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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第三章 バッフェ動乱編

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第三十話 青の礼装

 朝の日差しで目が覚めた途端ワン子に口を塞がれた。


「お早うございます、ご主人様」


「ああ、お早う。そっか。ガラノッサの屋敷だったな」


 二人きりだとワン子もこういうサービスをしてくれるのか。


 あの晩、ガラノッサの屋敷に招かれた俺は散々飲みなおした挙句に彼の強い勧めで一晩泊まったのだった。


 一応王都に戻らないと、と言ったが、


「なぁに、あの議長の事だ。俺達が動くまでは放置だよ。心配するな」


 と、もっともな事を言われた。

 確かにあの様子では毎日宮殿に出向く必要も無さそうだ。

 万一呼び出しでもあれば適当な理由を付けて『転送』で戻れば良い。


 正直もうあの連中に義理立てする気は消え失せていた。


 それよりカスディアンの地が結構気に入った。

 高原地帯のせいか爽やかな風が吹いている。

 景色も屋敷から見える大きなサネオラ湖の眺めとか、素晴らしい物ばかりだ。


 そしてガラノッサという男が面白い。

 確かに貴族らしからぬ軽い所があるが、まるっきり粗野でもない。

 さっぱりとしてるが繊細な所もある。

 実に気分の良い男だ。


「御着替えを……」


 そう言って起きようとしたワン子を抱き寄せた。


「ご主人様?」


「まだ良いよ。滅多に無い機会だ。ゆっくりしよう」


「はい……」


「私…」


 珍しくワン子から話を切り出してきた。


「ご主人様……いえ、ダイゴ様が私のご主人様で本当に良かったです」


「何だよ、改まって」


 胸の上に乗っているワン子のモフモフ髪を撫でながら聞いた。


「あの時の私は本当に絶望しかなくて、正直生きる気力も無かったんです。でもダイゴ様に買って頂き、お世話をさせて頂き、エルメリア様達と出会い、眷属にさせて頂き、本当に毎日が夢のようです」


「そっか。ならそろそろ何で奴隷になったか聞いても良いか?」


「……はい。私は南大陸にあった小国の者でした。その国が他の部族に攻め滅ぼされようとした時、兄が私を船で逃がしてくれたのです」


 頭を起こしたワン子は今まで見せた事のない、泣き笑いの顔を俺に見せて……言った。


「そっか」


「船はこの大陸に流れ着きましたがそこで奴隷商人に捕まってしまいました。疲労と病気で衰弱していた私は抵抗も出来ず、隷属の首輪を嵌められ高級奴隷の調教を受けさせられました」


 そう言って再びワン子は俺の胸に顔を埋める。


「それは何処だったんだ?」


「分かりません、馬車で連れられて……ただ海が近かった気がします」


 海か……。

 おそらくは西側の国なんだろう。


「後は俺の知ってる通りか」


「はい。あの商人の話では王国の貴族から更に帝国に献上されるという話でした」


「帝国にか……」


「帝国には闘技場があり、そこでは様々な決闘が行われるそうです。商人はそこに出されるなら勿体ない話だと言ってました」


 確かにそうだ。

 金貨百五十枚、いや、それ以前にワン子を見世物にするなんて。


「その意見は同意だし、そうならなくて良かった」


「はい」


「故郷に戻りたいとは?」


「どうなっているかを知りたい気持ちは勿論あります。でも兄が絶対に戻ってはダメだと……」


「そうか。よく話してくれた。ありがとう」


 俺はワン子に礼を言った。


「い、いえ、お礼を言われるような話では…」


「直接行かなくても動向を調べる位は良いだろ?」


「は、はい」


「何て国だったんだ」


「……タランバ。緑の草原が一面に広がる美しい国でした」


「そうか」


『叡智』で検索したが、タランバは二年前に既に滅亡していた……。


「ご主人様。もし私がやはりタランバに行ってみたいと言ったら…」


「勿論連れて行くさ」


「あっ、ありがとうございます」


 ワン子がやはり今までにない笑顔を見せた。

 ああ、これがこいつの本当の笑顔なんだな。


 どちらとも無く、俺達は唇を重ねた。


 暫く経ってから侍女達が着替えを持ってきた。


 俺のは客人用の部屋着だが、ワン子のは上等の礼装ドレスだ。

 青を基調とした上質の木綿で、貴族というよりは王族が着る感じがする。


「この様な良いものを着させて頂く訳には……」


 そうワン子は遠慮したが、侍女に


「侯のお計らいでございますのでご遠慮なさらずに」


 と押し切られ着せられてしまった。


 食堂に出向くと既にガラノッサは席に着いて待っていた。


「よう、ゆっくり寝れたかどうか聞くのは野暮だよな」


「いや、ゆっくり寝させてもらったよ」


 俺は手を振って答えた。


「あ、あの、ガラノッサ様、この服は…」


 ワン子が戸惑い気味にガラノッサに聞く。


「おお~良く似合ってるな。新品なんだが着てくれる人がいなかったんでな。昨日のお礼だ。是非もらってくれ」


「……分かりました。ありがとうございます」


 朝食は数種類の肉、川魚を焼いた物、麦粥に温野菜などと果物だ。

 この辺りの貴族の食事にしては多少豪華な感じがする。

 おそらくは普段はもっと質素なのだが客人をもてなすために奮発したのだろう。


「この屋敷に人を招くのも随分久しぶりなんでな。料理人が腕を奮ってくれたんだよ」


 愉しそうに笑いながらガラノッサは言った。


「他に家人は?」


「いない。俺だけさ」


「そうか……」


 それ以上は聞かなかった。玄関に飾られてた肖像画には若い頃のガラノッサの他に両親と思しき男女、そして妹と思しき少女の姿があった。


 食後の話題は専らボーガベルの事だ。

 商人を通してエルメリア即位後の急速な改革はバッフェにも伝わっていたそうだ。

 合併に当たっての執政官制を詳しく説明してやった。


 次に話題になったのはオラシャントの物がボーガベルから流れて来た事だ。

 これはそのままメルシャの船が流れ着き、積み荷を引き上げて売りさばいた話をした。


「で、今度は俺が質問に答える番だ」


 ダバ茶をひと飲みしてガラノッサが言った。

 知りたいのは今回の叛乱劇の内容だ。


「まず、お前の軍はどの位の規模なんだ?」


「俺に賛同してくれた三貴族と俺の私兵を合わせて一万五千、それに傭兵が五千だ」


「王国側は?」


「正規兵は約二万だ。それに議長達の私兵が約一万」


「随分不利な戦いだな」


「正規兵の練度はそれ程高くはない。散々傭兵を使い倒してきたからな。まぁそれでも確かに数の上では不利なんだがこちらにはその傭兵がいる。うちの兵も傭兵頭のアラモスに鍛えて貰ってるからな。まぁ互角と見て良いだろう」


「それで勝算は?」


「勿論あるさ。クルトワまでの三州には殆ど兵はいない。そのまま素通りして決戦はクルトワ郊外になる」


 この辺りはボーガベルも同じだ。

 この世界の戦争は都市が荒廃するような戦いを嫌う。


「おそらく議長は私兵を温存するだろう。そうなればこっちの方が有利だ」


「それで議長は俺達に支援を求めた訳か」


「だろうな」


 確かに俺達が支援に回れば議長達は自分の私兵を消耗せずにガラノッサの軍に勝利できるだろう。


 だが、何か変だ。

 あの時女王と議長の会話では俺達は当てにされてない上に目くらましか囮の様な言いっぷりだった。


「なぁ、クルトワを攻める時はここはがら空きなのか?」


「ああ、一応留守番の衛兵は残しておくが総力戦だからな」


「それって大丈夫なのか?」


「まぁな。普通なら帝国がここぞとばかりに侵入して来るんだが、何処かの誰かさんが二軍団も潰してくれたお陰で、こっちに割く兵は今は無いそうだ」


「無いそうだってその話の出所は?」


「ウチの出入りの商会にモシャ商会ってのがあるんだ」


「モシャ商会?信用できるのか?」


「ああ、バッフェの商人で武具や糧秣を扱ってるんだが、エドラキムとも交易してるせいで向こうの事情にも詳しい。情報の正確さも高いし重宝してるんだ」


「もしかして俺の話って」


「そうだ、そのモシャ商会から流れて来た。議長側にも出入りしてるからな」


「大丈夫なのかよ、こっちの話が議長側に流れてるってのは」


「まぁあるかもしれんがあっちも商売だからな。だから重要な話は流石に漏らさんよ」


「そうか……」


 どうも腑に落ちない。

 だが現時点では議長達が何かを企んでる事だけしか分かっていない。


「ガラノッサ様、宜しいでしょうか」


 そう言って部屋に入って来た使用人がガラノッサの耳元で何かを告げた。


「すまんな、この後、その軍議とモシャ商会との打ち合わせがあるんだ」


「構わんよ。街でも見てから宿に帰る」


「ああ、ゆっくりしていってくれよ。あとは屋敷の者に言っておくから」


 そう言ってガラノッサは部屋を出ていった。


「さて、それじゃ街を回ってから一旦戻るか。あんまりのんびりしてるとエルメリア達が泣くからな」


「畏まりました」


 ワン子が笑いながら言った。




 ワン子が商人服に着替えてから俺達はガラノッサの屋敷を後にし、街へ出た。

 清々しい秋風の吹くデグデオの街は活気に満ち溢れている。


 街を散策すると画廊を見つけた。


「へぇ、パラスマヤには無かったな」


 何気なく入ってみる。

 この世界の事が参考になるかもと思ったからだ。


「いらっしゃい」


 初老の品の良い女性が店番をしていた。


 色々な絵が飾られている中で、


「あれ?」


 屋敷で見た肖像画と同じ若きガラノッサと青の礼装に身を包んだ青髪の女性が並ぶ絵が奥にひっそりと飾ってあった。


「これ……ガラノッサだよな」


 そう言った途端


「あんた、王都の人?」


 店の女性の鋭い言葉が飛んだ。


「違うよ、旅の商人さ。さっきガラノッサ候の家で商いしてきたんだ。そん時にこれと同じ様な絵を見た」


 そう言って俺は商人鑑札を見せる。


「……ならいいんだけどね、これはガラノッサ様とレキュア様の婚約祝いの時の絵さ」


「レキュア様?」


「ああ、大公ブルデガルス様のご息女だったの」


「だった……って」


「ガラノッサ様も三年前のあの事件が無ければ……」


 三年前の事件……ガラノッサが刺客に襲われた時にも言っていたっけ。


「教えてくれないか。その三年前の事件って」


「ガラノッサ様の妹君のサルシャ様と許嫁のレキュア姫様が攫われて、無残なご遺体となってマルコビア家の前に打ち捨てられていたの」


 ガラノッサの、


「そんなのはとっくに殺されちまったよ」


 と言った時の顔が浮かんだ。

 そういうことだったのか……。


「結局誰の仕業かは分からずじまいだったけど、ここだけの話、パハラ議長達枢密院の仕業って皆思ってるけどね」


「なんでさ」


「ここらじゃ有名な話だよ。ガラノッサ様がレキュア様とご結婚なされば、次期枢密院議長の地位は安泰と言われてたのさ」


 それを良く思わない議長達にレキュア様は殺されたって事か……。


「ガラノッサ様はその事件を機に中央の職務を辞してカスディアンに籠ってしまったのよ」


「そうだったのか……いや、ありがとう」


 俺はお礼がてら無難な風景画を二枚ほど買って店を出た。


 喉のあたりに苦々しい思いが這い上がる。


「この礼服は……」


 ワン子が抱えてる礼服の入った包みを見た。

 あの色は肖像画のレキュア様が着ていた礼装と同じ色だ。


「だろうな……」


「大事にしなければなりませんね」


「そうだな……」


 俺は天を仰いだ。

 カスディアンの空は礼装の様に何処までも青かった。




 昼過ぎに『転送』でアジュナ・ボーガベルに戻ると眷属一同が待ち受けていた。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 エルメリアがいつもの微笑みで聞いてきた。

 出がけのアレは何だったんだ。


「ああ、色々収穫はあった。俺はガラノッサに組することにしたわ」


「畏まりましたわ」


「王都の方は動きは無いみたいだな」


「ピーターからは一切干渉は無いそうです。代わりに支援等も無いそうですが」


 クフュラが苦笑いする。


「完全放置って奴か。全く……」


 本当にこっちはあきれ果てた奴らだ。

 ん?何か今空気がピシって言った気がするな。


「すまんが夕方もう一度行ってくる」


 ガラノッサはあの後モシャ商会と打ち合わせと言っていた。

 恐らくはまだデグデオに留まってるだろう。

 接触すれば何かしらの糸口が掴めるかも知れない。

 

「畏まりました、ではそれに備えて午睡をいたしませんと」


 エルメリアがにこやかに言う。


「へ?何を?」


「午睡ですわ。おひるね」


「な、何で?」


「おひるねだな」


「……おひるね」


「おひるねです~」


 いつものようににこやかな微笑みだがなぜかエルメリアさんが怖い。

 他の眷属たちも似た様な笑顔だ。


 多分さっきの完全放置ってのがトリガーだったな……。


「……わかったよ」


 おのれ猪口才な。

 返り討ちにしてくれるわ。


 俺は皆に手を引かれ昼寝をしに寝室に向かった。

 しれっとワン子混ざってるなよ。


 夕刻に再び俺達はデグデオに戻って来た。


 流石にエルメリアも上機嫌だったが、いつの間にか午睡当番などと言う訳の分からん分担が増えていた。

 何でも毎日交代で俺と昼寝するんだと。

 仕事どうすんだよ仕事って言ったら、


「あら、三アルワぐらいの午睡など普通ですわ」


 と軽くあしらわれてしまった。


「さてと、じゃあの酒場行ってみるか」


「畏まりました」


 酒場に入ってみると残念ながらガラノッサはいなかった。


「まぁそうそう毎日飲んだくれている訳でも無いんだろうな」


 席に着いた俺が、ワン子が持ってきたつまみをひと齧りしながら呟く。


「そうですね……」


 と言ったワン子の目が鋭くなった。


 何だまたオッサンかと振り向くと、そこには商人姿の女が立っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ガラノッサ「ゆうべはお楽しみだったようだな。」 [気になる点] ガラノッサは今後、過去を吹っ切って身を固めるつもりがあるのでしょうか?後、許嫁の服をワン子に着せた意図は? [一言] エルメ…
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