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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第四章 タランバ奪還編

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第四十二話 巫女姫

「んぐぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 縛られ、猿轡を噛まされ抱え上げられた少女が足をバタつかせている。


「オラ! 見世物じゃねぇんだ! さっさと失せろ!」


 男がお決まりのセリフを吐いている。


「あーそんだけ派手にやって見世物じゃないもへったくれもないんだが」


「んだと! この野郎!」


 男が殴りかかってきたが、次の瞬間キレイに吹き飛んだ。


 ワン子の足が高々と上がっている。


「その子を置いて立ち去りな。無駄な殺生はしたくないんだ」


 だが連中はそんな俺の警告を無視して短剣を抜いた。


『殺しますか?』


 ワン子が念話で聞いてきた。


『他国だしな。無力化でいい』


『畏まりました』


 襲い掛かってきた暴漢どもはたちまちワン子に腕の骨を粉砕されて地べたでのたうち回った。


「どうする? お前もこうなりたくなかったらその子を離してさっさと帰んな」


 そう言われた男は真っ青になりながら少女を降ろし、一人だけ一目散に逃げて行った。


「やっぱ覚えてろとか言わないもんだよなぁ」


 俺がそんな事を言っている間にワン子が少女の拘束を解く。


「あ、あの……」


「ああ、ここじゃ見苦しい連中が転がってるから場所を変えよう」


 そう言って俺達は暴漢どもを置いて立ち去った。

 念のために擬似生物を監視につけておく。




「危ないところを助けていただきありがとうございました」


 十ミルワ(約十分)ほど歩いた先の広場の片隅で少女は深々と頭を下げる。


「何、人が襲われているのを見過ごせない性分でね。それが可愛い子なら猶更だ」


「か、可愛い!? わ、私がですか?」


 少女の顔が真っ赤になる。


「そんな! からかわないでください! 私、可愛いなんて……」


「嘘なもんか、なぁワン子」


「はい、ご主人様は冗談は言いますが嘘はつかないお方です。私から見ても可愛い方です」


「そんな……」


 元の世界なら超一流のモデルも顔負けのワン子にそう言われて少女の顔は更に赤くなった。


 実際淡い藍色の髪を伸ばし、くりくりとした青い目をした彼女は十分過ぎるほどの美少女だ。

 更には厚ぼったそうな神官服でも良く分かるエルメリア級の胸が絶妙なバランスで彼女の魅力を引き立てている。

 こんな子は元の世界ではネットでしかお目にかかれなかったろう。


「それより何か襲われる心当たりあるのかい? 只のゴロツキとは思えない連中だったが」


「はっ! そ、そうですね! 多分……保守派の……」


「保守派?」


「!!! い、いえ! 何でもないです!」


 なんか随分慌てん坊な娘のようだ。


「ふうん、まぁいいや。そう言えば名乗ってなかったな。俺はダイゴ・マキシマ。ボーガベルの者だ。こっちはお付きのワン子」


「ワン子と申します」


「! ボーガベルの! ではエルメリア女王様の?」


「ああ、女王のお付きをやっている」


「そうでしたか……申し遅れました。私の名はウルマイヤ・セスト。ムルタブス神皇国の者です」


「じゃあ、神皇猊下の?」


「は、はい、御傍付きの役に就いております」


 御傍付きを『叡智』で調べると神皇猊下の健康管理、主に治癒魔法を受け持つ巫女姫の役目。


 と出た。


 成程、巫女姫なんてのがいるんだ。


「で、その御傍付きが一人で街に居たところを曰くありげな連中に襲われた」


「そ、それは……」


「ウルマイヤ様、このダイゴ様は必ずあなたのお力になってくれるお方です。遠慮なくお話になってください」


 ワン子にそう言われてウルマイヤは意を決したように言った。


「エルメリア女王が行方知れずになったのは当然ご存じですよね」


「ああ、その件で俺達が動いてるんだが、まさか……」


「は、はい。お恥ずかしい話ですが、我が国の保守派と呼ばれる者達の仕業なのです」


『と、いう事らしい。お前をさらったのはムルタブスの人間だそうだ』


 エルメリアに念を送ると


『そうでしたか。承知致しました』


 と、何時もの調子で返事が返ってきた。

 拉致されているという緊張感はまるで無さそうだ。


「で、その保守派とやらが何で一国の女王を攫ったんだ? 露見すれば戦争になってもおかしくない話だ」


「これは……ご内密に願いたいのですが、神皇猊下の御身体が良くないのです」


「え、だってムルタブスはつ…聖魔法の使い手が大勢いるんだろ?」


「? ……は、はい、しかし例え聖魔法でも人の寿命を永遠に伸ばすことは出来ません。現に今の神皇猊下にどんなに聖魔法をお掛けしても御身体の衰弱を止めることが出来ないのです」


「それがエルメリアと何の関係……って、アラソル村の件か!」


 バッフェを併合した直後、エルメリアがバッフェの各地を視察した時だった。

 アラソル村と言う寒村に死に掛けた老婆がいた。

 なにがどうと言う事も無い老婆だったがエルメリアは『老化遡行アンチエイジング』を使いその老婆を少しだけ若返らせた。

 おそらくその話がラモ教信者の村人経由でムルタブスに伝わったのだろう。


 迂闊と言えば迂闊だったがエルメリアの、


「亡き母に面影が似てましたもので」


 と言う言葉に黙っていた。それがこんな事になるとは。


「そうです。エルメリア女王が若返りの魔法を使えると知った保守派が女王様の拉致を企てたのです」


「だがそれなら正式に要請しても良かったんじゃないか? いくら何でも国家がやるには荒っぽすぎるだろ」


「ムルタブスは聖魔法の総本山です。他国に自国より優れた聖魔法の使い手がいると認めたくない。それが保守派の考えなのです」


「だからさらって囲ってしまえって事か。つまらん事だな」


「全くです」


 大方ボーガベルが体面を保つために病死扱いにでもしてシェアリア辺りを新しい女王に据えると踏んだんだろう。


「で、ウルマイヤさんはその保守派とは敵対してる勢力の人間な訳か」


「敵対、と言うほどではありませんが保守派からは改革派と呼ばれています。私の父カナル・セストがそのとりまとめをしているのです」


「なるほど、ムルタブス内二大勢力の争いが発端か。迷惑な話だ」


「もっ、申し訳ありません」


「ん、何、ウルマイヤさんが謝ることじゃないよ」


「あ、あの、ありがとうございます。あと、どうぞ私のことはウルマイヤと呼び捨てて下さい」


「そっか、じゃあウルマイヤ。改革派の君は何で襲われたの」


「はい。ダイゴ様の言う通り国が他国の女王を拉致などおこなって良いはずがありません。父は正式に女王に要請するべきと主張しましたが保守派はガラフデ王国に圧力を掛け、婚礼を強行させて女王様を呼ぶように仕向けたのです」


「はぁ、面子のためにそこまでやるもんかね」


「結局女王様は拉致されてしまいました。神皇猊下のお付きとして来ていた私は父の命で女王様の監禁場所を探していたのです」


「なるほど、それで逆に掠われそうになったって事か」


 父親も随分娘に無茶をさせるわ。


「ダイゴ様、ダイゴ様も女王様をお捜しなのでしたら私もご一緒させて頂けませんか?」


「ああ、全く構わないよ。ウルマイヤのお陰で事件の背景も分かったし俺の方からお願いするよ」


「あ、ありがとうございます!」


「しかし……」


 俺は少し考え込んだ。市中に放した擬似生物達から未だに何の報告も無い。


「街中じゃ無いのか?」


『エルメリア、今から爆発音を出すから聞こえたら返事しろ』


『畏まりました』


 俺は風魔法と火魔法で『音響弾クラッカー』を創造し、上空に打ち上げた。


 パアアアアアン


「ひゃぁっ!?」


 突然の炸裂音にウルマイヤが尻餅をつく。


『どうだ?』


『今聞こえましたがかなり小さいですわ』


「となると、結構遠くだな」


「な、なななんですか? 今のは?」


「ああ、俺の魔法だ。驚かせてごめんな」


 見れば周囲もワイのワイのの騒ぎになっている。


「ま、魔法って、そんな……」


「ちょっと派手すぎたな。場所を変えよう」


 俺達は騒いでる市民を避けてその場を立ち去った。


 港の一角に着いたときにウルマイヤが再び声を上げた。


「ダイゴ様は魔導士だったのですか!?」


「ん~、まぁ魔法は使えるけどな」


「す、凄いです。私、聖魔法以外の魔法を見たの、初めてなんです」


「そうなんだ」


「はい。ムルタブスでは聖魔法以外の魔法は禁じられていますから」


「ああ、そういう事ね」


「でもあれは何の意味があるのですか」


「それはちょっとしたおまじないみたいなものさ」


 そう言った俺の目線の先の沖合に小さな島が見えた。

 その中ほどに豪華な屋敷が建っている。


「あれは、何だろ」


「調べて参ります」


 ワン子が近くを歩いていた市民に尋ねてくる。


「あの建物は王室の別荘だそうです。島が王室の保養所だそうで」


「無茶苦茶怪しいな」


「で、でも王室の施設ですよ! まさか……」


「そのまさかを俺はいくつも見てきた」


 テレビや漫画でな。


「よし」


 俺は瞬時に五羽の鳥型擬似生物を創造する。


「ええええええええ!?」


 ウルマイヤが又も驚愕の声を上げた。

 リアクションが一々オーバーな子だ。


 俺の指令の念を受けた鳥型擬似生物達が島に飛んでいく。


「あ、あのっ、あ、ああ、あれも、ま、魔法ですか?」


「ああ。あれは俺の使い魔だ」


 本当は魔法じゃ無いんだけどな。


「すすす、凄い、凄すぎます! 生き物を産み出すなんて……」


 ウルマイヤが酷く感動した様子で言った。


 数分後、使い魔達が戻ってきた。


「屋敷の二階に塞がれた窓がある部屋を見つけた。どうやらそこだな」


「で、どうするのです? まさか正面から乗り込むとか」


「うーん、そう言う派手派手しいのも悪くは無いが一応は外交問題とかもあるしね。最初は静かに行こう。今、援軍を呼んだからあそこの茶店で待つとしよう」


「援軍……ですか? でもそれでは騒ぎに……」


「大丈夫、援軍って言っても大軍を引き連れてくる訳じゃ無い」


 そう言って俺達は茶店で会話をしながら援軍を待った。






 エルメリアは一人、窓を塞がれた部屋に閉じ込められていた。

 明かりは天井に開いた明り取りの小窓だけ。

 しかし、エルメリアの心には全く不安も恐怖も心配も無かった。


 ああ、まさか私が誘拐される日が来るなんて……。


 ご主人様が転移なされなければこんな経験は生涯味わえなかった事でしょう……。


 そんな浮ついた思いが心を占めていただけだ。


 メアリアが随時念話で色々語りかけているので退屈はしないが、流石に同じ事を繰り返し語るのにも飽きて来た。

 そんな時。


「変わった事は無いな」


「は、はい……」


 外で声がした。


 続いて扉が重苦しく開き、仮面を被った男が入って来た。

 仮面と言っても四角い穴が三つ開いた酷く粗末な仮面だ。


「あら、あなたはどちら様かしら?」


「失礼、女王陛下におかれましてはこの様な所にお連れした無礼、平にお詫びいたします」


「質問に応えていませんよ? 貴方は誰なのですか?」


「故有って名乗る事の出来ない無礼をお許しください」


「良いでしょう、それで私をどうするおつもり?」


「はい、女王陛下におかれましてはこの後、さるお方にお仕えして頂きたく、お迎えに上がった次第でございます」


「さるお方? 一体どなたかしら?」


「それも今は申し上げられません」


「病人でしたらこの様な大仰な事をせずとも治癒しましたものを。良いでしょう。その方を診ましたら帰らさせてもらいますよ」


「いえ、女王陛下におかれましてはこの後も、そう生涯そのお方にお仕え頂きたいと」


 そう言って仮面の男は首輪を取り出した。


「それは……」






「お、来たな」


 茶店に外套を被った二人組の女が入ってきた。

 一人は背中にあからさまな布包みを背負っている。


「遅くなって済まない、ごしゅ…いや、ダイゴ殿」


「……メアリアが時間掛けすぎた。ごめんなさいダイゴ」


「い、いや、ほら、変装だからな。しっかりやらないと」


「外套被ってるだけでバレバレじゃん。しかも声デカいし」


「あ、あう」


「あ、あああの、まさかシェアリア様とメアリア様?」


「う、そ、そうだが貴女は?」


「ああ、あの、私、ムルタブスのウルマイヤ・セストと申します!」


「……知ってる。ムルタブス随一の聖魔法の使い手で筆頭巫女姫。興味深い」


 しげしげとウルマイヤを見たシェアリアがチラと意味ありげにこっちを見た。


「な、何だよ」


「……別に。よろしくウルマイヤ」


「メアリアだ。よろしくな」


「あ、ここ、こちらこそ。よろしくお願いします」


「さて、作戦……って程ではない。正面から堂々と乗り込もう」


「え、で、でも先程派手派手しいのはと仰ってましたが……」


「勿論、静かに行くさ。まぁ見てなって」


「はぁひいいいあああああああああ!」


「ウルマイヤ。もうちっと静かにしてくれよ」


「す、すみません! で、ででもこれは!」


 俺達を乗せたカーペットが水面を全速で疾走していく。


「ん? 沖合に船がたくさんいるが何処の船だ」


「あ、あれは……ムルタブスの軍船。でも変です。名前が隠してある」


「ふうん、如何わしさ満点だな」


『ご主人様』


『おう、どうした』


『わたくし、隷属の首輪を嵌められてしまいました。もうこれからの人生は知らない殿方の奴隷に……よよよ……』


『白々しい事この上ないな。状態異常無効が付いてるくせに』


『あら、言ってみたかっただけですわ』


『今そっち向かってるからもうちょっと待ってろ』


『畏まりました』


 島の桟橋にカーペットを付けた後、俺達は真横に並んで島への橋を渡っていた。


 その様はBGM次第ではGメンか仕事人かといった感じだ。


『叡智』で両方を見知っているメアリア達はノリノリだが何のことか分かっていないウルマイヤはきょどきょどしながら歩いている。


 その様子を唖然と見ていた図体のデカい兵士が俺達が前に来ると我に返ったように叫んだ。


「こ、ここは王国専用施設で一般人の立ち入りはまかりならぬ! 引き返すがいい!」


「俺はボーガベル王国カイゼワラ候ダイゴ・マキシマだ。この館に当王国の女王エルメリアが不当に囚われているのでお連れに参った」


「はっ、何かの間違いで有ろう。その様なお方がこの屋敷にいるはずが……」


 そう言った途端、二階の窓がドカンという音と共に吹き飛び、バルコニーからエルメリアが身を乗り出した。


「ダイゴ候~お迎えご苦労です~エルメリアはここですよ~」


「だ、そうだ。連れて行くぞ」


 唖然としている兵士に俺は言った。


「ま、待て! 勝手に立ち入る事は認めんと言っただろう!」


「ああ? そっちの都合なんぞ知ったことか。勝手に立ち入らせてもらうぞ」


「ま、まて!」


 兵士が笛をならすと奥から増援がワラワラ出てきた。


『ご主人様、賊の頭目が船に乗れといってるのですが』


『ああ、まだ大人しくしたがっていてくれ』


『畏まりました』


「だ、ダイゴ様……」


 怯えたウルマイヤが俺にしがみつく。


「心配するなウルマイヤ『浮杖フロート』」


 俺はウルマイヤを抱きかかえると一気にエルメリアのいた露台に飛んだ。


「ひゃああぁ!」


 下を見ると既にメアリア達が衛兵と戦闘を開始している。


『殺すなよ』


 念で命じた俺は中に入って行く。


 階段を降りていくとそこには小型の船があり、エルメリアと仮面の男が乗り込んだところだ。


「『風弾エアバレット』」


 緑の魔法陣から撃ち出された衝撃波が仮面を弾き飛ばした。


「あぐっ!」


 その衝撃で男が尻もちをつく。


「あ、あなたは!」


 ウルマイヤが叫んだ。

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