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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第六章 センデニオ激闘編

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第七十話 遭遇

「ふん、聞こえぬか? そこの黒髪のお前だ」


 呆れた様に少女が再び声を上げた。

 年の頃はヒルファより少し上だろうか。

 いや、背丈が少し低いだけで雰囲気的には十五才位に感じる。


 艶やかな黒髪が足元近くまで伸びている。

 この世界では初めて見る黒髪だが肌は抜けるように色が白い。

 白さでいえばセネリといい勝負だ。

 特徴的なのは勝ち気そうな目の瞳が縦長の輝くような金でまるで爬虫類のようだ。


 そして髪と同じように黒く艶々した礼装に身を包んでいる。

 余り装飾も無く黒一色の寧ろ地味なものだがそれが却って異質な高級感を放っていた。


 これってひょっとして絹か?


 この世界にも絹はあるのは知っていたが、他の大陸の一部でごく少量生産されているらしく、メルシャのいた貿易国家オラシャントですら滅多に見ない代物だ。

 その為恐ろしく貴重で高価。


 クフュラの話ではこの大陸では恐らくエドラキム帝国の皇帝の礼服くらいしか無いだろうと言うことだ。


 一度複製の為にサンプルとして手巾程度の物を輸入しようとオラシャントに手配したが、提示された金額の余りの高さに馬鹿馬鹿しくなって止めた程だ。


 ん~、ひょっとして蜥蜴の獣人か何かかと思いステータスを見ると、


 ソルディアナ・ブレオル・ゴルギオラ

 人間態


 としか出ない。


 なんだこりゃ????


 こんなことは初めてだった。

 人間態? 

 何かが人に化けているって事か?


 その何となく偉そうな物言いと言い、高価な絹の礼装を着てることと言い、更にはミドルネームがあると言うことは王族か皇族のようだが……。

 少なくともクフュラやセイミアから反応が無いところを見ると、帝国皇室に連なる者では無さそうだ。



「ふん、人が物を聞いているのに何を呆けておる?」


「あ、いや、何か御用で?」


 警戒する眷属達を念で制し、俺は言った。

 つい昔の癖で敬語になっちゃったけど。

 そう言わざるを得ない雰囲気がなぜか彼女から発せられている。


「うむ、先程飯という言葉が聞こえたのでな。我も丁度腹が空いておってな」


「つまり、一緒に連れて行けと」


「うむ、そう言う事だ。察しが良いな」


 その少女、ソルディアナが莞爾と笑った。


 この流れは単なるたかりでは済まないパターンだ。

 セイミアの時のように何らかの意図を持って接触してきた可能性もある。

 普通だったら追い返すとこだが、あのステータスが妙に気になる。

 ここは虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

 一発心に気合いを入れ、何時もの調子を取り戻して言った。


「良いぜ、可愛い女の子の頼みとあらば喜んで」


「「ご主人様!?」」


 エルメリアを除く眷属達が半ば驚き半ば呆れ顔で言った。

 エルメリアはいつもと変わらぬ笑顔だ。


「ふむ、これだけの護衛や侍女を連れているとはお主貴族か何かか?」


 確かに街娘に扮したエルメリア、シェアリア、クフュラ。

 傭兵姿のメアリア、セネリ。

 商人サショラ・シマホル姿のセイミア。

 そしていつもと同じ侍女服のワン子と、ニャン子。


 こんな面子を総勢八名も引き連れていればどこぞの放蕩貴族と思われるかもしれない。

 まぁここデグデオには毎晩のように酒場で騒いでる放蕩領主のガラノッサと言うのがいるんだが。


 だが今の俺の姿は商人風だ。

 一応同じく商人姿のセイミアに確認を取ると、


『商人も大商人になるとこの位の供回りは普通ですわ。寧ろご主人様には相応しいですわ』


 とのお返事を頂いた。


「いや、しがない商人だよ」


 白々しくそう言って商人鑑札を見せたがそれには全く興味を示さない。


「ふむ、では、さっさと案内して貰おうか」


 どうも早く飯が食いたいようだ。


「分かった、着いてきな」


 そう言って歩き始めた俺達の後をソルディアナは腕組みをしながら付いてくる。


『……ご主人様、また悪い癖が』


 速攻でシェアリアから念話が突き刺さるように飛んできた。


『そんなんじゃ無いよ』


 何だよシェアリアさん、悪い癖って。

 俺は眷属に念でステータスの事を説明した。


『そんな……一体何者でしょうか』


 クフュラが不安げに聞いてきた。


『まぁまだ何もわからんからな。とにかく手出しは無用だ。特にメアリア』


『う……わ、分かった』


 さっき制さなければ背中のバルクボーラをすっぱ抜いていただろう。


 セネリが片目だけ開けて意味ありげにメアリアを見ている。


『な、何だ……何か言いたいことがあるのか』


『…………猪』


『な、なにお! この不感症め!』


『フッ、不感症かどうかは毎夜たっぷり見ておるだろうが』


 確かに手巾で後ろ手に軽く縛っただけで、とんでもない有様になる奴が不感症とは思えない。

 かなりベクトルがあさっての方向に行ってはいるが。


『む、むぎぎ』


『はいはいやめやめ』


 全くこの二人は、これで仲が良いんだから不思議だ。


『ご主人様、帝国の工作員の可能性がありますわ』


 今度はセイミアが念話を送って来た。


『お前、この店見てそう言うこと言っちゃう訳?』


『あ、あう……』


 セイミアが絶句したのは無理も無い。


 俺達が入ったのはデグデオで最初にガラノッサと出会った酒場だ。

 昼間からやっていて料理も色々食べ比べたがデグデオでは一番だ。


 そして俺とセイミアが初めて出会った色々思い出深い店でもある。


『セイミアの心配は有難いが、今は真っ昼間だ。流石に色仕掛けは無いだろう』


『も、もう、ご主人様は意地が悪いですわ』


 セイミアが可愛らしくむくれている。


 ソルディアナも入れると十人の大所帯だが、すっかり店の親父とは顔なじみになっていて、奥の十人掛けの大卓に通された。

 いつもはガラノッサの指定席だ。


「で、何を食べる?」


 席に着いた俺が向かいに座ったソルディアナに聞くと、


「何があるか分からんからお前に尋ねたのだ」


 呆れたように返してきた。


「それもそうか」


 ワン子とニャン子に酒と肉の煮込み、それから適当に小料理を頼みに行かせる。


「デグデオには観光?」


 前にもカナレでセネリ相手に似たような事聞いたっけ。


「ふん、暇つぶしだ」


 店内の調度を見回しながらソルディアナはあっけらかんと言った。


「暇つぶしねぇ。じゃぁこの辺の貴族様?」


「まぁそんなところだ。ほお」


 ワン子とニャン子が料理と酒を持ってきた。


 ソルディアナは曖昧にしか答えなかったが、これは俺が何者かは知らないと言うことか。

 知っていれば、彼女がカスディアン近辺の貴族を把握していることぐらい分かるだろう。

 事実カスディアン近隣に住まう貴族にこの様な娘はいない。

 あるいはわざと伏せているのか、心底どうでも良いのか。


「じゃあ食べよう、酒は飲めないお歳頃か?」


「ふん、馬鹿を言うな、お前が産まれる前から嗜んでおるわ」


 そう言うなり、木盃になみなみと注がれた果実酒を一気に飲み干した。


「何だよ、折角乾杯しようと思ったのに」


「んん? ふむ、そんな風習もあるのか。そこの従者よ、もう一杯持ってくるが良い」


「私!? うー、分かった……にゃ」


 ニャン子が俺の方を向いてから渋々おかわりを取りに行く。


「ふん、我の従者があの様な口をきけば即手討ちだがな。お前も従者は良く吟味した方がいいぞ」


「生憎とあれはあれで優秀なんでね。俺は砕けた味わいも好きだし」


 ニャン子は侍女としての仕事は、まぁ、それなりだが、生来の明るくさっぱりとした性格が一緒にいて実に心地良い。

 そしてワン子と双璧を為す近接格闘技能は護衛としてうってつけだ。


 ……まぁ護衛対象が死なないんだけど。


「ふん、変わった奴だ」


 しかし、何だろうこのソルディアナ。

 見た目はヒルファよりちょい上だが、妙に喋りが年寄りくさい。

 何か婆ちゃんとかと喋っているようだ。


 俺の中で一つの仮定が浮かび上がった。


 こいつが何かの化身でン百年生きてるとか、そう言う可能性が高い。

 思いつく中でそんな芸当が出来そうな生物は今の所一つしかない。

 そういや元の世界の創作物でもそいつは美少女とかに化身したりするんだっけ。

 同僚のオタク趣味の奴が読んでた漫画雑誌にそんなのがあったような。


 だがこの推測が当たれば相当厄介な相手だ。

 その実力は全く未知数。


 問題は俺に声を掛けたのが偶然なのか故意なのか。


 俺自身ももし他人にステータスを見る技能持ちがいる事を考慮してステータス偽装の神技を創造して付けている。


 目の前のソルディアナもその類なのだろうか……。


『神様』は俺と同じ能力持ちはこの世界にはいないと言ったが、全く同じのはいないと言う意味で似た様な能力持ちはいるとかなんだろうか。


「持ってきました……にゃー」


 態度の悪いアルバイトのようにテンションが低めのニャン子がおかわりの酒杯を持ってきた。


「そんじゃ……えーっと名前は?」


「ふん、ソルディアナだ」


 まぁ既に分かってるんだけど、いきなり名前を言ってボロを出すと困るからね。


「じゃソルディアナちゃんにかんぱーい」


「「かんぱーい」」


 テンションの低いニャン子も一緒に俺達は酒杯を合わせた。


「ふうむ、これは悪くは無いが水のような物だ。従者よ、今度はもっと強いのを持ってくるが良い」


 またも一気に飲み干したソルディアナがニャン子に酒杯を突き出す。


「ま、また私にゃ!?」


 飲んでる途中だったニャン子が素っ頓狂な声を上げた。


「私が行ってきます」


 そう言ってニャン子の代わりにワン子が席を立った。

 ニャン子が助かった~って目をワン子に送っている。


 その間にソルディアナは肉の煮込みを口に入れた。


 ここボーガベルの食生活も、西のオラシャントや南のハフカラから香辛料の類が大量に輸入されて随分変わった。


 しかしここの煮込みは昔からのままだが十二分に旨い。


 大振りのビフォンと呼ばれるヤマブタの肉を野菜と果実でたっぷり時間を掛けて煮込んでいる。

 果実は山桃のような物で甘みと酸味を付けてある。

 この微妙な加減が絶品なのだ。


「ふむ、これはこれで悪く無いな」


 酒にしろ食い物にしろ悪く無いという割には随分美味そうに食うな。


「いつもは何食ってんだよ」


「我か? 客人らしい持て成しは受けてはおるが、薄味で多少飽きてきてな」


 何処かでそれなりに厚遇されてるって事か。

 って事は一番に考えられるのはやはり帝国か。


「お持ちしました」


 ワン子がソルディアナに新しい酒杯を差し出した。

 漂ってくる匂いが相当な強さを物語っている。

 多分この店で一番強い奴だ。


 ワン子め……。


 澄ました顔をしてるがかなり挑戦的だ。

 だがソルディアナは何食わぬ顔で一気に飲んでいく。


「ふむ、こちらの従者は分かっておるようだな」


 そう言ってワン子に空になった酒杯を突き出し、流石のワン子もちょっと驚いた顔になった。


 前の果実酒も決して弱い酒ではない。

 だがソルディアナは全く酔う素振りもない。

 白い肌は相変わらず白いままだ。


 ウワバミかこいつは。


 酒が大好きなヤマタノオロチの話を思い出した。

 アレは蛇のバケモンだったが、果たしてこいつは……。


「まぁソルディアナさんはお酒がお強いのですね」


 あまり気にしてないようなエルメリアが感心するようにいった。


「うむ、余り食い物には気は掛けぬが酒はのう」


 得意げに話すソルディアナを見てると何か警戒するのが馬鹿らしくなってきた。

 ここにエルメリアがいて正解だったようだ。

 このソルディアナ、さすがに分別という物はわきまえてはいるようだ。

 物言いは上から目線かつ年寄り臭いが、鼻に掛けてる風では無いし、人を見下している感はあれど無闇に居丈高と言う感じでも無い。

 そうでなければ、俺の砕けた言い回しだけでとっくにひと騒ぎになっていたかも知れないな。


 エルメリアがソルディアナの相手をしてくれている間に俺は煮込みを食べる。

 考え事をしながら食うのが勿体ない味だ。


 他の眷属も俺の意図を察したのか何時ものように食べ始めた。

 もうそこはいつもの食事風景と変わらない。

 さっきまでむすくれていたニャン子も旨そうに煮込みを口に運んでいる。



 と、外から甲高い声や驚きの声、そして悲鳴が聞こえて、やがてそれは数を増していった。


「何だ? 外が騒がしいが……」


「ちょっと見てきます」


 やはり気づいていたのかワン子が外へ出てすぐ念話を送って来た。


『ご主人様! 空を飛ぶ魔獣です! しかも大型のが多数!』


「クフュラ! 会計!」


 俺は即座に席を立つとクフュラに言いつけて外に出た。


 外の広場に出ると街の人間が皆上を向いている。


 見上げると空に人よりも遥かに大きな鳥のような魔物が飛んでいる。

 恐らく百は下らない数だ。


「こ、こいつは……」


「ふむ、ゲルフォガじゃな」


 後ろからソルディアナの声がした。

 他の眷属達も一緒に外に出てきていた。


「ゲルフォガ?」


『叡智』で調べるとゲルフォガは中央山脈高地に生息する鳥型魔獣で、群れで行動し、普段は動物や魔獣を食料とし、人前には余り姿を現さないとある。


 全高は五メルテ程、赤と青の体毛に人の足より二回りは太い足を持ち、陸上でもかなり速い速度で走れるらしい。


「それが何だってこんな所へ……」


「さてのう、奴等を縛っていた者が居なくなって箍が外れでもしたのかのう」


 ソルディアナは呑気そうに笑いながら言った。


「どうするご主人様、あれだけの数、襲ってきたら不味いぞ」


 メアリアが言った。


「よりにもよって主力が出陣した後とは……」


「それを狙ってきたのかも知れませんね」


「だとしたら相当知恵が回ると言う事ね」


 セネリの言葉にクフュラ、そしてサショラ姿なので普通の口調でセイミアが応えた。


『エルメリア、クフュラ、セイミア。三人は衛兵詰め所に行って衛兵に市民の避難と護衛をさせろ。市民には屋内に入って外に出ないようにトーカーで指示、けが人が出たら治癒』


『畏まりましたわ』


『畏まりました』


『畏まりましたわ』


 念を送ると三人は即座に動く。

 セイミアは念話では令嬢口調なのが面白いな。


『メアリア、シェアリア、ワン子、ニャン子、セネリは迎撃だ。ただしここに怪しい奴がいるから殲滅魔法は使うな。シェアリアとセネリの魔法で上空の奴を叩き落として地上で倒す』


『分かった』


『……分かった』


『畏まりました』


『分かった……にゃ』


『ご主人様、ハリュウヤはどうする?』


『今は駄目だ。セネリも地上で戦ってくれ』


『承知した』


 彼女達がそれぞれ得物を抜いた直後にトーカーから大音声が響く。


「緊急放送です。只今デグデオ上空に魔獣の群れが集結しています。危険ですので市民の皆さんは屋内に退避してください。戸口と窓を厳重に閉めて、表に出ないようにして下さい。繰り返します……」


 これはクフュラが直接トーカーに送った念を放送している。


 それを聞いた市民がすぐさま建物の中に逃げ込んでいく。


「ほう、面白いものがあるのう」


 大音量で音声を発するトーカーを見て感心したようにソルディアナが言った。


「じゃ、ちょっと退治してくるんでソルディアナちゃんは何処かに隠れていてくれ」


「ふむ、商人がゲルフォガ退治とは面白いのう、ぜひ見物したくなったわ」


「喰われても知らんぞ?」


「ははは! ゲルフォガ如き我が喰う事はあっても喰われる事など無いわ」


 さらっと意味深な事言ってるがいまはそれどころじゃないな。


 俺は物差しを抜くと既に広場に向かっているメアリア達後を追った。


「来るぞ!」


 トーカーの声と市民の動きを察知したゲルフォガの群れの一部が地上に降下してきた。


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