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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第五章 ゴルダボル要塞攻略編

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第五十六話 花火

 エドラキム帝国帝都カーンデリオ。


 新生ボーガベル王国のカナレ侵攻と陥落、それに伴う帝国第十軍の「消失」という事態を受け、緊急帝国議会が開かれた。


 不機嫌を押し隠そうともしない皇帝バロテルヤの前に並ぶ将軍は最早五人しかいない。


 第一皇子グラセノフ。

 第二皇子サクロス。

 第一皇女ファシナ。

 第三皇子ブリギオ。

 第四皇子セディゴ。


 残りの軍団も再編を急いではいるものの未だ途上の有様だ。


「さてもボーガベルにここまでしてやられるとはのう。儂の国は斯様に惰弱な物だったかのう」


 陥落したカナレには大規模な部隊が集結中との報告があり、また、旧バッフェのカスディアンでも旧バッフェの部隊を中心とした二万人規模の兵力の集結が観測されていた。


 僅か一年半前までは滅亡寸前で、自国の姫を三人差し出して命乞いをしようとしていた国が突如我が国の半数の兵力を瞬く間に消し去り、腐敗していたとはいえ古の大国として未だ侮れぬ力を持っていたバッフェ王国を併合。


 そして今や帝国の領土を侵そうとするまでになった。

 どう考えてもあり得ぬ事だ。


「陛下、何も恐るる事は御座いません、我が帝国の兵力は今なお田舎王国を打ち負かして有り余るほどで御座います」


 第二皇子サクロスが胸を張ってがなった。


「確かに数の上ではな。だが五軍、いや四軍か。何れもそのダイゴとやらの部隊にやられておるのだぞ。それは何とする」


 ダイゴはモシャ商会経由でグラセノフを通しある程度の情報を流していた。


 ダイゴ・マキシマは他大陸からやって来た異国人で、彼の配下の兵は通常の兵より優れた力を発揮する。ダイゴ・マキシマも未知の魔法を使いこなす魔導士である。


 と言った物だ。


「その様な者、再編の成った我が第二軍精鋭二万の前にはただの蟻以下の存在。立ち所に踏み潰してご覧に入れましょうぞ」


 サクロスは第四、第五軍から練度の高い兵を大量に引き抜き、第二軍は今や最大規模を誇るまでになっていた。

 その為、第四、第五軍は新兵を大量に補充せねばならず、結果第六軍以降の再編成は大幅に遅れることになった。


 ブリギオとセディゴは内心忸怩たる思いだったが、皇帝の裁可である以上逆らうわけにはいかない。


「ふむ、グラセノフ。貴公どう思う」


「なっ」


 サクロスの顔が赤くなった。

 自分の熱弁が無視されたと思ったからだ。


「国体の維持を図るなら速やかに新生ボーガベル王国に使者を送り、講和を図るのが宜しいかと」


 その言にサクロスは一瞬呆気にとられた後大爆笑した。


「陛下の御前だぞ」


 グラセノフは短く言った。


「こ、これは異なことを。第一皇子たる兄上らしからぬ怯懦な言葉。一体如何なされた?」


 半ば嘲るようにサクロスが言った。


「……」


 グラセノフは無言だ。


「それ以前に兄上。第十軍投降、いえ、消失のご責任は如何して取るおつもりか」


 第一皇女ファシナが鋭く言い放つ。


 グラセノフと兄弟同然に育ったレノクロマ率いる第十軍は帝都防衛戦力であり帝都を離れることの出来ない第一軍の実質的な別動部隊であった。


「駄馬」たるレノクロマが寄せ集めの愚連隊とは言え正規軍を率いられたのもひとえにこの軍団がそういう性質をもっていたおかげである。


 しかしそれは裏を返せば第十軍の責任は全てを後ろ盾たるグラセノフに掛かってくるということになる。


「責任か。それは皇帝陛下がお決めになることだ」


「では陛下、第十軍消失に関わるグラセノフの責任、如何にいたしましょうや」


 尻馬に乗ったサクロスが皇帝に尋ねた。

 ファシナが鼻を鳴らす。


「グラセノフ、貴公どう考える」


 サクロスは又も顔を赤くして歯噛みした。


 陛下はグラセノフに寄りすぎている。


「はっ、私と第一軍は当面謹慎が宜しいかと」


「ふむ、だが帝都の守備は何とする」


「それには心配及びませぬ! このサクロスと第二軍が蟻の子一匹入れぬ守りをご覧に入れましょうぞ!」


「との事です」


「そうか。ではそうするが良い」


 サクロスは自分抜きで進められた話に更に歯噛みしていたが、その結果に喜色満面の笑みを浮かべた。


 遂に自分が軍の頂点である帝都防衛の任を頂く。

 どれほど夢見、願ってきたことか。


 それが叶うのなら第十軍の消失など寧ろ大歓迎だ。


 帝城前広場に整列する第二軍、それを指揮する第一皇子だけが着ることを許される純白の軍服。

 それを纏ったサクロスの前を整然と行進する第二軍の精兵。


 その光景にサクロスは酔った。

 その後、グラセノフが退出したことも、後の会議の事などもまるで頭に入らなかった。


「恐れながら陛下」


 陶然としてるサクロスを無視してファシナが切り出した。


「申してみよ」


「はっ、我が第三軍では彼のダイゴなる者とその兵を撃ち破る戦力を保有致しました」


「ほう」


 皇帝は一々内容など聴いたりしない。

 既にその内容は把握している。

 しかもそれは皇帝自らがファシナに授けた策だ。


「付きましてはカスディアン方面の討伐をお命じ頂きたいと存じます」


「ほう、カナレではなくカスディアンとはな」


「は、その戦力少々扱いが難しいですが威力は絶大。カスディアンにおびき出した上で一度にバッフェの残党もろ共屠るのが良いかと」


「分かった。任せよう」


「は、必ずや」


「姉上のお手を煩わせるまでもありません、このブリギオにもダイゴとやらを撃ち破る策を用意して御座います」


「同じく、このセディゴにもダイゴなる輩を屠る策が御座います」


「そうか、ではカナレにはブリギオとセディゴに行って貰おう」


「はっ、必ずやダイゴとやらの首級を上げ、陛下に献上してご覧に入れます」


 ブリギオが自信たっぷりに言い、セディゴは無表情ながら肯定するように頷く。


「良かろう。皆期待しておるぞ」


「ははっ」


 三皇子皇女は揃って頭を下げ、慌ててサクロスも倣った。






 その頃、グラ・デラを一台の馬車が後にしていた。

 中にはグラセノフと副官のレクフォルトが乗っている。


「まずは予定通りですな」


「ああ、兵の方は頼むよ。くれぐれも自重して、特に第二軍の挑発などには乗らぬように」


「心得ております。我が第一軍、皆心は一つ。全ては殿下のために」


「ありがとう。新時代……」


 グラセノフが手を伏せて上を指さした。


 二人が同時にそろりと短剣を抜く。


 ドンと何かが飛び乗る音がしたと同時に数本の槍が突き出される。

 だが二人は易々と槍を躱し抜けないように抑えた上で素速く天井の数カ所を刺した。

 それっきりだった。


「大丈夫かい」


 グラセノフは外の御者に声を掛ける。


「は、はい」


「御者のなり手も居なくなってしまうな……ダ氏から人手を借りるようだよ」


 グラセノフが苦笑いをしながら言う。

 ダ氏とはダイゴの事だ。


「サクロス様でしょうか」


「どうだろうね。ファシナはこんな杜撰な事はしないし、ブリギオやセディゴにはそこまでの度胸は無いよ。あるいは……」


「……」


 レクフォルトは押し黙った。

 軽々しく口に出せない名前だからだ。


 四人の刺客の死体を乗せ馬車はグラセノフ邸に入った。


「お帰りなさいませ、グラセノフ様。お客様がお待ちで御座います」


「ただいま。ああ、謹慎が決まった。それではその上の荷物共々後は頼んだよ」


「お任せ下さい」


 その間際グラセノフは馬車の脇で震えている御者にずっしりとした布袋を手渡すと、


「怖い目に遭わせて済まなかった。これで少し遠くへでも旅をしてくると良い。戻ってきてまた気が向いたら尋ねてきておくれ」


 そう柔らかく言って屋敷に入った。


 居間に入るとセイミアとすっかり見慣れた顔がいた。ダイゴだ。

 勿論獣人の侍女も二人連れている。


「お待たせしたかな?」


「うんにゃ、この屋敷は色々面白い物があって飽きないからな」


「あはは、君の所ほどでは無いよ」


「そうか? さてと」


 ダイゴは魔導核を創造するとグラセノフのコピーを作り出した。


「全く奇妙な気分だね。こうしてそっくりの自分を見るというのは」


 ワン子達の手伝いで服を着ている自分のコピーを見ながらグラセノフは唸った。


「こいつにはセイミアの希望で記憶や人格の移動はしない」


「当然ですわ」


 片目を開けてセイミアが即答した。


「だからボロが出ないようにアンタがしっかり見ててくれよ」


「分かっております。日中は騎盤の相手を務めます故ご心配なく」


 レクフォルトが恭しく礼をする。


「ではレクフォルト、後を頼む」


 簡単な荷物をワン子達に預けてグラセノフが言った。


「お任せ下さい、行ってらっしゃいませ」


 ダイゴ達は転送して消えた。


「では、騎盤を始めますか、レクフォルト様」


 擬似人間のグラセノフが慇懃な口調で言う。


「おいおい、その口調じゃボロ出まくりだ。何時もの調子でお願いしますよ、殿下」


「うん、分かった」


 グラセノフが変わらぬ笑顔で言った。




 数日後、グラ・デラの皇帝の居室。


 バロテルヤは痩身の男から報告を受けていた。

 皇帝にも耳目となる者たちがいる。

「掃除夫」と呼ばれた彼等の任は諜報以外にも多岐にわたっている。


「件の警告の後、謹慎後のグラセノフ様は日中は副官と騎盤に興じ、夜は書物を読み耽る毎日で御座います」


「ふむ、本人の確認は取ったのだな」


「はい。ファシナ様伝手で入れた行商の者によればグラセノフ様ご本人に相違ないかと」


「第一軍の動向は」


「これも日がな一日訓練に明け暮れ、これと言った動きは……」


「分かった、引き続き見張れ」


「畏まりました」


 男は下がっていった。


「何故動かぬ……あるいは」


 皇帝はグラセノフの一連の行動をある程度見抜いていた。

 ボーガベルと結託しての帝位簒奪。

 第十軍の離反もそれに伴う自身と第一軍の謹慎はそれを裏書きしている。

 そして彼らが取りうる策に対し最善の布石を打ち、奥の手も用意した。

 だが肝心のグラセノフが動く気配がまるで無い。


「どの道、次は勝たせてやる訳にはいかんがな」


 バロテルヤは卓上の騎盤に目をやった。

 最後にグラセノフが詰んだ状態のままだ。

 そこに竜の駒をポンと置く。

 たちまち形勢は逆転し、バロテルヤの詰みとなった。




 カイゼワラ州カイゼワラ湾。


 俺達は海辺の王室専用別荘でバカンスを楽しんでいた。


「しっかし、良いのかねぇ。いよいよ帝国を攻めるんだろ? こんなにのんびりしちゃって」


 冷えた果実酒を呷りながら眷属達が水辺で遊ぶ姿を眺めてたガラノッサが言った。


「だからじゃん、決戦を前に悲壮感漂わせてエイエイオーとか俺の趣味じゃないんだよ。それともガラノッサはそっちの方が良かったか?」


「うんにゃ、大将ご自慢の姫様達を見物しながら美味い酒を飲んでた方がいいねぇ、グラセノフもそう思うだろ?」


 侍女が注ぎなおした酒をまた呷りながら今度はデッキチェアで本を読んでいるグラセノフに振った。


「はは、そうだね。しかつめらしい帝国議会よりこちらの方が全然楽しいね」


 ここで初めて顔を合わせたガラノッサとグラセノフはすぐに意気投合した。

 ほぼ同年代というのもあったが、一見相対する性格に見える二人にどこか共通した部分があったようだ。


「で、帝国は三軍を二カ所に分けたのか」


 少し離れた水辺では、女王様プロデュースによる水着侍女だらけの水上大運動会なる謎のイベントが始まっており、水上丸太落としで地元出身のスルセアがルファを盛大に海に叩き落としている。


「ああ、再編したばかりの第四、第五軍をサシニアに配備したようだが、どうにも誘いにしか思えないね」


「ある程度こっちの動きも読まれているって事か」


「問題は第三軍だね。ファシナは皇帝の直属だから何かはあると思うんだけど」


「そんなおっかねぇのとやり合うのか?」


 ガラノッサが聞いた。


「恐らくカスディアンに向かっているが、こちらの帝都侵攻に合わせて引き返すつもりだろうね」


「それはそれで面白くねぇな」


 続いて紅白綱引きが二台のカーペット上で行われ、クフュラの元ご学友達が盛大に芋づる式に海に落っこちるのを眺めながらガラノッサが言った。


「皇帝も帝都を戦場にするという愚は犯さないはずだが、あの布陣は帝都に引き入れるようにしか見えないんだ」


「ある意味挑発してるのかもな」


「で、大将はどうするね」


「どうするもこうするも予定通りだ。今さらガタガタしても仕方ない」


「そうだね、ダイゴならそう言うと思ってた」


 海ではメインの水上騎馬戦が始まろうとしていた。

 ルールは簡単、帽子を取られるか、騎乗者が海に落ちると失格。

 最終的に相手を全滅させた方が勝ち。


 白組の大将は本来眷属は出場禁止なのだがどーしても出たいと土下座して頼んできたので手を拘束するというハンデを付けたメアリア。


 対して赤組は……


「あれ、お前、この前の」


「はっはっは! メアリア様! この間の雪辱を晴らさせて頂きますぜ!」


 そう、第十軍のルキュファだった。


「お前、いつから侍女になったんだ」


「違う! 今日はレノクロマ様の護衛で来たんだ! このカッコはこれしか無いって言われて……」


 ルキュファの着ているのは他の侍女達と同じ、侍女服をビキニにしたような侍女水着だが、サイズが微妙に小さいのか豊満な肢体が強調された感じになっている。


「ふうん、まぁいい。相手にとって不足は無い」


 腕が使えないので足の指をパキポキ鳴らす器用なメアリア。


 こいつ、足で戦う気か。


「あれ、そういやレノクロマも呼んだんだっけ。何処にいんだアイツ」


 見渡すと彼方の木陰でセイミアの事をじっと見ていた。

 脇ではテネアとか言う魔導士が座ってうっとりとした顔でレノクロマを見ている。


『セイミア、レノクロマどうにかしろよ。こえーよ』


 俺が念話でセイミアに言うと


「レノクロマ-」


 セイミアの呼ぶ声に即座にレノクロマが駆けていき、慌てるようにテネアが後に続く。

 犬かあいつら。


「全く、レノクロマも早くセイミア離れして貰いたいんだがねぇ」


 グラセノフが溜息混じりに言った。


 メアリアを大将に頂いた事で気合いの入った白組とは対照的に赤組の雰囲気は重い。

 それもそうだろう、手を拘束されているとは言え、メアリアの戦闘力は侍女なら良く承知している。

 片や自軍は何故かこの間まで敵軍だった女が大将で、一人気合いだ根性だと暑苦しく気を吐いている。


「こりゃ、やる前から勝負あったかな」


「ふむ、ダイゴ、一寸加勢してもいいかな」


 本から目を離してグラセノフが言った。


「構わんよ」


 俺がそう言うとグラセノフは近くの侍女に呼んで耳打ちし、顔を真っ赤にした侍女がルキュファ達の所に駆けていき何やら話し込む。

 途端に赤組の面々の顔が活き活きと輝きだした。

 ルキュファの馬役が交代する。


「ふっ、何を授けられたか知らないが我が王道を阻むもの無し!」


 腕を組めないメアリアが足を組んで言った。


「では、はじめ~」


 女王様の気の抜けた号令で両軍が動き出す。


「うおおおおお!」


 メアリア騎乗の騎馬が物凄い勢いで突っ込んでくる。


 と、紅組はメアリアから距離を取って離れていく。


「な、おい! 尋常に勝負しろ!」


「やーい、悔しかったら追いついてみな-」


 水着からはみ出し気味の尻をペンペンと叩いてルキュファが挑発する。

 あんなこと実際にやる奴初めて見たわ。


「くっ、おい! あいつをまず潰すぞ! 追いかけろ!」


 メアリアが前にいるルファに指示を出す。


「は、はいっ」


 だがメアリアはルキュファに容易に追いつけない。

 それもその筈、事前に交代した馬役はスルセア以下カイゼワラ出身の侍女ばかり。

 海での動きは慣れたものだ。

 波の動きに逆らわず、逆に波に乗りながら逃げていく。


「はひぃ、もうらめれすぅ」


 波をかき分けながら走り回って疲労困憊のルファ達が音を上げる。


「お、おい、しっかりしろ……うっ」


「ふっふっふ、メアリア様、お・か・く・ご・を」


 気が付けば白組はメアリアの騎馬だけになっており、赤組の五騎に囲まれている。


「何の! まだ負けた訳では無い!」


 そう言って跳躍したメアリアが器用に足の指で二人の帽子を奪い取り、更に肩を踏み台に高々と飛んだ。

 だがその動きをルキュファは待っていた。


「今だ! どっせええええええい!」


 ルキュファの合図と供に三騎が主のいない馬に体当たりをかまし、その上にメアリアが落下して全員が海に消えた。


「ぶはっ、くっ、相打ちか……」


 海面に出たメアリアがそう言うと、


「メアリア様、あ・れ」


 そう言ってニヤニヤと意地の悪い顔をしたルキュファが指をさした。


「なっ」


 その先にはヒルファを乗せた馬がチョコンと立っている。


「ヒ、ヒルファ!? 参加してたのか? 気が付かなかった……」


「へっへっへー、オレ達の勝ちだな」


「くっ……」


 心底嬉しそうなルキュファと心底悔しそうなメアリア。

 だがルキュファは激闘の衝撃で水着が外れてポロリ状態なのに全く気が付いていなかった。


 メアリアばかりに気を取られていたが、全体を見れば終始赤組が優勢に試合を進め、メアリアの悪あがきも完封しての勝利だった。


「やっぱグラセノフ敵に回さないで正解だな」


 大笑いしながらガラノッサが言った。


「メアリア殿の行動は把握済みだからね」


 結果は見るまでも無いと本を読んだままのグラセノフが言った。


「みんな、楽しかったぞ。そろそろ上がって食事にしよう」


 俺がそう言うと一斉に


「「「は~い」」」


 と返事が返ってきた。

 約一名腕を拘束されたままうなだれているのがいるが。




 夜は全員特別に誂えた浴衣に着替えて、別荘の庭での夕食会となった。

 縁日の屋台を模した物がいくつか建てられ、カマネ牛や海鮮の串焼きや芋を揚げたもの等が振る舞われている。


 更に試行錯誤の上、結局『氷結』の魔法を創造して作成した製氷魔導回路によるかき氷は大好評だ。

 この技術を応用したメルシャ肝いりの冷凍冷蔵輸送船も一番船が既にオラシャント航路に就航している。


「凄いなぁ、本当の縁日みたいだ」


「うふふ、ご主人様に少しでも元の世界の気分を味わって頂こうと、眷属一同頑張りましたわ」


 浴衣を着ても隠しきれない大きなお胸を張ってエルメリアが言った。


「いや、本当嬉しいよ。みんなありがとう」


「でも~これで里心がついたら困ります~」


「それは心配ないよ。ここが俺の今の故郷だから」


 少し心配顔で言ったメルシャにそう答えた。


 この夕食会にはグルフェスや、アラモス、レクフォルト、モラルドと言ったボーガベルの閣僚や各部隊の副官達も集められた。


「うまっ! テネア! オレこんなうまい牛食ったの初めてだぜ!」


「私なんか牛食べたの初めてよ……」


「それよか、シェアリア様に言われたアレ、覚えられたのか?」


「ええ、どうにかね。すっごいわよ」


「一寸あなた、食べてばかりいないで手伝ってよ」


「え、オ、オレは……」


 魔導服を着ていたテネアと違い、侍女浴衣を着ていたルキュファはそのままルファに引っ張られていった。


 そんなやりとりを眺めていた俺に、


「では、ご主人様、お願いします」


 そうエルメリアが言う。


 俺が眷属そしてガラノッサやグラセノフ達と壇上に上がると皆が注目する。


「皆、楽しんでると思うが、ここで一言言わせてくれ。いよいよ、ボーガベルは帝国に攻め入ることになった。ひとえにエルメリア女王陛下、グルフェス大臣、そしてガラノッサ候、グラセノフ殿下、何よりも皆の力添えのお陰だ。この東大陸を戦争の無い、皆が笑って暮らせる場所にするために、更に力を貸してくれ。以上だ」


 場内に拍手が湧き上がった。

 見ればセイミアにつられてレノクロマも仏頂面で手を叩いている。


 脇からガラノッサとグラセノフが俺の手を握りしめた。


「作ろうぜ、大将」


「新しい世界を」


「ああ、やってやるさ」


 何かが、とてつもなく強固で壮大な何かが産まれた瞬間だった。


 そしてそれを祝うかのように花火が上がった。

 正確にはシェアリアとテネアが打ち上げた花火を模した魔法だ。


 夜空に色とりどりに咲く大輪の花を見ながら、俺はいつの間にか寄り添って眺めていたエルメリアに言った。


「やっと決心がついたよ」


「はい、ご主人様のなさりたいように……」


 エルメリアがニッコリと微笑んだ。


 まるで総てを司る女神のように。

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