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枝先の彼女【一年かけて季節を一周する短編集】  作者: 笠原たすき
山茶花

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28/32

山茶花( あ )

「ううー、今日も寒いねー」

「だねー。けどさ、思ったほどじゃなくない?」


「たしかに、そう言われれば! 先週とかの方がもっと寒かった気がする!」

「風もそんな吹いてないし」


「ホントだ! よかったー!」

「じゃ、今日はおでんとか肉まんとか補給しなくてもヘーキか」


「そだね。あっでも! コンビニは寄ってこ!! 今日も!!」

「どしたのモカ、急にテンション高い」


「いや、だって、今日はさ……」

「今日は?」


「なんでもない! とにかく寄ってこ! それより歩季、そのジャケットかわいいね!」

「? なんか話題反らされたような……まあでも、ありがと。これもフリマアプリで買ったんだけど、届いてみたら思ってたより薄くてさー、あんまり着るタイミングなかったんだよね。今日そんなに寒くなかったから、チャンスって思って着てきたんだ」


「これもフリマアプリなんだ! やっぱ歩季、かわいいの見つけるのうまいなー」

「まあでも、今年はもう着れるタイミングないかもだけどね。この後一気に寒くなって、週末は10度だっていうし」


「は!? 10度!? 週末10度とかなの!? え、10度って何度!?」

「いや……10度は10度でしょ……」


「そーだけど! 10度の世界線って、うちらどんな格好してた? てか、え、10度って最高? 最低?」

「最高だって」


「マジで!? 昼からそんな寒いの? バイト、外レジだったら終わるじゃーん」

「そっか。ホムセンって、外にもレジあるんだ」


「そーなのよー。お花とか売ってるから外レジもあるんだけど……これからの季節はキツいなあー」

「うー、そりゃきついね。明日、何時からなの?」


9時~6時(くじろくじ)……」

「うわー、フルじゃん。つか9時とか早いなー」


「そーなの。起きんのしんどいよ。寒いと余計、布団から出たくないし……」

「わかるわー。そしたらやっぱ、今日は明日に備えてまっすぐ帰る?」


「帰んないよー! なんでそうなるのさー。え、てか歩季、もしかして帰りたい? 帰りたかった?」

「いやいやいや。遅くなるとモカが大変かなって思っただけ。それにあんまり毎週の恒例になっても、大丈夫かなーって思って。ほらそろそろ気になるかなって。お財布とか、カロリーとかが……」


「うっ、そりゃそーだけどぉー。でも今日くらい、いーじゃん!」

「いやだから、今日なにがあんのさ」


「いや、だってさ…………。だってもうすぐ、歩季の誕生日じゃん!」

「…………」


「…………」

「…………」


「…………」

「いや、よく覚えてたなって」


「だって去年、クラスの人に祝われてたし」

「あー……そういやそんなこともあったねえ」


「モカも知ってたらお祝いしたのになーって思ったからさー」

「けどそれにしても、祝うの今日か? 誕生日、来週の木曜だよ?」


「だって1日でも当日過ぎちゃったら、なんかテンション下がんじゃん」

「いや別に……」


「それに、それこそ当日の次の日だと、ケーキとか食べたばっかだから、カロリーとか気になるだろうし。ほら、今日ならまだ当日まで間あるから、なに食べたって大丈夫だし!」

「まあ……」


「だから今日は、歩季の好きなもの、なーーーんでもいいからモカがごちそうするの! ……って言ってもいつものただのコンビニだけど……あっ、でもさ! 歩季の好きなモンブランもあるし! もちろんドリンクだってつけるよ! ね?」

「ふふ、じゃあ。お言葉に甘えて」


 ◇


「ありがとうございましたー」


「モンブラン、なかったねー」

「やっぱり、もう季節じゃないんだよ」


「ざんねーん」

「でも、ケーキあってよかったじゃん」


「ね! けどモカのぶんまでいいの?」

「いやモカのお財布から出てたよ?」


「そーだけど、ちゃんと最初から2個入りの選んでくれたからさ。そんな遠慮しなくていいのに」

「まーまー、細かいことはいいじゃん」


「そしたら歩季、先に好きなの選んでよ!」

「おっけー。よいしょ。うーん、どっちにしよっかなー」


「どっちでもいいぞー」

「どっちもおいしそうなんだよなー。まあでも、そうだな。ミルクレープかな」


「じゃーモカ、チョコね」

「あ、でもこれどうやって食べよっか。容器ひとつだと、分けにくかったね」


「あ、モカのぶんフタに乗っけちゃうよ」

「え、大丈夫?」


「ヘーキヘーキ。って、あら、えっと……意外と難しいねこれ」

「それ以上やると崩壊するって。そしたらもう真ん中に置こ。で、こーやって2人で食べればいいじゃん」


「あ、そっか……って、しまった!」

「どした」


「写真撮るの忘れてた……もうぐしゃぐしゃだよ……」

「ああ、いいよそんなん」


「ごめんねー……歩季のぶんだけでも撮る?」

「いーよいーよ、もう食べよ。お腹空いちゃった」


「そうだね。それじゃあ――」


「お誕生日

「いただき


「「あっ」」


「あははっ」

「そか、そうだったね」


「ふふ、じゃあ改めて――お誕生日、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


「いただきまーす」

「いただきます」


「――うん!」

「ん!」


「おいしいねえ」

「ホント、おいしいわ」


「え、ホントおいしい」

「おいしいねえ」


「コンビニのケーキって、こんなおいしかったっけ」

「ね、びっくり」


「もう、おいしいしか言えないわあ。ホント、幸せだあ」

「ふふ、モカ、私よりおいしそうに食べる」


「へへ、ゴメンね。歩季のお祝いなのに。こっちも一口食べる?」

「いいの? それじゃあ、いただきます――……ん! たしかにおいしい! めっちゃ濃いいね」


「ね! チョコ感半端ないよね! 口の中全部チョコ! って感じ」

「ふふ、そだね。こっちも一口食べる?」


「わーい、いただきまーす――……ん、おいしい! 今度は一気に、口の中がミルククレープだ」

「ふふ」


「モカ、ミルククレープってあんま食べたことなかったかも。でもこれも、感触? 食感? おもしろくておいしいね」

「ねえモカ」


「ん?」

「ミルククレープじゃなくて、ミルクレープね」


「え、そうなの!? モカずっとミルククレープだと思ってた! だって、ミルクじゃないの!? じゃあなに? ミルってなにさ?」

「ミルはねー、フランス語で千って意味だよ」


「え、そーなんだ! すごい! 歩季物知り!」

「まあ、第二外国語がフランス語ですから」


「え、じゃあクレープは?」

「いや、クレープはクレープでしょ。あの巻いて食べるクレープだよ」


「あ、そっかー。じゃーなに? あのクレープが、千枚あるってこと!?」

「まあ、ホントに千枚あるわけじゃなくて、そんだけたくさんってことだと思うよ」


「はあー、なるほどー」

「ふふ」


「へへっ。あ、ありがとね。おいしかったよ、ミルクレープ」

「どーいたしまして。こっちもチョコありがと。あと、コーヒーもおいしいわ。ドリンクまで、ありがとね」


「いえいえー。ホントはもっと、おしゃれなアクセとかプレゼントできたらよかったんだけど、歩季のセンスにかなう気がしなくって」

「いいよそんな気ぃ遣わなくても。祝ってくれただけでうれしいよ。どうせ当日はなんもないだろうし」


「えー!? 当日、なんもないの!?」

「うん、だって一日バイトだし」


「ええーそんなー! だってせっかくの二十歳の誕生日なのにー」

「別に関係ないし」


「じゃーバイト先でなんかないの? みんなにお祝いしてもらったりとか!」

「あはは、ないない」


「そっかー……」

「あ、でもね、それこそこないだ、成人式の前撮りだったからー。バイト先で髪やってもらったんだ」


「え、いいなー! 見たい! 写真ある!?」

「あるよー。ちょっと待ってね……ほい」


「わあー! カワイイー!! え、髪めっちゃ盛ってるー!」

「へへ」


「着物もめっちゃセンスいいー! 髪にすごい合ってるー!」

「へへ、ありがと。髪が赤系だからさー、着物もそれに合うように選んだんだー」


「なるほどー! すごいすごーい! ホント、センスいいなー。着物はレンタル?」

「そうだよー。モカは?」


「モカ、ママのお下がりなんだー。だから自分で選べるの羨ましいなー」

「えーいいじゃん、お母さんの」


「そうかなあー。あ、他のも見ていい?」

「もちろん」


「うわー、かっこいいー!」

「わー、大人ぁ~」

「おおー!」

「なんか照れるな」


「だってホントにキレーなんだもん。当日もバイト先でやってもらうの?」

「うん。ちょっと遠回りになっちゃうけど、早起きしてバイト先行って、それから会場行く予定」


「そかそか。当日もこの髪型?」

「ううん、当日は変えるよ。二次会のドレスにも合うスタイルにしてもらうんだー!」


「わあ、それいいね!」

「やっぱ正直、二次会がいちばん楽しみだったりするからさー、そっちも気合い入れてきたいって思ってさ」


「そうだよね! 正直、式より二次会の方が楽しみだよね!」

「そうそう。みんなとも、久しぶりにしゃべれるし」


「ね! 高校の友だちって、会えるのホント久しぶりだもんね!」

「なかなか普段会えないんだよねー。だいたいみんな、働いてたり子どもいたりしてて忙しいから」


「ねー。みんな忙しいもんね」

「そうそう。呑気に大学行ってるのとか、私くらいだし」


「わかるー。モカのとこもそうだよー」

「まー私もホントは、別に大学とか行くつもりなかったんだけどね」


「え、そーなの!?」

「そーだよ。親がどこでもいいから大学行けってうるさいから、しょーがなく進学にしたんだよ」


「そうだったのかー。歩季、授業とかもちゃんと聞いてるから、勉強したくて大学来たのかと思ってたよー」

「まっさかー。つか、ちゃんと勉強したかったら、こんなガッコ選ばないって」


「うう。それもそっかー」

「いちおー授業聞いてるのはさ、一時期バイトの方が楽しくてバイトばっかり入れてたら単位落としまくってー」


「うんうん」

「そしたら親に『これ以上単位落としたらバイトやめさせるよ』って言われて」


「えーっ」

「そーならないように、しょーがなくだよ」


「そうだったんだあ。だから歩季、授業もあんなに頑張って受けてたんだね」

「別に、頑張ってるってほどでもないけどさ」


「いやいや。やっぱ歩季偉いよ」

「もうやめてよ…………あ、ゴメン」


「へへ。手ーぶつかっちゃったね、ゴメン」

「いやいや、こっちこそ」


「…………」

「…………」


「…………」

「いや先取りなよ」


「いーよ、今日は歩季が優先だよ」

「いやいや私とかもうあと一口だし」


「いーからいーから。あ、じゃあモカのももう一口食べる?」

「いやいやいーって、わかったわかった、先食べるから……ほい」


「あ、ありがとー…………うん、やっぱ最後までおいしいね」

「うん、おいしかった。ホントありがとね。ごちそーさまでした」


「いえいえー」

「そだ。お返しってわけじゃないけど、モカの誕生日もちゃんとお祝いするからね」


「えーいいよー。モカもう誕生日、過ぎちゃったしー」

「そういやモカ、誕生日いつだっけ」


「4月ー。だからもうとっくなの」

「そっか4月だったんかー」


「そーなの。4月だとさー、新学期でみんな知り合ったばっかりだから、だいたい誕生日の話になる前に、自分の誕生日過ぎちゃうんだよね」

「そっかーそれ悲しいね」


「そーそー。なんか自分から今日誕生日なんだーって言うのも変じゃん?」

「たしかに、ちょっと言いづらいね」


「でしょ? だから誰にもなんも言われないまま、一日終わっちゃうんだー。だから秋生まれが羨ましいよ」

「まー別に、羨ましがるほどのもんでもないけどね。つか、11月って秋か?」


「えー秋じゃない? 9月から11月までが秋でー、12月からが冬って感じ?」

「そうか? なんか秋って、そんなになくない? もはや10月くらいまで夏で、1週間くらいでもう冬な気がする」


「えー、そうかなあー」

「しかも11月27とかもう、ほとんど12月じゃん。全然秋じゃないし」


「あー、そうかあー」

「ったく、なんでこんな微妙な時期なのに『あき』なんて名前つけたんだか。つか、秋生まれだから歩季とか、うちの親、安直すぎるんだよ……って、え、なにその顔」


「そっか! 歩季、秋生まれだから歩季って名前なんだ!」

「え、なに、もしかして気づかないまま祝ってた?」


「うん、モカ全然気づかなかった! え、めっちゃいいじゃん! めっちゃいい名前じゃん! ちゃんと意味あって!」

「そうかあ? だから11月は秋じゃないって……」


「えーでも今日とか、ちょうどそこまで寒くなくって、めっちゃ秋だよー! いいじゃーん! モカ好きだよ、そういう意味ある名前!」

「そうかなあ。つか、モカだっていい名前じゃん。それこそなんか、意味とかあるんじゃない?」


「えーそんな、歩季みたいのはないよー。歩季が羨ましいよー」

「またそんなこと言ってー。つか話戻るけど、やっぱちゃんとお祝いするよ、モカの誕生日」


「えーいいってー。4月にはもう、この授業も終わってるじゃん」

「そーだけど、どーせ同じガッコにいるんだからさ。またなんかの授業で一緒になるかもしれないし、ならなくても時間合わせて会おうよ。さっきの、4月生まれの話聞いたら、余計祝わないわけにはいかないって」


「いーっていーって、モカそーゆーつもりで言ったんじゃないもん」

「わかってるけどさー、私が祝いたいんだよ。そんでさ、今度こそ一緒にモンブラン食べよーよ。今日のリベンジ」


「あっそれいーね! それならなんか、楽しみかも!」

「でしょ? 2人でさー、フォーク立ててー、ザンって食べよっ」


「ザンっね! いいね!」

「ふふふ」


「うわーなんか、俄然楽しみになってきた! 早く4月になんないかなあ」

「ふふ、一気に気ぃ早い」


「へへっ」

「でも、ホント楽しみだね」


「ね、楽しみ! 絶対食べよーね! 忘れないでね!」

「うん。忘れないよ。約束する」


「やったー! 約束だからね!」

「うん……約束」

次回は、11月28日(金)18時頃の更新予定です。

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― 新着の感想 ―
一言一言でくくられているので、どちらのセリフなのか分かりにくいところもありますが、とはいえ、そんな難しい話をしてるわけでもないのでノリと勢いでわかるという。 ふたりの会話を中心に話が進んでいくので、サ…
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