表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第七章 カーンデリオの落日編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/156

第九十話 対決

「師匠?」


 ダイゴが聞き返した。

 だが相手はレノクロマでは無く、ドルミスノにだ。


「ああ、コイツにちっと剣技を教えていたモンだ」


 変わらぬ長髪を編み込み、平服に長剣レボンニウを背負っただけのラフな姿は剣を除けばとても『剣王』の称号を持つ風体には見えない。


 既に齢も六十を越えているが柔和な顔はダイゴ達にすれば四十前半、否三十代にも見える。


「レノクロマの師匠……ドルミスノ・デルギか!」


 メアリアが声を上げる。


 メアリアの師匠であった「東の剣聖バルジエ」と並び称された「西の剣王ドルミスノ」


「アンタがバルジエの弟子だったメアリア姫か。成る程出来そうだな」


 そう言われたメアリアだったが棒立ち状態のままだ。

 何時もなら真っ先にバルクボーラをすっぱ抜くのだが、ドルミスノの剣気に押されて、動くことが出来ずにいた。


 それは隣にいたセネリも同じ。

 他大陸で幾多の強者と渡り合ってきた彼女もこれ程の剣気を持つ男に初めて出会った。


「ほう、あの時の片割れか……」


 ソルディアナはすぐに察して言い放つ。


「……で、アンタも皇帝に会いたきゃ俺を倒して行くんだなーって奴かい?」


 そんな眷属達を尻目にダイゴが屈託なく言った。


「いいや、バロテルヤはお前さんだけ来いとさ。俺はここで邪魔が入らないようにする役だ」


「じゃあ俺は通って構わないんだな」


「ああ、そういう事だ。通りな」


 その言葉にダイゴは眷属達の方を向くと、


「じゃあお前達はここで待っててくれ」


 そう言って手をヒラヒラと振って奥へ消えていった。


「何だい、折角付いてきたのに拍子抜けだな」


 気合いをはぐらかされたようにガラノッサがグラセノフにぼやいた。


「仕方ないよ、陛下は余人を交えたくないのだろうから。それに……」


「それに?」


「我々ではあの剣王を抜くことは容易ではないよ」


 ガラノッサはチラとメアリア達を見た。


 彼女達なら命あらば剣王を抜く事は出来るだろう……。


 だがダイゴが待てと言った以上……。


 そう思った時にその予想を覆すことが起こった。


「申し訳ございませんが、私も一緒に参らさせて頂きます」


 そう言ってエルメリアが前に出た。


「あんた……いや、貴女は……」


 少し拍子抜けしたようなドルミスノの口調が不意に変わった。


「ボーガベル王国々王、エルメリア・ボーガベルです」


「エルメリア……まさか神官姫だったエルメリア女王陛下?」


「はい、ダイゴ・マキシマは我がボーガベル王国を代表して皇帝陛下にお会いに向かいました。ならば君主たる私が立ち会うのが道理」


「……」


「それに、奥で私を呼ぶ声が聞こえるのです」


「まさか……」


 何かに思い当たったようにドルミスノの目が一瞬険しくなる。


「……分りました。お通りください」


 先程までの砕けた調子とは打って変わった慇懃さでドルミスノは言った。


「ありがとうございます、剣王殿」


 エルメリアが何時もの花の咲いたような笑顔で応え、ダイゴの後を追って行った。


 それに続こうと足を踏み出したレノクロマを遮るようにドルミスノが入口に立ち塞がる。


「師匠!」


「さて、通せるのはここまでだ。特にレノクロマ。お前は絶対に通す訳にはいかん」


「我が主が待てと言ったのだ。我々は待たせてもらう」


 剣を収めながらメアリアがそう言ったが、


「俺は……通させてもらう」


 レノクロマが剣を抜きながら言った。


「レノクロマ!」


 セイミアが叫ぶが


「セイミア、お前が何と言おうが俺はここを通ってバロテルヤの所に行く。その為なら……」


「俺と一戦交えてもか。良い覚悟だ」


 ドルミスノも剣を抜いた。


「師匠……通してくれないのなら、師匠を倒してでも通ります」


「来いよレノクロマ。どのくらい強くなったか見せてみな」


 双方が剣を構える。


 レノクロマはゴシュニ。

 元はドルミスノの愛剣だった物だ。


 ドルミスノはレボンニウ。

 やはり二メルテ近い長剣。


「お嬢ちゃん達、本当の剣技ってのがどういう物か見せてやる。よっく見てな」


「なっ! 貴公を師に迎えた覚えは無い!」


 お嬢ちゃん呼ばわりされたメアリアが顔を赤くして反論すると、


「なぁに、バルジエにも一時期教えていたんだ。よく言うじゃないか、師の師は師も同然ってね」


 二の句が継げないメアリアと何の事か分からずにいるセネリに片目をつぶって笑顔で語った次の瞬間、ドルミスノが人間離れした踏み込みでレノクロマに斬りかかる。


 速い!


 メアリアとセネリが同時に思った。

 神の代行者の眷属として常人ならざる運動能力を得た二人が驚愕する速さ。


 これに比肩するのは先日相対した時のソルディアナくらいな物だ。


 だがドルミスノは只人族であり、けっして竜人族でも地の竜でもない。

 それはソルディアナの血を飲んで得た能力。


 並の人間ならその動きも判らずに真っ二つにされていただろう。

 だがレノクロマは受けた。


「ほお」


 そうドルミスノが言った次の瞬間、


 ヒュ!ヒュ!ヒュ!ヒュ!ヒュ!ヒュ!ヒュ!!


 ドルミスノとレノクロマの周囲に凄まじい風圧と風切り音、そして


 ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!ヂッ!!


 と剣が当たる音そして無数の火花が巻きあがった。


 恐るべき速さでドルミスノが送る剣戟を必死にレノクロマが躱している。


 これを凌ぐとはなぁ……だが何時まで持つ……?


 と、レノクロマが後ろに飛び、転がるように間合いを取った。


「よく持ちこたえたなぁ」


 ドルミスノは感心して言った。

 あれだけの剣戟を送っていながら息がまるで乱れていない。


 対するレノクロマは大きく肩を揺らしながら呼吸をしていた。


 これが竜の血を飲んだ者か……。


『やはり、加勢した方が良くはないか?』


 セネリがメアリアに念を送った。


 だが、


『加勢など要らぬわ』


 そうソルディアナが念を送ってきた。


『しかし、このままでは……』


 メアリアがそう答えると


『あ奴は我の血を飲んだ男の息子なのであろう? なればその力を受け継いでいるやもしれん。先程の受けが良い証左よ』


 並の人間ではどんなに鍛錬を重ねた所であの剣戟にはついて行けないだろう。


『では……』


『とは言え使えたとしてもその力は極めて限られるじゃろうな。後は本人次第よ』


 その時、セイミアが声を挙げた。


「レノクロマ! 自分を信じなさい! そして勝ちなさい!」


「!」


 その声を聞いたレノクロマの気が変化した。

 もし、その気が見えるとしたら青かった気がセイミアが纏う礼装と同じ赤に変わっていただろう。


「「ほぉ」」


 ドルミスノとソルディアナから同時に感嘆の声が挙がる。


「成る程なぁ、だがこれが躱せるかな?」


 そう言ったドルミスノが滑り込むような斬撃を送って来た。


 その刹那、


 逆に踏み込んだレノクロマのゴシュニが瞬息の速さで斬りあがる。


 ギキィイイイン!


 凄まじい音が響き渡りゴシュニとレボンニウが噛みあった。


森羅烈風ヴォルテクォロン?」


 セネリが呟いた。

 相手の先の先を取ってカウンターの斬撃を送る技だがドルミスノの速さに受け止めるのが精一杯。


「! やるようになったなぁ、だが受けているだけでは勝てんぞ!」


 そう言ってドルミスノはレノクロマを弾いて間合いを取ると、足を大きく開きレボンニウを後ろに反る様に構えた。


 レノクロマの額に汗が流れる。


 師匠ドルミスノの奥義、「星崩し(シャゴナ)


 ついにレノクロマが一度も避けも受けも出来なかった技だ。

 木剣を使った稽古ですら剣風を受けただけで吹き飛ばされ、三日は全身の激痛で寝込んだ程の大技。


 例え剣技複製を使って同じ技を使っても技の練度でレノクロマは負けるだろう。

 この土壇場で竜の血を飲んだ者の資質が開花したとは言え、それはソルディアナの言う通り辛うじてドルミスノの剣戟に反応できる程度でしか無い。


 あれを凌駕する技……。


 一つだけある……。


 使いたくは無い……。


 だが迷っている時間は無い……。


 レノクロマは剣をだらんと下げた。


「あれは……」


 メアリアが呟く。

 彼女にはその構えにも見えないその構えの意味が良く分かっていた。


「む?」


 レノクロマの姿勢にドルミスノが戸惑った一瞬の隙にレノクロマが滑るように近づいていく。


 これは!?


 ドルミスノにはその動きが読めない。

 否、辛うじて陽炎のようにぼやけたレノクロマの姿が幾つもの姿に別れた。

 まるで分身の術のように。


 洒落臭い……!


 ならば全部を纏めて叩っ斬れば良いだけのこと……。


 だが何かが違う……。


 そして……。


 その一瞬の迷いの隙に不意に陽炎が消え、目前に実体のレノクロマが湧き出てきた。


 そのまま間合いに入り死角である下段からの斬撃がドルミスノに放たれる。


 それはダイゴの技、雲鷹の捌きからの宵斬月。


 ダイゴから教えを受けたメアリアのそれを『剣聖』バルジエは辛うじて避けたが、『剣技複製』でダイゴと同じ技の切れを見せるレノクロマのそれは正確に、吸い込まれるようにドルミスノの首筋を襲う。


 喰らう!?


 だがゴシュニの切っ先はドルミスノの首筋に少し喰い込んで止まった。

 いや、レノクロマが止めたのだ。


 暫しの静寂がその場を包んだ。


 皮一枚が切れたせいか、ドルミスノの首筋に血が流れた。


「……なぜ斬らない? そうは教えてないぞ?」


「師匠の剣は殺気が全くない……殺気の無い者は……師匠は斬れない……」


 レノクロマが首を振りながらボソリと言った。


「何故だ……師匠……」


 今にも泣きそうな、初めて二人がであったときのような声だった。


 相変わらずコイツは優しすぎる……。


 そんな所は母親のカルネラそっくりだった。


「ふう」


 ドルミスノはそう息を吐いて切っ先を外した。


「負けだ負け。ついにレノクロマに負ける日が来るとはなぁ」


 取り出した手巾で首筋を拭うとサバサバとした表情で言った。


 レノクロマは剣を構えたまま呆然と見ていた。


「あん? もうやらんぞ? 剣をしまえ」


「師匠……何故だ?」


「何故もへったくれもあるか」


 レノクロマは己が、そして親友が一番愛した女の願いの結実だ。

 それをどうして斬れよう。


 レノクロマの母カルネラが死んだのをドルミスノは旅先から戻った後に知った。

 急いで村に行くと既にレノクロマは孤児院に引き取られた後だった。


 せめて自分が付いていればと後悔もした。

 だからレノクロマの剣術指南をソルネアから懇願され、迷うことなく引き受けた。


 幼いレノクロマは自分の身の丈よりも長い剣を必死で振るい、ドルミスノの厳しい修業の旅に付いてきた。


 それが自分の父を討つためだとドルミスノには分かっていたが何も語らず、ひたすらに剣を教えていった。


 やがて時は流れ、カーンデリオに戻ったレノクロマはそのまま第十軍の将に取り立てられ嫉妬や誹謗の波を被りながらも、父を討つために鍛えた剣技をその父の覇業のために振るった。


 一つには自分を迎え入れてくれたセイミア達ビンゲリア家の為。

 もう一つはいつか来るであろう「その時」の為。


 そして遂に最初で最後の「その時」が訪れたのだが。


「レノクロマ、行って良いぞ。だが今のお前でもあの二人の間に割って入るのは無理だろうけどな」


「師匠……」


 レノクロマは頭を下げると、謁見の間に駆けて行った。






 ガランとした謁見の間。


 今ここにいるのはダイゴとバロテルヤの二人だけ。


「アンタが皇帝陛下か?」


 物差しを肩に乗せてダイゴが聞いた。


「そうだ。お前がダイゴとやらか」


 玉座の上で変わらず肩肘をつきならがバロテルヤが答えた。


「ああ、帝国はこの通りだ。アンタはどうするね?」


「一つ聞かせろ。お前は何処から来た?」


「日本。こことは違う世界だ」


「成程、異界人と言う訳か」


「随分造詣が深そうだな」


「異界、特にニホンと言う所から稀に人が流れてくる話は聞いている。だがお前の様な異能の力を持つとは聞いておらんな」


「だろうな。俺がちょっと特殊過ぎなんでね」


「そうか」


「で、どうすんだ?」


「儂は皇帝だ。むざむざと恥辱を選ぶと思うか」


「思わんね」


「そう言う事だ」


 そう言ってバロテルヤは立ち上がると壁に掛けてあった二本の剣を取る。

 と、その視線はダイゴの後ろを見ていた。


「ん?」


 ダイゴがふりかえるとエルメリアが佇んでいた。


「何だ、待ってろって言ったのに」


「申し訳ありません、しかし、ご主人様を名代として立たせているなら立ち会わねばと思いまして」


「全く……良いかい、皇帝陛下」


「そなたは……エルメリア女王か……、好きにしろ」


「皇帝陛下のご厚情、心より感謝致しますわ」


 エルメリアが深々と頭を下げた。


「では始めるか」


「敬意を表して……」


 その瞬間バロテルヤが消えた。


 ギャキィン!


「ふむ……」


 叩きつけるような双剣の一撃をダイゴは物差し一本で受け止めた。


「やっぱりそうきたかい」


「初手撃ちは剣技の基本ぞ?」


「そうかい」


 そう言って放った一撃をバロテルヤはもう一本の黒剣で受ける。


「異界人よ! お前は何故に滅び行く王国に手を貸した!」


「ああん? 決まっている! 困っている美人の頼みを断る事は出来ない性分でね!」


 バロテルヤの連撃をダイゴが弾く。


「ふん! それを成就した後その人智を超えた能力をどうするというのだ!」


「どうもしないね! 好きなように生きるだけだ!」


 続いて突き込みを捌く。


「その為に世界を敵に回してもか!」


「降りかかる火の粉は払う! あんたら帝国のようにな!」


 太鼓を叩くかのような左右上段からの連撃を凌ぎきってダイゴが間合いを取った。


「ふう、何て馬鹿力だい」


 そう手を振って言った。


「お前が儂の代わりに覇道を世に示すというならそれも良かろう」


「生憎だが俺は皆が笑って過ごせる世の中にしたいだけだ」


「ふっ、異界の民は斯様な夢物語を語るか」


「確かにな、俺のいた世界でも難しすぎる話だった。でも賭けちゃいけないって事は無いだろ?」


「民の安寧を求めるのが施政者の道理! だが喜怒哀楽あってのこの世よ! 喜楽のみの楽園等所詮夢にしか過ぎぬわ!」


 そう言うやバロテルヤの姿が消えた。


 と、背後に現れた瞬間


波動ヴェクテ!!」


 ズクンという衝撃がダイゴを襲い、次の瞬間完璧な筈の絶対物理防御ごと壁面に叩きつけられる。


「な……」


「ふっ、貴様の魔法の鎧が如何に強固であっても破る術が無い訳では無いのだ」


「……コイツは驚いたな」


 そう言ってダイゴは再び物差しを構えた。


「芸が無いな! 失望したぞ!」


 バロテルヤは今度は正面から瞬足で間合いを詰め、剣に乗せた波動を放つ。


 バキィイン!


「ぬうっ」


 今度はダイゴが弾かれること無く、二本の長剣が肩口で止まる。

 受け流した衝撃が床石を砕いた。


「どうやら発勁の一種みたいだが、ネタが分かればどうって事無いな」


「ぬうっ」


「夢を追いかけのるが人だろ? 今度はこっちから行くぞ」


 だらんと物差しを下げたダイゴが滑るような足捌きでバロテルヤに迫る。


「ぬうううううっ!」


 視覚的にダイゴを追えないと分かるやバロテルヤはダイゴの気に目掛けて双剣を振るう。


 ギキィイイン!!


「へぇ、やっぱ大したもんだ」


 双剣を物差し一本で受けたダイゴが感嘆の声を挙げた。


「むううう!」


 黒剣クロネラでダイゴの物差しを押さえ、バロテルヤは自身の剣バーシュネをダイゴに突き込む。


 だが剣先はダイゴを貫くこと無く止まったまま。


「でぇええぃ!!!」


 その状態でバロテルヤは渾身の気を発した。

 その気が生んだ威風が謁見の間をも揺るがす。

 だが入り口で見ていたエルメリアはたじろぎもせずに真っ直ぐ二人を見ている。


 せめぎ合うバロテルヤの威風とダイゴの絶対物理防御。


 バキィン!


 だが、その強大な力に挟まれたバーシュネが砕け折れた。


「くっ!」


 飛び退きながら折れたバーシュネを投げ捨て、クロネラを構える。


「最後にもう一度だけ聞く。降る気は無いか?」


 再び物差しを下げた姿勢でダイゴが聞いた。


「くどい。皇帝は降ることなど許されないのだ。貴様も良く心得ておくがいい」


 何から許されないのか、何故に許されないのか、それはバロテルヤにも分からない。

 強いて挙げればそれは彼自身の矜持。

 例えその選択肢が許されたとしても、彼は選ばなかっただろう。


「ふうん、因果な商売なんだな。皇帝ってのは」


 そう言ったダイゴに、


「フッ、フハハハッ! そうか、商売か。成る程異界人は面白いことを言う」


 そう莞爾と笑った次の瞬間には今までの爆発する溶岩の如き剣気が、スッと清流の如く研ぎ澄まされていく。


 この一撃で彼奴の防御を断ち裂く……。


 クロネラよ……。


 手に持った黒剣、最愛の女が今際の際まで振るっていたそれに嵌まっている朱色の魔石が淡く光った様にバルテロヤは見え、誰かの手が己が手に添われた気がした。


「しゃっ!」


 鋭い、極限まで研ぎ澄ました針の一閃が如き気合いと共にバロテルヤは黒剣クロネラを突き込む。


 キィィィイイイイイン


 回転しながらそれは脇で佇んでいたエルメリアの前に突き刺さった。


「無拍子」


 そう言ったダイゴの物差しが、徒手となったバロテルヤを貫いている。


 だが!


「ぬおおおおおおおっ!」


 刺し貫かれてなおも気を高めて振るったバロテルヤの右拳。

 それは確かにダイゴの頬を捉えた。


「ふん……己が語った夢……叶えて見せよ」


 ニヤリと笑いながらそう呻くとバロテルヤは仰向けに倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ