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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第四章 タランバ奪還編

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第四十三話 暴爆龍・黒鋼

「あぐっ」


 そう叫んだ男の仮面が落ち、壮年の男の顔が露わになった。


 それを見たウルマイヤが叫ぶ。


「ファギ卿! あなたがこの事件の首謀者だったのですね!」


「ファ、ファギ卿? し、知らんなその様な名前は」


 ウルマイヤにファギ卿と名指しされた男は顔を覆って否定する。


「往生際が悪いです! 私があなたの顔を見間違えるわけ無いでしょう!」


「あーウルマイヤ。誰なんだこのオッサンは」


 またオッサンだよ。

 なんだろう、俺はオッサンと戦う呪いでも掛かってるのだろうか。

 転移するときにオッサンの姿を拒んだからか?


「は、はい。この人はアマド・ファギ卿と言うムルタブスの十二神官の一人、保守派の首領と呼ばれる人です、でもムルタブスの地方視察に行っているはずですが……」


「そりゃ大方非公式で来るための偽装だろうなぁ」


 前の会社の社長もよくやってたよな。

 出張って言ってたけど誰かと何処かに行ってて、社長の奥さんが会社に乗り込んできて大騒ぎになったっけ。


「し、知らん! 私はそんな者では無い!」


 ファギ卿は俺達にお構いなく捲し立てる。


「まぁそこまでしらを切りたがるのも分からなくはないが、もう後はないぞ」


「ぬうっ……そっ、それはどうかな。おい! やれ!」


 そう言うや、エルメリアとファギ卿が乗っている船の前の壁がガラガラと崩れ、外が露になった。


「まぁ、この様な仕掛けが」


 エルメリアが感心する。


「海竜船!? こんな物まで準備を……」


 ウルマイヤの視線の先を見ると船の下にイルカとトカゲのあいのこの様な生き物が繋がれている。

 海竜と言う割にはなんか愛嬌のある姿で厳密には竜ではないのだろう。


『海竜船・海竜種を飼い慣らし、無帆船に連結して動力とする。小型船が殆どだが無風状態でも高速で移動できる』


 すぐに『叡智』からの情報を見る。


「うーん、破壊したら海竜が可哀相だろうなぁ」


「そ、それ以前にエルメリア女王様もいるのですよ!」


「まぁそうだな」


 と、崩れてない扉から何人かの兵士が入って来た。


「ここに狼藉者がいるぞ! 捕らえろ!」


 一人が俺達に向かって言った。


 いや、あそこにもっと怪しそうなのがいるだろ。


「ダ、ダイゴ様……」


 ウルマイヤがまた俺の服をきゅっと掴む。


「大丈夫だ、ウルマイヤ」


 そう言って俺は黄色い魔法陣を展開する。


「えっ! こ、これは!」


 ウルマイヤが驚きの声を上げる。


「『雷電ライディーン』」


 魔法陣から放たれた電撃で兵士たちはバタバタと倒れた。


「弱めに撃ったから暫くは身体がしびれて動けんだろう」


「ダダダ、ダイゴ様……凄い……はっ! ふ、船が」


 感心していたウルマイヤが我に返って船を指さす。


「体よく時間稼ぎされたな」


 俺がそう言ってる間に船はどんどん沖合へ向かって行く。


 成程、ちょっとしたモーターボート並みの速さだ。


「どど、どうするのですか? このままでは……」


「大丈夫だ。ちゃんと手は考えてある」


「! さ、流石はダイゴ様。で、どの様な」


「まぁ見てなって」


 そうは言ったが実際はかなり大雑把かついい加減な方法なので言いにくいだけなんだが。


『エルメリア』


『何でしょう、この海竜船と言うのもなかなか面白いものですわ。海竜とやらも可愛らしいですし』


『連れて飼う訳にはいかないぞ』


『まぁ、残念ですわ』


『それで、ムルタブスの艦隊の方に向かってるな』


『はい』


『分かった、取り敢えず自力で帰ってこい』


『では、あれを使ってもよろしいので?』


『ああ、許可するがあんま派手にやるなよ』


『畏まりました』


 念話でエルメリアに指示を送る。

 それこそ念を押したがアイツが頑張りすぎてとんでもない事態を引き起こさないかだけが心配だ。




「う……あう……」


 何処かで声がする。


「ダイゴ様! あそこ!」


 見ると崩れた壁の脇で瓦礫の下敷きになっている侍女姿の女の子がいた。


「さっきの仕掛けを動かして崩落に巻き込まれたな」


 そう俺が言うやウルマイヤが駆け寄り瓦礫を除けていく。


 俺も手伝い侍女を掘り起こす。


「あ……あう……」


 酷いケガだ。すぐに治癒を……。


 そう思った瞬間ウルマイヤが呪文を唱え始めた。

 みるみる内に侍女の怪我が癒えていく。


「凄いな……流石巫女姫だ」


「い、いえ……私に出来るのは……この位しか……」


 ウルマイヤが顔を赤らめた。


 侍女が気が付いた。

 歳はまだ十歳位。チュレアより少し上くらいだ。


「あ……え、えるめりあさまは……」


 女の子の瞳はルビーの様に紅く、白い髪の脇の耳は垂れ下がっている。

 この子獣人じゃないか。


「大丈夫よ。あなたは?」


 ウルマイヤが手を握って尋ねた。


「わたし……ヒルファといいます……えるめりあさまのおせわを……」


「そうか、エルメリアが世話になったな。礼を言うぞ」


 俺がそう言うとヒルファは驚いたように俺をまじまじと見た。


「ん? どうした?」


「お……おれいを……いわれたの……はじめてです……」


 そう言うとヒルファはポロポロと涙を流した。


「ダイゴ様、この子……」


 ウルマイヤがヒルファの首に嵌った隷属の首輪を指差す。


「何だ? なんでこの首輪があるんだ?」


「ここ……こうきゅうどれいの……ちょうきょうじょがあって……わたし……そこから……きました」


「なんだと……」


 ワン子が昔言ってた高級奴隷の調教所、それがガラフデにあったのか……。

 しかし、こんな小さな子も需要があるのか……。


 お礼を言われて泣くようでは、さぞ不憫な境遇だったのだろう。


 そう言えば奴隷商人はゴラフの商人って言ってたっけ。

『叡智』で調べるとガラフデは「ゴラフ人の」って意味らしい。


 俺は『解呪アンロック』で首輪の呪いを解除した。


「あ……あれ……これは……」


「首輪の呪いは解除した」


「え……どうして……」


「あそこでああなってたって事はお前はもうアイツらには用済みだったって事だ。なら俺が首輪の呪いを解除してお前を自由にしても文句を言う奴はいないだろ」


「あ……ありが……とう……ございます」


「あとの事は自分でどうするか決めな」


「わ……わたし……は……」


 ヒルファはきゅっと唇を噛んだ。




 海竜船はガラフデの内海をひたすら奔っていく。


「それでファギ卿とやら、私を何処へ連れて行くおつもりです?」


「だ、だから私はそのような……ええい! この後は我が国までお越し頂く予定です」


 ファギ卿は開き直る。


「でも私の配下は必ず追ってきますよ?」


「その心配は御座いません。間もなく我が艦隊が街に対し一斉攻撃を行います。その混乱の隙に我々は脱出します」


「まぁ乱暴な! それでは街の人々に被害が出るではありませんか」


「我らが大義のためにはやむを得ない事かと」


「そう言う事を言う人はそもそもそんな事すら思ってない物ですわ」


「ふん、如何様にも」


 不意にエルメリアが目を瞑った。


「では私も事を為さねばならない時が来たようです。ご主人様からの指示が来ましたわ」


「え? 何ですと?」


「まず最初に貴方の部下が大勢犠牲になる事をお詫びしておきます」


「そ、それはどう言う……」


「私、悪い女ですから」


 そう妖しく笑いながら言ったエルメリアは胸飾りの中央から下がり、丁度胸の谷間に埋もれていた黒い魔水晶クリスタルを取り出した。


「な、何を……」


「エルメリア・ボーガベルの名に於いて命ずる! 顕現せよ!暴爆龍・黒鋼くろがね!!」


 そう言ってエルメリアは魔水晶を投げた。


 驚くほど遠くに飛んだ魔水晶に瞬く間に魔素が集まり、光を成して形を作っていく。


 次の瞬間、海面に黒く巨大な三つ首の龍が湧き出る様に姿を表した。


 体長二百五十メルテにも及ぶ黒い巨体。

 禍々しく赤く光る瞳を持つ三つの異形の顔。

 そして全身を覆う漆黒の鱗。


 西洋の竜と東洋の龍が合わさった様な姿を持つこの生物は勿論ダイゴの創造した疑似生物ホムンクルスだ。


 話は少しさかのぼる。


 ボーガベル王国パラスマヤ。


「ご主人様、それは何ですの?」


 エルメリアの庭園で卓の上に載せた3つのクリスタルカットされた小さな魔導核を指差しながらエルメリアが聞いた。


「ああ、試作の魔導核なんだけどね、使おうかどうか迷ってるんだ」


 茶杯のダバ茶を啜りながらダイゴが答えた。


「失敗作なので?」


「そう言う訳じゃないんだが、色々バランスがピーキーでね、使い道が限られるんだ」


「ばらんすがぴーきー? どんな風にですか」


「例えばこの赤いの」


 そう言ってダイゴは赤いクリスタル状の魔石を取り上げ、魔力を込めて投げた。


 少し離れた所でそれは魔素を集めて見る間に二十六メルテほどの紅い巨大なゴーレムになった。

 全体的に太目な体躯で、重装甲と言った容姿だ。兜状の頭部にはレンズ状の単眼がある。


「コイツはサイクロプス、文字通り攻城用巨大ゴーレムだが、携帯用にする意味があんまり無いんだよな。稼働時間も制限があるし」


「それからこれ、まぁこれは割かしまともな方だが」


 そう言って今度は青い魔石を発動させる。


 それは魔導核の周囲に青い粘性の物質を湧き出させ、ウネウネと動き出した。


「これは?」


「不定形粘体、俗に言うスライムだな。こいつには物を複写する能力がある」


 見る見るうちにスライムの形がまとまり始め、あっという間にエルメリアになった。


「まぁ……」


 目の前に現われた自分と瓜二つの姿にエルメリアが眼を丸くする。


「ただしホムンクルスと違って記憶の複写も出来ないし、喋る事もできない」


 ダイゴが念を送るとエルメリア状の形がぐにゃっと崩れ、元の魔石に戻った。


「自分の姿が崩れるのはあまり見てて気持ち良い物ではありませんね」


 エルメリアの率直な感想に苦笑いしつつ、ダイゴは最後の黒色の魔導核を取り出した。


「そして一番の問題はこれだ」


「これは?」


「まぁ見ててみな」


 そう言って魔力を込めて遠めに投げる。


 途端凄まじい魔素の収斂が眩い光と共に巻き起こり、巨大な三つ首の龍の姿になった。


 余りの巨体と凶悪な姿に流石のエルメリアも口をあんぐりと開けている。


「暴爆龍、黒鋼だ」


「龍、ですか……」


「そう、口から『魔導砲ソーサリオキャノン』以上の威力のブレスである『負の滅光(デ・バスター)』とかを吐けるが稼働時間が一ミルテ(約一分)しかない」


 そう言っている間に黒鋼は淡い光を放ち消えて行き、元の魔石に戻った。


「と、言う訳で使い所が難しいんだ」


 少しエルメリアは考え込んでいたが


「ご主人様、この子達私に頂けないでしょうか?」


「え? どうすんだ?」


 突然の意外なお願いにダイゴは少し間の抜けた返事をしてしまった。


「はい、折角ご主人様の作ったものですし、このまま埋もれてしまうのはかわいそうです。私が何かあった折には使おうかと」


「まぁ、そんな事は無いと思うけど、まぁいいか」


「ありがとうございます。実はこの形、宝飾に良いかとも思いまして」


 そう言って赤い魔石を胸に当てる。


「そっちが本命かよ」


「いえ、これで私、召喚士ですわ、まぁなんて素敵なんでしょう」


「あ~くれぐれも安易に使わないでね。特に黒鋼」


 ダイゴの懸念を裏付けるかのように黒鋼を見た家臣達が大慌てでやって来た。


「勿論承知してますわ」


 そう言ってエルメリアはいたずらっぽく笑った。


 以来、エルメリアは三つの魔石、魔水晶を胸飾りにして身に着けていた。




「なぁっ! 何だぁ!」


 暴爆龍・黒鋼のあまりの異形に悲鳴を上げるファギ卿。

 その凶暴な三つの首は彼の艦隊の方を睨んでいる。

 何をしようとしているのかはすぐに分かった。


「め、命令だ! 今すぐ止めろ!」


 甲高い声でファギ卿が叫ぶ。

 エルメリアに嵌められた隷属の首輪が鈍く光る。


 だが、


「滅却せよ! 『負の滅光(デ・バスター)』!!!」


 全く動じることなくエルメリアが右手を前に出して命令する。


 三つの口に黒い魔法陣が展開し次の瞬間猛烈な黒い光が放たれた。


「ひいいいいいいいいいっ!」


 ビリビリとした言わば死の感触というものが辺りを包み、ファギ卿は思わず顔を覆って悲鳴を上げた。


 船が猛烈に揺れる。


 暫くして死の感触も揺れも収まり、ファギ卿は恐る恐る目を開けた。


 そこにあった筈の艦隊は跡形もなく消滅していた。


「あ、あああ……」


 余りの自分の認識外の出来事にファギ卿は声を失った。


 黒い巨龍は淡い光を放つと消え失せ、エルメリアの手元には魔水晶が戻ってきた。


「この件に関しましてはボーガベル王国は正式にムルタブス神皇国に抗議させて頂きますわ。それ相応の規制を掛けさせて頂くことを御覚悟してくださいな」


 何事も無かったかの様に穏やかにエルメリアが言い放った。

 だがその響きは地獄からの宣告のようにファギ卿には感じられた。


「い、一体……どうして……なぜ首輪が……」


「私、既に神の代行者の奴隷ですので、この様な物は何の意味もありませんの。では失礼致しますわ」


 そう言ってエルメリアはもう一つの赤の魔水晶を取り出す。


「エルメリア・ボーガベルの名に於いて命ずる。顕現せよ、サイクロプス」


 忽ち海面に巨大なゴーレムが現れエルメリアを手に乗せた。


 ファギ卿は最早声も出せない。


「では、ファギ卿、ご機嫌よう」


 にこやかに言うやエルメリアを乗せたサイクロプスはダイゴ達の元へ向かっていった。


 ファギ卿は呆然とその姿を見送った。見送るしかなかった。

 いつの間にか青い粘体が海竜を放しているのも気付かずに。

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