダイゴのゴーレム兵に近い体格をしていた。


「おややぁ、これはまた随分と頼もしそうですな」


「魔石の容量も増やしたし、駆動部にも魔石を仕込んである。一般の聖魔兵に比べて動きはかなり流暢になってるはずだ」


 普段は口数の少ないペルドだが聖魔兵の事となると饒舌になる。


「いやはや、ペルド様の探究心には頭の下がる思いです」


 頭を下げてドンギヴが送る賛辞を上の空で聞きながらペルドは各部を入念に見ていた。

 ドンギヴの白い歯がこぼれたのにも気付かずに。



 その頃、皇都セスオワは大激震に見舞われていた。


 聖殿に朝餉を運んできた巫女が刺殺されたアラルメイル神皇猊下を発見したのだ。

 直ちに聖殿は神聖騎士団によって封鎖され、保守派の三神官とアマド・ファギが駆けつけた。


 改革派の面々が捕縛された今、隠居して神官の地位に無いアマドが堂々と聖殿に入るのを咎める者などいなかった。


「何ともお痛ましい……」


 寝台に横たわるアラルメイルの亡骸を見てアマドは沈痛な面持ちで言った。


「一体何者が……」


「これよ。これはカナル卿の短剣」


 何も知らない司祭の問いにカナルの短剣を見せてアマドは答える。


「で、では……」


「恐らくはカナル卿の意を汲んだ者の仕業。必ずや捉えて処罰してくれよう」


 傍付きの巫女の話では最後にこの聖殿を訪れたのはクペル卿だと言う。


「うむ、クペル卿はカナル卿と最近つとに接触する機が多かったと聞く。この場にもおらぬし直ちに騎士団長に命じ捕縛させよ」


「こ、この様な事態……一体如何にすれば……」


 狼狽える傍付きの司祭達にアマドは重く静かに言った。


「斯様な事態、無役なれどもこの儂が預からせて貰う」


 その場の誰もが無言。

 続いて本来入れないはずの保守派の司祭達が続々と入って来る。

 全てはアマドの指示。

 だがもはやこの場にアマドの振る舞いを咎める者などいなかった。



「棺を用意せよ。直ちに国葬の準備を」


 即座に配下の司祭達にアマドは指示を出す。


 長年、懸命に敬い奉った儂を罷免した。これがその報いですぞ……。


 アマドは腹の中で寝台に横たわるアラルメイルに毒づいた。


 アマドも敬虔なラモ教徒であり、アラルメイルを敬う気持ちは他の神官には負けない自負があった。

 その為に、神皇猊下の御為に他国の女王を拉致までした。

 だがその結果神官の地位を追われた。


 長年の敬愛を無下にされた時、その思いはどす黒い野望に変わった。


 ラモ教の神皇は代替わりの際には神より新たな神皇の名が啓示される。

 それは決して神官や司祭と言う事は無く、何のゆかりも無い農民であったりする。

 実際アラルメイルも一介の漁師だった。


 勿論アマドにはそんな何処の馬の骨とも分らぬものに仕える気などない。

 ならば自分が神の啓示が有ろうが無かろうが新たな神皇となるのが必然と思うようになった。


「カナル卿やジャランチ卿をその時に殉死させてやろう。それが彼等のせめてもの罪滅ぼしだ」


 あくまでも沈痛な表情のまま、心中では盛大にせせら笑いながらアマドは言った。


 後はあの忌々しいボーガベル……。


 ウルマイヤを奪われたのは痛いがまだ手はある……。


 後は聖魔兵とドンギヴに手配させた者が到着すれば……。


「シャムラを呼べ!」


 そのままアマドは配下の司祭に命じた。

 その姿は既にこの聖殿の主になったかのように。






 ――ガラフデ王国王都タンガラ、ゴラフ宮殿。


 ムルタブスの艦隊を退けたダイゴ達はシダド国王達から昼餉の歓待を受けていた。


「いやぁやっぱムルタブスの魚は美味いわ」


 ダイゴ達は目の前に並んだ海の幸に舌鼓を打つ。


「でも苦労したんだぜ。あの戦いがあった辺りは残骸やら何やらで一杯だったから漁師は遠出して獲ってきたんだ」


 胸を張りながらショモレクが言った。


「こ、これショモレク! 恐れ多くも皇帝陛下に向かって……」


 タメ口をきいてるショモレクを慌ててシダド国王が窘める。


「ああ、良いって良いって」


 ダイゴは刺身を頬張りながら手を振った。


「し、しかし……」


「父上、ダイゴ帝は本当に話の分かるヤツ……じゃなかったお方だ。返す返すも婚礼に来てもらえなかったのが残念だったぜ」


「結局アレはシャムラ大臣の独断だったって事で良いんだな?」


「は、はい……しかし、それを止める事が出来なかったのは国王たる私の不徳……」


「うん、もうあの件はいいよ。なぁエルメリア?」


「はい、寧ろ貴重な体験をさせていただきましたわ」


「ははぁっ、女王様のご厚情……」


「いいっていいって。さて問題はムルタブスが何時仕掛けてくるかだな」


「恐らくアマド・ファギは自身が新神皇に即位する儀をアラルメイル猊下の国葬と共に行うでしょう」


 貝を頬張りながらセイミアが言う。


「勿論カナル・セスト卿の処刑も込みでだな」


 ダイゴがそう言った途端、その脇に座っていたウルマイヤの表情が険しくなる。


「心配するな。ちゃんと無事に助けるって」


 剥いた蟹をウルマイヤの口に突っ込みながらダイゴが言った。


「はふぃ、ウルミャイヤふぁダイゴ様をひんじてふぉります」


 そう言ってウルマイヤは潤んだ瞳を向けた。


「いや、せめて飲み込んでから喋ろうな?」


「もむもむ……すみません」


「ふぁふぇふぉふぉひふぉふぁふびぶんひふぁうひょう」


 リスのように頬を膨らませたソルディアナがどうやら、


「我の時とは随分違うのう」


 と言ってるようだった。


「お前は詰め込み過ぎだ! 喉詰まらせるぞ?」


「ほんなほごっ! ごっごごごっ!」


 そんな事と言おうとしたソルディアナの顔が紫に変わり、脇にあった酒の大びんをラッパ飲みする。


 それを見ていたショモレクが唖然としている。


「い、いや、なんつーか凄ぇなぁ、この嬢ちゃん」


「まぁあんま気にしないでくれ」


 ダイゴは面倒臭そうに手を振った。


「そうか……それでムルタブスは何時仕掛けてくるんだ?」


「そうだなぁ……アマドのヒヒジジイが神皇即位の儀をやる頃合かな」


「時期的にはその直前に急襲してくると思われます」


「そうなのか? 奴が即位してからと思ってたが」


「アマド・ファギの性格からしてその裏を掻いてくるでしょう。最低でもタンガラを占拠して停戦に持ち込むつもりですわ」


「で、聖魔兵とやらのお出ましと言う訳か」


「ムルタブスが何を根拠に我が軍のゴーレム兵を退けられる自信があるのかは不明ですが、陸上戦なら十分勝機があると踏んでいるのでしょう」


「で、戦場の選定は終わってるんだな」


「はい。国境から少し引いた田園地帯で待ち受けます」


「おし、ボーガベル側国境は?」


「二か所の国境には既にガラノッサ候の第二軍とレノクロマの第三軍が配備されています。ですがこちら側に兵を差し向ける余裕はまずないでしょう」


「だろうな、まぁ万が一って事があるから」


「重々承知してますわ」



「国王陛下! ……うっ」


 騒々しく入って来たのは先だっての騒動で門ごと吹き飛ばされたガタイの良い衛兵だった。

 ダイゴを見るなり言葉に詰まる。


「どうした。賓客の饗応中だぞ?」


「は、はぁっ! たった今ムルタブスより正式の使者と名乗る者が、陛下への謁見を求めておりまして」


「へぇ、問答無用で追い返したりしないんだな」


 ダイゴが意地悪な言葉を投げかけるが衛兵は答える事は出来ない。


「ムルタブスからの? 一体何者だ」


「そ、それが……」


「なんじゃ、はっきり申してみよ」


「シャ、シャムラ元大臣であります」


「なんじゃと!」


「あの野郎! どの面下げて!」


 ショモレクが怒りを露にして席を立った。

 そのまま斬り捨てに向かわんばかりの勢いだ。


「待て、ショモレク! 仮にも正式な使者として来たのなら会わねばなるまい」


「し、しかし父上、アイツは……」


「うむ、大胆と言えば大胆。恥知らずと言えば恥知らず……一体」


「一応俺達は居ないって事で宜しく」


 ダイゴが蟹の爪でブイサインを出して言った。


「わ、分かりました。少々お待ちを……」


 そう言って出て行ったシダド国王たちにダイゴは偵察型擬似生物のネズミを付けさせた。




「シャムラ! 貴様一体何のつもりだ!」


 謁見の間で平伏しているシャムラを見るなりシダドは叫んだ。


「ははぁ! お、お控えなされい! 今の私はムルタブス神皇国次期神皇猊下、アマド・ファギ様の名代でありますぞ! 図が高いですぞ!」


「な!? は、ははぁっ!」


 そう聞いたシダド国王が反射的に土下座する。

 二人が土下座している異様な光景が偵察型疑似生物から送られてきて


「なんじゃこりゃ」


 ダイゴが思わず口に漏らしてしまった。


「父上!」


 脇にいたショモレクの一喝で我に返るシダド。


「はっ! ウホン、それで如何なる用か」


 立ち上がり玉座に座りシャムラに問うた。


「ははぁっ! アマド様はアラルメイル神皇猊下崩御に伴い一旦両国の諍いを停止したいと、停戦の勧告であります」


「ははぁっ! 停戦の勧告とな。一方的に軍船を嗾けて来たのはムルタブスではないか」


 結局また土下座するシダド国王。

 ショモレクは顔を覆った。


「ははぁっ! それはガラフデがアマド様のご意向に従わなかったからであります!」



「ははぁっ! あのような意向が飲める訳なかろう」


「ははぁっ! アマド様は寛容にも停戦の条件にボーガベル軍を撤退せよと申しております!」


「ははぁっ! ボーガベルは今や我が国の友邦。撤退などあり得ぬ」


「ははぁっ! ではムルタブスの怒りによりガラフデは滅亡することになりましょうぞ」


「ははぁっ! 戯れ言はそれだけか。本来ならこの場で斬って捨てる所だが正式な使者なればこの場から去ねい!」


「ははぁっ! 後悔なされませんように! ではこれにて!」


 そう言ってシャムラ元大臣は土下座のまま去っていった。


「父上!」


「ぬう、シャムラめ、まさかアマド・ファギの犬になり下がっているとは……」


 漸く立ち上がったシダドはシャムラの去った方を見て吐き捨てた。


「はぁ……」


 ショモレクはため息をついた。


 シダドの腰の低さはもはや無意識の為せる業だ。

 普通ならこの腰の低さは君主としては失格だ。


 幼いころから自分の父親がムルタブスやエドラキム、バッフェと言った強国の使者に媚び諂う父王にショモレクは嫌悪の目を向けていた。


 その為に所謂「グレて」いた時期もある。

 口の端々に出る荒い口調はその頃の名残りだ。


 だがシオネアを娶る頃になって漸く大国の狭間で国を護るシダドの気持ちが分ってきた。


 だがそれでも頭を下げ過ぎだ……。


 かつての臣下にすら頭を下げてどうするんだ……。


 それさえ無ければ政事も非の打ち所がないとショモレクは思っている。


「いや、面白いもんみせてもらったわ」


 いつの間にかカニを頬張りながらダイゴがいた。


「こ、これはお見苦しい所を……」


「流石に元臣下にまで土下座は無いだろ」


「しかし、相手は停戦の使者……」


「んなモン単なる時間稼ぎか、虚仮脅しだろ。向こうはやる気満々だぞ」


「で、では……」


「さっきも言ったけどこっちの準備は全て完了している。まぁ安心してくれ。それじゃごっそさん」


 そう言ってダイゴは手を振ると掻き消えた。


「ショモレクよ」


 ダイゴが消えた所を見ながらシダドが呟いた。


「何でしょう父上」


「ダイゴ帝は一体何者なのだろうな」


「と、仰いますと?」


「ムルタブスとの因習を断ち、ボーガベルと組する。だがボーガベルがムルタブスの如くになるやもしれん。いや、場合によってはそれ以上の……」


「それは無いでしょう」


「なぜそう言い切れる?」


「あれだけの兵を持ち、あれだけの力を持つのに失礼な事ですがダイゴ帝は全く皇帝、いや強者らしくない。ある意味父上より腰が低いのです」


「何と……」


「あれは恐らく真の覇者の風格なのかもしれません。私は彼になら国の行く末を預けても良いと思いさえします」


「ふうむ……」


 二人はダイゴがいるであろう海上に浮かぶアジュナ・ボーガベルを見ていた。


 深夜。


 優しくさすられてダイゴは目を覚ました。


 アジュナ・ボーガベルの寝室。

 夜明け間近で誰もが眠っている時間だ。


 さすっているのはエルメリア。

 見るとクフュラの隣で寝ていたウルマイヤがいない。


「む……」


 頭を掻きながら上半身を起こすと既にワン子がガウンを持って待っていた。



 展望ラウンジにウルマイヤはいた。

 遠くガラフデの海の向こう、ムルタブスの方を見ていた。


「あ……ダイゴ様」


「眠れなかったのか?」


「申し訳ありません……」


「謝る事じゃないよ」


「色々考えると目が冴えてしまって……」


「カナル卿の事か?」


「はい……」


「大丈夫だ。ちゃんと無事に助け出す。信じろって言ったろ?」


「はい、勿論です。ただ……」


 ウルマイヤは俯いた。


「自分のしでかした事がってか? あれは仕方ないだろ? 本当のお前じゃ無かったんだから」


「違うんです……」


「ん?」


「あれも私なんです。あの……冷酷で……残忍で……狡猾なウルマイヤも私なんです」


 無理に微笑んだウルマイヤの目から涙がこぼれ落ちた。


「ウルマイヤ……」


「あのドンギヴという男に飲ませられた魔水薬で私はアマド・ファギに忠実に仕えろと吹き込まれました。それだけで、私はダイゴ様に罵詈雑言を浴びせ、和平の話し合いを台無しにし、お父様や……他の神官様達も……」


「……」


「私の母も巫女姫だったのですが、厳しい修行を経ても復活魔法が使えず、その時の無理がたたって私を産むと直ぐに亡くなりました。だから私はお父様や神皇猊下、何より命懸けで私を産んでくれたお母様のために復活魔法が使える巫女姫になったんです」


「そうか……」


「お母様が願っていたという、猊下のみならず万民の命を一人でも多く救いたいと……でも、でも! 本当の私はあんな! 冷酷で無慈悲な女なんです! 多くの人を戦争に巻き込んでしまった! うっ……ううううっ……」


「ウルマイヤ……」


 ダイゴは嗚咽を漏らすウルマイヤを抱きしめた。


「ダイゴ様はお優しいです……大好きです……でも、私は……これからどうすれば良いのでしょう……」


「逆にお前はどうしたいんだ?」


「私は……願わくば皆の命を救いたい……そして……そして……」


 ブルブルと震えたウルマイヤが、


「私を使ってダイゴ様に非道な仕打ちをしたアマド・ファギをこの手で……」


 今までに見せた事のない表情でそう言ってハッとした。


「私……わたし……やはり……」


 その声が怯えるように震えた。


「いいんだよ、ウルマイヤ。俺は完璧に清廉潔白な人間なんていやぁしないと思ってる」


「ダイゴ様……」


「人間は黒いところあって然り。前に倒したエドラキムの皇帝も似たような事言ってたっけ」


「そうなんですか……」


「そこで一つの選択だ。俺はお前に人を救い、人を打ち倒す能力を与えることが出来る。だが、その代償は俺の僕となって永遠に付き合って貰うことになる。そして子供も産む事が出来なくなる」


「眷属……ですね。クフュラさんから聞きました」


「無理強いするつもりは無い。人は人としての生を全うした方が幸せと思うからな」


 ウルマイヤは微笑みながら首を振った。


「ダイゴ様……ウルマイヤはダイゴ様に身をお委ねした時から……いえ、あの日初めてお会いした時から生涯お仕えすると決めておりました。それがウルマイヤにとっての一番の幸せなのです。だから……どうか……」


「……分かった」


「ああ、神よ! 感謝致します!」


 この時ダイゴは重大な勘違いをした。

 ウルマイヤの言っていた「神」がラモ教の主神だと思っていた。


 ああ、ああ、感謝します……ウルマイヤだけのかみ……ダイゴ……さま……。


 吹き荒れる快感の荒波に翻弄されながらウルマイヤは自身が信奉する新たな神の名を心の中で呼び続けていた。


 こうしてまた一人新たな眷属が誕生した。

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― 新着の感想 ―
[一言] またまた一人、眷属が増えましたね。 一体どれだけ増えるのでしょう……。 それはともかく、アマドの行いがヒートアップしてきました。ウルマイヤを救い出せたものの、教皇は暗殺されてしまいましたし…
2022/11/18 22:20 退会済み
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