第百二十五話 衛央都市ウゼビス
ガーグナタ領セグテ。
アロバとの国境に隣接するこの地にセグテの関所がある。
関所とはいっても堀や渡し橋を備えた堅牢強固を誇る立派な要塞である。
その威容は図らずも領国であるアロバに全く信を置いていないガーグナタの国風を象徴するかのようであった。
そしてそれは現実の物となり、アロバとの関係悪化に伴い閉鎖されている。
だが、今このセグテ関所前はアロバ征伐に向かった『烈火』兵団の敗残兵達で埋め尽くされていた。
「さっさと通せよ!」
「もう奴らがそこまで来てるかもしれないんだぞ!」
十万近くいた『烈火』兵団だが四万以上いた領国兵はほぼ全滅。
ガーグナタ本隊の兵も後方支援の輜重隊や弓兵等一万にも満たない。
大将軍であるアルワンデも消息不明であり、もはやアロバ征伐に赴く時の勇壮さはすっかり鳴りを潜め、疲弊しきった惨めな姿を晒していた。
「慌てるな! 順次通している! 敵の影はないから安心して列を作れ!」
関所の衛兵たちが声を張り上げ、鈴なりに負傷兵の乗った馬車が次々と橋を渡っていく。
「全く我が軍が……しかも『烈火』が負けるとはどんな相手なんだ」
門の上から様子を眺めていた衛兵が隣の同僚に聞いた。
「それが連中に聞いても要領を得ないらしい。何でもビタシィを使って……」
「え! あんなモン使ってきたのか!? 何て酷い奴らだ」
「しっ! 使ったのは『烈火』……わが軍だよ」
「ええっ?」
「何でも何処かの商人が大量に持ち込んできたらしい。それを領国兵が戦ってるところにアノゴツ草に火を付けて放り込んだんだそうだ」
「はぁ……なんてこったい」
「そしたら突然変な大竜巻が起こって皆吸い込んじまったって」
「まさか……吸い込む竜巻なんて聞いたこと無いぞ」
「ああ、だから皆魔王の魔法だって……」
「じ、じゃあここもヤバくねぇか……」
そんな会話をしている門兵達の下を他の馬車と一緒に橋を通り過ぎる荷馬車があった。
御者台にはいずれも血だらけの男が二人。
荷台には頭に血染めの布を巻いた負傷者が四人蹲っている。
何れもガーグナタの兵服に身を包んでいるがやはり血塗れに等しい有様だった。
魔王の話に夢中になっていた衛兵達は一瞥しただけでまた会話を続ける。
負傷兵を乗せた荷馬車など最早珍しくもなく、仮に止めでもすれば後続の兵に何を言われるか分かった物では無い。
もし将校でもいればそれこそ大問題だった。
その馬車は難なく関所を通過して、バゲンディギアにつづく道をゆっくりと進んでいく。
「上手く通過できたな」
「ふぅ……緊張したぜ」
そう言って血塗れの布を取ったのはダイゴとケンドレンだ。
「皆、もういいぞ」
「はい」
後ろに座っていた負傷兵から元気な声が上がり、顔に巻かれた血塗れの布を取るとそこに美麗な顔が現れた。
乗っていたのはワン子、ニャン子、コルナ、そしてアレイシャだった。
あらかじめニャン子が用意しておいた荷馬車に乗って、敗残兵の列に紛れていたのだ。
「なぁダイゴ様、見つかったらどうするつもりだったんだよ」
顔を拭って血糊を落としながらケンドレンが聞いた。
「そん時は後ろに付いてきてる特務部隊に少々関所を突かせたよ」
同じくワン子から受け取った布で顔を拭いながら何事も無い風にダイゴが返す。
「でもこのまま兵隊のカッコじゃまずいぜ」
「だからちゃんと着替えも持ってきてある。何処か人目につかないところに停めてくれ」
「わ、分かった」
脇道に逸れると馬車を止め、血染めの兵服を脱ぎ捨て、今度は荷馬車の二重になっている床に隠してあった商人の服に着替える。
「ここからは回り道をしながらウゼビスを目指す」
着替えの終わったアレイシャとケンドレンは頷いた。
「じゃあご主人様、一足先に行ってる……にゃ」
背嚢を担いだ忍者服姿のニャン子がダイゴに口づけをして言う。
「ああ、頼んだぞ」
「お任せニャンニャン」
重い背嚢を苦にもせず、ニャン子は軽やかに跳びながら森の中に消えていった。
途中野宿をしながら進むこと二日。
平原のただ中に広大な都市群に囲まれた山が見えてきた。
「あれがバゲンディギアかぁ」
ダイゴが感嘆の声を上げる。
標高三百メルテほどの山が全てが城壁に囲まれた要塞都市。
周囲は人工的に浚渫された川の如き濠に囲まれ、更にその周囲を衛央都市群が囲んでいる。
衛央都市群も独立した濠に囲まれており、一個の都市群と見ればこれ程巨大な都市は少なくとも東大陸には存在しない。
正に百万国家たるガーグナタ王国に相応しい大王都である。
「まともに攻めたら衛央都市ってのを抜かないとだから厄介だなぁ」
「今現在で十五万以上は兵がいるんだ。簡単にはいかないぜ」
「まぁまともにの話だからなぁ」
「ま、まさかあの魔法を……」
「ああ、やらないやらない。あんなもん街中で使えるかよ」
恐れ混じりのケンドレンの言葉にダイゴが手を振って否定する。
「だよなぁ……」
「まぁ何にしろ『マーシャ』にも色々頑張って貰う予定だから、期待してるぜ」
「ああ、支援の話をしに行ったのに、何時の間にかボーガベル帝国の手先になっちまったよ」
ケンドレンが大げさに肩を落とす。
「んなこたぁ無いぞ。俺は別に余所様の土地が欲しいわけじゃ無い。向こうが帝国に喧嘩を吹っ掛けてきたから買ってるだけだ。『マーシャ』への支援は俺個人がやってることだしな」
ため息交じりのケンドレンにダイゴは面白そうに笑って言った。
勿論このダイゴの言葉は正しくもあり間違ってもいる。
帝国において皇帝たるダイゴが決めたことは決して単なる指示では無く帝国としての総意だ。
既にセイミア達は『マーシャ』への支援も含めての攻略作戦を策定している。
だがそれはあくまでダイゴの私的な決定から為された結果であり、当初帝国自体はオラシャント並びにアロバ防衛以上の、ガーグナタ攻略という意図までは持っていなかった。
だが、結果的に二国は戦争状態に突入してしまった。
ボーガベル帝国が手を出さなくともガーグナタは戦力を整え、新手を送り込んでくるのは必定。
セイミアがはじき出した数多の作戦の中でもっとも自軍と一般市民の被害が少ない作戦に基づいてダイゴ達は行動している。
馬車はウゼビスの正門までやってきた。
「ふむ、酒屋のケンドレンと塩商人のディエゴ他三名だな。通っていいぞ」
衛兵にさりげなく銀貨を渡すのは西大陸でも共通だった。
荷台のアレイシャ達を見るでもなく、そそくさと銀貨を懐にしまっている。
そのまま何食わぬ顔で荷馬車は門をくぐり、目前の商人街に入っていく。
「どうやら手配の手はまだこっちまで回ってないみたいだな」
アレイシャの事をガーグナタが掴んでいた事から警戒していたダイゴだったが、実際はオラシャントにいる筈のアレイシャをアロバ周りで短期間に戻ってくるとはガーグナタ側は考えないだろうと踏んで、敢えてこのルートからウゼビス入りすることにした。
「ふう、やっと帰って来たなぁ、アレイシャ」
「……」
一月以上留守にしていたケンドレンの言葉に町娘姿のアレイシャは無言のままだ。
既にバゲンディギアを遠くに見た時から表情が険しく変わっていた。
「で、どうするんだ?」
「まずは俺の働いている酒屋に行く。そこで『マーシャ』の連中を集めて紹介するよ」
「ケンドレン、私は一度屋敷に戻ります」
おもむろにアレイシャが口を開いた。
「え? 大丈夫か?」
「問題ありません。オリブに事の次第を告げたら鐘五つまでにはドミネの酒屋に参ります」
「ますます心配なんだけど」
「オリブって?」
「オリブ・デセングブ。王国六大将軍の一人で私を匿い育ててくれた父王の忠臣で信の置ける者です」
「ふうん、じゃあ行ってきなよ」
「え? 良いのか?」
ダイゴの意外な返答にケンドレンが反駁した。
「だって今まで育ててくれた忠臣なんだろ? なら問題ないだろ」
ダイゴはヒラヒラと手を振った。
「お心遣い感謝します」
アレイシャは頭を下げると荷馬車を降り、近くの二輪馬車に乗ってバゲンディギアに向かっていった。
「まぁアイツも言いだしたら聞かないからなぁ」
ケンドレンが呆れたように言った。
ウゼビスの商人街は人通りも多く活気に満ちてはいる。
だが何処かピリピリと張り詰めた嫌な空気が漂っていた。
「おやっさん! 戻ったよ!」
「ケンドレン!? 無事だったか!」
勢いよく店に入ってきたケンドレンを見て『ドミネの酒屋』の主人ドミネは珍しく大声を上げた。
「ああ、ちゃんと支援も取り付けて来たぜ!」
「……それなんだが、まずいことになった」
ドミネは下を向く。
「え? 何があったんだ?」
「お前達がオラシャントに向かった後にリョクレン達が軍の食糧庫を襲ったんだが、そこに来た特警隊に殆どが捕まっちまったんだ」
特警隊は王都防衛を預かる六大将軍の一人、『閃光』のシュクネ・ピロシュヌ直属の反乱者の取り締まりを専門とする部隊である。
「何だって! ネルティアは? リョクレンは?」
「ネルティアとリョクレンはどうにが逃げ出したらしい。だが他の連中はヘレリーシュ監獄に送られちまった」
「ヘレリーシュだって!」
「なんだそりゃ」
「バゲンディギアにある監獄で……入ったら出られないって言われてる所だ」
「へぇ……後宮といい、そんなとこばっかりなんだなぁバゲンディギアってとこは」
「ケンドレン、こいつは?」
脇で呑気そうなダイゴをジロリと睨みながらドミネが訊ねた。
「この人は、えーっとボーガベルから支援の為に来た商人のディエゴ・マキシオ」
事前に散々釘を刺されたケンドレンが、散々覚えさせられた偽名を答える。
「ディエゴ・マキシオだ」
「『マーシャ』の世話人をしているドミネだ。折角来てもらってすまないが、そう言う仕儀だ。大半が捕まってしまっては……」
「構わんよ、やる事はまだ色々ある。そうだろ? ケンドレン」
「そ、そうだな。とにかくネルティアの所に行ってくる。待っててくれ!」
そう言うやケンドレンは店を飛び出していった。
『ご主人様……』
ワン子が心配そうな念話を送ってきた。
既に彼女は街に入った時から不穏な空気を感じ取っていた。
『ああ、何かしょっぱなからキナ臭いな』
『アレイシャ様はよろしいのですか?』
『一応、二人とも偵察型疑似生物を貼り付けてあるけど、アレイシャはすぐにどうこうされるって事はないだろう』
『畏まりました』
「とりあえず皆が帰ってくるまで腹ごしらえがしたい。どこか美味い食い物屋はあるかい?」
相変わらずの気楽そうなダイゴの言葉にドミネは呆れた表情を浮かべた。
ドミネの酒屋から二十ミティオ程歩いたところにある『カシュド・ティポン』という名のティポン、即ちパンを売る店にケンドレンはやってきた。
店先にネルティアを見つけ手を振る。
「ネルティア!」
「ケ、ケンドレン!? いつ戻って来たの!」
ネルティアは驚きの表情を浮かべるがすぐさま伏し目がちに言った。
「ああ、たった今だ。ちゃんと役目を果たしてきたよ。それより……」
「……うん、分かってる……お店が終わったらリョクレンを連れてドミネの酒屋に行くわ……」
「あ、ああ……分かった。じゃぁ待ってる」
「ケンドレン……アレイシャは?」
「ああ、今屋敷に行ってる。夕方には酒屋に戻ってくることになってる」
「そう……じゃあ待ってて」
「ああ……」
ネルティアの態度に何処か違和感を感じながらケンドレンは店を後にした。
バゲンディギア、オリブ・デセングブの屋敷。
「只今戻りました。スオラン?」
一月余りの留守の間に更に荒れ果てた庭を通り、玄関の扉を開けたアレイシャは庭と同様に荒れて寒々とした屋敷の有様に困惑した。
屋敷の中まで……一体何が……。
そう思った矢先、
「姫様!」
奥から驚いたようにスオランが出て来た。
アレイシャを見るなり目から涙をこぼし始める。
「姫様……よくぞご無事で……あううううっ」
「スオラン、この有様はどうしたのです? 他の使用人は? オリブは?」
「そ、それが……」
「お帰りなさいませ姫様」
スオランの言葉を遮るように奥からオリブが出て来た。
「オリブ! この有様は一体……第一今お前は登城してる時刻では?」
「某、今現在は謹慎の身でございます。使用人はスオラン以外は暇を出しました」
「謹慎? なぜ?」
「姫様を匿っていた廉でございます」
「何ですって!」
アレイシャがオリブ・デセングブに侍女のソレミアと名前を偽って匿われている事実を知っているのはオリブとスオラン、『マーシャ』の一部だけだ。
一体何故……。
だがその疑問もオリブから出た言葉に吹き飛んでしまった。
「某、アレイシャ姫様の捕縛をデレワイマス大王様より仰せつかりました。姫様にはこれよりシンドメンまでご同行願います」
「な! お前は何を言っているのか分かっているのですか!」
「勿論でございます。某も王家に仕える六大将軍の責務がございます故」
「そ、そんな……」
「デレワイマス大王様は姫を無傷で御前に連れてこいと仰りました、何卒、ご理解のほどを」
恭しく跪く姿はいつものオリブと変わらない。
前王への忠義厚いが故にアレイシャを匿い育ててきたオリブ。
だがその口から出たそれまでの忠節とは真逆の言葉にアレイシャは呆然と立ち尽くした。
一体……一体何が……。
「姫様! お逃げ下さい!」
スオランが両手を広げ、アレイシャの前に立った。
「スオラン!」
「スオラン、どかぬか」
「いいえ旦那様! どきませぬ! さぁ姫様! お早く!」
「どかぬなら……」
オリブが腰の剣の柄に手を掛けた。
「オリブ!」
アレイシャの叫び声が屋敷に響いた。
バゲンディギアの頂部分に聳える王城シンドメン。
その脇にシンドメンと引けを取らない陣容を誇る建物がある。
デレワイマス大王の居所『後宮』である。
シンドメンから後宮への入口に宰相シュウシオは立っていた。
眼前の巨大な鉄門がゆっくりと開く。
もう一つの扉が重々しく開き、それをくぐると何ともいえないすえた様な臭いがシュウシオの鼻を突き、僅かに顔をしかめる。
廊下の脇は三畳ほどの窪みになっており、そこに全裸の女がへたり込んでうわごとの様に何かを呟いている。
「ちちうえのぉ……ははうえのぉ……かたきぃ……か……か……かくごせよぉ……あはっ……あはははっ」
あれは確かセグリア公国の姫だったか……
セグリアは南方の小さな国だったが、姫に目を付けたデレワイマスによって、献上金が僅かに少ないとの理由で滅ぼされた。
公王と王妃は磔刑に処され、その姫はデレワイマスへの復讐を公然と叫びながらここに送られた。
美勇兼ね備えた聡明な姫だったが、あの有様……
いたる所に同様の女達がある者は横たわり、ある者は蹲っている。
何れも元は王家の姫や貴族の子女で、デレワイマスに召し上げられた者達だ。
どの女も目に光は無く、生きた人形のように呆然としているか何かを呟いているだけだ。
頭から目だけを出した布を被った世話役の老女達が、大甕に入った粥の様な物を無理やり女達の口に流し込み、濡れた布で粗雑に身体をぬぐい汚物をふき取って回っている。
格子なき牢獄、それがこの後宮の実態だった。
そんな女達の向こう、絶息しそうな悲鳴とも嬌声とも付かぬ声が聞こえる部屋の入口でシュウシオは跪いた。
「陛下、お寛ぎの所失礼いたします」
女の悲鳴が響く中、デレワイマスの声が響く。
「何だシュウシオ。大事があったか?」
王以外の男が立ち入ることの許されない後宮で、唯一シュウシオは国を揺るがす大事の時のみ立ち入りを許されている。
「はっ、『烈火』と『激流』が敗北いたしました」
果たして女の悲鳴が途絶えた。
「損害は?」
「両軍とも大将軍は戦死、一万程の兵が撤退中との事です」
「蛮族如きに手ひどくやられたものだな」
「面目次第もございません」
「原因は何だ?」
「伝令によると双方見た事も無い魔法とあります」
「魔法か。ならばシストムーラが陰にいると見て良いな」
「大王様のご賢察には頭が下がります」
「全く百年以上も前の事を……それで、どうするつもりだ?」
再び女の断続的な悲鳴が前よりも甲高く響いてきた。
「既に『雷鳴』のセニオ・ヒフォンと『旋風』のベヘル・ロルテの両将軍には領国兵を含む軍の編成を急がせており、ご下命を頂き次第攻略に向かわせます」
「それで『烈火』や『激流』の二の舞にならぬという保証はあるのか?」
「冷静に判断すればありませぬ」
「で、策はあるのか?」
「はっ、まずノベオとオラシャント再攻略には領国兵五万ずつを向かわせます」
「ふむ、領国兵を捨て駒にして漸減するつもりか」
「大王様のご賢察には頭が下がります。その上で両軍の兵力をノベオとシムオの結節点であるソデュニス要塞に結集します。領国軍には伝令を付け、戦況に応じて兵を傾注、もしくは分散させます」
「ふうむ、ソデュニスを使うか」
「はっ、万が一敵軍が自領に侵攻したとしても砂の要塞ソデュニスを抜くことはまず不可能にございます」
「良かろう、お前に任せた」
「大王様のお言葉のままに……そしてもう一つ、アレイシャ姫様がお戻りになられました」
「ほう、オラシャントにいたのではなかったのか」
「はっ、ご賢察の通り、ボーガベルの者らしき商人とその連れが三人同行しておったとのことで既に捕縛に向かわせております」
「そうか、そ奴らはどうでも良いが、姫は必ず連れて参れ」
「けひぃっ!!」
直後ひと際甲高い声が短く響き、プツリと途切れた。
「大王様のお言葉のままに」
ドスンと何かが転げ落ちる音を気にすることも無く、シュウシオはその場をさがっていった。
もう日も暮れかけたウゼビスの商人街。
ドミネの酒屋では近所の食い物屋で腹を満たしたダイゴ達とケンドレンがアレイシャとネルティアが来るのを待っていた。
「ねぇケンちゃん、そのネルティアって人いつ来るのさ?」
退屈そうにコルナがエネライグを素振りしながらケンドレンに尋ねた。
「ケンちゃんって……もうとっくに店は閉まってるはずなんだけどなぁ」
「ふうん」
「アレイシャもどうしたんだろ……とっくに鐘突き堂から五つの鐘が鳴ったってのに」
焦れたケンドレンがそう言った時、
「ケンドレン! 特警隊だ!」
血相を変えてドミネが駆け込んできた。
「特警隊!?」
「すっかり囲まれてる。それにネルティアが!」
「ネルティアが!?」
「リョクレンと一緒に特警隊に連れられているんだ!」
「な!? まさか捕まったのか!?」
ケンドレンはダイゴの顔を見た。
「……」
ダイゴは難しい顔のまま無言。
と、外から声が響いた。
「ケンドレン! 無駄な抵抗はするなよ!」
その声にケンドレンが信じられないという表情で叫んだ。
「リョ、リョクレン!?」





