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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第一章 王都パラスマヤ防衛戦編

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第七話 乱入

 久しぶりに心地良い目覚めをした気がする。


 誰かと一緒に寝ているという感覚はいつ以来だったろう。

 近くでもあったようだし、遠くでもあった気がする。


 目を開けて隣を見るとワン子がこちらをじっと見ていた。


「おはようございます、ご主人様」


 ワン子は相変わらず少し陰のある、でも多少はにかんだ笑顔で言った。


「おはよう、もう起きてたんだ」


「はい」


 起きたら服を着て立って待っていた、なんてがっかりシチュエーションじゃなくて良かった。


 昨日寝物語にワン子がポツポツと語った話では、ワン子は「高級奴隷」という奴らしい。

 主な買い主は貴族や王族なので一般の奴隷とは違う様々な高度な技術や作法を教え込まれるんだそうだ。


 奴隷の成り手もワン子の様な希少獣人や敗戦国の貴族や王族の子女など。

 何処の世界にも超高級ってのはあるんだなと感心した。

 あながちあの女商人の金貨百五十枚ってのも嘘じゃないんだろう。


 食堂に降りて朝食を頼む。

 出てきたのは麦粥と肉を炙った物だ。

 粥を啜りながらワン子を見ると肉を手で裂きながら食べている。


「なんかジャーキーみたいだな」


「じゃーきー? ですか?」


「ああ、俺のいた……国で酒のつまみとかで食べてた」


「そうなのですか」


「…………」


「…………」


 うう、会話が続かない。

 昨日の夜から万事こんな調子だ。

 まぁ今の関係はご主人様と奴隷なだけにしょっぱなから甘々な関係を築くというのは無理なのかも知れない。


「今日はまず買い物だな?」


 無理やり切り出した。


「畏まりました」


「…………」


「…………」


「ああ、服以外で何か欲しいものはあるかい?」


「でしたら短剣が欲しいのですが」


 いきなり武器ときたものだ。


「分かった、武器を売る店にも寄ろう」


「ありがとうございます」


「…………」


「…………」


 うう、空気が重い。

 もうその後は無理に話すことはやめて、黙々と食事に専念した。

 まぁ、昨晩も別に嫌がられた訳でも無いし、ゆっくり仲良くなれば良いか。


 そんな食事の後、そのまま宿屋を出て市場に向かう。


 昨晩の件もあってかあからさまな監視の目は消えていた。

 あの一味はあれで全滅したのかもしれない。


 貫頭衣姿のワン子に視線が集まる。

 やはり獣人は珍しいのだろうな。

 とにかくワン子をこんな古代人みたいな格好に何時までもさせて置く訳にはいかない。


 市場で店のオバチャン達から情報を仕入れつつ買い物をしていく。


 どうも戦争は未だに前線で睨み合ってる状況らしい。

 おそらく後二、三日は動きが無いだろうというのが大方の予想だ。

 あまりのんびりとはしてられないようだ。


 まず服を一揃え。

 下着とか無いかと思ってたがちゃんとあった。

 だがショーツとかそういう気の利いた物では無く、要するに


 ふんどし。


 仕組み的にふんどしと同じ物が一般的に使われていた。


 服は麻の上下。これは元の世界と似たようなデザインの物だ。

 そして靴。布製のスリッポン風で靴底が革になっている。


 あとは多少派手な模様に染められた外套、要はコート。

 もしくはマントのような物を外出時に羽織るのが一般的らしい。


 ワン子に外套を選ばせようとしたら、


「いざという時に動きにくいので必要ありません」


 と断られてしまった。


 すぐに服をワン子に着せて貫頭衣とはオサラバさせる。


 雑貨屋で石鹸を捜したが見た事もないと言われた。

 歯ブラシ代わりの竹のような物の端を細かくした物と歯磨き粉代わりの塩、これは江戸時代に似たような物を使ったってテレビで見た覚えがある。

 それから日用品を少々。


 その後、武器屋でワン子用の装備を揃える。

 魔獣が出るために一般市民も護身用の短剣の所持が許されているそうだ。

 傭兵局で傭兵の登録をすれば剣や防具も売れると武器屋のオヤジは親切に教えてくれた。


 ワン子が選んだのは幅広で肉厚の短剣を二振り。

 それをオヤジに頼んで鞘をベルトの後に左右から引き抜けるように固定してもらった。


 後は背嚢。

 残念ながら未来から来た猫型ロボットのポケットのような物は魔法でもスキルでも出来なかった。

 デカいの一つでも良かったがワン子が絶対に


「私が背負います」


 とか言い出しかねないので大小二つ買って小さい方をワン子に背負わせた。


 一通り買い物を終え、市場脇の茶店に腰を落ち着ける。

 茶店と言っても湯釜を据えたワゴンと木製の椅子とテーブルを並べた簡素な物だ。

 市場脇の広場にそんな店が数件並んでいる。


 食べ物を出す店もあるのでさしずめフードコートみたいなものか。


 紅茶に似たダバ茶を飲みながら街行く人を眺めつつ、これからの事を考える。


 とにかく一度エルメリア達に連絡を取らなければ。

 それに二度も殺されそうになったんだ。

 グルフェスとはケリを付けなければならないだろう。


 しかし……。


 ワン子は相変わらず何も語らずこちらを見ている。

 正直会話も弾まず空気が重い……。


 そう思っていると、


「おじさん、お待ちどうさまぁ」


 そう言ってチュレアがやってきた。

 手には焼き菓子のたくさん入った駕籠を持っている。


「お、たくさんできたようだな」


「うん、頑張って作ったよぅ、はいこれぇ」


 そう言ってチュレアは駕籠から二枚の焼き菓子を俺に渡した。


「お、味見かい。どれどれ」


 そう言って一枚をワン子に渡しもう一枚を口に放り込む。


「どぉ?」


「うん、いい出来だ。なぁワン子」


「はい、美味しいです」


「えへへぇ……って、そういえば、お姉さんもしかして獣人って人?」


「……」


 ワン子は何も言わない。

 その先に差別的な言葉を沢山言われて来たのは容易に想像できる。


「そうだよ」


 俺が代わりに答える。

 昨日は色々バタバタしてそこまで気を回すゆとりも無かったのだろう。


「私ぃ獣人の人初めて見たけどぉ凄い綺麗ぃ」


 見惚れる様なチュレアの言葉にワン子がキョトンとした。


「ワン子」


 俺が促すと、


「あ、ありがとうございます」


「うふふ、お姉さんなのにありがとうございますはおかしいよぉ」


 チュレアがコロコロと笑った。


「で、頼みって何ぃ?」


「ああ、お姫様へのお手紙を書かせてほしいんだ」


「おじさんがぁ? いいけど変な事書くと怒られちゃうよぉ」


 やはり事前に検閲はあるようだ。


「大丈夫だよ、普通にお礼のお手紙だから」


「そっかぁ、いつもは代書屋のおじさんに書いてもらうんだけどぉ、ちょっと待っててねぇ」


 そう言ってチュレアは何処かに走り去り、数分後羊皮紙と墨だかインクだかの入った壺と羽根ペンを持ってきた。


 俺はそれに『叡智』で変換した「ダイゴ 銀の飛竜亭」の文字を羊皮紙にお礼の言葉にいわゆる縦読みで読めるように書いた。


「おじさん字が書けるんだぁ、ひょっとして貴族様?」


「違うよ。遠い国から来たばかりなんだ。チュレアは学校には行ってないのかい」


「がっこう? なにそれ」


「文字やいろんな事を習うところだよ」


「学院のことかなぁ? あそこは貴族様しか入れないよぉ」


「そうなんだ」


 やはり学校なんて存在してないのか。


「うん、文字が読み書き出来てもお腹は膨れないからね」


「そうか」


 予想はしてたが識字率とかはかなり低そうだ。


「さぁ出来た。それじゃ頼むよ」


 出来た手紙を綺麗に折りたたむと駕籠に入れる。


「じゃね。おじさんありがとぉ」


「ああ、こっちこそありがとう」


 チュレアは手を振って去っていった。


「さてと」


 まずはグルフェスに悟られないようにエルメリア達に連絡を取ってみる。

 後は向こうの出方次第だ。

 反応が無ければ仕方ない。

 あとは直接乗り込むか。


 その日の夕方も食事が終わると楽しい沐浴タイムだ。

 宿のお湯では二人分少々足りないし、一々お湯を取りに行くのも面倒なので火魔法と水魔法を組み合わせた『温泉レオマウス』を創造してみた。

 掌の魔法陣からドバドバとお湯が湧き出てくる。

 勿論温度も噴出量も自由に変えられるのでいざという時には攻撃手段にもなる。

 ただし、魔素から生成したお湯だから効能は無い。


 打たせ湯宜しく上からお湯をたっぷり掛けて反対の手でワシワシ洗ってやる。

 ワン子が全身をブルブルっと震わせて水を切る。


 後は甕にお湯をたっぷり貯めてワン子にアカスリをしてもらう。


 浴室から出た後、身体をほぐさせて、つまりマッサージをさせてくれというのでベッドの上で俺はうつ伏せになり、上にワン子が乗っていた。


 トラック運転手の頃は常に腰痛に悩まされ、マッサージ屋通いが欠かせなかった。

 異世界に転移し腰痛知らずの身体になってもマッサージは大歓迎だ。

 それがワン子のような美少女ならなおさらだ。


「ご主人様はすごいお方です」


 腰周りを揉みながらワン子が呟いた。


「そうか?」


 俺は心地よさに締まりの無い顔をしながら聞いた。

 身体は若くてもついオッサンの地が出てしまう。


 これも高級奴隷の嗜みの一つとして仕込まれたらしいがプロ顔負けの技術だ。

 力の入れ具合も申し分なし。

 いよいよになったらマッサージ屋で食っていけるか、などと下らない事を考えてしまう。


「私の知らない魔法を簡単に使い、お湯を作り出したり、今日も驚きっぱなしでした」


「怖かったりするかい?」


 なんせ中身は神の代行者という一種のバケモンだからなぁ。

 正直ドン引かれても仕方ない事をやってる自覚は多分にある。

 昨日の『自白カツドン』を使った時はあからさまに引いた表情をしていた。


 だから会話も弾まないのかと思っていたが……。


「いえ、怖さとかは全然ありません、最初は恐い人かとも思いましたが、昨日の夜や今日の女の子への接し方とか……優しい方です」


 そう言って揉む手が何時の間にかさするような手つきになっている。


「そう思ってくれるのは嬉しいな。正直怖がられてると思ってたから」


「もし私の態度がご不快でしたら申し訳ありません」


「いや、そんな謝る事じゃないよ」


「私はご主人様、というより殿方と接するのは初めてなので……どうしても教えられた奴隷としての立ち振る舞いになってしまうのです」


 成程、要は普通に男の接し方が分からない訳ね。俺とあんまり変わらないか。


「そっか、俺も似た様なもんだよ」


「そうなのですか?」


「まぁ折角なった関係だ。俺は良くしていきたいと思っている」


「わ、私もです」


 そう言って背中をプニプニと押している。


 ワン子はいつも暗い陰、違う言い方をすれば諦観の様な表情を浮かべている。

恐らくは奴隷になった事が関係あるのだろうが、本来はもっと明るい性格のような気がする。

 別に嫌な訳じゃないので徐々に取り戻してくれれば良いんだが。


 とは言え時折見せるそんな仕草が可愛いなあと思った瞬間、ドカドカドカと外が騒がしくなったと思ったら、


「ここにいるのかダイゴ殿!」


 ドカンと扉が蹴倒されて軽装鎧のメアリアがズカズカと入ってきた。


「お…………あ?」


 とベッドの上の俺達を見て固まった。


「おう、随分と早かったのはいいが、もうちょっとお姫様らしく入って来いよ」


 因みに俺達は服を着ていない。

 完全に事後だと思ったよなぁ。

 メアリアの顔がたちまち茹でたように真っ赤になったと思った瞬間。


 抜いた。


 剣を。


「き、き、き、貴様ぁ!! 城から抜け出し何だこの破廉恥な姿はぁ!」


 いうなり斬り込んできやがった。

 いや、人のプライベートに土足で乗り込んで来た奴の言う台詞ではない。

 俺はともかくワン子が危ない、とワン子を見てギョッとした。

 ワン子の目が狩る者の目のように鋭くなってる。

 いつの間にか枕の下に置いてあった自分の短剣を取り出すと、それでメアリアの剣を受け止めた。


「なっ!」


 メアリアに驚愕の表情が浮かぶ。


「ご主人様に仇なす者は……死ね」


 いうが速いか片方の剣がすさまじい勢いでメアリアを襲い、たまらず避けた所に反対側の剣が飛びかかってくる。


「な⁉ このっ!」


 もう片方の剣を捌くとメアリアは部屋の対角に飛ぶ。

 ワン子もその対に飛ぶや壁を二足で駆け上がり上方から突き込む。

 メアリアも剣を突き出すがワン子は身をひねるとその剣に添うように短剣を更に突き入れる。

 それを察したメアリアが強引に付いた剣を振り込んで弾く。

 ワン子は身体をひねり、弾かれた勢いを利用してもう一本の短剣を振り込む。


 メアリアは剣の柄でそれを受ける。


 狭い部屋で双短剣と長剣が目まぐるしく交錯し火花を散らしている。

 様々な角度から多彩な攻撃を仕掛けるワン子の技量も高いがそれを剣一本で凌ぐメアリアも親衛騎士団長だけあってかなりの腕だ。

 だが狭い室内での長剣と短剣の取り回しや手数で押されてる。


 しかしこのままでは部屋はおろか宿屋自体を壊しかねない。

 というか既に部屋は半壊している。


「ワン子、そこまでだ」


 ワン子の動きが止まった。

 その瞬間メアリアが斬りかかろうとしたが


「メアリア!」


 シェアリアが入り口で叫び、メアリアも動きを止めた。


「服を頼む」


「畏まりました」


 剣を収めたワン子は何事も無かったように俺に服を着せ始めた。


「何だシェアリアがいたならもっと早く来てくれよ」


「……無理、メアリアの速さには付いて行けない」


「そりゃそうだが、これ弁償しとけよな」


 そう言って俺は床に転がってる扉と半壊した部屋を指差した。


「……勿論」


 二人でジト目でメアリアを見た。


「な、何だ二人とも! まるで私が全部悪いみたいではないか!」


「いや、どう考えても悪いだろ」


「こ、これはだな、そ、その、ダイゴ殿がここに居ると知ってつい……」


 また赤くなったメアリアは俯いてしまった。


「……獣人の奴隷とは驚いた」


 シェアリアも顔を真っ赤にして目をそむけながら言う。


「色々成り行きでな。で、どういう話になってるんだ?」


 着替え終わると俺はベッドに腰掛けながら聞いた。


「グルフェスからダイゴ殿があの晩城から逃げ出したと聞いてな。呆れていたら、今度はエルメリアがここにいるらしいから内密に直接連れてこいと言われて来た訳だ。そしたら……その……女と……それで……つい……」


 やはり俺が逃げた事になってたか。

 しかしちっとも内密じゃないな。


「別に逃げた訳じゃないぞ。グルフェスに追い出された挙げ句殺されそうになったから身を隠してたんだ」


「な? グルフェスが? 信じられん、一体どうして……」


 俺はあの晩に起きたことを詳細に説明した。


「グルフェス自体は召喚の事などこれっぽっちも信じていないだろう、恐らくあんた達が何らかの理由でただの市民を英雄神に担ぎ上げようとしたと思ってる」


「散々言われたよ。あのような者に頼っても何もならないって」


「城に行けば必ずグルフェスとぶつかることになるだろうが、俺も二度も殺されそうになったんだ。キチンとケリを付けたい。これは譲れんぞ」


「それは……そうだな」


「……分かった。貴方は私達が召喚した。その責任は持つ」


「よし、これから城へ行くぞ」


「だが、城にはグルフェス麾下の兵士が常に百はいるぞ。いくら我々が一緒でもどうなるかは……」


「私がいます。ご主人様に指一本触れさせない。心配無用です」


 ワン子が自信たっぷりに言う。


「な! こ、この、私が言いたいのはだな」


「心配してくれるのは有難いが問題ない、メアリア」


「な、わ、私は別に心配など……」


 そう言ってメアリアはまた赤くなる。


「丁度いいや。お前達に見せてやるよ。俺の力って奴を」


 そう言って俺はニンマリと笑った。

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[一言] >「がっこう? なにそれ」 「文字やいろんな事を習うところだよ」 「学院のことかなぁ? あそこは貴族様しか入れないよぉ」 「そうなんだ」  やはり学校なんて存在してな…
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