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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第九章 アロバ勇者譚編

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第百十話 オドイ村

「あらま……」


 オドイ村に着いての俺の一声はこれだった。


「……」


 コルナも声が出ない。


 田畑は荒れ果て、点在する家屋はあばら家と呼ぶよりは廃屋に近い。

 粗末な柵で囲った村内にはアルパカに似た動物が十頭程いるが、馬やシギルの類は見当たらない。


「ひっでぇなこりゃ……」


 新帝国になる以前、まだ最貧国だった頃のボーガベルの各村々を見て回ったことがあるが、ここまでの酷さではなかった。

 聞かなければまるで廃村と思っても不思議じゃない。


「これが……オドイ村……そんな……」


「随分聞いてた話とは違うようだな」


「……アロバの村々は作物もよく実り、人々は幸せに暮らしてるって……」


 道中でコルナはそう言っていたが、ミチョナが無言なのが気にはなっていた。


「どうにもそんな感じじゃないなぁ……」


「……」


 コルナはショックを受けてるようだが、姫君が民草の暮らしなど、ましてや地方の村の様子などまともに知ることなどまず無い。

 当たり前と言えば当たり前の話だ。


「村はいつもこんなもん。ワチがシギルやコロノプの毛を売る」


 ムデから降りたミチョナが前に進んでいく。

 門とも呼べないような木で拵えた門の前に来ると


「ミチョナ、今帰った! 客人連れてきた! 勇者様だ!」


 その声にやがて少し大きな家から老人が出てきた。

 それに呼応してあばら家から男達が出てくる。

 皆粗末な身なりで老人以外は各々手に鍬や手製の槍を持っている。


「この村の村長のヘセロと申します。勇者様とは……」


「ダイゴ……やっぱりこのままシシャルに行こうよ」


 小声でそう言うコルナを無視して俺は村長の方に進んだ。


「こちらにいらっしゃるのは国王陛下並びに大司教様より神託を受け、東の地に現れた魔王を討伐に向かう勇者コルナ・シオロ・アロバ様だ。槍の出迎えは無用に願いたい」


「な、何と! 勇者王シオロ様のご子孫!」


 その名を聞いて村の男達も顔を見合わせている。


「この聖剣エネゲイルが何よりの証」


「あ、ちょっ!」


 コルナの身体を持ち上げてくるんと回して背中の聖剣エネゲイルを見せる。


「おお! この紋様はまさに伝承に聞きし聖剣エネゲイル! まさに勇者様!」


 多少は学がありそうな村長がその場に平伏すると男達もそれに倣う。


「ああ、村長、顔を上げてくれ。すまんが一晩雨露を凌ぎたいのだ」


「ははっ! 畏まりました。このようなみすぼらしい村でございますが、精一杯のおもてなしをさせて頂きたいと存じます」


「うん、すまない……勇者様?」


 俺に促されて渋々コルナが口を開く。


「そ……そなた等の厚意、感謝する」


「ははああっ! 勿体ないお言葉! では支度を致します故しばしお待ち下さい」


 俺は村長の脇でミチョナが思い詰めた顔をしているのに気付いた。


「ああ村長、すまんが勇者様は故あって獣の肉は食べられないのだ」


「はっ、畏まりました」


 俺の言葉にコルナは意味が分からない表情を、そしてミチョナは喜色を浮かべた。




 暫くして俺達は村長の家に通された。

 村長の家といってもそれほど大きい訳じゃない。

 土壁つくりの八畳一間程度の部屋があるだけだ。


 元から無いのか急いで片づけたのか生活の匂いのする物は無く、他の家からかき集めてきたらしい寝台が人数分置かれていた。



「もう、ダイゴは強引だよ!」


 部屋を見回して関心していた俺にコルナが食って掛かる。


「何でだ? こんな汚いところには泊まれないとかか?」


「そ……そんな事は無いよ! でも……悪いじゃないか」


「何が悪いんだ?」


「わ、分からないのかい? 村長の家、村長を追い出しちゃったんだよ?」


「村長がぜひ使ってくれって言ってたじゃん」


「だけど……そ、それに……こんな……」


「こんな何だ? 行こうとは言ったのはコルナじゃん」


「そうだけど……村に迷惑が掛かるよ!」


「何で迷惑が掛かるんだ?」


「それは……」


「この村が凄く貧しそうだから……だろ?」


「う……」


「いいかコルナ。村長は伝説の勇者が自分の村を訪れた事は栄誉以外何物でも無い。何も無い村だが精一杯のおもてなしをさせて欲しいって言ってくれたんだ。村の貧富は関係ないと思うがな」


「それは……でも……」


「俺は他国の事はそこまで知らんが、あの人達にとって勇者ってのはそれほど特別な存在なんだろうな。なら分かるだろ?」


「……」


 コルナは押し黙った。

 アロバという国は勇者シオロ・アロバによって打ち建てられた国だ。

 そこに生きる彼らが勇者に特別な畏敬の念を持っているのは当然だろう。

 だから村長は自分の村が貧しいにも関わらず、魔王討伐に向かうシオロの末裔である勇者コルナに精一杯の歓待をさせて欲しいといった。


「コルナが勇者でこの国の王女であるならその気持ちは受け取ってあげないとじゃないのかな」


「分かってる……分かってるよ……でも……」


そう言ったきりコルナは黙り込んでしまった。



 夕餉の時間になり、村長と女衆が鍋を持ってやってきた。

 女衆が鍋の中の物を木の椀によそい、ミチョナより小さな女の子が


「ケムチョ! ケムチョ!」


 と言いながら配っている。

 椀の中身は麦の薄い粥に芋が二、三かけ入っているものだ。

 これがケムチョと言うらしい。


「勇者様にお出しするにはお恥ずかしい限りですが、精魂込めて作りました」


「有難く頂きます」


 村長に礼を言うと匙で口に運ぶ。

 薄い塩の味しかしない。

 ワン子達も静かに食べ始めた。


「……」


 コルナは黙っていた。

 生まれてこの方麦粥……それもこんな薄い物など食べた事は無いのだろう。


「勇者様」


 俺が促すと


「……頂戴する」


 コルナは泣きそうな顔を笑顔に変えて麦粥を口に運んだ。




「はぁ……」


 夕食後、村長の家でコルナはため息をついてばかりだ。


「なんだ? 足りないなら……ほれ」


 背嚢からチュレアの焼き菓子を取り出した。


「……ありがと」


 てっきり要らないと言うかと思ってたが、受け取るとポリポリと齧りだす。


「まぁ大食漢のコルナじゃ流石にあれじゃ物足りなかったよな」


「……違うよ。この村の事……」


 そう言いつつも食べる手は止まらない。


「ん? 聞いてたのと違うってか?」


「うん、ずっとアロバの国は裕福だと思っへは、へぼ、ぼふふぁ……」


「あー、食いながら喋るなって言ってるだろうが」


 慌てて水筒の水を飲んでコルナは続ける。


「……でもボクはこの村の……ううん、民草の事なんて何も知らなかった……」


「姫様なんて普通そんなもんだろ?」


「ううん、何処かの国の美しい姫は常に民草の事を案じ、飢饉の時は城の食物庫を開いて、美しい花が咲き誇っていた自慢の庭園を自ら芋畑にして飢えた民草に施したりしたんだって」


 俺とシェアリアは顔を見合わせた。


「それって講談師の話か?」


「そうだよ」


 メアリアの武勇伝はともかくエルメリアの庭園の話なんて世には出回ってない筈なんだが……。


「……コルナ、稀代の天才魔導姫の話とか無いの?」


「うーん、それは聞いたこと無いなぁ」


「……責任者は滅ぼす」


「止めとけって」


「ボクはもしアロバがそんな事になったら、その姫様のようにしたいと思ってたんだ……でも実際アロバはとっくにそうなってて……ボクは何も知らないで……」


 その時、病気の村人を治療して回っていたウルマイヤが戻って来た。


「た、ただいま戻りました。あ、あの……このお二人が勇者様に御用があると」


 一緒に入ってきたのは貧相な身なりの娘がニ人。

 器量は良いのだがいかんせんロクなモノを食べていないようで可哀相なくらい痩せ細っている。


「どうしたんだい?」


 怪訝そうにコルナが尋ねると、


「あの……勇者様のお世話をするようにと言われて……」


「お世話? あはは、ボク達別にお世話なんて要らないよ」


 コルナは笑って手を振った。

 その動作を見て娘たちの表情が少し曇る。


「コルナ、この場合のお世話ってのは下のお世話だよ」


「ええっ! ボク厠だって一人で行けるよ!?」


「……多分に天然だな。オマエ」


「ええっ!? どう言う事さ!?」


「コルナ様……」


 ワン子がコルナに耳打ちすると見る見る顔が赤くなる。


「じゃ、じゃ、じゃあ夜中にダイゴ達がやってることを!?」


「やっぱ見てたんじゃねぇか」


「あ、あう……」


「そ、それではお召し物を……」


 そう言って娘達は俺とコルナの服を脱がそうとし始める。


「ちょちょちょっと待ったぁ! ボクは女だぁ!」


 コルナは伸びてきた娘の手をグイっと押し戻して叫んだ。


「え?」


「え、じゃないよ! ボクは女だよ!」


「で、でも勇者様と聞いて……それに……」


「ボクって言ってるから、だろ?」


 俺の問いに娘はコクコクと頭を振って答える。

 だが、娘達の視線がコルナとウルマイヤの胸を行き来してるのを一同は見逃さなかった。


「うう……みんな酷いよ」


 コルナは胸を抑えて呻いた。


「で、どうすんだ?」


「き、決まってるじゃないか! こんなのはもてなしなんかじゃない! 村長に文句を言ってくる!」


 コルナの剣幕に今度こそ娘たちの顔色が青くなった。


「お、お待ちください!」


 俺についていた栗色の髪の娘が口を開いた。


「大丈夫、俺が代わりに勇者様に説明するから」


「な、何をさダイゴ」


「いいか、この村ではさっきのような食事を出すのが精一杯。あれ以上のもてなしと言ったらもはや村の器量良しを差し出すくらいしか無いんだよ」


「で、でも……だからって……」


「これでおまえが彼女たちを返して村長に文句を言ってみろ。一番困るのは彼女たちだ。そうだろ?」


 二人は頷いた。


「な、何でさ……」


「大丈夫、村長に言ったりしないからちょっと事情を聞かせてくれないか?」


 そう言ってワン子に目で合図をするとワン子は背嚢からこぶし大の包みを二つ出した。


「さぁ召し上がってください」


 包みを開いて二人に渡す。


「これは……」


「ラッサ鳥の肉を挽いたものに野菜と香辛料を混ぜて蒸したものだ。栄養も消化も良いし美味いぞ」


 緑髪の娘がおそるおそるひと齧りすると目の色が変わり、ガツガツと食べ始めた。

 つられる様に栗色髪の娘も食べ始める。


「家族の分も持たせてやるからちゃんと全部食べろよ」


 グウウウウウゥゥゥゥ


 別の所で腹の虫がなった。


「……」


 コルナが顔を赤くしている。


「……まだ足りないってか」


「……だって……美味しそうなんだもん……」


「コルナ様もどうぞ」


 ワン子がもう一包みだすとコルナも娘たちと一緒に貪り始め、あっという間に平らげた。


「さて、おもてなしをしないとどうなるかこの勇者様に説明してくれないか」


 ワン子からもらった水を飲んで一息ついた栗色髪の娘が口を開いた。


「もしきちんとおもてなしをしなければ勿論村長様に怒られます。そしてヒディガに差し出されてしまいます」


「ヒディガに!? 何でさ!」


「はい、ヒディガは年に一度、納税の終わった村に来ては作物を略奪していきます。もし作物が足りなければ村の生娘を差し出せと……両方出来ないと村は見せしめに荒らされてしまいます」


「そんな……領主は!? ここら辺はケンドレン伯の領地だ。彼は一体何をしているのさ!」


「村長は何度も領主様に討伐をお願いしましたが聞き届けてはくれなかったそうです」


「大方裏で繋がってたりするんだろ」


 恐らくは警兵にも顔が利く奴だ。

 その上の領主と繋がっていても不思議ではない。


「そんな話初めて聞いた……」


「勇者様のおもてなしをすれば私たちはヒディガに差し出されずに済みます。でももし差し出されれば……戻って来た者はいません……」


「……」


 それがどういう意味かはコルナにも察しはついたようだ。

 生娘が必要というのはその手の奴隷として売り払うと言うことだ。


「だからお願いです。どうか……」


「と、言うことだ。どうするね、勇者様」


「そ、そんな……そんな事って……」


 俺の茶々に構う余裕も無いほどコルナは狼狽えていた。


「悲しいかなこれがこの村の……いやこの一帯の現実だよ」


「で、でもボクには出来ない……出来ないよ……」


 項垂れてコルナが言った。


「良いじゃん、二人は今晩はここにいな」


「で、でも……」


「ああ、村長には勇者様にきちんとおもてなしをしたって言えば良い。まさか一々調べたりはしないだろ」


「は、はい……」


 一同は俺の言った意味を理解したようだ。

 勿論コルナも。


「じゃ、じゃあボクは別の処で……」


「おい、肝心の勇者様が別のとこで寝てたらマズいだろうが」


「ま……まさか……」


「そう、そのまさかだ。一緒にいてもらう」


「だ、駄目だよ! それは駄目!」


「いいじゃん、何も混ざれなんて言ってないよ。そばにいて彼女たちを励ましてあげればいいんだ」


「ほ、本当に? 本当に見てるだけ?」


「ああ、この子達の手を握って頑張れーって励ましてあげな」


 コルナのおののく様子を様子を二人の娘は呆然と見ている。



「ほ、本当に……本当に見てるだけだからね……」


 コルナは上ずった声で何度も繰り返していた。




 村周辺に配置した偵察型疑似生物が接近する多数の人影を捉えて目を覚ました。

 脇を見るとコルナと村娘二人が俺に齧りついて寝息を立てている。


 結局コルナは二人に『おもてなし』をされてしまい、気が付けばこの有様だ。

 まぁ満足そうな寝顔だから良いけど。


「む……にゃ……見てる……だけ……」


 まだ言ってるよ。


「コルナ、起きろ」


「うにゃ……あ……ダイゴ……ボク、見てるだけだ……ひゃあああああ!」


 自分の状態に気が付きまたも奇声をあげるコルナ。


「あ、おはようございます勇者様ぁ……」


「コルナ様ぁ……おはようございますぅ」


 コルナの素っ頓狂な悲鳴に目を覚ました村娘二人がコルナに纏わりつく。


「えっ? ええっ!? ど、どどどうなってるのぉ! ちょ! ちょっと待って! えええ!?」


 自分の状態も去ることながら昨晩に比べ別人のように肌がふっくら且つしっとりとした二人の変化に驚いているようだった。


「うん、コルナ君。色々ありがとう。昨晩は非常に良いものを見させてもらった」


「へ!? え……えええええええええええ!!!!」


 左右から村娘二人に抱き着かれた状態で顔をまっ赤っ赤にしたコルナの悲鳴が部屋に響く。


「さて、宴もたけなわだが非常事態だ。どうやらヒディガの連中がこの村を取り囲んでいるらしい」


「えっ!?」


「そんな訳ではよ服を着ろ」


 既にワン子達眷属は着替えを済ませ荷物をまとめている。

 コルナと村娘たちは慌てて服を着始めた。


 村長の家の前に出ると既に村長と村の男衆が集まっている。


「おお、これは勇者様、昨晩はお休みになられたでしょうか」


「ああ、心遣い感謝する。それよりヒディガが来ているな?」


 事情が飲み込めないままのコルナに代わって俺が答える。


「な、何故それを……」


「で、連中は何か言って来たのか?」


「は、はい。勇者を差し出さねば村を焼くと……」


「そうか。なら出ていくか。すまんな村長。迷惑を掛けたようだ」


「お、お待ちください!」


「ん?」


「このまま勇者様を差し出したとあれば、開祖シオロ様に申し開きが出来ません。それにどの道ヒディガは我々を見せしめにする気でしょう。ならば戦って……」


 見れば男衆は手に手に木槍を持っている。


「そんな! 何で!?」 


 コルナが叫んだ。


「ダイゴ! すぐに出よう! 奴らの狙いはボクだけだ! ボク達が出ていけば」


「ああ、だがこのまま出てけば結局ここが戦場になるぞ」


「あ……」


「はい、ならば我々が戦って勇者様がお逃げになる時を稼ごうと」


「そんな……駄目だよ……駄目だ……」


「連中を引き付けて村から遠ざけないとだが……」


「ワチのシギルに乗っていけばいい」


 脇で聞いていたミチョナが声を上げた。


「ワチのシギル、足も速いし力ある。馬に負けない」


「だが村から出れば連中に集中して狙われるぞ」


「構わない。ワチ、騙されて勇者様迷惑掛けた。それにシギル潰さないしてくれた。恩返しがしたい」


 ミチョナは俺の前に立って俺を見上げる。


「アンタ出来る。勇者様も村もシギルも助ける。ワチ信じてる」


 真剣な目が何を言いたいか良くわかった。


「村長、一アルワでいい、時間を稼げないか?」


「一アルワですか? 一体何を」


「いいから一アルワ後に勇者を村から出すと言ってくれ」


「し、しかしそれでは!」


「俺に任せてくれ、勇者も村も守って見せる」


「わ、分かりました」


 村長は門の方に向かった。

 村を包囲しているヒディガはギシャムを筆頭に三百人はいる。

 いずれも騎馬や戦車型の二輪馬車に乗っている。

 ギシャムに至っては四頭立ての大型四輪馬車だ。


「一アルワだけ待つそうです」


「よし、村に馬車はあるか?」


「馬車ですか……以前はあったのですが、皆ヒディガに壊されてしまい……」


 見ると三台の壊れた乗合馬車が打ち捨てられている。

 土台や車軸は駄目だが車体はしっかりしてそうだ。

 これなら何とかなるだろう。


「よし、土台は俺達が何とかするから、村長達は車体を俺の言うとおりにして欲しい」


「は、はぁ……」


 俺の仕様説明に目を丸くした村長達だが作業のため客室を運んでいった。


「ダ……ダイゴ……ボクも手伝うよ……」


 コルナが妙にモジモジしている。


「ああ、だがここから先は俺一人じゃないと駄目なんだ」


「え? 何でさ?」


「見られると鶴になって飛んでかなくっちゃなんだよ」


「何それ? 意味分かんないよ」


「まぁとにかくコルナは向こうを手伝ってくれ、頼むよ」


「う、うん」


 少しだけ顔を赤くしてコルナは村長達の方に行った。


「さてとワン子、見張っててくれ」


「畏まりました」


 物陰で『叡智』と『創造』の力で馬車の土台型の浮遊移動台座を作成する。

 魔導核を生成し、それが魔素を吸収して徐々に形が作られる。

 あっという間に四軸八輪の土台が完成した。


「従者様……出来ました……おおっ、これは……」


「何……これ」


 車体も出来上がったようで呼びに来た村長とコルナが驚きの声を上げた。


「そんじゃこれの上に車体を乗せてくれ」


 村人達が三つの車体を一つに繋げた物を土台に載せ、固定する。

 全長十メルテの少々不格好な大型馬車が完成した。


 ミチョナがシギル達を三頭横並びに繋いでいく。

 いわゆるトロイカって奴だ


「さて、行くか。村長世話になった」


「ご武運を、村の事はどうぞご気遣いなさらぬよう」


 やはり村長は戦う覚悟を決めているようだ。


「村長、村の事も大丈夫だ。安心してくれ」


 既に村を守る手は打ってある。


「それは……一体……」


「俺達が出たらすぐに門を閉めてくれ。あとはすぐに分かる。とにかく信用してくれないか」


「は、はぁ……分かりました」


「頼むよ」


 呆然とする村長に笑って手を振り、俺達は馬車に乗り込んだ。



 そこで一アルワが経った。


「時間だ! 開けてくれ!」


 俺の声に村人が門を開く。


「勇者様! ご武運を!」


 涙目の村娘二人と村長たちに見送られながらシギル達が曳く改造馬車が動き始めた。


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