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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第二章 シャプア迎撃戦編

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第二十三話 貿易姫

 異国の少女は首を傾げた。

 肩先だけウェーブが掛かった髪が揺れる。


「え~? て、ここ東大陸のエドラキム帝国ですよね~?」


「いえ、ここはボーガベル王国ですが……」


 クフュラが答える。


「ボーガベル? はて、聞いた事無い国ですね~」


 微妙にのほほんとした声で随分失礼な事を言っている。


「なぁあんたもしかして王族か?」


「え? 良く判りましたね~、ウチはオラシャント王国の第二十三王女、メルシャ・ティリファネア・ミリ・オラシャントと言います~」


 そう言ってメルシャ姫はドレスの裾を持ち上げ礼をした。


『叡智』で検索するとオラシャント王国は西方大陸にある中規模国家で人口約二十万人、主な産業は農業だが、貿易で莫大な利益を上げており、通称「商王国」と呼ばれている。

 変わった所では王族や貴族は戦よりも商売に長け、優秀な商人ほど地位が高くなるんだそうだ。


「あら、初めまして、私はボーガベル王国の女王、エルメリア・ラ・ボーガベルと申します」


「え! あなた、女王様なんですか~? また踊り子かなんかかと思ってましたわ~」


 メルシャがエルメリアの水着をしげしげと眺めながら言った。


 なんか失礼と言えば失礼だがまぁ彼女の国では踊り子はこう言う衣装なんだろう。ちょっと見てみたい気がする。


「しかしボーガベルって、すみませんが聞いた事無い国ですわ~、はぁ」


『くっ、殺す!』


『メーアーリーアーやめとけ』


 露骨に残念がるメルシャに殺気立つメアリアを念話で押さえて俺は言った。


「エドラキムはここから更に西なんですが、現在我が国と戦争状態でして、陸路で向かうのは不可能ですよ」


「あら~、あなたはどなた様で?」


 メルシャが尋ねた。


「うほん、先程は失礼しました。私はここの領主でダイゴ・マキシマ侯爵と申します。女王陛下の参与をさせて頂いてます」


「はぁ~そうなんですか~。またてっきりウチは貴方が王様かと思ってましたが~」


 うーん、なかなか鋭い子だ。


 値踏みのスキルでもあるんかとステータスを見てみたが体力とかはかなり高いものの、特にそう言った特殊技能は無く単に本人の能力の高さなんだろうか。


 なんて思っていたが、見渡せば眷属一同、メルシャを警戒してか俺を中心に固まっている。

 実に分かりやすい構図だ。


「それよりも船があの状態で乗組員に怪我人とかいないんですか?」


「あ~そうでした~忘れてました~」


 なんかこのメルシャと言う姫は喋り方のせいかのんびりした印象を受ける。

 俺はショーンに事態を説明し対応の準備をするよう念話を送ると、メアリアとワン子に船内に入って怪我人の救護を指示する。


 メルシャが降りてきたロープを軽々とよじ登り中に入った二人は、間もなく相当数の怪我人はいるものの死者は無しとの念話を送ってきた。


「シェアリア、カーペットを使って上がっていくぞ」


『え……でも、いいの?』


 シェアリアが念話で返事をした。浮遊台座はおろか魔導回路ですら現時点ではボーガベルの最高機密だが、止むを得ない。


「構わない、救護が優先だ」


 そう言うとシェアリアは頷き、カーペットを浮上させる。


「な! なんですかこれ~!」


 今まで自分が乗っていた場所が突如浮かび上がりメルシャが驚きの声を上げる。

 カーペットは船の甲板と同じ高さまで浮かび横付けした。あちこち怪我をしてる乗組員達が、突如現われた我々を驚きの表情で見ている。


「無事な者は落ち着いてこちらに乗ってくれ。エルメリアとシェアリアは怪我人に治癒魔法を」


「畏まりました」


「……判った」


 そう言ってエルメリア達は怪我人に治癒魔法を掛けていく。


 その光景もメルシャを十分驚かせた。


「そんな、詠唱も無しに、って何これ、魔法陣が……まさか……伝説の光魔法?」


 程なく全員の怪我は治り、船から下船した。


「ダイゴ様、ありがとうございます~。それに最初に失礼な事言ったのお詫びします~」


 そう言ってメルシャは頭を下げた。


 俺は手を振りながら、


「構わないですよ、それより船はどうするので?」


「竜骨が折れてますから修理は難しいですわ~」


 岩に乗り上げた衝撃で船の下側はグズグズになっている。多分新造したほうが早いだろうが、そもそもボーガベルには造船技術が無い。


「とにかく積荷がこのままでは不味いでしょうからこの台船で運び出しましょう」


 そう俺が言うとメルシャは頷き、怪我の癒えた乗組員たちに指示を出す。


 破損したり流された物も結構あったようだが、それでも積荷はかなりの量だ。

 本来は小舟に降ろして小分けに運ぶのだが、カーペットは甲板から直接積み込める。

 その様子をメルシャは真剣な眼差しで見ていた。


 降ろした荷はそのまま館までピストン輸送で運ぶ。

 幸い収穫前で空いてる穀物庫があったのでそこにどうにか納めきった。


 品物の検品はクフュラが買って出たので任せた。エドラキムの才女はこういう場面で活躍してくれる。

 やはり部屋つき侍女にしておくのは惜しい逸材だ。

 二時間ほどで王室で買い上げた方が良い物と、市場に流した方が良い物とを選別し、リスト化してきた。


「木綿や麻の織物や穀物類、陶器、香辛料が殆どですね。一部は王宮で買い上げるとして、残りは市場に出して宜しいでしょうか?」


 クフュラの報告とリストを『叡智』で照合しながら聞いてた俺は、市場に流す品目の中に大豆と米の近似種があるのを見つけた。


「このグレボってのとイマレってのは俺が欲しいな」


「これは、主に汁物の具材とかに使われるのですが宜しいので?」


「ああ、ボーガベルでは見かけなかったけど、俺の故郷では割かし一般的な食材なんだ」


「確かに東大陸では殆ど見ないですね。分かりました。これも王宮で買い上げるほうにしておきます」


「あと木綿もいくつかはこちらで引き取ろう、いい加減エルメリア達にも綺麗な礼服を着せてあげたいしな」


「まぁ、嬉しいですわ」


 貧乏国のボーガベルでは王族と言えど普段は麻のドレスを着ている。

 ここでは麻は一般的だが木綿は大陸西部で少数生産されてる高級品だ。

 ボーガベルではほとんど出回ってすらいない。


 女王であるエルメリアですら母親が婚礼の時に着たという木綿のドレス一着しか持っていなかった。


 クフュラに聞いたところではエドラキムやバッフェなどは普段は木綿の礼服だそうだ。

 ただ皇帝だけが超高級品の絹の礼服を着ているとか。


「結局私は皇帝陛下に最初に謁見した時しか礼服を着れなかったんですが」


 クフュラはそう言って苦笑いをした。


「じゃぁクフュラの分も作ってやるよ、王城に戻ったら早速仕立師に採寸してもらってくれ」


「え、宜しいのですか?」


 クフュラが驚いた表情を浮かべる。


 大方奴隷扱いの自分がこの先礼服を着れる等考えもしなかったのだろう。


「奴隷姫と言っても姫は姫だからな、しかも俺の大事な眷属でもあるし」


 そう言うとクフュラはポロポロと涙を流し始めた。


「お、おい……」


「あぁ、申し訳ありません、何か凄く嬉しくて……」


 俺が持っていた手巾で涙を拭こうとした途端、脇から瞬間移動の如くワン子が現われ、自分の持っていた手巾でクフュラの目じりを優しく拭いた。


「良かったですね、クフュラ様」


「え……あ……ありがとうございますワン子さん……」


 余りの早業にクフュラの涙も止まってしまった。


 よくよく見るとワン子の着ている侍女服もあちこちほつれや擦れが出ている。


 というかその部分を見せ付けているような気がしないでもない。


「そうだ、ワン子の侍女服もそろそろ新調しよう」


「え、宜しいのですか。ありがとうございます」


 そう言って頭を下げる瞬間とても嬉しそうな顔が見えた。これは貴重だ。


 ボーガベルの侍女服は基本王族の戦闘礼装と同じ型を使っている。

 ワン子の場合その格好で戦闘もこなすので痛みが進んでいるようだった。

 まぁこれを機にメアリアの戦闘礼服やシェアリアの魔導礼服も上等の木綿で作り直そう。


 支払いはこっちの金貨でも良いとの事だったので、取り敢えずグルフェスに貰った金貨の残り十五枚を支払いに充てた。

 ありがとうグルフェス。




 夜は船員達には街の銀等級の宿に泊まってもらい、メルシャとお付きの侍女サラナは屋敷に泊まってもらうことになった。


 一応保安上のためでもある。


 夕食前に沐浴してもらう為にワン子の案内で沐浴場に行った所、滔々と湯を吐き出す魔導回路を見て呆気に取られた後、猛烈な勢いでワン子に質問攻めにしたそうだ。


「いやぁ、あれは凄いですわ~。あんなの初めて見ましたわ~」


 夕食の席でもメルシャの話題はもっぱら魔導回路だ。この食堂にも灯りの魔導回路が部屋を煌々と照らしていて、それにもひたすら感心している。


「まだ一般に普及するほど数は無いので沢山はお分けできませんが」


「え、ボーガベルでは一般には使われていないので~?」


 どうやら大量に買い込んで持ち帰るつもりだったようだ。


「残念ながら造るのに手間が掛かりましてね」


「う~ん、残念ですわ~。これが大量にあれば物凄く儲けられますのに~」


 確かにそうだろう。魔導装置を大量に輸出できればボーガベルにとっては途轍もない利を産む。だが現時点で作れるのは俺一人だけだ。流石に一日に何千個も作るような事はしたくは無い。


 今晩のメニューはカイゼワラの魚介のスープ、ラッサ鳥のモモ肉のステーキ、生野菜のサラダ、黒パン、デザートには果物数種。


 魚介スープは普通に潮汁みたいな味付けだったが皆には好評だ。


 ラッサ鳥は早速買い付けた香辛料で味付けをしてある。

 少しピリ辛の味は眷属達にも受けが良かった。


 日本人としては刺身を所望したかったが、やはりここでも生で魚を食べる風習は無いようなのでひとまず諦めた。


「いや~ここの食事美味しいですわ~、船では硬パンと乾し肉ばかりで……」


 メルシャにはこちらの料理も大いに気に入ってもらえたようだ。


 後はお互いの国の他愛も無い話をして夕食の時間は過ぎていった。


「しかし、メルシャ様はこの後どうするつもりなんです?」


 俺は食後のダバ茶を飲みながら聞いた。


 メルシャの船は大破してもはや使い物にならない。帰国するならバッフェ経由で港のあるムルタブスかエドラキムに行くしかない。


「難しいですね~、エドラキムにはオラシャントの船が何回か行ってはいるんですが、時期は不定期ですし~」


 ボーガベル付近の海流の所為で安定した航海が出来ないのが難点で、その為西大陸からの定期航路というものは存在しない。


 今回のメルシャの航海も、新航路を開拓するのが主な目的だったそうだ。


「まぁいよいよ駄目ならボーガベルで商いを始めますわ~。オラシャントの姫はそうして現地に根を下ろす者も多いので~」


 つまりは現地の国王や貴族、大商人に取り入り、本妻や側妾になってオラシャントの交易網を広げる役割を果たすと言う事らしい。


「ただ船が無いのはやはり厳しいですわ~」


 ため息をつく感じでメルシャが嘆く。


「ダイゴ様、あの『カーペット』と言うので海を渡る事はできませんか~」


 やはりそうきたか。


「あれは残念ながら近距離輸送用で海を渡る能力は無いんですよ」


 これは嘘だ。

『カーペット』は大気中に充満している魔素を吸収変換して稼働する為、航続距離は無限大。

 その気になれば外洋も渡る能力はある。

 だが俺自身は別の移動手段を考えていた。


『……ご主人様、アレを使う?』


 シェアリアが念話で聞いてきた。


 アレとは現在建造中の土魔法を応用した空を飛ぶ船、魔導船の事だ。

 これの建造の為シェアリアはパラスマヤを離れる事が出来なかった。


『これからの事を考えるとオラシャントと商売をするのは願っても無い機会だからなぁ』


 西大陸の貿易国、願ってもないパイプが向こうからやってきてくれた。

 これを手放すのはあまりにも勿体ない。


『……分かった。最終調整はほぼ終わってるから何時でも出せる』


『ありがとう、流石シェアリアだ』


『……じゃ後でご褒美』


『分かってるよ』


 あまり表情は変わらないが嬉しそうなシェアリアと対照的に、メルシャはため息をついた。


「そうですか~、残念ですわ~」




 三日後、新たに作成したカーペット三台を加えた計四台に荷物を分乗させ、俺達一行はパラスマヤに向かった。勿論メルシャにはお付きのサラナと船員達も同行している。


 カーペットは森の上、十五メートルほどの高さを滑るように飛んでいく。


「うっわー、やっぱ凄いですわ~」


 メルシャはカーペットの移動速度に感動している。

 時速で言えば五十キロ程度で俺自身はゆっくりと思ってるが、メルシャ達には速く感じるのだろう。


 荷馬車だと丸一日掛かる行程を一時間ほどで城に到着した。

 中庭に入るとゴーレム達を使って素早く荷物を降ろす。


 正門前には事前に集めておいた商人達が待ち受けており、早速メルシャとクフュラが商談を進め、次々と商品が捌けていく。


 『叡智』の力のお陰で俺と眷属たちはメルシャと普通に会話ができるが、メルシャと商人たちは言葉が通じない。

 そこでクフュラが通訳をする訳だ。


 二時間ほどで全ての品が売れ、商人達は自分の荷馬車で商品を運び出していった。


「いや~いい商売をさせてもらいました~」


 メルシャがはちきれんばかりの笑顔で言った。


 貧乏国とは言え、商人等ある所には金はある。

 南のバッフェ王国との国境の街シュワスの方がいくらか物流が回っている分潤っているらしい。

 今日もシュワスの商人に混ざってバッフェの商人も何人かいたそうだ。

 皆、王都に小麦を収めてまた今日も空荷で帰るのかと思っていた所に思わぬ異国の商品の山が現われ大喜びで有り金はたいて買って行ったらしい。


 人気だったのは陶器、木綿織物、香辛料等、やはりこの地では手に入り難い物が多い。

 陶器などは蝋でしっかり固めてあったので殆ど破損は無かったそうだ。


「クフュラは本当に賢いですわ~、オラシャントでは良い商人になれます~」


 自身が持ってきたスロニ茶を飲んで一息付いたメルシャはクフュラをべた褒めしている。


 まぁクフュラは元々帝国皇学院主席の頭だし、なおかつ今は『叡智』と繋がっている。

 戦術や戦略はからきしだったようだが、計算事はお手の物だ。


「いえ、メルシャの方が凄いです、商売のこと色々教えてくださって大変勉強になりました」


 同い年の二人はもう名前で呼び合っていた。


 なんかもうすっかり二人は仲良しだ。


「でも良いんですか? 王国金貨で支払って」


「いいんです~、しばらくは滞在する予定ですし~」


「ああ、その事なんですけどね、実は皆さんをオラシャントにお送りする……」


「あるんですね! やっぱり!!」


 俺が言い終わらない内にメルシャが身を乗り出しながら叫んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メルシャって「おっとり関西弁」キャラと言うなかなか面白い口調…なろう作品でも、他に一人しか知らぬ… [気になる点] ダバ茶とスロニ茶ってそれぞれどんなお茶ですか? [一言] オラシャント王…
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