表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枝先の彼女【一年かけて季節を一周する短編集】  作者: 笠原たすき
山茶花

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/32

山茶花( き )

「♪」「♪」「♪」

「そんな? ねえそんな?」


「だってうれしいんだもーん。こんなにキレーにアレンジしてもらってさー。もーお姫さまみたいじゃーん」

「大げさだなあ」


「♪」「♪」「♪」

「いや子どもかっ」


「えーいいじゃん。落ち葉の音、モカ好きだよ。それこそ秋って感じでー」

「いやもう12月だし」


「あ、そっかー。12月じゃあ、さすがに冬かあ」

「さすがに冬でしょ。こんだけ寒いもん」


「そーだね。風はないけど、もう空気が痛いもんねえ」

「つかなんか昨日から一気に寒くない?」


「わかるー! 寒さのレベル、いっこ上がった感じするー!」

「さすがに着込まなきゃ、やってらんないよ」


「ねー……」

「…………」


「キレーだねえ」

「キレーっつーか、すごいね」


「やっぱり12月だねえ。冬だねえ」

「この家さー、去年もやってなかったっけ」


「あーそーいえば! 去年もピカピカしてたねえ」

「でもこんな田舎道で、1軒だけイルミやってるとかうけるね」


「ね! こういうの好きな人なのかな」

「まー好きじゃなきゃ、やらないんじゃん?」


「ねえ、あそこバックに、写真撮っちゃダメかな」

「いや……人んちだよ?」


「う、やっぱダメか」

「つか、写真なら散々教室で撮ったじゃん」


「そーだけどー! でもせっかくキレーにしてもらったんだし、そのまま帰るだけじゃもったいないじゃん」

「そしたら、また、寄ってけばいいじゃん」


「そうだね。寄ってきますか!」

「うん。寄ってこ!」


 ◇


「はい、撮るよー」

「ほい、もう1枚」

「いいね。そうそう、もうちょっとこっち向いて」

「よし、こんな感じかな」


「どうどう?」

「見てみ」


「うわー! めっちゃ盛れてるー!」

「モデルがいいからね」


「だってー、それは歩季がキレーにしてくれたからー」

「そりゃどーも」


「じゃ、次は2人でね」

「私も写んの? また?」


「もちろんだよー」

「私ホント普通なんだけどなー」


「歩季は普通がおしゃれだからいいのー! ほら、こっち寄って寄って!」

「しょーがないなあ」


「はい、3・2・1!」


 ◇


「いやー、撮った撮った!」

「撮ったねえ」


「んーでもやっぱ、歩季写真撮るの上手だなー」

「そうかなあ」


「そうだよう! ホントに歩季、なんでもできちゃうんだからー」

「また大げさなこと言ってー」


「大げさじゃないよー! 髪型も写真も歩季がキレーに盛ってくれたからさー、もーこれホントにモカ? って感じだよー!」

「ふふ、ありがと。あーでも、こんなに撮るならヘアアクセ、もっと持ってくればよかったなー」


「えーこれ1個でじゅーぶんかわいいよー」

「んーでもモカにはもっと明るい、ゴールド系とかの方が似合ってたかなーって。そっちも試してみればよかったかなーって思ってさ」


「なるほどゴールドかー」

「まーそれは、次回の課題ってことにさせてください」


「えーなにー? またやってくれるの!?」

「もちろん。いつでも言ってよ」


「やったー♪ じゃあ次はどんなのにしたいか、今から考えことっ」

「気が早いなあ」


「えへへ」

「ふふっ」


「――んー、やっぱこれ、おいしいねえ」

「ね!」


「いちばん映えそうなの、厳選しただけあったね」

「ホントだね。ちゃんと、見た目だけじゃなくて中身もおいしかったね」


「あーでもあんま一気に飲むと寒いから、ちょっとずつにしよ」

「そだね。もったいないしね」


「そうそう。モカ普段、こういうカップのドリンク?とかあんま買わないんだけどー、やっぱちょっとリッチなぶん、ちゃんとおいしいんだねえ」

「ね! なんかめっちゃミルク感するし」


「そーそー! モカ苦いの苦手だけど、これなら無限に飲めるよー」

「やっぱ普通のカフェラテとは、全然違うね。こーゆーのって普段なかなか手が出ないけど、たまには贅沢するのもいいね」


「ねー。だって今日はこんなにキレーにしてもらったんだもん! 今日は特別だよ!」

「ふふ」


「……って、それに歩季も巻き込んじゃって、ごめんなんだけど」

「いやいや、こんなに喜んでもらったから、私も今日は特別だよ」


「へへっ。だってホントに、うれしいんだもーん。やっぱり歩季すごいなー。ホントにプロみたいだよー」

「そりゃどーも」


「ねえ。やっぱり歩季は本当に、美容の仕事に興味あるの?」

「……まあ、興味ないつったら、ウソになるかな」


「やっぱり興味あるんだ! そうだよね! だって、バイト受けるためにわざわざ、遠くのお店まで切りに行ったんだもんね」

「まあ、あのときのテンションは自分でも、どうにかしてたと思うけど」


「いやいや、それだけやる気があったってことじゃーん。じゃーさー、将来は受付だけじゃなくて、美容師さんの仕事もやりたいの?」

「……いや、とりあえずは、受付の仕事のままでいいかな」


「えーなんでー? やっぱり、美容師さんは大変だから?」

「んー、仕事が大変になるぶんには別にいいんだけど……」


「おーやる気だねえ。じゃあどーして?」

「んー、なんてゆーか、そもそもなるのが大変なんよ。資格いるし」


「あーそっかー……。試験とか、あるんだっけ」

「うん。つかそれ以前に、試験受けるためには、学校通わないといけないんだ」


「えーそーなの!? 学校行かないと、試験も受けさせてもらえないのー!?」

「そうなんだよ」


「えーなに、学校って、うちみたいな普通の大学じゃダメなの?」

「うん。美容の専門学校に行かないとダメなんだ」


「専門学校…………」

「うん」


「専門学校って、専門学校かあ……」

「うん」


「……専門さー、モカも高校で進路決めるときちょっとだけ考えたんだけど、結局やりたいこともなかったから、とりあえず大学行くのにしちゃったんだよね。専門だと、2年しかなくて忙しいし」

「私も。元々おしゃれは好きだったけど、ちゃんと美容業界に興味持ったのって大学入った後だったんだよね。本格的に髪染めたのも、大学入ってからだったしさ」


「そっか、そーだよねー。そもそもさー、高校だと髪染めるのも化粧するのも怒られるもんね」

「そーなんだよねー。つかおかしくね? 髪染めるの禁止なくせに、髪染める仕事につくなら、高校までに決めないといけないとか」


「わあホントだー! そんなのおかしいね! だったら髪くらい染めさせてほしかったよー!」

「ホントだよ。まーそんなんだからさ、美容師になるにはどうしなきゃいけないとか知ったのも、大学生になってからだったんだよね」


「そっかー。なんかさー、とりあえず大学入ったらやりたいこと見つかるだろうって思って大学入ってもさー、意外と大学生になっちゃうとなれないもの多くない?」

「ホントそれ。それ、もっと早く教えといてほしかったよ」


「ねー……」

「しかもうちはさ、親が大学行けってうるさかったから。うるさいっていうかもう、大学行くのが当然みたいな空気で。だから余計、他の進路のこととか、全然知らないまま大学来ちゃってさ」


「そっかー。親がそうだと、余計そうだよね……」

「でも――でもさ、本当はちゃんと、自分で調べなきゃいけなかったんだよね。ただ親とか学校の言いなりになるんじゃなくて」


「…………」

「自分で考えなきゃいけなかったんだよね。自分がなにが好きかとか、なにになりたいのか、とかさ」


「…………」

「もっと疑問に思えばよかった。もっと親とも話せばよかった。――でも、今更気づいたって、もう手遅れだよ」


「そんな! 手遅れなんて! なんかこう、もっと、今からでもなんとかならないのかな!」

「……まあ考えなくはないよ。専門は2年で卒業できるから、来年の春に入学すれば、大卒と同じ歳で卒業できる」


「あ……」

「今ならまだギリギリ、春入学の募集もあるし、今からだったらまだ間に合う」


「そうなんだ……」

「こんなガッコにあと2年もいるくらいなら、その2年で専門入り直した方がずっといい。それで資格取れればさ、もしかしたら今のバイト先に、美容師として就職できるかもしれないじゃん? どーせうちの大学出たって、ロクな就職ないだろうし」


「そっか、そうだよね……」

「でも、そのことをそれとなく親に話してみたら、ちょっと話しただけで猛反発。どうしても大学は出てほしいみたいなんだ。就職があるとかないとかじゃなくて、とにかくなんでもいいから大学って名前のつくとこ出とけって」


「そんな。どうしてそこまで大学にこだわるんだろう……」

「どーせ世間体だよ。姉貴は立派な大学出て、大学院まで行くってのに、妹は高卒だってのが恥ずかしいんだよ、きっと」


「そんな……」

「ったく、こんなときにまで私は、姉貴と比べられて……って、またこの話になっちった。ごめん、ごめん」


「…………」

「――ふう、やっぱこれ、おいしいね。でもちょっと甘すぎかなー」


「歩季……」

「まーとりあえず、大学出るまではこのままがんばるしかないよ。専門行くとか考えるのはその後!」


「そっか……そーだよね! 専門って、大人の人も行ってたりするもんね!」

「そーそー! だから今は勉強がんばって、バイトして経験積んで、お金が貯まれば自分のお金で専門だって行けるだろうし! それなら文句は言われないじゃん?」


「そっか! そーだね! そーだよね!」

「そうそう。だからさ、まずはちゃんと再履の単位も取って、4年で卒業しないと。今できること、がんばらないと。まあ、ホントはさ……」


「ホントは?」

「――モカ。ちょっっっと動かないで」


「え? ――わあ! ……って、なんでここで写真?」

「あーブレちゃったー。もっかい。今度こそ動かないでよー?」


「う、うん…………」

「――よし。まあ、こんな感じかな」


「???」

「モカ。後ろ、見てごらんよ」


「え? わあ、月だあ! 満月だあ!」

「ふふ」


「キレー! すごい明るい! あっこれスーパームーンってやつ!?」

「あ、そーかも! スーパームーンだ!」


「わーすごいすごーい! スーパーなの見れてラッキーじゃん♪」

「だね。でも、もっとラッキーなのがコレ」


「あ、写真? ――わあ! すごい!!」

「ふふー」


「月がちょーど、髪のところに来てる! すごい、ヘアアクセみたい! ゴールドだ!!」

「どーよ」


「すごいすごい! 歩季すごい!」

「まー私ってか、自然の力だけどさ」


「ううん、歩季やっぱりすごいよ! 天才だよ!」

「はは、言い過ぎ」


「そんなことないよ! ねえ、自信持って! 歩季ならきっと、なんでもできるよ! なんにだってなれるよ! 私が保証するから……絶対!」

「もう、大げさだなあ。……でも、ありがと」

次回は、12月12日(金)18時頃の更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ