第百四十四話 翡翠姫
その日、新たに二人の眷属が誕生した。
「は……あぁ……ぅ……」
「ふぁ……あぅ……」
スミレイアとファムレイアは今まで味わったことのない快感の嵐に晒され翻弄されていた。
ダイゴに付いていくと決めたその日。
決意を固めた二人はダイゴの寝所を訪れた。
邪な野望の犠牲になった女達。
その犠牲の上に成り立っていた二人の能力。
父母の苦衷。
そしてカイシュハに為すすべなく敗れた挫折感。
それでも尽きぬ魔法への渇望。
自分たちを掬い上げてくれた者。
様々な思いを胸に抱いて姉妹は言った。
「「私達を眷属にして下さい!」」
周りの女達は柔らかに見ているだけ。
「良いのか? 眷属になれば……」
眷属になれば人である事を放棄する事になる。
人としての人生、人としての幸せ。
シネアポリンに向かうアジュナ・ボーガベルの船中で姉妹がシェアリアに教えられた事実。
姉妹は揃って首を振った。
そして――
「ファム……」
「姉……上……」
「これ……からも……いっしょ……」
「ずっと……いっしょ……」
裸身のままひしと抱き合う新たな眷属を昇り始めた朝日が照らしていた。
――シストムーラ魔導皇国新法都シネアポリン
政変に伴いここ東南の街シネアポリンに法皇ルーンドルファが遷都を宣言して既に三ヶ月。
ダイゴ達ボーガベル帝国の面々もここにいた。
以前は領館だったエルジョヌス宮殿の広大な中庭で、呪文の詠唱と様々な呪文が飛び交う。
スミレイアとファムレイアがシェアリアを相手に魔法撃の訓練をしているのだ。
「――覇王炎弾!」
呪文を唱えたスミレイアの魔導杖から一メルテ程の火球が放たれる。
「――聖楯」
火球の標的であるシェアリアが素早く聖楯を張り、火球はパンという音と共に目前で弾けた。
「――聖帝雷撃!」
別方向からすかさずファムレイアの雷撃が飛ぶ。
「っ! ――聖盾!」
姉妹の連撃にすかさずシェアリアは二枚目の聖楯を張り、雷撃を弾いた。
「!」
「!」
姉妹の目と目が合う。
「「――重縛鎖!」」
二方向から放たれた力場がシェアリアにぶち当たる。
「……」
強力な重力場に捕らわれシェアリアの動きが止まった。
その機を逃さずに姉妹は肩を寄せて魔導杖を差し出した。
「――覇王炎弾!」
「――聖帝雷撃!」
同時に放たれた炎弾と雷撃がシェアリアを包む。
轟音を立てて炎が弾ける。
だがシェアリアには傷一つ付いてない。
「どうだ? 一撃入れたぞ!」
にもかかわらずスミレイアが満足そうな声を上げた。
「……うん、確かに上達した」
裾の火の粉を払いながらシェアリアが答える。
「やったわ姉上! シェアリア様から一本。漸く取れたわ!」
ファムレイアが嬉しそうにスミレイアの手を絡めながら言った。
「全くだな」
この三か月、眷属となった姉妹は必死に魔法の、特に実戦である魔法撃の研鑽に務めていた。
シェアリア曰く魔法撃とは言わば魔法による格闘のような物で超高速圧縮呪紋と大容量魔石を組み合わせた魔導杖による至近距離からの魔法格闘ともいうべき物だ。
昔、銃を至近距離で格闘武器さながらに取り回しながら相手を倒す武術を取り上げた映画があったが要はその魔法版。
魔法先進国であるシストムーラで提唱され研究されてきたようで、『呪符礼闘』もその魔法撃の一部であった。
シェアリアはすぐにそれに興味を持ち、以来毎日のように姉妹と三人で遅くまで研究と研鑽を重ねている。
「みなさーん! お茶が入りましたよー!」
ワン子と一緒に茶台車を押してきたウルマイヤが四方に良く通る澄んだ声を上げて手を振ると、彼方で乱取りをしていたメアリア、セネリ、コルナ、そしてアレイシャの四人が手を止めてこちらに向かってくる。
カランカランカラーン
「ん?」
辺りに響く鐘の音にダイゴが頭を持ち上げると管楽器の音も響いてきた。
見ればクフュラの奏でる笛の音と共に一台の色鮮やかな荷車がやってくる。
曳いているのは頭に拭き布を巻き、礼装の上に前掛け姿という出で立ちのエルメリアで、押しながら鐘を鳴らしているのはメルシャだ。
「なんだお前達? 失業後の再就職の予行演習か? はたまた胡散臭いチェーン店事業でも思いついたか?」
「ちぇーんてんじぎょうというのがよく分かりませんが、メルシャさんが新たに氷菓の移動販売を思いつきましたわ。その試験ですわ」
「やっぱ胡散臭いじゃないか、ええ? ゼニ子クン」
「ご主人様~これはいけますよ~。この辺の暑い地方では氷菓子が当たらない筈がありません~。これでガッポガッポと大儲けですわ~」
「そんなに上手くいくといいんだけどねぇ。で? この屋台には何があんの? まさかラーメンか? それとも冷やし中華か?」
「ずばり! 『あいすくりん』です~! 『あいすくりーむ』も考えたのですが、『なまくりーむ』よりも練乳の方が手軽に作れるので~」
「なるほどねぇ、うん、美味いわ」
差し出された器に盛られたアイスクリンを口に入れると、ダイゴは満足そうな声を上げる。
「あの……ぷ、ぷりんはございませんの?」
モジモジしながら聞いたセイミアにクフュラは銅の器を差し出す。
「はい、貴女用にちゃんと作って来たわ」
それを見たセイミアの相好が崩れる。
「はひゃあ、しゃしゅがクフュラ」
幸せそうにプリンをセイミアが口に運び始めた時、シェアリアとクリュウガン姉妹が戻って来た。
「ご主人様、如何でした?」
ヒルファから手拭布を受け取ったファムレイアが汗を拭きながら東屋の長椅子でアイスクリンを食べているダイゴに駆け寄って訊いた。
「うん、二人とも上達したなぁ。まぁ三か月も掛けりゃ上手くもなろうけど」
「まぁ、ご主人様は人をおだてるのが下手ですね」
少し頬を膨らませてファムレイアが言った。
「だが、まだまだだ。三か月も掛かってやっとここまでなのも事実だ」
熱い茶をすすりながらそう言ったスミレイアだったが、館から近づいてくる人影を見て表情を硬くした。
「随分と精が出るじゃないか。私達も頂こうか」
ソミュアとルーンドルファだった。
「是非どうぞ。ワン子」
「はい」
ワン子は茶台車から茶器を取り出し、慣れた手つきで茶と珈琲を入れ始める。
「父上、その後法院の動きは?」
素っ気なくスミレイアが訊く。
一応の和解はなったものの、未だに姉妹、特にスミレイアとルーンドルファ夫妻の間にはぎくしゃくした物が残ったままだ。
ダイゴの目には自分の実の親があのサダレオ法院長と知らされた時のスミレイアの嘆きが今でも焼きついている。
そしてそれを宥めるファムレイアの、まるで姉と妹が逆転した姿も。
「こちら側には全くないね。どうやら北に手一杯のようだが」
「全く……あの何だっけ? 良く分からない名前……えーっと」
「超竜煌輝帝国ストルプルド?」
「そうそう、そんなヘンテコリンな名前にするなんてサダレオも相当ヤキが回ったとみていいさね」
焼き菓子を一口頬張ったソミュアが呆れたように言って茶をすする。
アーメルフジュバを占拠したサダレオ率いる魔導法院は、直後に魔道法院についた北部八州に赤竜帝ルナプルトを頂く超竜煌輝帝国ストルプルドに改国を宣言。
南部六州のシストムーラと対峙することになったのだが、一向に仕掛けてこようとはしない。
「真っ先にここシネアポリンにくる物と思ってましたが……」
「まぁ屍竜を葬ったんだ。実力が分かっておいそれと手を出せないと思ってるんじゃないか?」
「そうでしょうか……」
心配するファムレイアに軽口を叩くダイゴだったが勿論、その言葉通りには思っていない。
実際三月もここに滞在しているのが何よりの証左で、それ以外にもガーグナタから余剰戦力を抽出してシネアポリンに回送してある。
『ご主人様』
ダイゴの頭に遠くアーメルフジュバで諜報活動をしているニャン子からの念話が入った。
『おう、どうしたニャン子』
『魔導法院に捕まった人を保護した……にゃ』
『捕まった?』
『何処かの国の……姫様みたい……にゃ』
ニャン子の若干低い念話が飛んできた。
――アーメルフジュバ。
超竜煌輝帝国ストルプルドとその名を変えてもアーメルフジュバ自体は殆ど変わる事も無く、市民の生活にも格段の変化は無かった。
だが宮殿や魔導法院周辺は魔導兵たちが物々しい警備を敷いている。
「弱った……にゃ」
かれこれ三月も経つというのにニャン子は法院の内部に入れずにいた。
理由はこの異常に物々しいまでの警備と建物自体に施された魔導防壁による結界のせいであった。
これによってニャン子はおろか偵察型疑似生物も侵入できずにいる。
まさにアリの子一匹通さぬ鉄壁の護りだった。
とはいえ何も成果が無い訳では無い。
宮殿、魔導法院そして魔導法学院法錬堂。
この一帯の地下深くには巨大な空洞があり、どうやらサダレオはそこに大量の人員と資材を投入しているようだった。
そこまでは判明したものの、そこで行き詰っていた。
「んにゃ?」
十台ほどの馬車の列が魔導法院に到着してニャン子は目を凝らした。
馬車からは魔導服を着た若い娘が次々と降ろされる。
脇で物欲しそうに眺めているのはオゲラー・ララスティンだ。
降りてきた女達はオゲラーの舌なめずりせんばかりの顔に嫌悪と恐怖の表情を向けながら魔導兵の魔導槍杖に追い立てられるように法院の門をくぐっていく。
「ん?」
馬車にまだ誰か残っているらしく、魔導兵が中を覗き込んで喚いている。
業を煮やしたのかオゲラーが中に入り込むと野太い悲鳴が響き、オゲラーが仰向けに倒れるように馬車から転がり落ちた。
そのオゲラーを踏み超えるように女が一人飛び出してきた。
まだ歳の頃は十五位。
髪と丸い瞳が透き通った翡翠色をした美しい娘だ。
両腕に枷を嵌められているにも関わらず娘は左右にいた魔導兵を蹴倒して、その場を駆け抜けていく。
股間を押さえたオゲラーが何か喚くと魔導兵たちは娘を追い始めた。
「ふうん、面白くなってきた……にゃ!」
ニャン子はそう言うや脇の建物の屋根にヒョイと登り、魔導兵たちの死角に入りながら娘を追った。
「!!」
翡翠色の娘の息が切れ始めた頃、脇から伸びてきた手に腕を取られ路地に引き込まれた。
「いゃむううぅ!」
叫ぼうとした瞬間口を塞がれる。
「おっと、大人しくするにゃ。悪いようにはしない……」
その瞬間、至近距離からの膝蹴りが死角から飛んできた。
「!」
辛うじてかわしたニャン子にその足が振り下ろされる。
この動き……!
それも僅かに捻ってかわすと別の足膝が飛んでくる。
この女……相当の体術使い……!
成程、オゲラーを伸した股間蹴りはともかく、兵士を倒した手並みは並のモノでは無かった。
同じ体術使いでもあるニャン子にはその実力の程が良く分かった。
でも……にゃ。
ふっと肩をつかんで背中に回ったニャン子は身体の一点を人差し指で押した。
「はぐっ!?」
それで娘の動きは止まってしまった。
「助けてやるんだから暴れるんじゃ無い……にゃ」
そう言ってニャン子は懐から魔導核を取り出し、魔力を込めて脇に投げる。
娘の目が丸くなった。
魔導核はみるみる娘の姿になっていく。
ご丁寧に手枷まで嵌っている。
娘はニャン子に片目を瞑ってみせると、路地に出て行く。
「あそこだ!」
「逃げても無駄だぞ!」
男たちの声が響き、遠ざかっていった。
「あ……あれ……」
娘が呆然としているのも無理はない。
一瞬で自分と同じ姿かたちの自分が現れたのだから。
「今のうち……にゃ。こっち来る……にゃ」
そう言ってニャン子は娘の手を引く。
娘は今度は大人しくついてきた。
股間を押さえて呻いていたオゲラーの前に魔導兵が戻って来た。
「どうした!」
「はっ! そ、それが途中で掻き消えるようにいなくなりまして」
「ばっかもーん! それで法院長に言い訳が立つかぁ! 見つけるまで戻ってくるなぁ!」
「ははっ!」
魔導兵たちは再び四方に散っていった。
「ぐっくうう! 爺さんの命令じゃなきゃ即刻犯してる所だが……くっそう! 娼館だ! 娼館に行くぞ!」
歯がゆい気持ちをぶちまけるかのように兵達を見送ったオゲラーが吠えた。
「? こ……ここは?」
ニャン子に目を瞑るように言われた娘が再び目を開けた途端驚きの声をあげた。
景色が一変していたからだ。
脇には見知らぬ黒衣黒髪の男がいる。
「魔法? でもこんな魔法……知らないです……」
「ここはシストムーラの新法都シネアポリンだ」
男が口を開いた。
「貴方は?」
「ダイゴ・マキシマ。東大陸のボーガベル帝国の皇帝をやっている」
「ダイゴ……ボーガベル……! ま、魔王……」
「あ、あのね……それはね……」
「魔王様!」
「サマ?」
そう言われたダイゴが唖然とする中、娘はその場にひれ伏した。
「ああ! 魔王様! お目に掛かれるのをどれ程待ち焦がれていたか!」
「はぁっ? ちょ! な! え……えええっ!?」
眷属はおろか、なりたてのクリュウガン姉妹まで疑惑の目でダイゴを見る。
「魔王様! 何卒! なにとぞ! 私共の国を! バロルガッセをお救いくださいです!」
「バロルガッセ?」
「「バロルガッセ!?」」
クリュウガン姉妹が声を揃えた。
「『義国』がどうしたというのだ!」
スミレイアが声を上げた。
「『義国』?」
「ご主人様、バロルガッセはこの大陸北方の大国で、通称『義国』と呼ばれているのです」
ファムレイアが素早く補足する。
「で、アンタはその義国の何なんだい」
「も、申し遅れました! 私、バロルガッセ第一王女、アルシュナ・セロイ・スマルフ・バロルガッセと申しますです!」
「ああ、やっぱお姫様なのね……で、一体どうしたのかなぁ?」
ドスドスと周囲から突き刺さる視線にめげずダイゴが苦笑いしながら訊いた。
「で! ではお助けいただけるのですか!?」
「いや、だからまずはどうしたのか説明してよ」
「あ、も、申し訳ございませんです! つい三日前の事です。わがバロルガッセの王都デマジュルがシストムーラの兵の強襲を受けたのです……」
「シストムーラ?」
「多分ストルプルドですわ」
脇で聞いていたセイミアが言った。
「でも義国は三大国の一つ。それが僅か三日で?」
「はい……魔王様! お願いです! どうか! どうか我が国をお救いくださいです! どうかです!」
再び鋭い視線がダイゴに次々と突き刺さる。
「ま、まぁ取り敢えず一旦落ち着こう?」
ワン子が椅子に座ったアルシュナにサネフという気持ちを落ち着かせる香りの茶を出した。
茶を飲んで幾分気持ちが落ち着いたらしく、アルシュナはポツポツと次第を語り始めた。
義と武を尊ぶ国バロルガッセ王国。
旧ガーグナタやシストムーラに次ぐ第三の規模を誇る三大国の一つである。
凡そ百年前、シストムーラで大量の魔導士が拉致されたいわゆる『大損害』の時に突如シストムーラ側に着いて参戦し、ガーグナタを撤退させた。
以来鎖国状態のシストムーラとは暗黙の不戦協定が結ばれていた筈だった。
三日前何の前触れもなく王都デマジュルに灰色の竜が現れた。
その吐く息で多くの家々が灰燼と化し、さらにその後現れた空飛ぶ船から降り立った鋼の鎧兵士達により、城は呆気なく陥落し、『義王』アネデイルは死亡。
アルシュナは捕らえられてアーメルフジュバに送られた。
「……そして機を見て逃げ出したところをこの方に助けて頂いたのです」
そう言ってアルシュナは頭の後ろで手を組んで得意そうにしてるニャン子を見た。
「なるほどねぇ……ところでアンタ、魔法は使えるのかい?」
「魔法ですか? た、多少は……」
「ご主人様、義国の『翡翠姫』と謳われたアルシュナ姫は文武に長け、我が国に魔法留学したこともあり、一流の使い手として名を馳せております」
「もしかして貴女ファムレイア? 魔導法院次席の魔導姫ファムレイア・クリュウガンですか?」
落ち着いて余裕の出たアルシュナが漸く目の前の白髪の女が自分の知っている顔だと気が付いた。
「はい、お久しぶりです。アルシュナ姫様。ですが今の私は魔導法院の者ではありません」
「では……」
「魔導法院は今はストルプルドを名乗っている。シストムーラは二つに割れているのだ」
「貴女は……」
「元魔導法院首席のスミレイア・クリュウガンだ」
「二つに……割れたのです?」
「ああ……サダレオ法院長の叛乱でな」
そう言った顔は苦渋と嫌悪に満ちている。
「サダレオ……」
「サダレオめ……またも母上にした仕打ちをしようと企んでいるのか……」
優れた魔導士を集め、己の子種を植え付けた上でそれを魔法によって分割し、魔法的に双子を作り出そうとする外道の行い。
クリュウガン姉妹が苦悩の果てに人をやめる事になった悪魔の所業を、今またサダレオは行おうとしている。
「爆撃と空挺か……」
ダイゴがポツリと考えこむように言った。
それはこの世界の戦い方ではない。
裏にドンギヴがいるのは間違いが無かった。
「やっぱり屍竜はまだいたか。複数いるとかなり厄介だな」
「そう数はおらんと思うぞ? 竜体を一から作るには半年は掛かるでな?」
ダイゴと同じ長椅子で大きな銅の器に入ったアイスクリンを掻き貪りながらソルディアナが言った。
「あんなもんが何百もいてみろ。それこそこの星が終わるぞ」
ソルディアナ本人は否定しているが、東大陸統一を成し遂げた国が黒竜によって一夜で灰燼に帰し滅亡したという伝承もある位だ。
実際屍竜一匹の竜息で西大陸第三の国は呆気なく灰燼に帰してしまった。
「屍竜を倒してまだ三月、数は多くは無いものの複数いると考えるのが妥当ですわ」
セイミアの言葉に一同顔を曇らせダイゴを見る。
ただ一人、エルメリアだけが何時ものように笑顔のままだ。
「よし、ボーガベルは要請を受け、バロルガッセの支援に向かう。セイミア、クフュラ。必要な人員及び物資の準備と再配置。どの位でできる?」
「二日あれば十分かと」
即座にセイミアが答え、クフュラが頷いた。
「よし。準備出来次第出発だ。二人はここを任せたぞ?」
「「お任せください、ご主人様」」
クリュウガン姉妹が揃って返事をする。
「あ、あの……魔王様?」
「ああ、その魔王様ってのさ、何処で聞いたの?」
「は、はい……我が国に献上された薄い……」
「さぁさ、アルシュナ様? お身体をお風呂でお清めしましょうね、こちらですわ、おいそぎですわ」
「え? あ? あの? ひゃっ!?」
話途中のアルシュナは突然現れたエルメリアによってアイスクリンの屋台に為すすべなく押し込められ、瞬く間にアジュナ・ボーガベル方面に連れ去られていった。
「何だ……ありゃ……」
「恐ろしい手際……にゃ。拉致の玄人……にゃ」
ニャン子はそう呟いてダイゴと一緒に呆然と見送っていた。
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次回をお楽しみに!





