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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十二章 ストルプルド戦役編

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第百五十二話 決闘

 ――アーメルフジュバ北東部。


 その一角、魔導制御盤のある塔の前はおびただしい程の鮮血にまみれていた。

 まさに血の海。


 その血の海に漂流物が漂うがごとく寸断された魔導兵やスクラップ同然の鋼魔兵だったモノが散らばっている。


 その鮮血の海の中央でアレイシャは愛刀『静華』を腰だめに構え、目を閉じていた。


「シャシャシャギャアアアアアッ!」


 奇怪な声と共に血の海の一部が盛り上がり、人の形をした何かが踊り出してきた。


 この地に足を踏み入れたアレイシャの行動はまさに電光石火と言えた。

 瞬時に待ち構えていた鋼魔兵と魔導兵達に突っ込むや、血風吹き荒らすが如く切り刻み、瞬く間に奥に控えていたマシュカーンに辿り着くと、うむも言わせずバラバラに解体してしまった。


 だが既に薬液の注入を終えていたマシュカーンはこの海のなかで分離と結合を繰り返しながらアレイシャを襲っていた。


「オゴガァァァッ!」


 奇怪な声をあげながらデロデロとアレイシャの目前に血まみれの人型が立った。

 身体のいたる所に魔導兵の頭や腕、足が適当に接合されたおぞましい姿をしている。


 マシュカーンは己の血で死体を自在に操っているのだ。


「アグバババババァァ」


 声を上げて襲いかかろうとした人型は瞬時に細切れになって血の海に落ちるが、別の場所から新たな人型が涌き出てくる。


「ゴボバハハハァ……オノレガァァァァァッ!」


 マシュカーンの憤りが血の海に響く。


「……」


 アレイシャは無言。

 目で見るのでは無く、音でマシュカーンの動きを把握していた。


 突如アレイシャの両側から巨大な手が沸きだし、蚊を潰すようにアレイシャを潰そうと迫る。


 バズンという音と共に手が合わさるが、アレイシャは軽く跳び跳ねてそれをかわす。

 一陣の風が吹くと合わさった巨大な手が血飛沫を上げて崩れていく。


「オノレェ! チョコマカトォ!」


 ヌラヌラと血に塗れながらマシュカーンがようやく再生できた上半身を起こした。


 その目前に不意にアレイシャの姿が飛び込んできた。

 次の瞬間には血に染まったマシュカーンの首が高々と弾き飛び、それすらも切り刻もうとする風に鋼魔兵の残骸を巻き上げてマシュカーンは凌ぐ。


 アレイシャは決してマシュカーンの再生を許そうとしない。


 このままでは……。


 竜の血を飲んだといっても生命力は無限ではない。

 ましてや再生を繰り返して相当に損耗している。


「グノゴゴゴゴゴゴォォォォ!」


 マシュカーンは元の姿への再生を断念した。

 持てる力で周囲の魔導兵の死体や鋼魔兵の残骸との融合を試みる。


 察知したアレイシャが跳ぶ。


 再び巨大な手が阻むがすぐさま裁断される。

 だがマシュカーンにしてみればそれは囮だった。


「ガバッバッバババッ!」


 必死の勢いで融合した先程よりもさらに巨大な、手足と頭がやたらと大きな不格好な人型が身を起こした。


 やがて魔導兵の死体で作られた身体の表面を鋼魔兵の残骸が覆っていく。


「ゴボォォォ!」


 鋼魔兵の腕を指にした拳が猛然とした勢いでアレイシャに襲い掛かる。

 だがアレイシャは難なく避けて宙を舞った。


 そこで氷の様な瞳と鞘に収まっていた剣身がともに青白い光を放つ。


「天魔伏滅……『静剣サイレントソード』」


 直後にマシュカーンの偽りの身体に、脳に、無数の死の衝撃が走る。


「オ……ガ……」


 一瞬そう呻いたマシュカーンの人型が弾けるように崩れた。


 血しぶきが舞い、ガラガラと鋼魔兵の残骸が音を立てて崩れ散っていく。

 だが既にアレイシャはその様を見ようともせずに塔の中に入っていった。






 ――アーメルフジュバ南東部の魔導防壁制御塔


 スミレイアとファムレイアの目前、魔導制御盤のある塔を塞ぐように赤い外套を羽織ったカイシュハただ一人が立っていた。


「お前達が来ると思ってたよ」


 何時もの苛烈さが消え失せたように静かに言った。


「カイシュハ……」


「兵はいないのか?」


「……必要ない。どうせお前達相手では何人、何体いようが足手纏いだろう」


「私達を待っていたの?」


「ああ」


「別の者が来たらどうする気だったんだ?」


「覚えているか? 私達は初めてここで出会った」


 そう言ってカイシュハが指差した先に、ちいさな広場があった。


「ええ、忘れてなんかいないわ」


「私もあの時の事は忘れてはいない。だからお前達は必ずここに来ると思ったのだ」


「ねえ、カイシュハ。もうやめましょう。私達はあなたとは……」


「それだ」


「え?」


「お前のその言葉が……情けが……常に私を責め苛んでいたんだ」


「そんな……私は……」


「……だろうな……お前にそのつもりは無くてもお前の、お前達の言葉が、視線が……お前達自身が常に私を責め立てていたんだ。出来損ないと……」


「違う! それはサダレオが!」


「お爺様を呼び捨てにするな! お爺様は偉大なお方だ。魔導の精髄を突き詰め、奥義を極めようとなさっているもっとも魔導の真理に近いお方だ。そのお方のお力の一端になれるならこの身がどうなろうと惜しくはない」


「カイシュハ……」


「なのにお前達は……いや、ルーンドルファとソミュア達も……なぜお爺様の理想に理解を示さぬ」


「人としての道を外れているからだ」

 

 スミレイアが毅然と断言する。


「なんだと?」


「二つに分かたれて産まれた私達はその葛藤の中で生きてきた。溢れる魔力も読み取る力も何の自慢にもなりはしなかった」


「私達は再びお互いの足りないものがあるのは分かたれたせいだと思っていた。だから両親も恨みもしたわ」


「……」


「だが、ダイゴは……ご主人様はそれが当たり前だと言った。欠けてない人などいないとな」


「だから私達は救われたの。だからお願いカイシュハ」


「そうか……お前達は救われたんだな……」


「カイシュハ?」


「だが私には必要はない……お爺様の命に従いお爺様に仇為す者を討つ。今までも、そしてこれからもだ!」


 そう言ってカイシュハは外套を脱ぎ捨てた。


「「!」」


 姉妹はカイシュハの身に付けている鎧の異様さに目を見張った。

 全てが赤黒いそれは鎧の表面に無数の太い血管状の管が浮き出ていた。




 その首にはガイツ達と同じ首輪が嵌まっている。


「それは……」


「フン……元々はお爺様がお前達に使うつもりだった物だ。だがお前たちなどよりも私が使う方がよほど相応しい。見ろ!」


 そう言ったカイシュハの目が見開かれた。


「ファム!」


「え!?」


 瞬時に右手の魔石を輝かせながらファムレイアとの間合いを詰めたカイシュハが魔法を込めた拳を叩きつける。


「――聖帝雷撃!」


「ああうっ!」


 拳から迸った白光に瞬時に張った聖盾ごとファムレイアが吹き飛ばされる。


「ファ……!」


「――聖帝雷撃!」


 庇おうとしたスミレイアにも魔力のこもった足が叩き込まれ、弾き飛ばされた。


「ぐぅっ!」


 魔導防壁脇に倒れていたファムレイアの脇にスミレイアは叩きつけられる。


「どうした? それで終わりではないだろう?」


「え、詠唱が……」


「ああ、ほぼ無かった……」


「クックック……竜の力は詠唱をここまで短く出来る。もはや無詠唱には引けをとるまい」


 腰に手を当てたカイシュハが堪えきれぬように忍び笑いを発する。


「ファム……やるぞ……」


 立ち上がったスミレイアがファムレイアに声を掛ける。


「でも……」


「やるんだ! ダイゴの……ご主人様の言ったことを忘れたのか!」


「っ!」


 ファムレイアの脳裏にダイゴの言葉が蘇ってきた。



 ――数日前、アジュナ・ボーガベル内展望デッキ


「は? あの赤毛の子と?」


 双子二人掛かりのマッサージに締まりのない顔のままのダイゴが言った。


「ええ、カイシュハと決着を付けなければならないのは分かっています。でも……出来れば」


「ファムは優しいんだな。でもなぁ……」


「それではまるで私は優しくないみたいではないか」


 ダイゴの右胸に乗っていたファムレイアに並ぶようにスミレイアもダイゴの左胸に自分の胸を合わせた。


「そんな事は一言も言ってないし。スミはどうなんよ?」


「そうやってはぐらかす……私も思いは同じだ。だが竜の血を飲んだカイシュハとの戦いは避けられ……まい」


 肩甲骨から尻に向かってツツツと這っていくダイゴの人差し指に顔を赤くしながらもスミレイアは答えた。


「竜の血かぁ……参考になるかどうか分からんが、俺がソルディアナとやった時に一瞬繋がったんだよな」


「繋がった?」


「ああ、念だと思うんだけど、ソルディアナの、なんつーか心が流れて来たんだ」


「心が……」


「竜の血が濃ければもしかしたら繋がりやすいかもしれない。でも繋がったのはあくまでソルディアナが極限の時だった。だから可能性は低いと思うぞ」


「つまり、戦いの中でカイシュハが極限状態なら繋がるかもしれないと言う事か」


「そういう事。まぁ繋がったら頑張れ。あーファム、勝手に繋げるんじゃない」


「そうだ、今度は私の番だ」


 少し頬を膨らませてスミレイアが言った。






「分かった……やる」


 瞬時にファムレイアの顔つきが変わった。


「カイシュハ!」


 高らかに叫ぶと魔導杖を一旋する。


「――聖帝雷撃!」


 魔導杖に白光を纏わせると、カイシュハに向けて撃ち込む。


 だがカイシュハは難なく跳んでかわした。


「!」


 そこへスミレイアも合わせて跳んでいた。


「――聖帝雷撃!」


 白雷を纏った魔導杖が唸りをあげ、カイシュハに直撃する。

 だがカイシュハは逆に魔導杖を蹴り飛ばした。


「!」


「――緋王炎弾!」


 カイシュハの右手の魔石から吹き出た炎弾がスミレイアを弾く。


「――聖帝雷撃!」


 そこへ再びファムレイアが白光を纏わせた魔導杖を振るう。

 だがカイシュハは避けるでもなく左手で魔導杖を受け止めた。


 眩い雷光が二人を包む。


「――聖帝雷撃!」


 カイシュハがそう叫ぶや白光は更に広がった挙句にファムレイアもろとも弾け飛んだ。


「あうっ!」


「まさか本当にその程度なのか? どうやらとんだ買い被りだったようだな……」


 心底がっかりしたような声と共にベキバキと二本の魔導杖が折れる音が響いた。


「やはりお爺様の力は偉大だ……魔導の頂点と謳われたお前達を時代遅れの欠陥品にしてしまったのだからなぁ……クックックッ……アーハッハッハッハ!」


 カイシュハの忍び笑いは高らかな哄笑になって姉妹を打つ。


「さぁ! もう貴様らに用はない! ここでさっさと縊り殺して他のダニ共を捻りつぶしに行かねばならん! 死ね! ――凱王烈雷!」


 カイシュハの両手の魔石が凄まじい光を放つ。

 それは唱える事敵わずと言われた雷撃の上位呪文。


 狂気と狂喜に顔を歪めたカイシュハの放ったうねるような雷撃が姉妹を襲う。


「……っ! 『八芒守星陣オクタシールド』!」


 瞬時にファムレイアの右手に展開した紫の魔法陣が雷撃を霧散させた。


「何ぃ……」


 その虚を突いて再びスミレイアが跳んだ。

 その右手に黄色く光る魔法陣が浮かぶ。


「『雷電ライディーン』!!」


 迸り出た雷光がカイシュハに直撃し、流れ打つ。


「がっ!? ががっ!?」


 絶対的に魔法を遮蔽するはずの鎧が役に立たない。

 自身の皮膚が焼けるのと同時に再生する感触の中、今度はファムレイアが両腕に黄色の魔法陣を浮かべるのをカイシュハは見た。


「『雷撃大王エレキサンダー!!』」


 瞬時に自身の周囲が真っ白に染まる。


「がっあああああああっ!」


 雷の牢獄に身を焦がされながらカイシュハはシネアポリンの渓谷で姉妹が最後に放った魔法を思い出した。


 あれは……あれが……。


 無詠唱、そして光の魔法陣。

 それはダイゴが使って見せた未知の魔法。


 姉妹はあの魔法を易々と使いこなしている。


 そんな……。


 赤竜帝に身体を捧げた上にドンギヴの魔水薬のもたらす想像を絶する苦痛にも耐えた。

 それはひとえに魔導法院筆頭と次席だった姉妹を超え、名実ともに魔導士の頂点に立ち、サダレオに一言褒めて貰いたかったからだ。


 だが、一度掴みかけたそれは再び遥か彼方へ遠のこうとしている。


 まだだ……!


 カイシュハは歯噛みすると両手の魔石に魔力を送る。


「がぁぁぁぁっ! ――凱王列雷っ!」


 凄まじい破砕音と共に雷の牢獄が吹き飛ぶ。


「そんな! 自分の魔法で『雷撃大王』を弾いた!?」


「なんて奴だ……」


 驚愕する姉妹の目の前で肉の燻ぶる煙を立てながらゆっくりとカイシュハが立ち上がる。


「お前達……逃がさん……」


 姉妹はハッとした。

 そう言ったカイシュハの表情は余りにも寂しそうだったからだ。


「カイ……」


 カイシュハの首輪の魔石が赤く光を放つ。


「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!」


 ボゴボゴと泡を立てて首輪の周囲の透明管の薬液が注入され、カイシュハがこの世のモノとは思えぬ悲鳴をあげた。


「あ……ああ……あああああ! あががががががががぁ!」


 悶絶して身体を搔きむしるカイシュハに呼応するように、役目を終えた鎧が首輪と両手足の魔石を残してガラガラと解け落ち、服すらもむしり剥がしていく。


 だがその皮膚は赤く染まったかと思うと鎧のように硬質化していく。

 やがて顔も仮面のような物に覆われ、ぽっかりと開いた目の奥が赤黒く光った。


「あ……な……が!? ガガガガガァッ! ――獄鳥炎舞ゥ!」


 何か言おうとしたカイシュハのそれは炎撃最上位呪文になった。


 凄まじい火柱が姉妹を襲う。


「くっ!」


『八芒守星陣』を展開してこれを防ぐも、カイシュハは次々と炎撃を繰り出す。


 既に辺り一帯は火の海と化していた。


「ファム! このままでは!」


「分かってる! 分かってるけど!」


 アーメルフジュバに無用な被害を出したくは無かった。


 ファムレイアはキュっと唇を噛む。


「スミ! 援護して!」


「分かった!! ――躁舞火球!」


 瞬時に現れた六発の火弾が吸い込まれるようにカイシュハに直撃する。


「ガガガッ! ひ……ひぃあ……――凱王列雷ぃぃっ!」


 悶絶するように吐き出した呪文と共にカイシュハは豪雷を放つ。


「『魔妄鏡守刑インザミラー』!!」


 だが既にファムレイアが展開していた無数の鏡に全ての豪雷は反射加速されカイシュハ自身を打ちのめしていった。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 目もくらむ雷光の中、カイシュハの悲鳴が響き渡る。



 と、スミレイアとファムレイアの頭の中に何かが流れ込んできた。


『!?』


『これは……』



 濁流の中に子供が三人いる。

 黒髪と白髪、そして赤髪の小さな女の子。


『あれは……私達?』


 ……どうしたの?

 みんなが……お前の家は……だって

 私達の家も……だよ……

 ねぇ……一緒に遊ぼうよ……

 ……いいの?

 勿論……ね……スミ……

 ああ……



『これは……記憶? カイシュハの……』



 今日……何して……ぼうか……

 ……ハ、ここで何をしている……

 お……さま……きゃっ……

 やめ……カイ……に……ひどい……しないで……

 やめろ……きゃっ……

 スミ……いさま……やめて……



『そうだ……カイシュハの念だ……』



 ごめんなさい、ごめんなさい、お爺さま……許して……

 苦心して生み出したというのに……ええい! ……異能体としてあの様な体たらくのくせに……にもよってあ奴等とじゃれつくなど……この出来損ないが……!


『カイシュハ……』


 ……ハ! どうしたのそのかお……

 ……うるさい!

 きゃっ……!

 な……する……だ!

 お前達は……だ! もう私に……けるな!


『わたしには……なにもなかった……』


『カイシュハ?』


 何時の間にか裸の三人がそこに立っていた。


『父も……母も……いなかった……肉親は……お爺様だけ……羨ましかった……お前達が……』


『私達?』



 ちちうえ! 火弾が出来ました……!

 わたしも! 火弾が出来ました……!

 ほう、良く出来たね……

 えへへー……

 えへへー……


 カイシュハ! あの者達に出来る事がお前には出来んのか……!

 ごめんなさい、お爺様……


『魔法が出来た所で……お爺様は決して褒めてはくれなかった。だから私は更に高みを目指した……だが……結局……』


『お前は思い違いをしている』


『え?』


『私達もお前が羨ましかったんだ』


『そんな……どうしてだ? 私には何も無い。溢れる魔力も……魔法を読み取る能力も……』


『そんなものは私達には何ほどの物でも無いの。私達は人としてあなたが羨ましかったの』


『何故だ? 私は……』


『お前は私達にそれぞれ欠けている物をあわせ持っている。そう思っていたんだ』


『そんな! お前達だって……』


『ええ、あなたにとっては何でもない事が私達にはとても羨ましかった。そんなあなたが私達と遊んでくれたことはとてもうれしかったの』


 そう言ったファムレイアの脇を小さな三人が駆け抜けていく。

 転んでべそをかいたスミレイアにカイシュハは笑って手を差し伸べた。


『そんな……』


『カイシュハ……お前が羨んでいた私達は、実はそんな事にずっと囚われていた。そんなちっぽけな者だったのさ』


 スミレイアの言葉には答えずに、小さな頃の三人が遊ぶ残像をしばらく見ていたカイシュハがふと小さく笑った。


『……スミレイア、ファムレイア。私を殺してくれ』


『カイシュハ!?』


『何を!?』


『自分の拘っていたモノは幻だった。それが分かった。だがもうこの身体は元には戻れない。ならば……』


『待て! 今……』


『もう……意識が……消えかけて……るんだ……ごめん……』




「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 つんざくような悲鳴に二人は我に返った。

 己の雷光を跳ね受けたカイシュハの身に着けた魔石が眩い光を放つ。


「こ……ろ……ギィ……――賢……帝……」


 何かを言おうとしたカイシュハが呪文を紡ぎ始めた。

 だが必死に堪えているようでその詠唱は極めて遅い。


「賢帝爆炎だと! ここら一帯が皆吹き飛ぶぞ!」


「っ……! スミっ!」


 苦渋の表情でファムレイアが叫ぶ。

 逡巡する間など全く無かった。


「……爆……」


 姉妹が突き出した両腕から輝く赤い魔法陣が展開される。


「「『豪炎爆嵐ファイヤーストーム』」」!!


 直後大地に現れた赤い魔法陣から噴き上がった炎の渦がカイシュハを飲み込む。


「ガ……ア……ガアア……アア……」


 カイシュハの悲鳴は徐々に炎に掻き消され、やがて消えていった。

 同時に炎の渦も周りの炎を吸い込む様にして消え失せ、後には黒く煤けた焼け跡だけが残った。


「カイシュハ……今……確かに……」


 カイシュハの最後の念を受けたファムレイアはがくりと膝を突いてうなだれた。

 最後の最後で和解できた。

 だが……。


「ああ……行こう……まだ終わってはいないんだ」


 スミレイアがファムレイアを引き起こす。


 ファムレイアはただ頷き、二人は寄り添いながら塔へと向かって行った。

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次回をお楽しみに!

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