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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十二章 ストルプルド戦役編

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第百四十六話 衝突

 ――バロルガッセ南西


 その空をストルプルドの新鋭兵器、『バルテューゲ』級気嚢艦ニ十隻の艦隊が突き進む。


 その姿は船に似ず、また気球や飛行船などの類とも違う独特の形状をしていた。


 先端の衝角から上下左右に張りだした巨大な四本の竜骨には各二門の二連装砲が計八基十六門装備されている。


 また、下部船倉には兵士や聖魔兵の改良型である鋼魔兵を搭載することができる。

 竜骨内上部はバーブルーヌより摘出した気嚢が収められており、魔石による魔力の注入で浮上し、風魔法と火魔法を組み合わせた魔導噴進炉にて推力を得ていた。


 設計、制作した者がボーガベルの魔導船を参考にしたのはその意匠から容易に分かる。


 先頭を行く旗艦『リムクード』には魔導法院第四席魔導士にして新たに魔導将軍という地位に就いたオゲラー・ララスティンが乗っていた。


「ブッフッフ、何も知らないボーガベルの阿保共め、まんまとノコノコやって来たか」


 オゲラーは未だエルメリア達ダイゴの眷属に対する執着を捨ててはいない。


 クックック……あんなヒョロ皇帝なんぞに、あの女共は勿体ないわ……。


 この逞しく男らしいオゲラー様に犯されてこその価値というものよ……。


 そしてあの義国の小娘め……。


 オゲラーの脳裏に逃げられた義国のアルシュナ姫の透き通るような翡翠色の髪と瞳が浮かぶ。


 俺様の金剛棒を足蹴にしおって……。


 あの日、夜の帳が下りてもなおアルシュナは見つからず、サダレオ法院長による苛烈な叱責と折檻の予感に重い足取りで魔導法院に戻ったオゲラーに対し、サダレオ法院長は、


「そうか、ならばお前は気嚢艦隊でデマジュルに向かえ。ボーガベルは必ず現れる」


 そう命じただけだった。


 サダレオ法院長の命令は絶対。

 オゲラーは何の疑いも抱かず、艦隊を率いてデマジュルに向かったのだった。




「ええい! 辛抱たまらん! 鋼魔兵を降ろせ!」


 頭の中を駆け巡る女への欲望を抑えきれなくなったオゲラーが吠えた。


「し、しかしまだ予定地点では……」


「構わん! 今のこの俺様が負けるはずなど無いわ!」


 そう言ってオゲラーは自身の身を包む黒と紫の鎧をバンと叩いた。

 ドンギヴが提供したこの新式の魔導鎧は従来の物の対魔法防御性能に加え、攻撃の為の魔導力をも高める事が出来る。


 更に娼館にて散々女を嬲り魔力を極限まで高めてきたオゲラーは、己に敵う者などいないという自負に満ち溢れていた。


 ううう、は、早く、早くあの女どもを犯したいいいいいいっ……!


 頭の中はその事で一杯だが。


「はっ! 鋼魔兵投下開始! 各船に発光信号送れ!」


 気嚢艦が一斉に降下し、鋼魔兵を次々と投下していく。

 鋼魔兵は従来の聖魔兵に文字通り鎧を被せた様な姿をしている。


 全長は三メルテ程で鬼人族とほぼ同じ。

 特徴的な大型槍剣を持った姿は聖魔兵よりも遥かに強靭に見えた。


 頭部の意匠も、聖魔兵が単眼だったのに対し双眼となっている。

 その赤く光る双眼を揺らめかせながら二千体の鋼魔兵は日も落ちかけ、焼け野原になった王都外縁部に次々と降り立った。


 降下した鋼魔兵達は横隊で進軍を開始する。



「待っていたぞ!」


 突如鋼魔兵達に声が浴びせられた。


 瓦礫の上に重剣バルクボーラを突いたメアリアが屹立していた。


「お前らが新しい木偶人形か! どれ程の物か見せて貰おうか!」


 その後方にはゴーレム兵たちが鋼魔兵の進軍を阻むかの如くやはり横隊に並んでいる。


 総数鋼魔兵二千に対しゴーレム兵も二千。


 メアリアの声に全く動じないかの如く鋼魔兵は進軍の足を止めようとはしない。


「さてと、パトラッシュ!」


 メアリアの呼び声に応えるかの如く後方より巨大な白馬が躍り出るとメアリアはひらりと飛び乗り、重剣バルクボーラを構えた。


「おっとぉ、一人でなんか行かせないよ!」


 何時の間にかコルナが聖剣エネライグを担いで立っていた。


「私も同行させていただきます」


 その隣には葬魔刀『静華』を携えたアレイシャが佇んでいる。


「全く……あれ位私一人で十分だというのに。民の避難誘導はどうした?」


「それはウルマイヤとクフュラが第一軍を指揮してやっている。ご主人様はくれぐれも慢心と油断をするなとの事だ。寝坊助はその塊だからな」


 高機動型魔導甲冑『ハリュウヤ』に全身を包まれながらセネリが言った。


「な!? わ、私は慢心も油断もしてなどいないぞ! 今の今まで! 戦闘でも! いやさ平時においても!」


「閨で寝こけてしまってそのまま朝を迎えてぴぃぴぃ泣いていたのは何だ?」


「あ! アレは違う! 待っている間に……その……自分で……じゃない! こんなに眷属が沢山いるのが悪いんだ! 私は何も間違ってはいないぞ?」


「あのー、敵が来てるからボク先に行くよ?」


 痴話喧嘩になりかけているメアリアとセネリにコルナが声を掛けると二人の表情はハッとした物になった。


「こ、この話はまた後でだな! 不愛想」


「そうだな、今夜きっちり決着をつけねばならないな、寝坊助」


「「いくぞ!」」


 声を揃えた二人が鋼魔兵の群れに突撃していく。


「はぁ、あれで大の親友なんだからねぇ、不思議だよ」


「相棒とはそんなものでしょう」


 コルナのぼやきにアレイシャが柔らかく答えた。


「ボクの相棒は……何でもない」


『コルナ様、今このコルナ様の唯一無二の相棒である支援剣身セイバースティアンの事をお考えになられましたでしょうか? ならばこのセバスティアン、感動の余り剣の身なれど打ち震える思いで……』


 チラリとアレイシャを見たコルナだったが、割って入ったセバスティアンに苦い顔をする。


「あーはいはい、行くよ! セバスティアン! じゃあアレイシャ! ボクは右翼を! アレイシャは左翼を!」


「ええ、ご武運を」


「勇者コルナ! いっきまーす!」


 聖剣エネライグを抱えたコルナが右手の鋼魔兵めがけて駆けていく。


「本当に……」


 その姿を見送ったアレイシャは普段は見せない微笑みを浮かべて天を仰ぐ。


 復讐だけに生き、そしてそれを成し遂げた今もこうして戦いの中にいる。

 だが、あの頃の復讐だけだった自分はもういない。



『剣てさ……純粋すぎても駄目なんだよ』


 午睡の時、『静華』を抜いてまじまじと見ていたダイゴの声にアレイシャはうずめていた顔を起こした。


『そうなの……ですか?』


 ダイゴの指がアレイシャの艶めいた唇の端を撫ぜる。


『ああ、様々な強度、性質の鋼が寄り集まってしなやかで折れず、それでいて切れ味抜群の刀が出来るんだ』


 復讐だけの純粋な鋼でありたいと願い、実際復讐だけに生きてきたアレイシャはデレワイマスに敗北した時にその心もポッキリと折れてしまった。


 だが、今は……私の中には色々な思いがある。ご主人様への、そして皆への……。


 だから『静華』は無双の切れ味を見せるのだろう。


 瞑った目を開いたアレイシャの表情が一変した。


 それは主人に仇為す全ての物を、例え神であろうと魔であろうと躊躇いなく斬る冷酷な羅刹の顔。


「帝国刺客姫、アレイシャ・ガーグナタ……参る」


 そう呟くやアレイシャは『静華』の柄に手を掛けて駆けだしていく。




 未だに竜息の熱気が残る焼け野原をメアリアの乗った疑似生物馬であるパトラッシュが駆け抜けていく。


 何時もと変わらぬ、赤地の戦闘礼服の上には白い軽装鎧。

 手に持つ重剣バルクボーラは数多の敵を粉砕してきた。


「遅れるなよ! 寝坊助!」


 脇に高機動型魔導甲冑『ハリュウヤ』を纏ったセネリが並ぶ。


 何時もの、ボーガベルの、必勝の布陣だ。


 空を飛ぶ甲冑をうらやむ心が無い訳では無い。

 だが、どうにもメアリアは空が苦手だ。


 先日の屍竜との戦いでも結局彼女は魔導甲冑を装着できなかった。

 その時に震えながらうなだれていたメアリアにダイゴは手を差し伸べて、


「メアリアはメアリアの出来る事をやるのが良いんじゃないか」


 そう言ってダイゴのいた世界の戦車なる物と戦闘機なる物の映像を見せた。


 私は戦車だ……それで良いじゃないか……。


 目の前に鋼魔兵とやらの群れが迫る。


 さて、お手並み……。


 そう思ったメアリアの目前で、鋼魔兵達は手に持っている槍剣を妙な姿勢で構えた。


「なんだ?」


 思わずメアリアがそう口にしたが、あの構えは何処かで見た……。


 そう、戦車と飛行機の映像を見せられた時に一緒にいた兵士が持っていた、鉛の礫を撃ちだす『銃』というやつの構えだ……。


『飛べ!』


 咄嗟にパトラッシュに念を送り、パトラッシュが高々と跳ね飛ぶ。


 直後に鋼魔兵が構えた槍剣から火弾が撃ちだされた。


 あの鋼魔兵は魔法が使えるのか……!?


 ダイゴの作り出したゴーレム兵も火弾程度は使う事が出来るが、魔力消費が大きい為、一種類しか使えない。


 とても他国のゴーレムが使用出来る筈は無かった。


 だが、鋼魔兵達は次々と火弾を撃ちだしてくる。


『全員、敵は火弾を使ってくる! 注意してくれ!』


『分かった! ならば!』


 返事を返したセネリが槍剣グリオベルエを構えた。


「『雷電ライディーン』!!』」


 グリオベルエから迸り出た雷が鋼魔兵に直撃する。

 だが雷は鎧の表面で弾かれるように霧散した。


『ほう、対魔紋も相当手厚いようだな』


 感心したようなセネリの念話が飛び込んでくる。


『ならば……』


 メアリアとセネリが揃って突っ込む。

 火弾の一斉射が襲い掛かるが、パトラッシュの対魔紋を施された前面甲冑と装甲を前面展開させたハリュウヤが弾きながら鋼魔兵に肉薄する。


「うりゃああっ!」


 叫びと共にメアリアがバルクボーラを斬り下げる。


 そこへ鋼魔兵の突きが繰り出された。


「!」


 馬上で身を捻ったメアリアの剣は鋼魔兵の頭部に浅く弾かれた。


 反応も上がっているし、なにより……。


 自分たちのゴーレム兵にも言えることだが鋼魔兵には避ける、受けるといった守備の動作が無い。

 今も空いている部分に的確に剣を繰り出してきた。


 成程……聖魔兵とはひと味もふた味も違う……!


 メアリアは唇を舐めると手綱をクイと引く。


 その意を受けたパトラッシュが強烈な前蹴りをくれながら竿立ちになった。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 裂ぱくの気合を込めてバルクボーラが振り下ろされる。


 鈍い音を立てて真っ二つになった鋼魔兵が地に崩れ落ちた。


「見たかぁ!」


 左の拳を握りしめてメアリアが叫ぶと背後で白光が煌いた。


「『雷迅突アルディナラディルオ』!!」


 屍竜の表皮すら貫くハリュウヤの一閃には、火弾も対魔紋も関係なく鋼魔兵を貫き砕いていく。


「砕けぬ物ではない! いくぞ!」


「応!」


 ヒラリと身を翻しながら再び装甲を纏ったセネリの言葉にメアリアは凛とした顔で応える。


 お前は飛行機、私は戦車……良いな……。


 半身になった鋼魔兵の残骸をパトラッシュが蹴り飛ばし、他の鋼魔兵にブチ当てた。

 バランスを崩した鋼魔兵の胸にバルクボーラが突き立つ。

 先程真っ二つにした鋼魔兵を見て、ここに駆動用の魔石核がある事が分かった。

 あとはメアリアに取って造作もない事だ。



『胸の部分に魔石核があるぞ!』


 次々と迫る火弾を巧みに避けながら鋼魔兵達に近づいていたコルナにメアリアの念話が届いた。


「魔石核って?」


「鋼魔兵とやらを動かす魔紋を彫りこんだ魔石の事でございます。それを破壊すると鋼魔兵は動きを止めるようですな」


「それって……」


「左様でございます。わが軍のゴーレム兵やワテクシはより高度で格調の高い魔導核にて駆動しております。ハイ」


「じゃあさ、それを壊すと」


「勿論、いかなワテクシとて……ってコルナ様、何をお考えで?」


「ナニモカンガエテナイヨー、コワレルトシズカニナルカナーナンテー」


「ああ、なんと嘆かわしい。コルナ様に的確な指南を続けているこのワテクシを邪魔扱いするなど……」


「セバスティアン……」


 セバスティアンの嘆きを聞いたコルナが急に真顔になった。


「何でしょうかコルナ様、己の愚考を悔い改めました……」


「ゴメンネ……セバスティアン・ロケッター!」


 コルナは片手で謝るポーズをした直後、エネライグの剣身を鋼魔兵の群れに向かって撃ちだした。


 超音速で撃ちだされたエネライグの剣身は幾多の鋼魔兵を巻き込み、吹き飛ばし、粉砕していく。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスゥゥゥゥゥゥゥゥッ……」


 やや遅れてセバスティアンの悲鳴が剣身を追いかけていった。


「さってっと」


 遥か彼方でセバスティアンの落着に伴うであろう爆煙を確認したコルナは柄だけになったエネライグを軽く振ると残った魔石に魔力を込める。


「いっくよー! 『撃魂霊刀イレイザーブレイド』!!」


 瞬間、柄から迸り出た魔力が収束し、光を発する。


 コルナ目掛けて次々と炎弾が撃ち込まれるが、コルナはそれを弾き飛ばし、鋼魔兵を次々と溶断していく。


「へっへー、ナントカ核だけ狙うなんてまどろっこしい事してらんないよねー」


『コルナ様……酷いです……あんまりです……ヨヨヨ』


 そう言って斬りまくるコルナの脳裏にセバスティアンの恨みがましい念話が這い寄ってきた。


『ああ、セバスティアン、やっぱり無事だったね。お陰で敵を一杯やっつけられたよ』


『ほ、本当でございますか?』


『ホントホント、いあーやっぱセバスティアンはいざって時に頼りになるなぁ』


『いえいえ、このくらいの事はこの支援剣身セイバースティアンにとって朝飯前でございます』


『ウンウン、あとで回収するから待っててね!』


『畏まりました。お早いお越しをお待ちしております』


 念話が切れるとコルナは再びエネライグをかざして鋼魔兵に襲い掛かっていった。




 左翼では無数の鋼魔兵が手、足、首が離れた状態で転がっていた。

 そしてその数は爆発的に増えている。


 何れも『静華』の柄に手を掛けたままのアレイシャの『風剣』によるものだ。

 鋼魔兵の槍剣から炎弾が撃ち込まれるが、何れもアレイシャの周囲で弾き飛んで行く。


 槍剣で斬り掛かろうとする鋼魔兵も近づいた途端に手、足、首を分断されて地に崩れ落ちていく。


「ふぅっ」


 数の多さに辟易したアレイシャが、息をつくや『静華』を腰だめに構えた。

 そこに鋼魔兵が殺到する。


「静剣」


 静かにアレイシャが呟くや、『静華』を抜いた。


 蒼白く刀身とアレイシャの双眸がひかりの帯を作り、それが消えた。


 一回転したアレイシャが抜いた『静華』をパチンと収める。

 途端、周囲の鋼魔兵が胴から斬り落ちて崩れていく。


「……」


 アレイシャはそれを見るでもなく新たな鋼魔兵の群れに歩を進めていった。




「ど、どっどどどうどう、どどどうどういうこった……」


 二千もの鋼魔兵が呆気なく駆逐されていく。

 その様をオゲラーは信じられないといった表情で見ていた。


「は、話が違うじゃねぇか! 何だよこれは!」


 ドンギヴの話では鋼魔兵は決してボーガベルの魔法人形兵に勝るとも劣らずという触れ込みだった。

 だが実際には魔法人形どころかただの人にしか見えない女達にいい様に蹂躙されている。 


「くっそう! おい! 魔装砲を奴らに撃ち込め!」


「し、しかし! まだ鋼魔兵が……」


「知るか! あんな役立たず共! さっさと撃ち込め!」


「は、はっ! 魔装砲用意!」


 素早く発光信号が他の気嚢艦に送られ、六基十二門の魔装砲がメアリアたちのいる戦場に向けられる。


「撃ち~かた~始め!」


 副官の号令が響き、各船の魔装砲が一斉に火を噴いた。



「!」


 鋼魔兵の首を斬り飛ばしていたメアリアは彼方で何かが光ったのを見た。

 刹那、パトラッシュが甲高く嘶き竿立ちになった。


「お、おい!?」


 直後、凄まじい衝撃と共に視界が真っ黒になり、メアリアは宙に投げ出された。


 これは……まさか……。


 混濁する意識の中でメアリアは以前これと同じ衝撃を受けたのを思い出していた。


 確か……シェアリアの魔法……。


 シェアリアの魔法『衝撃破ロックショック』を実験と称して直撃を受けた事がある。


 そう思った直後、地面に叩きつけられた。

 どうやら吹き飛ばされたようだ。


 すぐに起き上がり、身体を確認する。

『絶対物理防御』を備えた身体に損傷は無かったが、流石に衝撃で頭がクラクラしている。

 威力はシェアリアの『衝撃破ロックショック』の比ではない。


「パトラッシュ! 無事か!?」


 ブルルッと嘶きが聞こえ振り返ると少し離れた所で煤まみれになったパトラッシュが身体を起こそうとしていた。


「パトラッシュ!」


 その声に引き上げられるようにパトラッシュは立ち上がった。


 もしこれが直撃であったなら、重戦車並みの強度を誇るパトラッシュといえども無傷ではいられなかっただろう。


 メアリアは安堵の息を漏らすとともに脳裏にセネリの


『油断と慢心』


 という言葉が脳裏に浮かんだ。


「危なくお前という相棒を失う所だった……」


 たてがみを撫でるとパトラッシュが短くいなないた。


『どうって事は無い』


 そんな声が聞こえたようだった。


「各兵散開しろ!」


 パトラッシュに跨ったメアリアが戦場に響く声を上げる。


 砲撃を続ける気嚢艦は徐々に遠ざかっていく。


「大丈夫か? 寝坊助」


 脇にフワリとセネリが降り立った。


「アイツらを追うんじゃないのか? 無愛想」


「そのつもりだったが、ご主人様に止められた」


「ご主人様が? 何故だ」


「アレが来てるそうだ」


「アレ? まさか……」


 既に砲撃は止んでいた。

 残された鋼魔兵はゴーレム兵に余さず駆逐されて壊滅し、自軍の損傷はほぼ無し。

 

 魔装砲の斉射は一度だけでメアリアに集中しただけであった。


 メアリアとセネリは西の沈みかけた夕日に消えていく気嚢艦隊を見つめていた。




「将軍! 追手がくる気配はありません!」


 船尾の見張りからの報告に一同は安堵の声を漏らす。


「糞っ! こんなことなら屍竜を持ってくれば良かった! 糞糞糞ぉ!」


 恐怖のあまり股間から別の物を漏らしていたオゲラーはいきり立って怒鳴った。


「しょ、将軍! ぜ、前方にや、山が!」


「なぁにぃ? 山だと? きちんと前を見て操舵せんか! このバカ者がぁ! さっさと回避せんか!」


 悪臭をまき散らしながらも若干余裕の出た声でオゲラーが怒鳴る。


「そ、そ、それが……転進した方向に……山が動いているのです!」


「はぁ? 何を馬鹿な事を言っているんだ貴様ぁ! たるむにも程があるぞ!」


 そう言って将軍席から前面の窓に歩み寄ったオゲラーは信じられない物を見た。


 目の前に巨大な壁がそそり立っている。


 左を振り向いても壁。

 右を振り向いても壁。

 上も下も壁。


 オゲラーはここに来てこれが自分の認識の埒外の物だという事に気が付いた。


「た……退避……退避しろぉ……早くぅ……」


 呆然としたままオゲラーが呻く。


「む、無理です! ま、間に合いません……ひゃあああっ!」


 操舵手が奇声を上げて後部に逃げていくのを皮切りに副官以下船橋の乗員がオゲラーを取り残して逃げていく。


「あ……あああ……あはは……あはぁ……」


 目前に迫る岩盤に一人船橋に残されたオゲラーはひきつった顔で呻くしかなかった。


 再びオゲラーの尻からブリバリという音と共に悪臭が漂せた直後、ベキバキと破砕音を響かせ、次々と気嚢艦は壁面に激突し砕け落ちていった。



 空中帝都ティティフ。


 全長十五キルレ、全幅二キルレ、全高五百メルテの浮かぶ超巨大都市ゴーレムは激突して来た物に対して何の損傷も無く、悠然と王都デマジュルに向かって行った。

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次回をお楽しみに!

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