表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第九章 アロバ勇者譚編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/156

第百十一話 強行突破

「さて、一気にオラシャントまで行くぞ!」


 背後の山脈とは対照的に目前には荒涼たる砂漠にも近い荒野が広がっている。

 オラシャントまでは目と鼻の先だが油断はできない。


 コルナ、ミチョナそして三頭のシギルを守りつつ、ヒディガの奴らを撃滅する。


 正直村に馬がいなかったのは少々困った。

 そこでこっそり疑似生物の馬を創造しようと思ってたが、いきなり馬がその辺にいましたーは不自然だしあれこれ理由を考えていたらミチョナが名乗り出てくれた。


 村長によるとミチョナはシギル使いだった両親とシシャルに向かう途中でヒディガに襲われたらしく、ミチョナと三頭のシギルだけが村に戻って来たそうだ。


 だからヒディガの事を嫌っていて、そのヒディガに騙された事に責任を感じていたのだろう。

 俺を信じると言った時のミチョナの目におれは賭けることにした。


 疾駆するシギル達に曳かれた改造馬車は門を飛び出すとヒディガの包囲の薄いところに突撃する。


 ゴーレム由来の台車は車輪は飾りのようなもので浮遊している為、ありがちな車輪を破壊されて立往生などという事は無いし、曳くシギル達の負担も軽く済む。

 何より揺れが殆どないので戦闘時に不安定な足場を気にしなくて済む。

 あと、コルナが乗り物酔いしないというのも利点だが……。



「シェアリア!」


「……『八芒守星陣オクタシールド』!!」


 御者台のミチョナの脇に座っていたシェアリアが前面に展開した白い魔法陣が呆然と見ていたヒディガの連中を撥ね飛ばす。


「ぎゃっ!」


「げぅっ!」


 撥ね飛ばされてゴロゴロと地面を転がっていく手下どもをチラと見送りながらそのままヒディガの囲みを強引に突破し、西に突き進む。


 アイツら元の世界に転生したりはしないだろうな……。


「ミチョナ! 絶対速度を落とすな! ウルマイヤ! シギル達の側面防御!」


「分かった!」


「ははははいっ!」


 三頭のシギル達は前日ののどかな歩みから一転、猛牛の如き速度で突進していく。


 振り返ればギシャムの乗った大型馬車を筆頭に向きを変えて追っ来た。

 まずは第一段階は成功だ。


「ダイゴ、良いの? あんな事言ったけど村は」


 遠ざかっていく村を心配そうに見つめながらコルナが言った。


「大丈夫だ、強力な助っ人が来てくれるから」


「助っ人? いつどうやって呼んだのさ?」


 昨日のうちに『転送』でアジュナ・ボーガベルとオラシャント、そしてオドイ村をこっそり行き来して下準備をしておいた。

 コルナや村娘が食べていた食料はその時に持ってきた物だ。


 ……なんて話は勿論コルナには出来ないしその暇もない。


「それよりこっちの事に集中してくれよ」


「う、うん……あれ? 何だろう」


 コルナが空に細長い雲を見つけた。

 その先端に何かがあるがそれが何なのかはわからないみたいだ。


「お、来たな」


「ダイゴ、アレが何かわかるの?」


「まぁな」


「ねぇ、疑わないから何なのか教えてよ」


「んん~、地上最強生物」


「は? 何それ、地の竜じゃあるまいしそんなのいる訳無いじゃん」


「やっぱ疑うじゃねえか」


「もう、ダイゴの話は突拍子無さ過ぎだよ」


 まぁ間違ってはいないんだが、そう思ってて貰えるならいいか。


 ドスッ!


 車体に矢が突き刺さった。

 ようやくヒディガの連中が改造馬車に追いつき包囲を開始し始めたようだ。


 ミチョナは自慢してはいたが流石にシギルの脚は馬には敵わない。

 だがそれも計算のうちだ。


「来たぞ! コルナは中に入ってろ!」


「で、でも!」


「連中の狙いはお前だ! それに勇者は魔王を倒す使命があるんだろ⁉」


「! う……うん、分かった」


 コルナが中央の客車に移ると、俺と眷属は屋根に上がる。


「毎度の事だがシェアリア、派手な魔法は使うなよ!」


「……分かっている。『炎華繚乱ふれいむぶろっさむ』!!」


 バポォオオオオン!!


 後方で大爆発が起こり、十数人以上のヒディガが巻き込まれる。


 だから派手だって。


「何⁉ どうしたの?」


 爆音を聞いて中に入っていたコルナがまた出てきた。


「いいから入ってろって!」


 慌ててコルナは顔をひっこめる。

 魔法を警戒してヒディガの連中はお互いの距離を取り始めた。


「ご主人様!」


 ワン子の声に後方を見ると、一部が村の方に引き返していく。

 案の定だが予定通り。

 後はあの二人が上手くやってくれるだろう。


 ……多分。





 コルナを乗せた不格好な馬車からの魔法でかなりの手下がが吹き飛ばされた。


「くっそう! 舐めやがって! 間隔を空けろ! ……いや、ボンモス!お前たちは残って村を焼け! ヒディガに楯突いた奴はどうなるか思い知らせてやれ!」


 ギシャム・ジントは自分の右腕ともいえるボンモスに叫ぶ。


「へい!」


 巨漢のボンモスとその配下が引き返し、ギシャム達はコルナを追う。


 ギシャムしてみればオドイ村など何の価値もない村だ。

 どのみちコルナ達が出てくればまず村を見せしめに焼き討ち、その後にコルナ達を始末するつもりだった。

 余裕をかまして一アルワ待ってやったのにコルナは奇妙な馬車を仕立てて包囲を突破し、そのまま西に向かっていく。


 ゴミ村の連中が楯突くとは良い度胸だ……。


 この地から綺麗さっぱり消してやる……。


 そう思いながらギシャム達は馬車を追いかける。




「村長! ヒディガに楯突くと言う事はどういう事か分かってんだろうなぁ?」


 閉ざされた門の前に来たボンモスが吠えた。

 だが村から反応は無い。


「チッ、シケた村が調子に乗りやがって。おい、村の奴らは使える女以外皆殺しだ。後は焼き払っちまえ」


 と、


「アニキ! 上!」


 手下の声にボンモスが上を見上げる。


 空に一筋の軌跡。

 そこから何かが降ってくる。


「なんだありゃ?」


 徐々に大きくなるにつれ、人の形がはっきりとしてきた。


 ドオオオオオオオオン!


 その人のような物が大地に激突した。

 濛々たる土煙が上がる。


「な……なんだ……」


 あまりの想定外の出来事に先程の命令も忘れ、ボンモスを始めヒディガの面々は唖然と土煙を見ていた。


「はぁ……ご主人様の命とは言えかったるいのう……とっとと切り上げてロックンビート・ハニキュアの続きを見るかのう……」


 土煙の中から気怠そうなぼやき声と共に黒い礼服に身を包んだ、黒眼黒髮の美少女が現れた。


「な、なんだこのガキ!」


 ボンモスの手下が吠える。


「フン、貴様如きにガキ呼ばわりはされたくはないが、まぁもうすぐ死ぬ身じゃ。その位は勘弁してやろうぞ」


「ふざけるな! ガキュッ……」


 言い終わらない内にその男の首が飛んだ。

 いつの間にかソルディアナの左手に黒い剣が握られている。


「流石に我も二度勘弁するほど心が広くはないのでのう」


「な……なんなんだコイツ……」


「フン、これから死ぬお主達には関係あるまい」


 そう嘲るソルディアナの黒い礼装に染みのように漆黒の物が湧き出し、忽ち鎧と化した。


「なぁっ!」


「本来貴様等如きに必要は無いが、礼装を汚すとヒルファが難儀するのでのう」


 そう言いながらソルディアナは右手を真横に伸ばす。

 二メルテ程の鉤爪が三本、瞬時に生えるように出てきた。


「こ、このっ! やっちまえ!」


「う、うおおおおおっ!」


 ボンモスの声に手下達がソルディアナに殺到する。


「愚かよのう」


 妖しげな笑いを浮かべたソルディアナが宙を舞う。

 同時に四人の手下達の首も宙に舞った。


 その首をボールよろしくボンモスに蹴り込む。


「うおっ!」


 首ボール四発の直撃でボンモスは後ろに吹き飛ばされた。


 トン


 ソルディアナが着地するや大きく腕を伸ばしたまま回転し、次々に両腕の剣と鉤爪に手下達を巻き込んでいく。



「!」


 巻き込まれた手下達は悲鳴すら上げられずに細切れの肉塊と化し、周囲に散らばっていく。

 さながら黒い竜巻。


 そしてボンモスだけが残った。


「……ぐ、ぐ」


「さてと……お主くらいは捕虜とするかのう」


「くそぉぉぉ!」


 破れかぶれの声をあげて剣を振りかぶったボンモスの首が飛んだ。


「ふん、やはり面倒じゃ」


 既にソルディアナは村に向かって歩き出していた。



 村長以下村人は瞬時の殺戮の光景を恐怖の目で見ていた。

 彼らの限定された生活の中ではおよそ考えられない事態。

 あの傍若無人なヒディガがなすすべなく屠られていった。

 それも相手は天から降ってきた少女一人にだ。


 その黒い殺戮者は門を無造作に破って入ってきた。

 既にその姿は落ちてきた時と同じ漆黒の礼装姿。


「さて、村長よ」


 村長たちの前に立ったソルディアナが見下ろすように口を開いた。


「は、はい……」


「我が主の命じゃ、皆をこれに乗せよ」


 そう言ったソルディアナの背後に巨大な箱舟が降下してきた。


「こ、これは……」


「魔導輸送船じゃ。詳しい事は聞くでない。面倒じゃ」


「は……ははぁっ」


 先程の様子を見せつけられすっかり反駁や抵抗する気力を奪われたのか、あるいはソルディアナの放つ超越強者の気故か村長達は即恭順の態度を示した。


「お主達にはヒディガとやらの脅威が去るまで避難していてもらうそうじゃ」


「避難とは……何処に……」


「聞くなと言うておろう」


「はははぁっ」


「死にたい奴は残るが良い。我は別に止めんがのう」


「そんな言い草があるか」


 別の声が響き、空から白金の甲冑が降りてきた。


「何じゃ、帰ったのではないのか? 道案内とここに落とすだけで良いと言ったのに」


 甲冑が展開し、中から森人族の女、セネリ・ラルウ・ウサが現れた。


「そうはいかん、ご主人様に貴殿がちゃんと仕事をするか見ておくようにとも言われているのでな」


「全く、要らぬ心配じゃ。我は仕事はきっちりとこなすぞ?」


「あ、あの……」


 村長がセネリに向かって口を開く。

 言葉一つで命を刈られそうな黒い少女に比べれば、愛想もなく冷徹な感はあるがこちらの異形の女騎士の方がまだ話が通りやすそうに思えた。


「ああ其方が村長か。我々はさるお方に仕えし、其方らからヒディガの脅威が去るまで一時村から避難させるように申しつけられた者だ。仔細は申せぬが安心して従ってほしい」


「も、もしやあの従者様で……」


 セネリは無言で頷いた。


「ほれ、お前達はとっとと乗るがよい」


 面倒くさそうにソルディアナが促す。


「あ、あの……家畜などは……」


「勿論連れてくるがよい、あの船には十分入るのでな」


 セネリにそう言われてようやく村長の指示の下、村人達は少ない家財道具や家畜と共に魔導輸送船に乗り始める。


 その様子を退屈そうに眺めていたソルディアナがふと空を見上げた。


「そう言えばこの地は赤竜の奴の地であったな。あれ以来とんと沙汰は無いが彼奴め、少しは成長しておるのだろうか……」


 そう言って振り返ったソルディアナの顔に何かがボフンと当った。


「……なんじゃ? これは」


「ああ、これはコロノプだ。この辺では良く飼われて……」


「モフモフ……」


「ん?」


「モフモフ! モフモフなのじゃ!」


「へ?」


「くぅう! モフモフー! これがモフモフなのか! なんと良い物じゃ! 気に入ったのじゃ!」


「そ、そうなのか……」


「は、はやくこ奴らも乗せるのじゃ! そこの奴も……」


 一瞬動きが止まったソルディアナが、


「ひょぇえっ!?」


 変な悲鳴を上げた。

 その先には毛を刈り取られ細くなったコロノプがいた。


「な、なんじゃこいつは……病気か?」


「ああ、コロノプは毛を刈り取って毛糸などにするのだ。これは毛を刈り取ったすぐ後だからしばらくすればまた生えてくる。心配はいらん」


 傭兵をしていたためにこの辺の事にも詳しいセネリが解説してやる。


「そ、そうなのか……また生えてきてモフモフ……」


 先ほどまでの冷酷な殺戮者の威厳はどこへやら。

 すっかり締まりのなくなった顔のソルディアナに村長達は唖然とするばかりだった。


 やがてオドイ村の全村民と家畜から家財まで一切合切を積んだ魔導輸送船は無人になった村を後に西へ向かって飛び去っていった。






 三頭のシギルが曳く改造馬車が荒野を爆走する。

 周囲をヒディガの一味が馬で追う。

 気分はさしずめ西部劇の幌馬車か。


「来るぞ!」


 併走する馬車から手槍が投げ込まれ、矢が射込まれる。


 ドスン


 更に返しの着いた三つ叉の槍が撃ち込まれた。

 槍には板が打ち付けてあり、それを渡ってヒディガの連中が改造馬車に取り付こうとする。


「このぉっ!」


 ニャン子が躍り出て槍に乗ると回し蹴り一閃、賊を叩き落とす。


「乗り移らせるなよ!」


「畏まり……にゃ!」


 ドン!


 反対側にも足場槍が刺さる。

 そこに飛び移ろうとしたヒディガの男を今度はワン子が足場槍の上でブリッジからの回転蹴り、いわゆる変形サマーソルトキックで弾き飛ばす。


「うおぎゃっ!」


 弾き落とされた男を踏み越えながら別の二輪馬車が接近してくる。

 反対にももう一台が来て改造馬車を挟み込んだ。


「ハッハァーッ!」


 実に悪党らしい声を出しながら男が飛び移り、コルナ目掛けて剣を振りかざす。


「残念でした!」


 懐に俺の蹴りがクリーンヒットして男は馬車の屋根を転がり落ちていった。


「ダイゴ!」


 後ろで振りかぶっていた別の男の剣をコルナのエネゲイルが弾き飛ばした。


「このアッ」


 そいつが何か言う前にワン子の浴びせ蹴りで吹き飛び、馬車の御者にぶち当たると二人仲良く転げ落ちて行く。


 もう一台もニャン子が仕留めて無人のまま離れて行った。


「どうだい、ちゃんと役に立つでしょ?」


 そう得意がるコルナだったが、そこにギシャムの乗る四輪大型馬車が併走してきた。


「! ブニオン!」


 そう叫んだコルナが刺さっていた槍を伝って反動で跳び、ギシャムの四頭馬車に乗り込んだ。


「アイツ! 自分から乗り込んでどうすんだ!」


 案の定ギシャムの乗っている馬車が改造馬車から離れていく。


「ミチョナ! あの馬車を追え!」


 すぐにミチョナが馬車を寄せるが行く手をヒディガ二輪馬車が塞ぐ。


「こんにゃろめ!」


 刺さった足場から男が乗り移ろうとするが、ワン子が駆けだすとネックハンギングブリーカーの要領で男の首を取り、刺さった足場の先に足を挟んでそのまま捻って男を投げ捨てる。


 そこから足場を撓めるとまるで高飛び込みのように背面から宙に跳んだ。

 先程落ちた男の乗ってた二輪馬車で呆然と見ていた手綱を握る男の顔面にワン子の膝がめり込み地面に転がっていく。


「ご主人様!」


 手綱を握ったワン子が叫ぶ。


「おう!」


 俺は足場から駆け跳んで二輪馬車に飛び移るとギシャムの馬車を追った。






「てぇえい!」


 エネゲイルの一撃をギシャムが受ける。


「姫様! 今度こそ死んで頂きますよ!」


「誰だ! 誰がボクを殺せって言ったんだ! 答えろ!」


「私はこれでも依頼には忠実でね!」


「くっ!」


 疾走する馬車の上だが二人は構わず剣戟を交わす。

 ギシャムの剣は幅広の湾刀。


 ギシャムの身体に似合わぬ鋭い斬撃を躱しながらコルナも突きを送る。


 だがコルナの先程の言葉で自分に致命傷を与えるつもりはないことを悟っていた。

 必然心にゆとりが出来、コルナには焦りが生まれる。


 だがギシャムのゆとりも油断に繋がり、結果前方の状況の確認を怠った。


「お頭ぁ!」


 前方の大岩をギシャムの馬車が飛び越え、その反動で二人は宙に浮きバランスを崩す。


「くっ!」


「あうっ!」


 投げ出されそうになった二人は辛うじて馬車にしがみついていた。


「ぐっ! ぐおおおお」


「くっうううう!」


「お頭!」


 手綱を握ってた手下に引き上げられたギシャムがコルナの手を踏みつぶそうと足を振り下ろす。

 直ぐ脇の車輪に巻き込ませるつもりだ。


「!」


 瞬時に手を入れ替えて躱すコルナ。


「チョコマカと!」


 再び踏み込んだ足をコルナは身体を振って躱し馬にしがみつく。

 直ぐに身体を捻って馬車に上がると手綱を握ってる手下を斬る。


「このぉっ!」


 制御の効かない馬車で再びコルナとギシャムが剣を交わす。


「ボゲロ! こっちに来い!」


 その声に別の馬車に乗ってた手下のボゲロがギシャムの馬車に取り付き、手綱を握る。

 その衝撃で馬車が揺れコルナの体勢が崩れた。


「つっ!」


 その隙にギシャムは床に転がっていた小樽の中身を口に含むとコルナに斬り掛かる。

 すんでの所で体勢を立て直しギシャムの剣を受け止めたコルナだが、


 ブッ!


 瞬時にギシャムが口に含んだ酒を吹き付けた。


「うっ⁉」


 強烈な酒のせいで激痛と共に視界が塞がれる。


「死ね!」


「!」


 ギシャムが渾身の一撃がコルナに降りかかった。


 キン!


「な⁉ お前⁉」


 突如現れたダイゴの物差しがギシャムの湾刀を弾き飛ばした。

 追いついた二輪馬車から転送で乗り移ったのだ。


 そのままコルナを抱きかかえる。


「え? ダイゴ?」


 目の見えないコルナだがその腕の主が誰かはすぐに分かった。

 そのまま跳躍すると二輪馬車に転がり込む。


「シェアリア!」


「『炎弾ファイアバレット』!!」


 ボキュッ!


「グワッ!」


 二台を追ってきた改造馬車からシェアリアの魔法が放たれ、ギシャムの馬車が炎に包まれる。



 一瞬の目くらましの炎に髪や服を焦がしたギシャムが見たのは離れていく改造馬車に乗り込むコルナとダイゴだった。


「くっそう! どこまでコケにしやがる! 追いつけ!」


 怒りにまかせて同じように焦げたボゲロに蹴りを入れる。

 煙を上げながらギシャムの馬車は爆走して追いすがっていく。



「ダイゴ……ごめん……」


 追いついた改造馬車に押し込められたコルナはウルマイヤの『治癒』を掛けられようやく視界が開けた。


「全く、無茶するなよ。勇者の勇気と無謀は違うぞ?」


「う、うん……でもブニオンの顔を見たら……」


「お前を殺そうとしてる奴は後できっちりと調べてやる。とにかく今は奴らを振り切ることだけ考えろ」


「う、うん……」


「オラシャントの国境は越えたがまだ付いてきやがる。このまま王都ハルメンデルに突っ込むぞ」


「ええっ 大丈夫なの?」


「ああ、中に入っちまえば奴らも手は出せまい」


「わ、分かったよ」


 その間にウルマイヤが必死にシギル達に『治癒』を掛け続けている。

 すでに周囲の気候は多毛で高山地帯に住まうシギルには厳しい温度になり、その上走りづめだ。

 だがウルマイヤのサポートでここまでペースを落とさずに走ってこれた。


「ミチョナ! もう少しだ! がんばれ!」


「……分かった!」


 ミチョナも小さな身体で必死に慣れない手綱を握りっぱなしだ。


 既に魔法攻撃と落伍で相当数を減らしているギシャム達も終点が分かって焦り始めたのか、包囲の間隔を狭め、次々に矢や足場槍、鉄球鎖を投げ込んでくる。


 シギル達から目をそらす囮の役目も果たすためわざと大ぶりに造った上に防御魔法も使っていない改造馬車はすでに客室は針の山の如く矢や槍がささり、かつボロボロの状態だ。


 やがて砂丘の向こうに大きな街が現れ、その向こうに海が見えてきた。


「見えた! ハルメンデルだ!」


 事前にメルシャに指示した通りに門は開き、衛兵が脇を固めている。


 ドズン!


 ギシャムの四輪馬車が体当たりしてきた。


「コルナ! 伏せてろ!」


 その言葉にコルナが身を伏せる。


「ダイゴォォ!」


 そう叫んだギシャムが見たのは右手に赤い魔方陣を展開したダイゴの姿だった。


「『炎爆弾フレイムボンバー』!!」


 バポォオオオン!!


 直後に猛烈な爆炎と共にギシャムの四輪馬車が吹き飛んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ