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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十二章 ストルプルド戦役編

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第百四十九話 大樹海海戦

――シネアポリンから五十キルレ離れた大樹海上空。


 六十隻の大艦隊が密集した陣形で空を進む。


 他の気嚢艦に比べ一回り大きな旗艦『デルバッシュ』に座乗するガイツ・ララスティンはその勇壮な眺めに満足そうな笑みを浮かべていた。


「作戦はまず屍竜を先行させ高高度よりシネアポリンを爆撃。そののち我が艦隊が鋼魔兵を降下させ制圧する」


「しかし、ボーガベルは既に屍竜を一体打ち負かしていますが……」


「ふん、流石に四体の屍竜相手ではいかなボーガベルとて太刀打ちできまいよ」


「我々はその後に悠々と占領するわけですね」


「そうだ。奴らの根城は爆撃対象から外してある。まぁ奴らは小便漏らして震えあがっているだろうがなぁ」


 愉快そうなガイツの言葉に艦橋に笑いが響く。


「将軍、前方に浮遊物体!」


「何?」


 ガイツは前方の窓に駆け寄る。


「何だアレは……」


 遥か彼方、シネアポリンを護るかの如く巨大な物体が浮いている。

 白亜の艦体に威風を誇る上部構造物。

 四方に伸びて宙を睨む砲塔群。


 ボーガベル最強の守護神、魔導戦艦ムサシ。

 その巨体が六十余りの気嚢艦を迎撃せんと立ち塞がっていた。


「将軍、後続の屍竜母艦に連絡しますか?」


 屍竜母艦とは、屍竜に対し起動命令を与える役目を持った気嚢艦の事だ。

 とは言っても航空母艦のように屍竜を格納するのではなく、通常は四体の屍竜にゴンドラ宜しく吊るされるような姿で随伴している。


「ふん、何でもかんでも屍竜任せでは味気ない。あの位気嚢艦で落として見せろ」


「ここからですと魔装砲の射程ギリギリですが」


「アレだけの図体なら目を瞑ってでも当てられるだろうが。構わん! 全艦に伝達! あのデカブツに魔装砲を集中させろ!」


「はっ! 全艦に伝達! 魔装砲全門発射用意! 目標! 前方の巨大艦!」


 気嚢艦隊は上下十五隻づつ四列の単横陣、いわゆるマルチ隊形を取った。

 通常の艦船と違い気嚢艦は前面に火力を集中させることが出来るからだ。


「全艦撃ち~かた~始め~!」


 六十隻の気嚢艦。その魔装砲が一斉に火を吹いた。

 一瞬の間の後、ムサシが猛烈な爆煙に包まれる。


「ハァーッハッハッハァ! どうだぁ! 元は自分達の魔法だった魔装砲弾の味はァ!」


 だが、爆煙が晴れて現れた全く無傷のムサシの姿にガイツは瞠目した。


「な、何だ? 当たらなかったのか?」


「い、いえ……大半は命中したはずですが……」


「ええい! 次弾……いや、撃って撃って撃ちまくれ! 落ちるまで砲撃を絶やすな!」


 ガイツは彼方で悠々と浮かぶムサシを睨みつけながら怒鳴った。




――魔導戦艦ムサシ艦橋


 待ち合わせ場所で合流したシェアリアとメルシャを連れたダイゴが艦橋に入ってきた。


「お待たせー」


「待ちくたびれて、敵の砲撃が始まってしまいましたわ」


 ダイゴの声に魔導受像盤越しに外を見ていたセイミアがつまらなさそうに言った。

 その間にシェアリアとメルシャが配置に着く。


「……すまない、メルシャが時間を掛け過ぎた」


「ええ〜! シェアリア様酷いです~」


 外では視界も霞むほどの爆煙が巻き上がっているが、ムサシの戦闘艦橋は僅かに振動するだけ。

 中の空気も緊迫というよりは和やかといった感じだ。


「うっわー! これがムサシかぁ! ボク初めてだよ!」


「凄い眺めです! というか何も見えないのです! 圧倒的です!」


 後から入ってきたコルナとアルシュナが歓声を上げながら窓にへばりついた。


「あら、アルシュナさんもいらしたので?」


 セイミアが珍しそうな顔を浮かべてダイゴに聞いた。

 予定ではデマジュルに置いてくるはずだったのだ。


「どーしても一緒に行きたいってな」


「はい! 眷属の末席に加えさせて頂いたからには粉骨砕身! 早速お役に立ってみせますです!」


 そう鼻息荒く言うアルシュナは昨日までの王女然とした礼装姿では無く、義国の闘礼装と呼ばれる何処となくチャイナドレスにも似た意匠の服を着ている。


 城の地下蔵で辛うじて焼け残ったものだ。


 髪もエルメリアに匹敵するくらいに豊かに流れていた翡翠色に輝く髪を三つ編みツインテにしている。


「まぁ出番があるかどうかは分からんが電車の子供みたいに窓にへばりつくのはやめてくれんかね」


「ほらぁ、ご主人様がああ言ってるんだからこっちに着てなよ」


「うう、仕方無いです……」


 コルナに言われて渋々アルシュナは後ろで目を瞑ってはいるが微かに笑みを浮かべたアレイシャの隣に並んだ。


「さて、それじゃ艦長、やってくれ」


 艦長席横に立ったダイゴがシェアリアに声を掛ける。


「……わかった」


 シェアリアが立ち上がると右手を前に突き出した。


「全艦戦闘態勢に移行、砲撃戦用意。前部主砲に魔導回路接続」


「了解、魔導回路接続、魔力供給開始」


「……どれを狙う?」


「あんな密集していれば適当に撃っても当たりましてよ?」


 射撃管制担当のセイミアが各砲塔に指示を与えながら言った。


「まぁ普通はもっと距離を取りそうなもんだが、まぁなんか意味があるんだろう。例えば距離を揃えて当たりやすくするとか」


「そうでしょうか?」


「まぁこっちには関係ないけどな。あの中央のちょっとデカい奴は残して置こう」


「了解です、各砲台に目標選択指示……完了」


「よし、砲撃……」


 つき出そうとしたダイゴの右手をシェアリアが抑えた。


「……私の台詞」


「ああ、すまんそれじゃ艦長」


「……コホン、炎砲フレイムキャノンぇーっ!」


 号令一下、前部三十六門の主砲が一斉に火を吹いた。


 伸びた火線は正確に目標の気嚢艦に直撃し、巨大な火球に変えた。

 弾け飛んだ気嚢艦の残骸が次々と他の気嚢艦に直撃し、たちまち火災を発生させる。


「『アゲンスブ』がこちらに!」


「よ、避けろ! 回避っ!」


「ま、間に合い……うわああああっ!」


 コントロールを失った『アゲンスブ』がそのまま僚艦に衝突し、二艦はもつれ合うように墜ちていく。


 周囲でも次々と同様の衝突が発生していた。


「四十八隻撃破、残存十二隻」


 クフュラが戦況を淡々と報告する。


「なぁんか呆気無いなぁ、ってか巻き込まれた奴多過ぎだろ」


「……仕方が無い。向こうの衝撃破弾とこっちの炎砲では威力が違いすぎる」


「何処の誰かは知らんがあそこまでに仕上げた技術力は評価するが、詰めが甘かったな」

 ダイゴが意地悪そうに笑った。



 ――旗艦デルバッシュ艦橋


 敵艦の一斉射で八割の気嚢艦が撃破され、艦橋内は大混乱に陥っていた。


「しょ、将軍! ご、ご指示を!」


「お、おのれ……し、屍竜をぶつけろ!」


 周囲の惨状に我を忘れて呆然としていたガイツだったが、副官の言葉に漸く我に返ると叫んだ。


「は、はっ」


 遥か後方にいる屍竜を四匹繋いだ気嚢艦に発光信号が送られ、繋がれていた屍竜が解き放たれた。


 四匹の屍竜は高速で残存艦の間を抜けてムサシに迫る。




「屍竜四体! 来ます!」


 クフュラの張り詰めた声に艦橋内に緊張が走る。


「『炎砲』ぇーっ!」


 ほぼ同時に四体の屍竜が竜息弾を、ムサシが『炎砲』を放つ。

 両者の間に凄まじい爆発が巻き起こった。


「セイミア! 一匹づつで構わん! 確実に落とせ!」


「分かりましたわ! 照準合わせ!」


「撃ぇっ!」


 三十六門の炎砲が一匹の屍竜に集中する。

 竜息弾を吐こうとした屍竜は『炎砲』の直撃を受けてその巨躯を崩壊させていく。


 だが他の三体が放った竜息弾がムサシに襲い掛かった。


「うおぉぉっ!」


「きゃあっ!」


 シェアリアの張った魔導防壁に遮られたものの、凄まじい衝撃がムサシを震わせた。


「ぷぅっ、さすが三発も同時に喰らうと生きた心地がしないな」


「艦内損傷はありません」


 すぐにダメージチェックをしたクフュラの報告が入る。


「当然だ。すかさず反撃」


 そう言ったダイゴの視線の先で反撃の砲火が放たれ、次々と屍竜が粉みじんになっていった。




「し、屍竜四体目撃破されました……」


『デルバッシュ』の艦橋司令所は重苦しい雰囲気に包まれていた。


「ど……どういう事だ……』


 ガイツは呆然と呟いた。

 屍竜はストルプルドでは最強の『兵器』のはずだ。

 それが巨大とはいえ一隻の艦にいとも簡単に落とされた。


「ドンギヴめぇ……」


 ガイツの脳裏に屍竜の力を謳いあげるドンギヴの顔が浮かぶ。

 同時に怒りに満ちたサダレオ法院長の顔も。


「しょ、将軍……ご指示を……」


 副官にそう言われてガイツは我に返った。


「て、転……いや、残存艦を全てあの艦に突撃させろ」


「は? し、しかしそれは……」


 副官にはガイツの意図がすぐに分かった。

 他の艦を囮にするつもりだ。


「早くしろ!」


「は、はっ!」


 直ちに発光信号で全艦突撃の命令が伝達され、他の気嚢艦がゆっくりとムサシに向かっていく。


「よし……転進しろ」


「し、しかし……」


「聞こえなかったか! 転進しろ! モタモタするな!」


 思わず躊躇した副官にガイツは噛みつかんばかりに怒鳴った。




「中央の大型艦は転進しましたわ」


 ムサシの艦橋で敵艦体の動きを注視していたセイミアが声を挙げた。


「他の艦を囮に逃げるつもりか? そうはイカのなんとやらだ」


「残存艦、砲撃しつつこちらに向かってきます」


「よし、アイツは拿捕するが他は墜とせ」


「……了解」


「ねぇご主人様、勿論ボクも行っていいよね?」


 ダイゴの脇で戦況を見守ってたコルナが目を輝かせた。


「ああ、頼むぞ、後はワン子、とセネリ達か」


「まお……ご主人様! 私も行くです!」


 アルシュナがすかさず手を挙げた。


「アルシュナは今回は見てるだけって約束だよ? 大人しく留守番しててよ」


「とんでもないです! コルナが行くのなら当然私も行ってそれ以上の働きをまお……ご主人様にお見せするです!」


「何それ!? いいよ、じゃぁどっちが良い働きをするか勝負だ!」


「望むところです!」


 顔を密着させるようににらみ合うコルナとアルシュナ。


「あのねぇ君たち? なんですぐそう勝負にするかなぁ」


 ダイゴの困ったぼやきが艦橋内の苦笑いを誘っていた。




 そんなムサシの雰囲気とは対照的に必死の逃走を始めた『デルバッシュ』艦内は喧騒と混乱と殺気に満ち溢れていた。


「味方気嚢艦全て落とされました!」


「くっ……ええい! もっと速度を上げられんのか!」


「これで一杯です!」


「くうっ」


「巨大艦本艦を追尾してきます!」


「くそっ! 『アフリゲズ(屍竜母艦)』に足止めさせろ!」


「そ、それが『アフリゲズ(屍竜母艦)』は既に離脱して……」


「なんだとぉ!」


「敵艦はなおも接近中! 追い付かれます!」


「くそぉぉ! 魔装砲はどうしたぁ!」


 ガイツが怒鳴った瞬間、艦を振動が襲う。


「何だ! どうした!」


「上後部および左右後部の魔装砲が敵の攻撃で破壊されました!」


「なんだと! くそっ! 急速回頭! 全砲門開け!」


『デルバッシュ』は舵に当たる側面の魔導噴進器を全開にして急回頭を始めた。


 だが魔装砲が照準を合わせる前にムサシの機動砲台が正確にそれらを破壊していく。

『デルバッシュ』が回頭を終えた時には既に下部を除く全ての魔装砲が破壊されていた。


「上部及び側面魔装砲応答なし!」


「おおお……おのれ……」


 歯噛みするガイツの頭上にムサシの影が差す。


 不意に大音量の声が『デルバッシュ』に浴びせられた。


『アーアー、これより本艦は貴艦を拿捕する。大人しく従えば危害は加えない。言っておくが抵抗は無意味だ』


 全ての乗員が口を開けて頭上を見た。


「しょ、将軍……」


「冗談ではない……白兵戦だ。こうなったら逆にあの艦を乗っ取ってやる」


「しかし……」


「船倉の魔導兵を上げろ! 鋼魔兵も起動しろ! 急げ!」


「は、はっ!」


 遠くのシネアポリンの方に目を向ければ平穏そのもの。

 順調であればマシュカーン達の別動隊が突入し火の手が上がっているはずだった。


 だが今のガイツには最早任務の事など頭に無い。


「お前も行け! 接舷して来たら逆に乗り込め!」


「はっ!」


 副官に指示を出したガイツはちらと後部に目をやった。




 上部竜骨上の甲板に出た副官は上空に威圧するかの覆っている巨大艦の下部から扉が開き、そこから二つの人影が降ってくるのを見た。


「魔法……」


 攻撃をと言おうとしたが、その前に人影は激突する勢いで甲板に降りてきた。


「勇者コルナ見参!」


「義士アルシュナ参上!」


 コルナは聖剣エネライグを構え、アルシュナは大型のメリケンサックの様なものを両手の指に嵌めた。


 それは竜息で損傷していたのをダイゴに修復してもらった、バロルガッセの宝武具『神の拳骨(レゴイブティカ)』である。


「この船は我々ボーガベルが……えっと何だっけ」


「……胸と同じでオツムも足りないですか、撤収です、て・っ・しゅ・う」


「胸は関係ないじゃないか!」


「大有りです! そう母上が言ってたです!」


「それを言うなら接収だろう」


 後ろから遅れて降りてきたアレイシャが言った。


「え……」


「やーい、間違えてやんのー」


「に、似たようなもんです! 分からなかった奴に言われたくないです!」


 顔を赤くしたアルシュナが『神の拳骨』をガンと合わせた。


「と、とにかくこの船は接収する! 大人しくしろ!」


「ふざけるな! 一体何なんだお前達は!」


 二人のやり取りを聞いていた副官が激高して叫んだ。


「さっき言ったよ! 二度も言わせるな!」


「全くです!」


 人をくった二人の態度がますます副官を苛立たせる。


「くっ! 相手はたかだか三人だ! 取りおさえろ!」


 だが激高する裏で、瞬時に計算高い副官の脳裏に三人を人質に取る算段が出来上がっていた。

 副官の声を合図に、魔導短槍を構えた魔導兵たちが殺到する。


 だが。


 コルナのエネライグの一閃が数人の魔導兵を吹き飛ばし、アルシュナの突きと蹴りが瞬時に五人の魔導兵を打ち倒した。

 その後ろではアレイシャに襲い掛かった魔導兵が刹那血煙を上げて寸斬りに斬られていく。


 たちまち甲板上は魔導兵の骸で埋め尽くされていった。


「な……こ奴ら……」


 唖然とする副官の視界に漸く船倉から上がってきた鋼魔兵が見えた。

 思わずほっとした表情を副官は浮かべる。


「こいつらが鋼魔兵ですか! うおおおおぉぉ!」


 低い体勢でアルシュナが鋼魔兵に駆け寄ると跳躍して右の拳を振りかざした。


 馬鹿か……小娘が殴って壊せる鋼魔兵では無いわ……。


 副官が嗤おうとしたその時、アルシュナの右手に黄色く輝く魔法陣が展開された。


「『雷管デトネーター』!!」


 そう叫んだアルシュナが鋼魔兵に拳を打ち付けるや白い閃光が鋼魔兵から噴き出した。

 痙攣したかのように震えた鋼魔兵が煙を吹き上げて崩れ落ちる。


「流石まお……ご主人様に頂いた力です! 素晴らしいです!」


 右手を高々と掲げ、満足そうにしているアルシュナを別の鋼魔兵の槍剣が襲う。


「うりゃあっ!」


 コルナのエネライグがその鋼魔兵の腕を斬り飛ばした。


「駄目じゃないか! 敵はまだ一杯いるんだよ!」


 そう言って鋼魔兵の魔石核のある部分にエネライグを突き込む。

 鋼魔兵は宙をかきむしるような動作をして倒れた。


「後ろはコルナに任せてあるから気にしないです!」


 そう言ってアルシュナはコルナの後ろから迫ってきた鋼魔兵に『神の拳骨』を叩き込む。


「これでおあいこです!」


「全く!」


 コルナとアルシュナは一旦背中を合わせると同時に鋼魔兵めがけて跳ね飛ぶ。

 二人の剣と拳はみるみる鋼魔兵を屠っていった。


「そん……な……」


 副官はその光景を呆然と見ていたが、


「お前が指揮官か?」


 氷の様な声が後ろから響き、背筋をゾクリとさせながら振り返ると、そこには『静華』の柄に手を掛けたアレイシャが冷たく見つめていた。


「あ……わ、私は……ふふふ、副官で……」


「ならばすぐに戦闘を止めさせろ」


 アレイシャの言葉には有無を言わせぬ響きがこもっていた。

 逆らえば即彼女の背後の魔導兵の様に無残に寸断されるだろう。


「はひ……しぇ、しぇんとうちゅうし! やめろやめろぉ! やめれぇ! やめにゃいとしぬぅ!」


 副官は恐怖で失禁しながら叫んだ。


 その声に魔導兵たちはほっとしたように魔導槍剣を棄てたが、鋼魔兵は変わらず三人に向かってくる。


「あ、ああああ、あれは!」


 首と手をブンブン振りながら、必死で違うんですと言いたかったがうまく言葉が出ない。


「分かっている。お前達は動くな」


「ひゃ、ひゃはひぃ!」


 なおも漏らしながらガクガクと頷く副官を尻目にアレイシャは鋼魔兵目掛けて駆けて行く。


 命が助かった安心感にへたり込んだ副官の視界に、頭上のムサシから次々と降下してくる重装騎兵が見えた。

 リセリの率いる遊撃騎士団の面々だ。


『いいか、残存鋼魔兵の掃討と上部甲板の制圧が我々の任務だ。気を抜くなよ』


『了解』


 その後をセネリとワン子を従えたダイゴを乗せたカーペットが悠々と降下してきた。


「アルシュナすげぇなぁ、一撃で仕留めていたぞ」


 今も一撃で鋼魔兵を打ち倒していくアルシュナをみながらダイゴは感心する。


「格闘と魔法撃の組み合わせは素晴らしいですね」


 ワン子も同意する。


「格闘だけならワン子と比べてどうよ?」


「勿論」


 そう言ってワン子はにっこりと笑っただけだった。


『ご主人様、鋼魔兵の掃討と甲板の制圧完了しました。そこにいる者は副官だそうです』


 アレイシャからの念話が入る。


「よし、じゃあ中に入るぞ。アギダン・ボロン君、指揮官の所まで案内をしてくれ」


 ダイゴは脇でへたり込んでる男にステータスで読んだ名前で語りかけた。


「はへ? ど、どうして……」


「あー、細かい事は省略。ちゃっちゃと案内して」


「は、はひひぃっ!」


 とうに戦意など消し飛んでいたアギダンはへっぴり腰で自分が出て来た昇降口に入っていく。



「こ……ここが指揮所です」


 中にいた乗員たちはアギダン副官が青い顔をしながら入ってきたのをやはり青い顔をしながら見ていた。


「んんん? 指揮官がいないなぁ」


 アギダンの後、ワン子とセネリに続いて入ってきたダイゴが言った。


「は? ああ!? いや! こ、これは……おい! ガイツ将軍はどど、どうした!」


 ダイゴの言葉に恐怖を感じたアギダン副官はしどろもどろになりながら操舵手に訊いた。


「い、何時の間にかお、お姿が……」


 艦長らしき服を着た男が震えながら答えた。


「ああん? 逃げたか。ってかガイツってあのエルメリアと踊ってた奴か。何処へ行った?」


「は、ははははひぃっ! た、多分 最後部のききき気嚢艇かかか格納庫かと!」


「ふうん、じゃぁちょっと行ってくるか。ワン子とセネリはここを頼む」


「お一人で宜しいのですか?」


「聞くだけ野暮だよ」


 ワン子の問いにダイゴは手を振って後部へ歩いていった。




「えーっとなんだっけ? ズンズンズン~」


 そら歌を口ずさみながらダイゴは最後部へ進んでいく。


 と、通路の奥から魔導兵たちが魔導槍剣を構えて突撃してきた。


「成程、時間稼ぎか」


 ダイゴはそう呟くと右手を突き出し紫の魔法陣を展開させる。


「『頭脳衝撃システムクラッシュ』」


「ぽろっ……」


「ぺへぇっ……」


「ほへぇ……」


 魔法陣から発する紫の光を浴びた魔導兵は白目を向いてその場に倒れた。


「はいちょっと御免なさいよ」


 お気楽な声で魔導兵を踏み越え、最奥の部屋の扉の前に立った。


「『衝撃破弾ロックショック』」


 威力を最小に絞った衝撃波が分厚い扉をいとも簡単に吹き飛ばす。

 中に足を踏み入れたダイゴが見たのは槍剣を構える四体の鋼魔兵と、その奥でひきつった顔をしたガイツだった。


「よう、魔導法院第……四席だっけ?」


「じ、次席だ! 馬鹿にするな!」


「アーメルフジュバであんな簡単な陽動に引っかかる奴を馬鹿にして何が悪いってんだ」


「く、くうう!」


 偽のルーンドルファ法皇に引っ掛かり、みすみす本物の宮殿からの脱出を許すという苦い記憶が蘇ったガイツが歯噛みする。


「や、やれぇっ!」


 ガイツの叫びを合図に鋼魔兵の槍剣がダイゴに振り下ろされる。

 だがそれをするりとかわしたダイゴは紫の魔法陣を展開した左手を鋼魔兵にひたと当てた。


「『伝導極大負荷インフォメーション・オーバーロード』」


 鋼魔兵が痙攣するかのように振動し、崩れ落ちる。

 そこへ二体目が斬り込んでくるが右手の物差しに正確に魔石核を貫かれて停止する。

 さらに三体目と四体目が同時に斬り掛かろうとしている。


 その向こう側に気嚢艇に乗り込むガイツの姿が見えた。


 ダイゴは左手を前に突き出すと白い立体型魔法陣を展開する。


「『魔導砲ソーサリオ・キャノン』」


 直後に魔法陣から眩い閃光が放たれ、二体の鋼魔兵に直撃した。


「ぎゃああああああっ!」


 鋼魔兵は溶解しながらガイツの乗った気嚢艇にぶつかると、そのまま弾き飛ばされるように艦の外へと吹き飛ばされた。


「あがああああああああぁぁぁ……」


 鋼魔兵が盾代わりになって直撃は免れたものの、大きく損傷した気嚢艇は煙を拭いて分解しながら鋼魔兵の残骸と共に墜落していく。


「あれ、当たりが弱かったか? うーん、なんか探すのも面倒だからいいか」


 溶解して穴の開いたようになった気嚢艇格納庫から大樹海を見下ろしたダイゴはそう呟くと艦橋指令所の方へ引き返していった。

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次回をお楽しみに!

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