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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第六章 センデニオ激闘編

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第七十三話 竜息

 センデニオ南東の丘陵地帯。


 ボーガベル軍陣地。

 既に全ての兵が準備を整え、出陣の時を待っている。


 輜重隊は既に後方に退避し、ガラノッサの本陣は第二兵団の重装騎士達が二十名ほど固めていた。


「さてと、戦の作法に則りファシナとやらに啖呵切ってくるかね」


 いつもの調子で馬に跨ったガラノッサが言った。


「某も同行致しますが、くれぐれも油断なされぬよう」


 本来は将自ら出向く必要は無いのだが、ガラノッサは好奇心と悪戯心が常に同居している男だ。

 アラモスも十分にそれを承知して言った。


「ああ、心得てるよ」


 そう言って二人は馬を走らせる。


「ダイゴ候が一緒でしたら心強かったのですが」


「馬鹿いうなよ、大将は本丸カーンデリオ攻めの下ごしらえがあるんだ」


 更には竜に対する備えもある。

 下手に竜に警戒されて帝都に引き込まれないよう、第二兵団は竜に対する餌の役目も兼ねている。

 これはガラノッサ自身が言い出した事だ。


「それに、臣下がいつまでも大将におんぶにだっこじゃ駄目だろ? 折角ゴーレム兵まで付けてくれたんだ。俺達で竜を引っ張り出した上でセンデニオ位は落さんとな」


「確かに、面目が立ちませんな」


 帝国の陣に近づくとすぐに、ガラノッサは帝国軍の尋常ならざる様子に気が付いた。


「何だアイツら……」


 帝国軍の前衛にいるのは全身黒光りする鱗を纏った、兵士なのかすら分らぬ異形の者達。

 ガラノッサは彼らのすぐ手前まで近づき、馬を止めた。


「ガラノッサ様!」


 アラモスが叫んだ。


 ガラノッサにしてみれば異形の兵士を間近で見たい思いからだが、アラモスには無謀な行いにしか見えなかった。


 だが異形の者、竜人兵達は微動だにせず、ガラノッサを見てもいない。

 ただ遠くの地平を見つめているだけだ。


 この感じ……大将のゴーレム兵と同じじゃねぇか。


 ガラノッサの背筋に冷や汗が流れる。


 帝国もゴーレム兵と同じ戦力を持ったというなら、戦いの趨勢は分らなくなる。


 だが、一体……まさか……。


 疑念をひとまず抑えて、ガラノッサは声を張り上げた。


「ボーガベル王国第二軍の将、ガラノッサ・マルコビアが汝等に告げる。直ちに降伏し街をあけ渡すべし。さすれば兵の撤退は認めよう。また抗うのであれば一戦するも良し。否か、応か?」


 すると、竜人兵達が道を開け、奥から白馬に乗った女傑が周囲に四騎、深紅の鎧の重装騎士達を引き連れやって来た。

 本人は深紅の戦闘礼服のみを着て、鎧の類は一切付けていない。

 短く刈った髪に薄くさした紅が不思議と似合っている。

 いかにも勝ち気そうなつり上がり気味の目が、こちらを注意深く値踏みしている。


 こいつがファシナか。


 ガラノッサが腹の中で唸った。

 グラセノフ達からファシナの事は聞いてはいた。


 自身の家の為、平然と自分の身体を実の父親である皇帝に捧げた皇女。


「エドラキム帝国第一皇女ファシナ・ラ・デ・エドラキムが返答仕る。我が帝国にはボーガベル如きに渡す土地は微塵も無し。死の屈辱を欲したくなければ、即刻逃げ帰るが良い」


 ガラノッサに負けぬ通った声でファシナは言った。


「ほお、アンタがファシナか。随分と帝国兵も様変わりしたんだな」


「貴公がバッフェ没落の張本人、カスディアン候ガラノッサ・マルコビアか。もはやボーガベルが優位にあるなどとは思わぬことだ」


「なるほど、面白そうなモノを仕入れたようだな。では全力で当たらせてもらうわ」


「是非も無し」


 ガラノッサはにやりと笑うと、馬を翻して自軍に戻っていく。


「肝が冷えましたぞ」


 アラモスが馬を寄せた。


「戦力はこっちの方が倍以上だが、気を引き締めろよ。アイツらはヤバい」


 ガラノッサは真顔で言った。




『何だって?』


 自陣に戻ったガラノッサから小型トーカーを通して報告を聞いたダイゴは、思わず聞き返した。


『だから、こっちのゴーレム兵と似たようなのが向こうさんにもいたんだ。数はざっと見てほぼ同じくらい』


『マジか……』


『こりゃあ一筋縄じゃ行かないな』


『分かった。ちょっと対策考えるわ』


『頼むぜ』


 そう言ってガラノッサの持つ小型トーカーの念話が切れた。


「そんな……向こうもゴーレム兵を?」


 一番に切り出したのはやはりセイミアだった。


「その様だな。昨日昼間時点で偵察型擬似生物ドローンが見つけられなかったんだ。まず間違いない」


「しかし、一体……」


「やっぱ竜だろうなぁ」


「では、ご主人様と同じ力を?」


「それは分らん。同等の力を持つのはいないはずだがね」


『神様』の話で俺と同じ神の代行者はいないと聞いていたが、それに近い能力を竜が持っているのは間違いなさそうだ……。


 問題はそれがどれ位のものか……。


 ダイゴが考えを巡らせる。


「では……」


「うん、相手の実力はゴーレムと同等か上と見積もって作戦の修正だ。出来るな?」


「畏まりましたわ」


 すぐさまセイミアは羊皮紙の束を持ち出し作戦の修正に取り掛かる。


「ご主人様、やはり我々も前線に出た方が良いのでは?」


「メアリア、セネリは予定通り待機だ。今回はあくまで第二兵団主体の作戦だし、二人はその後が本番だからな。だが状況によっては出てもらう」


「分かった」


「いつでも出られるようにしておく」


 相手が竜という事もあり、二人の顔にも緊張が浮かぶ。


「ご主人様、特型魔導輸送船の使用許可を頂けますか」


「アレを使うのか」


「はい。第三計画を少し直しました。ですが……最悪……」


 セイミアが言い淀んだ。


「分かってる。気にするな」


「申し訳ありません……」


「その為のゴーレムなんだ。判るな」


 セイミアは黙って頷くだけだった。




「良いかお前達!」


 魔導拡声器を使わずともアラモスの声は傭兵達五千の耳に良く通った。

 セイミアが修正した作戦はすぐさまガラノッサを通してアラモスに伝えられた。


「これから行う作戦は恐らく今までで一番の難度だ。何せ伝説の竜を引っ張り出そうってんだからな!」


「竜とどうやってやりあうんで!?」


「お前ら自慢の聖剣……と言いたい所だが、どいつもこいつも寸が足りねぇ」


 皆がドッと笑った。


「そこで俺達は第一兵団の後ろでそれらしく騒いで、竜がお出ましになったら即座に撤退する」


「戦闘は?」


「向こうさんは薄っ気味悪い連中がいた。あんなのと関わることは無い。ただ弓での攻撃はきちんとやっておけ」


 各自に事前に短弓と矢筒が渡っている。


「竜の息ってのがどれ位のもんかまだ分からんが、少なくともゲドスンの息よりはひでぇだろう」


「あんまりだそりゃ!」


 ひょろ長い背丈に朴訥な顔の傭兵ゲドスンが喚き、また笑いが起こる。


「正規兵のひよこ共じゃ、そろいもそろって丸焼きになりに行くようなもんだ。だから俺達だ。分かるな?」


「「「「応!!!!」」」」


 全員が一斉に応えた。


 戦いの銅鑼が打ち鳴らされ、第一兵団のゴーレム兵二千が戦場を駆けていく。

 いつもと同じ様に幅広だが、縦にも距離を開けている。


 少し離れて傭兵達五千が続く。

 だが主力の第二兵団は動かない。




「やはり、全軍は動かさぬか……」


 モルトーン上のファシナは遠眼鏡でボーガベル軍の動きを、苦虫を噛み潰したような顔で見て言った。


 デグデオの一件でボーガベル側に竜の存在を知られてしまった結果がこの布陣なのだろう。

 でなければ戦力の大半を温存などという愚行は絶対にしない。

 更には竜人兵を警戒されたか。


 だが、問題はあるまい。


 こちらには黒竜が付いている。


 いざとなれば……。


「ふん、まとめてやって来ずに残念だったのう」


 まるで他人事のようにソルディアナが言った。


「仕方ありませぬが、お授け頂いた竜人兵があれば」


「ふん、そうじゃな」


 そう言ったソルディアナに呼応するかのように竜人兵達も黒い剣を構え、ゴーレム兵達に向かっていく。


 先頭同士が交錯した。


 ギキキン! キン! ギキン!


 激しい音が響き、剣と剣が噛みあう。

 すかさず両者が二撃目、三撃目を送るが、それも噛みあう。

 実力はほぼ伯仲していた。


 戦場はゴーレム兵と竜人兵が冷徹な機械の如く、ひたすらに剣戟を繰り出していく壮絶な斬り合いになった。

 だが討たれて倒れる者はいない。


 ゴーレム兵の鎧も竜人兵の鱗も、お互いの剣を通さないのだ。

 互いに関節や喉元、股間などを狙うが、それは全て外される。


 異様な光景とも言えた。




「参ったな。完全にゴーレムと性能は同じか」


 ダイゴが偵察型擬似生物ドローンから送られてくる戦場の様子を見て唸った。


「敵が混戦になってから出していたらマズかったよなぁ」


 そうなればゴーレム兵でも一般兵を守り切るのは難しかっただろう。


「私が知るファシナ姉様でしたら絶対、一般兵を先に出したはずですが……妙ですわ」


 セイミアが首を傾げる。


「作った奴の意向が働いているのか、もしくは……」


「もしくは?」


「早く使いたかった」


「そ、それではまるで……」


 子供では無いですか、ファシナ姉様に限って……。


 そう言おうとしてセイミアはハッとなった。

 ファシナは確かに策謀を好むタイプだが、徒に兵を消費する程では無い。

 だが、敵の謎の兵士がそれ相応の力を持つなら、初っ端からゴーレムにぶつけてきても不思議では無い。


「まぁ、お陰でこっちは無駄な損耗を避けられるんだ。ただ向こうのゴーレムモドキと伯仲してるのは計算外だったな」


「……魔法を使う?」


 シェアリアが尋ねたが、


「いや、まだだ。竜の実力を測らない内は使えないな」


 ダイゴは困ったように言った。


 デグデオで竜を見た時、当然のようにダイゴはステータスを見た。


 殆どの数値は概ね見た目通り。

 肝心の技能スキルは、


 魔法防御

 物理攻撃防御

 自己再生


 そして攻撃に関しては、


 竜息(波状)

 竜息(弾状)


 とあったが威力などは出て来ない。


 物理も魔法も効きにくい上に自己再生か……敵としては厄介な相手だ。


 ダイゴは考えこむ。




 遅れて追い付いた両軍の兵だったが、傭兵達は合図と共に矢を帝国側に向けて射かけた。

 無論相手は竜人兵では無く、その後方で戦いを見ている帝国兵だ。

 ゴーレム兵と竜人兵の戦いに迂闊に近づけば、待っているのは死だけである。


 この距離で矢を射かけられると思わなかった帝国兵達は慌てて盾を構えだした。

 だが、矢に当たって斃れる者も出て、帝国兵は後退を余儀なくされる。


「やっぱ駄目だなぁ」


 矢を番えながらゲドスンが呟いた。

 物は試しと竜人兵に射掛けたが、頭に当たった矢はそのまま弾かれた。


「何なんだよ、アイツら」


「ゲドスン! 矢をむだに使ってんじゃねぇ!」


 別の傭兵に怒鳴られ、ゲドスンは再び帝国兵達に狙いを戻した。




「ふむ、互角とはな。少々目算が狂ったか?」


「『例の兵士』はまさか……」


 竜人兵と互角。

 そこから導かれる答えは少ない。


「ふん、あれは人形よ」


「人形!? 人ではないのですか?」


「当たり前じゃ。あのような膂力を持った人間がそうそうおるものか。あれは魔素によって動く魔導人形という物よ」


「その様な物が……」


「過去何人もの魔導士やらが実現させようとして果たせなんだようじゃが、それを成し遂げたという事じゃな」


「そんな……」


 ダイゴ・マキシマが高度な魔法を操るとは聞いていたが、まさかそこまでの者とは……。


 だが……こちらには竜人兵がある。


 そして……。


 そう考えたファシナが口を開く。


「このままでは埒があきませぬな」


「ふん、それは催促しておるのか?」


「いえ、ただこのままでは……」


「まぁ元よりあ奴等は約定の内じゃ。構わんがな」


「ただ、竜人兵はよろしいので?」


「ふん、あ奴等は魔導人形共を足止めしておく必要がある。自分達の兵を巻き込みたくなければ、さっさと下げるのだな」


「分かりました。兵士達を下げよ! 気取られるなよ!」


 期待に興奮したファシナは部下に声を張り上げ指示を出した。




「ん?」


 異変を最初に感じたのはガラノッサだった。

 騎馬に乗り、中段後方に位置していたガラノッサは、拮抗しているゴーレム兵と敵の怪人兵士の戦いの向こうで帝国兵が徐々に距離を取っているのを見た。


 一見、こちらの傭兵が放つ矢を避けて後退してるようにも見えるが、何処となく違和感がある。


 嫌な予感がする……。


 ガラノッサは自分の勘に忠実な男で、幾多の戦場でそれで命を拾ってきた。


 初めてデグデオの酒場でダイゴを見た時も、この男と組むべきだという勘が働いた。


 肝心の竜の姿が見当たらなかったので、幾分安堵していたが、ふとダイゴの『転送』を思い出した。


 まさか……。


 ガラノッサは小型トーカーに話し掛けた。


『大将、聞こえるか? どうも潮時らしい。敵が後退を始めている』


『つまり黒竜のお出ましって訳か。兵を下げろ。こっちで陽動を掛ける』


『分かった』


「青旗を掲げろ!」


 ガラノッサが叫んだ。


 即座にボーガベル軍の陣数か所から青い旗が掲げられる。

 これは『スミヤカニ撤退セヨ』の意味だ。


「撤退! 撤退だ!」


「慌てるな! 速やかに撤退!」


 部隊指揮官が叫び、まず後方で待機していた一般兵が撤退を開始した。

 後方の兵から向きを変え、次々と撤退していく。


 ゴーレム兵と傭兵は前線にいるままだ。


「すまんなアラモス。傭兵達には貧乏くじを引かせそうだ」


 ガラノッサは脇にいたアラモスに言った。

 正規兵の撤退が完了するまで傭兵達は前線で踏み止まる必要がある。

 でなければ帝国の様に撤退を悟られてしまう。


「なんの、これが傭兵の本懐ですわ」


 アラモスは傷だらけの頭をツルリと撫でて笑った。


 その時、後方から八つの飛行物体が飛来してきた。

 特型魔導輸送船だ。


 それを見た帝国兵達から驚きの声が上がる。

 そしてモルトーンの上部で戦況を見ていたファシナも。


「あれは……あれがボーガベルの空飛ぶ船か!」


 ファシナが叫んだ。


 バロテルヤが最重要対象としたボーガベルの空飛ぶ船。

 神話の物語にある、神を乗せて世界を行き来したという神の箱舟。

 まさにそれがボーガベル軍の後方に突如現れた。


 だが乗っているのは神ではなく、ボーガベルの兵士だろう。


 そして目標は……センデニオ……いや……。


 ファシナは考えを巡らせ、愕然とした。


「まさか……このまま我々とセンデニオを抜いてカーンデリオに強襲を掛けるつもりか……」


 十二分に有り得る話だった。

 ここでボーガベル主力兵団と戦っている間に、あの空飛ぶ船は悠々とカーンデリオを襲うだろう。

 もしあの船に乗っているのが魔導人形とやらなら、サクロスの第二軍など一溜まりもあるまい。


「ソ……ソルディアナ殿! あ……あれを……あの空飛ぶ船を落としてくだされ!」


「ふむ、あれが例の空飛ぶ船か? 二つ揃うとはな」


 そう言ってソルディアナはモルトーンの最上階に立つや叫んだ。


「竜化転身!」


 光がソルディアナを包み、着ていた礼服だけが地に落ちた。

 直後、眩い光を放ちながらモルトーンの上空に黒竜が姿を現した。


「オイオイオイ! あ、ありゃあ……」


 ガラノッサは絶句した。


 突如、帝国の陣の奥で眩い光が放たれた。

 あの姿を実際間近に見るのは当然ガラノッサも初めてだったが、何かは間違いなく分かった。


 伝説の地の竜だ。

 何物をも焼き尽くす息を吐き、一国を数日で焼き滅ぼしたという。

 それが本当なら……。


「アラモス! 撤退……いや、逃げろ! 傭兵も全員逃げるんだ! あれは不味い!」


 それを聞いたアラモスは即座に行動に移す。

 馬に鞭を入れ、逆に前線に走って行く。


「あんの馬鹿!」


 ガラノッサが叫んだ。

 アラモスの意図が明白だったからだ。


 追おうとしたガラノッサは周囲の護衛騎士達に体当たり同然に止められた。


「ガラノッサ候! ここは!」


「くっ!」


 屈強な護衛騎士五人がかりで止められたガラノッサは、アラモスを目で追いながら引き摺られるように後方に下がっていった。


 突如現れた黒竜の姿を見て、歴戦の傭兵達の多くも呆然と竜を見ていた。


 前線に着いたアラモスは馬を降りると叫んだ。


「撤退! 撤退だ!」


「あ……」


 脇にいたゲドスンが呆然と竜を見ていた。


「この馬に乗れ!」


「ア……アラモス様」


「呆けてるな! 早くしろ!」


 アラモスはゲドスンを馬に担ぎ乗せると尻を叩いて後方へ走らせた。

 そして黒竜を見て怯えすくんでる他の傭兵達を叱咤し、ぶん殴って後方に押しやる。


 アラモスの怒声に漸く我に返った傭兵達は即座に行動に移し、脱兎のごとく撤退を始めた。


「アラモス様もお早く!」


「俺の事は良い! とにかく逃げろ!」


 そう言った途端に後方で閃光が奔った。

 黒竜が竜息を吐いたのだ。


「!」


 竜息はアラモス達の遥か頭上を超え、彼方の上空の魔導輸送船を襲った。


「ああ!」


 傭兵達が叫んだ。


 竜息の直撃を受け、魔導輸送船が火を噴き破壊されていく。


 薙ぎ払うように吐かれた竜息によって次々と火を噴く魔導輸送船。


 そこにいる者達が初めて目の当たりにする圧倒的威力。


 それは帝国兵達も同じだった。

 そしてモルトーン上のファシナも、恐怖の為か全身が震えるのも構わず、魂を奪われたように上空の空飛ぶ船が火を噴く様を見つめていた。


「これ……が……」


 火を噴いた魔導輸送船は次々と大地に激突し、粉微塵になりながら燃え上がっていく。


 全ての魔導輸送船が墜落したのを確認した黒竜が再び口を開け、二射目の竜息が竜人兵ごとゴーレム兵を襲い掛かり、戦闘中のまま光芒に飲まれていく。


「!」


 左後方に放たれた竜息がゴーレム兵達を飲み込みながら徐々に迫り、最後尾にいたアラモスがとうとうその光に飲まれそうになった。


 ここまでか!


 思わず目を瞑るアラモス。


 死の恐怖など微塵も無かった。

 ただ盟友の息子ガラノッサが陪臣とはいえ世界を駆ける姿を、これ以上見れなくなる事だけが心残りだった。


 と、頭に角を付けた指揮官型のゴーレムがアラモスをひっ掴むと、思い切り後方に投げ飛ばした。


「なっ!?」


 百メルテ以上も投げ飛ばされ、受け身を取って転がりながら着地する。

 それでも左足と右手の骨が折れたようだ。

 激痛と今まで体験したことの無い熱波の中、地面に転がったアラモスはゴーレム達がアラモスの為に壁になっているのを見た。

 魔導核に損傷が起こったのか、徐々にゴーレム達の身体が崩れていく。


 と、アラモスの脇にダイゴが現れた。

 そのままアラモスをひっ掴むと転送を開始する。


 ダイゴとアラモスは崩れていくゴーレム達が親指を出し、サムアップをしながら灼熱の炎の中に消えていく様を最後に見た。






「ご主人様ァ!」


 アジュナ・ボーガベルに転がるように転送してきたダイゴとアラモスを見てクフュラ達が悲鳴を上げる。


「……俺は大丈夫だ。エルメリア、アラモスを」


「畏まりました」


 竜息の範囲外に弾き飛ばされたとはいえ、アラモスは骨折に加え、全身に酷い火傷を負っていた。

 すぐにエルメリアが治癒魔法を掛ける。


 所々炭化しかけていた酷い火傷が徐々に修復されていく。


「ううっ……ダイゴ候! ガラノッサ様は!? 兵は!?」


 そんな状況にも拘わらずアラモスが喚いた。


「大丈夫だ……兵達もガラノッサも……大丈夫だ……」


 絞り出すようにダイゴが言った。

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