第百五十三話 陥落
――アーメルフジュバ正門前
法都周辺に広がる平原ではボーガベル軍と正門を護るストルプルド軍の衝突が続いていた。
「うおおおおおおっ!」
乱戦の中、巨大馬パトラッシュに跨がったメアリアの雄叫びがこだまする。
バルクボーラの一閃が鋼魔兵に食い込み、そのまま巨体を薙ぎ飛ばした。
だが鋼魔兵は次から次へと襲い掛かってくる。
『寝坊助、おかしいとは思わないか?』
すぐ近くでやはり鋼魔兵の魔石核を突き崩していたセネリから念話が飛んできた。
『ああ、竜人兵や竜人将がいないな』
竜人兵と竜人将は地の竜が生み出す使い魔の事だ。
竜人兵はゴーレム兵並みの強さがあり、竜人将は眷属に迫る能力を持っている。
『てっきり今出してくると思ってたのだが』
『そうか? 魔導防壁に安心しているだけじゃないのか?』
そう念を返しながらメアリアは鋼魔兵めがけバルクボーラを真っ向から振り下ろす。
魔石核まで打ち崩された鋼魔兵は力無く倒れた。
『しかし、ワン子達はまだか?』
アーメルフジュバ全体を包むように張り巡らされている魔導防壁とは別にこの正門には独立した魔導防壁が展開されている。
正門前のストルプルド軍が全滅したとしてもこの魔導防壁を解除しなければボーガベル軍は一歩も侵入する事は出来ない。
そのワン子達は念を送る余裕すらなかった。
「こいつら!」
二人は振り下ろされた剣をすれすれの所でかわす。
制御魔紋盤で待ち受けていたのは深紅の竜人将が二体だった。
二人が部屋に入った瞬間に両手を変質させた剣で斬り掛かってきたのだ。
息もつかせぬ連続攻撃を寸ででかわす。
初手の攻撃を凌ぐや、二体の竜人将は制御魔紋盤の前に宙を飛んで戻ると余裕ありげに腕を組んで仁王立ちした。
「楽勝とは行かせてくれないようだ……にゃ」
そう言ってニャン子はクナイブレードを構える。
最初の動きだけでこの深紅の竜人将がソルディアナの物よりも高い能力を持つのが分かった。
「時間が無い……一気に決めます」
双短剣を構えたワン子が短く言うとニャン子が頷く。
直後二人が詠歌を詠う。
勇壮に、荘厳に。
それは相手に対する戦意と自身の誇りの歌。
二人の体が淡く光を帯びだした。
獣人の中でもごく稀にしか体得できない己が能力を飛躍的に高める秘技『獣化転換』。
瞬時にワン子とニャン子は左右に飛ぶ。
竜人将もそれを追って二手に飛ぶ。
ニャン子に横薙ぎの一閃が迫る。
「にゃっ!」
それを寸で避けるがすかさず突きが繰り出される。
「にゃにゃっ!」
それを右の『平手』でいなす。
そこで死角から右足の指で持っていたクナイブレードを蹴り込む。
チィンと音がしてクナイブレードが弾かれた。
竜人将もまた足を剣に変質させたのだ。
「こぉんのぉ!」
ニャン子が振り下ろした左のクナイブレードを交差した竜人将の手刀が受ける。
瞬時に竜人兵の左足刀が振り上げられる。
だがその足刀が虚しく宙を突いた。
受けた手刀を支点にニャン子の身体が海老反りながらぐるんと回る。
足に持ったクナイブレードが振り下ろされ、竜人将の後頭部から口を突き破った。
竜人将の目が信じられないと言うが如く見開かれた後、グルリと裏返った。
その脇でワン子は四本の剣を捌き続けていた。
紙一重でかわすものの着ている侍女服にはかすりもしない。
あの時の兄上に比べれば……
今でも思い出す。
優しかった兄セルブロイ。
ドンギヴの魔水薬によって強制的に獣化させられた時の狂気に満ちた攻撃。
竜人将が右手の突きと左足の蹴りを同時に放つ。
そこから逆の二段攻撃を放つつもりだ。
だが竜人将はワン子の背中を見て一瞬動揺した。
ワン子は一回転するや雷速の後ろ浴びせ蹴りを放つ。
それは凄まじい勢いで竜人将を引き倒した。
次の瞬間、竜人将が反応できない驚異的な速さで竜人将は宙に蹴り上げられた。
何が起こったのか自分の判断が追い付かないうちに竜人将の首にワン子の足が絡み付き、その視界がゴギリという鈍い音と共に百八十度回った。
そのまま地面に竜人将は打ち付けられ、短い痙攣の後にとどめの短剣が頭に突き立てられ動かなくなった。
既にワン子の目は目前の制御魔紋盤に注がれている。
「どうやら間に合ったようですね」
「そうだ……にゃ」
直後、アーメルフジュバの都合五か所で鈍い音が響き、法都を覆っていた魔導防壁は消滅した。
「ワン子から連絡だ! 防壁解除! 防壁解除だ! 一気に押すぞ!」
念を受けたメアリアが高らかに叫ぶ。
一瞬にしてボーガベル軍がわっと湧いた。
「待ってたぜ! 『サルシャ』! アレを使う!」
『しかしマスター、まだ正門は開いておりません』
大型攻防一体剣『ブルファステ』に搭載された支援剣身『サルシャ』の幼さを残した女の声が響いた。
防壁は消滅したものの重厚な正門の前には未だに多くの鋼魔兵や魔導兵が護っている。
「そんなの呑気に待ってられるか! 今回こそ一番槍を付けるんだ!『レキュア』! 制御素子偏向! 出力最大!」
『了解、制御素子重加速モードへ、出力最大』
ガラノッサ専用に調整されたグレイガレイオンの制御支援インターフェース『レキュア』が即答し、グレイガレイオンの魔導素子が展開する。
「ガ、ガラノッサ候! 何をする気ですか!」
脇で雷撃で鋼魔兵を倒したリセリが慌てて駆け寄る。
「決まってる! あの門を俺がぶち破るのよ!」
「お、おやめください! ここはセネリ様に……」
「もう遅ぇ! 行け! 『レキュア」!」
『了解、チャージ』
言うやグレイガレイオンが吹き飛ぶように正門へ向かって行く。
「ガラノッサ! 全く!」
制御素子を全開にしてリセリが後を追う。
電光の速度で加速するグレイガレイオン。
周囲の景色が溶けるように流れていく。
全身の血が沸き立つような感覚の中、ガラノッサの視線の先、握った『ブルファステ』の柄に二人の女の手が添えられていく。
もはや再び握る事の叶わぬ懐かしい手。
レキュアよ! サルシャよ! 護ってくれよ……!
『ブルファステ』の魔石から青い光が迸り、グレイガレイオンを包んでいく。
「いっけえええええっ! 『電光吶喊』!!!』
あれは……!
グレイガレイオンを追ったリセリも確かに見た。
眩く輝く青の光芒の中、ガラノッサに寄り添う二人の女の姿を。
直後、待ち構えていた鋼魔兵や魔導兵を巻き込んだ大爆発が巻き起こる。
「うおっ!?」
その猛烈な爆風に同じく突っ込もうとしたセネリのハリュウヤが一回転して制動を掛けた。
脇を構わずリセリが駆け抜けていく。
「リセリ?」
煙のうっすらと晴れた正門は跡形もなくなっていた。
城壁はおろか脇の交易所の建物にまで巨大な円形の穴が開いたようになり、周囲に鋼魔兵の残骸や魔導兵だった者の一部が煙をあげて散乱している。
その先の広場にやはり巨大な穴が空き、その中にグレイガレイオンが煙を巻き上げながら膝をついていた。
「あっちちち……ちと強すぎたか?」
「ガラノッサ候!」
脇にリセリがふわりと降り立った。
「おう、リセリ。どうだ? ちゃんと門を打ち壊しただろ?」
兜を跳ね上げ、ニカッと子供のように笑いながらガラノッサが言った。
「どうだじゃありません! 御身は生身の身体なのですよ!? 何かあったらご主人様に申し訳が立ちません!」
「ははは! 心配してくれるのは嬉しいが、俺にはこのグレイガレイオンとブルファステがある。死になどせんよ。第一お前だって生身だろうが」
「そういう問題ではありません!」
「それよりも早く市街を制圧するんだろ? ここでのんびり油を売ってる暇はないぞ?」
「ガラノッサ候! あとは我々にお任せください!」
「駄目だ。 俺はこの戦いで大将に認めてもらわねばならん。お前だってそうだろ?」
「でっ、ですが!」
「いくぞ! 続け続け!」
ガラノッサは再び顔を兜で覆うと、市街に向かっていく。
「……もう」
「全く手間のかかる御仁だな」
何時の間にか脇にセネリが立っていた。その脇を遊撃騎士団の『戦乙女の羽衣』が駆けていく。
「もう! 姫様だけでも手が掛かるというのに!」
「なっ! お前……」
「何ですか?」
いぶかしそうに見るリセリにセネリは首を振った。
「いや、何でもない。行こう、御仁が何をしでかすか分かった物では無いぞ」
そう言うやセネリはハリュウヤの制御素子を展開してガラノッサの後を追うように飛ぶ。
「分かってます!」
そう、リセリにも分かっていた。
もし自分がダイゴと出会ってなければ、あるいは惹かれていたかもしれない。
……でもね、そういう事じゃないのよね……
あの時見たガラノッサを護るように寄り添う二人の女。
それはガラノッサの決意が生み出した残像なのだ。
リセリはフッと溜息をついて首を振ると、二人の後を追う。
その空には魔導輸送船から続々と薄紫色のゴーレム兵が降下し始めていた。
一方、ダイゴとエルメリア、ソルディアナ、それにクリュウガン夫妻達は既に魔導法院の中に侵入していた。
「驚いたね。暫く見ない間にこんなに様変わりしているとは……」
壮麗華美だった内装は全て剥がされ、殺風景且つ陰鬱な雰囲気が漂っていた。
「いいじゃないか。どうせこれを機に取り壊すつもりなんだ」
気楽そうにソミュアが言った。
「しかし、兵が一人もおらんとは一体……」
「ここまで来るとは思っていなかったのか、あるいは誘っているのか」
広大なホールの先に濃紺の外套を纏ったサダレオ・ララスティンが待ち構えていた。
「待っていたぞ! 逆賊供め!」
サダレオの怒声がホール一杯に鳴り響く。
「サダレオ、既にアーメルフジュバは我々が占拠したよ」
「ふん、それがどうした」
「分からないのかい? もう君は負けたんだ。大人しく……」
「はぁーっはっはっはっは! 愚かなり! ルーンドルファ!」
「……」
「やれやれ、とうとう耄碌しちまったかねぇ」
「ソミュアか。我が妹ながらそこの愚か者と逐電したララスティン家の恥さらしが」
「ああ、アンタのその魔術偏重主義に嫌気が差してね、母様の実家であるシネアポリンで母様の姓であるハガリオシュを名乗っていたのは事実さ。あ・に・う・え」
「やかましい! お前に兄呼ばわりされる謂れなど無いわ!」
「こっちだって願い下げさ! 実の妹を攫って犯すなんざ人の風上にもおけないよ!」
「え?」
「そういう事だよ、ダイゴ帝。サダレオもまた先代法皇センドリュネの子供だ。だが彼は魔導への傾注が深すぎた。彼は禁断の土魔法に手を出した挙句に様々な非人道的な行いをしてきたんだ。その一つがスミレイアとファムレイアだよ」
「そうよ、魔導を極めるには贄は必要。だが魔法立国であるシストムーラでは至極当然の事よ」
「どの道魔法力は私の方が上だった。結果法皇になる資格を失ったサダレオは魔導法院の院長になったのさ」
「そうよ! なのに貴様はその男を婿として法皇の地位をあっさりと譲った! これ程の私に対する侮辱があるか!」
「だからって何だいこの有様は。竜の力だの魔水薬だのに頼ろうとする。アンタのそういう所が駄目だって何で分からないのかねぇ」
「だだだだまれぇ!」
サダレオの逆立つ髪が噴火したように赤くなった。
「お前は何時も何時もそうやって人を見下す! 儂は兄だぞ! それを!」
「さっきは兄って言うなって言ったくせに。まぁ馬鹿な事をやりゃ兄だろうと諫めるのがきょうだいってもんじゃないのかね?」
「うるさい! ならば今ここで儂の力を見せてくれるわ!」
「いいだろうよ。正統な大魔導士の力、見せてあげようじゃないか」
「ダイゴ帝、ここはソミュアに任せてくれないか」
「でも良いのか? ああは言ってもあのジジイ相当にヤバいぞ」
「これはソミュアが願ってた事なんだ。ああは言ってても彼女も相当に悩み苦しんだ」
「まぁ……気持ちは分かるけど」
「何をごちゃごちゃ言っとるかぁ! なんなら法皇もニセ魔王もまとめて掛かってこい!」
「うわぁ、自信満々だなぁあのジジイ」
「いくよ! サダレオ! ――聖帝雷撃!」
瞬時に魔導杖を突き出したソミュアが雷撃を撃つ。
だがサダレオの外套がそれを拡散させる。
「へぇ……」
「うははははは! 喰らえ! ――緋王炎弾!!」
サダレオのかざした大型の魔導杖から多量の炎弾が撒き散らされる。
「うわっ!」
ソミュアは瞬時に聖盾を張ってこれをしのぐ。
「うはははは! 少しは歯ごたえがないとなぁ! ――凱王列雷!」
魔導杖から白雷が周囲に迸る。
「くうっ!」
「どうしたどうした! 大魔導士もすっかり古ぼけたようだなぁ」
「くっ……馬鹿を言ってんじゃないよ。――雷鳴王剣殺!!」
「なっ!? なんだぎはああああああっ!」
聞きなれない呪文に戸惑ったサダレオに青く輝く雷が直撃した。
「こちとら新たな呪文の開発には余念がなかったのさ! ――閃光雷撃衝!!」
サダレオの周囲を白い雷光が包む。
「ぎはあああああああっ!」
それはダイゴのそれぞれ『雷電』と『雷撃大王』を模してソミュアが作り出した魔法。
劣化とはいえダイゴの魔法を眷属でない人間が模した。
それが大魔導士であり、魔女の異名を持つソミュアの能力だった。
黒こげの状態になったサダレオが崩れ落ちた。
「うえっ?」
ソミュアが顔をしかめた。
不快な焦げた臭いの中、サダレオの身体が再生していく。
「やっぱり、コイツも……」
ダイゴが呟いた。
「ブフッ……ブフフフ……スバラシイ……実ニ……スバラシイ……」
「はぁ、本当に人間やめちまったようだねぇ」
溜息をつき、呆れ果てたようにソミュアが言った。
「ブハッ……ア……当たり前ダ……魔導ヲ……極める為ナラ……」
「そこまでして極めたいもんかねぇ? 魔法なんて所詮は鍋に水を足してかまどに火をくべる程度のもんじゃないか? 私だって料理の時はそうしてるよ?」
「魔導を冒涜するナ! ならばなぜお前は新たな魔法を創ったのだ!」
「決まってんじゃん。面白いからよ」
「な……」
「アンタの駄目な所はその気持ちに才能が追い付かなかったって事さ」
「おおおおおおおのえぇぇ! 何処までも虚仮にしおってぇぇ!」
「事実を指摘されて怒るのはまだまだ人間が出来てない証拠だよ。あ・に・う・え」
その瞬間サダレオの真っ赤だった髪が虹色に輝いた。
「うっきゃあああああああああああああああああああっ!! ――賢帝爆炎!!!」
サダレオの魔導杖から超巨大な火球が風船のように膨れ上がる。
「馬鹿が。 ――重縛鎖」
ソミュアが瞬時に出した五つの結界がサダレオを圧し潰すように取り囲む。
「むっ!? むおおおおおっ!? むおああああああああっ!」
結界内に封じ込められてなお火球は膨れ上がる。
ダイゴは一瞬昔テレビでお笑いタレントが電話ボックスの中で巨大風船を膨らませる罰ゲームを思い出した。
「おぼっ!」
そのサダレオの一言と共にまるでカメラのストロボの様に光を放った。
眩い閃光が収まった後にはサダレオの姿は跡形もなく消え失せていた。
「これでは流石に自力復活は無理じゃなぁ」
後ろで見ていたソルディアナが愉しそうに言った。
「皇帝陛下、お願いできるかねぇ?」
「あいよ」
サダレオがいた所を見ながらソミュアが言うとダイゴが紫の魔法陣を展開する。
「「再生』」
紫の光の中、サダレオの身体がみるみる再生していく。
「がはっ……何だ? どういう事だ」
服も燃え尽き素っ裸のサダレオがダイゴ達を見ながら狼狽えた声をあげる。
「君にはキチンと裁きを受けてもらうよ。サダレオ法院長」
毅然とした顔でルーンドルファが言った。
「ふ、ふざけるな! ――聖帝雷撃!」
激高したサダレオは魔導杖無しで魔法を放とうとする。
「あ? ――聖帝雷撃!」
だが呪文を唱えても何も起こらない。
「――聖帝雷撃! ――聖帝雷撃! ――聖帝雷撃! ……なぜだ!」
「ああ、復活の時に制限を掛けさせてもらったよ。アンタの魔力は最低値。勿論竜の血とかその辺も抜いておいた」
「な……なんだと……」
「今のアンタは……ただのジジイだ!」
「そ、そんな! そんな馬鹿な! 儂は! 儂は! 魔導の頂点! 大魔導士サダレオ・ララスティンだぞ! ――聖帝雷撃! ――聖帝雷撃! ――緋王炎弾! ――緋王炎弾! そ、そんな馬鹿な……――凱王烈雷! ――凱王烈雷!――凱王烈雷!!」
「無駄だ、無駄無駄。漫画じゃあるまいし何回叫んでも駄目なもんは駄目だよ。あきらめろん」
「煩い! 煩い煩い! ――獄鳥炎舞! ――獄鳥炎舞!! おのれえええ! ――賢帝爆炎! ――賢帝爆炎! ――賢帝爆炎んんんん!」
だが何も起こらない。
「がはあぁっ!」
逆立っていた髪がばさりと垂れ下がり、サダレオは膝を突いて項垂れたままブツブツと何かを呟いたまま動かなくなった。
「ご主人様!」
そこへワン子とニャン子、それにスミレイアとファムレイアが駆け込んできた。
「おう、無事魔導防壁は解除できたな」
「はい。今メアリア様たちが市内を制圧中で、コルナ様とアレイシャ様も合流しました。上空はシェアリア様のムサシが既に抑えてグラセノフ様が制圧指揮を取っています」
「よし、さて大詰めだ。いるんだろ? ドンギヴ」
不意にあげたダイゴの声に一同がハッとする。
「いやぁ、本当にダイゴ様には敵いませンなぁ、くわばらくわばら」
そう言って隅の柱の陰から奇抜な色の布を継ぎはぎした外套姿の男が滲み出て来た。
「あと残ってるのは赤竜とお前だけだ。どうするね?」
「いえいえ、私は非力な商人でございますし、赤竜帝陛下よりダイゴ様をお連れするよう仰せつかっておりますです」
「ほう、ではさっさと案内してもらおうか」
そう言ったのはソルディアナだ。
「これはこれは黒竜様。ではでは皆さまこちらへ」
そう言って恭しく手を差し出した先には薄暗い通路があった。
「あんなところにいつの間に……」
「陛下、申し訳ないがここから先は地の竜が相手だ。陛下たちは残っていて欲しいのですが」
驚きの声をあげたルーンドルファにダイゴが有無を言わせぬ口調で言った。
「……そうだね。足手纏いにしかならなさそうだ」
「護衛にゴーレム兵を呼んであります。サダレオを連れて宮殿の方へ」
「分かった。武運を祈ってるよ」
そう言ってルーンドルファはダイゴの手をがっしりと握った。
「お前達、しっかりダイゴ帝のお役に立つんだよ」
そう言ってソミュアが双子を抱きしめる。
「「はい! お母さま!!」」
姉妹は揃って声を上げた。
「それでは団体様ご案内~」
おどけた声で通路に消えたドンギヴを追ってダイゴ達も通路に消えていった。
面白いと思った方は、ぜひブックマークと五つ星評価、いいねをよろしくお願いします。
次回をお楽しみに!





