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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第八章 ムルタブス事変編

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第九十六話 魔導戦艦ムサシ

 ガラフデ王国、タンガラにあるゴラフ宮殿。

 

 既に閉まっている門の前にダイゴ達は湧き出るように現れた。


「な!? 何だお前達……あっ!?」


 そう驚いている衛兵にダイゴも見覚えがあった。

 エルメリアが監禁されていた王室専用別荘を警護していた図体のデカい男だ。


「おう、アンタ久しぶりだな。すまんがシダド国王に話がある」


「き、貴様……性懲りも無く宮殿にまで……曲者だ!」


「おい、俺が誰だか……」


 そう言い終わらないうちに門の脇の戸口から出てきた衛兵十人余りにダイゴ達は囲まれた。

 それに呼応してワン子とリセリが戦闘態勢に入る。


「はぁ、穏便に済ませたかったのに結局こうなるのか……」


「貴様が何者であろうとこの様な時間に国王陛下がお会いになる事などある訳がないわ!」


「……だからさぁ、緊急事態なんだよ。ダイゴ・マキシマが大至急話をしたいと取り次いでくれんか?」


「ダイゴ? フン、知らんなぁ。国王陛下に謁見なさりたいのならば明日改めて来ればよかろう。もっとも貴様のような怪しい輩を通すことは無いがな」


「明日まで待ってたらここら一帯は潰滅するから言ってるんだが。どこの世界でも融通の効かない奴はいるんだな」


「お前達! このお方はボーガベル帝国の新皇帝ダイゴ・マキシマ様、そしてボーガベル王国のエルメリア女王陛下だ! 直ちに門を開けよ!」


 業を煮やしたリセリが言うも、


「やかましい! ボーガベルの皇帝やら女王がこんな所でフラフラしてる訳無かろう! 叩き出せ!」


 長棒を持った衛兵たちが一斉にダイゴ達に殺到する。


「はぁ、やっぱ時代劇の様にはいかないよなぁ」


 そう言ってリセリの前に出たダイゴの右手には既に緑色の魔法陣が展開していた。


「『風弾エアロバレット』」


 ドッゴォォォン!


 凄まじい音と共に門の閂が吹き飛び、門が衛兵達を吐き出しながら開いた。


「ガ……あうう……な、何が……」


「すまんな。一刻を争う事態なんだ。通らせてもら……」


 言葉を切ったダイゴの視線の先に一組の男女がいた。


「騒がしいと思って立ち寄ってみれば、随分と豪胆な賊だな」


 そう言った男は濃茶の短い髪に太い眉、それなりに整った育ちの良さを感じさせる顔立ち。

 寄り添う女はやはりそれなりに整った顔立ちの若い女。


 槍を持った男は続けて言った。


「ここをガラフ宮殿と知っての狼藉ならこのショモレクが直々に手討ちにしてくれる」


 ショモレクと名乗った男は心配顔で彼を見つめる女を手で後ろに下がらせた。


「あ、アンタがショモレク王子か」


 エルメリア拉致事件は元々このショモレク王子の結婚が発端だった。

 よく見れば後ろの女、恐らくは妃のお腹が膨らんでいる。


「ほう、仮にも王子たる俺に対するその態度は万死にも値するな!」


 そう言ってショモレクは槍を構える。


「いやだから、この国の危機を国王に伝えに来たんだって」


「ふっ、戯言も大概にしろ。国の危機を伝えに来た奴が夜中に宮殿の正門を吹き飛ばすか!」


 乗り込んできた手前王子に対して少々ばつの悪そうだったダイゴだが段々焦れてきた。

 話が分かる上司が来たと思ったら余計話をややこしくする奴だった。

 元の世界の仕事でダイゴが散々経験してきた事だった。

 

「ああ、もう、無駄なやり取りはいらんから通らせてもらうぞ!」


「そうはいかんな!」


 ショモレクが丸腰のダイゴに瞬足の槍を繰り出す。

 すかさず構えもしなかったダイゴの右手が瞬時に槍の穂の側面を捉えた。


 ドバンッ!


 鈍い破砕音と共に穂ごと槍が粉々に砕け散った。


「な!?」


 残った柄を持ったままショモレクはたたらを踏んで止まり呆然とした。


「へぇ、存外使えるなぁ」


 ダイゴが使ったのは「波動ヴェグデ・改」


 エドラキム皇帝バロテルヤがダイゴとの戦いで使った、発勁にも似た技「波動ヴェクデ」を独自の解釈を加えて使えるように創造した。


「ぬぅ、面妖な術を!」


 それでもショモレクは腰の剣を引き抜いた。




 ガラフ宮殿奥の寝室でうたた寝していたシダド国王は俄かに騒がしい外の様子に気が付いた。

 そこへ侍従が駆け込んできた。


「陛下! お休みの処申し訳ございません! 火急の報せでございます!」


「何だ、先程から宮内が騒々しいようだが」


「そ、それが、ボーガベル帝国皇帝ダイゴと名乗る者が宮中に乗り込み、陛下に面会を求めておりまして……」


「何を馬鹿な。こんな夜更けにダイゴ帝が忍んで来るはずが……はずが……」


 シダド国王の顔が急に青くなっていった。

 例の事件の時にダイゴは王族専用の別荘に少数の手勢と共に乗り込んできた。

 有り得ぬ事では無かった。


「如何いたしましょう」


「うぅむ、まずは会ってみよう」


「!? 宜しいのでしょうか?」


「もし騙りならばそこで首を撥ねれば良い。だが万が一にも本人ならば下手をすれば国が滅びかねん」


 直接は見ていないもののムルタブスの船団を一瞬で潰滅させた人物だ。

 そして僅か二年余りで大国エドラキムを打ち負かした男。

 逆鱗に触れることを考えれば例え偽物でも会わない訳にはいかなかった。


「そ、それが……」


「何だ、はっきり申してみよ」


「今、ショモレク様が……」


「何! ショモレクが!? それを早く言わんか!」


 そう言ってシダド国王は慌てて駆け出した。


 ショモレク王子は聡明ではあるが気性が荒く、口より先にまずは手が出るタイプだ。

 その点では口より先にまず土下座をするシダド国王と性格は違えどそっくりとも言えた。


 目の前に飛び込んできた光景はまさにショモレク王子が見忘れるはずも無いボーガベルの新皇帝ダイゴ・マキシマに斬りかかっている所だった。

 ショモレクは必死の剣戟を送るが、徒手空拳のダイゴは難なく躱している。


「止めんかショモレク!!」


 ガラフデの滅亡という言葉が浮かび眩暈で気を失いそうになるのをこらえてシダド国王はその場に這いつくばり、地に額をこすりつけて叫んだ。


「ダ、ダイゴ陛下並びにエルメリア女王陛下に置かれましては過日の無礼にも関わらずお越し頂き恐悦至極に御座います!」


「へ!? ダ、ダイゴ陛下!? あのボーガベルの?」


 そこでショモレクは漸く自分が相手にしていた者の正体を知り、驚いた声を上げた。


「夜分突然訪れた無礼を許して欲しい、シダド国王。面を上げてくれ」


 ダイゴがそう言った時、ショモレクと一緒にいた女がシダド国王の横に並んで平伏した。


「シオネア?」


「ダイゴ帝とは露知らず、王子がご無礼を働き申し訳ございません! どうか! 王子の命だけは! 替わりに私の命を!」


 身重の妻が涙を流して夫の命乞いをする様を呆然と見てたショモレクも漸く事の重大さに気づき慌てて平伏した。


「い、いやダイゴ帝! すまねぇ……じゃなかった申し訳ございません! どうかシオネアの……シオネアの命だけは!」


「あ……いや、そういう愁嘆場は要らんから……こっちも無理やり来たんだし」


「あなたもお腹に障りますよ。さぁ」


 エルメリアがシオネアに優しく手をだした。


「おお、何と勿体なくも慈悲深きお言葉!」


 そういってシダド国王更に額をめり込むくらい地に付けた。


「で、早速だが、ムルタブスが明朝このタンガラを攻撃に来る」


 頭を掻きながらダイゴはシダド国王に言った。


「ムルタブスが!……やはり……」


「承知しているようだな。事情を説明してくれないか」


 シダド国王は一切をダイゴに話した。


 一月前ほどに突如アマド・ファギから一方的な通達が来た。

 内容は現在保有している魔石全ての供出とガラフデにある魔石採掘場をムルタブスの直轄地にする事。

 そしてそのための労働力の無償供出。


 当然その様な無体な要求は飲めない。

 だが面と向かって拒否する訳にも行かずに返答を避けてきた。


「それで船団でタンガラを占拠に来る訳か」


 アマド・ファギは以前にも船団で自分が脱出するための目くらましにタンガラの街を攻撃しようとしてエルメリアに阻止されている。

 彼にとってムルタブスやタンガラはその程度の物でしかなかった。

 そして聖魔兵の大量生産のために必要な魔石確保の為、何の躊躇も無くタンガラを攻めようとしている。


「で、どうする?」


 ダイゴが聞いた。


「……」


 シダドは黙ったままだ。

 長年ムルタブスの属国同然の関係だったガラフデの王としてはそのムルタブスに反してボーガベルを頼ると言うのは逡巡するに十分な事だ。

 だが、明日になればタンガラは総攻撃を受けて壊滅するだろう。


「父上、私はダイゴ帝に頼るべきだと思います」


 脇で平伏していたショモレクが言った。


「し、しかし……」


「ムルタブスは今までエドラキムから我が国を護るという名目で属国同様の扱いをしてきました。しかし既にエドラキムは無く、ボーガベルのダイゴ帝がこうして手を差し伸べて下さるのなら、それにお縋りするべきです!」


 土下座したままだがあくまで力強く、そして真摯な目でショモレクは言った。

 とても先程無分別に槍を突き込んでいた男とは思えない。


 シダド国王はショモレクの目を、そしてエルメリアの脇で佇むシオネア妃、そしてその腹を見た。


「分かった、ショモレクよ。儂も孫に顔向けできん王でありたくないのでな」


「父上!」


「ダイゴ帝、改めてお願いいたします。ガラフデを、いやガラフデの民をお護りくだされ」


 そう言ってシダド国王は改めて頭を下げた。

 だが、その姿は今までにない気迫に満ちていた。


「任せておいてくれ」


「ありがとうございます。こちらの指揮はこのショモレクに任せますので何なりと」


「よし、明け方までにタンガラの防備を固める。急いで兵の指揮官を集めてくれ」


「分かりました」


 立ち上がったショモレクが付近で成り行きを見ていた兵に指示を出す。


「しかし、夜明けまでにどの様に……」


 未だに土下座状態のシダド国王が聞いた。


「既に国境沿いに我が国の精兵が待機している。すぐに配備は完了する」


「なんと……」


「そういや、あの腰が低い大臣……シャムラだっけ? はどうしたんだ?」


「シャ……シャムラは……」


 シダド国王はエルメリアを見ながら言い淀んだ。





 翌未明、タンガラ沖。


 集結していたムルタブス軍第一、第二船団総数百隻余りが夜明けを待って帆を張りタンガラに向かう。


 旗船デクゥオ・ゲニにアマド・ファギとウルマイヤの姿もあった。


「ふむ、風も程よく吹いておるな」


 上機嫌でアマド・ファギは船団司令に言った。


「はっ、この分なら予定より早くタンガラを射程に収められるでしょう」


「うむ、射程に入り次第直ちに市街に向けて攻撃を開始せよ」


「その後は如何様に?」


「国境に待機させてある兵にタンガラを占拠させる。その上で採掘場と倉を接収するのだ」


「シダド国王の処遇は?」


「フン、あ奴等は最早用済み、次の王は貴様がなるが良い、シャムラよ」


「ははぁっ、有難き幸せに御座いますぅっ!」


 そう言って平伏していたのはガラフデのシャムラ大臣だった。


「本来なら失敗した貴様の命はとうに無かったはずだ。それを肝に銘じておけよ」


「はっ、ははぁっ」


 シャムラ大臣は床にめり込むかの如く額を擦り付けた。


 厳密には彼は既に大臣では無い。

 以前からアマド達保守派と通じていた彼は隷属の首輪に必要な魔石を横流しすることで巨利を得てきた。


 だが、エルメリア女王拉致事件が発端となり、それらの事が改革派であるカナル・セスト卿達の手によって露見し、魔石の供給は断たれ、シャムラは大臣を罷免された。


 その後ガラフデを脱出したシャムラはファギ卿の元に身を寄せていた。


「小綺麗になったタンガラには聖魔兵の大工房を立て、ガラフデの者はそこで働かせる。良いな?」


「ははぁっ、アマド様の思し召しのままにぃ!」


「船団指令!前方に小舟が!」


「小舟如きで一々騒ぐな! ガラフデの漁師であろう! 蹴散らしてしまえ!」


「そ、それが、ボーガベルの旗を掲げています!」


「な、何だと!」


 アマド達が舷側に出て目を凝らす。


 遙か彼方の小さな小舟に巨大な旗が掲げられている。


 その旗を立てている男にアマドは見覚えがあった。

 いや、忘れようも無い姿。

 この海を十日間漂流して死にかけた元凶。


「あれは……ダイゴ!?」


「な、なぜボーガベルの新皇帝がこんな所に」


 船団司令のその疑問に答えるかのように大音響が響く。


「あー、あー。ムルタブスの魔石泥棒の諸君、ハイドーモコンニチハ。ボーガベル帝国皇帝ダイゴ・マキシマだ」


「な、何だこの大きな声は!」


「一体何処から!?」


「諸君らの悪巧みは全て露見している。ボーガベル帝国は先程ガラフデ王国と安全保障条約を結んだ。従ってガラフデを攻撃する者はボーガベル軍が迎撃する」


「な、何だと! まことか!? シャムラ!」


「しっ知りませぬ! 私は何も知りませぬぅ!」


「ええい、この無能が! 構わぬ……たった一人で何が……」


 そこでファギ卿の威勢が一瞬止まった。


 あの時の巨大な化け物とそれに一掃される第三船団を思い出したからだ。


 だが、今度は違う、船の装備も新型だ……!


 ムルタブスの軍船には投石機と弩砲が装備されている。

 何れもドンギヴから買い求めた図面を元に造った新式で、距離も威力も第三船団の軍船より優れている。


 しかもこちらにはウルマイヤがいるのだ。迂闊に手は出せまい……。


「アマド様、如何なされました?」


「ウルマイヤ、船の舳先に立て。彼奴に良く見えるようにな」


 船団司令の問いには答えずにアマドはウルマイヤに命令をする。


「はい、アマド様の仰せのままに」


 そう言うとウルマイヤはスタスタと歩いて船の舳先に立った


「これで彼奴はこの船を攻撃することはできまい。早々に蹴散らしてしまえ!」


「はっ、全船に攻撃命令!」


 船団指令が指示を出し、旗が振られ伝達されていく。


 足の速い小型の軍船が五隻、ダイゴの小舟目掛け突き進んでくる。

 この型は投石機を積んでおらず、専ら弩砲で敵船又は沿岸に肉薄しての攻撃を得意とする。


 今も弩砲を浴びせんとダイゴの乗る小舟を包囲しようとしていた。


「撃て!」


 弩砲指揮官の掛け声と共に各船から見事なまでの一斉射がダイゴめがけて放たれた。


 正確にダイゴに向かう数十本の弩。

 誰もがあの男が肉片と血飛沫を撒き散らす様を思い浮かべた。


 だが、その間に旗をクルクルと巻いて小舟に置いたダイゴが両手を前に突き出し、青い魔法陣を展開する。


「『激流障壁アクアスライダー』」


 その瞬間海面に水の壁が出現した。


 スパパパパパァン!!


 ダイゴを襲った弩は全て壁に当たって弾かれ、力無く海中に没していく。


「なにぃ……」


 乗員達は何が起こったのか分からず呆然としていた。


「よし、貴様らが先に撃ってきたんだから、こちらは防衛行動を取らせて貰うぜ」


「!」


 水の壁はそのまま、まるでサメの背びれのように海面を走り、軍船に迫る。


 バスンッ!!


 そんな鋭い衝撃音をたてて軍船が真っ二つに両断された。

 二つになった軍船は直ぐに横倒しになり沈んでいく。

 

 水の壁は他の四隻にも襲いかかり、瞬く間に両断していった。


「ア、アマド様……あれは……一体……」


 初めて見る高威力魔法に船団指令が絞り出すような声でアマドに訪ねる。

 だが、アマドにも答えることなど出来ない。


「ええい、構わん! 彼奴に撃ち込みまくれ!」


「はっ、し、しかし……」


「これだけの船の集中攻撃に幾ら奇怪な魔法を使おうが耐えられるはずは無い! 撃って撃って撃ちまくれ!」


 アマドが口角泡を飛ばしてそう叫んだ時だった。


 ダイゴの小舟の周囲の海面が盛り上がり、巨大な物体が浮上してきた。


「なぁああああっ!?」


 アマドや船団司令達が驚愕の声を挙げた。


 白亜の流麗な艦橋、そして三連装砲塔群が海上に湧き上がってくる。

 更に現れたその巨体は海水を滝のように滴らせながら宙に浮かんでいく。


 ボーガベルの誇る空中魔導戦艦ムサシ。

 ある程度の深度であれば潜航可能なこの艦を予めダイゴはこの地点に潜らせておいた。


「な……な……な……」


 最早口を開けたままのファギ卿に言葉は出ない。

 あの時の悪夢がフラッシュバックする。


 言葉が出なかったのは船団司令やほかの乗員も同じだった。

 皆口を開け、宙に浮かぶ巨大な異形の船を眺めていた。


 一方小舟ごとムサシの上部甲板に乗ったダイゴはそのまま転送でブリッジに移った。


「ご苦労、水密は問題無かったか?」


「……問題ない」


 そう答えたシェアリアの隣に設けられた椅子にダイゴは座った。


「よし、ムサシ、砲爆撃戦用意。ウルマイヤが乗ってる船以外は沈めろ」


「畏まりましたわ。主砲並びに艦底部副砲、全砲門起動開始。各個目標選別。目標ムルタブス船団。除外指定一」


 セイミアの指示でムサシの全二十基六十門の主砲が一斉に海面を向き、各砲門が下方のムルタブス軍船に狙いを定めていく。


 ムサシの特徴的な艦体に斜めに設置されている主砲群は全門が下方への砲爆撃を可能にしている。

 主砲基部自体も半球状態になっているので可動自由度が高く艦底部副砲群と合わせて下方への死角は皆無だった。


 一方漸く我に返ったアマドは船団司令に怒鳴った。


「な、何をしている! は、早く攻撃せんか!」


「し、しかし、あれは……」


「構わん! あれだけの大きさだ! 当たらぬ訳が無い! 早くせんか!」


「はっ! 攻撃を開始せよ!」


 その命令を受け各船から次々と岩や弩が撃ち出されていく。


 だがそれらは既に上空に達したムサシに届かない。

 虚しく海に落下していく。


 「駄目です! 届きません!」


 「ぐぅっ……」

 

 事実上ムルタブス船団は手も足も出ない状態に陥っていた。


「……攻撃開始」


 ブリッジでシェアリアがそう言った途端、主砲の最初の一発が撃ち出された。


 ドコォォォォン!!


 直撃を受けた軍船が一瞬砲撃に押し込まれるように沈み、そのまま真っ二つになった直後炎に包まれ、海に消えていく。


「あ……」


 船団司令は何も言えなかった。

 沈められたのは旗船デクゥオ・ゲニと同型の最新鋭船。


 他国に沈める術無しと誇られていたその船が只の一撃で文字通り粉砕された。


「に……二番船……ジェス・デギュオ……沈没……」


 その直後周囲の船が次々と火達磨になりながら沈んでいく。


「五番船……ヨウン・イム、九番船ガミゴ……」


「い……一々言わなくても良い……」


 船団司令は力なく部下を制した。

 次々と為す術無く屠られていく僚船の名前など聞く気にもなれなかった。


 だが、一転気を奮い起こすと部下に下命する。


「退避だ! 全船に指示! 大至急この海域から離脱せよ!」


 既に船団の半数が姿を消している。

 そしてユルユルと退避行動を取り始めた残存船目掛けて頭上の巨大な艦から放たれた赤い閃光が次々と降り注いでいく。


 ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォォ!!!!


 先程までの少し間隔を空けた単射では無く続けざまの斉射。


「ひぃいっ!」


 アマドも船団司令も同じ悲鳴を上げた。

 舳先に建つウルマイヤの向こうで凄まじい爆炎が上がり、残存船が次々と炎に包まれながら海に没していく。


 ウルマイヤは吹き付ける熱を帯びた風にもたじろぐことなく、心ここにあらずと言った表情で前を見ている。


「急げ! 急いで離脱しろ! こ、この船は大丈夫だ! は、はやくっ!」


 そんなウルマイヤに気を配る余裕もなく、甲高い声でアマドが叫ぶ。

 漸く海流に乗ったデクゥオ・ゲニは急ぎ離脱していった。


 鳥型擬似生物が離脱していく船上にウルマイヤとアマド・ファギの姿を確認し、ダイゴにその姿を送る。


「よし、離脱したようだな」


 僅か十分余りでムルタブスの船団は海の藻屑と消えていった。

 先程の迄の地獄を思わせるほどに真っ赤に染まった海面は元の穏やかな群青色に彩られていく。


「ウルマイヤさんをあのままにしても宜しいので?」


「良くはないんだが今のウルマイヤは人質同然だからなぁ、迂闊に奪還しに乗り込んで海に飛び込まれでもしたらかなわんし」


「……確かに……でも」


「心配するな。今までは海にいたから位置が把握できなかったが、今度は偵察型擬似生物ドローン)を貼り付けてある。セスオワに戻り次第ウルマイヤはすぐにでも取り戻す」


「『取り戻す』んですよね?」


「何だよ?」


「うふふ、何でもありません」


 意味ありげにクフュラが笑う。

 その時メアリアから念話が飛び込んできた。


『ご主人様、国境にいたムルタブスの兵は戦わずに撤収していった。追わなくて良いのか?』


『ああ、取り敢えずボーガベル領まで引いてくれ。後でアジュナを回して合流する』


『分かった』


「さて、セイミアの見立て通りに再度ガラフデ攻略に来るかな」


「予想は八分、ですわ。恐らく例の聖魔兵を押し立ててくるでしょう」


 東大陸で魔石が採掘できるのは西部のガラフデ以外では東部のボーガベル王国周辺のみ。

 事実上ムルタブスがボーガベル王国まで侵攻するのは不可能なため、ガラフデに侵攻するしか無い。


「そいつは楽しみだな」


「でも、懸念されるのは……」


「分かってる。 ウルマイヤの父親のカナル・セスト卿に改革派の面々、それにアラルメイル神皇猊下だろ」


「はい。この状況下でアマド・ファギが取る行動で一番危険度が高いのが……」


「そうなりゃウルマイヤの身も危ないんだ。絶対阻止してみせる」


「それが、ご主人様には一番の心配事ですよね~」


 にしし~と笑いながらメルシャが言った。


「う゛っ……と、とにかく何時までもウルマイヤをあんなヒヒジジイの手元に置いておくつもりはない。連中がセスオワに戻り次第ケリを着ける」


「……分かった」


 波間に漂う無数の残骸を尻目に魔導戦艦ムサシはその巨体を東南に向けると悠然と飛び去っていった。


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