第百二十八話 ソデュニス要塞戦
何処かで呼ぶ声が聞こえる。
アレイシャ……アレイシャ……
「お父様……お母様……」
ここにいたのかい……アレイシャ……探したよ……
うふふ、アレイシャはお転婆ね……
「御免なさい……珍しい鳥がいたので」
ああ、あれはヒフィロだね……羽根が綺麗な鳥だ……
さあ……もう日が暮れるわ……奥宮に戻りましょう……
そうだよ……明日は……
「……」
アレイシャはゆっくりと目を開ける。
何時もの夢じゃ……無い……。
何時も見ていたのは血塗れの両親の顔。
復讐を願う声。
だが今日アレイシャが見たのはそれ以前の両親の顔だった。
穏やかに笑う両親の顔。
「おはようございます、アレイシャさん」
ダイゴの向こう側でエルメリアが微笑んだ。
流れるような金髪が朝日に映えて煌いている。
「あ……おはようございます……女王陛下……」
「うふふ、良くお眠りになられていましたね」
「夢を見ていました……いつもと違う……幸せそうな両親の顔……」
アジュナ・ボーガベルの展望デッキの寝台と見まごう長椅子の上でアレイシャはダイゴの身体に縋りつくように横たわっていた。
昨日の夜にダイゴによってもたらされた眷属化の波はまさにアレイシャを飲み込み、翻弄した。
とてつもない快感の大嵐に放り込まれたアレイシャの行きついた先があの夢だった。
「そうですか。復讐の思いは変わったのですか?」
「……いいえ、デレワイマスを討つ思いは変わりません……でも、何かが変わった気がします」
「そうですか」
エルメリアが柔らかに微笑んだ。
「眷属になったからでしょうか?」
「それは違うな。昨日の一件の所為だろうな」
アレイシャの頭越しにダイゴの声が響いた。
「あら……ご主人様、起こしてしまいましたか?」
「いや、構わんよ」
エルメリアの背中に回った手が小さく振れる。
「あ、あの……ダイ……ご、ご主人……様、おはようございます」
「ああ、おはようアレイシャ。無理してご主人様って言わなくていいぞ?」
「うふふ、改めておはようございます、ご主人様」
そう言ってエルメリアはダイゴと唇を重ねる。
「ああ、おはようってお前ここに潜んで待ち伏せてるんじゃないよ。俺もアレイシャも驚いたろうが」
「だってご主人様ここの所向こうに行きっぱなしですもの、寂しいですわ、火照りますわ」
「あーはいはい。で、ガーグナタの動きは?」
「第二次征伐軍がソデュニス要塞で集結、編成中ですわ。数日中にもアロバとオラシャントに向けて進発するものと」
「まぁ今度はこっちの領土に足一本踏み入れさせないけどな。シムオ公国の方は?」
「グラセノフ将軍とセイミアさんによって既に調略完了済みですわ」
「あの二人とあの条件じゃ無理もないか」
既に領国であるシムオ公国は戦わずしてボーガベルの軍門に下っていた。
先だってのオラシャント侵攻で殆どの兵を失い、公都を守備する僅かな兵のみのシムオ公国にボーガベルの侵攻に抗える力は残っていない。
だが、ガーグナタからの指示は公国領にて出来るだけの敵兵力を漸減せよという過酷な物だった。
そこへ乗り込んできたグラセノフとセイミアとの交渉で、死んだと思われていた自国の兵が全て捕虜になっていると知らされ、その返還と身代金の免除、そして国体の維持を条件に公王シルシャードは講和を決意した。
そしてボーガベル軍はシムオ公国公都スイナーバインに無血入城し、今またソデュニス要塞へ進軍していた。
「アロバの方はセグテの関所に領国軍が到着した段階で攻撃を開始するとガラノッサ将軍から報せがありました」
「上等上等。ってか俺何もやること無いな」
「あら、ご主人様は重要な役目があるではないですか」
「そうなんだけどなぁ……」
「あの……」
二人の会話をずっと聞いていたアレイシャがやっと声を上げた。
「私は……どうすれば……」
「ああ、アレイシャにも色々やって貰うことあるぞ、まぁまずは風呂と着替えだ。早く戻らないとワン子とコルナが拗ねるからな」
「ああん、もう少しこうしてたかったですわ、残念ですわ」
「ええい、しがみつくんじゃない! 起きた起きた!」
「それではもう一度」
そう言ってエルメリアは先程よりも濃厚な口づけをする。
それを見たアレイシャが少し頬を染めてエルメリアに倣った。
――ガーグナタ王国北西の要衝たるソデュニス要塞。
北西地帯のオアシスに築かれた街ソデュニスを三重の堀と十メルテにもなる高塀で囲い要塞化した一大拠点である。
ここに王国軍の主力を担う『雷鳴』と『旋風』の二兵団が集結していた。
「既に領国軍はそれぞれノベオとオラシャントに向かっておる。彼奴等だけで済めば我々は楽なのだがなぁ」
要塞内最奥の館で、酒を飲みながら短髪の偉丈夫が笑った。
六大将軍の一人、『雷鳴』のセニオ・ヒフォンである。
「ふん、貴公はこの国家存亡の危機を領国兵などに任せて酒を喰らうとは実に安穏としておるなぁ」
と皮肉ったのが長髪を束ねた瘦身の男が『旋風』のベヘル・ロルテだ。
「ほぉう、なぁに、仮に奴らと相対する事になっても貴公はゆっくりと休んでおられよ。わが『雷鳴』はそよ風の力は要らぬわ」
「ほほう、音だけの雷など恐ろしくも無いがな」
「なんだと……」
双方に険悪な雰囲気が漂い、脇を固める副将達が冷や汗を流す中、衛兵が駆け込んできた。
「た! た! 大変でございます! ボ、ボーガベル軍の襲撃です!」
「何!」
「どういう事だ!」
セニオとベヘルが同時に声を上げ、互いを睨む。
「北西及び北東から二軍団、およそ五万の軍が!」
「りょ。領国兵共は何をしていたのだ!」
「この短期間でシムオ公国とセグテの関所を突破してきたというのか!? 有り得ん!」
「し、しかし……」
「ええい!」
セニオとべヘルの二将軍は衛兵の言葉を捨て置いて駆け出し、周囲を一望できる館の物見台に駆け上がる。
「なんと……」
「これは……」
見れば地平の彼方二か所にボーガベル軍と思しき兵団が陣取っている。
「い、何時の間に……」
「まさか、例の空飛ぶ船とやらを……」
べヘルの予測は当たっていた。
第一、第三連合軍は無血開城させたシムオ公国で、第二群はセニオ関所でそれぞれ領国兵を迎え撃ちこれを撃破。
そのまま魔導輸送船でソデュニス要塞を望む地まで進軍したのだった。
「おのれ! 魔王め! 領国兵共は! シムオ公国は何をしていたのだ!」
「むう、だが丁度良いではないか。こちらは十万、向こうは約五万。しかもこちらはこのソデュニス要塞がある。この兵力差は覆せまい」
「しかし、魔法は如何する?」
「我々の魔法兵団が劣るとは考えられん。そんな魔道士がいればシストムーラの時と同じように引っ捕らえて来れば良いわ」
これは約百年近く前にシストムーラとの戦いで奇襲によって多くの魔道士を捕らえた事件を言っている。
これによってガーグナタは魔導兵団を組織整備することができ、シストムーラは鎖国への道を選んだ。
「では、籠城するのか」
「馬鹿を言うな! 敵兵を殲滅するなら討って出るに決まっておろう。臆したか『旋風』よ」
「そうでは無い。貴公に要塞の守りを任せようと思うてな」
「馬鹿を抜かせ! この様な大戦に引き籠もっておられるものかよ」
「ならば仕方あるまい。左翼は儂が。右翼は貴公に任せるとするか」
「フン、右翼はちと物足りなさそうだが致し方ない。くれぐれも余計な手を出すなよ」
「貴公こそこちらの獲物に手出し無用に願う」
こうして反目し合う二人の将軍は互いの軍を率いてソデュニス要塞を出撃した。
「お兄様、敵軍出て参りましたわ」
ボーガベル帝国軍第一、第三連合軍の本陣である要塞馬車モルトーンⅡ上で偵察型擬似生物の報告を受けたセイミアが兄グラセノフに告げる。
「分かった。ゴーレム兵展開開始。敵兵が行動を開始する前に先制攻撃」
「了解、メアリア様と遊撃騎士団、それにガラノッサ将軍が出撃許可を求めています」
「メアリア様と遊撃騎士団は許可。ガラノッサ将軍は待機で」
『オイオイ! お預けは勘弁してくれ! こっちは例の毒煙で一回戦いそびれてんだぜ』
魔導伝声器にガラノッサの威勢の良い声が鳴り響いた。
『今回は押し引きの機会が重要ですから』
『その位は心得ているさ、待機ばかりじゃ折角の新兵装が泣くぜ』
『分かった、セネリ殿達を付けるからくれぐれも無茶はしないように』
『そうこなくっちゃな』
そう言って魔導伝声器は沈黙した。
「ガラノッサ将軍は子供みたいですわね」
「いや、男は大概そうだよ」
「あら、お兄様も?」
「勿論さ。この様な大舞台に立てて震えが止まらないよ。願わくば僕も前線に立ちたい位だね」
「まぁ、ご主人様を見てると何となく分かりますわ」
「全く、ダイゴや眷属の方々が羨ましいよ」
「うふ、お兄様のお考え、分かりますわ」
いわくありげなセイミアの笑みと言葉にグラセノフは何も言わず微笑み返すだけだった。
戦闘開始後僅か十ミルテでガーグナタの二大将軍の顔色は徐々に青くなっていった。
ボーガベル第一、第三軍を擁する本隊と対峙した左翼に陣取った『雷鳴』のセニオ・ヒフォンが副将のサニバスに怒鳴る。
「どういう事だ! なぜわが軍が押されておる!」
「そ、それが……」
「ええい! はっきり言わんか!」
だがサニバスも容易には答えられない。
敵軍の中央にいる巨大な白馬に乗った騎士が中央に食い込み、当たるに幸いとばかりに自軍の兵を無造作に薙ぎ倒している。
更にはその周囲の重装歩兵達も大地を滑るように移動しながら信じがたい速度で侵攻してくるのだ。
加えて両翼にも武将らしき騎馬に率いられた兵が次々と自軍に襲い掛かっている。
「ど、どういう事だ……」
目を剝いてそう漏らしたセニオがサニバスに掴みかかる。
「おいっ! 何だあれは! おかしいじゃないか! 何なんだ一体!」
「グホッ! しょ、将軍! 落ち着いてください!」
「ぬううっ!」
その間にも自軍の損害は増え、ボーガベル軍は押し始めている。
「ええい! 魔法だ! 魔法を放て!」
セニオの号令で赤旗が上がる。
魔道服に身を包んだ魔導士達が一斉に魔導杖をかざし、炎弾を放つ。
次々とボーガベル軍に降り注いだ炎が辺り一帯を激しく燃え上がらせた。
「良し!」
セニオは燃え上がる炎に勝利を確信し手を握って声をあげた。
「あ?」
いわゆるガッツポーズのセニオが一瞬で固まる。
炎の中から巨大な馬に乗った姫騎士と薄紫色の重装歩兵たちが平然と飛び出してきたからだ。
ドオオオオオオオン!
直後に轟音が響き魔導士たちが吹き飛ぶように倒れた。
ルキュファと同行しているテネアの放った『衝撃破弾』が魔導士達に直撃したからだ。
次々と大音響が響き、魔導士や護衛の槍騎兵達がバタバタと倒れていく。
「な……何なのだ一体!」
中央のメアリアは言うまでも無く、左翼のレノクロマ、右翼のルキュファを先頭に数で劣るボーガベル軍がガーグナタの槍騎兵を圧倒していく。
「セ、セニオ様! ここは一旦要塞まで引きましょう! このままでは!」
「こ、このままでは何だというのだ! 『旋風』に笑われでもしたらどうする! 後退はならん! ならんぞ!」
この期に及んで意地を張るセニオにサニバスは絶望感を覚えた。
だがその意地を張る相手である『旋風』のベヘル・ロルテも同様の危機に見舞われている只中で、全く同じことを考えていたなど知る由も無かった。
その『旋風』兵団は宙を舞う奇怪な騎兵に翻弄されていた。
それはセネリ率いるマキシマ遊撃騎士団、そして
「ふはははははぁっ!」
高らかな笑い声と共に巨大な剣を携え空を駆ける、というよりは吶喊する姿があった。
新型専用魔導甲冑『グレイガレイオン』を装着したガラノッサだった。
神話の天空獣の名を冠したその姿はリセリ達の『戦乙女の羽衣』よりはセネリの『ハリュウヤ』に近い。
だが眷属ではないガラノッサの為に装甲は更に厚めになっており、当然変形機構も無い。
更に背部の力場制御素子は大型の物が四本と、瞬発力なら『ハリュウヤ』に引けを取らない性能を持っている。
手にする巨大な攻防一体剣『ブルファステ』はそれ自体が力場制御能力を持っており、コルナの『エネライグ』に搭載されているものと同種の支援剣身『セイバースティアン』を搭載して剣単体での攻撃を可能にしている代物である。
『ガラノッサ候、先行するのは自重ください』
お付きに任ぜられたリセリの念話が入ってくる。
「何を言うか! ぼやぼやしてるとセネリ殿に遅れを取って敵兵を逃がしてしまうわ! 続け続け!」
そう言うや四本の力場制御素子を展開し更に加速していく。
はぁ……悩みの種が増えた……。
少し溜息をついたリセリは後続の騎士団員に念を送る。
「全騎! ガラノッサ候をお守りしつつ前進! 突撃!」
「了解!」
言うや地を這うように『戦乙女の羽衣』が駆けていく。
既にセネリは『疾風』の陣奥深くまで斬り込んでいた。
そこへガラノッサを先頭にマキシマ遊撃騎士団が突撃していく。
「うおりやあああああああっ!」
『ブルファステ』を突き出したガラノッサが敵陣に直撃し、そのまま周囲を薙ぎ倒す勢いで振るい始める。
「何だコイツは!」
「あ、悪鬼だ! 悪鬼の化身だ!」
その戦いぶりにガーグナタの槍騎兵たちが恐怖の色を浮かべた。
「不味いなこれは……」
その様を見るやベヘル・ロルテはいち早く不利を悟った。
「カマンジュ、後方の兵から要塞に後退させよ!」
ベヘルは脇にいた副将カマンジュに命じる。
「し、しかし……」
「早くしろ! セニオなど放って置けばよい!」
言うや踵を返して要塞に馬を走らせた。
すぐさま撤退を示す青旗が上がる。
一の壁にある西門をくぐり、二の壁にある北西門をくぐったベヘルはそこでセニオと出くわした。
セニオは北門からこの北西門に撤退して来たのだ。
「貴公! こんな所で何をしている!」
ベヘルの姿を見たセニオが泡を吹いて吠えた。
「貴公こそ! あの威勢は何処へ行った!」
二人ともお互いを捨て駒として戦場に残すつもりだったのだ。
「フ、フン! あの程度の軍勢など、儂がいなくても十分なのでな!」
「はっ! 奇遇だな! 私も手を下す程ではなく、部下の修練に丁度良いと思ってな!」
「ハン! 余裕だな! さて部下の手柄でも見るか」
「フン! もう終わっているやもしれんがな! わが軍は!」
脂汗を流しながらも反目する両将軍は文字通り張り合うように北西門上の見張り台に上がった。
だが、二人はそこで呆然とした。
敵軍が一定の距離から追撃してこようとはしないでいる。
まるで撤退に混乱するガーグナタ軍を見物しているかのようだ。
「ふ、ふん、やはりこのソデュニス要塞に恐れをなして近寄っては来ぬか」
「理由は分からぬが、籠城戦に持ち込むつもりか……」
意図を計りかねていた二人の視界にその男は突如現れた。
少なくともセニオやべヘルにはそう見えた。
「こ、今度は何だ……」
「まさか……あれが魔王……」
黒髪黒衣のその姿はまさに魔王の姿そのものだ。
「馬鹿馬鹿しい! あれが魔王ならここからでも討ち取れるわ! 投石器! 」
雲一つない快晴の元、砂の上にダイゴは転移した。
バゲンディギア程ではないにせよ、目の前の要塞もかなりの物だ。
元の世界で北海道に旅行に行ったときに寄った五稜郭をふと思い出した。
『ご主人様、敵軍は要塞への撤退を開始しました』
『じゃあ今が好機って訳だな』
『よろしくお願いします』
セイミアとの念を切るとダイゴは両腕に紫の魔法陣を展開した。
ソデュニス要塞からは無数の岩や矢、炎弾がダイゴ目掛けて降ってくるが殆どは当たらず、稀に当たった物もすべて弾かれる。
「さてお立合い……上手くいったら拍手喝采ってね」
そう言った直後、ソデュニス要塞の遥か直上に直径一キルレ(約一キロ)以上にもなる巨大な紫の魔法陣が浮かび上がった。
それは図形というよりは厚みを持った円柱状になっており側面にも様々な図形や文字、文様が現れては消えている。
「な、な……」
「う……」
首の痛さも忘れ、突如頭上に浮かんだ魔法陣を見上げるセニオとベヘルは声にならない声をあげる。
一方のダイゴが静かに言った。
「殲滅魔法、『構造体崩壊直撃』」
直後、上空の巨大魔法陣からその大きさと同じ物体が出現した。
それは直径一キルレ以上にもなる円柱状の構造物で、さながら円柱状のビルの骨格のような姿をしている。
だがその構造物の構成体は全て禍々しい棘や鉤が生えていた。
その構造物がソデュニス要塞目掛けて落下してきた。
「い、いかん……」
「にげ……」
セニオとベヘルが揃って声をあげた時にはもう構造物は頭上間近に迫り、
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
土煙をあげてソデュニス要塞に撃着する。
更にその衝撃が長さ六キルレにも及ぶ構造体全体に伝わるや、
ボォン!
音を立てて構造体の接合部分が自壊し、煙をあげた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
凄まじい轟音と共に構造物全体がビルの爆破解体のように崩れていく。
セニオとベヘルは幸運にも構造体の先端部の直撃は免れた。
「ひぃぃっ!」
「た、助け……!」
だが濛々と立ち込める土煙の中、自壊して振り落ちてくる棘上の構造物の雨に他の兵士達諸共飲み込まれていった。
轟音と共に爆煙にも似た土煙が濛々と天に昇る。
「かあーっ、相変わらず大将の魔法は派手だなぁ」
魔導甲冑に身を包んだガラノッサが着地するや感心するように煙を上げるソデュニス要塞を見て唸った。
この一撃でガーグナタ兵はほぼ全滅しただろう。
「これでも周囲に配慮してるんだぜ?」
元々この魔法は元の世界でのビルの爆破解体とSFアニメの宇宙植民地を地球に落とす話を元に作り出した物だ。
ただ、直径一キルレ、長さ六キルレ丸々の質量弾を直撃させるのは流石に無茶すぎるのでこのような形になった。
「まぁ積み重なった瓦礫はもうすぐ消えるから、そしたら占領作業頼むわ」
「ああ、任せておけって」
「ご主人様!」
見ればメアリアを始めセネリとリセリ、そして親衛騎士団の面々も集まっていた。
「おう、みんなご苦労!」
「ここを落とせばいよいよバゲンディギアだな」
メアリアが未だ煙をあげるソデュニス要塞の向こうを見ながら言った。
「ああ、休む間もなくてすまないがもうひと頑張りだ。とりあえずここの占領は任せたぞ」
「それは構わないがたまにはアジュナ・ボーガベルでゆっくりしていかないのか?」
「うむ、アレイシャを眷属にしてすぐウゼビスに戻ったというではないか」
セネリの言葉にメアリアが頷く。
「えーだって色々やることあるしさ」
「いや、エルメリアとワン子ばかりではずるいではないか」
「そっちかよ」
「あっはっは! ご主人様も大変だなぁ! 大将!」
豪快に笑いながらガラノッサがダイゴの背中をバシバシと叩く。
「あのさぁ、魔導甲冑着て叩くの止めてくんない? とにかく終わったらゆっくりしよう! そ、そうだ! カスディアンで温泉出たら皆で打ち上げ! 慰労会やろう! じゃな!」
そう言って振ったダイゴの手をメアリアがガッシリと掴んだ。
「逃がさん」
「へ?」
「無愛想」
「心得た」
セネリが纏っている『ハリュウヤ』の装甲がガバッと展開するや、ダイゴを飲み込んでいく。
その様はさながらイソギンチャクに捕食された魚のようだ。
「ちょ! おまっ! 食い込む食い込む!」
「はふぃ」
眷属に対しては『絶対物理防御』が無効になる為、あちこちが食い込んで慌てているダイゴとは対称的に密着したうえ圧迫状態のセネリは恍惚の表情を浮かべている。
「ああ! もう分かったって! 一旦アジュナに戻ろう!」
「それでこそご主人様だ」
「大将、ここは俺とグラセノフに任せて少しはゆっくりしてやんな」
楽しそうに笑ってるガラノッサの脇でリセリがセネリの締まりのない顔に頭を押さえていた。
「スマンな、ちょっと頼むわ」
『ハリュウヤ』に飲まれたまま、ばつの悪そうな顔のダイゴはメアリアとセネリを伴って掻き消えていった。





