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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第十章 ガーグナタ復仇編

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第百十八話 ガーグナタ王国

 アロバ王国ベルビハスの街。


 町の南にある比較的裕福な人々が住まう住宅街の一角。

 一軒の豪華な屋敷の前に男たちがたむろしている。


 風体も目つきも悪い男たちに周囲の住民も遠巻きに見るだけ。

 警兵を呼ぶ人もいないのは、その家が犯罪組織ヒディガの大幹部、ギシャム・ジンドの屋敷であり、ヒディガのアジトでもあったからだ。


「ガホッ!」


 玄関先の広大なホールとも呼べる広間で椅子に括りつけられた男にに容赦なく拳を入れてるのはヒディガの者たち。

 息も絶え絶えに呻いているのはこの街の警兵隊の隊長ガロラ・ボウンズだ。


「あなたぁ!」


「お父さん!」


 自宅を襲われ、一緒に拉致されてきた妻と娘の悲鳴が上がる。


「ごぼっ……貴様らぁ……」


「へっ! 何が貴様らだ! 散々金を貰っておきながらここにきてヒディガに盾突きやがって」


「グウ……ギシャムは妻子には手を出さないとグハッ!」


 更にガロラの顔面に拳が飛び、血飛沫が舞った。


「や! 止めて下さい!」


「お父さぁん……」


「ああ? 関係ねぇなぁ。もうギシャムはいねぇんだ。これからここのシマはこのオレ様のもんだ」


 アロバのお家騒動によって、ヒディガの首領の一人であるクンゾォ大司教は行方不明になり、その配下であったギシャム・ジンドも消息知れずとなって一月余りが経った。


 統制を失ったアロバ地方のヒディガに追い打ちを掛けるように各都市での警兵隊の取り締まりが強化され、大勢のヒディガ構成員が捕縛された。


 業を煮やしたベルビハスのヒディガが意趣返しとばかりに警兵隊の隊長であるガロラとその家族を拉致したのだった。


「これからお前の嫁と娘をたっぷりと可愛がってやるからそこで大人しく見てな!」


「や……やめろ! 妻と娘にゴフゥッ!」


 腹に蹴りを受けて呻くガロラ。


「黙ってみてろな! まぁ一晩たっぷり可愛がって自分から股を開いて懇願するように仕込んでやるからよう」


 ニヤついた男達が母娘を取り囲む。


「ひっ!」


「い、いや……」


「へへへ、二人とも随分と上玉じゃねぇか。たまんねぇな」


 ガロラの妻はベルビハスでも著名な美人で、十四になるその娘も母親似で界隈では有名な気立てを持っている。


「ははは! 飽きたら娼館で母娘で客を取らせてやるか? なぁ?」


「や、止めて下さい! 娘には!」


「ほう、じゃあアンタが娘の分も相手してくれるのかい? 俺はそれでもいいぜ」


 まだ二十前半にも見えるガロラの妻の身体を舐め回すように見ながら男は言った。


「……娘には手を出さないでもらえますか?」


 俯きながら意を決して妻が言った。


「ああ、俺はこう見えても約束は守る性分だ」


「あの……せめて娘と主人には……」


「ああ、いいぜ。おい、お嬢ちゃんを別の所へ連れて行きな」


「へい!」


 これが彼らの手口だ。

 別室に連れていかれたが最後、娘にも男達は襲い掛かる腹積もりだ。


「お母さん!」


 ……へっ、朝には淫乱母娘に仕上がってガロラと感動の再会としゃれこませてやるがな……。


 その様を思い描いて思わずニヤけた男の視線の先には見知らぬ男が憤怒の形相で睨みつけていた。


「な! 何だテメェ! いつの間に?」


「んな事はどうでも良い。 お前ら俺の前でそういう胸糞悪い話をするとは良い度胸だなぁ」


「な……うるせぇ! 勝手に人の屋敷に上がり込んできやがって!」


 そう言うや周りの男たちが殺到する。


「あっ! て、テメェあの時の……」


 ヒディガの一人がその黒衣黒髪の姿を思い出した。

 一月ほど前にギシャムの命でコルナ姫を攫った時にやはり突如現れ、次々と仲間を叩きのめし、ギシャムの意を受けたガロラ隊長が突入していなければ全滅していたかもしれない程の強さを見せた男。


「そう。あの時のテメェだ。そして」


 ドバン!


 扉が蹴破られ、白い鎧の首に赤いマフラー状の布を巻いたコルナが現れた。


「ヒディガの悪人ども! お前達の悪行もここまでだよ! 覚悟しろ!」


「コ……コルナ姫だと!? なんでここに?」


「お前たち悪党に語る口は無い! ……来い! エネライグ!」


 ドスン!


 一瞬だけ躊躇ったコルナが叫んだ途端、天井を突き破って何かが床に突き刺さった。

 それは白金色に光る剣身と、大小二つの紅い魔石がはめ込まれた柄のエネゲイルより二廻りは大きな剣だった。



「……」


 突然の事にヒディガの者もガロラ隊長とその妻子も呆然と見ているだけだ。


「皆様、お初にお目に掛かります。ワテクシ、勇者コルナ様にお仕え致します支援剣身セイバースティアン、人呼んでセバスティアンと申します。以後どうぞお見知りおきを」


 突如ベラベラと言葉を発し始めた剣に取り囲んだヒディガは口を開けたままだ。


「な、何だ……その奇っ怪な剣は……」


「奇っ怪とは大変失礼でございますな。ワテクシこう見えましても……」


「ちょっとセバスティアン、暫く黙っててよ」


 腕を腰に当ててコルナは突き刺さった剣に文句を言い始めた。


「これは失礼をば、ワテクシ、この初出陣の場においていささか興奮気味で御座いまして……」


「セバスティアン」


 コルナがエネライグを睨みつける。


「……畏まりました」


 静かになったエネライグを握って引き抜くとコルナは剣を担ぐような構えを取る。

 ダイゴ直伝の「神輿担ぎ」の構えだ。


「……あ、相手は二人だ! たたんじまえ!」


「オウ!」


 気を取り直して短剣を引き抜いたヒディガの男達がダイゴとコルナに襲いかかる。


「全く、コイツらには学習能力は無いんだな」


「ご主人様! ボクに任せてよ!」


 コルナがクルリと回転するとエネライグの剣面で二人を薙ぎ倒し、翻して別の男の脳天を叩く。


「げはぁっ!」


「がほぉっ!」


 空気抵抗の為、振るのに難しい剣面での打撃をコルナは軽々と繰り出して次々と男達を薙ぎ倒していく。


「お、おいっ!」


 男達の内の二人がガロラの妻と娘を引き起こして短剣を突きつけた。


「コ、コイツらが……」


「『頭脳衝撃システムクラッシュ』」


「ポニャ……」


「ホニャラ……」


 紫の魔方陣を展開したダイゴが手を翳すと男達は呆けた顔でその場にへたり込んだ。


「ええぇいっ!」


「べびっ!」


 顔面にヒットしたエネライグの強烈な一撃で最後の一人が一回転して昏倒した。


「しゅーりょー!」


 コルナが再びエネライグを肩に担いでポーズを決める。


 そこへニャン子とワン子が入ってきた。


「ご主人様、屋敷外にいたヒディガは全員拘束致しました」


「ご苦労さん、作戦終了だな」


「ご主人様ぁ、褒めて褒めて!」


 コルナはダイゴの前に頭を出してきた。


「お前ねぇ、ご褒美をおねだりする勇者がいるかよ」


「いいじゃないかぁ、今のボクはご主人様の奴隷姫だもん。はやくはやくー」


「あーよしよし」


 ダイゴがコルナの頭をクシャクシャと撫でてやる。


「えへへー」


「あー、私もしてほしい……にゃ」


「ヘイヘイ、いい子いい子」


 そう言ってコロコロと喉を鳴らすニャン子の頭も撫でるダイゴはもう一つの視線に気が付き、一瞬目を逸らしながらもおずおずと頭を寄せてきたワン子の頭も撫でてやる。



「あなたぁ!」


「お父さん!」


 コルナによって拘束を解かれたガロラの妻と娘が同じくワン子に拘束を解かれたガロラに縋り付いた。


「済まない、お前達を危険な目に合わせてしまった……」


「ガロラ隊長」


「コ、コルナ様! 何時ぞやは……その……」


 慌ててガロラは平伏し、妻子もそれに倣う。


「うん、隊長がギシャム達を逃がした事は知っているよ」


「! ま、真に申し訳ございません!」


「でも隊長がその後ヒディガの掃討に力を入れて捕まった事も皆知ってるよ」


「コルナ様……」


「それにもうボクはアロバの姫じゃ無いから、隊長を裁く権限なんて無いよ」


「で、では何故……」


「俺がヒディガを潰すと決めたからだ」


「あ、あなたは……」


「この人は東大陸の皇帝、ダイゴ・マキシマ陛下だよ」


「うん、巷では魔王などと間違った……」


「うっげぇ! ま、魔王! い、命ばかりは……お、お助けを!」

 

 ガロラは顔色を真紫にして震えあがり、


「ひぃぃっ! ふぅ……」


 妻は失神して床に倒れた。


「お、お母さん! しっかり! ひっ! いやぁっ! 殺さないでぇ!」


 娘は失禁しながら泣き叫んでいる。


「あんた達……容赦ないね……」


 魔王討伐に向かったコルナ姫が逆に魔王に討たれたという報せは、魔王の軍勢が報復にアロバを攻めてくるといった噂を呼び、人々を畏怖させていた。

 ガロラ一家の恐怖も無理なからぬところだ。


「と、とにかくここにいるヒディガは連れて行くから。隊長は一生懸命街を守ってね!」


 抱き合って恐れおののくガロラ一家を尻目に、更に押し入ってきた覆面姿の大男達(アーノルド部隊)がヒディガ達を外へ運んでいく。


 がっくりうなだれるダイゴの背を押しながらコルナ達も外へ出ていき、後にはヒディガに拉致された事よりも大きな恐怖に震えるガロラ達だけが残った。



 夕刻、ベルビハスの食い物屋『肉焼き一番』。


 以前ダイゴ達が立ち寄ったこの店に再び四人が卓を囲んで夕食をとっていた。


「ふぉんなふぃふぉへふぁいふぇほ、ふぉひゅひんふぁま」


 口いっぱいに肉を頬張ったコルナが何か言っている。


「ダイゴ様、コルナ様は『そんなにしょげないでよ、ご主人様』と、申しております」


 コルナの背中のエネライグがすかさず解説しだす。


「んんぐっ。ああもう自分でちゃんと喋るから良いよ!」


 慌てて果実酒と一緒に飲み込んだコルナが後ろを振り返りながら言った。


「もう、ご主人様ぁ。これどうにかならないの?」


 そう言って背中のエネライグを指差す。


「んん? コルナの教育に丁度良いと思うんだがなぁ」


「それってボクが丸でバカだって言ってるようなもんじゃないかぁ」


「そうは言ってないじゃん。まぁコルナには軽慮浅謀なとこがあるからなぁ。それを補う意味でだよ」


「もう、またご主人様は難しいことを言うよ」


「コルナ様、軽慮浅謀とは軽々しく浅はかな、真にコルナ様を正しく表すお言葉で……」


「あーもう、セバスティアンは黙っててよ!」


「ヒディガ構成員は予定通り、魔導輸送船にてボーガベルの矯正収容キャンプに送られます」


「うん、真人間になってくれるとイイナー」


 ワン子の報告にダイゴは肉焼きを摘まみながら答える。

 そこにはバッフェの傭兵隊とその隊長アラモスが、元々は傭兵だったヒディガの面々を厳しく鍛えあげる為手ぐすねを引いて待ち構えている。


「ご主人様の言い方はそうは聞こえないよ」


 肉叉に刺した肉を振ってコルナが笑った。


「そんな事はナイヨー、まぁあとはガーグナタの方だな」


「クンゾォ大司教はバゲンディギアに戻ったので?」


「ああ、それなんだがなぁ……」


 そう言ってダイゴは大きな肉を頬張って天井を見上げた。






 西大陸南部に広大な領土を持つ百万国家、ガーグナタ王国。

 百万国家とは大国の俗称のことであり、実際の人口は約百八十万超という名実共に西大陸において一、二を争う大国家だ。


 そのガーグナタの王都バゲンディギア。


 山一つに数十年の歳月を掛けて幾層もの城壁や堀、矢倉塔が複雑に入り組んだ迷路を構築した、難攻不落の鉄壁都市の別名を持つ巨大な要塞である。

 その為に都市人口約十万と他国の首都に比べ人口は少なく、大半が軍属かそれに類する者とその家族で占められていた。


 その要塞の頂にそびえる王城シンドメン。


 サッカーコート一面分は優にあろうかという広さの『大王の間』。

 長く引かれた緋毛氈の両脇に王国六州の長にして軍を支える六将軍と官吏が控える。

 その先の高座にある豪奢かつ巨大な椅子に若干肥満気味の男がが座っていた。


 大王デレワイマス・ドミデガンザ・イグリオヌ・ド・ガーグナタ七世である。


 緋毛氈の端に相対して跪いているのはアロバ王国より帰国したクンゾォ大司教。

 ヒディガの首領の一人である彼は同時に正式なケドリア教の聖職にも就いていた。


「……以上がアロバの顛末で御座います」


「ふうむ、コルナ姫が生きており、セソワ姫は勇者になれなんだか……」


「大王様のお言葉のままに」


「ふむ、あい分かった。クンゾォよ、下がって良い」


「大王様のお言葉のままに」


 頭を下げたままクンゾォ大司教は大王の間から退出していった。


 ガーグナタでは一般の者、宰相と六将軍以外は例えケドリア教の大司教といえど大王に対し聞かれたことを応えることしか許されておらず、後はこの


「大王様のお言葉のままに」


 の言葉のみで答えねばならなかった。


「宜しいのですか? クンゾォに罰をお与えにならずに」


 早速脇に控えていた初老の小男、宰相を務めるシュウシオ・ゲブンジョが小声で囁いた。


「構わん、彼奴にはまだ使い道があるでのう」


 クンゾォ達ヒディガの三人の首領がもたらす利益、裏年貢や賭博、売春、そして麻薬等の上納金等の額は莫大な物で、それらは全てデレワイマス大王の贅につぎ込まれている。

 現にこの登城に当たってクンゾォは莫大な金品を裏で持参していた。


 それを鑑みれば属国の叛意などデレワイマスにとっては些細な事柄であった。


「大王様のお言葉のままに」


「それで、ボーガベルだったかのう……何だそれは?」


 デレワイマスは一転気の抜けた顔でシュウシオに尋ねた。


「東大陸に於いて統一を果たした魔王の国と聞きおよんでおりますが」


「ふうむ、その東大陸の魔王の手の者がなぜ我が大陸におるのだ?」


「ボーガベルと名乗る国はオラシャントを近々併合するようで、我が国にも挨拶の使者が先日参りました」


「ああ、そう言えばそんな者もおったな」


「恐らくはアロバはボーガベルを後ろ盾にする腹づもりで御座いましょう。なればこそセソワ姫の参内をあれこれ引き延ばしておるものと」


「そうか、勇者という花を手折るのが楽しみであったのにのう」


 その言葉には然程残念という響きは窺えない。


「いずれにいたしましてもアロバには叛意ありと」


「で、どうするのじゃ?」


「アロバには直ちに兵を差し向け征伐いたします。ボーガベルなる国に乗っ取られる前に奪い返すのが最善でございましょう」


「ふむ、ならばこれを機にアロバは古来の我が国の名前、ノベオに戻すがよい」


 これはアロバ王国の滅亡を意味していた。


「大王様のお言葉のままに、アルワンデ・パブノ将軍!」


「はっ!」


 緋毛氈の脇に並ぶ中から吠えるような響きと共に濃緑に逆巻くような髪の赤い鎧姿の大男が声を上げると大王の前に進み出て跪いた。


「大王様の忠実なる僕、『烈火サキュネ』のアルワンデ・パブノ参上致しました」


「アルワンデ将軍、先の話は聞いたな」


 黙する大王に代わり宰相のシュウシオが口を開く。


「はっ、アロバに何やら魔王ダンガ・マンガを名乗る異国の者が巣食っておると」


「うむ、そこで将軍には直ちにノベオへ向かい、速やかに我が領土を奪還して貰いたい」


 アルワンデはガーグナタ王国の領地だった頃のアロバの地名を出され、即座に状況を理解した。


「畏まりました。直ちに我が精兵五万を率いノベオを取り戻してご覧にいれます」


「うむ、将軍に取っては何事でも無いであろう」


「はっ、必ずや大王様のご期待に応えて御覧にいれまする」


「ああ、将軍、ノベオ地方のアロバの垢は綺麗に落としておくように」


「承知致しました」


「続いてガシュノ・ブッド将軍!」


 シュウシオの言葉に次に青い鎧を纏ったニメルテを越えるが金色の長髪をなびかせた細面の男が進み出た。


「大王様の僕、『激流ブシャニオ』のガシュノ・ブッド参上致しました」


「ガシュノ将軍には手勢を率い、ボーガベル帝国領オラシャントに向かって貰おう」


「はっ」


「彼の国は以前より空飛ぶ船の献上を拒み、今またノベオを掠め取ろうとしている国故、きつい祝いをくれてやるが良い」


「畏まりまして御座います」


「うむ、土産に空飛ぶ船を忘れぬようにな」


「承知致しました」


「大王様、このような取り計らいで如何でございましょうか」


「うむ、良きに計らえ。では余は後宮に戻る。後は任せたぞ」


「大王様のお言葉のままに」


 シュウシオと六将軍、そして官吏が頭を下げて見送る中、輿に乗ったデレワイマスは後宮へ続く通路に消えていった。


 シュウシオと官吏も去り、その場には六代将軍が残った。


「魔王ダンガ・マンガの国ボーガベル帝国か。まさか実在するとはな」


「ほう、公は早速怖じ気づいたので?」


「馬鹿を申すな。いい加減蛮族共や北の腰抜け共の相手も飽きてきた所よ」


「多少なりとも歯ごたえが有れば良いですがな」


「公の方こそ、オラシャント攻めは如何するよ」


「何、オラシャントの戦力など所詮は商人の国らしく吹けば飛ぶような物。一日も有れば十分でしょう」


「ならば競争としゃれこむか」


「宜しいですよ。何かお賭け致しますか?」


「余り相手を軽んじるのはいかがなものか」


 冷や水を浴びせるように二人に声を掛けたのは最年長の老将『泰山グォロズ』のオリブ・デセングブ。

 獅子の如き赤銅色の髪と髭を蓄え、片目は戦場での功を物語る眼帯を付けている。


「これはオリブ殿、ご忠告感謝致します。だがわが兵団は貴殿の五倍はおります故、ご心配為さらずに」


「……」


「左様、ご老体は他者を心配為さるよりも大王様のお命じになられた道普請に御注力為された方が宜しいかと」


「……」


 二人の将軍の侮蔑混じりの言葉にオリブは沈黙したままだ。


「オリブ殿、戦に出たい気持ちは分かるがもう少し賢くふるまわれるがよいぞ」


 嘲笑混じりの言葉と共にアルワンデ達五人の将軍は大王の間を出ていった。


 シンドメンを出て屋敷に戻る馬車の中でオリブは溜息を付いた。


 今でもオラシャントと交易は行われてはいるが、それは全て陸路でのみだ。

 一度オラシャントが空飛ぶ船を披露して空路便の開設を要望したときに、デレワイマスは


「その船を全て余に献上するのだ」


 そう言い放って交渉は決裂した。

 以来ガーグナタはヒディガを使って幾度となく魔導輸送船の奪取を試みているが悉く失敗している。


 問題はあの様な物を持つ者達の力を見極めねばならぬという事だ……。


 だが先代王に忠も信も厚かった故に、今のデレワイマスに疎まれ、五万の兵を五千にまで減らされた挙げ句、道普請の閑職に回された今のオリブにはどうすることも出来なかった。


 ふと、馬車が止まった。


「どうした?」


「オリブ様、火事のようで御座います」


 剣の柄に手を掛けて聞いたオリブに御者が答えた。


 簾のようになっている窓を開けると少し先の建物の窓から煙が噴き上がっている。


「五十三番武器庫か……」


 暫くその様子を見ていたオリブだが、簾を降ろすと


「やってくれ」


 その声に馬車は野次馬を押し分けるように進んでいった。


「無益な事を……」


 そんなオリブの呟きを残して。


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