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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第四章 タランバ奪還編

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第四十八話 裏切り

 翌日。


 アジュナ・ボーガベルでは早速偵察擬似生物からの情報をセイミアが精査した上でのタランバ奪還作戦が計画立案されていた。


「ご主人様、宜しいでしょうか」


「おう、セイミア。プリンが食べたくなったか?」


「はひゃぁい……って、ち、違います。偵察擬似生物からの情報がまとまったのでご報告に来ましたの」


 顔を赤らめてセイミアが言う。


「おお、流石セイミア。仕事が早いな」


「当然、というかこの程度の軍勢ではつまりませんわ」


「まぁそう言うなって、これはお前の実力を見せて貰う機会でもあるんだから」


「重々承知しておりますわ。今回の戦闘でご主人様のセイミアというものを良くご理解して頂きます」


「期待してるぞ。それで?」


「まずハフカラ軍の兵力ですが、全て歩兵で約一万、内訳は橙豹族五千、青象族と緑亀族それぞれ二千、あとは蒼狼族や白兎族などが合計千です」


「兵の主体はハフカラ軍一万か。向こうのガルボ軍ってのはどの位いるんだ?」


「タランバに駐屯しているのは約二万ですね。金獅子族の他には灰熊族や茶猪族なども数多くいますわ」


「何か重量級ってか凶暴そうってか」


 こっちにも象はいるが向こうは熊と猪か。


「重歩兵だらけですが別に問題はありませんわ」


「それでまずメアリアの部隊は何処で使うんだ」


「当然主力ですが今回は一騎駆けは控えて頂きます」


「え、何故だ?」


 メアリアが驚いた顔で言う。


「今回の我々はあくまでも支援であり、前面にハフカラ軍を押し立てる必要があります。また、戦場予想地点が盆地であるので一騎駆けによる一点突破をしても縦深防御を取られた場合に後続の被害が増える可能性が高いです」


「む、むう。ではどうするのだ」


「そうは言ってもメアリア様の突破力は重要であることには変わりありません。そこでハフカラ軍の兵士に扮して貰って、先陣を切り拓いて頂きますわ」


「ハフカラ軍の? いつもの戦闘礼装は駄目なのか?」


「駄目ですわ。目立ちすぎですわ。台無しですわ」


「う、う、う」


 流石のボーガベルの剣も服を着た陰謀の前には形無しだ。


「その上で後続のハフカラ兵と歩調を合わせてタランバ城に進軍して頂きます」


「ゴーレム兵はどうするんだ」


「ゴーレム兵は二隊に分け側面を守らせます」


「敵にいるらしいワン子の兄のセルブロイの土地勘を活かした戦術ってのは?」


 俺が聞くと即座に


「全く問題ありません、裏の裏を掻いてさしあげますわ」


 と、自信満々、実に活き活きした答えが帰ってきた。


「現在確認されている敵が仕掛けた罠は二つ、川をせき止めての濁流攻めとタランバ城に差し掛かる渓谷の岩場に落石が準備してありました」


「それはアーノルドとシルベスターの部隊でカタが着くな」


 今回は別働部隊として擬似人間の部隊を投入してある。

 少数での制圧力に長けるアーノルドと隠密かつ精密行動に長けるシルベスター。

 名前からして実力は推して知るべしだ。


「勿論ですわ、それから迂回路から敵の別働隊が進行中です」


「じゃぁそっちはシェアリアに頼もうか」


「……任せて」


 今回の作戦は帝国攻略に当たってのセイミアの実力を測るための物でもあるのだが、セイミアのやり方は現地の地形、天候、そして彼我の戦力、指揮官の戦術の好みなどを徹底的に調べ上げ、最も効果的に打撃を与えられる戦術をいくつか用意する、石橋を叩いてその上に鉄の橋を作るようなやり方だ。


 決して「ナントカの計」なんて奇策を弄したりはしない。


 もっとも本人に言わせれば、


「勿論そういうのも得意ですがそれはご主人様にはお似合いになりませんわ」


 と、いうことだそうだ。


「本当なら先陣はワン子さんにお願いしたかったのですが、あの状態では……」


 タランバ奪還の旗印にはやはりワン子を先頭に立たせるのが効果的ではあった。

 それがワン子の名誉回復にもなると考えたんだが、今その役を無理にやらせるつもりは俺もセイミアも無かった。

 ワン子はアジュナ・ボーガベルの一室に籠もったまま出てこない。

 自分が信じていた兄に裏切られ、その結果タランバが死の荒野に変貌してしまったという事実が彼女の心を押し潰してしまった。

 ヒルファが扉の前に付きっきりだが出てくる気配は無い。


「大丈夫だ。私がきっちりやってみせるさ」


「お願いしますわ、メアリア様。あら、そういえばニャン子さんがいませんわ、彼女にもお願いしたい事がありましたのに」


「そういや、そうだな。誰かニャン子知ってるか?」


 だが誰も見ていない。


「まさかとは思うが……セイミア、監視擬似生物でタランバに行ってるのをいくつか探索に回してくれ」


「畏まりましたわ……まさか」


「そのまさかじゃなきゃ良いんだけどな」


 昨日タランバから戻ってきたニャン子も思い詰めた顔をしていた。

 くれぐれも軽はずみな行動はするなとは言っておいたが……。






 ハシュフィナは単身旧タランバに向かっていた。

 緑豊かな草原が広がっていた大地は今はすっかり赤い岩や砂の広がる荒れ地と化し、往時の面影は何処にもない。

 その瓦礫の地をハシュフィナはひたすら走って行った。


 ビリュティスに酷い仕打ちをしてしまった。

 ガルボにタランバを売り渡したのはセルブロイの独断だった。

 寧ろ何も知らずにセルブロイによって騙されて逃がされ、奴隷にされたビリュティスの方がよほど辛い目に遭ってきたはずだ。

 だが、再会した彼女は驚くほど光り輝いていた。

 理由はすぐに分かった。


 ダイゴだ。


 彼の存在がビリュティスに驚くほどの光を与えていた。

 本心ではハシュフィナは妬んでしまった。


 タランバに続いてハフカラまでもが滅亡の危機にさらされ、シャガやデンズ達も彼女の援軍を求める船出のために命を落とした。

 それなのに国を捨てて真っ先に逃げ出したビリュティスは東大陸の王室に囲われ、素晴らしい主人と女王を初め美しい女達と幸せに暮らしている。

 タランバやハフカラのことなど忘れてしまっていた。


 そう思っていた。

 だからあんな酷いことを言ってしまった。

 あの時の自分とカンニアでビリュティスに石を投げた蒼狼族の少年の姿が重なった。


 それが全くのデタラメなのは昨日のビリュティスの姿で明らかだった。

 彼女は逃げ出したわけでも今が幸せだったわけでもない。

 ずっとタランバのことを気にしていた。

 不本意に故郷を離れた自分をずっと責めていた。

 それが名前も故郷も捨てたという事だった。

 自分にはもはやタランバを語る事もビリュティスという名を名乗る資格も無い。


 なのに……。

 親友なのに……。


 償わなければならない。

 どうやって?


 何も思いつかなかった。

 これではダイゴ様にハフカラに派兵してくれと頼んだのと同じじゃ無いか。


 そこで思い当たった。

 セルブロイとタランバの雫。


 間違いなくセルブロイはタランバ城付近にいる。

 彼が潜伏できるのはあの辺りしか無い。

タランバの雫も彼が持っているはずだ。


 セルブロイに会ってタランバの雫を取り戻す。

 そしてセルブロイも連れ帰る。


 それが償いになるのかは分からない。

 もしかしたら更にビリュティスを傷つける事になるかも知れない。

 でも、私がビリュティスにできるのはこれしかない。


 そう考えながらハシュフィナは走った。


 渓谷を抜けた先に旧タランバ城がある。

 城と言っても崖に無数に開いた洞窟を拡幅した物の周囲に木製の柵や櫓を張り巡らせた物だ。

 元々は蒼狼族の住居だった物を手直ししている。


 櫓には見張りの金獅子族の兵はいたがハシュフィナにしてみれば容易に潜入できる場所だ。

 スルリと柵を乗り越え周囲を伺いながら中に入る。


「ハシュフィナ?」


 不意に脇の穴から小声がした。


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはぼろ布を被った男が呆然と立っていた。


「セルブロイ?」


 やつれた感はあるが、その優しい顔立ちは紛う事無きビリュティスの兄セルブロイだった。


「やはりハシュフィナじゃないか。どうしたんだ、こんな所で」


「セルブロイ、貴方一体今まで……」


「しっ、ここじゃ見つかる。こっちへ」


 そう言うとセルブロイは穴の奥へ戻っていく。

 ハシュフィナは後を追った。


 幾つもの隠し扉や抜け穴を通り、二人は小さな小部屋に出た。

 明り取りの窓が開けてあり、中はそれなりの明るさを保っている。


「ここなら誰も来ない。安全だよ」


「驚いた。こんな部屋があるなんて」


「ははは、元々僕たちが住んでいた城だよ、勝手は僕が一番よく知ってるさ」


「そうね……」


 三人で遊んだ記憶が苦味を纏って蘇った。


「それで、一体どうしてこんな所に一人で?」


「ビリュティスが戻ってきたわ」


「何だって?」


 セルブロイの顔がにわかに険しくなった。


「今のタランバを見て泣いていたわ」


「そうか……ビリュティスが……」


「ねぇ、あの時何があったの? 皆が貴方の事を裏切り者と呼んでるわ。そしてビリュティスも国を捨てて逃げた卑怯者と」


「そうか……」


「でも、あなたがビリュティスを逃がしたのでしょ?」


「……ああ、そうだ」


「私も彼女に散々酷いことを言ってしまった。だからここに来たの。教えてセルブロイ。あの時何があったかを」


 セルブロイは少し考え、


「分かった、話そう」


 そう言って語り始めた。


「ガルボの最初の攻撃で僕の指揮していた部隊はほぼ壊滅してしまった。部下達の捨て身の助けでどうにか生き残った僕はタランバの滅亡を悟った。だが、このままでは次期女王のビリュティスはガルボに殺されるか良くて慰み者だ。僕にはそれが耐えられなかった。だからビリュティスを説得して船に乗せ逃がした」


「何で逃げたなんて言ったの?」


「ああでも言わなければ将達は僕の言うことに耳を貸してくれなかったからね」


「その後の事は?」


「タランバの雫をビリュティスから受け取り、僕は指導者としてガルボとの和平交渉に臨んだんだ。交渉はうまく運び、ガルボは撤退することになった。僕は将軍達と祝いの宴を催したんだけど、そこへガルボが奇襲を掛けてきたんだ」


「後は君も知ってのとおりさ。タランバ城は落ち、将を失った蒼狼族も壊滅。タランバの雫も奪われてしまった。辛うじて生き残った僕はせめてタランバの雫だけでも奪い返そうと、時々城に潜っては捜しているんだ」


「そうだったの……御免なさい。疑ったりして」


「仕方ないさ。僕は全く蒼狼族らしくないからね。やっている事は」


 そう言ってセルブロイは首を振った。


「それで、タランバの雫は何処にあるか分かったの?」


「ああ、昔の玉座の間にある。でもなかなか警戒が厳しくてね」


「玉座の間ね。それなら私も知ってる。今から行って取ってくるわ」


「いや、危険だ。やめた方が良い」


「大丈夫よ、セルブロイ。戻ったら一つ約束して」


「何だい」


「ビリュティスにさっきのことを話してあげて」


 そうすればきっとビリュティスにも笑顔が戻るはずだ。


「勿論。ビリュティスが戻ってきたらそうするつもりだった」


「お願い。じゃ行ってくる。セルブロイはここにいて」


「ああ、十分気をつけるんだぞ」


 セルブロイを部屋に残しハシュフィナはタランバ城の玉座の間に向かった。

 子供の頃からビリュティスとセルブロイの三人で遊んだ城だ。セルブロイほどでは無いが玉座の間の場所くらいは分かる。


 途中で何人もの金獅子族の衛兵に出くわすが皆気付かれないようにやり過ごしていく。


 そうして遂に玉座の間にたどり着いた。


 そっと中を窺うと、玉座に無造作に首飾りが垂れ下げてある。


 その下に大きな紫の宝石がある。

 タランバの雫だ。


 こんないい加減な……。


 そう思いながらハシュフィナは周囲を見渡すが、人の気配は無い。


 そっと中に入りタランバの雫を摑む。


 ガン!


 周囲の扉が一斉に落ちた。


「!」


 ハシュフィナは閉じ込められてしまった。

 それでもタランバの雫を首に掛け、慎重に辺りを窺う。


 低い声が響いてきた。


「ん~フッフッフゥ、これはまた可愛らしいネズミが入ってきたものだ」


 ハシュフィナは声がする上を見上げた。


 すると上の穴から多数の金獅子族の兵士達が顔を出した。

 その中から一際巨大な影が躍り出る。


「!」


 大地に平然と立った影は、身長三メルテ近くある巨大な金獅子族だ。

 肩まで伸びた金髪は後ろに流してあるが角ばった顔に丸く大きい鼻、太い眉にギョロリとした目はどことなく獅子舞の面を彷彿させる。

 体に纏った文様入りの鎧が将であることを表していた。


「お前は……」


「ん~フッフッフゥ、自己紹介が必要かね。私はガルボ獣王国東方征討隊筆頭、ボリノーゲ・グリだ。良く覚えておきたまえ」


「私は……」


「ん~フッフッフゥ、ネズミ一匹の名前など聞く気はせんよ。まずは私の物を返して貰おうか」


 指先を振りながらボリノーゲは言った。


「タランバの雫のことか? これは元々タランバ王族の物だ。貴様などが持つ物では無い」


「ん~フッフッフゥ、私はそのタランバの王から譲り受けたのだがねぇ」


「なんだと!」


「そうだな! オイ!」


 その途端上から何者かが蹴落とされた。


「は、はひいぃ」


「セルブロイ!」


 それはセルブロイだった。

 ガタガタと震えながら頭を抱えている。


「おい、誰がタランバの所有者なんだ! 言ってみろ!」


「も、勿論ボリノーゲ様で御座います!」


 さっきまでの優しげな顔は卑屈に歪み、同じ人物かと疑うほどだ。


「ん~フッフッフゥ、そうだよなぁ。じゃ、今アレを身につけているあいつはなんだ」


「ボ、ボリノーゲ様の物をかすめ取ろうとするコソ泥でございますぅ」


「セ、セルブロイ? あなた一体……」


「んん~フッフッフゥ~、こいつはなぁ、自分の命可愛さに、王位継承者の妹を騙して海に追い出し、同胞を皆殺しにさせる手引きをして国を売り渡した張本人よ。そうだな!? オイ!」


「は、はいぃ、その通りでございますぅ、うへ、うへへへ」


「そんな……セルブロイ……あなた……」


 卑屈な愛想笑いを浮かべるセルブロイをハシュフィナは茫然と見ていた。


「ん~フッフッフゥ、さてぇそろそろそれを返して貰おうか」


「断る。これは正当な持ち主の元に返す」


 毅然とハシュフィナは言い放った。


「んんん~フッフッフゥ、では私の元に帰ってくるという訳だな」


「ふん、欲しければ腕づくで取ってみろ」


「ん~フッフッフゥ、威勢だけは良いのう」


 そう言うや、ボリノーゲは腰の得物を抜いた。


 それは太い鉄の棒の先が鋭くとがっている短槍だった。


 ハシュフィナも自分の得物を抜く。


「ひぃいいいいい」


 悲鳴を上げてセルブロイが脇の穴倉に姿を隠すが最早ハシュフィナはそれを見てもいない。


 ただ圧倒的な気迫を放つボリノーゲに気圧されまいとしていた。

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