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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第六章 センデニオ激闘編

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第七十一話 魔獣ゲルフォガ

 トーカーの放送や俺達の誘導によって大半の住民たちは屋内に避難したが、まだ広場にはかなりの人数が残っていた。

 ゲルフォガ達は剣を持っている俺達より非武装の住人達を狙っている。


「早く屋内に入れ! 喰われるぞ!」


 俺はそう叫びながら右手で黄色の魔法陣を展開した。


「『雷電ライディーン』!!」


 魔法陣から放たれた雷がゲルフォガの一匹に直撃した。


「ギギャアアアア!」


 黒焦げになったゲルフォガが広場に墜落する。


「ほう、無詠唱の魔法も使えるのか」


 また感心するようにソルディアナが言った。


「色々器用なんだよ。うりゃ!」


 次々と降下してくるゲルフォガに俺達は『雷電ライディーン』を放つ。


『火魔法は使うな! まかり間違って、火の付いたゲルフォガが地上で暴れ回ったら目も当てられないからな』


 俺はシェアリア、セネリ達と次々とゲルフォガを叩き落とし、メアリア達は住民の避難誘導と墜落したゲルフォガの生死を確認する。


 雷の対空砲火を抜けた一匹が転んで泣いている子供目掛け突っ込んできた。


「せいっ!」


 すかさずメアリアが滑り込みバルクボーラを薙いでゲルフォガの首を飛ばす。

 首を失ったゲルフォガは暫く羽根をばたつかせて暴れたがやがて動かなくなった。


「早く隠れろ!」


 メアリアがそう言うと子供はやっと立ち上がり、泣きながら近くの建物に入っていく。


 上空でゲルフォガ達の甲高い警戒の鳴き声が響いた。

 だが人間たちが空を飛べないのを知っているのか逃げ出そうとはしない。


「くそ、いかんせん数が多いな」


『ご主人様、シルベスター、アーノルド両隊に援護命令を出しましたわ、もう少々持ちこたえて下さい』


『おう、セイミア、助かる』


 デグデオ郊外に停泊しているアジュナ・ボーガベルからカーペットで急げばさほど時間は掛からないだろう。


 しびれを切らしたのかゲルフォガ達が次々と降下を開始した。

 どうやら上空も安全ではないと判断したようだ。


 真っ先に着地した二匹が武器を持っていないシェアリアに襲い掛かる。

 だが待っていたかのようにシェアリアは両手に青い魔法陣を展開して叫んだ。


「『激流障壁アクアスライダー』!」


 一瞬で吹きあがった水の壁にゲルフォガ二匹の身体は忽ち分断された。


 更に短剣ならば危険は少ないと判断したのか数匹が今度はワン子とニャン子の傍に着地した。

 一匹が嘴と言うよりは鰐のような口でワン子を噛みつこうとする。


 とワン子が後ろ回し蹴りを放ち膝の後ろでゲルフォガの首を絡めとると反対の足で首の後ろに蹴りを放つ。


 ゴキリッという音と共にゲルフォガの首がねじ曲がった。


「むぅ~よっくそんな臭そうな魔獣に組付ける……にゃ」


 脇で住人を建物に押し込んでいたニャン子が言った。


「でも私達の短剣で斬るよりこっちの方が早いですよ?」


「それはそうなんだけど……まぁ帰ったらすぐお風呂に入る……にゃ!」


 そう言ったニャン子が襲い掛かって来たゲルフォガの下あごに蹴りを見舞う。


 勢いでビンと伸びた首に素早く足を絡め、ポールダンス宜しくクルっと回るとそのまま首をへし折った。


「むぅ~、何か虫とか付いてそう……にゃ」


 そう言いながらも喰いつこうとしたもう一匹のゲルフォガの首を押さえると脳天に得物を突き刺した。


 そうこうしているうちに周辺から矢が上空に残っていたゲルフォガを落し始めた。


『マスター、遅れて申し訳ありません』


 シルベスター・ワンからの念話だ。


「いや、構わん。シルベスター隊は周辺のゲルフォガを撃ち落とせ。アーノルド隊は住民の安全確保と地上のゲルフォガの掃討』


『『了解』』


 シルベスター隊が持っているのは対魔獣用の大型弓で、頭部に当たれば一撃でゲルフォガ程の魔獣でも倒せる威力があり、並みの人では弦を引くのも難しい代物だが、擬似人間レプリカントのシルベスター達は楽々と引く事が出来る。


 周辺を飛び回っていたゲルフォガが次々と射落され、墜落した物はアーノルド達がとどめを刺していく。



「ご主人様~遅くなりました~ウチもお手伝いします~」


 そう言って走ってきたのは商工組合に行っていたメルシャだった。

 手には例の家宝のメルクヮマヴァルを持っている。


「お前何だってそんなもん持ってるんだよ」


「ああ~何か商工組合の人が是非見たいって言ってたんで~」


 メルシャが二つの円盤をシンバル宜しくカンカンと打ち合わせた。


「構わんが無茶するなよ」


「大丈夫です~今こそこれの真の力を見せる時です~」


 そう言うや丸い盾から驚くほど長い鞭状になったメルクヮマヴァルはメルシャに向かって飛んできたゲルフォガの首に絡みついた。


「ポーレ(ひとーつ)」


 そう言うやゲルフォガの首がスッパリと飛び落ちる。


「パーミヤ(ふたーつ)」


 もう一本の鞭が別のゲルフォガを捉え、やはり首を落とす。

 メルシャは地上でセネリ達と戦ってる群れに駆け寄っていくと一匹の首に鞭を巻いた。


 驚いたゲルフォガが空に飛び上がりメルシャも一緒に引き上げられる。


「メルシャ!」


 セネリが叫んだ。


 だが、


「だ~いじょ~ぶで~すうううううう~」


 と、何とも間の抜けたような返事が返ってきたと思いきや、


「トーリン(みーっつ)」


 と言う声と共にメルシャを引き上げてたゲルフォガの首が落ち、メルシャは別のゲルフォガに鞭を巻いてぶら下がっている。


 そのメルシャに次々とゲルフォガ達が群がってくる。

 だがメルシャは全く臆する様子も無く鼻唄でも歌うように数をかぞえながら次々と

 空中でゲルフォガを斃していく。


「フューレ(よーっつ)」

「ホトーク(いつーつ)」

「シレーノ(むーっつ)」


 ぶら下がってたゲルフォガの首を落し、竹とんぼの様に振り回しながら二匹を真っ二つにする。


 と、そこでゲルフォガ達がメルシャから離れ、捕まるものを失ったメルシャが落下していく。


「ほよよ~」


 と、メルシャはメルクヮマヴァルを地面に打ち付けた。


 と、それはバネか弓のようにしなり、再びメルシャを空中へ打ち上げる。


 ゲルフォガが驚く間もなく一匹の首に鞭が巻き付き、


「エレーニ(ななーつ)」


 別の一匹に剣状にしてを突き立てるや、


「ニフレ(やっつ)」


 巻き付けてた首を落とし、引き抜いた剣を再び鞭状に伸ばして襲い掛かって来たゲルフォガ二匹を両断した。


「ノウル(ここのつ)、テゥオン(とお)……と」


 最後はまたバネのような形にしてビョンビョンと跳ねて、唖然としているセネリ達の脇に降りた。


「驚いたな、とんでもない武器だ」


 セネリがなかば呆れ気味に感心して言った。


「いえいえ~こんなのは所詮芸事みたいなものです~、メアリア様やセネリさんみたいな正道の剣技にはおよびませんよ~」


 メルシャが恥ずかしそうに謙遜する。


「私にはそうは思えないが」


「ありがとうございます~、あら?」


 まだ広場には十匹ほどのゲルフォガがいる。


「あれも片付けましょうね~」


 メルシャは両腕を横に広げて叫んだ。


揺蕩う永遠の調べ(ケリオ=スベルシオス)!!」


 その瞬間、メルクヮマヴァルが分解したように吹き飛び、無数の部品がゲルフォガを貫いた。

 そして地面に這ったメルクヮマヴァルが所々波のように隆起しながら回転し、まるでミキサーのようにゲルフォガ達を粉砕していく。

 十秒ほどで全てのゲルフォガが肉片と化した。


 ビュルルルッと音がしてメルクヮマヴァルが元の盾状に戻る。


「これで全部ですかね~」


 相変わらずの声でメルシャが言った。


「まだだ、あれ? ソルディアナは?」


 さっきまで俺の脇で解説者宜しく腕を組んで見ていたソルディアナが消えていた。


「ソルディアナ? ま~た新しい眷属ですか~」


 にしし~という笑いと一緒にメルシャがこっちを見て言う。


「すんごく引っかかる言い草だがそんな生易しい奴じゃ無いんだよ」



 急に地鳴りのような音がした。


「何だ?」


 と、路地の向こうの建物が崩壊し濛々たる土煙が上がった。


「あれは!?」


 メアリアが叫んだ。


 土埃の中から巨大な黒い影が湧き出るように現れる。


「竜!?」


 シェアリアも余りの事に何時もの溜めも無く叫ぶ。

 土埃が晴れるとその姿が鮮明になった。


 全高は恐らく五十メルテ、尾を入れた全長は八十メルテはあるだろう。


 全身を黒い鱗に覆われた全体的なフォルムは日本で有名な怪獣王に近いが、顔などは巷にイメージされる竜に近い。

 何よりも大ぶりな翼が生えている。


 口にゲルフォガを咥えていたが、バキバキと言う音と甲高い悲鳴が響き渡り、ゲルフォガは喰われていった。


 残り三匹ほどのゲルフォガが慌てた様に飛び立ち逃げようとする。


 それを見た黒竜は翼を羽ばたかせ、再び猛烈な土煙を上げ舞い上がる。

 それだけで周囲の建物が崩壊していく。


 あちこちで悲鳴が沸き起こった。


 無理も無い、あんなもんが街中に出て来ちまったら……。


 そんな地上の惨状に構わず黒竜は逃走を開始したゲルフォガに造作なく追い付き、瞬く間に全て喰い尽くしていった。


「ご、ご主人様……」


 そう言ったワン子だけでなく、その場にいたメアリア達も俺の元に縋りつくように寄り添っていた。


「これが……竜……にゃ」


「まさか……本当にいたとは……」


 他大陸出身のワン子、そしてニャン子とセネリも呆然と見上げている。


 最後のゲルフォガを飲み込み、広場に着地した黒竜がこちらを見た。


 と


『馳走になった礼だ』


 俺の頭の中にソルディアナの声が響いた。


 念話だと!?


 こいつは念話が使えるのか!?

 しかし、どうやって竜の姿になったんだ?

 まさか本当に変身できるとかか?


『ふむ、やはりお前がボーガベルのダイゴ・マキシマとやらのようだな』


 やはり最初から分かっていたのか。


『俺の事を知っていたのか』


 念話で返事をしたが、反応が無い。


 まさか……。


「俺の事を知ってたのか?」


 今度は声を張り上げた。

 すると、


『ふむ、帝国からダイゴ・マキシマは黒髪の男とは聞いていたのでな』


 俺の念話と竜の念話は別物なのか?

 チャンネルが違う的な……。


『お前に一つ警告しておく。死にたくなければ戦場には決して出てくるな。さらばだ』


 そう言うや黒竜は再び翼を広げ、北へ、センデニオの方へ飛び去って行った。


 黒竜の現れたデグデオはやはりパニックに陥ろうとしていた。


「りゅ、竜だ! 本当に竜がいたんだ!」


「や、焼き尽くされちまう!」


「にげ……逃げなきゃ!」


 このままではパニックで死人が出るかもしれない。


 どうする……『睡眠スリープ』でも使うか……。


 その時


「デグデオの皆さん、ボーガベル王国女王エルメリアです。まずはどうか落ち着いて聞いてください」


 トーカーからエルメリアの朗々たる声が響いた。


「危機は去りました。先程デグデオに飛来した魔獣ゲルフォガは衛兵並びに傭兵によって全て駆逐されました。また、正体不明の大型魔獣が確認されましたが、ゲルフォガ数匹を捕食して去りました。我々に危害を加える意図は無いようです。幸いにも市街の被害は最少で済みました。どうか皆さんは落ち着いて行動して下さい」


 あくまで静かに、まるで我が子に優しく語りかけるようなエルメリアの声にパニックになりかけていた人々は徐々に落ち着きを取り戻していった。


「流石女王様だな」


「セネリ、ハリュウヤで周辺の哨戒。まだ生き残りがいるかもしれん」


「分かった。装着」


 感心していたセネリだが、すぐにハリュウヤを身に纏うと上空に舞い上がった。



「あとは負傷者の救護だ。皆手分けして掛かってくれ」


 すぐに作業用ゴーレムを創造し、瓦礫とゲルフォガの死体の撤去を命ずる。

 皮肉な事にゲルフォガの被害より、黒竜による被害の方が大きかった。

 黒竜が出現した場所で崩壊した建物には何人かの死者が出ていたが俺達がこっそり蘇生させた。



『ガラノッサ、聞こえるか?』


 俺はガラノッサに持たせている携帯型トーカーに念を送る。


『おう、どうした大将』


『今デグデオが魔獣に襲われた。しかもそこに黒竜が現れた。帝国の切り札は竜だ』


『なんだと!? それでデグデオは!?』


『被害は最小限に留められた。負傷者がでたがエルメリア達が治療中だ』


『そうか……』


『竜はセンデニオの方に飛び去った。追い越すかも知れん。注意してくれ』


『分かった。竜とはな……』


『俺も意表を付かれたよ。だが帝国の手の内は分かった』


『そうか。流石に竜を相手じゃ俺達がどうこう出来んな……頼りにしてるぜ大将』


『ああ、急いで戦略を練り直す』



「ご主人様、これを……」


 広場脇の市場で撤去作業を指揮していたクフュラに呼ばれて言って見た先に、木箱に入ったゲルフォガの死体があった。


「これに呼び寄せられてきたのか……」


 ムカデとか仲間の体液の匂いに引き付けられると聞いた事があるがあれみたいなもんか。


「その可能性は高いです、やはり故意に帝国から持ち込まれたようです」


「そうなるとファシナの企みだと言う事だな」


「恐らくは……」


 クフュラの様子からファシナと言う人物はこういった搦め手も得意なのだろう。


 これはきっちりお返しをしないといかんな。


 そんな事を考えていた俺だが、声がして振り返ると神妙な面持ちのセイミアが立っていた。


「おう、どうした?」


「申し訳ありません……竜の存在を除外してしまい……」


 セイミアの顔には口惜しさと申し訳なさが滲み出ていた。


「なんだそんな事か。被害も最小限に抑えられた。それに帝国の切り札が分ったんだ。これから対策を練れば良いだけの話だ」


「ですが……」


 俺はセイミアを軽く抱きしめた。

 セイミアの目に溜まっていた涙がこぼれそうだったからだ。


 少しの間、セイミアはそのままだったが、不意に顔を上げた。


「……ご主人様、シェアリア様に魔導艦の起動と回航をお願いしたいのですが」


「……あれを使う必要あるか?」


 魔導艦、いや魔導戦艦は今のボーガベルの最終兵器だ。

 調子に乗って作ったは良いが明らかにこの世界にはオーバースペック過ぎる代物で、正直使うつもりは無かったのだが……。


「勿論、ご主人様のお考えは分りますが……何卒……」


 セイミアの表情は何時になく真剣だった。


「分かったよ、だが心配するな。アレを使わなくても俺は勝つ。だろ?」


 そう言われたセイミアが少しキョトンとした後、何時もの勝気な笑顔を取り戻した。


「当然ですわ! それがこのセイミアのご主人様ですもの!」


 そう、セイミアはその顔が一番だ。

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