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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十一章 シストムーラ魔法争乱編

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第百四十話 突入

 ダイゴ達を乗せた大型馬車はアジュナ・ボーガベルが停泊している闘技練兵場に向けてひた走る。

 御者には相応の金をはずんで帰ってもらい、今はワン子が手綱を握っていた。


「さて、いい加減本当の所を話して貰おうか」


 ダイゴの言葉は目前のクリュウガン姉妹に有無を言わせぬ重みを持って迫る。

 周りの眷属も追随するかの視線を姉妹に送る。


「はい……私達姉妹は父であるルーンドルファと魔導法院、双方の指示で動いていました」


 思いつめた顔のファムレイアが口を開いた。


「双方? 全く別だった訳?」


「はい、ルーンドルファ法皇からはボーガベルとそれを取り巻く周辺国の実情の調査、そして、使者として陛下に接触、シストムーラに案内せよというものでした」


「同時に魔導法院からは今はボーガベル領となった旧エドラキム帝国領センデニオ近郊で起きた魔法によるとされる現象の調査を命じられた。それはファムレイアが『摩訶不思議奇術団』として現地に赴いたんだ」


「で、俺達を招待したと」


「同時に法院はボーガベルの魔法技術の調査を我々に命じた。ドンギヴを伴ってオラシャントを訪れたのもその為だった」


「あの空飛ぶ魔獣もそうか?」


「はい……皆さんの魔法を知る為に故意にバーブルーヌの生息域に誘導しました……申し訳ありません……」


「まぁそんな事だとは思ってたから良いけどねぇ……それで?」


「父、ルーンドルファから受けた命はあとは丁重に皆さまをおもてなしせよという事だけでした。ですが……魔導法院はそれに乗じて……」


「俺達を分断させるようにしてきたって事か」


「いざという時には女王陛下達を人質に取る算段でした」


「まぁ、エルメリア達が人質に取れるって考えてるなら随分と甘い目論見なんだけどなぁ」


「そ、それはどういう……」


「まぁおいおい分るよ。で、結局のところ二人はどういう目論見で双方の駒になって動いているのさ」


「それは……ひぅっ!」


 ファムレイアが言い淀んだ瞬間、強烈な殺気が姉妹に吹き付けられた。

 アレイシャの右手が『静華』の柄に伸びていく。


「私達はただ! ただ……父上と魔導法院を執り成したかっただけなんだ!」


 息を飲んだファムレイアを庇うように出たスミレイアの言葉にアレイシャの手が止まった。


「ほ……法皇である父と魔導法院の関係は最悪です。それは今に始まった事では無く、百年前の『大損害』の後、魔導法院が設立された時からの事でした」


「まぁ二重権力ってのは弊害があるよなぁ」


「積もり積もったそれはわが父とサダレオ法院長の代になりもはや即発の事態になっていました。そこに降って湧いたのが……」


「俺達ボーガベルだったと」


 姉妹は揃って頷いた。


「その話は父には交易所から、サダレオにはソロンテ神皇国の紹介でやってきたドンギヴ・エルカパスから流れてきました。私たちはどうにかダイゴ様を含め父もサダレオも納得できる形に納めたかったのですが……」


「結局……事態は更に悪化してしまった……まさか……本当に兵を挙げるとは……」


「そりゃぁ悪かった……と言いたいところだが、法皇の判断は間違ってはいないと思うぞ?」


「それはそうかも知れません。ですが魔導法院をないがしろにして話を進めればサダレオ法院長が強硬な姿勢に出るのは当然ではありませんか」


「でもアンタ達を使って俺達の魔法技術を調べたり、剽窃しようとするのはその範疇外だろ?」


「それは……私達がサダレオと交わした交換条件なのです」


「なんだそりゃ?」


「魔導法院の本来の目的はこの国の魔法技術の向上だ。我々が調べた貴国の魔法技術を法院に渡す事で父上との融和を図ろうとしたのだ……」


「つまりはアンタ達も俺達をダシにしようとしてた訳ね……全く」


 ダイゴが呆れるように手を振る。


「申し訳ありません……ですが、私たち姉妹は法皇の娘であり、魔導法院の魔導士筆頭と次席でもあるのです」


「つまりは板挟みって訳だ。まぁ大体分かった。で、さっきこの事態が予想外そうだったが」


「サダレオ法院長も武力行使は望まない、あくまで話し合いによって事態の収拾を図ると約束してくれました。それが……」


「何らかの事情で予定が変更になったか、はたまた最初からそんな気は無かったって事か」


「ダイゴ様、お願いがあります」


「ん? まぁた魔導法院の意向じゃないだろうな?」


「ち! 違います! 父を……法皇ルーンドルファを救い出しては頂けないでしょうか?」


「は? 俺にか? 法皇派の兵隊位いるだろ? 首都なんだから」


「それがいないのだ……いや、以前は宮殿護衛兵などはそうだったがサダレオの指示で皆左遷させられ魔導法院の息の掛かった者に置き換えられてしまっている」


「今、父の味方なのは身の回りの世話をする侍従が数名のみです。このままいけばサダレオは父の廃位を強行するでしょう……それは……」


 死を持ってという言葉は流石に姉妹は口にできなかった。


「アンタ達はどうなんだ?」


「私達は……魔導法院の魔導士……でもそれ以前に法皇ルーンドルファの娘です。父の命が危険に晒されているのを見過ごす訳にはいきません」


「ダイゴ様! 散々たばかっておきながらこの様な頼みが虫の良すぎる事は重々承知している! だが! 今は貴方しか頼る者がいない! だからどうか!」


「「お願いします!」」


 馬車の中でスミレイアとファムレイアが揃って頭を下げた。


「あー、狭いんだから無理に頭なんか下げんなよ。そんなの言われなくてもやるって」


「それでは……」


「もう昨日の段階で条約は締結された。そういや内外の危機の時はこれを支援するって条項があったっけ」


「では、宮殿に向かいますか?」


 外からワン子の声が掛かった。


「そうだなぁ……」


 宮殿には『転送』で行けるが、今の時点でクリュウガン姉妹に見せたくないしな……。


「なぁ、宮殿にこっそり忍び込める抜け道みたいなのは無いのか?」


「すみません、その様なものは……」


 ファムレイアの言葉にスミレイアも首を振る。


「流石にそう都合良くは行かないか」


『セイミア』


『はい、ご主人様』


 腕を組んで考えるフリをしたダイゴの送った念話にすかさずセイミアが応える。


『そっちはどうなってる?』


『今、ベルナディンに移動中です。周囲はシストムーラの兵達に取り囲まれておりますが問題はありませんわ。予定通り合流できます』


『少し予定変更だ。転送を使わない条件で宮殿にいる法皇陛下を救出したい』


『畏まりましたわ。こちらで脱出時に陽動を掛けます。そちらは二手に分かれて陽動と潜入で。こちらは陽動後そのままアジュナ・ボーガベルへ向かいます』


 そして細かい内容と作戦人員が指示される。

 セイミアにとってはこれも予め想定していた、取り得る選択肢の一つに過ぎなかった。


『随分と派手な陽動だが良いのか』


『既に開示されている情報と剽窃不可能なもので構成してますし、陽動は派手にやりませんとですわ。こちらは既に女王陛下がやる気満々ですわ。御武運を』


 セイミアの念話は少々困ったような色が含まれていた。

 ふとダイゴが脇を見ると作戦内容を聞いたウルマイヤも目を輝かせている。


「あくまでも陽動だからな……やり過ぎんなよ?」


「勿論です!」


 嬉しそうに返事をするウルマイヤを姉妹が不思議そうに見ていた。




 ――同時刻、ボーガベルの宿舎


 既にこの建物は多数の魔導兵によって包囲されていた。

 指揮を執るのはララスティン四兄弟の三男にして一番の巨漢のオゲラー・ララスティンだ。



「ま、まだ、爺さん……法院長から突撃命令は無いのか!」


 オゲラーが怒鳴った。

 もう既に二十回以上同じ質問を繰り返している。


「はっ! 未だに宮殿からは何も!」


 応える兵もいい加減ウンザリしているのだがおくびにも出さず答える。


「うぬうう! 早く! 早くっ!」


 中の女共を犯し尽くしたいっ!


 危うく出そうになったその言葉を、オゲラーはグビリと喉を鳴らして飲み込んだ。

 官舎の中にはあの女王を始めとして都合六人もの見目麗しい女達がいる。


 オゲラーの魔法の才はは平素は全く凡庸なものであるが、女を凌辱する時の性感の高まりと共に魔導力も高まるという異常体質の持ち主だった。


 その特異体質と彼自身の粗暴な性格が合わされば自ずと問題を撒き散らすのは目に見えている。

 アーメルフジュバでは度々強姦事件が発生し、それをルーンドルファに揶揄されたサダレオは何度この野獣に折檻を繰り返したかは分からないほどだ。


 だが、その時の魔導力はともすれば大魔道士であるサダレオすら凌ぐことすらある。


 止むなくサダレオは金で買える女を与えていたのだが、先日の夜会でエルメリア達を見るなり、オゲラーの興味は彼女達だけになってしまった。


 あの女共を犯し尽くせば俺はこの国随一の魔導士になれるやもしれん……。


 その時のエルメリアの扇情的な礼装姿を思い出し、思わず股間に手を伸ばそうとしたオゲラーの動きが止まった。


「まぁ、これは沢山の兵隊さんが一体何の御用向きで?」


 僅かに開いた門から一人、その礼装姿のエルメリアが出てきた。

 周囲の兵からどよめきが起こる。


「申し訳ありませんが、私共はこれより参らねばならぬ所が御座います。道をお開けくださいまし」


 静々と言う仕草の一つ一つが匂い立つような色気を放っている。


「おお、大人しく中にいて貰おうか……ささささもなくば……」


 その姿を見たオゲラーが喘ぐように叫んだ。


「まぁ怖い、乱暴はいけませんわ」


 エルメリアがクナクナとしなを作ってオゲラーを見る。


 もういけなかった。


「ほがあぁぁぁ!」


「い! いけませんオゲラーさまっぎぁっ!」


 止めようとした周りの兵は皆殴り飛ばされた。


「がおおおおおん!」


 理性のタガが吹っ飛び、野獣と化したオゲラーがエルメリアを組み伏せようと飛び掛かる。


「まぁ、太いお腕」


 そう言ってエルメリアが伸びてきた腕に触れた。


 オゲラーの野獣の本能に塗りつぶされた中、ほんの僅かに残った知性が先晩の夜会での兄ガイツの醜態を思い浮かべた。


 おおおおおお俺はははははは兄貴ととととと違うぞぞぞぞぞ……!


 と、伸ばし、エルメリアが触れた腕に言い様の無い快感が走った。


「おほげぇぇ……ぇぇべえええええ!?」


 オゲラーは自分の腕を見た。


 腕がまるで何かで押し潰したように平たくなっている。

 骨すら粉砕されたのか、まるで羊皮紙の如くペラペラになっていた。


「アアギャアアアアアアアアアアアアッ!!」


 忽ちオゲラーの悲鳴が響き渡った。

 平たくなった右腕を押さえようとした左腕にもエルメリアの手が添えられ、優しげに撫でる。

 オゲラーは自分の腕が撫でられた所が何か得体の知れない力に押し潰されて行く様を確かに見た。


「ギイイイイイエエエエエエエッ!」


 エルメリアが触れた瞬間に身体を凄まじい快感が突き抜けるが、直後に腕の体液が逆流するかの様な圧迫感が襲い、激痛が全身を駆け抜ける。


 ペラペラになった両腕を振ってオゲラーが逃げようと後ずさりする。

 その時浮き上がった右足をエルメリアが触れた。


 慈愛に満ちた天女の如き笑顔のエルメリアだったが。オゲラーには不気味に笑う魔女に見えた。


「悪い膿は搾って差し上げますわ」


 それはまさに悪魔の宣告。


「やぁめぇぇ……」


 エルメリアの二本の指がオゲラーの右足のつま先から太股までを優しく撫でた。

 正確にはエルメリアの指は触れてはいない。


 手から発せられた土魔法『重力手グラビティ』で押し潰しているのだ。

 

「いばぼぉぉおおおおおおっ!」


 直後に想像を絶する苦痛と快楽が一気にオゲラーを襲い、服の合間から押し出されるように一気大量に噴き出た己が体液に顔面を塗れさせながら口からも泡を吹いて昏倒した。


 左足以外が全て轢き潰したようになり、すえた異臭を放ちながら昏倒しているオゲラーに目もくれずにエルメリアは恐怖に顔色を変えている兵士達を見据えた。


「この様な狼藉は断じて許すことは出来ません。これより法皇陛下に面会し責任者の処断を要求致します。道を開けてくださいまし?」


 そう言ったエルメリアの背後から機動馬車ベルナデインが姿を現した。

 曳いているのは疑似生物馬のヨーゼフのみ。


 パトラッシュにはメアリアが、カールには重機動型魔導甲冑グレイガレイオンに身を包んだガラノッサがそれぞれ跨って睨みをきかせながら先導している。


 彼らの、そして何より女王エルメリアの放つ気に押され、忽ち兵が割れるように道が出来る。


「ご苦労様ですわ、感謝しますわ」


 エルメリアはニッコリ笑ってそう言うと悠々とベルナデインに乗り込み、恐怖に顔を強ばらせた兵達を尻目に宮殿へと向かっていった。





 ――アーメルフジュバ宮殿


 魔道法院によって占拠され、管理下に置かれたこの場所の正門にゲイツ・ララスティン率いる総勢二千人余りの魔導兵達が蟻の子一匹入れぬ警戒を敷いていた。


 午後から執り行う予定だったボーガベルとの修好通商条約の締結式は急遽法皇ルーンドルファの退位とそれにともなう魔道法院主導の指導体制の発布に変更される。


 サダレオ法院長の下、新たなシストムーラが始まるのだ。


 それには今日、旧来の膿を絞り出してしまわんとな……。


 新体制下で他の兄弟たちとそれぞれ一軍を任されることが内定しているガイツはほくそ笑んだ。


 その膿とはルーンドルファだけでは無かった。


 あの偉そうな双子も……。


 カイシュハのみならず、ガイツ達ララスティン兄弟にとってもクリュウガン姉妹は不倶戴天の敵とも言えた。


 決して姉妹にはその様な意識は無かったが、ガイツ達にしてみれば彼女たちの言動はおのれの才を鼻に掛けたものに映り、特にスミレイアの歯切れの良い物言いは常に彼らを苛立たせていた。


 従って、法皇と魔導法院、更にはボーガベルをも取りなそうとする姉妹の動きも、彼らにとっては八方美人、または己の地位を固守する為の振る舞いにしか見えなかった。


「ガイツ様!」


「ええい! 将軍と呼べと言っただろうが!」


「は、はっ! 申し訳ありません! ガイツ将軍!」


「おう! 何事だ!」


「裏門からの連絡でボーガベルの大型馬車が現れたとの事です!」


「何だと!? オゲラーは何をしているのだ!?」


 サダレオは今日の決行に当たって、ボーガベルの一行を完全に封じ込める事を指示していた。

 その為に皇帝ダイゴをクリュウガン姉妹を使って少数の供回りと共に市中に誘い出し、マシュカーンがこれを捕縛する。

 更に宿舎に残ったエルメリア女王達はオゲラーがこれを封じ、更に闘技練兵場に停泊している空飛ぶ船も五千の兵が包囲している。


 オゲラーが易々と女王を取り逃がすとは思えなかった。


「わ、分かりません……」


「ええい、直ちに増援を……」


 そう怒鳴ったガイツの声が尻切れた。


 物々しさに人通りの途絶えた宮殿前の大通りを、赤と白の法服を着た女がこちらにヒタヒタと歩いてくる。


「あれは……」


 ボーガベル皇帝の取り巻きの一人じゃないか、なぜここに……。


「おい、アイツを引っ捕らえてこい」


 部下にそう命じたガイツの視線は女の豊かすぎる胸に注がれていた。


 あの女王に匹敵するな……。


 先日の夜会の屈辱を思い出し、意趣返しの口実を考えていると、女が右手を高々と上げた。

 手には何やら魔石のような物を持っている。


 なんだ……?


 ガイツがそう思ったのと同じく、女が口を開いた。


「降臨せよ! 機甲聖堂レミュクーン!」


 ギギャアアアアアアアアアアン!


 忽ちに周囲に魂を掻き毟るような悲鳴にも似た不協和音が響き渡り、上空に出現した紫の魔法陣から異形の物体が捻り出されていく。


「あ……が……?」


 大地に八本の異形の足を広げ着地したそれは、吐き出した金色の縛鎖を女に絡め飲み込んでいく。


「な……何なんだ……アレは……」


 繰り広げられる奇怪な光景にガイツ以下魔導兵達は呆然と見守るばかりだ。


 と、上部構造物の柱がカクンと折れ曲がり、先端が宮殿の正門に向いた。


 ドン!


 柱の先端が火を噴き、重厚な門が軽々と吹き飛ばされる。

 門がかなり先でガランガランと音を立てて転がった。


 その様をガイツ達は口を開けた馬鹿面で見ていたが、我に返って振り向くや否や叫んだ。


「きゅ! きゅきゅきゅ! 宮中を犯そうとする曲者らぁ! と、捕まえろ!」


 余りの事に動転しているせいか呂律が上手く回らない。


 命令を受けた部下達が恐る恐る剣を抜いた。


 ブォオオオオオオオオオオオオン!


 その途端、レミュクーンから耳をつんざく和音の調べが吹き上がった。


「ギャアアアアアアアアアッ!」


 その音を聞いたガイツや魔導兵達が顔面を歪めて絶叫する。


 ブォオオオオオオオオオオオオン!


「アギャアアアアアアアアアアアアッ!」


「ヒギエェエエエエエエエエエッ!」


 兵士達は剣を落とし、耳を押さえて七転八倒する。


「だ、誰か! 止めろ! あの……」


 ブォオオオオオオオオオオオオン!


「アギャオオオオオオオオン!」


 最早その場でまともに動ける物はいなかった。

 ある者は失禁して失神し、ある者は自分の吐瀉物に顔を突っ込み失神していた。


 辛うじて意識を繋いでいたガイツの目の前に立つ男がいた。


「おー、相変わらず凄まじいな、こりゃ」


 惨状を見ながらダイゴが感心する。

 脇で悶絶しているガイツにはまるで目もくれていない。


「あ、あの……ダイゴ様……こ、これは……あ、アレは一体」


 横で顔を真っ青にしていたファムレイアが漸く口を開いた。

 同じように顔色が真っ青のスミレイアは口を震わせたままだ。


「ああ、土魔法『神聖楽濫セイントシンフォニア』だ。あれは機甲聖堂レミュクーン」


「つ、土魔法だと! き、禁断の魔法ではないか!」


 土魔法と聞いてスミレイアが悲鳴にも似た声を上げる。

 魔法大国であるシストムーラにおいても聖魔法の元である土魔法は伝授されておらず、ラモ教の教義そのままに禁断の邪法として僅かに伝承に残るのみであった。


「ああ? 知らなかったのか? 土魔法ってのはな……」


「オガアアアアアアッ!」


 ダイゴが説明しようとした時、脇で悶絶して転がっていたガイツが雄叫びと共に立ち上がった。


「『頭脳衝撃システムクラッシュ』」


「ぱぽふぁ……」


 ダイゴの手の平に展開された紫の魔法陣が光ると、ガイツの顔面がだらしなく緩んで仰向けに倒れた。


「まぁ後でゆっくり説明するわ。先を急ごう、ウルマイヤ」


「はい」


 姉妹が振り返るとそこにあったはずの異形の聖堂は消え失せており、ウルマイヤが微笑みながら立っていた。

 その後ろをワン子が操る馬車がゆっくりとやって来る。


「宜しかったのでしょうか?『発条仕掛くろっくわーくとい』を使わなくて」


「ああ、そこまでの必要は無い」


発条仕掛クロックワークトイ』はムルタブスの皇都セスオワを恐怖のドン底に叩き込んだ、人を生けるゾンビに変貌させる土魔法だ。

 流石にセスオワの二の舞をここでする気はダイゴには無かった。


「あ、あの……この者達は……」


「ああ、一アルワもすりゃ目が覚めんだろうよ、風邪引かなきゃ良いけどな」


「ねぇご主人様? みんな動けなくしちゃったら陽動にならないんじゃないの?」


 手持無沙汰のように聖剣エネライグを振り回しながらコルナがダイゴに訊いた。


「ああ、今は良いんだよ。これも陽動のうちだし、本番はこれからさ」


「へ? またご主人様難しい事言うよ」


 悪戯っぽく笑ったダイゴにコルナはキョトンとする。


『コルナ様、またお話を聞いておりませんでしたね? 作戦では……』


「ああ! もうセバスティアンは黙っててよ!」


「け、剣が喋った……?」


「一体……何なのだ……何がどうなっているのだ……」


『これはこれはご紹介が遅れました。ワテクシ、コルナ様にお仕えする支援剣身セ……』


「黙っていてってばぁ!」


『コルナ様、ご挨拶は人としての当然の基本でございます。それをないがしろにするのは人として如何な物かと……』


「セバスティアンは剣じゃないか!」


「左様、ワテクシ、体は剣で出来て……」


「わー! わー! わあああああっ!」


 そんなコルナと喋る剣のやり取りを呆然と見ながらクリュウガン姉妹はダイゴ達に続いて宮殿に入っていった。

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次回をお楽しみに!

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