第六十五話 獣化薬
「ゴルダボル要塞が落ちただと!」
ブリギオは息も絶え絶えにやって来た伝令の言葉に呆然とした。
「はっ、第五軍の兵並びにデドル傭兵団は全滅、セディゴ殿下も戦死されました。ボーガベル軍の損耗は殆ど無く、明日明後日にはこのサシニアに到着するものと……」
「ぬ、ぬううっ」
セディゴの策である重弩砲も、大枚をはたいて呼び寄せた鬼人族も、更には両軍の莫大な戦費を投じて改修したゴルダボル要塞すらも何の役にも立たなかった。
ブリギオの身体が怒りで震える。
「殿下、如何致しますか」
副官のアレッソンが尋ねた。
「如何も何もサシニアの防衛が我々の任だ。至急兵を展開させよ」
「はっ、しかし……」
「言うな。例え勝算が無くても戦って勝たねばならん。それが帝国軍人だ」
「分かりました」
アレッソンは深々と礼をし、部屋を出て行った。
「ふう」
ブリギオは椅子に倒れ込むように座ると天を仰いだ。
打てる手は全て打ち、勝算もあった。
セディゴも決して無能な将ではない。
だがボーガベルはそれすらも打ち破ったという事か……。
その様な相手に何をどう勝てと言うのだ。
せめて華々しく散って皇子としての矜持を見せてやるわ。
そう決意を固めた時
「殿下、良いお顔をしておられますなぁ」
ふと声がして振り向くと部屋の隅に派手な衣装の男が立っていた。
異国の武器商人ドンギヴだ。
ゴルダボル要塞に行っていたが、
「戦が始まれば私めは用済みですので」
と何時の間にか戻ってきていた。
「無礼であろう、ドンギヴよ。それともお前の国はそれが普通か?」
「いえいえ、まともにご挨拶しようとすれば捕縛されかねませンので」
皮肉交じりのブリギオの言葉をそよ風を受けるようにドンギヴは受け流す。
「ふん、それで忍んできたか。何だ? 逃げるのに挨拶は要らんぞ。それとも何処ぞへの手土産に我が首でも取りに来たか?」
「いえいえ、私め、今回の件には重々責任を感じておりましてせめてお詫びをと」
そう言ってドンギヴは懐から細い筒を恭しく取り出し、床に置いた。
「なんだそれは? 毒薬か?」
「いえいえ、これは我が故国で最近開発されました、『人』を獣化させる薬にございます」
「ほう、人をな。それを我が兵に飲ませろと?」
「そうしたいのは山々ですが何せこれは試験品にてこれ一本しかございませン」
「何だと……まさか貴様……」
その言葉にブリギオの片眉が少し上がる。
「そうでございます。殿下の先程の決意の助けになればと思いまして」
「ぬう……」
「使う使わぬは殿下次第でございます。では私めはこれにて。殿下のご武運をお祈り申しております」
そう言うやドンギヴは窓から身を翻し消えていった。
「ふん、心にも無いことを」
ブリギオは竹筒を手に取り、かざして見ながら呟いた。
ゴルダボル要塞を落としたボーガベル軍は休む間もなくサシニア近郊まで進軍し、すぐさま展開していた第四軍と交戦になった。
数に勝る帝国軍はセオリー通りの鶴翼陣形だが、メアリアの突撃を警戒して中央が厚くなっている。
対してボーガベルもゴーレム兵が三隊に別れ広がった陣形で進軍していく。
帝国陣地からは矢が雨霰のように降り注ぐが、ゴーレム兵は全く物ともしない。
「ではご主人様、行って来る」
「私も行く。勝利の栄光をご主人様に捧げる」
パトラッシュに乗ったメアリアと高機動飛翔型魔導甲冑「ハリュウヤ」を装着したセネリがダイゴに口づけして出撃して行く。
今回からセネリも加えたツートップ戦術をダイゴは取ることにした。
メアリアは不満を漏らしたが、
「なに、メアリア様の武功を妨げることはしない、私はご主人様の為に戦うのだから」
そうセネリに言われて渋々了承した。
「不愛想、遅れを取るなよ」
「誰に物を言っているのだ、寝坊助?」
そんな会話をしながら二人は風を超える速さで敵陣に突っ込んでいく。
呼び名はしょうもないがやっぱり良いコンビみたいだなぁ。
ダイゴが自分の見立てが間違って無かった事に満足そうに頷いた。
「……ご主人様、もういいでしょ?」
そんなダイゴの袖を引っ張りながらシェアリアが辛抱堪らなさそうに言った。
「ああ、いいぞ、派手にぶちかましてやれ」
「……分かった。ありがとう」
そう言ってやはり口づけをすると、少し先に駆けていき、両腕に赤い魔法陣を展開すると叫んだ。
「殲滅魔法!『炎華繚乱』!!」
その途端帝国軍の前衛が無数の爆炎に包まれた。
「凄いな、半数近くはやったんじゃ無いか」
初めて見る殲滅魔法にセネリは感嘆の声を上げた。
「お前は何故ご主人様に殲滅魔法を頂かなかったのだ?」
「私の本分は魔法剣士だ。闘いに使う魔法で十分だ」
セネリは眷属化した際、状態異常無効と絶対物理防御、絶対魔法防御と火と雷の近接魔法を数種類だけ付けて貰った。
「そうか、突っ込むぞ無愛想!」
「承知!」
メアリアとセネリ、二本の矢が焦土と化した大地を突き抜け、残存する帝国軍に激突する。
黒いバルクボーラと白いグリオベルエ。
この二つの暴風に抗える帝国兵など、もはや存在しなかった。
「父上! お呼びでしょうか!」
サシニアの東門脇の馬場に設えられた陣幕内に子供の声が響いた。
まだ七歳の嫡男のジョストと母であるナルショアがお付きの侍女達と共に入ってきた。
「何だジョスト、その格好は」
見ればその辺の鍋をつなぎ合わせた鎧らしき物を纏い、手には誕生祝いにブリギオが送った刃を付けてない短剣を携えている。
「はいっ、いよいよ、私にも出陣の命を下さると思い、支度して参りました!」
鍋を斜めに被った小さな騎士は目を輝かせながら言った。
「……そうか、では父が勇猛果敢な騎士ジョストに命じよう。母を守ってこのサシニアを離れよ」
「えっ!」
「殿下、まさかこのサシニアが……」
「だからこそ、お前達はすぐにお前の父ケドレイト候の元へ戻るが良い。馬車は用意してある」
「し、しかし……」
「良いか、まさかとは思うが今のボーガベルに帝国は敗北するかも知れん、その時はジョスト、お前が機をみて帝国復興の為に立たねばならん。分かるな」
「ちちうえぇ」
先程の勇ましさは消えジョストは目に涙を浮かべている。
「泣くでは無い。いいか、帝室に産まれた者として、しかと父の遺志を継いでくれ」
ブリギオはジョストの目線まで屈むと真っ直ぐな眼差しで己の息子に言った。
「わか……わかりまし……たぁ」
溢れそうになる涙を必死に堪えてジョストは応える。
「うむ、それでこそ私の息子だ。立派なエドラキムの騎士だ」
そこで少し笑みを浮かべ、ジョストの頭をがしっと撫でたブリギオは立ち上がるとナルショアを抱きしめた。
「ジョストを頼む。皇帝に相応しい子に。そして……愛している」
「ああ……あなた……」
口づけをしたブリギオは脇で泣く侍女に怒鳴った。
「泣くでない! 早く二人を連れて行け!」
侍女達に連れられ、ナルショアとジョストは部屋を後にした。
執務机の上に置いてあった筒を手に取りしげしげと見ていると、副官のアレッソンが残っているのに気が付いた。
「どうした、アレッソン。お前も行くがいい」
「私めは最後まで殿下に付き従いたいと存じます」
「ふん、だがこれから何が起こるか分からん。危ないと感じたらすぐに逃げるがいい」
そう言ってブリギオは筒の栓を外し、薬液を飲み干した。
「う、うう゛ぉごおおおおおお!」
途端に苦しみだしたブリギオの身体が膨らんだかのように大きくなり、まるで鬼人族のようになっていった。
あまりの事に驚愕して呻くアレッソンをブリギオが唸りを上げて睨んだ。
「で、殿下……」
それが長年ブリギオに忠節を重ねてきた彼の最後の言葉だった。
第四軍がボーガベルの二つの暴風に蹂躙されていく様を、歯噛みしながら見ていた部隊指揮官は後方が俄かに騒がしくなっていることに気が付いた。
ほぼ同時に後方から馬に乗った伝令がやって来た。
「な、なんだ! 何事か!?」
「さ、サシニアからしょ、正体不明のバケモノが! 我が軍の後方部隊を襲って……」
「な、何だと……ボーガベルめ、伏兵をサシニアに潜ませていたのか……数は!?」
「そ、それが……たった一人で……そ、その……」
「何だというのだ! はっきりいわんか!」
持って回った伝令の言い方に指揮官は焦れて怒鳴った。
「そっ、そのっ服装が! で、殿下の物なのです!」
「な、何だと……」
そう言った直後、
「がゴアあああああああ!!」
そう雄叫びを上げて跳躍してきた何かが指揮官を踏み殺した。
「な!」
動揺した兵士をすかさず殴り殺していくと脇にあった大ぶりの剣を掴み、振り回しながらボーガベル軍に向かっていく。
「な、何だあれは……鬼人族? いや、違うな」
何かが突進してくるのをセネリは見つけたが様子がおかしい。
後方の敵兵がこちらへ逃げて来ている。
その更に後方でその何かが敵兵を殺しまくっている。
「た、助けてくれぇ!」
最早戦意など無く恐怖に顔をこわばらせた帝国兵士達が我先にとこちらに逃げてくる。
『どうする、無愛想』
メアリアからの念話だ。
『戦意のないものを殺めるのはお前の騎士道ではなかろう』
『その通りだな』
『問題はこいつらを追い立てているものだ』
「アイツは俺に任せてくれ」
何時の間にかダイゴがとなりにいた。
「ご主人様? 何故だ」
「あれと同じのを前にも見てな」
そう、ワン子の兄セルブロイ。
強制的に獣化転換をする薬を飲まされ、凶暴化した挙句に妹に討たれた男。
「あれの元凶がおそらく何処かで様子を見てるだろうな。だからそいつにそんなもんは無意味だという事を見せつけてやりたいんだ」
『わかった』
『ご主人様がそう言うのなら』
『二人は投降する帝国兵達を頼む』
『『心得た』』
逃げ惑う帝国兵を掻き分けるようにダイゴは進んでいく。
「おい!」
ダイゴは叫んだ。
帝国兵を拳で潰していたブリギオがギョロリと睨んだ。
「ボーガベル軍の将軍、ダイゴ・マキシマが相手になってやる。掛かってきな」
そう言った瞬間にブリギオは跳躍して斬りかかってきた。
ガキン!
ブリギオ渾身の斬撃をダイゴは片手で受け止める。
だがブリギオは息もつかずに次々と連撃を浴びせる。
剣の型など無く、只闇雲に殴りつけるかのようだが、普通の人間ならその速度と威力で容易に粉砕されていただろう。
いくら何でも常識外だろ……。
ダイゴは全ての剣を受けながら心中で毒づいた。
余りにも人間離れし過ぎている。
恐らく並みの鬼人族ですら上回るだろう。
作った奴は何考えてんだ……。
喧嘩キックを見舞ってブリギオを吹き飛ばす。
肋骨の二、三本は折れ、内臓にもダメージを負った筈だが効いてる風には見えない。
「ごあああああああああ!」
壁にめり込んだブリギオはすぐさま剣を振り被って突進する。
スパン!
ダイゴは一足で駆け抜けると同時に抜き打ちを放った。
「漣弧月」
「ご……」
ブリギオの胴が斜めにずれ、立ったまま上半身が滑り落ちた。
「ふう……」
ダイゴは辺りを見回したが、既に戦闘は集結し、辺りは帝国兵の亡骸だけが残っていた。
半分に別れたブリギオの姿が元へ戻っていく。
脇に打ち捨てられていた帝国の軍旗をダイゴはその亡骸に掛け、手を合わせた。
その様を遠目に見ている馬車上の男がいた。
「うーン、獣化してしまうと敵味方の区別がつかなくなるようでは失敗ですねぇ、獣人はちゃんと区別がつくというのに人というのは何と業の深い生き物なンでしょう」
仰々しい身振り手振りでドンギヴが言った。
「しかし、ダイゴ候、どうやら私の見立て通りのお方のようで、長いお付き合いになりそうですなぁ」
腕を組んでウンウンというよりはガクガクと首を振る。
「さて、もう一つのお仕事を片付けるとしますか。ではサイナラ、サイナラ、サイナラ」
そう手を振りながら言うとドンギヴは馬車馬を走らせ西に向かって行った。
戦意を喪失した第四軍の残存兵二千余りが投降し、サシニアは陥落、即座に後方に待機していたレノクロマ麾下の旧第十軍、今はボーガベル第三兵団によって占領された。
ダイゴ達はブリギオによって破壊された行政府にいた。
「ひっでぇ有様だなぁ」
ふと、市街に至る出口でペシャンコに叩き潰された馬車を見つけた。
「これは……」
ワン子が言った。
馬車からは夥しい血が流れ、複数の人間が乗っていたことを窺わせる。
傍には真っ二つに引き裂かれた御者の死体が転がっていた。
辛うじて生き残った衛兵からブリギオの妻子が馬車で脱出を図ろうとしていた事は聞いていた。
「恐らくな」
馬車の残骸から出ていた短剣を握ったままの小さな手を見ながら言った。
ダイゴは屋根の部分を剥がすと、右手に紫色の魔法陣を展開させた。
「ご主人様……?」
「『蘇生』」
見る間にそこで圧死していた人々が生き返る。
「よろしいので?」
「良いも悪いも非戦闘員だろ、見捨てるわけにはいかんよ」
やがて三人の女性と子供が一人、そして御者が蘇生したが、御者は悲鳴をあげて何処かへ行ってしまった。
「あ……あの、私達は一体……」
ジョストを抱きかかえてナルショアがダイゴに尋ねた。
「我々の攻撃の直撃を受けたようだな」
「我々……するとあなたたちは……」
「我々はボーガベル軍だ。既にサシニアは我々の占領下にある。もし、脱出するなら早くした方がいい」
「あ、あの……殿下は……ブリギオ殿下は……」
「……ブリギオ殿下は私に一騎打ちを挑まれ、正々堂々と闘い、名誉ある最後を遂げられた」
「そ、そんな……そ、それではあなたは……」
「ボーガベル王国参与、ダイゴ・マキシマだ」
そう言った途端、ナルショアは泣き崩れた。
と、その嗚咽を掻き消すかのような声が響いた。
「おい!」
見ればジョストが短剣を構えている。
「ち、ちちうえの仇! 覚悟しろ!」
「っ! ジョスト! 止めなさい! ど、どうかお見逃し下さいませ! お手討ちになさるならどうかこの私を!」
慌てて地に額をこすりつけて懇願するナルショア。
「お前達は……」
誰が生き返らせたと思っているんだ!
そう言い掛けたニャン子を手で制してダイゴは言った。
「ふふん、お前のようなひよこを縊り殺してもつまらん。まだまだ母親のおっぱいが必要なようだから今日は母子共々生かしておいてやる。強くなったら何時でも父の仇を取りに来るが良い、フッフッフー」
「な、なんという侮辱! ええい!」
短剣を振り回すジョストにデコピンを見舞うダイゴ。
「あうっ!」
尻餅を付いたジョストは忽ち涙目になった。
「分かったか。己が無力さを。そこの女、俺の気が変わらんうちにさっさと連れて立ち去るがいい」
思いっきり悪そうな顔でそう言ったダイゴの目を見たナルショアは事情を察した。
「ジョスト、父上の言葉を忘れたのですか? 貴方はいずれ帝国を継ぐかもしれないのです。ならば今は歯を食いしばってでも生き延びるのです」
「は、ははうえ……」
後ろから抱きしめられたジョストの目から涙が零れた。
「ほれ、はやく行け。でないと仇を討つ前にその辺の奴に殺されちまうぞ?」
ダイゴがジョストに犬を追い払うように手を払う。
ナルショアと侍女達が怒りの目を向けるジョストを抱えるようにして街の方へ去っていった。
『セイミア、ブリギオの妻子が街にいる。アーノルドを一人付けて脱出の手伝いをさせてくれ』
『畏まりましたわ』
すぐに状況を把握したセイミアからの即答の念が返ってくる。
「しかし、よろしいのですか? 将来に禍根を残すことに……」
ワン子が口を挟んだ。
「そん時はそん時。まぁ一応監視に擬似生物を付けとくから」
幽閉するってのもあるだろうが、あんな小さい子供を押し込めるのは忍びないしな。
以前、フランス革命後に国王の子供が悲惨な監禁生活を送った話をテレビで見たのをダイゴは思い出していた。
「流石ご主人様、そつが無い……にゃ」
「もうこれで非戦闘員の処置は完了だな。後は第三兵団とゴーレム達に任せよう」
そう言ってダイゴ達はその場を後にした。
必死になって戦場から遠ざかろうとしたナルショア一行だが流石にジョストを抱えたままではすぐに限界が来た。
街は既に大混乱に陥っていた。
脱出しようと家財道具を持ち出す者。
これ幸いと略奪や暴行を働く者。
あちこちで怒号と悲鳴が飛び交っている。
物陰に隠れたナルショアは途方に暮れた。
「これから……どうすれば」
ケドレイト領は遙か遠く、とても世俗を知らない母子と侍女がたどり着けるとは思えなかった。
「私が馬車を用立てて参ります」
侍女の一人が決死の表情で言った。
ナルショア付きの侍女は二人とも下級貴族の娘だが、相応の気立てを持っている。
いざとなればこの身を犠牲にしてでも……。
彼女がそう思った時、
「ナルショア妃殿下であらせられますね」
通りから響いたその声に侍女達は懐剣を構えた。
「ご安心ください。殿下に万一の時のために予備の馬車を仕立てておくように仰せつかった者です。お早くお乗りを」
声の主はがっしりとした体躯に短く刈った髪。
少し小さめだが帝国軍の軽装鎧を着ている。
帝国兵に扮した擬似人間のアーノルド・イレブンだが、勿論ナルショア達は知る由も無い。
「殿下が……ああ」
ナルショアは安堵して涙ぐんだ。
見れば通りに地味だが堅牢な大型馬車が止まっていた。
これはセイミアがサシニアのモシャ商会に手配させた物だ。
既に十分な水や食料が積まれ、同じ擬似人間のシルベスター・セブンが警備している。
「さぁ、皇子をこちらへ」
見ればずっとぐずっていたジョストは緊張に糸が切れたのかウトウトとしている。
アーノルドはジョストをそっと座席に横たわらせた。
その腕を寝惚けたのかジョストが掴んで言った。
「ちちうえ……」
アーノルドはそっと手をはずすと、シルベスターに見送られ馬車を走らせた。





