第百三十七話 会談
魔道法学院での講演を終えた俺達は、堂々と宮殿への道を進んでいた。
行きはシストムーラ側の馬車だったが、今はアジュナ・ボーガベルから呼び寄せた皇帝専用機動馬車、ベルナデインに乗っている。
周囲もリセリ達マキシマ遊撃騎士団二百が固め、ある意味物々しい行列になっていた。
「あの……本当に……申し訳ありませんでした」
「……」
相変わらず頭を下げるファムレイアと無言でこちらを睨んでいるスミレイア。
二人は後から身体を引き摺るようにお互い支え合って俺達を追ってきた。
「別に無理して付いてこなくても良かったのに」
「わ……私達は……案内役ですので……」
息も絶え絶えといった感じのファムレイアだが、俺に対する視線が明らかに変わっている。
まぁあんな目に会っちゃ無理もないか。
それでも付いてきたのはたいしたもんだ。
「どうして……」
やっとスミレイアが口を開いた。
「ん?」
「どうして……魔導杖も無しにあれだけの魔法を……そもそもあの魔法は一体……」
「魔導杖ってのは魔法の威力を増加させるんだろ? 俺の場合はこれがその代わりだよ」
そういって右手に紫の魔法陣を展開する。
「ひっ!」
怯えたファムレイアが小さな悲鳴を上げてスミレイアにしがみついた。
「ああ、心配すんなよ『回復』」
蒼白だった二人の顔色が元に戻っていく。
「はぁ……」
「それは……光魔法なのか……」
スミレイアは出たままの魔法陣を見て言った。
「ん~まぁそうかなぁ」
「ば、馬鹿な! 光魔法なんてお伽話の中のものだ!」
「じゃぁこれはどう説明するんだよ。『光球』」
白く変化した魔法陣から眩く輝く光の玉が現れた。
姉妹は驚きの目で見入っている。
「おっと、『魔法模写』は使うなよ。またぶっ倒れるぞ」
その言葉に姉妹は愕然とした顔を俺に向ける。
「ど、どうしてそれを!」
「分かっているさ。あんた達が念話を使える事も、五属性全て使える事も」
「「……」」
二人とも押し黙ってしまった。
いや、時折目を瞑っているので念話を使っているからだろう。
「一つだけ教えてくれないか……」
スミレイアが口を開いた。
「何だ?」
「センデニオのアレは……貴方がやったのか?」
「ああ」
「どうやって……」
「企業秘密」
「きぎょう?」
「ナイショってことさ。誰が知りたがってるか教えたら教えてやるよ」
「そ、それは……わ、私だ……」
「違うな。サダレオ法院長……でもないし、ルーンドルファ法皇……でもない……ドンギヴ?」
「!」
「当たりか」
「し、思考まで……読めるのか……」
「まさか。案外スミレは顔に出やすいってだけだよ」
「な! な、何で名前を途中で切る」
「ああ、俺の故郷にスミレって花があってな。スミよか良いじゃん」
「ちゃ、ちゃんと切らずに呼んで貰いたい……」
「しかしドンギヴか……何企んでんだアイツ……」
ドンギヴ・エルカパス。
正体不明の胡散臭い商人。
俺と敵対する者達の陰で暗躍していた男。
そいつが俺の魔法、しかも『蒼太陽』について調べている。
「ドンギヴは……サダレオ法院長の元にいますが……何をしているかまでは……」
「おいっ! ファム!」
「いや、良いよ。別に大した事じゃ無いから」
俺は手を振った。
やがてベルナデインは宮殿に到着した。
――アーメルフジュバ宮殿
クリュウガン姉妹の先導で、俺とエルメリア、ワン子。それにクフュラとセイミアの五人は法皇ルーンドルファの執務室に隣接する応接室に通された。
残りはベルナデインで待機だ。
然程広くも無い部屋だが、華美な装飾など無く、実務一点張り。唯一壁に大きな風景画が飾られているのみ。
その絵が見事で、絵の好きなクフュラが思わず見入っていた。
「若い頃に描いた物でね。他国の方のお目に適うかどうか」
「これは、法皇陛下が?」
「ああ、趣味ではあるがね」
「素晴らしいです」
クフュラが心底感心した声を上げた。
「有難う、お嬢さん。ではどうぞおかけ下さい」
ルーンドルファに促され、俺達は大ぶりかつ柔らかな椅子に腰を下ろす。
「二人は席を外してくれ」
ルーンドルファは穏やかだが断固とした調子で脇に佇んでいるクリュウガン姉妹に命じた。
「お父様!」
ファムレイアが反駁するが、
「行こう、では皆様、ごゆっくり」
スミレイアはそう言ってファムレイアを連れて出て行った。
「別にこちらは居て貰っても構わなかったんですが」
「あの様なことがあった後ですので」
そう法皇は言うが、恐らくそれだけでは無いだろう。
「まぁいいか、始めましょうか」
「まずは先頃の御無礼の数々、国の代表として深くお詫び致します」
そう言ってルーンドルファは深々と頭を下げた。
「いや、つまらない視察なんかよりは余程楽しめましたよ」
「はは、皇帝陛下のお力、相当なものとお聞きしました」
「いえ、娘さん達の力も中々の物でした。手荒な真似をして申し訳なかったです」
「いえ、あの者達にも良い経験になった事でしょう」
「この件は法皇陛下は関与していないと言うことで宜しいか?」
「はい、一連の事は全てサダレオ・ララスティン魔道法院長の意向によるものです」
「我々をここに呼んだのも?」
「それは勿論私です」
「その経緯をお話頂けますね?」
「はい、百年来の仇敵であったガーグナタの敗北は、我が国に大きな衝撃をもたらしました。私は貴国と友誼を結ぶべきと唱えたのに対し、サダレオ法院長は頭がデレワイマスから貴公に替わっただけであり、鎖国を継続し、侵攻に備えるべきと主張し、対立することになりました」
「成る程、でも陛下は魔道法院の反対を押し切って俺を招いたと」
「その通りです。東大陸のムルタブス神皇国やガラフデ王国、そしてアロバ王国を始めとするガーグナタの領国の全てが独立国家を維持している事実を鑑みても、シストムーラの長く閉ざされた門戸を今こそ開き、ボーガベルと友誼を結んで共存する事がシストムーラの取るべき道と決断したのです」
「まぁ確かにウチも侵略したくてやってる訳じゃ無いんでね。でも魔道法院の意向を無視しちゃって良いんですか?」
「我が国では法皇の決定は魔道法院に優先されます。勿論私も魔道法院と多くの折衝を重ねました」
「でも上手くいかなかったので、呼んじゃったと」
「その通りです。お恥ずかしい話ですが娘のスミレイアとファムレイアも鎖国継続に傾いてしまいまして」
「つまりは根回しに失敗したと。それでさっきは二人を追い出したと」
「あの二人は『念話』という技能を持っておりまして、離れたところでも意思の疎通が出来るのです」
「なるほど、ファムレイアだけとかは駄目なんですね」
分かってはいたが知らない振りをする。
「国は長い鎖国によって経済的発展は行き詰まっています。私はそれを打開するには鎖国を解いて門戸を開くのが最良の策と思っているのですが」
「サダレオ法院長や姉妹達が猛反発していると」
「仰るとおりです。彼等魔道法院は魔法のことしか頭にありません。経済に関しては全くの素人ばかり。勿論国政を司る部署もありますが、事あるごとに法院が口出しをして思うように機能していないのが実情なのです」
「どうして彼らはそこまで頑ななのです?」
「それは今を遡る事百年前、ガーグナタ領に侵攻したわが軍が急襲を受け、多くの魔導士が連れ去られるという事件がありました」
「ほう」
「連れ去られたのは魔道兵団の中核をなす部隊で、凡そ五千名。ガーグナタは彼らから技術を奪い、あまつさえ連れ去った兵たちを自軍の尖兵にして我が国を襲いました」
「よくそんな真似が……まさか……」
「隷属の首輪なる物はその当時から存在していました。ガーグナタはそれを使ったのです」
ルーンドルファはワン子の首輪をチラリと見ながら言った。
また余計な誤解を受けたかもしれん。
俺と法皇の視線を受けてワン子は黙って首輪を外した。
「やはり、機能しておりませんか」
ルーンドルファが分かっていたという口調で笑みを浮かべた。
「辛うじてガーグナタ軍を撃退することに成功したものの、わが軍も壊滅的な被害を受けました。結果ガーグナタ領に近い街サンシャを放棄した我々は大樹海の奥にひきこもる形で鎖国することにしたのです」
「以来、他国との接触を殆ど断ってきたと」
「その通りです。もっともある国は勝手に我が国の樹海を切り開いて街道を作っていたようですが」
『あははは~』
メルシャが困ったような念話を送ってきた。
なるほど、オラシャントか。
「そろそろ本題に入りましょうか。我がシストムーラ……いえ、私としては是非貴国と国交を樹立し、この閉塞した状況を打破したいと考えております」
「それは我が国も同様です。ですが魔導法院の方は如何なさるおつもりで? 我々が独自に入手した情報では法院側に謀反の動きもあるようですが」
俺の言葉に法皇の目が少し光る。
「でしょうな。しかしそれはご心配にはおよびません。十善の策を講じてあります」
「信頼しろと?」
「練法場の件もそうですが、私はダイゴ陛下の度量を信じておりますので」
「簡単に言ってくれますね」
「迷惑をお掛けしたのは重ね重ね申し訳ないが、ダイゴ陛下はこの様な状況を寧ろ好んで参ったのではないですかな?」
図星だった。
罠があれば飛び込んで噛み砕く。
それが俺のやり方だ。
それは自身の能力故の余裕でもあるが、以前それでウルマイヤを辛い目に合わせた失敗もある。
神の代行者とはいえ元々は只の凡才だ。
奢らず慢心せず。
「そう言われれば返す言葉もありませんが軽慮浅謀は慎んでいるつもりです」
「ダイゴ陛下はこう言っては何ですが、凡そ皇帝の器に収まらぬ方ですな」
「はは、同じ事を娘さんに言われましたよ」
そう言って手を挙げるとセイミアが一冊の本を法皇に差し出した。
同じものを俺の前にも差し出す。
「これは……ほう」
法皇が本を開いて軽く感嘆の声を挙げた。
「貴国と結ぶ友好通商条約を議定書にして参りました。どうぞご熟読ください」
「これは手回しの良い……」
そう言って法皇は丹念に文を読み砕いていく。
と、ある部分で目が留まった。
「この一文は……いやはや……」
法皇は感嘆した声を上げて笑みを浮かべた。
「では、話もここまでにして、晩餐に致しましょうか」
議定書に署名を終えた法皇が言った。
気が付けばもう日も落ちかけている。
一般的にこの世界の夕食は夕暮れ時には済ませてしまう。
それはシストムーラでも同じようだ。
「それは有難いですが、昨晩のようなのは……」
昨晩の晩餐会はあのサダレオの孫たちがぶち壊しに来た。
エルメリア達の機転で大騒ぎにはならなかったが、ああいうのは二度と御免被りたい。
「ご心配には及びません。本日は私の私的な晩餐です。ただ、この者達はおりますが」
その言葉を合図に部屋の扉が開き、装いを改めたクリュウガン姉妹が入ってきた。
「「皆様、どうぞこちらへ」」
先程までの魔導服とは一転、麗々しい白と黒の礼装に身を包んだ姿。
すっかり顔色も戻って美々しいばかりだ。
姉妹に促され、ルーンドルファ法皇と共に向かった大広間の大卓には既にメアリア達眷属とグラセノフ達三将軍が着席していた。
俺とルーンドルファ法皇が中央に並び、それぞれの隣にエルメリアとスミレイアが座る。
「良いのですか?」
俺はサダレオ法院長側についている姉妹の事を訊いた。
「今晩は私の私的な夕食会ですので。娘にも言いつけてあります」
金の杯に酒を給仕に注がせながらルーンドルファは静かに答えた。
「皆様、本日は我がクリュウガン家の晩餐にお越しいただき感謝の意を表します。先程我がシストムーラとボーガベル帝国は友好通商条約に署名し、晴れて友好国となりました。今日この席が両国の友情の第一歩となる席であります。両国の友好と発展を願って、乾杯」
皆が乾杯を唱和する。
だが姉妹の表情は今一つ冴えない。
当然だろう。
自分達が反対し、身体を張ってまで阻止しようとしていた事が目の前で為され、その祝いの席に出ているのだから。
「父上」
怒りを含んだ口調でスミレイアが口を開いた。
「スミレイア。既にボーガベルは友好国だ。これ以上の我が友人への無礼は私が許さん」
「し、しかし……」
「私はお前達……いや、サダレオ達魔導法院側にも十全な周知と通告をしてきた。だがお前達はそれを無視した挙句あの様な無法に近い真似をしでかした」
「それは……」
「凡そ魔導大国を自負する国家の取るべき振る舞いではない。まさに汗顔の至りだ。だがそれを敢えて許したのはダイゴ陛下がそれをお飲みになる度量の持ち主と思ったからこそ」
そこまで持ち上げられると何かこそばゆいけどな。
「そしてお前達は挑み、敗北した。お前達だけはその意味は分かるだろう」
「「……」」
姉妹は言葉も出ず俯いてしまった。
その後は両国の風土、文化等について他愛も無い話が続いた。
「皇帝陛下宜しいでしょうか?」
金の盃に酒を注ぎながらファムレイアが訊いてきた。
「ダイゴで良いよ。魔法の事か?」
「はい。皇帝……ダイゴ様の魔法、お教え頂く事は出来ないでしょうか?」
ファムレイアの目は以前のどこか挑発的な物でも法錬堂での怯えた目でもない、どこか艶を帯びた目になっている。
ああ、あれは初めて俺の魔法を見たシェアリアと同じ目だ。
「うーん、教えてやりたいのは山々だけど、こればっかりは教えようが無いんだ」
「それは……厳しい修練を積むとかでしょうか?」
「まぁそんなモンだけど……」
自分でも恐ろしく嘘が下手なのは自覚している。
だが、眷属化の事を迂闊に漏らすわけにはいかない。
まぁ何時も何時の間にか誰かが漏らしているらしいが。
「そうですか……」
残念そうにしたファムレイアだったが、法皇の視線を気にしてか、それ以上食い下がる事も無くエルメリア達にも酒を注いで回っていった。
こうしてその日の晩餐はつつがなく終わり、玄関まで見送りに出て来た法皇とガッチリと握手を交わす。
「皇帝陛下、明日からは宮殿は少々慌ただしくなります。重ねてご迷惑をおかけするやもしれません」
「分かりました。心掛けておきましょう」
俺達を乗せたベルナディンは宿舎へ向かった。
「全員聞いてくれ。やはり魔導法院は仕掛けてくる。それも俺達がいる内だ」
先程の法皇の言葉はそれを意味していた。
「やはり予想通りだったね」
グラセノフが溜息をつきながら言った。
既に彼とセイミアの二人によって、起こりうる事象と取るべき行動は選定されている。
「そう言う訳だ。各人、事前の指示通りに行動してくれ」
その場にいた全員が無言で頷いた。
――アーメルフジュバ、ララスティン家
既に日もとっぷりと落ちてはいたが魔導灯に照らされたこの広大な屋敷に、一台の馬車がやってきていた。
晩餐を終え、急ぎ報告に来たクリュウガン姉妹の馬車だ。
「ふうむ。やはり法皇は間違った道を選んだか」
あくまで穏やかな口調でサダレオは言った。
「父上に諫言いたしましたが、やはり聞く耳を持っては頂けませんでした」
スミレイアが口惜しそうに言った。
「いや、よくぞ知らせてくれた。後はこの魔導法院長たる儂の役目。この命に替えても法皇陛下のご暴走はお諫めして見せる」
「最早、法院長だけが頼りです。何卒……」
「うむ、任されよ。明日にも法皇陛下にお会いしよう」
その時、脇に控えていたファムレイアはサダレオの目が異様な光を放つのを見て背筋が震えた。
その時、
「爺様、やって来たぜ」
大きな声でそう言いながらガイツ達三人が部屋に入ってきた。
「うむ」
サダレオが大きく頷く。
「では私達は失礼します」
スミレイアはそう言うとファムレイアと共に応接間を出ていこうとする。
その行く手をガイツ達が塞いだ。
「通して貰おうか」
「へっ、残念だなぁ。ああ、残念だ」
「? 何の事だ?」
「いいえぇ、どうぞお通り下さい。敗残者の筆頭様、次席様」
厭味ったらしく言うと三人は道を開ける。
「……行こう」
スミレイアは露骨に不快な目を三人に向け、部屋を出ていった。
「良いんですか? アイツらもカイシュハと一緒に……」
姉妹がいなくなるや否やガイツが口を開く。
「バカモン! 余計な事を考えるな!」
ガイツにサダレオの叱咤が飛び、三人は首をすくめる。
「今、迂闊にあの二人に手を出せば、法皇の思う壺だ! 放っておけ!」
「へぇぃ」
「それよりもいよいよ事を起こすぞ! お前達は兼ねてからの手筈通りに動くのだ!」
「ムラー!」
三人は握った右手を頬に当てて叫んだ。
車寄せからクリュウガン姉妹を乗せた馬車が広大な敷地を行く。
「本当に法院長は決起するのかしら……」
思いつめたようにファムレイアが言う。
「だろうな……」
「だとすれば……私たちは……」
ファムレイアの言葉が途切れた。
彼女の視界に入ったモノ。
門柱に裸で晒されているカイシュハだった。
手に掛けられた手枷が頭上に打ち付けられた杭に掛けられて吊り下げられた形になっている。
辛うじてつま先で立っている状態だ。
カイシュハの全身は散々殴られた様なアザがあちこちに浮かび、顔は元が分からない程に腫れあがっている。
先程入れ違ったガイツ達はカイシュハにこの仕置きをして戻って来たのだった。
「止めて!」
ファムレイアの声に馬車が停まった。
「カイシュハ!」
慌ててファムレイアがカイシュハに駆け寄り、自分の魔導服を掛けようとする。
「余計な事をするな!」
カイシュハの鋭い言葉がファムレイアを打った。
「皆お前達のせいだ! 筆頭だ次席だと偉そうにしておきながら何だあの様は!」
「カイシュハ……」
「お前達が不甲斐無いばかりに私が御爺様に罰を与えられた! 私を憐れむと言うならお前達も服を脱いで私の横に立て!」
凄まじい剣幕で吠えるカイシュハ。
押されたファムレイアが少し躊躇ったものの服に手を掛けた。
「負けたのはお前自身の力不足だろう。私達は関係ない」
ファムレイアの手を押さえてスミレイアが静かに言った。
「何だと!」
「シェアリア姫がお前を指名し、お前はそれを受けた。それだけじゃないか。八つ当たりは止めてもらおう」
「貴様……筆頭だからと調子に乗って……」
「関係ない。今のお前の姿もララスティン家の私刑だ。我々が付き合う義理も無い。行こうファム」
「で、でも……」
「放っておけ」
スミレイアはファムレイアの手を曳き馬車に乗り込んだ。
「ふざけるな! 偉そうに! 何の苦労もせずに魔法を覚えて筆頭になった奴が!」
罵声を浴びながら馬車は動き出した。
「今に見てろ! 私が必ず筆頭になってやる! 必ず! 必ずだ!」
カイシュハは馬車が見えなくなってもなお罵声を浴びせ続けた。
やがて、プツリと罵声は途切れた。
「許さない……スミレイア……ファムレイア……ボーガベル……みんな……みんな……殺してやる……」
俯いたカイシュハが涙と共に呪詛を吐き続けていた。
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次回をお楽しみに!





