表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枝先の彼女【一年かけて季節を一周する短編集】  作者: 笠原たすき
山茶花

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/32

山茶花( て )

「ふぅー、よく寝たー」

「よく寝てたねー」


「だってあの先生、ハナシ眠いんだもん。歩季よく起きてられるなー」

「だって……寝たらまた再履だよ?」


「えーちょっとくらい寝たって大丈夫だよー」

「『ちょっと』だったか……?」


「いや、先生来た瞬間から記憶ない……」

「やっぱり……」


「どーしよう、また再履になったら! こーなったら歩季、テスト前ノート貸して!」

「んー、どーしよっかなー」


「お願い! モカの来年がかかってるの!」

「わかったわかった。私のでよければ貸すって」


「やったー! これでひと安心!」

「つっても、私のノートだからね? アテにならんよ?」


「えーそんなことないしー。歩季、ちゃんとしてるもん」

「だからそんなことないって」


「またまたー……って、ひゃー! 外、風やばー!」

「うわーホント、やばー」


「うう、顔寒いよう」

「うう……」


「手も冷たいし……」

「そう。さっき思ったけど、モカめっちゃ手ー冷たそうだよね。しもやけ?」


「そーなのよー。モカ、手ー冷えるとすぐ、しもやけなっちゃうのー」

「そっかー。それはつらいね」


「そーなのつら……ってうひゃー」

「さみぃー!」


「今度は前からー!」

「あーもー、髪ボサボサなるし」


「ああ……せっかくの、歩季のキレーな外ハネが……」

「もーヤダ……」


「ねー……。てかさ、歩季の髪、めっちゃいい匂いしない? シャンプー?」

「え? ん、ああ、これはヘアオイルかな」


「へー! どこの使ってるの!?」

「あーこれはねー、バイト先で売ってるやつ」


「バイト先? そーいや歩季、バイトどこだっけ」

「バイトはねー、今は美容院でバイトしてんだ」


「美容院!? ってことは、え、美容師さん!?」

「まっさかー、ただのレセプションだよ」


「れ……れせ……?」

「受付のこと。来店したお客さんの予約を確認したりー、お会計とかしたり」


「へー、そーゆーバイトがあるんだあ。歩季にぴったりじゃん! 歩季めっちゃおしゃれだし!」

「そうかな」


「そーだよ! お店、結構大きいとこなの?」

「まーね。モカ、サロン・ド・シュミネってわかる?」


「え、なんか聞いたことある! あれだよね、県内初進出したってとこ!?」

「そーそー。その、初進出したとこで働いてるんだ」


「え、そこで働いてんの!? すごっ!!」

「へへっ」


「だって、すごくない!? え、だって、絶対面接とかさ、絶対激戦でしょ!」

「まーね。だから普通に面接受けても、学生だし絶対落とされるって思ったからさー、面接の前に県境越えて系列のお店行ってー、カラーとカットしてもらったんだ。うけるでしょ」


「え、そんな遠くまで行ったの!? すごい!」

「んで面接でその話したら、カットしてくれた美容師さんが、たまたま店長さんの知ってる人だったらしくてー、それで話盛り上がって、運よく受かったって感じ」


「えーそれもう運とかじゃなくて歩季がすごいんだよ! だって普通そこまでできないもん! きっと店長さんも、歩季のやる気を感じて、それで採用しようって思ったんだよ!」

「えー、そうかなあ」


「そーだよ絶対! ……ってかさ、サロン・ド・シュミネって、結構遠くない? どれくらいかかるの?」

「あー、電車で1時間くらいかなあ」


「やっぱそれくらいかかるよねえ。通うの、大変じゃない?」

「まーでも、スマホ見てればすぐだし」


「そっかー。でもすごいなー。歩季やっぱすごいなー」

「そんなことないって。自分が好きなことだから、なんつーか、苦にならないっていうか?」


「えー、カッコいいー。そう言えちゃうのカッコいいよ歩季。でも歩季……髪が……」

「あーもう、風うぜーんだよ」


「ねーホント、手もヤバい冷たい……ていうか、かゆい……」

「うう……」


「もー、この寒いの、誰かなんとかして……」

「なんとかって、そんなん……」


「…………」

「…………」


「…………」

「…………」


「そっか、ここなら、なんとかしてくれるかな」

「まあ、ただのコンビニだけど」


「でもさ、見てよ」

「肉まん」


「しかもほら!」

「そうか、今日は肉まんが安いのか……って、このやり取り、先週もやったじゃん」


「ふふっ」

「ま、いーけどさ」


 ◇


「ありがとうございましたー」


「あったかーい♪ 手の中が幸せー」

「ふふ、ホントだね」


「もう一瞬でしもやけ治ったし」

「早いな」


「肉まんパワー、半端ないね」

「肉まんパワーって」


「へへっ。よし、それじゃあ――」


「「いただきまーす」」


「んーっ」

「うん」


「…………」

「…………」


「はふ、はふ」

「…………」


「ふぅー」

「ふふ」


「あーもーコンビニの肉まんって、なんでこんなにおいしいんだろー」

「ホントそれ」


「外はふわふわでさー」

「うんうん」


「中のお肉はジューシーでさー」

「うんうん」


「今度はもう、今度は口の中が幸せだよー」

「だね」


「…………」

「…………」


「うへ」

「どした」


「紙食べちったぁー」

「ええー、大丈夫?」


「あ、ホントには食べてないよ? かじっちゃっただけー」

「なんだよかった。モカがヤギになっちゃったかと」


「ヤギとか、うける」

「ははっ」


「あ、見て見て!」

「ん?」


「あのポスター! おいしそう!」

「モカ、ポスターも食べんの? やっぱヤギ?」


「ちーがーうー!」

「わかってるって。おいしそうだね、クリスマスケーキ」


「でしょ? なんかもう、コンビニのクオリティじゃなくない?」

「たしかにね。なんか、すごいケーキ屋さんのみたい」


「ねー」

「それにしても、もうあっという間にクリスマスなんだね」


「ホントだねー」

「毎年思うんだけど、ハロウィン終わったら即クリスマスだよね」


「たしかにー」

「ホント、11月どこ行ったんだろ」


「ホントだねえ」

「つか、11月って、地味くない? なんもイベントないし」


「たしかにー。10月はハロウィンでー、12月はクリスマスだけど、11月ってそーゆーのないね」

「なーんか季節も、秋なんだか冬なんだかハッキリしないしさー」


「うーんたしかにー。あ、でもさ、11月はさ!」

「11月は?」


「……ほら、あの…………文化祭があるじゃん!」

「文化祭、もう終わったけどね」


「そーだけどぉー!」

「しかも、文化祭とか、私出てないし」


「えー文化祭出てないのー!?」

「え、モカは出たの?」


「うん! やきそば焼いたよー」

「そーなんだ! どうだった?」


「楽しかったー。煙かったけど」

「あはは。他になんか、見たりした?」


「ううん、ひたすらやきそば焼いてー、それからちょっと他の屋台とか見て、帰った感じ。雨降ってきちゃったし」

「そっかー。そういや週末、雨だったもんね」


「そうなのー」

「そっかそっかー」


「…………」

「…………」


「はぁー、おいしかった。ごちそーさまでした」

「ごちそーさまでした。おいしかったね」


「それでさ、話戻るけど、歩季はケーキ好き?」

「まあ、好きかな。ケーキだしね」


「そーだよね! だってケーキだもんねえ。なにケーキがいちばん好き?」

「うーん…………モンブラン?」


「あー、モンブラン! モカもモンブラン好きー」

「あの甘さがたまらないよね」


「わかるー! モンブラン、めっちゃ甘いもんね!」

「なんか特別感あるし。見た目とかも、他と違うじゃん」


「うんうん」

「あれさー、うけるから私、子どものころ、上のやつのこと、麺だと思ってたんだよね」


「わかる!! モカも!!」

「え、マジで?」


「マジでマジで。あのフォルムは、絶対そー思うよ!」

「うける。そんなん思ってるの、私だけだと思ってたわ」


「いやー、あれは全人類、そー思うよ!」

「全人類て。大げさww」


「へへっ」

「まーそんなんだからさー、最初に食べるとき、これどーやって食べんだろーって思ってさー」


「うんうん」

「どーするんだろー、パスタみたいに巻くのかなーとか思って、親が食べるの見てたらさー」


「うんうん」

「思いっきり、ザンっ!! って、縦にフォーク入れててさ」


「あははは!」

「え、そう行くの!? そんな、奴、フォークで行けるほどやわいの!? ってめっちゃびっくりしたんだよねー」


「わかるー。モカも同じだったよー」

「そっかそっかー。仲間だったかー」


「モンブラン仲間だね」

「モンブラン仲間って」


「それで、その衝撃の出会い以来、モンブランひとすじですか」

「ひとすじって。まーでも出会いもインパクトあったけど、食べたら普通においしくてさ。最初に食べたやつ、中にも栗入ったりしてて」


「あーそれはおいしいねえ」

「ホントに、全部麺だと思ってたからさ、こんなに色んな味するんだって、いい意味での衝撃もあったから、それで好きになって……つーか、モンブランひとつでこんなに語れるのキモくない? 引いてない?」


「えーそんなことないよお。モカ正直、麺じゃなかったこと以外あんまり覚えてないから、そーゆー風に色々覚えてるの、いいなーって思うよ?」

「多分、モンブラン食べたの、そこそこおっきくなってからだったと思うんだよねえ。だいたい我が家、ケーキって言ったら、イチゴの丸いショートケーキ分けて食べてただけだったからさあ。もうちょっと変わったの食べたいって、いつも思ってたんだよねえ」


「えーいいじゃん、逆にうち、ケーキ切り分けるとかあんまなかったから、羨ましいよう」

「そんなもんなのかなあ」


「あーあ、ケーキの話してたら、食べたくなってきちゃったねえ」

「ねー」


「モンブラン、たしかスイーツの棚にあったよね」

「え、まさか、ホントに食べんの?」


「まっさかー。さすがに今は食べないよお」

「だよね。肉まん食べたもんね」


「そりゃあしょっぱいものの後に、デザートで甘いもの食べたらおいしいだろうけど……」

「こらこら、帰ったら晩ご飯あるでしょう」


「そうだった! いけないいけない! ユーワクに負けないうちにもう行こ!」

「そうだね。モカがお店に吸い込まれちゃわないうちにね」


「あ、その前に、ゴミ捨ててきちゃうね」

「ああゴメン」


「いえいえー」

「そのまま吸い込まれるなよー」


「だいじょうぶー!」

「ふふ」


「…………」

「…………」


「お待たせー」

「いえいえ。ちゃんと戻ってきてよかった」


「大丈夫だよー。ケーキは大事なときにとっとかなくちゃ」

「そだね。クリスマス、まだ先だもんね」


「それに、ちゃんと肉まんでお腹いっぱいになったし」

「そだね」


「おいしかったね、肉まん。今度はお腹の中が幸せだぁ」

「ふふ、そだね」

次回は、11月21日(金)18時頃の更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
山茶花を2話分読ませて頂きました。 書き手さんとしては珍しいほのぼの日常系で、とても心がほっこり致しました! 評価も入れさせて頂きましたのでご確認下さい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ