表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十章 ガーグナタ復仇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/156

第百二十四話 擂潰颱風

「な、何!?」


 煙を吹き上げながら走り狂っているのはどうやら鶏を巨大化させたような魔獣だ。

 コルナにはその姿に見覚えがあった。


「ビタシィ? まさかビタシィに火を着けて! 何てことを!」


 そう言っている間に次々と煙を吹き上げながらビタシイは戦場を駆けまわる。


「ま、待ってく……ヴッ……ヴゲゴォォ……」


「おっ……ゴゲェェ……」


 煙に巻かれた領国兵が喉を押さえて苦しんだかと思った次の瞬間には泡を吹いて倒れた。

 周囲では同じように領国兵も馬もバタバタと倒れていく。


「こ、これって……」


 コルナは足元で紫色になりながら死んだ領国兵達を悄然と見ていた。




「なんだありゃ……あれが喧騒鳥って奴……じゃあなさそうだな」


 ダイゴも前線の異変にすぐに気が付いた。

 見れば毒々しい色の煙を吹き上げながら巨大な鶏が何十羽も戦場を駆けまわっている。


『ご主人様! こ、これって魔獣ビタシィだよ!』


 すぐさまコルナからの念話が入った。


『ビタシィ? なんだその栄養ドリンクみたいなのは……』


『えいようどりんく……? そんな訳わかんない代物じゃないよ! アイツは羽根から何から猛毒の持ち主なんだ! しかもアイツらが背負っているのはアノゴツ草じゃないか!』


『アノゴツ草?』


『ビタシィの食べる草でやっぱり猛毒なんだよ! 乾かした草を燃やすと煙をたくさん出すんだけど、少し吸っただけで死んじゃうんだ! それを燃やして走り回ってるんだ!』


「それって毒ガスだぁ!」


 ダイゴが思わず叫ぶ。


『まさかガーグナタの奴ら、あれをカロルデの中に放つつもりだったんじゃ……』


『在り得るな。毒草を食うって事はその毒に耐性があるんだろうからばら撒くにはもってこいだ』


 カロルデを閉鎖したうえでビタシィ達を放てば労せずして中の住人達を皆殺しに出来る。

 あるいは攻城戦で使えば効果的に立て籠もる敵軍を殲滅することが出来る。


『そんな……何て酷いことを……許せない……許せないよ……』


『全く人間の風上にも置けないな』


『必ずボクがやっつけてやる!』


『……』


 自分では結構うまい事を言ったつもりだったのに怒りのコルナには全く気が付いて貰えず、ダイゴはすぐに話題を切り替えた。


『とにかく動けるのは状態異常無効の付いているお前達とゴーレム兵だけだ。そのビタシィってのが動き回って煙を拡散させないようにしてくれ』


『わ、分かったよ!』


「クフュラ、遊撃騎士団と待機中の第二軍は後退させろ。煙を吸わないように伝達」


 気を取り直してダイゴはクフュラに命じる。


「畏まりました。……あの、お兄様?」


「ん?」


「私は分かりましたよ?」


「……ありがとう、クフュラは優しいねぇ」


『大将! 後退ってどういうこった!?』


 クフュラの気遣いにしみじみする間もなく、本陣前方で出番を待っていたガラノッサから『魔導伝声器トーカー』経由で声がダイゴの頭に響く。


『奴ら毒ガス……毒の煙で攻撃してきやがった。セネリ達眷属はともかく、お前達二軍とリセリ達遊撃騎士団は吸うとまずい。後退してくれ』


『毒の煙だと!? 奴らそんなもん使うのか!?』


『それでカロルデの住民を皆殺しにするつもりだったようだ。こっちの勢いに慌てて使ったらしいが』


『ったく、えげつねぇなぁ……』


『こっちには今広範囲治癒魔法を使えるのは俺しかいない、なるべく被害を抑えてくれ』


『あの毒煙はどうするんだよ』


『今考えてるがどうにかはする。だから治療に手が回らないんだって』


『分かった! 頼りにしてるぜ』


『そういう訳だ、リセリ、後退してくれ』


 すぐにダイゴは念話をリセリに切り替える。


『ご主人様、遊撃騎士団は既に退避行動に移っています。セネリ団長はビタシィの掃討中です』


『そっか、戻り次第治癒魔法が使えるのを救護に当たらせてくれ』


『畏まりました』


「さてと……」


 どっかりと長椅子に腰を降ろしたダイゴは両手を組んで考える。


 あの毒煙があるうちはアッチの本隊も攻めてはこないだろうが……。


 パナボス国王やアレイシャ達に見せることになるが魔法を使うしかないな……。


 問題はどの類の魔法かだ……。


 炎、水、雷は二次被害が出そうで駄目だ……。


 光と闇は人目には晒せられない、とすると……。


「あの……ダイゴ帝、戦況は悪いのでしょうか?」


 パナボス国王が心配そうに訊ねてきた。

 主力部隊が後退を始めた事で不安が増したようだ。


「敵さん、ビタシィとアノゴツ草ってのを使ってきたらしい」


「な、何と! あんな物を!」


「国王陛下はご存じで?」


「勿論です。アノゴツ草はわが国では採取禁止にしております。ですがビタシィもアノゴツ草も魔境と呼ばれる人が滅多に立ち入らぬ森の奥深くの物。おいそれと人がそのように使えるものでは無いのですが……」


「そっか、まぁ何らかの手段で思いついて試しにカロルデに使ってみようとしたんだろうな」


「な……何という……そんな事をされたら……ううっ……」


 カロルデの街中が死体の山で埋まる光景を想像し、パナボス国王が胃を押さえる。


「ダ、ダイゴ帝……だ、大丈夫なのでしょうな?撤退などされたら……」


「いや、全然大丈夫。無駄な犠牲を出したくないんでね」


 考えながらダイゴは手を振って答える。


「で、ではどうやって……」


「まぁまずはあの毒煙とそれを撒いてる魔獣をどうにかしないとだけどな」


「父上、ダイゴ様を信じましょう。ダイゴ様は必ずアロバをお救いくださいます」


 セソワがそっと肩に掛けた手を取るパナボスだが、見上げたセソワは潤んだ瞳でダイゴを見つめており、更に彼の胃が痛むことになった。




 火の着いたアノゴツ草の束を背負ったビタシィ達は煙を噴き散らかしながら狂ったように遁走している。


「全く、下らぬ事をしでかしてくれるのう」


「ギィッ!」


 領国兵や馬が次々と呻きながら倒れていく中、平然と駆けながらソルディアナは手に持った黒い大剣でビタシィを仕留めていく。


「このような物まで戦に使おうなど……愚かの極みじゃ……ん?」


 ふと、何者かの視線に気が付いたソルディアナは毒煙でバラバラと葉が落ちている大木を見た。


「……気のせい……か? まさかな……」


 そう言った次の瞬間に飛び掛かってきたビタシィを真っ二つにする。


「はぁ……さっさと片付けるかのう……」


 駆けまわるビタシィの数の多さに辟易しながらソルディアナはすぐに視線の事など頭の隅に追いやって作業に没頭し始めた。



「ふむ、まったく戦場が見えんな」


 輿に乗ったアルワンデは彼方の煙で覆われた戦場を見て言った。


「近づくのは危険でございます故」


 副将のバッキゲルも戦場を見据えたまま応える。


「あの毒の煙はこちらには来ぬのだな?」


「この時期の風はこちらに向かって吹く事はございませぬ。いざという時には風使いの魔導士と早馬を用意してあります故」


 見れば両脇に魔導士の一団が控えている。


「フン、風使いなど夏の涼を取るくらいと思っていたが思わぬ使いでがあったな」


「もっとも、アルワンデ様の退避なさる時間稼ぎにしか使えませぬが」


「十分よ。まぁそんな事もあるまいが」


「おや、風向きが変わりましたな」


「ますます好都合。このままカロルデまで流れていくがいいわ」


 アルワンデは堪らないとばかりに笑った。




「お兄様! 風向きが変わっています! このままでは!」


 偵察型疑似生物の報告を受けたクフュラが叫んだ。

 このままでは退避中の連合軍はおろか、カロルデの市民にも被害が出かねない。


「あああっ! カ、カロルデがぁっ! うっ! 痛ぅぅっ……」


「お父様! しっかりして下さい」


 胃に走った激痛に蹲るパナボス国王にセソワが駆け寄った。


「ちぃっ、やるしかねぇか。ワン子、クフュラ、皆を頼む」


「畏まりました」


「お任せください」


 ダイゴはアレイシャとケンドレンの方をちらと見る。


「?」


 二人が怪訝な視線を向けた瞬間、


「!?」


 ダイゴの姿が掻き消すように消えた。


 流石にアレイシャも驚いた表情を隠せない。


「ダ、ダイゴ様は……一体?」


「戦場に向かわれましたわ」


 何事も無いかの如くクフュラが微笑む。


「……」


 アレイシャもケンドレンも呆然とした表情で再び視線を戦場に送った。




 戦場のど真ん中に転送したダイゴに強烈な刺激臭が襲う。


「うっわ、くっさ!」


 元の世界の仕事で何度も行った化学工場の比ではない強烈な異臭。


「確かにこりゃ普通の体じゃまずいよなぁ」


 辺り一面敵の兵士や馬がしなびたキャベツのようになって倒れている。

 その中で背中に縛り付けられた草から煙を吹いて狂走しているビタシィ達を追っているコルナが見えた。


『全員魔法使うから後ろに下がってろ』


「え! 魔法使うの? どんなどんな? 見せて見せて!」


 念を送るとコルナは目を輝かせながらダイゴの元に走ってきた。


「まぁ良いけど、離れるなよ」


 そう言いつつ両腕に緑に光る魔法陣を展開させる。


「えへへー」


 常人なら数秒で死に至る煙の中、コルナはダイゴに抱きついた。


「くっつきすぎだっつーの」


「良いじゃ無いかー」


「ったく」


 その時背後から声が掛かった。


「我々も一緒にいさせてはくれまいか」


 ダイゴとコルナが振り向くとソルディアナを降ろしたセネリがハリュウヤの装甲を解除している。


「お前達も来ちゃったのかよ」


「ふん、どうせロクでもない魔法を使うのであろう。ならばご主人様の所にいるのが一番と思うてのう」


 ロクでもない魔法である『蒼太陽ソルブルゥ』の一番の被害者であるソルディアナが腕を組んで頷きながら言った。


「全く……じゃぁ見てろよ」


 核兵器と同じく毒ガスや化学兵器についてもダイゴは多少の知識はあった。

 第一次世界大戦で本格的に使用された毒ガス兵器はたちまちに多くの死者を出した。

 その後多くの国で使用が禁止、制限されたがなおも保有する国やテロリストなどが使用する事例がある。

 日本でも東京のど真ん中などで毒ガスが使われた例があり、ダイゴもその時の事はよく覚えていた。



 だが東大陸では少なくともこの様な事例は聞いた事はなかった。

 コルナやパナボス国王の話からしても西大陸でも恐らくは初めての試みなのだろう。

 猛毒魔獣であるビタシィを捕獲、使用するだけでも相当なリスクがある筈だった。

 それを敢えてアロバを実験場としてまで行おうとする者がいる。


 させねぇって……。



「吹き飛べ! 『擂潰颱風ハリケーンアイズ』!」


 次の瞬間、ダイゴの周囲に巨大な緑の魔法陣、頭上には黒い魔法陣が浮かんだ。

 二つの魔法陣は相反する方向に回転を始め、周囲に風が巻き上がる。

 風は見る見るうちに強さを増し、やがて唸りを挙げた暴風と化した。



「お、おい! 何だありゃ……」


 遥か前線を見ていた魔導士部隊の魔導士が突如発生した大竜巻を見て声を上げた。


 大竜巻は領国兵の死体やビタシィを吸い込み、巻き上げている。


「何だ! あれは一体……」


 輿に乗ったアルワンデも目の前に起こっている事が全く理解できず唖然とするばかりだ。


 飲み込まれ、巻き上げられた者達は回転しながら光を発して消滅していく。

 それはアノゴツ草の毒煙すら吸い寄せ、眩い閃光を発しながら消し去っていく。


「何という……事だ……」


 ゴンゴゴンゴゴンゴゴンゴゴンゴンゴンゴゴンゴゴンゴゴンゴゴンゴ……


 低く不気味な音を響かせ閃光を発しながら大竜巻は徐々にアルワンデの本隊の方に生き物のように迫って来た。


「だ、大将軍! こ、このまま……このままでは我々もあの大竜巻に飲まれてしまいますっ! 退避っ! 退避をっ!」


 いち早く我に返った副将バッキゲルが叫ぶ。


「あれは……何なのだ……魔法なのか……あんな……」


「大将軍! ひっ! くっ来るっ! 逃げろっ! うわあああああっ!」


 パニックを起こしたバッキゲルの悲鳴が響き、それを合図にしたかの如く周囲の兵達が我先にと逃げ始めた。


 輿を担いでいた兵が輿を放り出した所為でアルワンデは無様に転がったが尻もちをついた姿勢でまだ大竜巻を呆然と見ていた。


 その巨大さゆえにゆっくりとした動きに見える大竜巻だが、実際はかなりの高スピードでガーグナタ軍の本隊に襲い掛る。

 先頭にいた魔導士部隊が次々と飲み込まれ、巻き上げられていく。



「アぎゃあア……」


「助けべぇ……」


「うわああああ!ごえっ!」


「ひああああああ……」


 次々と兵士を巻き込み、巻き上げ、消し去る悪夢の大竜巻が徐々にアルワンデ達の眼前に迫ってくる。


「た! 退却!退却だぁっ!」


 尻もちをついたままのアルワンデはようやく我に返ると絶叫した。


「将軍! これに!」


 既に騎上しているバッキゲルがもう一頭馬を曳いて来た。


「うむ!」


 アルワンデは馬に飛び乗ると後方に走らせる。

 数騎の槍騎兵がこれに続く。


「しょ! 将軍! お待ぎゃあぁぁぁっ……」


 後方で取り残された兵達の悲鳴が響いたが最早アルワンデにそれを気にする余裕など全くない。

 更に無数の悲鳴が轟音の中に吸い込まれていく。


 恐怖で後ろを振り向くことのできないアルワンデには死の竜巻がすぐ背後まで迫っているように感じられ更に馬に指揮棒を当てる。


「ぐわっ!」


 その所為で馬が暴れ、アルワンデが振り落とされた。馬はそのまま走り去っていく。


「将軍!」


 バッキゲルが慌てて馬を停める。


「お、おいっ! 待て……」


 走り去る馬に叫びかけたアルワンデが振り向くと、眼前にいくつもの光を発しながら巨大な竜巻がもう目前まで迫っていた。


「ひぃぎゃああああああああああああああっ!」


 その光景を見たアルワンデは涙と鼻水を噴きこぼしながら大声を上げた。


 と、その悲鳴を合図のように大竜巻はフッと魔法陣を残して消滅し、その魔法陣も淡く消えていく。

 後には澄み渡った青空と、何もかもが無くなった茶色の台地が広がっていた。


「な……な……な……」


 アルワンデは何がどうしたのか全く理解できない。周囲で同じように腰を抜かしてたり、頭を抱えて蹲っていたバッキゲル達が恐る恐る大竜巻が起こっていたアロバの方を見た。


 そこに人影が四つ。


 前線で暴れていた勇者。

 白金の鎧を身に纏っていた騎士。

 黒い鎧に身を包み、巨大な黒剣を肩に担いだ少女。


 そしてもう一人は黒髪黒眼、黒い見慣れぬ衣服に黒い外套を羽織った男。

 それは講談師の物語に謳われる『魔王』が人の姿をした時の姿そっくりだった。


「もうご主人様やり過ぎだよ、畑も何も皆無くなっちゃったじゃ無いか」


「しゃーねーだろ、どのみち毒をかぶってあの麦は全部はダメだろ」


「あーあ、父上今頃倒れてるかもしれないよ」


「んなもん戦場になった段階で覚悟を決めろって。まぁこれであらかたすっきりしたろ」


 そんな会話をのどかそうにしながらアルワンデ達の元にやって来る。


「ま……ましゃか……魔王?」


 バッキゲルが呻くように言った。


 物語曰く魔王軍の中でも最強の力を持つ魔王は配下の魔人達に露払いをさせた後、人の姿で突如現れ、にこやかな笑顔と裏腹に身も魂も凍るような残虐な方法で自ら敵将の首を取るという。


『魔王自らやってくるとは好都合。返り討ちにしてくれるわ』


 その話を聞いた時、アルワンデは鼻で笑ってそう言ったものだが。


「ま……ま……魔王?」


 その声にはそんな余裕など微塵にも無かった。


「あー、そうでーす。呼ーばれて飛び出てーバンババーンって言いたいところだが違うな。俺はボーガベル帝国皇帝ダイゴ・マキシマ。お前どうやらこの軍の大将みたいだな」


 アルワンデはバッキゲルに言ったつもりだったが返事は当のダイゴの方から来た。


「ひっ! ち、ち、違います! わわわ私は……そ、そう影武者で……ほ、本物のアルワンデ将軍はももも、もう逃げてしまいまして……」


「ひゃへっ!?」


 バッキゲルが素っ頓狂な声を上げ、アルワンデが慌てて眼で合図をする。


 既に二人とも脂汗をだらだらと流して必死の形相だ。


「そっかーそいつは残念だったなー影武者殺してもしょうがないしなぁー」


「そ、そそそそうでございますとも! ぜ、是非お慈悲を、ぐへっぐへへへ」


 アルワンデが土下座をし、バッキゲル達もそれに続く。


「そっかー、まぁ俺達の勝ちは揺ぎ無いし、もういいかなー」


「そうだね、ボクお腹すいちゃったよ」


「うむ、食前の良い腹ごなしになったな」


「ふむ、今日の昼餉は何かのう」


 ダイゴ達がくるりとカロルデ方向を向いた瞬間。


 合図も無しに一斉にアルワンデ達が剣を抜き、ダイゴ達に襲い掛かった。


 魔王自らノコノコと……バカめ……!


 貴様の首級を大王様に献上すれば……!


 だがダイゴに放った渾身の一撃は弾き飛び、再び尻もちを付いたアルワンデはバッキゲル達が三人の女に一瞬で斬り殺され、崩れ落ちるのを見た。


「悪いな、お前がアルワンデ本人だってのは最初から分かってたんだ。それに帯剣したままってのはまずかったなぁ」


 ダイゴが悪びれもせず手を振った。


「お……おのれ……魔王め……」


 弄ばれたと知って恐怖より屈辱から来る怒りがアルワンデの心に湧き、己が信じてはいなかった『魔王』という呪詛をダイゴに吐きつける。


「ああ? ふざけんなよ。毒の煙でカロルデ虐殺とか企む奴に言われたくはないな」


「う、うるさい! アロバ……いやノベオは元々ガーグナタの土地だ! そこに住まう人間も皆ガーグナタの物だ! ガーグナタがノベオをどうこうしようと大きなお世話だ!」


 アルワンデが半狂乱で叫ぶ。


「それでもアロバはアロバだよ。そのアロバの民を毒煙で皆殺しにしようとしたお前だけは、勇者であるボクが絶対に許さないよ」


 ダイゴの前に歩み出たコルナが静かに言った。


「ふん! アロバの勇者など所詮偽りの存在よ! 今に見ておれぇ! 必ずガーグナタが貴様らを滅ぼしてく……んごぉっ!」


 そう言って剣を振りかざしたアルワンデの喉元にエネライグが突き刺さった。


「それでも……勇者は勇者だよ」


 コルナがエネライグを引き抜きアルワンデは仰向けに倒れた。


「ご主人様、まだかなりの兵が残っているが」


 斃れたアルワンデには目もくれず彼方を見ながらセネリが言った。


「ああ、いいんだ。もうニャン子が下準備に入っている筈だから」


「ふむ、では帰るとするかのう」


「その前に毒の煙のお陰で身体中がピリピリするんだけど」


「あぁ、そうだなぁ。これで帰ったら皆に迷惑掛かりそうだ」


 ダイゴが両手に紫の魔法陣を展開する。


「『浄化ピュア』」


「あれ、くっさいのが消えてくよ」


「これなら風呂も要らんな」


「ふむ、それはつまらんのう、風呂上がりのこーひー牛乳が飲めなくなるではないか」


「そうそう、お風呂は心の生き甲斐だよねー、ご主人様ぁ今日はボクが背中流してあげるよ」


 そんな会話を残してダイゴ達の姿は戦場から消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ