山茶花( え )
休載した(の)~(こ)のエピソードにつきましては、2026年春以降に追って掲載いたします。
まずは先に山茶花の季節をお楽しみくださいませ。
寒っ。
大教室ってなんでこんなに寒いのさ。
てかなんで11月になったら急にこんなに寒いのさ。
てか席無っ。後ろの方、全然空いてないし。最悪。
あ、あそこいっこだけ空いてる??
ってダメだわ。トランプやってる。
なにやってんだろ。しちならべ?
なーんか楽しそうでいーなあ。ちょっと混ぜてよー。
なんて、言うわけないけどさ。
だいたい、知らない2年がそんなこと言ってきたら、100パー引くでしょ。
あーあ。
なんでこんな、1年生に混じって、1人で授業受けなきゃいけないんだろ。
単位落としたからか。はあ。
あーあ。せめて誰か、知ってる人いたらなー。
誰か1人でも再履修仲間がいたら、やる気もでるんだけどなー。
って思って、毎回教室きょろきょろしてるんだけど、誰もいないんだよなー。
後期始まってもう2か月くらい?経つけど、ホントに誰もいないんだよなー。
そりゃそーか。こんな楽単落とすのなんて――
ってあれ!?
あの、めっちゃ前の方に座ってるのって――
うんそうだよ! あの明るいピンクレッドの髪! あのめっちゃきれいな外ハネの髪は――
ほら、やっぱり歩季だー!!
なーんだ、歩季も再履だったんだー。
へへっ、隣行っちゃおっ。おーい、歩ー季ーっ。
って歩季、めっちゃ先生ガン見してるし。ノートもなんか、めっちゃ取ってるし。
うわ、ノート、文字びっしりじゃん。
……なんか、邪魔しない方がいいかも。とりあえず、こっち座っとこ。んで、授業終わってから、声かけよーっと。
◇
「歩~季っ」
「モカじゃん」
「久しぶり~」
「久しぶりー。もしかして去年の後期以来?」
「そーかも! めっちゃ久しぶりじゃん! 元気だった!?」
「元気元気ー! モカはー?」
「モカも元気ー。歩季帰るとこ?」
「そだよー」
「じゃあ一緒帰ろうよ!」
「うん!」
「やったー! この時間ずっとぼっちだったから、歩季も一緒なのうれしー!」
「私も。まさかモカとここで会えるなんて思ってなかったよ」
「えへへっ。それにしても歩季、いつもあんな前の方で授業受けてんの? 今日まで全然気づかなかったよー」
「まあ、後ろの方だとうるさいからね」
「すごいえらーい! 実は今日、歩季いるの見つけてたんだけどー、歩季めっちゃまじめに授業受けてたから、邪魔しちゃ悪いかなーって思ってー」
「えー全然、声かけてよかったのに」
「じゃー次から、隣で授業受けていい?」
「いーけど多分、私めっちゃ前の方で授業受けるよ?」
「えー歩季と一緒だったら、そんなん全然いいよー」
「そ? なら次から、モカのぶんも席取っとくよ」
「わーい! にしても歩季、ホントまじめだなー。ちゃんと授業聞いてさー」
「そんなことないよー。ってかこの髪色でまじめキャラはないっしょ」
「えー、髪は関係ないよー……ってうわ外寒っ」
「うわ寒っ」
「風もやばー……」
「ね。こんなわかりやすくピューピューいってることある!?」
「ホント、風冷たい……」
「これ服完全に失敗だわ」
「え、そう? かわいいよ? どこで買ったの?」
「これ? これはねー、フリマアプリ」
「え、フリマアプリで買ったの!? めっちゃセンスいいじゃん! どーやって見つけたの!?」
「え? 別に、普通に検索して見つけただけだし」
「えー、そーなの? 歩季見つけるの上手くない? やっぱセンスいーなー」
「そんなことないって。しかもこれだけだと、もう寒いし」
「たしかに、ちょっと寒そー。大丈夫? モカのマフラーする?」
「ヘーキヘーキ。てか、昼間はまだあったかかったんよ。こんな遅い時間までガッコいなきゃいけないのがおかしい」
「ホントそれだよね! もう真っ暗じゃん! もー先生、なんでこんな遅い時間に必修入れんのさ。この時間、お腹空くしー!」
「ホントホント」
「ね! しかも今日とか金曜だし! 金曜って言ったらもー、華の金曜日ですよ先生!?」
「ホントにね。つってもまー、この辺じゃあ別に、寄ってくとこもないんだけどね」
「うう……そうなんだけどさー、でも金曜のこの時間に授業あると、休み成分ちょっとだけ削られるじゃん」
「あーそれはわかる」
「こんなん絶対、再履じゃなきゃサボってたのにー」
「わかるわー」
「とか言って歩季はさ、ちゃんと授業受けてそーだよね」
「だからそんなことないって」
「だって歩季さー、去年のときもめっちゃしっかりしてたじゃん。ほら、グループ発表で一緒だったときも、準備とか全部歩季がやってくれてたし」
「えーそんなことないよー」
「そんなことあるよー! ほら覚えてる? 途中で1人辞めちゃってー」
「あーそういやそうだったね。もう1人も、あんま来なかったし」
「そうそう。ちなみにその1人も、こないだ辞めたらしいよ」
「マジか。うちのガッコ、終わってるー」
「それで歩季が、全部代わりにやってくれてさー」
「えーでもモカもいろいろ調べてたじゃん」
「えーでもまとめてくれたの歩季だしーってか、フツーにこっち来ちゃったけど、こっちで大丈夫だった? 歩季、バスとかじゃないよね?」
「うん大丈夫だよ。つか、この距離でバス使ったら負けだと思ってる」
「だよねー」
「本数も少ないから、結局歩いた方が早かったりするし」
「そうそう」
「ま、歩くのもダルい距離なんだけどね」
「ね! なんか駅、中途半端に遠いからダルいよねー。学校でバスとか出してくれたらいーのに」
「ムリだようちのガッコ、カネないし」
「そっかーそーだよねー。えっとあれだよね、歩季は市駅方面だったよね」
「うん。モカは、どっち方面だっけ」
「モカ、ガオカ方面だから、電車は逆だねー」
「そっか。そーいやそーだったね。残念。ってうぷっ、ススキ邪魔!」
「大丈夫? もっとこっち寄りなよ」
「それじゃモカが轢かれるじゃん」
「ヘーキヘーキ、車来たらちゃんとよけるって」
「ったく、ガードレールはここまで草生えていいの合図じゃねんだよ……って、前! 前!」
「わああトラックー! 異世界飛ばされるー!」
「ちょっと! 下がって下がって」
「…………」
「…………」
「…………」
「あーもう髪ボサボサ」
「だね」
「……って、普通に風も強っ」
「ひゃーさむーい」
「こらー、都合のいいときだけ後ろに隠れるなー」
「だって歩季、背ー高いしー」
「別に高くないし」
「モカより高いじゃーん」
「こっちが寒いんじゃー」
「だってー」
「あーホントもう、まだ11月だってのに、なんでこう寒……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「そか、寄ってくとこ、あったね」
「まー、ただのコンビニだけどね」
「でもさ、見てよ!」
「おでん」
「しかもほら!」
「10パー引きか」
「そうだよ、10パー引きだよ? 10パー引きって言ったらもう……10パー引きだよ!?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ふふっ」
「寄ってこっか!」
「寄ってくか!」
「寄ってこ!」
「よし寄ってこ!」
「ひゃー風強い!」
「早く入ろ!」
◇
「ありがとうございましたー」
「わーい、おっでんー♪」
「ふふっ」
「モカ、おでん大好きー。歩季は?」
「まあまあかな」
「あ、だいじょぶ? 持とっか?」
「ん? ヘーキ。ありがとね」
「モカ、からし苦手なんだよねー。モカのもいる?」
「や、大丈夫」
「よーし。と、いうわけでぇ――」
「「いただきまーす」」
「ふぁー」
「ふぅー」
「あったまるぅー」
「だね」
「…………」
「…………」
「あひひっ」
「急いで食べると、舌ヤケドするぞー」
「へへっ」
「……ってあっつ」
「歩季だってー」
「いやだって、しょーがないじゃん」
「んふふっ」
「ふふっ」
「あーもーコンビニのおでんって、なんでこんなおいしいんだろ」
「ホントそれ」
「歩季、おでんの具で何がいちばん好き? モカちくわぶー」
「うーん、大根かな」
「あー! 大根もおいしいよねー!」
「おつゆめっちゃ吸ってさ」
「わかるー! 大根、煮物とかにいるときは地味キャラなのに、おでんに入ると急に輝き出すよね!」
「ふふっ、たしかにね」
「ちくわぶだってそうじゃん。ていうか、ちくわぶって、おでん以外で見ないし。おでんが主戦場、みたいな」
「言われてみれば」
「え、ていうか、おでんの具、みんなそうじゃない? こんにゃくとかだって、普段は地味なのに」
「たしかに、はんぺんとか、ちくわとかもそうだねえ」
「あ、でも、もちきんちゃくは初めからもちきんちゃくだなあ」
「ウィンナーは?」
「ウィンナーなんかもっとウィンナーだよ! ウィンナーとか活躍の場所いっぱいあるんだから、わざわざこんな、おでんとか来なくたっていいじゃん」
「たしかに。ウィンナー、油浮くしね」
「そーそー! せっかくカロリー低いメンツで集まってるのにさー」
「ってうちら、ウィンナーへの風当たり強すぎない?」
「たしかに。ごめんねウィンナー、別にウィンナーはなんも悪くないよー? お弁当とかに入ってるの、モカ普通に好きだよー?」
「手のひら返すの早いな」
「へへっ」
「ま、あれだ。デキるヤツはわざわざデキないヤツんとこ来てちょっかい出すんじゃねえってことだ」
「そだね」
「…………」
「…………」
「…………」
「ね、歩季、そのタンブラーさ」
「ん、これ?」
「うん。ちょっと見せてよ」
「うん」
「えー、めっちゃかわいー。え、めっちゃかわいー! どこで買ったの?」
「これねー、実は東京行ったとき買ったんだ」
「え、東京行ったの!? いつ!?」
「ん? 今年の夏休み」
「そうなんだ! 誰と行ったの!?」
「高校のときの友だちと。3人でね」
「へー!」
「他の2人はもう働いてるから、2人の休みに合わせて」
「へー! でもまだやり取りしてんだー!」
「まあね」
「それで、どこ行ったの?」
「原宿とか、渋谷とか。あと下北沢とか」
「おしゃれなとこばっかじゃん! いーなー」
「ショップとか、いっぱい見て回ったんだ! カフェ巡りもしたし」
「えーいーなー。他に何買ったの!?」
「他はコスメとかー、あとは服だね。もう秋物が多かったから、ニットとかアウターとか」
「いーねいーね! 秋服ってかわいいから、いっぱいほしくなるよね!」
「そーそー。でもその割に、着れるの一瞬なんだよね」
「わかるー。一瞬で寒くなっちゃうよねー」
「東京だと、違うのかなー」
「あー」
「いーな、東京の奴らは」
「ねー! そーいやカフェ巡りは、どんなとこ行ったの?」
「えっとねー、あ、写真見る?」
「見る見る!」
「ほい」
「わー! かわいー! え、スクロールしてっていい?」
「どーぞどーぞ」
「え、かわいー!」
「え、やばー!」
「うわー! おいしそー!」
「え、これ食べ物!? かわいー!」
「わ、ここもかわいー!」
「え、めっちゃかわいー!」
「わー……」
「もうこれ無限に見てられるわー」
「おでん冷めるぞ」
「あっ、そーだった!」
「こっちは、モカが見てる間にゆっくりいただきました」
「あっズルい!」
「へへっ」
「モカも急いで食べちゃうね! スマホありがと!」
「いえいえ、ごゆっくりー」
「じゃあその間に、東京の話もっと聞かせてよ!」
「えー特にそんな、話すこともないけど。とにかく人がたくさんいたかな」
「ふんふん」
「あとゴミ箱がない」
「そこ!?」
「東京行くときは気をつけな、ホントにゴミ箱ないから。コンビニにもないから」
「ほえー」
「ていうか、コンビニがめちゃくちゃ小さい。幅がこんくらいしかない」
「ほえー」
「地図でここってなってたのに、3人とも気づかないで通り過ぎたからね」
「ほえー」
「まーあとは、まあそんなとこかな」
「ええー! なんかもっと、キラキラした話ないのー?」
「キラキラした話って」
「ほら、芸能人に会ったりとか!」
「あー、誰にも会わなかったなー」
「そっかー。東京行ったら、1日に1人くらいは会えるんだと思ってたー」
「そんなまさか。あ、だいじょぶ? それ、捨ててくるよ」
「あ、ありがとー」
「いいえー」
「…………」
「…………」
「ありがとねー」
「いえいえー。やっぱ田舎はいいね。コンビニにゴミ箱あるし」
「あはは、そだね。じゃあ、そろそろ行く?」
「ん? ああ、そうだね」
「はぁーおいしかったー。モカお腹いっぱい!」
「私もー……ってかしまった、帰ったら晩ご飯あるのに」
「はっ、モカもそーだった!」
「やばい太る……」
「こーなったら、がんばって歩いて消費しよっ」
「はぁー……そだね」
「うう、やっぱ風強いねー」
「強いねー」
「でも、おでんのぶんだけあったまったから、もう怖くないね!」
「ふふ、そだね」
次回は、11月14日(金)18時頃の更新予定です。




