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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十二章 ストルプルド戦役編

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第百四十八話 竜の力

――気嚢艦隊旗艦『ハネルメ』



「まだ谷は抜けられんのか!」


 漸く身体が元通りになったマシュカーンが替えの服と対魔鎧を着けながら怒鳴った。


「あ、あと半アルワ程かと」


「将軍! 後方の爆発が止んだようです」


「そうか……」


 どうやらカイシュハは上手くやったらしい……。


 ならば残存艦を纏めてシネアポリンに辿り着かねば、爺さんに申し開きがたたん……。


 マシュカーンの焦る心には気嚢艦は酷く遅く感じられる。


 ゴン


 突如、軽い衝突音が響いた。


「何だ?」


「見張り所! 何か異常は?」


 マシュカーンの疑問に答えるべく、艦長が伝声管に声をかけた。


 だが返事が無い。


「おいっ! どうした! 答えろ!」


 直後ズズンという重い振動が艦体を震わせた。


「くっ……艦長、どうやら敵に取り付かれたようだ……白兵戦の用意だ」


「は、白兵戦! しかし……」


「グズグズするな! この艦も落とされたいのか!」


「は、はいっ!」


 慌てて艦長は伝声管に飛びつき、艦倉の魔導兵達に白兵戦を下命する。


 その時だった。


「へぇ~ここが艦橋ですか~おじゃましま~す」


 何とも似つかわしくない間延びした声が響き、後部出入口に二つの巨大な円盾を腕に持った少女が立っていた。


「な……何だ貴様……」


 そう言ったマシュカーンであったが、その顔には見覚えがあった。


「貴様……ボーガベルの……」


 そう、あの晩餐会にいたダイゴ皇帝の取り巻きの女達の一人だ。


「そうです~ボーガベルのメルシャと申します~」


「メルシャ!? オラシャントのメルシャか!」


「その通り~そういう貴方は確か下品兄弟の次男ですね~」


 メルシャはあくまでもにこやかに毒を吐く。


「ふざけるな! 俺は魔道法院第三席魔道士、マシュカーン・ララスティン将軍だ」


「あ~、地味めな人の自己紹介なんかどうでもいいので、この艦ちゃっちゃと落ちてもらいますね~」


「貴様、人をコケにしてるなよ」


 そう言うやマシュカーンは魔導槍を構えて呪文を詠唱する。


「――緋王炎弾!」


 だが炎弾はメルシャの持つ金の盾に当たると霧散して消えた。


「くっ、対魔盾か?」


「外れです~これはこうして~え~い!」


 メルシャの言葉と共に黄金色の円盾がほどけ、四匹の黄金の大蛇と化した。


 大蛇は天井と床に食い込むやジュルジュルと這い入って行く。


 直後に再び振動と共にゴオオオオンという不気味な音が艦中に響く。


「こ、これは……」


 マシュカーンは思い出した。


 オラシャントの王族は元々は海賊上がりであり、多数の海賊を平定して国を建てた。

 その王族は白兵戦を得意とし、黄金の蛇と化す盾で数多の船を沈めてきたという。


「か、掛かれぇ! コイツを殺せぇ!」


「は、ははっ!」


 マシュカーンの叫びと共に艦長以下艦橋の乗員達が一斉に懐の短剣を抜いてメルシャに飛び掛かる。


「あら~早く死にたいようですね~」


 メルシャの腕の金の輪がほどけた。

 ビュルルンという音と共に艦長と三人の首が飛び、床に転がる。


「逃げるのなら今のうちですよ~」


 微笑むメルシャの両腕から垂れた細い金の蛇がウネウネと蠢いて獲物を待っている。


「ふ、ふざけるな! やれ!」


 マシュカーンの声に押され、別の乗員達が破れかぶれの突撃を掛けるが、皆即座にバラバラに分断されて崩れ落ちる。


「おのれぇっ!」


 血の海と化した艦橋で、一人残ったマシュカーンが渾身の突きを繰り出した。


 カキンと硬質の音が響き、金色縛鎖が槍を弾き飛ばすがマシュカーンは素早く槍を回すと連撃を浴びせる。


「へぇ~」


「フハハハァ! どうだぁ! 赤竜帝様に頂いたこの力! 自ら固定して逃げ場のないお前がいつまで持ちこたえられ……」


「なるほど~、アナタ竜の血を飲みましたね~」


「な……」


 感心するようにメルシャがいとも簡単にネタバレをして、マシュカーンが絶句した。


「ならばこの~常人離れした身体能力も頷けますね~」


「き、貴様、何故それを……」


「でも~それだけじゃ~私には勝てませんよ~えいっ!」


 マシュカーンの問いには答えずメルシャは金色縛鎖を繰り出す。


 二匹の金の蛇はやはり繰り出されたマシュカーンの魔導槍をすり抜け、対魔紋の施された胸当てごとマシュカーンの胸を貫いた。


「アゴッ、オッ……」


 槍を構えた姿勢でマシュカーンは仰向けに倒れた。


「さて~」


 そう言ったメルシャの目が一瞬見開かれた。

 倒れたマシュカーンの胸の傷がブクブクと泡立っている。


「あらま~」


「フッフッフ、この力は知らなかったようだな」


 不気味な笑い声と共にマシュカーンが立ち上がった。

 その目が赤黒い光を帯びている。


「ウガオオオオオオオッ」


 雄たけびを上げてマシュカーンは先程に倍する速さで魔導槍を突き込む。


「はえ~これは~」


「ハァアッハアアアアア! まだまだ上がるぞぉぉぉぉぉっ!」


 キンキンキンという弾ける音が段々と高くなっていく。

 メルシャは受けの一方だ。


「ハハハハハァッ! 手一杯で声も出せんかぁ! これでぇ決まりだぁ!」


 勝利を確信した表情のマシュカーンが渾身の一撃をメルシャに叩き込む。


「あ? れ?」


 マシュカーンの視界が突如沈んだ。


 自分の手足が四本の金の大蛇に切断されている。


「ごめんなさい~わたし~あまりおしゃべりするの好きじゃないので~」


 そう言ったメルシャの周囲、気嚢艦の艦橋が次々と分割されずり落ちていく。


「が……な……」


「あなたの相手ばかりしてる訳にもいかないので~さよ~なら~」


 手を降るメルシャを乗せた気嚢艦が遠ざかっていく。


「ちっちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 頭と胴だけになったマシュカーンの絶叫と共に切断された気嚢艦の艦橋部分が落ちていく。


 直後旗艦『ハネルメ』もバラバラに分解するように崩壊していった。



「……時間かけすぎ」


 メルシャが飛び乗った浮遊台座上でシェアリアがボヤく。


「ごめん~」


 メルシャが手を合わせると両手の『メルクヮ・マヴァル』がガチンと音を立てた。


「……急ごう、時間がない」


 メルシャが見渡すと既に殆どの気嚢艦は落ちていた。

 彼女がマシュカーンと戦っている間、シェアリアが残りを落としていたのだ。


 視界の彼方で光と轟音が響く。


「スミちゃんとファムちゃん大丈夫かなぁ~」


「……問題ない。眷属になった二人が遅れを取る事は無い」


「そうですね~」


「……あるとしたら心の問題。でもそれは彼女たちが克服する事」


「うんうん~」


 二人を乗せた浮遊台座はシネアポリンに向け加速していった。







 二十隻いた気嚢艦隊だが、旗艦『ハネルメ』も沈み、残りは『アグラテズ』と『ガスノブ』の二隻だけになった。


 勿論気嚢艦にも対魔法呪紋が施されているが、シェアリアとクリュウガン姉妹の放つ魔法は呪紋の効果を易々と打ち破り、撃破されていった。


「ファム! 合わせろ!」


「はいっ!」


 目標である自分達を捕捉した『アグラテズ』から猛烈な集中砲火が浴びせられるが、二人の張る聖盾はそれを易々と弾き返す。

 肉薄する気嚢艦の結合部に狙いを定めると、二人は超高速圧縮呪紋を詠唱する。


「「――躁舞火球ファルム・ガーシャ!!」」


 炎弾の上位魔法である誘導炎弾が都合十二発撃ち出され、『アグラテズ』に次々に吸い込まれるや艦体は巨大な火の玉になって膨れ上がる。


「えっ!」


「なにっ!」


 その爆炎を抜けて何かが突っ込んできた。


 カイシュハの乗った気嚢艇だ。

 気嚢艇は浮遊台座をはじきとばし、そのまま近くの『ガスノブ』の上部に激突した。

 バランスを崩した浮遊台座も『ガスノブ』の上部に着底する。


「やはりお前達だったか! スミレイア! ファムレイア!」


『ガスノブ』の甲板上で残骸と化した気嚢艇から蹴破るようにカイシュハが現れるやクリュウガン姉妹に叫んだ。


「カイシュハ……」


「貴女……その姿は……」


 そのカイシュハは二人の知っているカイシュハでは無かった。


 髪は更に光を増すがごとく赤く輝き、瞳には心の憎しみと怒りを映すかの如く赤黒い光を帯びている。


 対魔呪紋を施した魔導服も、その下に着込んだ軽装鎧も全てが血のような赤。

 手に持った魔石入りの短槍ですら赤黒い色をしている。


「貴様たちを……貴様たちを屠る為だけに……私は赤竜帝にこの身を捧げ、新たな力を得たのだ!」


「なんですって……」


「まさか……」


「最早、貴様らに遅れなど絶対に取る事は無い! 貴様らはこの艦隊を奇襲したつもりだろうが、私にしてみれば貴様らをおびき寄せる餌も同然よ! そしてお前達はまんまとやってきた! 積年の恨み、今こそ晴らさせてもらうぞ!」


「カイシュハ! それは!」


「うるさい! ――緋王炎撃!」


 ほぼ一秒程の詠唱でカイシュハは両手の短槍から炎弾を放つ。


「!」


 反射的に聖盾を張ったクリュウガン姉妹が一瞬で炎に飲み込まれた。


「ほう……耐えたか。少しは腕を上げたようだな。そうでなくては積年の恨みを晴らす甲斐が無い」


「カイシュハ……貴女は……」


 ファムレイアの表情が悲しくゆがみ、スミレイアは唇を噛みしめる。


「今の私ならあの忌々しい魔導士も私に恥を掻かせてくれたあの皇帝にも負ける気はしない! 貴様らの骸を掲げてシネアポリンに入り、アイツらも皆殺しにしてくれる! ――聖帝雷撃!」


 槍剣が白光に輝き、無数の雷が姉妹を襲う。


「きゃあっ!」


「くっ!」


 瞬時に張った聖盾をも簡単に吹き崩され、その衝撃は姉妹をも弾き飛ばす。


「何だ、そこまでか? もう少し楽しませてくれると期待してたのだがな」


 カイシュハが残忍な笑みを浮かべつつ、吹き飛んだ姉妹を見下ろす。


「カイシュハ……どうして……」


「何時も言ってるだろう! お前達は私の……いや偉大なるサダレオ・ララスティンの敵だ!」


「そのサダレオは私達の父でもあるんだ!」


 スミレイアの言葉に僅かにカイシュハの目が広がった。


「だから……私達は……」


 だが、姉妹に聞こえてきたのは嘲りの笑い声だった。


「クックック……知っているさ……私もそうだからな」


「えっ?」


「私もそうだと言ったんだ! 知らされていなかったのかお前達は! とんだ間抜けだなぁ! アハハハハハハハ」


 愚者を嘲る笑いが気嚢艦に響く。


「カイシュハ……知っていて……」


「知っていてどうだと言うのだ! 義理の姉妹で抱き合って涙を流せとでも? ハン! 貴様らとなぞ真っ平御免だ! 虫唾が走る!」


 一気にまくしたてるとカイシュハは唾をペッと吐き捨てた。


「……」


「ならば尚更だ! お爺さまにとってお前達は汚点でしか無い! それを消し去るのが私の、偉大なる大魔道士サダレオ・ララスティンの真の子供である私の責務だ!」


「やっ、これは総司令官殿!」


 漸く『ガスノブ』の魔導兵達が甲板に上がってきた。


「お前達! そいつらをそこに転がってる箱に近寄らせるな!」


「は、ははっ!」


 カイシュハの命で魔導兵達は浮遊台座を取り囲む。


「此奴等は……ああっ、貴女方は……」


 クリュウガン姉妹の顔を見知っている魔導兵が声をあげた。


「余計なことは考えるな! 此奴等は魔道法院に楯突く裏切り者。私自らが討ち取る故お前達はただ見張っておれ!」


「は、ははっ!」


「どの道此奴等ではお前達には歯が立たんだろうからなぁ」


「カイシュハ……」


 なおも心配そうな顔をしたファムレイアの肩をスミレイアが掴んで首を振った。


「仕切り直しだ! 行くぞ!」


 カイシュハが双短槍を構えると呪文を詠唱しながら姉妹に向かって駆けだした。


「!」


「――緋王炎撃!」


 炎を纏った双短槍が振り下ろされる。

 二人は飛んで避けるが周囲が火炎に包まれた。


「はははぁっ!」


 まなじりを更に上げて嗤いながらカイシュハはスミレイアを見た。


「――聖帝雷撃ィ!」


 白光を帯びた双短槍がスミレイアに迫る。

 まともに受けるのはおろか掠っただけでも大ダメージを受けるのは必定。


 スミレイアが張った『聖盾』の虹色の光が受け止めるが一瞬で崩れ去り、その衝撃がスミレイアを弾き飛ばして気嚢艦の壁面に叩きつける。


「かっ……はっ……」


「ス、スミレイア様!」


 魔導法院筆頭だったころのスミレイアを知っている魔導兵が思わず声を掛けた。


「だ、大丈夫だ……お前達……今のうちに脱出し……」


「そこでコソコソと何をやっているかぁ! ――緋王炎撃!」


 数発の炎弾がスミレイアを襲う。


「っ!」


「ぎゃあああああっ!」


 スミレイアは聖盾を張るが、傍に居た魔導兵は巻き込まれて悲鳴を上げて消し飛んでいく。


「お前! 味方まで!」


「ふん! そこでコソコソお前と話をするような奴は敵も同然。死んで当たり前だろう? お前こそ何だ? いままで散々魔導兵を沢山乗せた気嚢艦を落として置いて? 目の前の敵はお友達とでも思っているのか? ハハハハハ! そうか、この期に及んでも私と仲良くしたいのか! なぁファムレイア?」


 燃え盛る甲板上のスミレイアから構わずにぐるりと身体を回して片膝をついて立ち上がろうとしたファムレイアに言葉を浴びせる。


「カイシュハ……」


「フン、お前は昔から何かとその憐れむような目で見て来たなぁ……本当に腹が立つ!」


「ち、違う! 憐れんでなんか……」


「何も違わない! 強者というのは弱者を見る時には憐みの情など持たなくてもそういう目を向けるものだ! 今の私のようになぁ!」


 カイシュハが跳躍し双短槍をかざす。


「――緋王炎撃!」


 炎を纏った二本の刃がファムレイアに降りかかる。


「!」


 キキンという音と共に素早く魔導杖を回しファムレイアがこれを弾く。


「何だと!?」


「カイシュハ!」


 後ろから駆けてきたスミレイアが魔導杖を振り上げる。


「チィッ!」


 カイシュハは高く飛んでこれをかわす。


「ファム! 合わせろ!」


 同時にスミレイアの声が響く。


「!」


 カイシュハの目に歌うような呪文を唱えながら、互いの魔導杖の魔石を重ねたスミレイアとファムレイアが映る。


「「――重縛鎖ヘビーチェーン!!」」


「が! おぉぉっ!?」


 カイシュハは後部の魔導推進器の基部まで弾き飛ばされ、そのまま身動きが取れなくなった。


「な……ん……だ……」


「無駄だ……屍竜を封じ込める力を二重に掛けたんだ。お前には破る事はかなわない」


 ファムレイアに肩を貸しながらスミレイアが言った。


「お……前には……だとぉ……ふ……ざけ……る……な……」


 口すら動かない状況でカイシュハは辛うじて喉だけで声を出す。


「こ……ん……な……もの……」


 間違ってもこいつらの魔法などに屈服したくない……!


 そうでなくては何の為に私は……!


 カイシュハの脳裏に『あの日』の事が蘇る。



――超竜煌輝帝国ストルプルド、帝都アーメルフジュバの魔導法院。


「あがあああああはぎゃああああああっ!」


「げおっ! おがああああああああっ!」


「おげげげげげげげぇえええええええっ!」


 ガイツ、マシュカーン、オゲラーの三人が床に転がりながら悲鳴を上げてのたうち回っている。


「こ……これは……」


「赤竜帝様のお血に特別製のお薬を足したものを直接身体に注入致しました。これによって身体能力は何と! 竜人将とほぼ同等、いやそれ以上! 魔力も魔力量もドンドンドン!」


 呆然とするカイシュハに脇でサダレオと一緒に見ていたドンギヴがひょうげながら答えた。


「まぁ、このように強烈な副反応が出るのがタマに傷ですがねぇ」


 そう言いつつもドンギヴは涎や涙を流してもがき苦しむ三人を楽しそうに見ていた。


「だずげでぇ! いだいぃぃいぃ! いだいよぉおおお! もういやだああああ!」


 三人の中で一番気丈なガイツですらまるで小さな子供の様に泣き叫びながら悶絶している。


「これを……私にも……」


「いえいえ、貴女には違うメニューが用意してありますです」


「めにゅー? なんだそれは?」


「これでございます」


 そう言ってドンギヴは白い布に包まれた親指ほどの大きさの透明な物体を恭しく取り出した。


「何だそれは?」


「これをそこに挿れた後に赤竜帝の寵をお受けなされませ」


 そう言ってドンギヴはカイシュハの股間を指さした。


「な!?」


 己が股間を指されてさしものカイシュハの頬に僅かに朱が刺した。


「それによって貴女様は今ガイツ殿達よりも更に上の赤竜帝のお力を得る事が出来るのです」


「上の……ちから……」


 その言葉にカイシュハの目が揺れる。


「はい、さすればその力、魔法力は最強! このドンギヴ請け負う事然りでございます」


「な、ならば……あの姉妹には……」


「到底貴女様には足元にも及びますまい」


 その言葉を聞いたカイシュハの目が妖しく光った。


「カイシュハよ、よもや断りはせぬな?」


 サダレオの声に、カイシュハは渡された物を握ると顔を上げた。


「勿論ですお爺様。このカイシュハ、魔導法院筆頭として喜んで赤竜帝陛下の寵をお受けになります。そして得た力は敬愛するお爺様、サダレオ法院長様の為に!」


「うむ、よくぞ言った。それでこそ我が孫……いやさ我が娘よ!」


 初めてサダレオが自分の娘と言った。


 その言葉にカイシュハの顔が初めて綻んだ。




「ぬあああああああああっ!」


 手足は全く動かせないが辛うじて魔導槍に魔力は注ぎ込めた。


「カイシュハ!?」


「あの状態で動けるのか!?」


 姉妹の驚く顔にカイシュハの唇が歪む。


 あの後の地獄の苦しみに比べれば……!


「ぐあ……あああああ! ――聖帝……雷撃ぃ!」


 途端、凄まじい放電の嵐が巻き起こり、カイシュハごと魔導推進器が弾き壊れていく。


「か、カイシュハ!」


 だが、直後に


「――緋王炎撃!!」


 その声と共に今度は爆炎が巻きあがる。


「!」


 その爆炎からカイシュハが火達磨になって躍り出た。


「『重縛鎖』を抜けただと!?」


 驚くスミレイアの前に着地するや短槍を振るう。


「あぁっ!」


「ぐっ!」


 姉妹の魔導杖が一閃で真っ二つに折られた。


「貴様らニ……貴様らニハ……遅れハ取ラン……!」


 声すらも別人のように変わり始めているカイシュハが必殺の呪文を唱えようとした。


「――賢帝爆……」


 その先にカイシュハが見たものは、寄り添い、並べた両掌から赤と黄の魔法陣を展開したスミレイアとファムレイアの姿。


 それは……あの皇帝の……。


「「『灼炎轟雷サンダーバーン』!!」」



 姉妹の両手の魔法陣から無詠唱で迸り出た赤と白の閃光がカイシュハを打った。


「げうっ!」


 短い悲鳴の後に白光と爆炎がカイシュハを包み、『ガスノブ』が大きく揺れた。


 黒い濛々とした煙が晴れた後には真っ黒に炭化し、口を開け。膝を着いたカイシュハがいた。


「カイシュハ……」


「待て、ファム」


 すぐにファムレイアが治癒魔法を使おうと駆け寄ろうとするが、スミレイアがそれを止めた。


「何で……あ……」


 カイシュハの目が赤黒く光を放ち、炭化した皮膚がウジュウジュと赤い粘膜状の液に覆われていく。


「こ……これは……」


「恐らく……竜の再生能力だ……」


「そんな……!」


「ガギャオオオオオオオオオオオッ!!」


 再生途中のカイシュハが吠えた。

 それはまるで竜の咆哮にも似ていた。


「何だ……」


「姉上! あれ!」


 ファムレイアは渓谷を高速で飛来する物体を指さした。


「屍竜!?」


「カイシュハが……呼んだ?」


 見る間に『ガスノブ』に近づいた屍竜はカイシュハを掴んで飛び上がった。


「オマエタチハ……カナラズ……ワタシガ……コロシテヤル……」


 屍竜の口からカイシュハの声が響いた。


「どういう事だ……」


「姉上!」


 屍竜の口がガバリと開き、光の玉が収束して生成されていく。


「「八芒守星陣オクタシールド!!」」


 二人の目の前に円に四角を二つ組み合わせた魔法陣が浮かぶ。


 直後屍竜が竜息を吐き、『ガスノブ』に直撃した。

 その勢いは渓谷の両岸をも崩壊させ、凄まじい爆発を巻き起こす。


 その爆炎を背に屍竜は飛び去って行った。

 

 やがて濛々たる土埃の中から浮遊台座に乗り、魔法陣を張ったクリュウガン姉妹が姿を見せた。


「逃げたか……」


 スミレイアが彼方に点になった屍竜を睨む。


「カイシュハ……人を捨ててまで……」


「それは……私達も同じだ……そして今もなお魔法という呪縛に囚われているんだ……私達も……カイシュハも……」


「……」


「行こう、まだ作戦は終わってない」


「ええ……でも、次にカイシュハと会った時は……」


「決着をつけるさ……我々の手で……」


 二人を乗せた浮遊台座はシェアリア達と同じくシネアポリンに向かって行った。

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次回をお楽しみに!

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