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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第二章 シャプア迎撃戦編

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第二十話 蹂躙

 騎馬の使者はボーガベルの陣の手前で止まり、良く響く声で言った。


「エドラキム帝国第六軍の将、テオリア・ラ・エドラキムが汝等に告げる。直ちに降伏し街をあけ渡すべし、さすれば兵の撤退は認めよう。また抗うのであれば一戦するも良し。否か応か?」


 戦の作法に則った正式な口上。

 エルメリアがダイゴをチラと見て頷くのを確認すると、陣幕を出て騎馬の前まで進んだ。


「ボーガベル王国が女王、エルメリア・ラ・ボーガベルである。此度の理不尽かつ非道な侵攻に対し、義と怒りを持って全身全霊で応えよう、掛かって参れ!」


 騎士は驚いた表情を浮かべると、


「承知仕った」


 と言って引き返した。


 陣幕の中に入ったエルメリアが


「如何だったでしょうか?」


 先程とは打って変わった穏やかな笑顔でそうダイゴに尋ねた。


「うん、ばっちり女王様だね」


「ありがとうございます」


 やはりエルメリアは生まれながらの女王の資質があるのだろう……。


 普段の堂々とした威風には正直俺も平伏したくなるくらいだ……。


 ダイゴはそう感心した。


「じゃあご主人様、行って来る」


 馬に跨ったメアリアがそう言うと眼を瞑って唇を出す。


「『絶対物理防御』を付けたと言っても無茶はするんじゃないぞ」


 そう言ってダイゴが素早く唇を重ねてやると嬉しそうに笑いながら


「分かっているよ。よく見ててくれ、ご主人様」


 そう言って馬を走らせ陣幕を出て行った。

 後に二百体のゴーレム兵が続く。




――第六軍の本陣。


「何だと? エルメリアがいただと?」


 お付きの美少年達によって軍装を着たテオリアは副官のイルガンの報に驚いた顔で言った。


「はっ、間違いなくエルメリアと名乗ったそうです」


 イルガンも訝しむ。


「どういう事だ? 何故エルメリアがここに居る?」


「黒騎士から逃れているなら南に逃げるはず。不可解ですな」


「逃れてきたなら戦う気で口上を述べるはずが無い」


「やはり黒騎士が失敗したということでしょうな」


 黒騎士バルジエがパラスマヤ占拠に成功すれば即座に伝書鳥が来ることになっている。

 それが来ないでエルメリアと約千の軍勢がいる。

 考えられるのは黒騎士が裏切ったか事前に計画が露見したか。


「大言壮語の割にはやはり使えん奴だったな」


「いかが致します?」


「元よりこのままよ。ここにエルメリアが居るなら手間が省けるわ」


「では、予定通りに攻略を全軍に周知致します」


「まぁ八軍の件もあるからな。まずは二千を先行させよ」


 流石にいきなり全軍を進める愚は冒さない。

 だが、敵の手の内が明らかになればいくらでも手は打てる。

 そうテオリアは確信していた。


「そう言えば周辺にうろついてる連中がいると報告があったが」


「皇帝陛下のお許しを得ての物見と第一軍から連絡がございました」


「グラセノフ兄様の差し金か。ご苦労な事だ」


 金髪美男子好きのテオリアにとってグラセノフはまさに理想の男性だった。

 彼のする事なら仕方ない、精々自分の華々しい活躍を報告してもらおうと思うだけだ。


「テオリア様、例の者どもは如何いたしましょう」


 イルガンが言ったのはバルジエの妻子とカイゼワラの代官達の事だ。

 バルジエ達がカイゼワラに入るのと入れ違いに隠し街道を抜けテオリアの本陣に保護されていた。


「もう用済みだろう、任せた」


「はっ」


 短く言ってイルガンは出て行った。

 テオリアは最初からバルジエを当てにしてはいなかった。

 やれ剣聖だ最強部隊だなどと言っていても所詮ボーガベルでの話だ。

 二十年前ならいざ知らず、今はバルジエ程度の剣の達者なら帝国に何人もいる。

 あくまで捨て駒で使う程度にしか考えていなかった。


 ややあって遠くで何人かの悲鳴が短く上がったがもはやテオリアは聞いてはいない。


 本陣に設えた椅子に汗を掻きながら座ると、美少年達に汗を拭かせながらテオリアは叫んだ。


「先鋒部隊、突撃せよ!」


 帝国第六軍の精兵二千余が呼応して突撃を開始する。

 相対する中央の兵の数およそ二百、両翼を入れても千余り。普通に考えれば圧倒的有利な数だ。


 中央の敵も動いた。

 だが両翼はそのままだ。

 そのまま蹴散らし、そのまま門を破るが如き勢いで突っ込んで行く。


 だが。


 テオリアは自分の見てる光景が信じられなかった。


 敵陣から出てきた騎馬一騎と二百ほどの歩兵が自軍と当った途端猛烈な殺戮を開始し、次々と自軍の兵が斃されていく。


「な、なんだ、あれは……」


 鎧に剣一本しか持たない歩兵が自軍の剣戟を物ともせずに一刀の元に斬り殺している。

 自軍の兵が斬りかかっても少しも手傷を負う様子がなく、そのまま斬りかかった兵士を斬り殺す。

 まるで麦の刈り入れの様に無造作に六軍の兵士たちは斬り殺されていった。


 もっと凄まじいのは一騎だけいる騎士だ。

 当った瞬間に文字通り自軍の兵が斬り飛ばされていく。

 常人離れした剣戟だ。


 手に持った長大な黒剣を奮うたびにまるで死の暴風に会ったかの如く数名の兵士が斬られていく。


 ものの半アルワもしないうちに二千の兵は半分以上が斬り殺されていた。

 対する敵軍は一人の脱落者もいないように見える。


 当然進軍中の兵は恐慌に駆られた。

 しかし後方に自軍が控えている限り後退は許されない。

 自暴自棄になって突撃し、また呆気なく斬り殺されていく。


 やがて先頭の騎士は先鋒部隊を突破、後ろに控える本体に迫ってくる。


「あ、あれは、バッフェの傭兵ではないぞ、何なんだ一体……」


 テオリアが呻く。

 バッフェの傭兵は基本革の鎧を付けており、あのような鎧は着ていない。


「わ、分かりません、あのような……」


「全軍に突撃させろ!」


 テオリアは怒鳴った。


 あまりの敵の動きの速さに対策など練りようもなく、もはや数で押すしか思いつかない。

 全軍進撃の銅鑼が狂ったように打ち鳴らされた。

 だが目の前の惨劇を目の当たりにした軍の動きは鈍い。

 逆に待機していた左右のゴーレム兵が動き始めた。


 後方の弓兵から矢が放たれ、メアリア達に降り注ぐが絶対物理防御を持つメアリアも鉄の身体を持つゴーレム兵達も物ともせず進んでくる。


「進め! 逃げ出そうとする者はその場で斬る! 進め!」


 指揮官達が味方を追い立て、やっと全軍が動き始めた。だがその出鼻にメアリア達二百が突っ込み、続いて先鋒が減るのを待っていたかのように動き出した両翼の各四百ずつが激突した。


 馬上のメアリアの闘いは鬼神の如く、中央二千の兵の真ん中に投げつけられた槍の様に喰い込んでいく。


 乗っている馬も普通の馬ではなくダイゴが作成した巨大な疑似生物の白馬だ。

 念話によりメアリアの思った通りの動きをする為、戦闘に集中できる。

 馬体も並みの馬より一回り以上大きく、それ自体が凶暴な兵器の様だ。

 人馬一体を体現した今のメアリアはまさに暴力の具現者と化していた。


「押せ! 数では此方が圧倒的なんだ! 押しつぶせ!」


 指揮官が喉も枯れよと声を張り上げる。

 十人以上の歩兵が一斉にメアリアに飛びかかろうとするが、バルクボーラの横薙ぎの一撃で皆吹き飛ばされ、大半は即死していた。

 生き残った者もメアリアの馬に踏みつぶされるか後方のゴーレム兵に止めを刺された。


 メアリアが通った後をゴーレム兵が蹂躙していく。

 帝国兵が幾ら切りつけても傷一つ負わず、的確に斬り殺していく。

 彼らにとってはまさに悪夢の戦場と化した。


 異様に早い進軍速度のため既に戦線は崩壊しつつあった。

 もはや兵を叱咤する指揮官も斃れ、戦場は混乱の極みにある。

 恐怖に駆られた兵が逃げまどい、倒れ、踏みつぶされ、固まった所をまとめて斬り殺される。


 一アルワを経たずに既に総数は十分の一以下に減っていた。


 そしてメアリア達は中央深くテオリアのいる本陣に食い込もうとしていた。

 本陣守護の重装歩兵や騎士たちが必死で食い止めようとするが成すすべなく斃れていく。


「テオリア様! この場はお引きくだされ!」


 天幕に駆け込んだイルガンが叫ぶ。

 かなり前から親衛隊の美少年達も剣を持ってこの天幕を護る為に出ており、中はテオリア一人だった。


「引いてどうなる! 戻った所で処刑されるだけだ! どうにかしろ!!」


「しかし! もうそこまで敵兵が来ています! このままでは!」


 天幕の外では知った声達の断末魔が響き渡り、テオリアを震撼させた。


「降伏だ! 降伏する!! 奴隷にでも何でもなるから! 早く伝えろ!!」


 涙を流しながら懸命に叫ぶテオリア。


 だがイルガンはそれには応えなかった。応えられなかったのだ。


 黒く巨大な剣がイルガンの胸から生えていた。バルクボーラだ。


 引き抜かれ、倒れた副官の向こうに軽装鎧を着た金髪の少女メアリアが立っていた。


 全身は返り血で真っ赤だ。


「第六軍の将テオリアだな」


 メアリアは無表情でそう言ってバルクボーラを突きつけた。


「た、助けて、降伏、降伏する、奴隷でも何でもなりますから……お願い……」


 メアリアは床に座り込み失禁しながら命乞いするテオリアの姿に眉を顰めて、


「だめだ、死ね」


 そう言ってバルクボーラを横薙ぎに振るった。






 僅か二アルワ余りで戦闘は終わった。

 八千の敵軍は全滅、対してボーガベルの損害はゼロ。

 完全勝利だった。


 周囲にいた物見達は段階的に撤退して行った。


「どのみちこれで当面は迂闊にボーガベルに侵攻しようと言う気にはならないだろうな」


 ダイゴが死体が折り重なる平野を見ながら呟く。


「ご主人様、すまない」


 その脇でメアリアが頭を下げた。


「構わんよ、そこがメアリアの良い所だからな」


 泣きそうな顔でしょげてたメアリアの頭をそう言って撫でると少しだけ明るさが戻った。


 結局メアリアはテオリアを殺せなかった。

 何故とはなく命乞いをする女を斬る事にためらいがあったのだ。


「で、あれがテオリア様か」


 ダイゴが指さした先には荷車の上で気の抜けた様にへたり込んでるテオリアがいた。

 ここまで街から調達した荷車でゴーレム兵に曳かせてきたのだ。


「ああ、バルクボーラの面でひっぱたいたら、ああなってしまって」


 テオリアは魂の抜けた様に口からよだれを垂らして呆然としている。


 恐る恐るクフュラが近づいてみたが、


「ヴァー、ヴァー」


 と呆けた声を上げるだけだ。


「……どうするの?」


 シェアリアが聞いてきた。


「うーん、別に治癒魔法を懸ける必要もないしなぁ」


 そう言ってダイゴは疑似生物の驢馬を作成した。


「これでカナレまで連れて行けば後は帝国の連中がどうにかするだろ」


 そう言って驢馬に荷車を括りつけ、カナレに向けて歩かせた。

 夕日の中、「ヴァー、ヴァー」と呻くだけの巨大な肉塊を乗せた荷車を曳いてロバはトボトボ歩いて行く。


「……何か可哀想」


 シェアリアがポツンと言った。


「ん?」


 ダイゴが聞き返すと


「……驢馬」


 ボソッと言った。


 こうしてシャプア防衛戦は終了した。


「ゴーレム兵五百はこの場に駐屯させて戦場の後片付けをさせよう」


 ダイゴは念を送りゴーレム兵に指示を出す。


 雷電爆撃で死体から何から殆ど消滅させた前回と違い平原は死屍累々の有様だ。

 ゴーレム兵達は大きな穴を何か所か掘ってそこへ兵士の死体を放り込んでいく。

 何体かは、ダイゴが新たに作った中型の岩ゴーレムも混じって、その身体に似合った穴を掘っていく。


 それを見届けてダイゴと眷属たちは街へ戻っていった。






――エドラキム帝国帝都カーンデリオにあるグラセノフ私邸。


「テオリアはカナレで保護されてカーンデリオまで戻されたが」


 御前会議より戻ったグラセノフがセイミアに語る。


「『戦死』扱いになったよ。当然母方の家は取り潰し。第六、第八軍の再編には年単位掛かるから、皇帝もボーガベル侵攻は一時凍結の決を下された」


「しかし、そのような兵士がいるなんて、流石に今回ばかりは読みが外れましたわ」


 舶来の茶器で茶を淹れながら、セイミアが残念そうに言う。


 物見の報告は皇帝以下帝国諸侯を慄然とさせた。

 僅か千余りの兵が帝国軍八千を相手に全く損害を出さずにこれを打ち破る。

 俄かに信じ難い話だが五十人もの物見の証言は全て一致しており疑いの余地は無い。


 散々討議がされたが結局カナレに兵を送って防御を固める事しか決まらなかった。

 その任には遠征より戻ったレノクロマの第十軍があたる事になった。

 現状では第十軍をぶつけても全滅の公算が高い。


「本当にセイミアはそう思うかい?」


 にこやかにグラセノフが言った。


「あら、物見達の報告に差異は無いのでしょう?」


「ああ、ではその兵の正体は何かという事だね。例によってバッフェの傭兵説が大勢だったけど、そんな屈強な兵をバッフェがボーガベルに派遣できるならとっくにエドラキムは滅んでるはずだよ」


「じゃあやっぱり、例の魔導士が絡んでると?」


「直属の物見に詳しく聞いたんだが件の兵士は皆同じ背格好をしていたそうだ。身の丈もほぼ同じ。更には兵を斬り殺す動作も皆同じ様な動作だったそうだ」


「それって……」


「例えれば一人の人間が千人に分かれた、そんな感じだったようだね」


「まさか、魔法で作り出した兵士? でもそんな事が、そんな魔法聞いた事も無いわ」


「だがそう考えるのが一番妥当だね。謎の魔導士、是が非でも私の戦力に欲しいものだ」


 敵わぬ相手なら懐柔の道を模索する。

 相手が人間であろうと神であろうと何処かに糸口は有るはずだ。

 例えどんな手を使っても……。

 そう、この身を投げ打ってでも……。


 しばらくセイミアは考え込んでいたが、


「お兄様、レノクロマがカナレに発つ前に私はバッフェに行くわ」


「バッフェにかい? またどうして」


「上手くいけばバッフェを利用して魔導士の正体を暴けるかもしれない。もし駄目ならそのままボーガベルに入るつもり」


「しかし、レノクロマは良いのかい? 彼はセイミアがいないと……」


「カナレでは駐屯するだけでしょ? なら他の武官達で十分よ」


「分かった、必要な物はすぐ準備させよう。くれぐれも気をつけて」


「分かってます。お兄様」


 そうにこやかに笑うセイミアの心中はまだ見ぬ魔導士に思いを馳せていた。


 そう、兄の夢を叶える為。


 そしてその兄をも超える人物に巡り会う為。

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[良い点] >「……何か可哀相」  シェアリアがポツンと言った。 「ん?」  ダイゴが聞き返すと 「……驢馬」  ボソッと言った。 >>秀逸な言い回しかと。 [気に…
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