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ガチャ925回目:式の中継

 ぽけーっと何をするでもなくソファーに座っていると、不意に背後から気配もなく柔らかいものに覆い被さられた。この気配の消し方と、柔らかさと香りは……ミスティだな。


「ん。ショウタ、何してるの?」

「何と言われてもな……。正直、することないから何もしてないな。ミスティは?」

「ん……。私は、皆みたいに女子力高くないから、することが見つからなかった。だから暇してそうなショウタの話し相手になりにきた」

「それはありがたいな。今はエンキ達もお仕事してるみたいで本当に暇してたんだ。」


 腕を伸ばしてミスティの腰を掴み引っ張り上げる。するとミスティも俺の意図を解してか、自ら飛んでくるんと回転し、お姫様抱っこの形に収まった。


「いつ見ても身軽だな」

「ん。それがウリ」

「しっかし、俺も何かした方がいい気がするんだけどなー」

「ダメ。ショウタは堂々と待つべき」

「そんなもんかー?」

「ん。そんなもん」


 新婦はまあ衣装合わせだとかメイクの最終調整だとかで忙しくするのはわかるけど、新郎はこういう時、本当にすることがないなぁ。いやまあ、本来なら関係者周りへの挨拶だとか、受付業務の手伝いをする事もあるみたいだけど、俺が出たら色々と大変になるから大人しくするよう言われてるんだよなぁ。

 前回は初めてだったこともあって緊張して、手伝いにまで頭が回らなかったが、2回目となれば流石に慣れがくるものだ。だからどうにかできないかと思ったんだが、嫁達からは満場一致で何もするなと来たもんだ。まあ、俺が出ては現場が混乱するのなら致し方ない。致し方ないのだが……。

 前回の花嫁であり、今回は関係者席に座る予定の最初の嫁達が、胎を膨らませた状態で張り切って働く中、俺だけ何もしていないというのは気が引けるんだがな……。まあ、嘆いたところで現実は変わらんのだし、諦めて暇を潰すしかないのである。


「……テレビでも観るか」

「ん。でも今やってる番組は、大体どこも一緒」

「だろうな」


 そう相槌を打ちつつ、テレビを点ける。そこではやはりというか、式場に参加している記者達のリポート合戦が繰り広げられていた。面白いのは、放送局によって映し出されている場面や会場の位置が異なる点か。

 まあ、同じ所を映したところで、視聴者数を稼ぐのは困難だろうしな。各局で色を出そうとしているようだ。


「じゃあ順番に見ていくか」

「ん。じゃあまずはここの外側から」

『ご覧下さい、この押し寄せる人の波を! アマチ様の結婚式会場は、一定範囲内は立ち入り禁止となっていますが、花婿や花嫁姿のあの方々を生で一目見ようと、見晴らしの良いこの高台には人が集まっています!』

「ん。この高台を用意したの、エンキだっけ」

「ああ、前回からの反省点だからな。前回はまさか生で見るために、立ち入り禁止エリアのあちこちに分散して民衆が現れて、それぞれでプチパニックが発生するなんて予想だにしていなかったからな……。だからああいう、しっかり一望できる場所さえ用意しておけば、警備の人手が足りないなんてことにはならんだろ」

『ここから式場まではかなりの距離があります。ですが、決して油断はなされないよう! 前回も距離がある中で新郎新婦を目撃された方は、真近であろうと遠目であろうと、無差別に気絶しています! ですのでこの場に残られるのは、あくまで自己責任でお願いしまーす!!』


 うん、ちゃんと注意喚起してくれているな。これは高評価だ。


「ん。ショウタ、チャンネル変えて良い?」

「いいぞー」


 そうして別のチャンネルでは、式場の正面フロアが映し出されていた。案の定そこでは、とち狂った奴が造ったとか云われている1/1スケールの島亀の像がライトアップされており、更に隣にはエンキが作り上げた巨像も異質な存在感を放っていた。

 それはエンキの記憶にある通りに完全再現した『シードラゴン』であり、島亀を優に超えるサイズと規模感を誇っていた。そんなリアリティ溢れる傑作が、まさか砂を固めた砂岩でできているとは一目では分かるまい。これは『機械ダンジョン』の第三層を掘り返した砂や岩の再利用方法としてエンキが提案してくれたもので、最初は1/10程度のミニサイズ版を作る予定だったが、エンキ先生の興が乗ったのか、他の子達も参加したくなり、結局5人全員で作業に取り掛かった結果完成した超大作だ。

 結果、元の会場では収まり切らないサイズ感となってしまったため、フロアは元の2倍にまで拡張工事をすることになったのだが……。まあそこも、エンキ達の力があれば1日でどうとでもなったので、大した問題ではないんだが。

 そもそもこの式場自体が、島亀の置き物を設置できる空間が確保できなかったために、急遽作られた建物だからな。こういう無茶もできるというものだ。


「ん。やっぱり人気出てるね」

「まあ本物のドラゴンの完全模型だからなぁ。日本のスタンピードで暴れたドラゴンとは別種だし、やっぱり男の子にしてみれば畏怖と畏敬、それから憧憬の象徴だ」

「ん。本物の質感とかはカメの方が上だけど、大迫力」

『ご覧下さい、この巨大オブジェを! こちらは以前、悪の思想を持つ他国の人間が、アマチ様やこの国を陥れようと画策したスタンピードにおいて、ダンジョンボスとして出現したという『シードラゴン』の完全再現模型です! 今までダンジョンボスに関してはアマチ様もほとんど情報を公開せず、存在自体が謎に包まれておりましたが、今回これを公開する事になった経緯がとても気になるところです!』

「エンキ達に熱が入りすぎちゃった結果なだけなんだけどな」

「ん。それでも、今までなら良しとはしなかったでしょ?」

「……まあ、そうかもな」


 考えを改めるようになったのは、まあ皆が『ハイ・ヒューマン』に進化した事で、他の誰かに害される心配がほぼなくなったからかな。

 今後もしかしたら、最弱のダンジョンなんかは俺とは無関係の誰かに支配されることも出てくるかもしれない。けど、そのくらいなんら恐れることはない事象だし、支配者がもし悪いやつだったとしても、今の俺たちなら悪巧みごと正面から叩き潰せると思うんだよな。

 ……それにしても。


「テレビで暇は潰せるかもと思ったが、やっぱり暇は暇だな」

「ん。なら本番に備えて予行演習でもする?」

「予行演習って、結婚式の?」

「ん。段取りを間違わないように、前回のを思い出すのも大事」

「前回の結婚式かー……」


 そう言われて俺は、前回の挙式シーンのことを思い出した。


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