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前職はトラック運転手でしたが今は神の代行者をやってます ~転生志願者を避けて自分が異世界転移し、神の代役を務める羽目になったトラック運転手の無双戦記~  作者: Ineji
第九章 アロバ勇者譚編

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第百六話 出会い

「ご主人様、どうしてカロルデに転送しなかったの……にゃ?」


 ニャン子が不思議そうに聞いてきた。

 ここはアロバ王国王都カロルデの隣町ブルゴシン。

 西大陸オラシャントの隣国らしい、元の世界の西洋と中東がミックスしたような味わい深い街並みの一角にある茶店の軒先で俺達は道行く人を眺めながら茶を飲んでいた。


 ここの茶は『パティル』というインドのチャイに似たものが主流だ。


「いきなりカロルデに転送しちゃ不味いだろ。それに急ぐ用も無いし」


 それを啜りながら俺が答えるとニャン子は納得したように首を振る。


 俺達が西大陸のこの国に来たのは勿論商売の為だ。

 モシャ商会改めサクラ商会の事業拡大の為、各地を巡り、特産品等を調べて回る。

 オラシャントの商人として正式な商人鑑札も持っている。

 まぁそれは勿論建前で、単に色んな所を観光して回っているだけなんだが。



 今回のお供はワン子とニャン子の獣人コンビ。

 だがここアロバでも獣人は珍しい存在だったようで、思いっきり目立っている。

 そして来る話は幾らで譲ってくれとかそんなのばっかりだ。

 以前本物の奴隷商人のショジネアが俺に、


「アンタだったら奴隷商人だけで大成出来ること請け合いだよ」


 などと嬉しくも無い事で褒めてくれたが、見てくれだけで奴隷商人にみえるのだろうか。


「ではここから歩いてカロルデに向かうので?」


 パティルを飲みながら今度はワン子が聞いてきた。


「いや、馬車が出てるみたいだからそれで行こう」


「畏まりました、後ほど席を手配して参ります」


 西大陸は流石に広いだけあって交通も街や村を結ぶ馬車便や海運が発達しているのが最大の特徴だ。

 更には魔獣の数も然程多くなく、その為カマネ牛を初めとする酪農や大規模な農業が各国で盛んに行われている。


 もっとも負の面も少なからずあるようで、利権や穀倉を巡る紛争や、殆どの国が労働力確保のため奴隷制を敷いているようで、奴隷売買もおおっぴらに行われているようだ。


「あんまり馬車は好きじゃ無い……にゃ。お尻痛くなる……にゃ」


「まぁ我が国の改良型馬車に比べればこの辺のはまだまだだが我慢するんだ……ん?」


 ニャン子のぼやきに答えてると、道端で燃え尽きたボクサーのように項垂れている人物が一人目に入る。

 こ綺麗な外套の下には、ちょっと豪華な感じの軽装鎧に背中に差してる大ぶりの剣がひと際目立つ。

 さっきから大きなため息を付いてばかりいるが、周囲の人間はその出で立ちのせいか奇異な視線を遠巻きに送っているだけだ。


 ちょっと興味の出てきた俺は席を立つと近づいた。


「どうしたい、剣士さん。黄昏ちゃって」


 声を掛けると剣士が顔を上げた。

 男かと思っていたらなんと可愛らしい女の子だ。

 目に一杯涙を貯めている。


「お金が……」


「ん? 財布でも落したのか?」


「じゅ、従者のブニオンが……お金持ったまま消えちゃった……」


 んぐううううううううう~


 そう言った途端その子の腹から盛大に虫が鳴った。


「はあうっ!」


 真っ赤になった女の子剣士が再び下を向いた。


「つまり従者に金を持ち逃げされて飯も食えずに途方に暮れてる訳だ、君は」


 俯いたままコクコクと首を振る女の子剣士。


「よし、ご飯くらい奢ってあげよう」


「ホント!? ……あ……」


 ぱっと輝いた顔を上げた女の子剣士だったがすぐに顔が曇った。


「ボクを奴隷として売り飛ばすつもり?」


「はぁ? 何でさ」


 女の子剣士がワン子とニャン子の首輪を指さした。


「これは自分の意思でつけてますし、この方は奴隷商人ではありませんよ」


 そう言ってワン子が首輪を外して見せる。

 一々説明するのも面倒だからいい加減外して欲しいがこればかりは頑として聞かない。


「へぇ、そうなんだ」


 やっぱり奴隷商人か何かと思われたのだろうか……。


「そんじゃ、元気でな」


「え!? ご馳走してくれるんじゃないの!?」


「え~? だって疑われちゃったしなぁ」


 しかもご馳走にいつの間にかグレードアップしてるし。


「え! あ!? ウソウソ! 信じる! 信じます!」


 よほど切羽詰まってたのだろう、女の子剣士の目に更に涙が溜まって決壊寸前だ。


「冗談だよ。 じゃあ行こう」


「うん!」


 女の子剣士はトテトテと俺達の後を付いてくる。

 ワン子とニャン子の「またか……」って感じの視線が痛い。



「はっふっ! ふふっ! はふふ!」


 近所の飯屋で女の子剣士が物凄い勢いで飯を掻っ込んでる。

 よっぽど腹を空かしてたのだろう。

 その小さい身体の何処に入るんだって位食っている。


「おいおい、慌てないで落ち着いて食いなよ」


「ふふっ! ふぁふぁっへるふぉ!」


 どうやら、


「うん! わかってるよ!」


 と言ってるらしい。

 まるで何処かの黒竜様だ。


 最後に自分の顔よりでかい水差しの果実酒を直接飲んで、


「ぷはーっ、やっと一息付けたぁ」


 まぁ見惚れてしまうような見事な食いっぷりだった。


「で、君の名前は?」


「ボク? ボクはコルナ。こう見えても勇者なんだ」


 ボク? 勇者? これはまさか伝説のレアキャラボクっ娘勇者って奴か?


『やっぱ勇者と言えばボクっ娘だよなぁ』


 そう元世界のオタク趣味の同僚が言ってたっけ。

 何故なのかは全く分からない。

 そもそも俺は今の今まで勇者どころか自分の事をボクっていう女子すら見た事が無かったのだが。


「へぇ、その勇者様がなんでこんなところで無一文で黄昏てたのさ」


「だから従者の……」


「いや、その前の話よ」


「うん、東大陸の魔王を討ちに行く旅に出たんだけど……」


「東大陸の魔王? なんだそりゃ?」


 東大陸を制覇統一した俺だがそんな奴がいるとは初耳だった。

 そんな不穏当な輩がいるならすぐに戻って成敗せねばなるまい。


「何でもダンガ・マンガとか言う奴らしいんだ」


「はぁ、ダンガ・マンガねぇ」


 漫画みたいな名前の奴だが聞いた事がねぇな……。


 ダンガ・マンガ……。


 ダ……マ……。


 ま、まさか……ダイゴ・マキシマが伝言ゲーム宜しく訛ったとか何かですか?


「そ、そいつはどんな奴よ」


「何でも東大陸辺境の小さな王国に突如現れ、瞬く間にその王国を乗っ取り、怪しげな魔法や不死の兵団を駆使してあっという間に東大陸を征服したらしいんだ」


「ほ、ほほう……」


 ふと見るとワン子とニャン子がじっと俺を見つめている。

 その刺すような視線はやめてください。


「そ、そんな物騒な奴がいるんだースゴイナー」


 俺だけどな。

 多分、高確率で俺の事だよな。


「うん、そこでボクが神託で勇者に選ばれて魔王討伐の旅に出たんだけど……最初の街でこの有様さ……」


 匙を置いたコルナがまた俯いた。


「どうしよう……これじゃ王都にも戻れないよ……」


「良いじゃん。ちょうどそこに金回りの良さそうな家があるじゃん」


「え? あの家がどうしたのさ」


「だからぁ、入って壺とかひっくり返して来いよ」


「はぁ!? 何それ? ボク勇者だよ? それじゃ盗賊じゃ無いか!」


「いや、俺の故郷の勇者は大概そうするけどな」


 ゲームの話だがな。


「キミの故郷は盗賊が勇者なの? なんか絶対違うよ……」


「そうかなぁ、まぁいいや。それで真正勇者様はこれからどうすんの? 無一文で」


「あうう……そうだ……どうしよう……」


 怒ったり落ち込んだり忙しい勇者様だ。

 だが、ふと思いついた。


「よし、俺がその魔王退治に協力してやろう」


「え! 本当かい!」


 コルナの顔がまたパァッと輝いた。

 うん、良い顔だ。


 同時にワン子とニャン子の目が若干細くなった。

 うん、その視線はやめるのだ。

 クセになるだろうが。


 まぁ、何の酔狂なのか知らんが、どうせ碌でもない冗談か何かでこの子を焚き付けたのがいるんだろう。

 一応俺も当事者らしいからこの子と一緒にそいつの所行って、


「魔王ですが、何か?」


 って言ってやろうか。

 どうせ暇だし。


「まだ自己紹介が済んでなかったな。俺の名はダイゴ・メキシコ。こっちは従者のワン子とニャン子だ」


「……ワン子です」


「ニャン子だ……にゃ」


 二人ともやれやれと言った感じで挨拶する。


「ワン子さんとニャン子さん……変わった名前だね。よろしく」


 悪かったな。


「でも、ダイゴって商人でしょ? 魔王討伐は危険が一杯だと思うけど」


 なぜ俺だけ呼び捨てなのだ。


「別に商人だから戦えないって訳じゃないぞ。傭兵の登録もしてるし多少なりとも剣術や魔法の心得もあるし」


 とんでもないレベルだけどな。


「本当かい? なら心強いや! もし魔王を倒せたらボクの国からお礼を沢山するよ!」


「そうか、それは楽しみだな……って国?」


「うん、ボクは勇者だけどこのアロバ王国の第一王女でもあるんだ」


「へ? 王女サマが何だって勇者になって一人で魔王退治に?」


 なるほど、道理で世間知らずっぽいわけだ。

 自分から勇者だ王女だって身分をホイホイ明かしているし。

 本当の意味で人を疑うって事を知らないみたいだ。

 従者に金を持ち逃げされるのも合点がいく。


「それが神託なんだからそれに従わなくちゃなんだ」


 その言葉に俺達三人は顔を見合わせた。


 何かおかしくないか?

 いくら神託と言っても大陸一つをあっという間に征服した魔王、俺らしいけど。

 それを倒すのに世間知らずの姫様一人と従者一人って無謀すぎだろ。

 碌でもない冗談で焚き付けた奴が国家レベルと突如スケールアップしやがった。

 そして雲行きが非常に怪しい。


 ふと、昔俺がこの世界に転移したての時にグルフェスに城を追い出された挙句、山賊に始末されそうになった事を思い出した。


 まさか……。


『セイミア』


 俺は念話でセイミアを呼び出した。


『何でしょうか? ご主人様』


『アロバ王国の王室の内情を知りたい。調べてくれ』


『畏まりましたわ。少々お時間を頂きますが宜しいでしょうか』


 打てば響くようにセイミアの返事が帰ってくる。


『ああ、急ぐ案件では無いが早めに。あと、シェアリアとウルマイヤに旅装をして待機させてくれ』


 勇者パーティーなら魔法使いと神官が必要だろ。


『畏まりましたわ。半アルワ(約三十分)お待ちください』


「ん? どうしたの?」


 コルナが俺の顔を覗き込んだ。


「いや、ちょっと考え事だよ。それは大変だな」


「あ……でも……お金……」


 再びコルナが俯いた。


「それは心配するな、俺は商人だよ? その位の路銀は十分あるさ」


「本当!?」


 またコルナが顔を上げた。

 忙しい子だ。


「さっき言ってたけど魔王を倒せば国から褒賞金が出るんだろ? それの為の投資だ」


「うん! 魔王を倒したら国からちゃんと払うよ! 約束するよ!」


 よし、契約成立だ。


「で、勇者様はこれからどうするんで?」


「ゆ、勇者様はやめてよ。コルナでいいよ」


「じゃぁコルナ。これからの予定は?」


「うん、まず馬車を乗り継いでオラシャントまで行く。そこから東大陸行きの船を見つけて乗せてもらうつもり」


 確かにそのコースが一番無難だな。

 丁度今オラシャントにはメルシャが新造船の就航式で滞在している。


「実は後二人仲間がいるんだけどそいつらも一緒していいかな?」


「本当!? あ、でも神託では従者一人でって……」


 またコルナの顔が曇る。

 山の天気かこの子は。


「だって出発した時は従者一人だったんだろ? なら旅の途中で増えた所で問題ないだろ」


「そうか、それもそうだね。ウン、大歓迎だよ! へい……仲間は多い方がいいもんね」


「あー今兵隊とか言いそうにしたろ?」


「ご、ゴメン……つい……」


「まぁ良いよ、王女サマだしなぁ」


「そ、その王女サマもやめてよう」


「分った分かった。じゃちょっと迎えに行ってくるから待っててくれ。ワン子、ニャン子」


「分かりました……にゃ」


「行ってらっしゃいませ」


 三人に見送られながら俺は飯屋を出ると周囲に眼を走らせる。

 さっきから俺達……いや正確にはコルナの動向を監視してる連中が神技スキル『探知』に引っかかっていた。


 そいつらにはこっちも偵察型疑似生物ドローンを放つ。


 俺が街中へ移動すると一人が付いてきた。

 物陰に隠れて転送でアジュナ・ボーガベルに移動する。

 中では既にシェアリアとウルマイヤが旅支度で待っていた。


「お帰りなさいませご主人様、今回は一体……」


 何時もと変わらぬ美しい笑顔のエルメリアが尋ねてきた。


「ああ、アロバ王国が俺を魔王扱いして勇者を討伐に向かわせたんだ」


「まぁ! 魔王ですか!? 何て良い響きでしょう」


「……お前マジで言ってるのか?」


「マジですわ。魔王と言えば神にも匹敵する力を持つ圧倒的征服者。まさにご主人様にうってつけでは無いですか」


「まぁ俺のいた世界でも捉え方は色々あったけどなぁ」


 第六天魔王とか、クシャミをすると出てくる大魔王とか、パパラパーとか。


「それはさておき、どうにもそのやり方が胡散臭いんだ」


「と、申しますと?」


「仮にも東大陸を征服した魔王相手に勇者とはいえお姫様一人を討伐に向かわせるなんて正気の沙汰とは思えない。まるで彼女に死ねと言ってるようなものだ」


「何やら陰謀の匂いがすると……」


「そういう事」


「……お姫様が引っ掛かるけど分かった」


 と、ジト目気味のシェアリア。


「アロバ王国と言えばケドリア教ですね。畏まりました」


 と、ウルマイヤ。


 なにやら含みがありありな顔の二人だ。


「今あちらに行ったことのある者から聞き取りを行っていますのでもうしばらくお待ちください」


 トーカーの前にいたセイミアがこちらを見た。


「ああ、頼む。じゃあ、行くぞ」


「行ってらっしゃいませ」


 エルメリア達の口づけを受けて俺達は監視のいない物陰に転送する。


「お待たせ」


 飯屋に戻ると三人は仲良くお話し中だった。


「あ、おかえり」


「お帰りなさいませ」


「お帰りなさいませ……にゃ」


「おう、なんか仲良くなったようだな」


「うん、ワン子さんもニャン子さんも良い人だね」


「でこっちが魔導士のシェアリアで、こっちが神官のウルマイヤだ」


「……よろしく」


「ウルマイヤです、よろしくお願いしますね」


「あ、ええ、そうなんだ。ボクはコルナ、よろしくね」


 何故かコルナは二人の胸元、特にウルマイヤの序列二位のお胸を見ている。


「じゃぁ、出発するか。馬車でオラシャントまで行くんだっけ」


「うん。途中で何カ所か乗り継ぐけど」


「おし、ワン子、馬車を手配してきてくれ」


「畏まりました」


 そう言うやワン子は飯屋を出て行った。


 ニャン子はシェアリア達のパティルを持ってきた。


「しかし、コルナ一人で魔王討伐なんて無茶じゃないのか?」


「うん、でもこの聖剣エネゲイルは勇者じゃないとその力を発揮できないんだ」


「へえ、ひょっとして魔王を打ち倒せる力とかか?」


「そうだよ、良く分かったね」


 まぁありそうというかありがちというか。


「ちょっと見せてもらっていいか?」


「いいけど、勇者じゃない人が持つのはだめだよ」


「じゃ抜いて持っててくれ」


「? いいけど」


 そう言うとコルナは背中の剣を抜いた。

 幅広の剣は柄に金の装飾が施され、紅い魔石が嵌っている。

 いかにも聖剣然とした拵えだ。


走査アナライズ


鑑定オタカラ


 俺はすぐに神技スキルでその素性を調べた。

 結果は予想した通り。


「ありがとう、しまっていいよ」


「う、うん」


 怪訝な顔をしながらコルナは剣をしまった。


 少ししてワン子が戻って来た。


「ご主人様、馬車の手配をしてまいりました」


「おう、早かったな」


「はい、途中のクリシバルまでですが一台空いてました」


『ですが、罠ですね』


 ワン子が念話で補足した。


『だろうな』


『如何致します?』


『分ってんだろ?』


『畏まりました』


 それでワン子達には十分だ。


「じゃぁ、行くか。楽しい旅になりそうだ」


「もうダイゴ、遊びじゃないんだよ」


「あはは、すまんな」


 確かに遊びじゃすまないキナ臭い匂いが漂ってきていた。

 だが俺の気分はすっかり諸国漫遊の副将軍だ。

 今度縮緬を開発して、縮緬問屋の若隠居って名乗ろうかな。


 俺達が飯屋を出ると、監視していた連中は四方に散った。

 監視型擬似生物ドローン達が付けているとも知らずに。


 街はずれの馬車だまりに目指す馬車を見つけると、さりげなく工作の有無をチェックする。

 主に車軸だ。

 問題無い事を確認し乗り込む。


「では出発します」


 御者の若者がそう言うと馬車が動き出す。

 日暮れまでにクリシバルに到着し、次の都市への馬車を確保して宿に一泊の予定。


 この世界の乗合馬車での旅は魔獣や野盗山賊の類を恐れて夜間に野宿という事は殆ど行われない。

 その為、昼間に移動できる距離を乗り継ぐ形になっている。


 馬車も旧式で揺れも酷いし速度も出ない。

 ボーガベルでは既に板バネ式サスペンションの馬車が一般的に走っている。

 ほんの数年前は東大陸より文明の進んでいた西大陸だが、今ではすっかり立場は逆転していた。

 眷属達には『状態異常無効』を付けてあるが、コルナが早速車酔いを起こした。


「うう……ぎぼぢわるぅい……」


「大丈夫ですか? 『治癒キュア』」


 ウルマイヤが手をかざすとコルナの顔色が良くなっていく。


「ああ、ありがとうウルマイヤ……ラモ教徒なのにやさしいね」


「うふふ、宗派は関係ありませんし、今の私はラモ教徒ではありませんので」


 そう言ってウルマイヤ俺の方をチラリと見ながら笑った。


 と、突如馬車が止まった。


『来たな。全員戦闘用意』


 眷属全員の顔つきが変わる。


「あれ、どうしたんだろ」


 気分が戻ったコルナが辺りを見回す。


探知レーダー』で探ると、御者は走り去り、入れ替わりに二十人程が近づいてくる。


 昔、ワン子と出会った時に似た展開があったっけ。


「襲撃だ、外に出るぞ」


 馬車の中では動きが取れない。


「え!」


 コルナが驚いている間に俺達が外に出ると男たちが既に囲んでいた。


「ほう、これは良い拾い物だ」


 俺の眷属達を見て頭領らしき男が舌なめずりした。

 手下たちも下卑た笑いをしている。


『懐かしいですね』


 ワン子が念話を送って来た。


『ならこの後の展開は分るな』


『畏まりました。皆さん、あの男は生かしておきます』


『分かった……にゃ」


『……分かった』


『分かりました』


「男と勇者は殺せ! あとは褒美だ!」


 頭領が叫んだ。

 そのスケベ心が命取りだがな。

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