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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第二章 シャプア迎撃戦編

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第二十五話 オラシャント王国

 パラスマヤ王城の会議場。


 ケイドル船長以下オラシャントの船員達が拘束されてうなだれていた。

 それを見たメルシャの顔は蒼白になっている。


「な……何で……どうして……」


「この者達は昨夜アジュナ・ボーガベルの建造所に忍び込み、船を強奪しようとしました」


 グルフェスがそう言うと、


「な! 何て……何でそんな事を!」


 メルシャが叫んだ。


「ど、どうして!? ケイドル! あれ程軽はずみな真似はしないでと……」


「あの船があれば元の海賊家業で楽に稼げる、そう思っただけです」


 ケイドルは静かに言った。


「捕らえられて死罪を待つだけだった我々を救ってくださった姫様には感謝しています。だが我々は海の男。形は違えど大海原を渡れる船を欲するのは当然の事」


「そんな、嘘……嘘でしょ……」


 何時もの柔らかな笑みは消え失せ、可哀相なくらいにうろたえてるメルシャを見るのは正直辛いものがある。


「俺達は船が無きゃ死んだも同然なんだ」


「さぁダイゴ候、俺達を死罪にして下さい」


 他の連中も口々に同じ事を言っている。


 突然メルシャの隣に居たサラナがケイドルの脇に駆け寄り這いつくばった。


「サラナ?」


「申し訳御座いません、女王陛下、そしてダイゴ様。彼等に船のことを教えたのは私です。姫様は一切関係御座いません。どうか私もこの者達と一緒に処罰していただきたく存じます」


「そんな……サラナ……貴女まで……」


 その様子にしばらく呆然としていたメルシャだったが、一瞬天を仰いだ後、突如こちらの方に向き直ると跪き、


「エルメリア女王陛下、ダイゴ様。船を失い、この者達に不安を与え、この様な事を起こさせたのは全て私の責任です。死罪にするのは私だけにしてどうかこの者たちの罪は国外追放だけにして下さい」


 これもまた何時もの飄々とした表情からは想像も付かない凛然とした顔で言った。


「そ、そんな! 姫様は関係ありません! 死罪になるのは俺達です!」


 ケイドルが叫ぶ。

 だが、次の瞬間。


「女王陛下、この場を汚す無礼をお許し下さい」


 そう言ったメルシャは俺を見て悲しそうな笑みを浮かべた。


 メルシャが何をするのか悟った俺が叫ぶより早くワン子がメルシャの元へ飛ぶ。


 だがメルシャは電光の速さで懐の短剣を引き抜き、そのまま自分の首筋に当て一気に引いた。

 鮮血が飛び散り彼女はその場に崩れ落ちた。


「姫様ぁ! 何で!」


 サラナが叫ぶ。

 船員たちは呆然と倒れたままのメルシャを見つめている。


『エルメリア』


『畏まりました』


 俺が念を送ると彼女はすぐさま紫の魔方陣を展開する。


「『蘇生リザレクション』」


 メルシャの体が光に包まれ傷口がみるみる塞がっていく。


「ウウッ……あ、あれ……?」


 メルシャが息を吹き返した。

 跡形も無く治癒した首筋を撫でている。


「姫様ぁ!」


 サラナが駆け寄り、抱きつく。

 顔はもう涙でクチャクチャだ。


「そ、蘇生魔法? 何故ですか……」


「あのさ、俺達抜きで勝手に死罪だ処罰だ話進めていきなり自害とか止めてくんない?」


「そ、それは……」


「まず、俺はあんたらを死罪にするつもりは全くない」


「しかし、あのような騒ぎを起こした以上……」


「別に戦闘になったわけでも無い。ただ忍び込んで見つかっただけじゃないか。確かにアジュナは国家機密に近いがそれならわざわざメルシャに見せたりしない」


「……」


「ボーガベルはこれから魔導船を使った貿易立国を目指す積もりだ。それにはオラシャントは理想的な相手国でもありお手本でもある。だからメルシャ達を送り届けるついでに条約を結ぼうと思っていたんだが……」


「じょうやく……ですか?」


「ああ、国と国とが交わす友好国としての事柄や貿易に関する取り決めの事だ」


「そこまでお考えに……」


「それを取り持つ大役を頼めるのは、メルシャ、君しかいないんだ。だから安易に死んだりしてほしくはないな」


「私しか……」


 暫く俯いていたメルシャは土下座して言った。


「ダイゴ様の深いお考えも知らず、醜態を晒してしまいました。重ねてお許しください」


 船員達も拘束されたまま深く頭を下げている。


「まぁ何にも罰なしって訳にもいかんから取りあえず拘留七日間と罰金はもらうからな。オラシャントへはその後だ」


「分かりました」


「じゃ話は終わり。戻っていいよ」


 ケイドルとサラナ、そして船員達は衛兵に連れられ、メルシャはラデンナーヤ侍女長に連れられ下がって行った。


「やっぱ甘いと思うか?」


 飛び散った鮮血の後始末をしているワン子達を見ながら俺は脇にいたグルフェスに言った。


「罪と考えれば大甘ですが、ダイゴ殿の性分とボーガベルの将来を考えれば妥当ですかな」


「そう言ってもらえるとありがたいよ」


 俺はため息をつきながら言った。


「凄いなメルシャは。あの一瞬であれだけの判断と動作が出来たんだ」


 一瞬の後に船員達の命を救うために自らの命を投げ出す。

 生半可な覚悟では出来ない。

 そしてワン子ですら間に合わなかったあの動きは彼女自体がただ者では無い事を示していた。


「お気に召されたようですわね」


 エルメリアがにこやかに言った。

 当然嫌味も毒も微塵にも感じられない。

 彼女もメルシャを気に入っているのだ。


「ああ、気に入ったな。だけど向こうはどうかな?」


 それに対してエルメリアはいつものように「うふふ」と笑うだけだった。




 七日後。


 メルシャから譲り受けた海図を元にアジュナ・ボーガベルは荒れた海のはるか上を飛んで行く。

 時速は約二百五十キルレで、約六千キルレ離れたオラシャントへは実質一泊二日の行程だ。


 昼間はオラシャントの船員達と船上競技大会に興じ、夜は無礼講の宴会で大いに盛り上がった。


 特に侍女達の伴奏でエルメリア達やメルシャが歌う歌は好評で最後はボーガベルの国歌を歌い大いに盛り上がった。


「ふう」


 船員の大半が酔い潰れて寝てしまった大食堂を出て俺は展望デッキに出ていた。

 後にはワン子も控えている。

 他の眷属達は風呂に行ってしまった。

 エルメリアが何やら含みのある顔で仕切っていたのが気にかかる。


 この世界特有の赤い月が宝石の様に輝いている。

 いつも星座を探しているがやはり全然元の世界と違っている。


「ワン子も歌を歌ってくれれば良かったのに」


 ワン子の声なら綺麗な歌声が期待できそうだ。

 約一名、声は良いのに音程がとても残念な姫騎士様がいらっしゃったが……。


「申し訳ございません、私の歌はとても人様にお聞かせ出来る様な物では……」


「ああ、無理とは言ってないよ、すまんな」


「いえ……」


 少しワン子の表情が曇っていた。

 何か歌で悲しい過去でもあるんだろうか。


「あ、いたいた~、女王様がここだって仰って~」


 そう言いながらメルシャがやってきた。顔がほんのり赤い。


「今日は楽しかったです~、こんな楽しい航海初めて~」


 ん~、と伸びをする動作が何とも可愛い。

 あの騒動で暫く落ち込んでいたが、海に出た途端いつものメルシャに戻っていた。


「楽しんでくれたのなら何よりだな」


「ご主人様、少し失礼します」


 ワン子が気を利かせたのか出て行った。

 多分扉の向こうで仁王立ちしてるだろう。


「明日はもうオラシャントです~、早いですね~」


「そうだな、これからは早さが大事になる時代が来るな」


「早さですか~」


 メルシャはちょっと考え込んだ。


「ダイゴ様は人が人を好きになるのに早さは関係あると思います~」


「無いな。出会って即恋に落ちる人もいるって言うし、大事なのは思いの強さ何じゃないか」


 なんか昔何処かで聞いた様なフレーズが思いついた。


 と


 俺とメルシャの唇が重なっていた。


「……」


「……むふふ~、嘘じゃないですよ~」


「そっか」


 今度は俺の方から重ねた。


「俺も嘘じゃないよ」


「嬉しいです~」


 メルシャが俺の方に頭を預けた。


 月は何事も無く赤く輝いていた。




 翌朝、あと一アルワ程でオラシャントの首都に到着すると言う時にウイリアムに念話で起こされた。


『マスター、お休みの所申し訳ありませんが至急ブリッジにお越しください』


『いや、もう起きる所だった。すぐに行く』


 今の俺にとって睡眠は精神を休める副次的な物だ。

 すぐに目が冴え起き上がる。


「んん~、どうしました~?」


 隣で寝ていたメルシャが眠たそうに目をこする。


「分からんがオラシャントに何かあったようだ」


「え!?」


 既にワン子は侍女服を着終えている。

 エルメリアも着替え始めており、後の三人はまだ寝ている。


「ワン子、エルメリアとメルシャの服だけ着せればいい」


「畏まりました」


 俺はそのままブリッジに向かう。


「どうしたウイリアム」


「オラシャント王国首都ハルメンデルから複数の煙が上がっています」


「偵察疑似生物射出、状況確認」


「畏まりました」


 すぐさま鳥型疑似生物数羽が王都に向けて飛んでいく。


「なんだこりゃ」


 王都ハルメンデルは酷いありさまだった。

 家屋が根こそぎ倒壊、もしくは崩壊し、船が転覆している。

 その荒れた市街地を頭に赤いバンダナの様な布を被った連中が略奪の限りを尽くし、焼き討ちしたのかあちこちで火の手が上がっている。


「あいつらの仕業か?」


「家屋の倒壊は昨日こちらの方で熱帯低気圧が観測されましたからおそらく超大型の台風でしょう。あの者達に関しては情報不足です」


 遅れてエルメリア、メルシャ、ワン子がやって来た。


「う……うそ……なんで……こんな…………衛兵たちは……」


 王都の惨状にメルシャが呆然としている。


「メルシャ、あそこで略奪してる連中は知ってるか?」


「え? あ……あれは……クナボ族です。辺境の蛮族で小舟での海賊を生業としてます」


「じゃぁ掃討しても構わないな?」


「お願いします! 王宮の正門が破られたら……」


 この世界に海外派兵に関する法律だのは無いとは思うが一応現地の王族の許可は得た。


「ワン子、行けるな」


「お任せください」


「俺も出る。メアリアは……」


「大丈夫だ!」


 素っ裸のメアリアがバルクボーラを担いで駆け込んできた。


「勿論私も出る!」


「出るってその格好でかよ」


 色々出ては不味いものが出てるじゃないか。


「問題ない!」


 あるだろ。


「……私も行く」


 平服を着たシェアリアもクフュラと一緒に来た。

 メアリアの分の平服を渡し、メアリアが慌てて着替える。


「よし、ウイリアム、連中の真上に付けろ。カーペットで降下する」


「畏まりました」


「え? ここから? 降下って降りるのか?」


「ん? いやなら留守番でいいぞ」


「だ、大丈夫だ……」


 なんかメアリアのテンションが一気に落ちたな。


 王城は二重の塀に囲まれており、一番目の門は既に破られ、二番目の門を破ろうとしている。


 アジュナ・ボーガベルはその連中の真上に付けた。

 突如現れた空に浮かぶ物体に連中は目を丸くしている。


「降下するぞ!」


 エルメリアとクフュラ以外、メルシャを含めた俺達は移動用の小型カーペットで格納庫から一気に降下する。


「うひゃりゃああああああああもおおおおおおおお!」


 メアリアが変な悲鳴を上げるが無視だ。

 ふわっと調子の良くないエレベーターの様にカーペットは着地した。


 涙目のメアリアとワン子の表情がすぐに戦闘モードに入った。


 それぞれバルクボーラと双短剣を構えて門の連中に突っ込んでいく。


「な、何だおま……」


 そう言った蛮族がバルクボーラで脳天から斬り下げられて即死した。

 慌てて蛮族たちは剣を構えるがその間に二人の喉がワン子に切り裂かれている。


 笛が鳴らされ周囲で略奪行為をしていた蛮族共が集まってくる。


「手間が省けていいな。シェアリア、派手な魔法は駄目だからな」


「……承知。『超重力圧壊ボストンプレス』」


 たちまち道に球形の陥没が出来、蛮族共を圧し潰す。

 だから派手だって。


「ダイゴ様、私も加勢させてください」


 メルシャが両腕の金の腕輪をほどく。

 それは鞭の様にしなったかと思った次の瞬間細いレイピア状の剣になった。

 ただの腕輪じゃなく武器だったのか。

 昔何かのロボットアニメにこんな剣あったな。


「無理するなよ、俺の近くに居ろ」


「はい」


 そう言ってる間にも蛮族たちは次々とやってくる。

 一体どんだけいるんだこいつら。


『手分けして倒すぞ。いいな』


『『『畏まりました』』』


 全員が散らばる。


「メルシャがいたぞ! 捕らえて晒し物にしろ!」


 そう叫んだ男の首が次の瞬間飛んだ。

 メルシャの武器が跳ね飛ばしたのだ。


「お断りです~」


 メルシャがいつもの間延びした声で言った。

 だがそいつの声を聞いた蛮族がこちらに押し寄せる。


「あら~、沢山来てしまいました~」


「問題ない」


 俺は左手で黄色い魔法陣を展開した。


「『魔導銃ソーサリガン』」


 そこから放たれた無数の光が蛮族共を貫く。


『……ご主人様、派手』


 シェアリアの突っ込みがすかさず入った次の瞬間、


「『雷華繚乱ライトニングブロッサム』」


 シェアリアのいる方ですさまじい電光の華が大地に咲き乱れる。

 だから派手過ぎだって。


「何処かに頭がいるはずだ。何か特徴を知ってるか」


「頭目のボルベオは仮面を被ってると聞いてます~」


 残りの蛮族を斬りながらメルシャが答えた。


 仮面ねぇ。

 三倍とかじゃ無い事を祈ろう。

 俺は疑似生物達に指令を出す。


 程なく少し離れた小高い丘に派手派手しい仮面を被った男のいる一団を見つけた。


「いた。行ってくる」


「私も行きます」


 俺はメルシャの腕を掴んで『転送』を発動する。


 すぐに仮面の一団の目前に出た。


「な、なんだ! 貴様一体!!」


「クナボのボルベオ! この狼藉は何としたことか! このメルシャ・オラシャントが成敗します!」


「め、メルシャだと? ふん、丁度良い、お前を手土産にすれば……」


「!?」


 こいつ何か隠してるな。


「メルシャを捕らえろ!」


 手下どもが向かってきた。


「ダイゴ様!」


「任せろ」


 両腕に緑の魔法陣を展開した。


「『烈風竜巻陣オクラホマミキサー』」


 我ながら酷いネーミングだが効果は抜群だ。

 向かってきた手下が竜巻に巻き上げられ四散していく。


「あ……ああ……」


 ボルベオが木の葉の様に散っていった手下を見て呆然とする。


「さて、お前にはちょっと謳って貰いたい事があるな」


 ボルベオは巨大な中華包丁みたいな剣を取り出した。


「ぐりゅああああっ!」


「『暗黒球ダークタマー』」


 空に黒い球が浮かび中華包丁は消滅した。


 柄だけになった中華包丁を見てボルベオの動きが止まった。


「『自白カツドン』」


「!? う、うぎゃびょおおおおおおっ!」


 ボルベオが途端にのたうち回る。

 今回は高出力だ。


「おい、メルシャを誰に引き渡すつもりだったんだ?」


「ぎゃ、ギャビべぇええええええ! にゃ! にゃまへはちらないぃ! オラシャントのえっえらい奴の、ししし使っ者あああああぶぼおおおおおおおお」 


 仮面に開いた穴から色々汚そうな物を噴き出しながらボルベオが答える。


「今回の襲撃もそいつの手引きか?」


「ぎっひいいいいいいい! ソ、ソの、チョウリダァアア! アゲエッ……」


 そう言ってボルベオは倒れた。


「だ、ダイゴ様……な、なんか凄いですね~」


 メルシャが思いっきりどん引いている。


『ご主人様、掃討完了しました』


『こっちも終わったぞ』


『……おしまい』


 ワン子達から丁度念話が入って来た。


「見苦しいものを見せてすまんな。皆も掃討が終わったようだし、王宮にいこうか」


「は、はい~」


 俺達は廃人と化したボルベオとやらを放置してアジュナへ戻った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メルシャの覚悟と責任感。しかし、船員教育をもっとちゃんとやっとくべき。 >「超重力圧壊ボストンプレス』」 >>うん、本当に押し潰されるとヤバイですからね、ボストンバッグ… [一言] …
[良い点] ライトノベルっ! ていう展開ですね。 まあ、お手軽に拝見させていただいています。 話の展開、スピード感は良い感じですね。 [一言] 読んでて思っていたのですが、、、 魔法名が、、、 本…
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