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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十二章 ストルプルド戦役編

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第百五十五話 決戦

 光と化したルナプルトが掻き消えると、鍾乳洞の中空に巨大な赤竜が出現した。

 体長は実に百八十メルテを超え、屍竜よりも一回り、そして黒竜より二回りは大きな体躯。

 黒竜には無い四本の角が雄としての精悍さを誇示しているかのように生えている。


「ガアォオオオオオオアアアアアアッ!!」


 鍾乳洞中に轟く叫びを赤竜が上げる。


「なんでぇ弟の方が全然デカいじゃねぇか」


 睥睨する赤竜に物怖じする様子も無く、寧ろ感心しながらダイゴが言った。


「な、何が言いたいのじゃ!」


「お前、もしかして地の竜のなかでは最小……」


「や、やかましいわ! これから育つのじゃ!」


「まぁそれは良いんだけどあの馬鹿弟が、こんな所で竜になりやがって」


「ここは元々あ奴のねぐらじゃ。致し方あるまいて」


「そう言う話じゃねぇ。この上に何がある?」


「あ……」


「アーメル……フジュバ……」


 ファムレイアが慄然として言った。


「そういう事だ。派手に暴れて陥没でもすりゃあ大惨事だぞ」


「そ、そんな……」


 そう言ったスミレイアの脳裏に地割れに飲み込まれるルーンドルファ達の姿が浮かぶ。


「で、では……この暴爆龍は……」


 エルメリアが胸の谷間から黒い水晶状の魔石を取り出した。


「考えなしに『負の滅光』をブッ放しゃそうなるな」


「うう、そうですわね……」


「代わりにこれを預けておく」


 そう言ってダイゴは懐から紫色の魔石を取り出し、残念そうなエルメリアの胸の谷間に押し込んだ。


「ご主人様!」


 ワン子とニャン子の気配が変わった。

 見れば周囲に何時の間にか湧き出した竜人兵、そして竜人将が取り囲もうとしている。


「どうやら私達の相手はアイツらみたい……にゃ」


「すまぬが竜人兵同士は恐らく敵と認識せぬ。こちらが出しても役には立たぬぞ」


 身体を漆黒の鎧で覆いながらソルディアナが言った。


「構いません、私達で倒します」


 ワン子がとニャン子が得物を、クリュウガン姉妹が魔導杖をそれぞれ構える。


「ご主人様、雑魚は私どもに任せて、心置きなく赤竜を折檻してきてくださいまし」


 エルメリアが拳を握りながらいつもと変わらぬ笑顔をダイゴに向ける。


「分かった。じゃぁちっくら弟を揉んでくるんで、頼んだぞ」


「「畏まりました!!」」


 手を振ると同時にダイゴはその場から姿を消した。


 その瞬間、竜人将が一人、エルメリアを狙って手剣を突き込んできた。

 だがその剣に沿うようにエルメリアの人差し指と中指が竜人将を撫でる。


 竜人将は身体の半分が押し潰れたようになりながら吹き飛んで行った。


「さぁ皆さん! ご主人様の後顧の憂いにならぬよう、奮戦しましょう!」


 その声と共に全員が竜の使い魔たちに向かって駆けだした。




「よう弟! 待たせたな!」


 赤竜の間近のビルの屋上にダイゴが現れた。


『ハン! 自分からノコノコと殺されに出て来るとは愚かだな!』


 ルナプルトの念がダイゴの頭に響く。


「別に簡単に死ねるとは思ってねぇよ」


『ハン、眷属共を見捨てるとは所詮貴様もそこまでの者よな』


「別に見捨ててはいないけどな。そっちこそ姉ちゃんいいのかよ?」


『ハン、我が使い魔は同格である姉者には手出しは出来ん』


「そうかい、そんじゃあやるからにはこっちも手加減無しでやらせてもらうぞ!」


『ほほう! 姉者を倒していい気になっているようだが、姉者は我らが地の竜のなかでは……』


「そういう御託は聞きあきた! さっさと掛かってこいや!」


 その瞬間赤竜の竜息波がダイゴを飲み込む。


 その余波は周囲のダイゴのいたビルを崩壊させていく。


「こっちだこっ……」


 転送でかわして赤竜の背後に現れたダイゴだったが尾の直撃を受けてそのまま別のビルに叩きつけられた。


「ぐはっ!?」


『ハン、貴様が瞬時に移動できるのは把握済みよ。現れる場所の魔素が一瞬乱れるのでな』


 これは『転送』によって移動する際に転送先に障害となるものが無いかをチェックする安全装置のような仕組みだ。


「へぇ、姉よりは随分と頭が回るようじゃねぇか」


 ガラガラと瓦礫を押しのけてダイゴが這いずり出てきた。


 絶対物理防御によって身体に損傷がない筈だが口の端から一筋血が流れる。


『ドンギヴは良いことを教えてくれた。干渉波動、あ奴の作り出したものは打ち消せても我のは無理のようだな』


「どうやら神の代行者と地の竜は同調出来る見てぇだな」


『神の代行者を語るなっ! 不届き者がぁ!』


 赤竜の周囲に無数の円錐形の礫が生成される。

 ソルディアナがカーンデリオの闘技場で見せた技だ。


『滅せよ!』


 その言葉と共に礫がダイゴに撃ち込まれる。


「ざっけんな! 『魔妄鏡守刑インザミラー』!!」


 ダイゴの周囲に瞬時に十数枚の鏡が現れ、礫を赤竜に向け跳ね返す。


「ガァオオオッ!?」


 ドスドスドスと自分の放った礫が身体に食い込み、赤竜は堪らずに吠えた。


「どうだい? 自分の攻撃のお味は?」


『グゥゥ……貴様……』


「さて、今度はこっちの番だな……」


 そう言うやダイゴは右手を開いて天にかざす。


「来いっ! ムサシ!」




 ――アーメルフジュバ市街


 地上では魔導法院から突如湧き出した竜人兵、竜人将とボーガベル軍の戦いが続いている。


「うりゃあっ!」


 疑似生物の巨大馬パトラッシュに踏み倒され、身動きの取れない竜人将の顔面にバルクボーラが突き刺さる。


「無愛想! 大事無いか!」


 竜人将の動きが止まったのを見てメアリアは脇で別の竜人将の胸にグリオベルエを突き込んだセネリに声を掛けた。


「あるものか! だがこいつら以前のとは桁違いに強い!」


「弟の方が強いのか、全く……」


 少し溜息をついたメアリアだが新手の竜人将が斬り掛かってくるのをバルクボーラで受け止める。


「くっ、これではご主人様の加勢に行けないではないか」


「それが狙いでしょう」


 その声と共に竜人将の身体に筋が入り、バラバラになる。


 背後に『静華』を構えたアレイシャがいた。


「恐らく我々をここに足止めしておくつもりみたいです」


「アレイシャ! 他はどうした?」


「北側は粗方片付きましたのでゴーレムに任せてます」


「南側はあの二人だが……」


「ウルマイヤさんがいるから大丈夫でしょう」


 そう言ったアレイシャに竜人将が斬り掛かろうとするが一瞬で細切れと化して吹き飛んだ。




 南側ではコルナとアルシュナが奮闘していた。


「百五十四!」


 コルナが数を数えながら竜人将を斬り飛ばす。


「百五十五!」


 アルシュナも数を数えながら竜人将を殴り飛ばしていた。


「ううー! なかなか終わらないなぁ!」


「まだまだ! 勝負はこれからです!」


 どうやら二人は討ち取った敵の数を競っているようだった。


 そこへ竜人将に率いられた百以上の竜人兵の一団が路地から出て来た。


「うへぇ、団体さんがやってきたぁ」


 コルナが嬉しそうにエネライグを構えると、


「コルナは休んでいて良いのです! 私が奥義『爆砕破エクスプローダー』で皆片付けるのです!」


 アルシュナがガンと『神の拳骨』を合わせ鳴らす。


「冗談! まだまだ負けないよ!」


 そう言い合う二人の頭上に影が差し、巨大な物体が眼前に降りた。

 ウルマイヤの機甲聖堂レミュクーンだ。


「神敵懲散! 『聖痕甲撃スティグマータバルカン』!!』


 レミュクーンの後部の柱から撃ちだされた魔導徹甲弾が次々と竜人将や竜人兵を屠っていく。


「あ……」


「ああ……」


 呆然と見ている二人の前であっという間に敵は木の葉のように舞い散りながら掃討されてしまった。


『お二人ともご無事ですねっ! それでは!』


 その声を残してレミュクーンは飛び去って行った。


『コルナ様、アルシュナ様。付近の敵勢力反応は無くなりました』


 セバスティアンの声が虚しく響く。


「はぁ……獲物がいなくなっちゃったよ……」


「あの邪乳神官……仕方ないです……河岸かしを変えるです」


 獲物を根こそぎかっ攫われた二人は気を取り直すと駆けだした。




 アーメルフジュバ上空に浮かぶ魔導戦艦ムサシから無数の光が降り注ぐ。

 威力のある主砲では無く副砲群が地上の竜人兵達を掃討していた。


 と、突如艦内の照明が赤に変わった。


「な! 何事ですの!?」


 初めての出来事にセイミアが辺りを見回す。


『マスターより最優先指令。本艦はこれより地中掘削モードに移行します。艦首螺旋回転式魔導衝角起動』


 ゴーレムであるムサシの声が響く。


「螺旋回転式魔導衝角!?」


 シェアリアが驚いた声を上げると同時に艦首の円錐型の風防が吹き飛び、中から巨大なドリルが出現した。

 複数のリングギアがトランスミッションのギアの様に重なり、更にはそのリングギアにも円錐状の小さなドリルが装着されるという、凶悪かつ暴力的な意匠を見せつけている。


『主砲塔格納、上部艦橋収納』


 その声と共に主砲や艦橋が内部に格納されていく。


『穿孔を開始します。乗員は衝撃に備えてください。』


 ムサシの巨体が急降下し魔導法院の建物に落下するように激突した。


「むっ無茶苦茶ですわっ!」


「どうやら細い縦孔に沿って潜行しているようですね」


 事実、ムサシはダイゴ達が降り、竜人兵達が這い上がってきた縦穴を竜人兵達を捲き潰しながら掘り進んでいた。


「クフュラ、貴女こんな時によくおちついてられるわね」


「あら、お兄様のなさることに間違いなど無いわ」


「全く……」


「抜ける……っ!?」


 流石のシェアリアも目の前の光景に息を飲んだ。



 赤竜が竜息弾を吐こうと口を開けたその時、鍾乳洞の天井がパラパラと崩れたかと思うと、次の瞬間、魔導戦艦ムサシが飛び出してきた。


 ブリッジにいたシェアリア達の目前には口を開けた状態の赤竜が迫る。


「ガギャアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ムサシの螺旋衝角が赤竜に激突し、その身体を抉っていく。


『主砲()ぇっ!』


 瞬時に状況判断したシェアリアの号令で、格納状態だった主砲がすばやくせり出すと赤竜目掛けて火を噴く。


『ゴッガアアアアアアアアッ』


 爆発の勢いでムサシと赤竜は弾け飛ぶように離れる。

 ムサシは崩し掛けた姿勢を、下に向いた衝角を回転させながらコマのように強引に安定させる。


「左舷主砲斉射! ぇっ!」


 即座に左舷十基三十門の主砲が火を噴く。

 主砲弾である魔導蓄積式徹甲弾は供給された魔法力を炸薬代わりにする方式で、竜の魔法防御すら打ち破る能力を持つ。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 次々と身に起こる爆発に赤竜は苦痛の雄叫びを上げた。


『おおお、おのれぃ!』


 それでもなお驚異的な速度で再生するや無数の礫を作り出し、ムサシに撃ち込んでいく。

 礫も炸裂式になっていて、ムサシの周囲、そして艦体で次々と爆ぜた。


「きゃあっ!」


 艦を震わす振動にクフュラが悲鳴を上げる。


「主砲照準! 位置指定! ぇっ!」


 地震のような揺れにも動じぬシェアリアの号令と共に再び主砲が火を噴く。

 同時に赤竜も礫を撃ち出した。


 ムサシの放った主砲弾は東京駅丸の内駅舎を圧し潰すように倒れていた赤竜の脇のビルを。

 赤竜の放った礫はムサシの脇にそびえる新宿のビルをそれぞれ打ち砕く。


「まさか……同じことを!」


 シェアリアの言葉の直後に砕けたビルがムサシに倒れ込む。

 その彼方ではやはり赤竜の頭上に崩壊したビルが倒れ込んできた。


「きゃあああっ!」


「ひゃあああっ!」


 ゴロゴロと雷鳴の轟きのような音が鍾乳洞に響き渡り、濛々たる土埃が周囲に巻き起こる。



 静寂に包まれたムサシの艦橋ブリッジ


「……みんな……大丈夫?」


「ええ……大丈夫ですわ」


「艦内、外装異常なし。ただ、瓦礫が被ってて……」


「この質量では自力で脱出できません~」


 メルシャがお手上げのポーズを取った。


 そこにズズンという地響きが響く。


「赤竜動き始めました!」


「……あれだけの瓦礫を跳ねのけるとは……」


「弟の方が強いみたいですね~」


「……くっ、主砲……いやいっそ爆雷魔導砲で……」


「駄目ですわシェアリア様、やみくもに撃ったら鍾乳洞を破壊しかねません。そうすればアーメルフジュバが陥没崩壊します」


「くっ……」


 シェアリアが歯噛みしたその時だった。


『みんな大丈夫だな?』


 ダイゴの念話が入ってきた。


『……ご主人様、こちらは大丈夫だけど身動きが取れない』


『分かった、もう少しだけ我慢してくれ』


『……分かった』


「……ご主人様には何か考えがあるらしい」


「何か嫌な予感がひしひしとしますわね」


「しますね~」


「だ、大丈夫ですよ。ご主人様なら……多分……」


 流石にクフュラも自信が多少無いようだった。



『頼みの綱の、空飛ぶ船もご覧の有様だな』


 ビルに圧し潰されるように埋もれたムサシを見た赤竜は『浮杖フロート』で浮かんでいるダイゴに勝ち誇るように念を送った。


「あのさぁ、色々勘違いしてるようだから言っておくが、別にムサシが切り札って訳じゃぁ無いんだよな?」


『ハン、負け惜しみを。ならば勿体ぶらずに出してみよ』


『良いんかい? 後悔するぞ?』


『構わぬ! 早く見せて見よ』


「はぁ、そんじゃあリクエストにお答えして……エルメリア!」


「はいっ!」


 ダイゴの声と共にエルメリアが胸元から紫の魔石を取り出し、中空に投げるやいなや透き通った声で高らかに叫ぶ。


「エルメリア・ボーガベルが命ず! 顕現せよ! 『伝説叛神オーディーン』!!!」


 直後魔石は光を放って姿を消し、浮かび上がった紫に光る魔方陣から巨大な足が、胴が、組んだ腕が現れていく。

 最後にバイザー状の顔を持つ頭部が現れた。


 そこに出現したのは全高百五十メルテにも及ぶ超巨大人型ゴーレムだった。

 姿は一般的なゴーレム兵にも似ているが細部の意匠や肩部の張り出しなどが大きく異なっている。


『こっ虚仮脅しを!』


 その様を呆然と見ていた赤竜が我に返って竜息を吐こうと口を開ける。

 だがその瞬間、ダッシュで一気に間合いを詰めた伝説叛神オーディーンの右ストレートが赤竜の頭部にめり込んだ。


「ゴガァッ!」


 短い悲鳴を上げながら殴り飛ばされた赤竜が次々とビルを薙ぎ倒していく。


『ニャン子!』


『はい……にゃ!』


 途端、ニャン子の意識が伝説叛神オーディーンと同調し、その巨体に似合わぬ後ろ回し蹴りを放つ。


 赤竜は辛うじてかわすが、すかさず右直打を喰らう。


「グゴォッ!」


 赤竜の態勢が崩れた所に再び高角度の後ろ回し蹴りが唸りをあげ、頭頂部を直撃する。


「ボゴォッ!」


 それはニャン子がまだハシュフィナと呼ばれていた頃、ワン子と対決した時に見せたコンビネーションだ。


『ワン子!』


『はいっ!』


 ダイゴの念に導かれ、瞬時にニャン子と入れ替わるようにワン子と同調した伝説叛神オーディーンが赤竜を蹴り上げる。


『オガァツ!』


 浮き上がった赤竜の首に伝説叛神オーディーンの足が絡み付き、仰け反るような形でへし折り、そのままビル群に叩きつけた。


『ゴアッ! アガッ! ガガッ!』


 首を明後日の方に向けながら崩壊したビル群の中でもがいていた赤竜だがやがてゆっくりと立ち上がった。


『お……おのれ……』


「どうだ? 今のお前と同じ方法で同調して操れるんだ。面白いだろ?」


 伝説叛神オーディーンの首筋の手すりに掴まったダイゴが笑った。


『ふ、ふざけるな!』


 怒りの念と共に赤竜が竜息波を吐き、伝説叛神オーディーンの周囲が爆発と共に巻き上がる。


 だが伝説叛神オーディーンは変わらぬ雄姿で屹立したままだ。


「お返しだ! スミ! ファム!』


『『はいっ!』』


 二人ががまるで鏡に映っているかのように両手を合わせ、意識を伝説叛神(オーディーン)と同調させる。


『『オールウェポン!』』


 その念を受けて伝説叛神オーディーン各部のウェポンハッチが開く。


「「オープンファイア!」」


 無数の魔導徹甲弾が全方位に撃ち出され、二人の誘導で複雑な軌道を描きながら赤竜に次々と叩き込まれていく。


「ガッ!? ガガッ! ガガガガガガガガアアアァァッ!」


 周囲のビルを突き崩しながら堪らずに倒れた赤竜になおも攻撃が撃ち込まれていく。


 やがて攻撃が止み、土埃が晴れると倒れていた赤竜がノロノロと立ち上がった。


『こ……この程度……何の痛痒も……感じぬわ!』


 言葉とは裏腹にかなりのダメージを受けているのは明らかだった。

 その証拠に再生が全く追い付いていない。


 それがソルディアナ戦で竜の対抗策を学んだダイゴの狙いだった。 


 赤竜が残された力をふり絞って竜息を吐こうとする。


「とどめだ! エルメリア!」


「はいっ! お覚悟を!」


 エルメリアの意識と同調した伝説叛神の単眼が眩く光る。


 一瞬にして間合いを詰めた衝撃波で付近のビルが崩壊していく。

 赤竜が気が付いた時には左腹部に拳がめり込んでいた。


「ガハッ」


 そこから無数の連撃が繰り出され、赤竜を叩きのめしていく。

 背後の都庁を模したビルに赤竜はめり込み、身動きが取れない。


 う……動けぬ! か、かわせぬ……! これは……!


「ゴガアアアアアァァァァァァァァァッ!!」


 赤竜の悲鳴のような咆哮が鍾乳洞を、アーメルフジュバを震わせた。


「これで終わりだ!」


 正拳突きの構えをとる伝説叛神オーディーンに、ソルディアナの想いが重なった。


 痴れ者が…………


唸りを上げて繰り出された拳が赤竜の腹部を抉る。


「ゴ……ガ……」


 背中から突き出た伝説叛神オーディーンの手には赤い球体が握られていた。

 赤竜の竜核だ。


 見る見るうちに赤竜の深紅の体色が濃い灰色に変色し、そのままザラザラと崩れていく。

 同時に伝説叛神オーディーンも活動限界時間を迎え、光の粒子となって消えていった。


 転送でエルメリア達の元に現れたダイゴの目の前に赤い竜核が落ちてきた。


 無数に亀裂が入り、中からドロドロの粘液に包まれた裸のルナプルトが竜核を押し広げながら出て来た。


「ダ……イ……ゴ……」


 ワン子とニャン子がダイゴの前に立とうとしたがダイゴはそれを制してルナプルトの方に歩いていく。


「ダ……ダイゴォォォォォッ!」


 雄叫びを上げたルナプルトが残った力をふり絞って左の拳を撃ち込む。

 ダイゴも無言で右の拳を繰り出す。

 二本の腕が交差した。


 ズゴッという鈍い音と共にダイゴの拳がルナプルトの左側面にめり込んだ。

 クロスカウンターだ。



「……せ……」


 崩れ落ちるのを堪えながらルナプルトが呟いた。


「ん?」


「かえ……せ……返して……くれ……」


「あ? 何をだよ」


「姉……者を……ソルディ……アナを……」


 その瞬間、ルナプルトの意識が流れ込んできた。


 恐らくはアルナヘリムだろう。

 泣いている小さなルナプルトの手を引き、三重の夕陽を背に歩いていくあまり変わっていないソルディアナ。


「……ああ、でもなぁ……返せって言われても」


「お前に……負けて……奴隷に……なったので……あろう? だから……」


「違うぞ、ルナプルト」


 何時の間にか脇にソルディアナが立っていた。


「確かに我はその様な約束をした。だがな、それ以前に我は……」


 思い出されるのは でのダイゴ達とした食事。

 数千年に渡り立った一人で大地を見守ってきたソルディアナの心を救ったのがダイゴだった。


「そんな……それでは……われは……なんの……為に」


 ドスンと仰向けに倒れたルナプルトにソルディアナが寄り添った。


「まったく……お主は何千年経とうと全く変わっておらんのう」


「あね……じゃ……われは……」


「よい……お主の気持ちは我が一番分かっておるわ」


「ご……ごめんよ……ごめん……あねじゃ」


 涙を流すルナプルトの髪を撫でるソルディアナ。


 それは確かに姉の顔だった。





「はぁ、どうやら全部終わったようだな」


 ムサシがエルメリアの召喚したサイクロプスの手を借りてようやく浮上した。

 その様子を確認したダイゴは手を組んで背伸びをしながら言った。


 地上の竜人将たちも粗方掃討されたようだった。


 メアリア達はカーペットでムサシの掘り開けた縦穴を降下してきている。


「ご主人様の世界の建物がすっかり壊れてしまいましたわ」


 エルメリアが周囲を見回し、残念そうに言った。

 煌びやかな虚構都市群はすっかり瓦礫の山と成り果てていた。


「ああ、いいんだよ。こんなもん無いに越したことはないんだ。人目に付けばどうせろくでもないことを企む輩がでてくるだろうからな」


 そう言えばドンギヴはどうした……


 そうダイゴが思った時だった。


「ご主人様! 後ろっ!」


 ワン子の叫びに振り返ったダイゴは自分のトラックが自分を目掛けて突っ込んで来るのを見た。


 運転席は無人。


 何だ? まさか戦闘の衝撃でサイドブレーキが外れた……?


 それとも元から掛かって無かった……?


 まぁでも死ぬことは……


 直後、バンという音と共に身体に衝撃が走り、ダイゴの体は宙に浮いた。


 ……あれ? 何で……?


 エルメリアやワン子達の悲鳴に混じってドンギヴの狂気に満ちた笑いも聞こえる。


 ……アイツ……何かやったのか……


 そのままダイゴの意識は闇に沈んでいった。

面白いと思った方は、ぜひブックマークと五つ星評価、いいねをよろしくお願いします。


次回はいよいよ最終回!

お楽しみに!

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