第九十七話 おかえり
ムルタブス皇国皇都セスオワ中央神殿。
その最奥にある聖殿にアラルメイル神皇はいた。
彼はここ数日カナル・セスト卿やジャランチ・パルモ卿が姿を見せない事でセスオワに異変が起こっていることは察していた。
だが、アラルメイルにはどうする事も出来ない。
唯一彼が動かせるのは改革派筆頭のカナル・セストだったがその動向すら分らない。
ままならぬ物だ……。
勿論アラルメイルには神の声が聞こえると言う事と、世俗で起こっている事が分らない事を天秤に掛けるつもりは毛頭にもない。
だが、唯一の気がかりとも言える保守派の暴走、そしてそれに伴う、今や大陸最大勢力となったボーガベルとの激突という最悪の事態は避けたかった。
だが、ボーガベルの領袖は神から代行者として勝手を許された男だ。
もし彼がムルタブスの滅亡を望むのであれば……。
「おや、珍しいお客さんだね」
不意に人の気配に気が付いたアラルメイルが穏やかに声を上げた。
不可侵な聖域とされる彼の居室には、呼ばれなければ神官や世話役の巫女も勝手に入って来る事は無い。
静かに天井から人が降ってきた。
見慣れぬ服装をしているが、敵意や害意は持っていない。
「勝手に立ち入るご無礼をお許しください……にゃ」
「ダイゴ候……いや、今は晴れて皇帝であったな。ダイゴ帝の使いだね?」
「はい、ご主……いえダイゴ帝は神皇猊下にこれをお渡しするようにと……にゃ」
そう言ってニャン子は懐から包みを取り出し、中から筒状の書状を出し広げ、跪いて恭しくアラルメイルに差し出した。
アラルメイルは書状に目を通し、暫く思案を巡らせると、
「帝に承知したと伝えておくれ」
そうにこやかに言った。
アマド・ファギが屋敷に戻ったのは屈辱的な敗北を喫した翌日の夕刻。
屋敷には事前に伝書鳥を飛ばして保守派の神官たちを集合させてあった。
ウルマイヤを伴い部屋に入ったアマドだったが息子のペルドがいない事に気が付いた。
「ペルドはどうした?」
「ペルド卿は聖魔兵の制作に忙しいと、ドンギヴを伴い工房の方に……」
「む、ドンギヴもだと?」
元々、ペルドは聖魔法の暗部、つまり土魔法と言われ忌諱されてきた魔法に対し異様ともいえる執着で研究を重ねて来た男だ。
寧ろアマドの様に政治にはとんと興味を示そうとはしない。
そしてドンギヴは聖魔兵の制作に必要な資材を供給している。
それには魔石も含まれているがいかんせん他国からの品で量も限られて、なおかつ高価だ。
だからこそ魔石の安定供給のガラフデを攻略し採掘場を押さえることは急務と言えた。
ドンギヴがアマドの屋敷を訪れて以降ペルドは以前にも増して聖魔兵開発に没頭するようになった。
だがその際のおかげで聖魔兵は日の目を見る事になった。
そしてそれは強国となったボーガベルに対する唯一の対抗策だ。
それを思えばペルド達を無下にする事も出来ない。
「全く……構わん、会議を始める」
苦々しくアマドが言い放ち、他の四神官達が着席した。
「残念だが、ボーガベルの邪魔が入り、タンガラからは一時撤退する事になった」
「何と……」
撤退どころから実際はほぼ全滅に等しい敗北。
だがその事をおくびにも出さずにアマドは続けた。
「かくなる上は国内を纏め上げ、一丸となって事に当たらねばならん。それには……」
そこでアマドは自分を見つめる四人の神官を見、重みのある声で言った。
「儂が新たな神皇に即位する」
「おぉ……」
四人の神官がどよめいた。
その脇にいる神聖騎士団団長、ウビル・ベジコはあくまでも無言。
彼はもう十年以上前からアマドの忠実な飼い犬だった。
「そ、それで如何様にして……」
「うむ、ウルマイヤ」
「はい、アマド様」
そう言ってウルマイヤは一本の短剣を差し出した。
「これは……カナル卿の短剣ですな」
ラモ教では神官に任命される時に神皇猊下から装飾の施された短剣を賜る。
「そうだ。これを使う」
「そ、それで誰がこれを」
クペル卿の言葉に他の三人の神官は一斉にウルマイヤを見た。
順当に考えれば、改革派の娘であるウルマイヤがアラルメイルを弑逆し、その廉で改革派を一掃するのが望ましい。
だが、
「うむ、この大任、是非卿にやってもらおう」
アマドは当然という顔でクペル卿に言った。
「はへぇっ!? な、何故私が!?」
クペル卿の驚きは当然だった。
他の神官も呆然と顔を見合わせた。
「知っておるぞ、卿は人を刺し殺した事があるのを。経験者が適任ではないかね?」
「なああああっ!」
自分の若かりし頃の過ち、懸想した巫女に振られた腹いせに刺殺したという、神官にはあってはならぬ過去。
当時の神官だった父親に頼み込み、揉み消した筈なのにアマドに知られていた。
クペル卿の全身から脂汗が迸り出る。
「んん? 儂の頼みが聞けんと言うのか?」
鋭い眼光でアマドがクペル卿を睨んだ。
「いぃ! いえ…… でででですが、それこそそのウルマイヤにやらせれば……」
まさに蛇に睨まれた蛙の如く全身をブルブルと震わせてクペル卿は必死に、精一杯の抗弁をした。
「万が一にでもその場で魔水薬が切れたら何とする。この大事、生き人形には任せられん」
「し、しししかしぃ」
敬虔なラモ教信徒であり、神皇猊下に直接仕える神官であるクペル卿にとってアラルメイル神皇猊下を弑逆するなど考えられぬ事。
だがそれ以上にアマドの命令は絶対だった。
クペル卿はアマドに大量の借金をしている。
ワン子達の代金もそこから出ていた。
「やるのか? やるのだな?」
アマドの問いには「やらんのか?」すら無かった。
「わ、わわかりまひたぁ」
裏返った声で了承したクペル卿のブルブルと震える手に、アマドは強引に短剣を握らせる。
「では行くが良い。儂はここで吉報を待っている。ウビルが付いていくので安心せい」
要は見張り。
他の者ではなくクペル卿を監視する為。
しくじればその場で躊躇なくクペル卿は抹殺されるだろう。
よろよろと部屋を出て行くクペル卿に続いて一礼したウビル騎士団長が後を追った。
「ウルマイヤよ」
「はい、アマド様」
「お前は身を清めて儂の部屋で待って居るがよい。分るな?」
「はい、仰せのままに」
そう言って無表情のままウルマイヤも部屋を出て行った。
神皇猊下が崩御なされればもはやあの娘も無用……。
かといってその場で殺してしまうのは惜しい……。
儂が操を奪った後に薬を切らした上で、カナルの目の前で騎士団共に嬲らせるか……。
その上で父娘揃って処刑してくれよう……。
椅子に腰かけたアマドはそんな妄想を巡らせ、クペル卿の帰りを待った。
聖殿に向かうクペル卿の足取りは非常に重かった。
出来れば立ち止まり、引き返したかったが、後ろには鬼のような形相のウビル騎士団長がぴたりと張り付いている。
とても逃げ仰せられるものではない。
「クゥ……ウ……ウビル殿……儂の代わりに……」
「アマド様は卿をご指名なされた。それに騎士は聖殿に立ち入る事は出来ん」
「ひぃいいいい!」
もはやクペル卿の有様は処刑台に引き出されようとしている罪人も同然。
顔色は土気色を通り越し紫色に変わっている。
何故……何故儂がこんなことに……。
今頃本当なら館で……館で……お、思い出せん……。
「着いたようですぞ」
「おひいいいいいいい!」
聖殿の入り口でクペル卿は再び変な悲鳴を上げた。
「静かになされませ。さもなくば」
ウビル士団長が剣を抜きかける。
「ぎにぃひいいいいいい! 行きます! 行きますからしまってぇ! 変な物出さないでぇぇ!」
「では首尾を期待しております」
そうウピル騎士団長に言われて、クペル卿はフラフラと聖殿の入り口に入って行った。
「おや、どうしたのかな」
変わらぬ人懐こさでアラルメイル神皇が言った。
「は、へ、ひゃ……」
「顔色が優れぬようだが……」
そう言われたクペル卿が剣を取り出すと、アラルメイル神皇めがけて突進した。
ドン
鈍い衝撃がクペル卿に伝わり、恐る恐る目を開ける。
そこには驚きと悲しみの表情を浮かべたアラルメイル神皇の顔があった。
「き、卿……」
「ああああああああがあああああああああっ!!」
そう叫んだクペル卿が短剣を引き抜くや再び刺す。
「あぎゃっ! ひぎゃっ! ほぎゃああっ!」
クペル卿は何度も何度も悲鳴をあげながらアラルメイル神皇に短剣を突き入れた。
まるで子供が自分の埒外の昆虫を何度も潰すように。
そして虚ろになったアラルメイル神皇と目が合った。
いや、その虚空の瞳に狂気に駆られた自分の姿を見たクペル卿は、
「あああぎょおおおおおおおおおおおっ!」
剣を取りこぼしながら後ろに飛びのき、尻餅をついた。
「あごぉ……ひごぉ……」
クペル卿はそのままの姿勢で後ずさりし、短剣を残して四つん這いで逃げて行った。
中央神殿内、アマド・ファギの公室。
本来は現神官である息子ペルドの公室なのだが、政務に全く興味を示さないペルドは寄り付こうともしない。
したがって調度の模様替えも行われず、未だにここの主はアマドのままだった。
その公室の奥にある寝所にウルマイヤはいた。
沐浴を済ませバスローブのような沐浴着を身に纏っているだけの姿。
目前には皺一つ無く純白の敷布が敷き詰められた寝台。
この後ここで自分はアマド様に供されるのだ。
ウルマイヤの心にはそれ、アマドからの指令しか無い。
だが心の何処かで誰かが必死に叫んでいる。
誰かの名前を必死で呼んでいる。
誰だろう……ゴ……ダイ……ゴ……。
不意に目の前にそのダイゴが現れた。
「よう、ウルマイヤ」
「き、貴様……どうやって……」
人を呼ぼうにもアマドが人払いをしてある為、すぐには来ないだろう。
ウルマイヤは脇の台にあった短剣を取って構えた。
「ボーガベルの皇帝ともあろう者が夜這いとは下衆の極みですね」
ダイゴは無言。
ウルマイヤは自分の喉に切っ先を押し付けた。
「お前如きに奪われるくらいなら!」
その瞬間更に目の前に転送したダイゴの右手から紫の魔法陣が光を放った。
「……」
ウルマイヤの動きが止まった。
と同時に双眸から涙が溢れ出てきた。
「ダ……ダイゴ様……? わ、私……?」
「戻ったな、ウルマイヤ」
ダイゴは優しく言った。
だが、ウルマイヤは剣を握ったまま後ずさる。
その顔は後悔と絶望と恐怖に歪んでいた。
「ダ……ダイゴ様……ウルマイヤは……罪を犯しました……ガラフデ王国の無辜の民……改革派の人達……父カナル・セスト……神皇猊下……そして……」
手がブルブルと震え、持っていた剣が落ちる。
「そして……何よりも……敬愛するダイゴ様に……この様な……」
ウルマイヤ自らの口がダイゴに吐きつけた罵詈雑言がフラッシュバックしてウルマイヤを責め立てる。
「ウルマイヤ……」
「申し訳ありません……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……私は……ウルマイヤは……自らの手でムルタブスを戦乱の渦に落してしまいました……ウルマイヤは魔女です……どうか、どうかダイゴ様の手で成敗を……」
その姿は先程までと打って変わった儚さ。
ダイゴ達とタンガラの食堂で語り、別れ際に見せた涙を浮かべた顔と同じ。
ダイゴが知っているウルマイヤそのものだった。
「……分かった」
ダイゴは頷くと手刀を翳す。
その様を見てウルマイヤは目を閉じた。
もっとお話ししたかった……。
もっと抱きしめて欲しかった……。
もっと、もっと、もっと……。
ウルマイヤの心のダイゴへの想いが涙となって止めども無く溢れる。
でもだめ……これでいいの……せめてダイゴ様の手に掛かって死ねるなら……。
パチン!
「はう!?」
ダイゴがしたのは軽いデコピンだった。
「ダ……ダイゴ様?」
「あのなぁウルマイヤ。盛り上がってるとこスマンが、俺はお前を助けに来たんだよ?」
「え? ええ?」
「お前が薬かなんかで操られていたのは最初から分かっていた。だが、後ろにいる連中を炙りだすのに様子を見ていたんだ。だが結果的にお前を苦しめることになった。すまない」
ダイゴは頭を下げた。
「そ、そそ、そんな! あ、あ、頭をああ、上げてください! ダイゴ様は何も悪くな……」
「うん、やっと俺が好きなウルマイヤになったな」
「え! えええ! す、すっすっすっ! ええええええええええ!!!!」
その一瞬でウルマイヤの顔が茹でたように赤くなった。
「ウルマイヤ、煩い」
「あ、はい、すみません……」
窘められてションボリと頭を下げるウルマイヤ。
「でだ、先程ので操られて悪さをしていたウルマイヤは死んだ」
「え、で、でも……」
「し・ん・だ。いいな」
「は、はい……」
「今のお前は単なるウルマイヤだ、意味が分るな?」
「あ、あの……」
「あーっ、要は俺の事を信じろって言ってんだよ」
まどろっこしさに焦れたダイゴが言った。
「…………!!!」
「返事は?」
「あ、ああああの……」
「へ・ん・じ・は!?」
「は、はい! 信じます! これからはダイゴ様を信じます!」
ブンブンと音を立てるかの如くウルマイヤが首を振る。
「むう、そこまで言えとは言ってないんだがまぁいいや。はい、決まり」
「ダ、ダイゴ様ぁ!」
そう言って涙を振り絞りながらウルマイヤはひしと抱きついた。
「ダイゴ様ぁ! お願いがあります! 今! どうかここで!」
「へ!? だってお前ここは……」
「ダイゴ様を信じると決めた今! もうウルマイヤは気持ちを抑えられません! どうか!」
そう言ったウルマイヤの潤んだ唇が、ダイゴの唇に触れた。
「ウルマイヤ! お前の身体、味わいに来たぞ!」
アマド・ファギがウルマイヤのいる部屋に押し入る様に入って来たのはそれから一アルワ後だった。
首尾よく事を済ませたと戻ってきたウピル騎士団長から聞き、いたく満足したアマドだったが、脇にいたクペル卿の様子がおかしいのに気が付いた。
「ポペペー」
何を聞いても宙を呆然と見つめて口から涎を垂らしたまま、意味不明の言葉を発している。
「ふん、耐え切れずに気がふれたか。丁度いい、こいつも改革派にそそのかされた実行犯としてカナル達と一緒に処分してくれる。片付けい」
クペル卿は騎士達に引き摺られていった。
朝になれば巫女達に見つかり大騒ぎになるだろう。
それまではあの女の身体を楽しむとするか……。
そう思いながら公室に入って来たアマドだったが、
「むう?」
思わず声を漏らした。
ウルマイヤは沐浴着を着ているが、前をはだけていて、すべらかな裸身が垣間見える。
顔は上気し恍惚の表情を浮かべていた。
「ふむ、既に準備は出来ているとは、殊勝な事よ。もはや儂が神皇になる以上貴様の操も不要、約束通り儂がもらってやろう」
やはりこのまま処刑するには勿体ない……。
ここで飼い侍らせて飽きたら部下共に下げ渡して奉仕させるのも一興よ……。
そんな下種な考えを巡らせるアマドの足が止まった。
部屋に漂う濃厚な情事の匂いを嗅いだからだ。
「ぬぅ、これは……」
そう言ったアマドに聞き覚えのある声が響いた。
「ざーんねんでした。おー前が楽しみにしていたモンはさっきスタッフ……いや俺様が美味しく頂いちゃったぜぇ」
恐らくは稀代の怪盗の三代目のモノマネをしてるのだろうが余り似ていない声をあげ、ウルマイヤの後ろから伸びた男の腕ががっしりと彼女を掴む。
「あん」
思わずウルマイヤは歓喜の声を上げた。
「な! 誰だ!?」
「誰だじゃねぇよ! 俺だよ俺! ダイゴ・マキシマだ! まさかまーたあの時儂はあそこにいなかったなんてすっとぼける気じゃ無いだろうな?」
「ダ、ダイゴだと!? な、なぜここに!?」
「んなこたぁ説明する必要がないね。だがこれだけは言っておく。お前は俺を本気で怒らせた。ウルマイヤの分も含めてたぁっぷりお礼してやる。じゃぁなーあーばーよー、ヒヒジジィ」
相変わらず似てないモノマネでそう言うとダイゴはウルマイヤと共にその場から掻き消すように消えた。
「な……い、一体……」
アマドは呆然とその場に立ち尽くしかなかった。
ガラフデに停泊中のアジュナ・ボーガベルに二人は現れた。
「こ、ここは……?」
突然目の前の風景が変わり、あ然としながらウルマイヤは言った。
「新帝国お召し船アジュナ・ボーガベルだ」
「あら、ウルマイヤさん、元に戻られたようですわね」
「あ、あああっ! え、ええええええエルメリア女王様!?」
「はい、エルメリア女王ですわ」
何時ものように花の咲いたような笑顔でエルメリアが答える。
「あ、あああああのっ! こ、ここ、この度はま、誠に……誠に……」
そこまで言って俯いたウルマイヤをエルメリアが抱きしめた。
「良いのですよ、ウルマイヤさん。貴女は何も悪くありません」
「女王様……でも……でも……うぅっ……ううぅっ……」
その後は言葉にはならない。
そんなウルマイヤをエルメリアは慈しむような瞳を湛えて抱きしめていた。
そしてウルマイヤの耳元で何かを囁き始めた。
「は、はひぃっ……信じますぅ……ウルマイヤはぁ……ああぁ……ウルマイヤはぁぁ……」
ウルマイヤが滂沱の涙を流しながらうわごとのように何かを呟いている。
丸っきりクフュラの時と同じだった。
ドンギヴの薬なんかよりこっちの方がよっぽど悪質な洗脳なんじゃ無いのか……。
そう思いながらダイゴは、
「中々クる場面でスマンがウルマイヤは風呂に入ってこい」
そう言ってやる。
「はへ……え? あ、あああああああ!?」
その段になってウルマイヤは自分の格好を思い出して大声を上げた。
「あ、あああああのっ、そのっ!」
「ウルマイヤさん、私がご案内しますね」
そう言って進み出たのは先日洗脳状態のウルマイヤと睨み合ったクフュラだった。
「あ、ああああ!? ク、クフュラ様! せ、せせせせ先日はとんだ失礼を!」
「うふっ、良いのですよ。行きましょう」
「は、はひぃっ……」
少し何かを嗅ぎ取る様に鼻を鳴らしたクフュラに手を引かれてウルマイヤは大浴場に向かっていった。
「まっこと騒々しい奴じゃのう。本当に巫女姫なのか」
入れ違いにヒルファと一緒に風呂に入っていたソルディアナがコーヒー牛乳を飲みながら言った。
「お前に騒々しいっていわれるのも大概だが、まぁウルマイヤはあんなもんだ」
ヒルファからコーヒー牛乳を受け取ると一飲みしながらダイゴは言う。
「この後は如何様に致しますの?」
セイミアが勝ち気な微笑みを浮かべながらダイゴに尋ねる。
問いとは裏腹に既に方策の手配は完了しており、主の裁可を求めているのだ。
「ウルマイヤを取り戻したんだ、もう遠慮はしない。アマド・ファギとその一党のふざけた企みは全部ぶっ潰す」
「では……」
「ガラフデ、改革派、魔石、それにアラルメイル神皇猊下。何一つくれてはやらんさ」
そう言ってダイゴが悪そうに笑った。





