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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十章 ガーグナタ復仇編

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第百二十話 支援

「そうですか……分かりました」


 ケンドレンは頭を下げてオラシャントの王城の門を後にした。


「どうでした?」


 離れた木陰に佇んでいるアレイシャの問いに首を振るケンドレン。


「今日も同じ。ここにはボーガベル帝国の人はいないし、何処にいるかも教えられないってさ」


 つまりは門前払いだ。


 彼らがここハルメンデルに到着して既に二十日余り。

 毎日のように王宮やその周辺を回ってボーガベル帝国の縁者に接触を試みようとしていたが、ボーガベルのボの字も見当たらないでいた。


「合併式典は明日だからいない筈は無いんだよなぁ」


 商店や食い物屋が立ち並ぶ王宮前大通りの茶店で一息つきながら二人は途方に暮れていた。


「それだけ警戒が厳しいという事でしょう」


 そう言ってアレイシャはシムロンという香りの高い茶を啜る。


「正直、路銀も乏しくなってきたしなぁ」


『マーシャ』の活動資金も決して潤沢では無い。

 それでもリョクレン達がかなりの無理をして旅費を工面してはくれたのだが、まさかここまで滞在が長引くとは予想していなかった。


「なればこれを売って……」


 アレイシャはやおら自身が身に着けてる首飾りを外そうとする。

 金の台座に彫られたガーグナタの紋章の中央に紫の魔石が嵌め込まれたそれは元々アレイシャの母親が身に着けていた物であったが、崖から落ちた時に母親の亡骸から外して身に着けたものだ。


「だ、駄目だって! それは絶対売ったら駄目だろうが!」


「身を明かすだけなら父上の短剣で事足ります」


 そういって薄汚れてはいるが美麗な装飾を施された鞘に収まった短剣を見せる。


「これはデレワイマスを討つときに必要ですから……」


 どちらにもガーグナタ王家の紋章が彫り込んであり、この二つだけがアレイシャの身分を証明出来る品だった。


「とにかく駄目だって! お母……母上様の形見を簡単に売るもんじゃないよ!」


 ケンドレンの口調が熱を帯びている。

 孤児だったケンドレンは親の物など何一つ持っていない。

 そんな彼が首飾りと短剣をさも自分の物のように輝いた瞳で見ていたのを思い出した。


「では、どうするのです」


「まぁ、任せてくれ。アレイシャはここにいてくれよ」


「ケンドレン、まさか貴方……」


「大丈夫だって、まだ腕は鈍っていないさ」


 そう言ってケンドレンはアレイシャを茶店に置いて人混みに向かっていく。


 さってと……良いカモは……。


 浮浪児時代に独学で覚えて磨いた技、今でも絶対の自信があった。

 裕福そうな金持ちを物色するケンドレンの目に楽しそうに話し込みながら歩いてくる一団が見えた。

 こざっぱりとした服を着た、二十代半ばの男の周りに侍女の獣人が二人と護衛の傭兵らしい女剣士が三人。


 何れも目を見張るような美貌の持ち主だ。


 フン、どっかの貴族か商人の御曹司ボンボンか……?


 あんないい女侍らしてるんじゃ、さぞ懐も暖かいだろうよ……。


 標的を定めたケンドレンが周囲を見渡すと、彼等の行く先にお誂え向きの曲がり角があった。

 人通りは少ないが、走って人混みに紛れれば追いつかれないと踏む。


 小走りに先回りし曲がり角を曲がると、影が差すのを待つ。


「おっとごめ……」


 影が差した瞬間角を飛び出したケンドレンは目指す懐に手を伸ばし、金入れらしき革袋に手を触れた瞬間、


 トトトトトトトッ


 伸びてきた計七本の剣がケンドレンの首や腹、背中に突き立った。


 周りにいた女達が一瞬で引き抜いた剣でケンドレンは手を伸ばした状態のまま固定され、身動き一つ取れなくなっていた。


「あ……う……」


「うーん、俺の財布を摺ろうとか良い度胸だが残念だったな」


 黒髪の男、ダイゴが余り残念そうじゃなく固定されているケンドレンをしげしげと眺めながら言った。


「ご主人様、コイツ殺しますか……にゃ?」


 首と腹にクナイブレードを当てたままニャン子が尋ねる。

 何れの切っ先も皮を破らない程度に当てられていた。


「あー別に良いよ。警兵呼んできて引き渡しちゃいな」


 その言葉を聞いてケンドレンは初めて全身から汗を拭き流した。


 まずい、今俺が捕まったらアレイシャが……!


 その時だった。


「申し訳御座いません!」


 物陰からアレイシャが飛び出して頭を下げた。


「私の連れが無礼を働いたようで、お詫び申し上げます!」


「アレ……イシャ……止め……ろ」


 ケンドレンが絞り出すように声を出したが、微妙に加減されているのか首筋の剣先は皮膚を破らないままだ。


 あのゴミ溜めの中であっても、ボロボロの衣服を着ていても高貴さと礼節を失わなかったアレイシャが自分のために頭を下げている。


 それだけでケンドレンの胸はやりきれない思いで一杯になる。


「アンタの連れはただぶつかってきただけじゃ無いよ。俺のこれを狙ってたんだよ?」


 ダイゴは懐の金貨が優に五十枚は詰まった革袋を取り出した。


「……大変な御無礼を働きました……もしお許し頂けるならこれを……」


 アレイシャは戸惑うこと無く首飾りを外してダイゴに差し出す。


「やめ……アレイ……シャ……」


「いや、別にそういうこと言ってる訳じゃ無いんだけど」


「ん? それって……一寸見せてよ」


 エネライグをケンドレンの背中に突き立てていたコルナがアレイシャから首飾りを受け取る。

 首飾りに彫られている紋章に見覚えがあったからだ。


「これ……キミの?」


 しげしげと眺めていたコルナがアレイシャに聞いた。


「はい……どうかこれで……」


「アレイシャってガーグナタのアレイシャ姫?」


 間近に顔を寄せて囁くように言った言葉にアレイシャはハッとして顔を上げた。


「やっぱり。一度会ったこと有るんだよね。ボクはコルナ」


「コルナ……アロバの?」


 アレイシャの記憶、あの出来事の向こうの忘れかけてた思い出の中に、目の前の剣士と同じ紫の髪、淡紅色の瞳の子供がいた。


「うん。久しぶりだね。こんな所で何してるのさ」


「コルナ様、この状況ではアレイシャ様は掏摸の命乞いを為さっておるものと……」


「あーセバスティアン煩いよ。そんなこと聞いてるんじゃないって」


「これは失礼をば致しました。ワテクシ、コルナ様にはそこからのご説明が必要かと早合点しておりました」


「え……誰が……」


「ご紹介が遅れました。ワテクシ、勇者コルナ様にお仕え致します支援剣身セバスティアンと申します。以後どうぞお見知りおきを」


「え? え?」


 コルナが構えてる剣がいきなり喋り始めてアレイシャは日頃は見せないポカンとした表情を浮かべた。


「あーもう黙ってってば。あ、でも……髪……」


 コルナが出会った幼いころのアレイシャは光り輝くような金髪だった。


「……」


 その言葉にアレイシャは俯いた。

 崖から落ちた恐怖と目の前で両親が死んだ絶望がアレイシャの髪を鈍色に光る銀に変えていた。

 以来、その銀髪はアレイシャにとって屈辱と復讐の象徴であった。


「……まぁいいや。ねぇ、何か困っているなら相談に乗るよ。ね? ご主人様」


「え……」


「オイオイ、こっちの男は俺の財布をだな……」


 ダイゴはメアリア達に囲まれてうなだれているケンドレンを指さした。


「えー良いじゃん、そんな小さい事気にするのご主人様らしくないよ」


「いや、普通気にするだろ?」


「それに困ってる人を助けるのが勇者でしょ?」


「あのなぁ……」


「いいからいいから。それで、一体何をしていたのさ」


「あの……私共はボーガベル帝国の方を探しているのですが……」


 急な事の成り行きに唖然としながらもアレイシャが言った。


「なら丁度いいや! なんてったってご主人様はボーガベル皇モガフガゴガッ」


「まぁしょうがねぇか。俺はダイゴ。ダイゴ・メキシコ。ボーガベルのサクラ商会の者だ。一応帝国には顔は利くぜ」


 後ろから口を塞ぎ、やれやれといった感じでダイゴが言った自己紹介にコルナが頷く。


 ボーガベルの……!


 その言葉にアレイシャとケンドレンはハッと顔を上げた。

 ハルメンデルにもボーガベルに縁の深いとされる商会はあり、勿論それらも当たってみたが色よい感触は得られなかった。

 帝国に顔が利くなどと普通は詐欺師の常套句だが、何より手詰まり状態だったアレイシャがやっと掴んだボーガベルとの接点。

 例え嘘でも乗るしかなかった。

 それにアロバの姫だったコルナが一緒の人物ならあながち嘘ではないだろう。


「私はアレイシャと申します。改めて連れの無礼をお詫びいたします」


「ケ、ケンドレンです……すみませんでした……」


 アレイシャは優美に、ケンドレンは米つきバッタの様にペコペコと頭を下げる。


「コイツらは俺の護衛のワン子、ニャン子、メアリア、セネリだ」


 四人はケンドレンへの警戒を解かないまま頭を下げた。


「コルナ様は魔王討伐の旅で亡くなられたとお聞きしましたが……」


「やっぱりガーグナタじゃそう言われてるんだ」


「では……」


「ではも何もこうして生きてるじゃないか。まぁ今はもうアロバの姫じゃ無いけどね」


 ボヤいてすぐにコルナは屈託無く笑った。



 一同はハルメンデルでは名の知れた高級食堂に入った。

 この店を選んだのは商人が商談や接待に利用するために個室がある為だ。

 勿論料理も一級品で、ケンドレンは目の前に次々と並んでいく産まれてこの方見た事も無い料理に喉を鳴らしていた。


「私たちは打倒デレワイマス王朝を掲げた『マーシャ(小熊)』を組織し、活動しています」


 湯気の立つ肉料理にむしゃぶりつくケンドレンとは対照的にアレイシャは美麗な盛り付けの野菜料理を一口だけ口にすると切り出した。


「ふむふむ」


 肉を頬張りながらダイゴが頷く。


「ぼう、ぼひゅじんばま、おぼうびばぶびぼ」


「ダイゴ様、コルナ様は『もうご主人様、お行儀悪いよ』と申しております」


「お前に言われたくねぇな……」


「凄いな……本当に剣が喋ってるんだ」


 大きな肉を飲み込んだケンドレンが感心して隣の席のコルナの背中のエネライグに触れようとする。


「おっとこれはケンドレン様、迂闊にワテクシに触れますと凄く痺れたり致しますのでご注意くださいませ」


「うへ……」


 慌ててケンドレンは手を引っ込める。


「……ですが、私達の今の活動ではデレワイマスを討つことはおろか、ガーグナタに甚大な損害を与えることもままならずにいます」


 話の腰を折られて少し閉口した様子のアレイシャだったが気を取り直して続ける。


「甚大な損害って、具体的にその『マーシャ』ってのは何やってるの?」


「はい、バゲンディギア各所の武器蔵を襲って火を放ち、戦力を漸減するのが主な活動です」


「……へぇ」


「あ、あと、厩に喧噪鳥を放り込んで馬を暴れさせたりとかもしてるぜ」


「あ……そう……」


 自慢気にいうケンドレンとは対照的にダイゴとコルナ以外の眷属の表情が曇っていく。


「喧噪鳥ってあの押すとけたたましい鳴き声出す鳥だよね。あれ煩いんだよね」


 コルナは笑って言ってるが、


 たしかそんなオモチャが元の世界にあったよなぁ……。


 ダイゴはそんな事を考えてるだけだった。


「ですが我々『マーシャ』の目的は現王デレワイマスを倒す事です。そこでボーガベル帝国にそのお力をお借りしたいのです」


「ふむ……」


 拍子抜けのようなダイゴの返事にアレイシャは若干の不安を覚える。


 この男は本当に信頼出来るのでしょうか……。


 だが一見凡庸にも見えるこの男に名状しがたい何かを感じている。

 ただ者でないことは本人とコルナや周囲を取り巻く女達を見れば理解できる。


 一番当てはまるのが皇帝その人だったが、市井の民の格好をして街中を昼日向に女達を侍らしてふらついてる君主など聞いたことが無い。


 それこそ一日の大半を後宮での淫靡な行いに耽っていると噂されるデレワイマスの方が悪い意味でだが君主らしい。


「こう言っちゃあナンだが、ガーグナタ自体の治政は至極安定してるらしいじゃん。それを転覆してどうするのさ」


「ガーグナタの治政は周辺の領国の犠牲によって成り立っています。領国は正規の供貢物だけではなく犯罪組織ヒディガによる不法搾取によって各国は疲弊しています。コルナ様ならお判りでしょう」


「うん、ボクも最近気づいたんだけどね」


「それにガーグナタはアロバと……ここオラシャント征伐を決め、それぞれに軍団を派兵しています。まもなくここハルメンデルもガーグナタに侵略されます。決して他人事ではない筈です」


 これはアレイシャに取っては交渉のカードのつもりだった。


 ガーグナタの情報はボーガベルも欲しい筈……。


 その情報源として『マーシャ』の活用を強調できれば……。


 だが、


「それもとうに知ってるんだよね」


「え……?」


「悪いが、アロバとオラシャントにガーグナタが攻めてくるのは、こっちがそう仕組んだからだ」


「な……あ……貴方は……一体……」


 ここでアレイシャは気のない返事をしているこの男が本当にただ者でないことを悟った。


 この人は……まさか……。


「俺? 俺は一応ボーガベル帝国皇帝なんだよね。これが」


「げぇっ!」


「!」


 ケンドレンは素っ頓狂な声を上げ椅子から転がり落ち、アレイシャは両手で口を覆った。


「もう、ご主人様! ここで話すんだったら何でさっき口を塞いだのさ!」


「いや、お前あんな往来で言う話じゃねぇだろうが」


「ぶー! ボクの時とは偉い違うじゃないかぁ」


 コルナがむくれながら大きな肉を口に放り込む。


「で……では……貴方が東大陸の魔王……ダンガ・マンガ……」


「あーそれはまぁ正しくはないよ。大体皇帝なのになんで魔王なんだって話じゃん」


「な、ならば改めてお願いします。我々『マーシャ』にお力をお貸し願えないでしょうか」


 いきなりの展開に面食らった形のアレイシャだったが即座に気持ちを切り替えて頭を下げる。


「それだけどさ、あまり意味が無いんだよね」


 ダイゴはつまらなさそうに手を振った。


「そ、それはどういう事でしょうか」


「意味っていうか我々に利が無い。ガーグナタが仕掛けてくれば我々ボーガベルは即応戦し戦争になるだろう。そうなれば状況にもよるが最終的にはデレワイマスを討つ事になる。そこにアンタたちの入る余地は無いってことだ」


「しかし、ならばなおのことボーガベルと『マーシャ』が内外で連携して事に当たれば……」


「アンタたちの活動を聞かせてもらったが、言っちゃ悪いがチマチマ放火したりとか馬を逃がしたりとか悪童の悪戯に毛が生えたようなもんじゃん? それって結局本当にガーグナタに打撃を与えられているのかい?」


「そ、それは……」


 アレイシャもケンドレンも言葉に詰まった。

 ダイゴは口には出さないが実際バゲンディギア自体に内部から打撃を与えるならニャン子一人で十分だろう。

 実際この後ニャン子をバゲンディギアに送って諜報活動と必要あらば破壊活動を起こさせるつもりでいた。


「それに支援って具体的に何をするんだ? 単に資金や人員を供して『マーシャ』のお手伝いをするってんだったら意味も利も無いんだけど」


 ダイゴの言い分はアレイシャにも十分理解できた。

 アレイシャとて今の『マーシャ』の活動でデレワイマスを打倒できるなどとは本気で思ってはいない。

 だが、いつかは何かしらの形でデレワイマスを討つ機会が来る事だけを信じてきた。

 そしてその千載一遇の機会への足掛かりがようやく訪れ、そして脆くも消え去ろうとしている。

 

 その自信はどこから来るのかは分からないが、目の前の男はガーグナタを少しも恐れずに勝つ気でいる。

 そのような男に取って『マーシャ』などむしろ足手纏いでしかないのだろう。


 でも……それでは……仇が……。


 この男を動かす利……。


「な、ならば私を差し上げます!」


 突然アレイシャは床に這いつくばって叫んだ。


「お、おい! アレイシャ!」


「私は……何としても……デレワイマスを……父と母の仇を討ちたいのです……その為でしたら……この身を貴方に捧げます……ですから……どうか……どうか……」


 ケンドレンの言葉も耳に入らず、アレイシャは額を床に擦り付けて懇願した。

 アレイシャにとっては最後の切り札、最後の賭けだ。

 決して勝算がある訳ではない。

 周りの女たちの美貌が、この男が乗る可能性とアレイシャを拒絶する可能性を示していた。


「……確かに亡き王の遺児が復仇の為に己の身を捧ぐ。いい話だ」


 少し考えた後にダイゴがそう言った途端眷属たちの視線が一斉に刺さる。

 アレイシャの心に若干の光が差す。


「う、ケンドレンとやら、アンタはそれでいいんかい?」


 視線にたじろいだダイゴがケンドレンに振る。


「それは……」


 ケンドレンは下を向いた。

 その会話でアレイシャの心に差していた光は消えてしまった。


「まぁ肯定はできんか。どちらにしてもボーガベルが『マーシャ』を支援する事は出来ない。これが正式回答だ」


 床に伏したアレイシャの身体が震えた。


「そんな、ご主人様……」


「コルナ様、ご自重ください」


「う……」


 セバスティアンに窘められコルナも二の句が継げなかった。


「……分かりました……もう結構です……」


 そう言って立ち上がったアレイシャは怒りと悔しさを押し隠すように目を伏せた。


「ボーガベルの助力は諦めます。ですが我々『マーシャ』は自分達の力で必ずデレワイマスを討って見せます。ケンドレン、行きましょう」


 アレイシャは一礼するとダイゴ達に背を向ける。


「あ、おいアレイシャ!」


「まぁ慌てんなよ。話はまだ途中だ」


「まだ何か仰り足りないのですか?」


 手を振って制するダイゴに振り向いたアレイシャは厳しい目を向ける。


「ボーガベルとしては支援は出来ないが、俺が個人的に支援してやるよ」


 そうダイゴが言った途端眷属たちから複雑な色を帯びた安堵の溜息が漏れた。


「そ、それはどういう事でしょうか」


 思いがけない言葉にアレイシャの視線が緩んだ。


「強力な助っ人を付けてアンタらのその『マーシャ』って奴の活動を支援してやろうって事だ」


「助っ人……ですか……」


「まぁ一騎当千っていうか、下手な兵隊たちより強力だぜ」


「それは一体……」


「助っ人は四人、まずコルナ」


「はーい! えへへ、やっぱりご主人様だ」


「ワン子」


「はい」


「ニャン子」


「はいはい……にゃ」


「あと一人は……勿論俺だ!」


 その直後に起こった眷属たちの先程とは逆の意味の溜息にアレイシャとケンドレンは呆然とするばかりだった。




 それから三日後、隣国シムオ公国を出発したガシュノ・ブッド麾下の『激流』兵団五万及びシムオ公国を始めとする領国から徴発した三万を加えた総勢八万余の軍勢は国境を越えハルメンデルを遠くに望む場所に到着した。


「ふむ、予定通り合併式典の前日に到着できました。流石我が『激流』」


 大将軍ガシュノ・ブッドは満足そうに頷き、大型馬車を降りると既に平伏していた配下の将軍達に言い放った。


「陣を敷き次第兵たちにはたっぷりと休息を与えなさい。明朝夜明けを持ってハルメンデルに攻め入ります」


「はっ」


「ショクネン! お前は直ちにハルメンデルに向かい、無条件降伏を勧告してきなさい」


「畏まりました」


 副将でもあるショクネンが頭を下げる。


「ああ、無条件と言ったが一つありました。ハルメンデルにアレイシャという銀髪の女がいます。その女を差し出せと付け加えなさい」


「アレイシャ? まさか……」


「そのまさかです。今朝伝書鳥がシュウシオ殿からの書状を持ってきました。無傷で大王様に献上せよとの事」


「承知いたしました」


「ふん、悪いですねアルワンデ。どうやらこちらが当たりくじですな」


 ガシュノの口元が大きく歪んだ。

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