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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第九章 アロバ勇者譚編

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第百七話 ヒディガ

「みんな! ここはボクに任せて!」


 コルナが聖剣を構える。

 だが連中はバカにしたような目で歯牙にもかけてない。

 もっぱらワン子達四人をどう分担するかに考えを巡らせているようだ。


「因みに勇者様戦ったご経験は?」


「バカにしないでよ! 剣士として蛮族討伐した事位あるよ!」


「そっか、それは失礼。でも勇者様に山賊退治はさせられんな」


 俺はコルナの前に出て手で制した。


「で、でも……」


「まぁ任せなって」


 なんせここにいる五人は総勢二万人の兵士を瞬く間に殲滅する力を持っている。

 二十人程度物の数ではない。


 男たちが動き出すと同時にワン子とニャン子が得物を抜いて飛び出す。

 ニャン子はクナイブレード。

 ワン子は最初に買い与えた双短剣を鞘と柄はそのままに剣身を物差しと同じ特殊鋼にしたものを装備している。


「なっ、こ……」


 先頭の男が何か言おうとした瞬間ニャン子のクナイブレードが首を飛ばす。

 その背中を駆け上がったワン子が宙を飛ぶと唖然と見ていた男の首に脚が絡みそのままへし折る。

 随分と幸せそうな死に方だ。


 その勢いで他の賊達の方に飛ぶと一瞬で二人の首を掻き切っていく。


「何だこいぎぁっ!」


「て、てめぎぃっ!」


 その間に地を這うように駆けたニャン子は身体をボールのように弾ませながらクナイブレードで賊達を斬り殺す。


「ぎゃあっ!」


「うぎぃっ!」


 ついさっきまで殺人と凌辱の期待にギラついていた賊達の目は恐怖に彩られ、逃げようとする間もなく死んでいく。


「え? あ?」


 何が起こっているのか分からずに呆然と賊共が屠られる様を見ていたコルナの脇からシェアリアがすいっと前に出ると右手を伸ばした。


「……避けてね。『雷電ライディーン』!」


 次の瞬間ワン子とニャン子が弾けるように飛び退いた先の賊達目掛けて雷光が迸る。


「ひゃあぁっ!」


 思わず悲鳴にも似た声を上げたコルナは賊達が煙を噴いて崩れ落ちるのを見た。


「あ……」


 あっという間に頭領以外の賊どもは死体となって地べたに横たわった。

 頭領も何が起こったか判らず呆然と辺りを見回している。

 その前に俺が立った。


「おい、誰の差し金かおとなしく……」


「く、くっそおおおお!」


 人が話してる最中だというのに頭領は剣を振りかぶってきた。


「『自白カツドン』」


「ぴっ! ぴぎゃああああああああ!!!!」


 途端に剣を落した頭領が地面をのたうち回る。


「ハギョオオ! う、上からの命令ィィィィ!」


「上って何だ? どこかの組織か?」


「ハペオオオ!! ひ、ひ、ヒディガあああ!」


「ヒディガ?」


「あごっ!」


 そう言った頭領の首に矢が刺さった。

 見れば逃げたはずの御者が短弓を構えてコルナを狙っている。


 やっぱあいつもグルか。


「ウルマイヤ」


「はいっ、『重力縛キャメルクラッチ』!」


 すかさず右手に紫の魔方陣を展開したウルマイヤが魔法を放つ。


「ひぶぅっ!!」


 途端に御者が大地に圧し潰された。


「え? 何? 一体?」


 呆然とするコルナを置いて俺は御者の元に向かう。


「が……あ……」


 動けない御者にも『自白カツドン』を掛ける。


「ぶっぴぃぃいいいい! ヒディガあああああ! ひひひぃいいでぃがああににいいいいたにょまれんたぁへええええええっ!」」


 そこそこ男前だった御者の男も全身から色んな物を吹き出しながら絶叫した挙げ句泡を吹いて気絶した。


「うわぁ……こ、これも魔法?」


 男前の成れの果てを見てコルナがドン引きしている。


「まぁそんなモンだ」


 結局こいつらはヒディガって組織の差し向けた刺客だという事しか分らなかった。


『叡智』でヒディガを調べると西大陸のいわゆる犯罪組織。

 元の世界でいうところの暴力団とかマフィアみたいなモノだ。

 各国にその根を張り、構成員は五千人以上。

 元々は食い詰めた元傭兵が集まって組織されたらしい。


 成る程、この世界にもこういう手合いはいるんだな。

 万が一に備えてか下っ端に必要以上の情報を渡してないとか傭兵上がりらしい。



「ワン子、馬車を頼む」


「畏まりました」


 ワン子に任せた馬車で、俺達は再び街へ向かった。


「す、凄いや! あんな格闘剣術初めて見たよ! 凄い凄い!」


 道中ではコルナが眼を輝かせて感動している。

 いや、それって俺の知る勇者の態度じゃぁ無いんだが……。


「ふっふーん、こんなの軽い軽い……にゃ」


 約一名調子こいてるのもいるし。


「シェアリアさんとウルマイヤさんの魔法も凄いや!」


「ありがとうございます」


「……この大陸には優れた魔法文化の国があると聞いた」


「ん? シストムーラ魔道皇国のことかな。あそこはアロバと仲が悪くてよく知らないんだ」


 オラシャントの姫だったメルシャ曰く、西大陸北部に広大な領土を持つシストムーラ魔導皇国は鎖国状態にあり、オラシャントにシストムーラの商人が買い付けには来るらしいが、シストムーラには一切入国は出来ないそうだ。


「あそこは~なんか薄っ気味悪いとこなんです~」


 だそうだ。


「俺の魔法は如何だったよ?」


「えっ? ダイゴの? んん~まぁスゴかったかな~」


「何で二人と違うんだよ」


「え、だって……なんか……その……汚いし……うぇ……」


 思い出したらまた酔ったらしく顔が青くなったコルナにウルマイヤが『治癒』を掛ける。


 まぁたしかにあのビジュアルはドン引き物なのは分かるけどさ。

 一応はウルマイヤと同じ土魔法なんだけどなぁ。


「しかし、あからさまにコルナを狙ってきたようだな」


「ええっ! そうなの?」


「いや、状況的にどう考えてもそうじゃん、勇者を殺せって言ってたぞ」


「だってボク襲われる覚えないよ」


「お前に襲われる覚えは無くても誰かにお前を襲いたい理由はあるんだろ」


 そもそも勇者以前に王女様が一人でウロウロしてるのが知れりゃあ襲わない奴が出ない訳はない。


「気のせいだよ、絶対ないよ」


 多分俺が声かけなかったら今頃コイツもう死んでたろうな……。

 どうにも不安な先行きを感じつつ、夕方にはクリシバルの街に到着した。


 クリシバルはいわゆる街道の宿場町で、数軒の宿と食い物屋ぐらいしかない小さな街だ。

 門番に途中で山賊に襲われた旨を大銀貨一枚込みで説明して街に入った俺達は、取り敢えず宿を捜すことにした。

 街には案の定こちらを監視している輩がいる。

 これもヒディガって組織の者なのか。

 さりげなく偵察型擬似生物を放ち、逆に監視させる。


「ご主人様……銀等級の宿はあったのですが、その……部屋が一つしかありませんでした」


 宿の手配に行ったウルマイヤが申し訳なさそうに戻ってきた。


「うーん、そいつは困ったなぁ」


 俺の視線にコルナが気付く。


「ボ、ボクは平気だよ! そ、そのダ、ダイゴと一緒でも!」


 いや、顔真っ赤にしてどう考えても大丈夫じゃ無さそうなんだが。


「いや、俺は別に野宿でも良いんだ」


 どうせ転送でアジュナ・ボーガベルに戻るだけだし。


「だ、駄目だよ! 恩人であるダイゴにそんな事させられないよ!」


「でもなぁ……」


「え、遠慮はいらないよ! ボク達仲間じゃないか! あは! あはは! あはははは!」


「んまぁコルナがそう言うなら良いか」


「うん!」


 食い物屋で食事を済ませた俺達は銀宿『仙雲の白虎亭』に投宿した。

 六人泊まりの大部屋に入るとワン子達が部屋をすかさずチェックする。

 こちらの宿は東大陸の寝台式ではなく、すこし高めになってる台二列に日本風の敷布と掛布がそれぞれ三組づつ敷いてある日本人の俺好みの部屋だ。

 清潔そうな寝具と手入れの良き届いた部屋はまぁ及第点。


「あー、懐かしの大甕だなぁ」


「こちらのは大き目の作りですね」


 湯浴み場の二人は入れそうな大きな甕を前にワン子と昔を懐かしみながら背嚢をまさぐるフリをして給湯魔導回路を創造した。


「それは何だい?」


 興味深そうにコルナが聞いてくる。


「これはこうやって」


 甕の縁に置いた給湯魔導回路に魔力を込めると忽ちお湯が湧き出してきた。

 みるみる甕にお湯が溜っていく。


「な! 何これ! 凄い!」


「それじゃこれも」


「これって……まさか」


「石鹸と海綿」


「えええ! 石鹸を持ち歩いているの!?」


「ああ、俺の仕事は石鹸も扱ってるからな。見本として持ち歩いてるんだよ」


「へえぇ、アロバでも特別な儀式の時とかにしか使わないのに」


 西大陸でもまだまだ超高級品らしい石鹸もボーガベルの元々の俺の領地、天領カイゼワラでは既に量産が始まっている。


「こっちは初めて見るよ」


 コルナは海綿をしげしげと見ている。


「ああ、ニャン子、よく使い方教えてあげて」


「畏まりました……にゃ」


「うー」


 恥ずかしそうにこっちを睨むコルナに追い立てられるように俺は沐浴場を出た。


「ご主人様、コルナ様をどの様になさるおつもりですか」


 荷物を纏めながらワン子が聞いてきた。


「それなんだよなぁ、どうにも話がデカくなってきた」


 そう答えながら椅子に腰を降ろして考え込んだ。。

 最初はコルナをパラスマヤに連れてって実情を見せるだけのつもりだったがどうにもそれだけじゃ済みそうに無いようだ。


 第一、


『コルナクン、実は俺がその魔王と言われているボーガベル皇帝ダイゴ・マキシマなんだよアッハッハー』


『なぁんだ、そうだったんだ。じゃぁこの世に魔王なんていないんだね』


『そういうことだ。帰って国王に伝えておくれ』


『うん、分かったよ。じゃあねー』


『フッフッフーめでたしめでたし』


 ……にはならんだろうな。


 未だにセイミアからの報告は来てないが、このまま手ぶらで帰すのもマズそうだし、かといって魔王なんてのはそもそも存在しないし……。


「あはは! やだようニャン子さんそんなところ! やあぁぁ」


 何処を洗われてるのか知らんが脳天気なコルナの嬌声が聞こえてくる中俺は悩ん

 だ。

 何気に乗った船がタイタニックって名前だったって気分だ。


『ご主人様、宜しいでしょうか』


 セイミアからの念話が入った。


『おう、アロバ王国の件か』


『はい、オラシャントのサクラ商会の者からの聞き取りと現地の商人からの話を取って参りました』


『うん、それで』


『アロバは元々は隣国ガーグナタ王国の領土でしたが、開祖であるシオロ・アロバが魔王征伐の褒美に拝領した領地に打ち立てた国と言われています』


『なんじゃそのガーグナタって』


『ガーグナタ王国は今現在も存在し、西大陸における三大国の一つに数えられています。属国を含めれば我が新帝国に匹敵しますわ』


『ふうん、西大陸にもそんなのがあるんだ』


『ご主人様、もう少し『叡智』を活用した方がよろしいかと……』


『いいじゃん、俺はセイミアに説明してもらった方が良いんだよ』


 確かに『叡智』で直接検索すれば手っ取り早いがそれだけだと味気ない。

 緊急の時以外はなるべくセイミアやクフュラに調べさせて報告させるようにしている。


『そ、それは……そう言って頂けるのは嬉しいですが……』


『だろ? そんで?』


『あ……はい、王家には継承権を持つ第一王女コルナ姫がいますが、このコルナ姫が大層なお転婆姫でお見合いを破談にしたり、剣術の鍛錬に明け暮れてばかりで、国王パナボスは大層頭を痛めているようですわ』


『そのコルナ姫は今ニャン子に身体洗われている最中だよ』


『……』


『何で黙ってんだよ』


『なんでもありませんわ。それでアロバにはもう一人、第二王女セソワ姫がいます。こちらは容姿、性格共に王女に相応しいともっぱらの評判ですわ』


『なるほどね』


 やんちゃな第一王女と王女として遜色ない第二王女か……。


『それと講談師の話として魔王ダンガ・マンガの話が喧伝されているそうです』


『そうそれ。講談師って何だ?』


『講談師は他国の様々な話を脚色して披露する吟遊詩人と似た商売ですわ。王族や貴族には他国の情勢を知る良い情報源として重宝がられてもいます』


『なるほど、それをアロバの誰かが真に受けたのが事実って所か』


『真偽のほどは確認が取れませんでしたが、その線が濃いですわ。因みに講談師の話の中にエルメリア様の『王家の悲恋』があって酷く憤慨してましたわ』


『それはどうでもいいや。分かった、有難う』


『この位造作もありませんわ』

『な! なぜですの!? 著作権侵害ですわ! 海賊版ですわ!』


 最後に何か雑音が割り込んできたが無視して念話を打ち切った。


 思った通り、アロバの王室には何かしらの問題があるようだ。

 やはり、今コルナを返すのは危険だ。

 というかほっぽり出すのは非常に危険だ。


 そんな事をすれば元の世界の同僚に見せられた漫画のボクっ娘勇者の末路松竹梅のどれかになりかねない。


 因みに梅は凌辱された挙げ句に惨殺されドブ川に棄てられる。

 竹は凌辱された挙げ句に首から『使用済み勇者大銀貨一枚』と書かれた札を下げて競りに出される。

 松に至っては魔王に凌辱された挙げ句に魔物の苗床になる……ってこれはねぇな。


 まぁいずれにしろロクでもない未来しか見えてこない。

 乗ったタイタニックは既に氷山にぶつかった後の様だ。


 とりあえず、コルナに付き合ってボーガベルに戻ろう。

 そこで事実を説明して後はその時次第だ。


「もう、ニャン子さん恥ずかしいよう」


 顔を真っ赤にしたコルナとニャン子が湯浴び場から出てきた。


「ふっふーん、勇者様は隅々まで綺麗にしろとご主人様のご指示だ……にゃ」


「ダイゴォ!」


 ええ……感謝されこそすれ怒られるいわれは全くないんですけど……。




 その晩。


『コルナは……良く寝てるかな?』


 俺は脇に寄り添っているワン子に念を送った。


『どうでしょう、掛布をすっぽり被ってらっしゃるので』


『まぁいいか、例の監視対象の連中が集結している。寝込みを襲う気だな』


『お任せください、ニャン子』


『へいへーい……にゃ、帰ったら続き……にゃ』


『ああ、頼むぞ』


 ワン子とニャン子は俺にキスをして得物を持つとそっと部屋を出ていった。


『……今度は私達の番』


 すかさず空いた俺の両脇にシェアリアとウルマイヤが滑り込んできた。




 翌朝。


「ふわぁ~」


 宿屋の前で勇者と言うか一国の王女様らしくない大あくびをコルナがしている。


「うん、どうしたコルナ? ちゃんと寝れたか?」


「えっ! う……うん、よく寝れたよ!」


 俺に尋ねられた瞬間顔を真っ赤にしている。

 大体理由は察しがついた。

 やっぱ『睡眠スリープ』を掛けておいた方が良かったかなぁ。


「コルナさん、これで元気を出して下さいね『治癒キュア』」


 ウルマイヤの使う『治癒』は体力を回復させ、飢えを癒やし、精神を安定させる働きがある。

 怪我や病気に使う『回復』とは別種の魔法だ。


「あ、ありがとうウルマイヤさん」


 忽ちに元気を回復させたコルナだが、ウルマイヤに対しても顔を赤くしている。


「ご主人様、 ベルビハス行きの馬車が取れましたが、その……」


 ワン子が難しい顔で戻ってきた。


『またか……』


『はい……』


 ヒディガってのは馬鹿の集合体か何かか?

 昨日と同じ手を使ってくるつもりなのか?

 まさかと思いながら馬車に乗り込む。


「今日また山賊が出てきたら、今度こそボクが退治してあげるね」


 馬車に乗った途端、すぐに馬車酔いで死んだようになっていたコルナだが、ウルマイヤに『治癒キュア』を掛けたもらって復活したようだ。


「そういう碌でもない事言うんじゃ無いよ」


 もうこれで出てくるの確定じゃねぇか。


「あー、ダイゴはボクの腕を信じてないんだ」


「いや、そう言うわけじゃ無いが……」


「コルナ様は何故剣士を志したのです?」


 水筒の茶を皆に渡しながらワン子が尋ねる。


「うん、アロバ王家は勇者の末裔だからね。嫡子であるボクが剣技を修めるのは当然のことだよ」


「なるほどね」


「でもやり過ぎるなって父上にしょっちゅう怒られるけどね」


 そういって可愛らしく舌を出した。


「そりゃあ父上だって王女が剣士の修練ばかりじゃ心配になるだろ」


「でもね、世の中には凄い姫様がいて、ボクはその人みたいになりたいんだ」


「へぇ、誰よそれ?」


 そう言った途端眷属の皆さんの目が俺に集中する。

 いや、別にゲットするとかしねぇし……。


「何処の国かは知らないけどメアリアって姫様」


 ブーッ!


 その名前を聞いた途端俺は茶を吹き出した。

 シェアリアもむせている。


「うわっ! ダイゴ汚いよう!」


「ぶえっっへっ、ぶへっ! メ、メアリア?」


「ウン、ダイゴ知ってるの?」


「い……いや、ちょっとどんな人か言ってみ?」


「あ、ウン、ボクより少し年上らしいんだけど、ボクと同じように七歳で騎士を志して十五歳で騎士団の団長になったんだって」


「お、おう……それで?」


「白い愛馬に乗って戦場に出て伝家の黒き宝剣を振れば百戦百勝、それでいて日頃は姫として清廉優雅な佇まい。朝は早くから剣の鍛錬に勤しみ、昼中には小鳥の囀りの様な美声で歌舞を興じる姿、まさに女神の如し……だったかな? 格好いいよね」


 最初はともかく途中からは断じて俺の知ってるメアリアではない。

 危うく他人かと思ったが、シェアリアのジト目が危険レベルに達している。


『あの~シェアリアサン?』


『……私の話が無い』


 そっちのベクトルかよ。


「そ……それで、コルナはそのメアリアにもし会えたらどうするんだ」


「え? やっぱ知り合いなの?」


「いや、話を聞くに多分に別人だが、仮にその清廉優雅なメアリアに会ったらだよ」


「そりゃあ勿論勝負を挑むさ」


「ふ、ふうん」


 シェアリアを再び見ると首を振って外を見た。

 黙ってろって事らしい。



 暫く進んだ所でやっぱり馬車は止まった。


「はぁ……」


 俺が溜息をつくと、


「ど、どうしたんだろ。まさか……」


 流石にコルナも気付いたらしい。


「そのまさかだ。外に出るぞ」


 テンションの低い俺を先頭に馬車を降りると既に御者はどこかに消え、荒れ地の彼方から砂塵が舞い上がる中、五十人程のむさ苦しい、まるで世紀末に居そうな連中がやって来た。


「あいつらさぁ。あの人数で俺達来るのずっと待ってたんだよなぁ」


「でしょうね」


 ワン子も呆れ気味に答える。


「み、みんな! 今度こそボクに任せて!」


 聖剣を構えるコルナだが、数が多いせいか若干不安そうだ。

 連中はお約束のように剣をかざしながらニヤニヤ笑って近寄ってくる。


「面倒だ。シェアリア、やれ」


「……分かった」


 そう言うやシェアリアは両手に黄色い魔方陣を展開する。


「『雷撃大王エレキサンダー』!!」


 ドドドドドドドン!


「ひゃあっ!」


 次の瞬間連中の辺りがまばゆい放電に包まれ、それが消えると全員が地面に倒れ伏していた。

 こちらでも約一名可愛らしい悲鳴で蹲ったのがいたが。


「うわああっ!」


 別の所でもだみ声の悲鳴が上がった。

 と、隠れていた御者が走って逃げていく。


「ウルマイヤ」


「はいっ! 『重力縛キャメルクラッチ』!」


「ぶぴぃっ!」


 崩れ落ちたそいつめがけてズカズカと近づくと、構わず『自白カツドン』をかける。


「さっさと答えろ。誰の指示でやった?」


「あぎぃがあああああああああ! う、うえっうええっううう上からの命令でひぇええええええ!」


 全身を痙攣させて悶絶しながら御者が絶叫する。


「上って誰だよ」


「おおおおンン! ぎぎぎギシャム・じじじジンドしゃまあああああん!!!」


「ギシャム・ジンド? 誰だそいつ?」


「ぷぽおぉぉぉ! ひひひヒディガあああのおお! だいっ! きャんっ! ぶううウウウウゥッ!」


 そう言って御者は盛大に汚いモノを噴出しながら気絶してしまった。


「うえ……」


 見ていたコルナがまた気持ち悪くなったらしく慌ててウルマイヤが『治癒』を掛けている。


「まぁ指揮している奴の名前が分かっただけでも良しとするか」


 コルナの暗殺を命じているのはヒディガの大幹部であるギシャム・ジントなる人物。

 それ以上は未だ分からずじまい。


「そうですね。ヒディガ……思ったより厄介な組織かもしれません」


「まぁ、しつこく敵対してくるようならぶっ潰すけどね。じゃワン子頼むよ」


「畏まりました」


 またもやワン子に馬車を任せて俺達は次の街ベルビハスに向かった。


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