ガチャ926回目:式の記憶
時は遡ること約4ヶ月前。
最初の結婚式の最重要シーン。皆がバージンロードを歩いてくる場面だ。
当時の俺はリハーサルを無事に終えてはいたが、初めての経験を前にメチャクチャ緊張していた。
今回執り行う結婚式は教会式。俺は新婦を待つ新郎として、神前で彼女らの到着を今か今かと待ち構えていた。
イリスは俺の背後にいる牧師様との間に設置された机の上でプルプルと震え、エンキ達はバージンロードの始点と終点に2人ずつ配置されていた。彼らの役割は異なり、イリスは誓いの指輪を渡す台座係。エンキ達はコンフェッティバルーン……つまりは、紙吹雪の入った風船を手に持ち、俺達が式場を出る時にばら撒く役だ。特にアグニとセレンはこの紙吹雪が気になるようで、さっきからずーっと頭上のバルーンを見つめている。エンキやエンリルよりもバルーンの数が多いし、早く割りたいんだろうな。
『プルーン?』
『ゴーゴゴ』
『ポッポポ』
「ああ、サンキューな」
そんな彼らから気楽に行こうと声を掛けてもらい、深呼吸することで落ち着きを取り戻していく。
はあ、まったく。ダンジョンボス直前なんかの数十倍緊張するな……。
「それでは、新婦の入場です。皆様、ご静粛にお願いします」
そうして最初に現れたのは、ミキ義母さんに連れられて歩くアキとマキの2人だった。揃いのウェディングドレスを身に纏い、頭には対となるコサージュ。誰もが見惚れる存在がそこにいた。
ウェディングドレスは本番まで見るのを禁止と言われていたため、リハーサルの際はラフな格好で行ったんだよな。
彼女達はゆっくりとやって来て、俺の目の前に来たところでミキ義母さんから受け取る。そのあとは両隣に彼女らを待機させる予定だったのだが――。
「わっ!?」
「ショウタさん!?」
思わず2人を抱きしめてしまった。
「ちょっとちょっと、段取り段取り!」
「ど、どうされたんですか??」
「……アキもマキも、絶対に幸せにするから」
「「……♡」」
彼女達も俺に強く抱き付き、両頬にキスをしてくれる。
「幸せになるのはあたし達だけじゃないわ」
「ショウタさんも、幸せになってくださいね」
「……ああ」
3人で微笑み合う。
「オホン!」
「「「あ……」」」
ミキ義母さんの咳払いを受け、ハッとなった俺達は所定の位置へ戻る。そして次の2人がやって来た。
サクヤ義母さんに連れられてやって来たのはアヤネとアイラ。アヤネは可愛さ全振りのミニスカ仕様で、アイラは普通に綺麗ではあるんだが、メイド服では無い彼女はただただ新鮮だった。
さっきのアレでもう段取りも何も無くなったので、構わず2人を抱きしめる。
「アヤネもアイラも、絶対に幸せにするからな」
「旦那様。わたくし、これ以上ないくらい幸せですわよ?」
「じゃあ、もっと幸せにする」
「もっとですの? えへへ、楽しみですわ。もちろんアイラも一緒にですわよね?」
「ああ、もちろんだ」
「お嬢様、私はどこまでもお嬢様と共にいます。ご主人様のそばで幸せになりましょう」
またしても両頬にキスを受け、彼女達は指定の位置へと行く。……なんか、示し合わせたように皆頬にキスしていくけど、もしかして俺がこうなるって予想されてたんだろうか? チラリとアイラを見れば、メチャクチャ含みのある笑顔で返されたし……。うん、何やっても先を読まれるな。
次にやって来たのは、父さんに連れられてやってきたカスミだった。ここからは1人ずつだな。
「ショウタ。カスミを頼むよ」
「ああ、任せてくれ。父さん」
父さんからカスミを受け取り、そのままカスミにも心からの想いを伝える。
「カスミ、昔は俺の事を守ってくれてありがとうな。これからは俺が守るから」
「おに……ショウタさん」
「なあカスミ、それ堅苦しいからやめない? 俺達には似合わないよ」
「そうかな……?」
「そうだよ」
「……えへ、だよね。やっぱり普段通りが一番良いよね。お兄ちゃん、私のことも幸せにしてよね」
「ああ、任せろ」
お互いに思いっきりハグし合い、カスミからは片頬にキスが贈られる。
そして次はハヅキが父親に連れられてやって来た。こっちは道場の師範だから、ガタイもそうだが雰囲気が凄いあるんだよな。なんというか、デフォルトで『威圧』と『強圧』が持っているかのような雰囲気だ。
だが、そんな彼から出て来た言葉は、穏やかな感情を伴っていた。
「ショウタ君、娘を頼む」
「お任せください。ハヅキ」
「はい、兄上」
ハヅキを抱き留め、決意を言葉に乗せる。
「お前を幸せにする」
「不束者ですが、誠心誠意お仕え致します」
次にやって来たのはハルとその母親だったが……。ハルよりもお母さんの方が緊張しているようだった。まっすぐ歩くだけなのに動きがカチコチだし、ハルが支えていなければ転げていたかもしれないな。
「……アマチさん、娘を、どうかよろしくお願いします」
「はい。娘さんは俺が絶対に幸せにします」
「どうかよろしくお願いします、お兄様」
「ああ」
ハルを抱き締め、観客に見えないようこっそりと彼女の目に溜まった涙を拭った。
続いてやって来たのはイリーナとレンカの2人組と2人の母。まあ、この2人はセットだよなぁ。なんなら、2人の結婚式も兼ねてるのかもしれない。その辺俺は緩いし、家庭内で恋愛する分には好きにしてくれとは思うけど、俺の嫁であることが第一であることを忘れてもらっちゃ困るぞ?
「ご安心下さいお兄様。今やわたくし達の心は、第一がお兄様ですわ」
「そうそう、お兄さんが居なきゃ始まらないよー」
「それなら良いんだがな」
2人をまとめて抱き締め、思っていた内容を口にする。
「俺はお前たちを幸せにするが、更なる幸せを望むなら止めたりはしないから安心しろ」
「感謝しますわ、お兄様」
「うん、幸せにしてね!」
続いてやって来たのはイズミだ。今日も今日とてほんわかしているお父さんに連れられてこちらへと向かっているが、今度はイズミの方が滅茶苦茶に緊張している。
普段は飄々と、時には堂々としているのに、今日は大人しい……いや、めちゃテンパってんなコレ。
「アマチさん、娘をよろしくお願いしますね」
「お任せください。ほらイズミ、そんなとこに突っ立ってないで、こっちにおいで」
「あ、えと……はい」
おずおずとやって来たイズミを抱き締める。すると、イズミはようやく今の現実を認識したのか、胸の鼓動が強くなった。
「お兄様……」
「ん?」
「夢じゃないよね? あたし今、現実だよね?」
イズミはこうやって、時折自信をなくす。物事が上手くいきすぎると、これが本当に現実なのかと混乱し始めるんだよな。
「ああ、安心しろ。ちゃんと現実だし、これからお前は名実ともに俺の妻だ。絶対に幸せにするからな」
「……うんっ!」
そうして最後にやってきたのは、俺と同じくブラックタイに身を包んだエスと、ウェディングドレス姿のシルヴィに挟まれてやってきたミスティだ。エス達はこのあと俺たちの誓いが終わり次第、すぐにこのまま挙式を上げるんだそうな。
別でやるべきじゃないかと提案はしたんだが、どうにもエスの『運』が良くない関係で、上手く開始できないんじゃないかと夫婦揃って心配になったらしく、俺の式に合わせて執り行うんだとか。
まあ、2人が良いなら良いんだけどさ。
「ミスティ」
「ん」
彼女を抱き締め、誓いを紡ぐ。
「幸せにするぞ」
「ん。いっぱい幸せにしてね」
そしてその後、全員と誓いの言葉を交わし合い、1人1人に『真愛の指輪』を改めて薬指に装着させ、余興で『心のバングル』で全員99を叩き出したりして、挙式は無事に終了したのだった。
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