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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第四章 タランバ奪還編

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第四十五話 漂流者

「はあっ、はあっ」


 降りしきる雨の中を十人程の一団が海岸をひた走って行く。

 屈強な男達の中に一人だけ華奢な体躯の少女が混ざっていた。


「姫、もうすぐで御座いま……!」


 先頭の男が少女に語る最中に後方より迫る人影を認めた。

 外套を被った二十人ほどの一団が走ってくる。


「あ奴ら、もうこんな所まで」


「やはり、あのお方が……」


「それは言ってはだめ。とにかく振り切りましょう」


 姫と呼ばれた少女がそう言うと一団の走る速度が上がった。


 だが、追っ手は離れるどころか益々追いついてくる。


「シャガ! ここは我らで食い止める! 姫様を!」


「デンズ!」


 シャガの制止の声も聞かずデンズと呼ばれた男以下八人は追っ手に向かっていく。

 二人は振り返ること無く走り、やがて海辺の粗末な小屋に辿り着いた。


 そこに小舟が一艘泊まっていた。

 小舟とはいえ小綺麗な外装に加え立派な帆を備えている。


「さあ早くお乗り下され」


 舫い綱を解きながらシャガが叫ぶ。


「でも風はこっちに吹いてる、これじゃ」


 この舟の構造では風を斬って進む事は出来ない。


「ワシが舟を押します」


 そう言ってシャガは海に飛び込み舟を押し始めた。


「沖に出て潮の流れに乗ればもう連中は追ってこれんでしょう。何せ奴等は泳げグッ……!」


 シャガが話の途中で呻いた。見れば肩に矢が刺さっている。


「シャガ!」


 追っ手はしきりに矢を射掛けてくる。


「なんの! この様な矢などワシの背中には痒いものですわ」


「でも……」


「ワシら緑亀族の背中の硬さは姫様もよくご存知でしょう。昔はよく石をぶつけられましたからなぁ」


「! こんな時に何を……」


「あの時のワンパク姫様がすっかり大きく立派になられた。それだけでワシらは満足ですわ」


 そう言っている最中にも矢は次々とシャガの背中に刺さっていく。


 だがやがて矢も届かない位置になったのか追っ手は射るのをやめた。


 それでもシャガは舟を泳ぎながら押し続けていた。


「良いですか姫様……東大陸の……ボーガベル……そこにビリュティス様がいるはずです……」


 徐々にシャガの声の張りが無くなっていく。

 既に背中はハリネズミのように矢が刺さり、何本かはわき腹や首すら貫き、海面にはおびただしい血が流れて真っ赤に染めている。


「オラシャント……の……商人に……聞きました……国の危機に駆けつけた……女王に……蒼狼族の女が……仕えて……」


「シャガ! シャガ! しっかりして! 死なないで!」


「何卒……ワシら……命……思うなら……ビリュティス……様……ご助力……を……」


「シャガぁ!!」


「種族……ちが……ワシら……姫様……優し……しあわ……」


 最後の言葉を言い終わらずにシャガは事切れ、舟から離れていった。


「シャガ……シャガぁ……」


 姫は流れていくシャガをしばらく見つめていた。

 もう陸ははるか遠くにあり、追っ手の姿も見えない。

 舟は海流に乗ったらしく追い風も吹いてきた。


 涙を拭った姫、ハフカラ連合王国のハシュフィナ・クナ・ケルシオスは帆を張り進路を北東へ向けた。


「シャガやデンズ達の命、絶対無駄にしない……」


 小舟は荒れる海を進んでいった。






 ワン子はじっと沖を見つめていた。


「どうしたんだワン子?」


「あれは……まさか……」


 そう呟くワン子の見てる方をよく見ると沖合に一艘の小舟が漂っていて、それに向かって港から何隻かの船が出ていた。


「ん? 遭難者の救助か何かか?」


 それともアマド・ファギが戻ってきた……にしちゃあ船が小さいな。


「ご主人様、お願いがあります」


 振り向いたワン子が真剣なまなざしで言った。


「ん、珍しいな。何だ?」


「あの舟に他の船より先に行きたいのです」


「分かった。任せろ」


 すぐに鳥型擬似生物を舟に向かわせ位置と映像を送らせる。

 舟には人が一人倒れているようだ。


 その間に眷属達が輪になって俺とワン子を囲んだ。


 日中の往来で『転送』を見られればそれだけで騒ぎになるだろう。

 その辺の呼吸は眷属達はしっかり掴んでいる。


「飛ぶぞ、掴まれ」


 そう言うやワン子が俺に掴まる。


 すぐに『転送』を発動し舟に移動するとワン子が倒れている者を抱きかかえ、そばに投げられていた布袋も掴む。

 そして素早くまた転送し、俺達は眷属達が囲んでいた輪の中に戻って来た。


「え? いまのは……」


 『転送』を知らないヒルファがキョトンとした顔で驚いている。


 長い漂流だったのかすえた臭いを放っている救助者を抱きかかえたワン子が額に掛かっていた髪を上げた。


「ハシュフィナ?」


 ワン子がそう言うやハシュフィナと呼ばれた救助者は薄目を開けた。


「ビ……ビリュ……ティス……?」


 ビリュティス。


 それはワン子の本名だ。

 それを知ってるという事はワン子の知り合いか。


「そ、そうです。しっかりしてハシュフィナ」


 だがハシュフィナと呼ばれた娘は安心したのか再び気を失った。


「とにかくカナ・ビロラに運ぼう。そのまま出航だ」


「畏まりました」


 ワン子はハシュフィナを背負い、俺達はカナ・ビロラに急いだ。


「どうだ具合は?」


 急遽出航したカナ・ビロラの船室でハシュフィナの看病をしていたワン子とエルメリアに聞いた。


「治癒と回復は掛けましたが精神的疲労が激しいのかまだ眠ったままです。このままにしておいた方が宜しいかと」


「そうか、そうだな」


 エルメリアの説明を聞きながら俺は脇の椅子に腰を掛けた。


「あの、ありがとうございます」


 そばについていたワン子が頭を下げる。


「取り敢えず話を聞かせてくれ」


「はい。彼女はハシュフィナ・ケルシオス、南大陸の橙豹族の者です。私とは幼馴染で……」


 橙豹族って豹の獣人か。

 確かにこの子の髪は鮮やかな橙のショートカットだ。

 顔はワン子と同じであまり獣人ぽくないが、よく見ると豹っぽい幾分長い尻尾が見える。


「すぐ彼女だと分かったのか?」


「いえ……ただあの舟はハフカラ王家の舟だったので……」


「ハフカラ?」


「はい。連合王国ハフカラ。南大陸の北東部にある、いくつかの獣人の部族が集まって作られた王国です」


「じゃぁそのハシュフィナはそこのお姫様か何かって訳か」


「はい。あそこで他の船に救助されれば間違いなく奴隷商に売られていた事でしょう」


「ああ、だから急いだのか」


「はい……」


 恐らくワン子は自分が奴隷になった経緯を踏まえて言ったのだろう。

 同じようにアマド・ファギのオッサンが捕まれば良いのに。


「分かった。ワン子はその娘に付いててやれ」


「はい、ありがとうございます」


『叡智』で調べるとハフカラは面積は九州程の大きさで、人口十万人ほど。

 旧タランバの隣に位置していると出て来た。


「あ……あの……」


 入り口にヒルファが立っていた。


「おう、どうしたヒルファ」


「わ……わたしも……かんびょうしても……いいでしょうか」


 ヒルファも獣人と言う事で心配なのだろうか。


「ああ、頼む。ワン子の事も見てやってくれ」


「は……はい」


 ヒルファが部屋に入るのと入れ違いに俺は部屋を出た。




 その夜はワン子は寝室へは姿を見せなかった。

 これは初めての事だ。


「ん~やはり一人欠けると物足りませんか~」


 隣で張り付いていたメルシャが言う。


「その分はメルシャに頑張って貰うよ」


「むふふ~、お任せ下さい~」


「でも、ヒルファと言いあのハシュフィナと言う子といい、獣人が流れ着く事が増えてるのかしら」


 反対側のセイミアが不思議がった。


「そんなもんなのか?」


「ええ、獣人が流れ着くというのは年に一度有るか無いかで、それだけに希少価値も高いのですが」


 ヒルファの話では戦争が起きて家族で舟で逃げてきたそうだが結局生き残ったのはヒルファだけだったらしい。

 漂流中両親は食料を皆ヒルファに与えてたそうだ。


「戦争か……」


 メルシャとセイミアの美しい髪をすくように撫でながら俺は呟いた。


 ふとキナくさい臭いが漂ってきた気がしたが、すぐに二人の甘い吐息にかき消された。




 翌日、ワン子からハシュフィナの意識が戻ったとの念話が入り、俺は部屋に入った。


 眷属ではないヒルファは寝台に伏して寝ていて、ハシュフィナは上半身を起こしてぼうっとしていた。


「お、気が付いたようだな」


「あ、ご主人様、昨晩は……」


 ワン子がそう言った途端ハシュフィナの顔が目前に迫ったかと思った次の瞬間、膝蹴りが顔面めがけて飛んできた。


「!」


 辛うじて交わすが切れ間無い足の連撃が俺を襲う。


「ハシュフィナ!」


 ワン子が反応できない速さだと!?


「貴様! よくもビリュティスを! それにこんな子まで!」


 ギリギリで避けた蹴りが柱に直撃し船が揺れる。

 その勢いで天井まで飛んだハシュフィナが再び蹴りの連打を見舞ってくる。

 まるで良く弾むボールを部屋の中に投げたようだ。


「?」


 騒ぎでヒルファが目を覚ました。

 ワン子がヒルファを抱きかかえる。


「やめなさい! ハシュフィナ!」


「待ってろ、ビリュティス! 今こいつに首輪を解呪させてやる!」


 あーそれもう解呪済みなんだけど……。

 ワン子は不要になったそれを外そうとはしなかったんだが……。


 しかしなんだこいつの戦闘力は。

 ワン子と同等か下手すりゃそれ以上だ。

 視力向上スキルのお陰で躱すことは訳ないが……。

 やばいな、このままじゃ船が壊れそうだ。


「『重力縛キャメルクラッチ』」


「ぎゃん!」


 途端に崩れ落ちるハシュフィナ。


「な、なんだこれ……体が……」


「悪いが暫く大人しくしててくれよ」


「き、貴様! 卑怯だぞ! くっ、くっそおおおお!」


 ハシュフィナは必死に逃れようとするが重力縛から逃れる事は不可能だ。


「何だ! 一体何が!」


 ようやくメアリア達が駆け込んできた。


「これは……まさか」


「ああ、そう言う事だ、ワン子とヒルファの首輪を見て、勘違いしたらしい」


「何が勘違いだ! 現にビリュティスにご主人様なんて言わせてるじゃないか! この鬼畜め! 今すぐ彼女達を自由にしろ!」


 う、鬼畜とか初めて言われたわ……。


「ハシュフィナ、私は無理やり奴隷になっている訳では無いの。自分の意思でご主人様に仕えているの」


「嘘だ! その首輪のせいで言わされているんだろう!」


「……ご主人様、申し訳ありません。ハシュフィナと話をしたいのでお時間を頂けますか」


「いいけど重力縛はこのままだぞ」


「構いません」


「じゃあ、任せる」


「待て! この卑怯者! 逃げるな!」


 あ~なんか言われたい放題だなぁ。


「ダイゴ候、何があったんだ?」


 なおも喚くハシュフィナとワン子を残して部屋を出た俺にケイドルが様子を伺いに来た。


「ああ、保護した子が暴れたんだ。船は大丈夫だったか?」


 下手して船に穴でも開けば沈みかねない勢いだった。


「いや、船は大丈夫だが、凄いな……」


「すまんな、驚かせて」




 ケイドルと別れて上の船室に上がるとクフュラがお茶を淹れていた。


「大変でしたね、どうぞ」


「ありがとう、なんかえらい言われようだったよ」


 茶杯を受け取った俺は一口お茶を啜る。

 ワン子とはまた違ったクフュラらしいお茶だ。

 心がすっと落ち着く。


「まぁ自分の親友が隷属の首輪をしてればああもなるかなぁ」


「んふっ、ご主人様はお心が広いです」


「そうかなぁ」


「そうですよ、普通ならもうとっくにあの子死んでますよ」


 クフュラさん、にこやかに言ってるがなんか微妙に言い回しが怖いんだけど……。


 それから一アルワは過ぎたが説得は未だに続いているようだ。

 俺達は茶を飲みながら待った。


「拘束してパラスマヤまで運んだ方が良いんじゃないか」


 メアリアが言う。


「いえ、ここはワン子さんを信じて待ちましょう」


 エルメリアがそう言っている間にワン子が部屋に来た。


「おう、話は終わったか」


「はい。ハシュフィナがご主人様とお話がしたいと」


「うん、分かった」


「私も行こうか」


 メアリアがワン子をチラと見ながら言った。


「それには及ばんよ」


 俺は手を振りハシュフィナの居る部屋に向かった。


 ハシュフィナは同じ格好のままだ。傍にヒルファが付き添っている。


「あ、ごしゅじんさま……」


「ご苦労だったなヒルファ、上で休んでな」


「で……でも……」


「大丈夫だ。美味しい焼き菓子が取ってあるぞ」


「……はい」


 ヒルファはトテトテと部屋を出て行った。


「さてと」


 俺は重力縛を解除する。


「かはぁっ!」


 力場が消え、ハシュフィナが大きく息を吐く。


「で、どう言う話になったんだ」


「……まず色々乱暴したことは謝罪します」


 そう言ってハシュフィナは神妙な面持ちで頭を下げた。

 おおう、さっきのバーサーカーモードからは別人のようだ。


「ビリュティスからいきさつは聞きました。大変な失礼をしました。お許し下さい」


「まぁ色々勘違いされても仕方ない状況だったし、構わんよ」


 元の世界ならヒルファが致命傷でお巡りさんを呼ばれかねない状況だし。


「私は南大陸のハフカラ連合王国のハシュフィナ・クナ・ケルシオスと申します」


「新生ボーガベル王国参与のダイゴ・マキシマだ」


「そのダイゴ様にお願いがあります」


「ほう、お願いね、何だろう」


 まぁ、まず間違いなく面倒事のような気がするが。


「はい。現在我がハフカラは金獅子族の国であるガルボによって侵略を受けています。しかし屈強な金獅子族の前に我が国は連敗を重ね、数年前に連合の一角を担っていたタランバが滅亡し、わがハフカラもいつガルボに滅ぼされるか、明日をも知れぬ状況なのです」


 やはりタランバは滅亡していたか。

 それを聞いたワン子の表情が曇った。


「つまり、その状況を打開するためにボーガベルに援軍を派兵してくれと」


「はい。ボーガベルの精兵の話はオラシャントの件も含め彼の地の商人から聞いておりました。何卒、お力をお貸し下さい」


 ハシュフィナは再び、深々と頭を下げた。


「知ってると思うがこの船には我が国の女王エルメリアも乗っていてね。一応俺が全権を担ってはいるんだがお伺いを立てなければならない。少し待っててもらえるかい」


「分かりました」


 俺とワン子はハシュフィナを残し、部屋を出た。


「と、言う訳だが皆の意見を聞きたい」


 上甲板にある船室で俺は眷属達を前に切り出した。


「賛成か反対かと言えば反対ですわ。まだ旧バッフェの基盤も固まってないうちに海外へ派兵するとなると色々問題が多すぎます」


 直ぐさま口火を切ったのはやはりセイミアだった。


「確かに帝国の抑えも必要だし旧バッフェもまだ安定してるとは言いがたいな」


「それにその金獅子族の国ガルボ、ですか?兵力その他の情報が少なすぎますわ」


「ふむ、確かにな」


「そして、現在進めている対帝国計画の予定にも狂いが生じることになりますわ」


「そうだな、セイミアならそう言うと思ってたわ」


 確かにセイミアの言うことは一々もっともだ。

 だがそれは国としての態度は、だ。


「だけど、ですわね」


 俺の思いをなぞるかのようにエルメリアが言った。


「そう、だけど、だ」


 俺は俯いたままのワン子を見ながら呟いた。




「そ、そんな……」


 部屋に戻った俺達からの返事を聞いたハシュフィナは呆然とした。


「申し訳ないが現在ボーガベルはバッフェ王国を併合したばかりでまだ国内が安定していない。エドラキム帝国とも交戦状態のままで、ここで海外に兵を割けば帝国はこれ幸いと攻めてくるだろう。流石にその様な状況で派兵する訳にはいかないんだ」


 これは事実だ。

 第一軍を率いるグラセノフと極秘同盟を組んだとは言え、好戦派の第二皇子サクロスが仕掛けてくるとも限らない。

 バッフェ軍を編入したが先の内戦で現在の総数は約三万。

 しかも地方貴族の平定に多くを割いているのでこれも期待は出来ない。


「そんな……そんな……」


「そういう訳で、力になれなくて済まない。クニエスに着いたら君にはそれなりの処遇をするつもりだ」


 そう言って俺は力無く呟いているハシュフィナとワン子を残し部屋を出た。


 と、


 ぱぁああん!


 廊下にも響く音が響いて俺は振り返った。


「ふざけるな! 国を見捨てて逃げ出した貴女に何が分かる! みんな貴女が逃げ出したせいなのに! タランバが滅んだのも! シャガやデンズが死んだのも! なのに貴女は逃げた先でのうのうと暮らして! 生き残った蒼狼族がどんな思いで生きてるのか分かってるの!? 自ら奴隷になりました!? ご主人様のお決めになった事です!? 牙も誇りも失ったのか! この臆病者が!」


 そう言うやハシュフィナは部屋を飛び出していった。

 ちらとこちらを睨んだ眼はやはり泣いていた。


 俺が部屋に戻るとワン子が項垂れていた。頬が赤い。


「ワン子?」


「……お見苦しい所をお見せして申し訳ありません……」


 なんて言われて何て言ったのかまぁ想像はつくな。


「とにかく今日はもう休もう。船の中だ。彼女もいなくなったりはしない」


「はい……」


「あ……あの……ごしゅじんさま……」


「ああ、ヒルファ。もしハシュフィナを見かけたらすまんが面倒を見てくれないか」


「わ……わかりました……」


「頼んだよ」


 ヒルファはハシュフィナを捜しに行き、俺達は船室へ向かった。


 後に続きながら悲しそうな顔で俯くワン子を見るたびに心の中のモヤモヤが濃くなっていく。


 ハフカラに行きたい気持ちは勿論ある。

 だが、最初から助けて下さいハイ行きましょうと言うつもりはなかった。

 それはハシュフィナ自身の覚悟がどれほどの物か見えないからに思えたからだ。


 俺が彼女に求めているのはハードルが高いことなのか。

 それとも俺の独りよがりなのか。


「なるようにしかならんか」


 そう呟くしか無かった。

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